398.【番外編】ソニーの未来
2014/9/18
昨日、僕のスマホに飛び込んできたニュース速報。
ソニー今期最終赤字2300億円、無配に スマホ事業で減損(日経電子版無料記事 9/17)
ふ~む、最近、プレーステーション4の好調が伝えられていただけに驚きだ。但し、ソニーCFO の吉田憲一郎氏は、既に 7/31 の第一四半期の決算説明会で、スマホ事業の減損の可能性について警告を発していたという(日経電子版有料記事 7/31)。その時点では戦略見直し中だったが、それがまとまったのだろう。したがって、ソニーに関心を持ち続けていた人々にとっては、突然ではなかったかもしれない。
ソニーのHPを見ると、次のニュース・リリースがあった。
モバイル・コミュニケーション分野の営業権に関する減損計上及びそれにともなう2014年度連結業績見通し修正のお知らせ (PDF)
これによると、モバイル・コミュニケーション分野の営業権全額(約 1,800 億円)を減損する(ソニーは米国会計基準なので営業損失へ計上)。営業権とは“のれん”のこと*1。ソニーがエリクソン社との合弁会社を完全子会社化(2012/2/15)して生じたものが、円安で膨らんだ(当時は 1,285 億円。ご存じのとおり、米国会計基準でのれんは非償却。この“のれん”はユーロ建てなので、為替レートは毎期決算日レートで換算替える*2)。
2012/3 期の有報によれば、この“のれん”以外に長期性資産として、無形固定資産が 1,230 億円(すべて耐用年数あり)、有形固定資産が 180 億円、その他の固定資産が 224 億円が取得されているが、減損はこれらにまでは及んでいないようだ。ということは、スマホ事業の将来見通しが、(割引率を考慮しても)少なくとも損益トントンにはなるのだろう。しかし、ソニーは前期、3回も業績見通しの下方修正を繰返した。今回は大丈夫だろうか。
そこでソニーのHPで、この業績見通し修正に関する記者会見の録音(インターネット中継)を聴いてみた。
スマホ事業の戦略見直しは、第1四半期が赤字になったことがきっかけで、普及価格帯のスマホの売上が足を引っ張ったのだという。特に中国において、躍進する中国メーカーとの競争に敗れた。この環境変化に対する対応は、量的拡大を追わず、商品戦略と地域戦略を練り直すこと。より詳細には、11月の中間決算発表時などの機会に適宜公表していくとのこと。
正直な感想は、「戦略が定まってない」だった。中国メーカーのスマホが躍進していることは、とっくにマスコミの話題になっている。アップルは、それに対抗して新製品 iPhone6 / 6 Plus を発表し、過去最高のペースで予約が積み上がっている。その使用感について、モバイル業界専門のジャーナリスト石川温氏は次のように述べている。
アンドロイドスマホのメーカーにとって、スペックで勝負できないiPhone6/6プラスは本当に戦いにくい相手なのではないか。iPhone6/6プラスを使ってみて改めて、スペックではなく総合力で差をつけるiPhoneのリードはしばらく続きそうな感じがした。(日経電子版有料記事 9/17)
しかし、ソニーはまだ戦略も詰まっていない。ソニーでさえも戦略がない。
アップルは、iPhone 5s / 5c でほどほどに成功しながらも、次の環境変化を読んでその先を行く新製品を発表し、今のところ好評を得ている。一方、ソニーは前期スマホ事業がようやく黒字転換したことで慢心したのか。しかし、その第4四半期は赤字だった。理由をこの記者会見でも「高機能新製品の市場投入が遅れたため」としているが、甘いのではないか。それが投入されたこの第1四半期が赤字なのだから。
遅い。リスクを識別するのも、対応するのも。組織が複雑で膨らみ過ぎたのではないか。
しばらく前に「俺の夢は、ソニー製のテレビとオーディオを買うことだ」と書いてある記事を読んだ(ダイヤモンド 7/2)。これは、この筆者が学生時代にインドを旅行し、日本人など見かけないような田舎町で、土地の人から言われた言葉だという。この筆者はこの言葉に、日本人の誇りを感じて奮い立ったという。
確かにそういう時代があった。それを取戻してほしい。でも、時間を巻き戻すことはできない。もし、取戻せるとすれば、現在の形(=事業)に拘らず、まったく違う、もっと身軽でシンプルなソニーに変容したときではないだろうか。その決意ができるだろうか。
例えば、ヨーロッパを代表する航空機メーカーであるエアバス社は、売上高2兆円規模の防衛・宇宙部門を売却し、主力事業に集中するという(WSJ 有料記事 9/17)。航空機メーカーにとって、防衛・宇宙部門は最先端技術を磨く重要な事業と思うが、ウクライナ危機があってもこの分野の政府支出の増加は見込めず、不採算事業によって、反って研究開発費の財源が蝕まれると判断したのかもしれない。
記者会見で「過去無配になったことはないが・・・」と社長の平井氏の責任を問う質問があった。平井氏は「不退転の決意で・・・」と返した。平井氏の決意がどれほど強いか、そして、この危機感をどれほど多くのソニー関係者が共有できるか。日本経済と統治機構の未来を暗示しているようで注目せずにいられない。
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*1 直近の有価証券報告書に次の記述がある(【財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】の“企業結合”)。
ソニーは取得法の適用時に、みなし取得価格を識別可能資産及び引受負債に割り当て、残余の取得価格は営業権として計上しています。
以前は、“営業権”と“のれん”は、特に区別せずに使用されていた。日本の企業結合会計基準が公表され、そこで“のれん”という言葉が使われて以降は、M&Aの結果生じる差額部分は“のれん”と表現されることが多い。一方、営業権は特定地域において、或いは、特定顧客に対して優先的な営業活動が行える状況を他社から獲得したコストを資産計上したものを指すことが多いと思う。“のれん”は事業買収時に発生する買収額と、取得した(純)資産額の差額、“営業権”は営業地盤や顧客を直接他社から譲り受けたコスト(差額ではない)のイメージ。ただ、ソニーは従来通り、“のれん”を“営業権”と表示している。
*2 為替レート変動で膨らんだ部分の減損損失は、資本の部に累積されたOCIと相殺されるため、純資産に与える影響(累積値)は 当初の取得額である 1,285 億円となる。ちなみに、この金額は完全子会社化された日の為替レートによるもので、2012/3 期決算では期末日レートで換算され 1,382 億円となっている。
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