« 2014年8月 | トップページ | 2014年10月 »

2014年9月

2014年9月30日 (火曜日)

401.【QC02-02】企業会計原則の一般原則とは?~真実の中身~

2014/9/30

こんなテーマの記事なんて、基本的過ぎて読みたくない! と思われた方も多いと思う。一方僕は、基本は反って難しいと、ちょっと心配している。そこで読みたくない方のために、そして僕の不安を和らげるために、企業会計原則の一般原則の解説は、他のHPにあるものを紹介することにしたい。

 

会計学を学ぼう!”というホームページの“企業会計原則

 

このホームページは、「会計学を分かりやすく解説することで広く一般の方々に会計学に興味を持っていただけたらと思い立ち上げた個人のwebサイト」(“当サイトについて”より)で、電卓の選び方から会社設立まで、会計を志す人への実務的なサポートと動機づけを狙ったもののようだ。とても尊敬すべき志をお持ちの方が作られたようだ。これからも機会があれば参照させていただきたいと思う。

 

 

さて、上のリンクをご覧いただくか、前回の記事(4009/25)の脚注をご覧いただくと、一般原則が一覧できる。すると、みなさんは次のような感想をお持ちにならないだろうか。

 

・恣意性の戒めなど不正防止と関連するものが多い。

 

真実性の原則、正規の簿記の原則、明瞭性の原則、継続性の原則、保守主義の原則、単一性の原則

 

・帳簿の在り方など会計の実務的側面を意識したものがある。

 

正規の簿記の原則、単一性の原則

 

・個別取引の仕訳段階に関心の重心がある。

 

正規の簿記の原則、資本取引・損益取引区分の原則、継続性の原則、保守主義の原則

 

どのような読み手を想定しているかを考えると、直接的には企業の経理部のイメージ。そして「このような“作り方”をしているから、そのつもりで」と、投資家・株主、監査人など他の関係者へ間接的なメッセージを発している感じがする。

 

改めて眺めて見ると、一般原則は“会計行為”を規定している。「こういう帳簿を整備し、こういうルールで作成してください。そうすれば、真実な財務諸表を導出できます」と。ちょっと詳しく見てみよう。

 

企業会計原則において、真実性の原則は次のように規定されている。

 

企業会計は、企業の財政状態及び経営成績に関して、真実な報告を提供するものでなければならない。

 

これは一般に「他の一般原則、損益計算書原則及び貸借対照表原則への準拠を要請することを通じてそれらに準拠して作成された財務諸表の会計情報を真実であるとみなす」と解釈されている。即ち、「会計原則に準拠することで真実となる」ということだ。そして、他の一般原則等には、帳簿の整備や個別会計事象の仕訳の仕方が、主に規定されている。会計原則がそうなっているのは当たり前だが、ちょっと疑問が残る。この表現では“真実の中身”が見えてこない。表現が文学的なのだ。「“真実”は真実だ。それ以上でもそれ以下でもない」と割り切ってしまえば良いのだが・・・。

 

僕は、濡れた眼差しで「あなたの真心を頂戴」と言われた時のような戸惑いを感じてしまう。さて、何をあげればよいだろうか? その眼差しの主の期待を外したら大失態だ。期待の中身を知りたい。でもそれは分からない。試されているのだ。(往々にして、僕のように理屈っぽいやつは、目の前にあるゴールを外して厳しく睨まれることになる。もう、あの眼差しが戻ることはない。)

 

そんな状態だと、他の一般原則等で個々の具体的な会計処理等を決める際に、それらの内容がばらつく恐れがある。それでは困るから、一定の枠に収める必要があるだろう。その枠とは何か。それこそ、“真実の中身”だ。

 

ここまでくると、勘の良い方はもうお気づきかもしれない。概念フレームワークの“有用な財務情報の質的特性”が何であるかを。そう、“真実性の原則”の“真実の中身”こそが、“有用な財務情報の質的特性”だと僕は思っている。即ち、この“質的特性”を備えた情報こそが“真実な報告”になりえる。そして、“質的特性”を備えた情報になるよう個々の会計原則が規定されると、会計基準全体に統一感がでる。これこそ、概念フレームワークの役割だ。

 

“質的特性”には、“基本的”と“補強的”があるが、このうち主に“基本的”が、真実性の原則と対比させるべき項目ではないかと思う。ということで、次回はそこを考えてみたい。

 

 

ところで、前回清水エスパルスが危機に瀕していると書いたが、ますます厳しい状況に陥った。なんと、先週末に15位から降格圏の17位に沈んでしまったのだ。もう、下には徳島ヴォルティスしかいない。しかし、選手たちは焦ることはない。やるべきことを一つ一つ熟していくこと、そして、気持ちを結束させることだ。ちょうど、企業会計原則の他の原則へ一つ一つ準拠して行けば、真実性の原則が満たされるように、エスパルスも個々の練習を積上げていけば、必ず、結束が固まっていく。

 

ん~、そうだろうか。やはり、これとは別に“結束の中身”が必要ではないか。

 

勝ち点3が必要なことは、誰でも分かっている。もちろん、選手たちも。問題は選手たちに共通の目標や理念をどれだけ強く意識させ、具体的な行動、プレーに結び付けられるようにするかだ。頭を通り越して、心に働きかけられるような強烈な何かが必要だ。それが“結束の中身”だ。それを選手たちに与えられるか。“結束の中身”が重要だ。ここは、大榎新監督他、クラブの社長やスタッフたちの人の心を動かす人間力に期待するしかない。

2014年9月25日 (木曜日)

400.【QC02-01】有用な財務情報の質的特性を企業会計原則の一般原則と比べてみたら?

2014/9/25

今、清水エスパルス・サポーターで焦ってない人はいないだろう。完全に降格争いにはまってしまった。しかし、選手は焦ってはいけない。「ダメなときは、何をやってもダメ」という悲しいチームが、他にも数チームある。「なぜ、あのシュートがバーを叩いてしまうのか」とか、「あんなシュートを入れられてしまうとは」と嘆いてるチームは、エスパルスだけではない。そのチームより、ちょっとだけ良ければ良いのだ。・・・といっても、実際にはそれが難しい。

 

 

お見苦しい書き出しで大変申し訳ない。しかし、標題に掲げた新しいテーマを決めるにあたって、エスパルスへの僕の危機感、心理状態が大いに関係した可能性がある。

 

IFRSに関心を持つ方は、「具体的に何が?」と問われれば、「日本基準との相違点」と回答するだろう。したがって、普通は、のれんの非償却や開発費の資産計上範囲など、個別IFRSの具体的な規定へ関心が向く。大手監査法人のHPで差異一覧表を入手して、「へぇ~、こんなところが違うんだあ」と思っているうちに、「保守主義はどこ行った?」とか、「こんな項目の公正価値を見積れるのか?」といった疑問へはまっていく。関心がどんどん細部に向かい、入る必要がない沼地へ踏み込んでいく。この流れは、まったく自然で淀みないから、真面目に考える人ほど逃れるのが難しい。そして(今のエスパルスのように)大きな問題を抱えてしまう。

 

ところが、このブログはちょっと違う筋道になっている。お気付きだろうか。

 

疑問・問題は、より上位の概念や、その目的に遡って解決を試みている。その究極は、一般財務報告の目的であったり、有用な財務情報の質的特性、特に基本的特性の2つ(目的適合性、忠実な表現)だ。原則主義のIFRSはこの辺りの構造がシンプルなので、ワン・パターンと思われるかもしれないが、細部の問題はより上位に登って上から眺めて、或いは、立ち返ってこそ解決できるというのが、このブログを始めた当初からの僕の一貫した主張だった(例えば、2011/6/30 の記事など)。細部にはまっていくのではなく、基本原則の理解こそが重要なのだ。

 

ということで、新しいシリーズを始めるにあたり、個別IFRSを希望される読者が多い可能性は、一応考えた。前回(3999/23 の記事に)も書いたが、できれば、次は収益認識へ進みたいが、翻訳版が公表されるまでは手が出せない。そこで、また上位概念である、概念フレームワークに戻ることにした。

 

どのように戻るかというと、IFRSの基本にある概念フレームワークの質的特性を、同じく日本基準の基本にある企業会計原則の一般原則*1と比べてみようというのだ。「日本基準との相違点」を、個別規定ではなく、底辺に流れる基本原則で検討しようと思う。

 

一般的には、IFRSの概念フレームワークを我が国の企業会計原則と同じ位置づけに考える人は少ないと思う。さあ、果たして意味のある分析になるかどうか。とりあえずやってみようと思う。

 

 

さて、恐縮だが最後にまたエスパルスに戻りたい。こんな時、僕のアプローチによる解決策は「選手は仲間意識を高める」だ。

 

今の状況は一人で打開できるものではないし、誰かを悪者にしても結果は出ない。真面目な選手たちが各個人の世界で悩んでも、チームがバラバラになるだけ。もう一度、目標を思い出してほしい。それはチームが、或いは、チームで勝つことだ。今よりもっとお互いの存在を感じ合いながら、意識し合いながら、残りのリーグ戦9試合を闘ってほしい。より大きな目標に遡って、みんなの結束を固めて欲しい。

 

 

―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・

*1 企業会計原則の一般原則とは、次のもの。

 

1 真実性の原則

2 正規の簿記の原則

3 資本取引・損益取引区分の原則

4 明瞭性の原則

5 継続性の原則

6 保守主義(安全性)の原則

7 単一性の原則

2014年9月23日 (火曜日)

399.【番外編】秋の夜長、眠れてますか?

2014/9/23

今年は秋の訪れが早い。この数年、「暑さ寒さも彼岸まで」の諺に望みを託して寝苦しい夜を乗り越えてきたが、今年は早や、8月末から涼しい(そして清水エスパルスは調子悪い)。昨日の当地の最高気温は26℃、最低気温は17℃。湿度もそこそこで、とても快適だった(但し、エスパルスのリーグ戦の先行きを考えだすと頭が痛くなる。今日のガンバ大阪戦はどうなるだろう・・・)。

 

僕は昔から不眠症の気があって、(それは今でも続いているが)そのせいか睡眠時間は年中短めだ。みなさんは、毎日、何時間ぐらい眠られているだろうか。今年は涼しいので、もうすでに正常なペースで睡眠をとられていると思うが、昨夜は5時間、6時間、それとも7時間? そしてそれは、みなさんが満足する長さですか?

 

恐らく、みなさんも、8時間以上コンスタントに寝ておられる方はほとんどおらず、平均は6時間を超えるぐらいか。そうなる理由は、

 

・睡眠時間にそんなに時間を当てられない、

・通勤中に電車で寝てるからそれぐらいで十分、

・昼休みに10分ほど寝ればすっきりする、

・寝ていられない(年齢を重ねると・・・)

 

といったところだろう。でも、本当はもっと眠りたいと思われているのではないだろうか。

 

どうやら米国では、8時間の睡眠時間が必要とされているらしい。長い。次の記事(ちょっと長い)をご一読されることをお薦めする。十分な睡眠の必要性と効用がユーモラスに書いてある。

 

十分な睡眠にプラスの効果―給与や投資行動にも重要(WSJ無料記事 9/22

 

米国の統計では、睡眠時間が不足している人が1時間余計に眠られるようになると、16%も給料が増えるらしい。創造的な仕事ぶりでより大きな成果をあげられるからだそうだ。

 

もし、これが日本にも当てはまるならすごい。6時間そこそこの睡眠時間の日本人が毎日8時間寝るようになると、日本企業がより創造的になり、GDP が30%ぐらい増えそうだ。これは、アベノミクスの第3の矢でも触れられていない強力な成長戦略・構造改革だ。

 

僕は、意外にこういうものを真に受けるタイプだ。まずは、自分で試してみようと思う。成果はこのブログに現われるから、その成否は、みなさんが判定することになる。果たして“創造的”になるだろうか。しかし、それには不眠症を直すことに本腰を入れなければならない。そして睡眠時間を確保するために、このブログは多分もっと短文になるだろう。考えてみると、みなさんにも僕にも、良いことづくめだ。これは良い。

 

ということで、“概念フレームワークのDP”シリーズの次のテーマはまだ決まらないが、今から、睡眠時間確保のため強制的に眠ることにする(ブログは公表日の前夜に書いている。本当は収益認識の日本語訳が出るのを待っているのだが・・・)。良いアイディアが浮かんだので、今夜は気持ちよく眠れそうな気がする。(エスパルスが夢に出てこなければ、だが。)

2014年9月18日 (木曜日)

398.【番外編】ソニーの未来

2014/9/18

昨日、僕のスマホに飛び込んできたニュース速報。

 

ソニー今期最終赤字2300億円、無配に スマホ事業で減損(日経電子版無料記事 9/17

 

ふ~む、最近、プレーステーション4の好調が伝えられていただけに驚きだ。但し、ソニーCFO の吉田憲一郎氏は、既に 7/31 の第一四半期の決算説明会で、スマホ事業の減損の可能性について警告を発していたという(日経電子版有料記事 7/31)。その時点では戦略見直し中だったが、それがまとまったのだろう。したがって、ソニーに関心を持ち続けていた人々にとっては、突然ではなかったかもしれない。

 

ソニーのHPを見ると、次のニュース・リリースがあった。

 

モバイル・コミュニケーション分野の営業権に関する減損計上及びそれにともなう2014年度連結業績見通し修正のお知らせ (PDF)

 

これによると、モバイル・コミュニケーション分野の営業権全額(約 1,800 億円)を減損する(ソニーは米国会計基準なので営業損失へ計上)。営業権とは“のれん”のこと*1。ソニーがエリクソン社との合弁会社を完全子会社化(2012/2/15)して生じたものが、円安で膨らんだ(当時は 1,285 億円。ご存じのとおり、米国会計基準でのれんは非償却。この“のれん”はユーロ建てなので、為替レートは毎期決算日レートで換算替える*2)。

 

2012/3 期の有報によれば、この“のれん”以外に長期性資産として、無形固定資産が 1,230 億円(すべて耐用年数あり)、有形固定資産が 180 億円、その他の固定資産が 224 億円が取得されているが、減損はこれらにまでは及んでいないようだ。ということは、スマホ事業の将来見通しが、(割引率を考慮しても)少なくとも損益トントンにはなるのだろう。しかし、ソニーは前期、3回も業績見通しの下方修正を繰返した。今回は大丈夫だろうか。

 

そこでソニーのHPで、この業績見通し修正に関する記者会見の録音(インターネット中継)を聴いてみた。

 

スマホ事業の戦略見直しは、第1四半期が赤字になったことがきっかけで、普及価格帯のスマホの売上が足を引っ張ったのだという。特に中国において、躍進する中国メーカーとの競争に敗れた。この環境変化に対する対応は、量的拡大を追わず、商品戦略と地域戦略を練り直すこと。より詳細には、11月の中間決算発表時などの機会に適宜公表していくとのこと。

 

正直な感想は、「戦略が定まってない」だった。中国メーカーのスマホが躍進していることは、とっくにマスコミの話題になっている。アップルは、それに対抗して新製品 iPhone6 / 6 Plus を発表し、過去最高のペースで予約が積み上がっている。その使用感について、モバイル業界専門のジャーナリスト石川温氏は次のように述べている。

 

アンドロイドスマホのメーカーにとって、スペックで勝負できないiPhone6/6プラスは本当に戦いにくい相手なのではないか。iPhone6/6プラスを使ってみて改めて、スペックではなく総合力で差をつけるiPhoneのリードはしばらく続きそうな感じがした。日経電子版有料記事 9/17

 

しかし、ソニーはまだ戦略も詰まっていない。ソニーでさえも戦略がない。

 

アップルは、iPhone 5s / 5c でほどほどに成功しながらも、次の環境変化を読んでその先を行く新製品を発表し、今のところ好評を得ている。一方、ソニーは前期スマホ事業がようやく黒字転換したことで慢心したのか。しかし、その第4四半期は赤字だった。理由をこの記者会見でも「高機能新製品の市場投入が遅れたため」としているが、甘いのではないか。それが投入されたこの第1四半期が赤字なのだから。

 

遅い。リスクを識別するのも、対応するのも。組織が複雑で膨らみ過ぎたのではないか。

 

しばらく前に「俺の夢は、ソニー製のテレビとオーディオを買うことだ」と書いてある記事を読んだ(ダイヤモンド 7/2)。これは、この筆者が学生時代にインドを旅行し、日本人など見かけないような田舎町で、土地の人から言われた言葉だという。この筆者はこの言葉に、日本人の誇りを感じて奮い立ったという。

 

確かにそういう時代があった。それを取戻してほしい。でも、時間を巻き戻すことはできない。もし、取戻せるとすれば、現在の形(=事業)に拘らず、まったく違う、もっと身軽でシンプルなソニーに変容したときではないだろうか。その決意ができるだろうか。

 

例えば、ヨーロッパを代表する航空機メーカーであるエアバス社は、売上高2兆円規模の防衛・宇宙部門を売却し、主力事業に集中するという(WSJ 有料記事 9/17)。航空機メーカーにとって、防衛・宇宙部門は最先端技術を磨く重要な事業と思うが、ウクライナ危機があってもこの分野の政府支出の増加は見込めず、不採算事業によって、反って研究開発費の財源が蝕まれると判断したのかもしれない。

 

記者会見で「過去無配になったことはないが・・・」と社長の平井氏の責任を問う質問があった。平井氏は「不退転の決意で・・・」と返した。平井氏の決意がどれほど強いか、そして、この危機感をどれほど多くのソニー関係者が共有できるか。日本経済と統治機構の未来を暗示しているようで注目せずにいられない。

 

―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・

*1 直近の有価証券報告書に次の記述がある(【財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】の“企業結合”)。

 

ソニーは取得法の適用時に、みなし取得価格を識別可能資産及び引受負債に割り当て、残余の取得価格は営業権として計上しています。

 

以前は、“営業権”と“のれん”は、特に区別せずに使用されていた。日本の企業結合会計基準が公表され、そこで“のれん”という言葉が使われて以降は、M&Aの結果生じる差額部分は“のれん”と表現されることが多い。一方、営業権は特定地域において、或いは、特定顧客に対して優先的な営業活動が行える状況を他社から獲得したコストを資産計上したものを指すことが多いと思う。“のれん”は事業買収時に発生する買収額と、取得した(純)資産額の差額、“営業権”は営業地盤や顧客を直接他社から譲り受けたコスト(差額ではない)のイメージ。ただ、ソニーは従来通り、“のれん”を“営業権”と表示している。

 

*2 為替レート変動で膨らんだ部分の減損損失は、資本の部に累積されたOCIと相殺されるため、純資産に与える影響(累積値)は 当初の取得額である 1,285 億円となる。ちなみに、この金額は完全子会社化された日の為替レートによるもので、2012/3 期決算では期末日レートで換算され 1,382 億円となっている。

 

2014年9月16日 (火曜日)

397.CF-DP69)このDPシリーズ、とりあえず終了。最後に再度“不確実性”

2014/9/16

概念フレームワークについて、長々と書いてきたが、そろそろ幕引きをしようと思う。果たして、このシリーズを始めた時に掲げた目標は達成されているだろうか。「目標? そんなものあったの」とみなさんが思われるのも当然だ。僕も具体的内容は忘れていた。そこで、改めて見返してみた。

 

2962013/10/7 の記事

 

・・・とりあえず、このブログでは、次の角度については見ていきたいと思っている。

 

 ・その他の包括利益(OCI)と純利益の区分の考え方

 ・原価、公正価値や使用価値の位置づけや適用ルールの整理方法

 ・資産の定義の修正のされ方

 

これに対して、“会計上の不確実性”と“純損益とOCI”の2つをテーマに検討してきた。前者はまったく成果なく終了したが、後者はそれなりに掘下げることができたように思う。一応これらによって、“目標”の1つ目、OCIと純利益の区分と、3つ目、資産の定義の修正については、触れることができた。2つ目については、ASBJ ペーパーや FASB ペーパーの中で重要性が強調されていたので、来年の1Qに公表予定の概念フレームワークの公開草案に、IASBの考え方が整理されるはずだ。それから改めて考えようと思う。

 

1勝1敗1問題先送り。あまり誇れる状況ではない。特に“会計上の不確実性”については、悔しさが生々しく残っていて、まるで採りたての渋柿を食べた口の中のようだ。渋い、苦い。

 

しかし、多少甘味も感じている。実は、その後も“不確実性”について考え続けていて、少しは理解が進んだのだ。今回はそれを簡単に紹介して、概念フレームワークの締めとしたい。

 

 

IASBはこのDPの提案で、“不確実性”を資産の定義や認識規準から追出して、測定規準の中に押込めようとしている。その結果、“不確実性”は、概念フレームワークから削除され、個別規準の中でのみ記述されることになる。会計にとって、これは何を意味するのだろうか。

 

企業は不確実性へ対処する。対処できなければ存続できない。経営を一つの物語とすれば、顧客や取引先、経営者、従業員などの様々な利害関係者がメイン・キャストとして登場する。その裏には常に“不確実性”が共通のテーマとなっているはずだ。企業環境変化への対応、将来への対応。これらを言い換えれば“不確実性”への対応だ。企業経営にとって、“不確実性”は常にメイン・テーマだ。

 

会計上の不確実性と経営における不確実性は、相当重なっている、かなり共通しているというのが僕の考えなので、それが概念フレームワークから消えてしまうことの意味を考えずにいられなかった。IASBは不確実性を軽く考えているのではないか。もしかしたら、会計と経営の距離が離れてしまうのではないか。そんな心配をしていた。

 

結論からいうと、これは杞憂だったようだ。

 

逆に、概念フレームワークの定義や認識規準の段階で“不確実性”による選別・切捨てを止めて、個別規準の測定規準の段階まで引込んでからより深く“不確実性”を評価しよう、という趣旨ではないかと思うようになった。即ち、可能性のある事象は一旦すべてテーブル(=B/S)に載せ、その後で評価しようということだ。その結果測定値がゼロになるなら、B/Sには載らないこともあるが、定義や認識規準から“不確実性”を追出しておけば、予め切り捨てられてしまうことはない。

 

「手間がかかるなあ・・・」と思われるかもしれない。

 

でもこの考え方は、リスク(及び機会)管理と親和性がある。リスク(及び機会)管理ではいったんすべてをテーブルに載せて評価・検討し、その後に可能性のないもの、重要性のないものを外したり、対応に手間をかけないようにコントロールする。このリスク(及び機会)管理は、経営プロセスそのものだから、会計は経営とより親和性が高まると考えて良いのではないか。その代り、会計を経理部門だけのものにせず、企業の経営組織に浸透させていく必要がある。それによって、各部門が事業運営のために判断したことが、同時に会計へ生かせるようになる。完全な一致は理想に過ぎず、実現は無理かもしれないが、この理想により近付けられる。その結果、コスト・ベネフィットはむしろ高まる可能性がある(リスクだけでなく機会も、コストだけでなく収益も考慮する)。

 

COSO Chairman Bob3898/27 の記事参照)も言われていた。「重要性は企業のリスク管理で決められる」と。(僕はちょうど2年前の“脱線シリーズ”に、自分の経験からくる感覚のみを頼りにそういうことを書いたが、どうやら当たっているらしい。)

 

機会やリスクを過小評価して手痛いしっぺ返しを食らうことは、企業の生き死に係ることだから、機会の探索やリスクの識別、そしてこれらに対する重要性の評価は、企業の管理組織にとっての生命線だ。財務諸表規則や会計基準で決められたものとは次元が違う厳しさがあるはずだ。IASBのこの提案には、その厳しさを会計に取込みたい、或いは、企業ごとのその厳しさの程度・優劣を会計で分かるように表現したい、そんな意図があるのではないだろうか。或いは、結果的にそうなるのではないか。今は、そんなふうに考えている。

 

 

 

2014年9月14日 (日曜日)

396.【番外編】会計の本質論と公認会計士の立場

2014/9/14

え~っ、朝日新聞社長が謝罪会見!? 第三者委員会を設置して外部調査?

 

どこかで見たような・・・、そうだ、このブログの終戦記念日の妄想記事だ(385-8/15)。と思って読み返してみたら、やはり大分違う。そんなに簡単に未来予想が当たるわけがない。特に、社長が謝罪会見を開いて第三者委員会を設置するのは、(はっきりとは書いてはないが)もっと、数か月も経ってからのイメージだった。

 

随分早いなあ、朝日新聞は意外に自浄能力が高いんだ。

 

と一旦は感心しかかったのだが、どうもそういうことではないらしい。みなさんもご存じのとおり、朝日新聞は、池上彰氏のコラム“新聞ななめ読み”で問題を起こしていた。「慰安婦報道に関する訂正は遅きに失した。謝罪もするべき」という趣旨の池上氏の原稿を、予定されていた 8/29 に掲載しなかったという(遅れて 9/4 に掲載)。(僕は昨日放送の「激論!クロスファイア」で知った。)

 

その経緯について、朝日新聞は 9/6 に説明している。それによれば朝日新聞は、今までも池上氏から厳しい指摘を度々受けており、それらはそのまま掲載してきた。しかし、今回に限っては間違った判断で掲載を見合わせてしまったという。

 

なるほど、朝日新聞が「朝日新聞に対する批判も可」として、その自由さを売りにしてきたコラムで掲載を拒み、しかも正当な理由がなかったというのは、“言論の自由”で成り立っている新聞社のやるべきことではない、というより許されない。誤報ならミスの範疇と思うが、これは報道機関としての”意思“や“基本の考え方”が間違っている。単なるミスでは済まない致命的な失点だ。いわば、ゴールデン・ゴール方式(或いは、サドン・デス方式)の延長戦における“オウン・ゴール”だ。それで時期がこんなに早まったのか。

 

「何を偉そうに。相変わらず、他人には厳しい。自分には甘いくせに」と怒られそうだが、次のようにも思っている。

 

今回の謝罪会見は、朝日新聞社内からの批判もきっかけになったらしい。それなら、変化の兆しと考えて良いかもしれない。

 

でも、あくまで“兆し”であって、これからが茨の道だ。朝日新聞の精神に巣食う色眼鏡を掛けた鬼を全部退治して、健全な批判精神を持つ新聞社へ変わってほしい。第三者委員会の活躍に期待したい。(ちなみに、この謝罪会見は、福島第一原子力発電所の吉田氏の証言に係る記事を取消すことに関して開かれたものらしい。鬼はあちこちにいそうだ。)

 

 

ところで、新聞社の方針と違うことでも自由に書くコラムといえば、日経新聞の“大磯小磯”がある。日経新聞を紙で読んでいたころは、目に入れば必ず読んでいた。テーマの裏側まで見られるような気がして、けっこう面白い。ただ、最近は電子版なので目に入ることがなく、すっかり縁遠くなっていた。

 

日経電子版の購読をされている方はご存じと思うが、日経電子版にキーワードを登録すると、そのキーワードが含まれている記事のリンクが、朝と夕方にメールで送られてくる。それをきっかけに、久しぶりに“大磯小磯”を読んだ。次の記事だ。

 

国際会計基準より大事なこと (9/11 有料記事

 

このタイトルを見た瞬間、「これは本質的な議論をしているに違いない」と直感した。会計は、経済実態を忠実に描写する“道具”であって、会計自体が“目的”になることはないはず。ところが、最近の議論はおかしいのではないか、そんな議論が展開されていると思ったのだ。だが、違った。

 

有料記事なので、あまり内容を紹介することはできないが、最初と最後の段落だけ拝借させていただきたい。

 

(最初)

国際会計基準(IFRS)を巡る議論が活発だが、国際化ばかり強調されている。哲学も不明確なまま国際情勢と異なる実態を取り上げ、技術論に終始しているのには違和感を感じる。本来は企業にとってのメリットが説明され、監査制度や市場監督の質向上とあわせて議論されるべきだ。

 

(最後)

公認会計士は根拠もなくIFRSの必要性を主張したり、制度改正を求めたりすべきではない。企業の立場で導入のメリットと向き合い、監査の質向上と合わせた議論を期待したい。

 

匿名なので、誰が書いているかは分からない。もしかしたら、上記の池上氏のように新聞社に依頼されて外部の方が書いているのかもしれない。

 

この記事は、拝借した最初の段落が具体的に展開されて、最後の段落の結論を導く形になっている。最初の段落から素直に想像していただければ内容はお分かりと思うが、3年前に企業会計審議会でIFRS反対派が主張していた議論が繰返されている。このブロクでも取上げた Oxford Report の要約版のようだ。

 

しかし、この議論では1年前の7月の初めに、日本版IFRSを作るなどの(中間的な)結論を出したはずだ。なぜ、3年前に後戻りするような主張がなされるのだろう? 「何か新しい要素でも出てきたのか」と思って読み返しても、殆どない。唯一新しいと思えるのは、米国に上場した(IFRS採用の)中国企業が上場廃止になったぐらいのことだ。だが、そんなことで何年も時間を巻き戻し、この間の努力を無駄にする根拠になるのだろうか。

 

特に、のれんの非償却についての批判がたくさん書かれているが、ASBJやその他の努力でIASBも見直しを始めようとしているところだ。みんなで前向きな努力をしているのだが、そういうことは書いてない。

 

ただ、監査に目を向けてもらったのはちょっとうれしい。見積りの監査は確かに難しい。欧州でのれんの減損が“too little too late”と批判されているが、監査も重要な原因だ。

 

3年前の企業会計審議会で、公認会計士の委員がやはりこの点を指摘している。だが、“だからIFRS導入に反対”ではなかった。確か、「監査証拠の入手ができるように企業における監査環境を整えてくれ」という主張だったように記憶している。それは何故だろうか。なぜ「監査が難しくなるからIFRS反対」と主張しなかったのか。このコラムを書いた方は、それを考える必要がある。

 

恐らく、次のような理由ではないかと僕は思う。

 

複雑な利害や制度が絡み合う問題を整理・解決するには、問題の優先順位付けを行う必要がある。IFRS導入問題も、監査制度や証券監督、税制、会社法など色々な制度が絡み合う。そこに、それぞれ利害関係を持つ人々がいるから、優先順位を間違えると問題解決にも失敗する。

 

企業の財務情報開示制度の中で、会計と監査の関係は分かりやすい。明らかに“会計が主で監査が従”だ。まず会計があって、その信頼性を担保する仕組みとして監査がある。したがって、まず、会計のあるべき論があって、それを実現するために監査がどうサポートするか、という順序にしないと、本末転倒の議論になる。

 

企業経営の立場で考えてみると、会計の役割は経済実態の忠実な描写だ。経営者はそれを見て(もちろん、もっと他の情報も見るが)、経営が順調であるかどうかを確認・判断したり、今後の戦略・戦術の立案や選択に利用する。企業の立場からはこれが最も重要な会計の役割だから、あるべき会計論は「どのような会計が経済実態の忠実な描写になるか」という観点で行われる。そして、このレベルの議論では、経営者も投資家・株主も、利害を共有する(と僕は思う。もっと議論をブレーク・ダウンしていくと、利害が分かれていくが)。この段階の議論では、まだ監査に出番はない。

 

証券監督も、税法も、会社法も、監査と同じ立場ではないか。まず、企業及び経営者、そして投資家や株主が、経済活動を行う上で適切な判断ができる基盤(≒会計)があることが優先されると思う。実際に企業会計審議会における法務省の委員はオブザーバー参加で、この議論の聞き役に回っていた。ちなみにTKC関係者の委員も、本来このような立場であるべきだった(が、強烈な反対論をぶっていた)。

 

以上を踏まえたうえで、公認会計士法の第1条を見てみよう。

 

(公認会計士の使命)

第1条 公認会計士は、監査及び会計の専門家として、独立した立場において、財務書類その他の財務に関する情報の信頼性を確保することにより、会社等の公正な事業活動、投資者及び債権者の保護等を図り、もつて国民経済の健全な発展に寄与することを使命とする。

 

公認会計士は、財務書類(≒会計)の信頼性確保が使命であり、公認会計士にとって財務書類の内容は“所与”だ。

 

だからといって、公認会計士が会計規準の議論に一切参加しないということではない。極端にいえば、財務諸表が、デタラメの会計規準に準拠して作成されていれば、経営者に、そして投資家や株主に信頼されるだろうか。そんな財務情報に存在意義はない。会計がちゃんと役割を果たす必要がある。

 

会計が十分に役割を果たせないのであれば、会計自体の改善が必要だ。それなしに監査も何もない。こういう観点では、独立した立場から議論に参加する。したがって、公認会計士は「会計が経済実態を忠実に描写しているか」という議論であれば参加する。「監査が難しい」という公認会計士の都合は、後ろに控えさせながら・・・。それが、公認会計士の立場だと思う。(くどいが、本当は「監査が難しい」という問題意識も持っているから、今回のように第三者が問題提起してくれるのはうれしい。)

 

したがって、もし、この「会計が経済実態を忠実に描写しているか」という議論を“技術論”と、このコラムの筆者が批判の対象にしているのであれば、それは違うと思う。これこそが“本質論”だ。そこに、哲学がある。そして海外と事情が違うことは、積極的に日本は主張しようとしている(公認会計士も貢献している)。

 

 

長くなって恐縮だが、最後にもう一つ。

 

上記「公認会計士は根拠もなくIFRSの必要性を主張したり・・・」の「根拠もなく」には、ちょっとヒヤリとした。僕は根拠を示しながらこのブログを書いているつもりだが、最近は妙に想像や妄想が多くなった。想像や妄想には確かに根拠がない。しかも、「他人に厳しく自分に甘い」という自覚も、芽生えつつある。この状態で想像・妄想するのは危険かもしれない。上に引用した公認会計士法第1条の次はこうなっている。

 

(公認会計士の職責)

第1条の2 公認会計士は、常に品位を保持し、その知識及び技能の修得に努め、独立した立場において公正かつ誠実にその業務を行わなければならない。

 

品位かあ。そういえば、監査基準の前文にも“高度な人格を持て”と書いてあった。これは難しい。果たして、このブログから“品位”とか“高度な人格”など、みなさんに感じてもらえるだろうか。恐らく無理だろう。頑張っても育ちの悪さは隠せない(また親のせいにしてる!)。ただ、“品位”とか“高度な人格”が、「金銭欲に支配されない人格」を指すなら大丈夫、ご安心戴きたい。見てお分かりと思うが、このブログに金銭は絡んでいない。

 

 

 

2014年9月11日 (木曜日)

395.CF-DP68)純損益とOCI~まとめ

2014/9/11

アギーレ監督には好感触。理由は、選手を上手に育てそうだから。

 

例えば、本田選手や長友選手らに続く新しい日本代表のスターになりつつある武藤嘉紀選手(東京)。いずれも途中出場ながら、ウルグアイ戦では惜しいシュートをゴール・ポストに当て、ベネズエラ戦では代表初ゴールを決めた。僕の見立てでは、アギーレ監督はこの結果を予想して武藤選手を起用した。この成長著しい若いFWの成長をさらに加速させるために。そして同じく代表初召集のFW皆川選手、DF坂井選手にも、強い刺激を与えるために。

 

ここでいう“予想”は、前回(3949/9)の記事のような単なる想像・妄想ではなく、会計上の見積りのような合理的な根拠があってのもの、という意味だ。いやもっと強いものがある。確信、というか、積極的な意思がある。ゴールさせるために途中出場で起用したと思う。

 

FW皆川佑介選手(広島)は FIFAランキング6位のウルグアイ戦の先発・トップで起用された。しかも、ブンデス・リーガでトップを張っている岡崎選手を差し置いて。ただ、武藤選手のようなゴールは、期待していなかったに違いない。大事なことは、皆川選手の成長へ刺激を与えることだったのだと思う。

 

DF坂井達弥(鳥栖)もその試合で先発起用された。ミスをしてしまったが、これも計算のうち。恐らくこの後、この種の経験豊富なDF吉田選手から優しく慰められ、改めて発奮したに違いないが、アギーレ監督は、そこまで見越していたのではないか。

 

更にこの2人への刺激を強めたのが、冒頭の武藤選手の初ゴールだ。アギーレ監督は武藤選手の機敏な特性を見ぬいて、相手DFの疲れの見える後半に投入すると最初から決めていたのではないかと思う。フレッシュな武藤選手なら、疲れたDFを振り切って初ゴールを決められる。そう確信していたのではないかと思う。これで武藤選手自身が強烈な成功体験を得、かつ、同じ境遇の皆川選手、坂井選手についても、刺激が2倍に強化された(ちなみに、ベネズエラ戦で貴重なもう1点を決めたのも同年代の柴崎選手(鹿島)だから、余計に刺激が強くなっているだろう)。

 

これから、この3人のJリーグでの活躍が楽しみだ(但し、エスパルス戦を除く)。アギーレ監督も、そこに注目しているだろう。3人には試練だが、ここからが本当の闘いだ。

 

 

さて、「“まとめ”をするなら、アギーレJAPAN ではなく、“純損益とOCI”だろう」と怒られそうなので、本題へ入るとする。まずは、簡単におさらい。

 

・IASBは、純損益については業績を表現する最も重要な指標とするも、OCIとの区分、線引きについて明確な説明をできていない。逆にいえば、何が業績か、何がOCIかを明確に説明できていない。(3625/14 ~)

 

・IASBは、OCIは、“橋渡し項目”と“ミスマッチのある再測定”、或いは、これらに“一時的な再測定”を加えたもので構成されると主張。もし、OCIを広く捉え、“一時的な再測定”を加えるとするなら、その内容やリサイクリングの要否については、IASBの判断に委ねるべきとしている。(同上)

 

・これに対してASBJは、OCIはB/SとP/Lの連結環であるとし、シンプルに不可逆性(=実現)の有無で純損益とOCIを区分し、OCIはすべてリサイクリングするという考えを示した。(3848/8

 

・同様にFASBのリンズマイヤー理事は、P/Lに米国流の非GAAP利益に当たるものを営業利益(≒予測価値のある業績)として表示すること、及び、OCI区分を設けないことを提案した。(3878/20

 

・IASBのフーガ―ホースト議長は日経新聞の記者に対し、IASBの方針を見直すと述べた。(3939/7

 

僕の好みとしては、IASBの主張より、ASBJやFASBの方が分かりやすい、或いは、実用的でよい。ただ、この両者にも次のような問題があるように思う。

 

・ASBJは、金融商品についてこの“不可逆性の原則”を適用していないように見える。シンプルで美しい理論的な主張だが、すべてに統一的に適用できないとなると、その理由の説明が必要だしシンプルさや美しさも半減する。

 

・米国流の非GAAP利益が“非GAAP”なのは、細則主義の米国でも規定が難しいほど、個別企業ごとに状況が異なる、或いは、同じ企業でも決算ごとに状況が変化するためと思われる。IFRSでそれが可能かどうか。

 

ということでIFRSでは、この“純損益とOCI”という根本的なところの整理が、まだ道半ば、ということになる。ASBJの考え方に最も明瞭に見えるが、この問題の解決には、測定基礎の選択の整理が鍵となるようだ。即ち、どのような場合に原価主義で、どうであれば公正価値のような時価ベースの評価基準を用いるかを、“企業業績の目的適合性のある忠実な表現”という観点で精査し直す作業が必要なようだ。FASBのリンズマイヤー理事もこの点に着目している。

 

そういわれて見ると、従来は項目ごとに評価基準が細かく決められていたが、確かに、すべての資産や負債に統一的な考え方や、損益面から見た評価基準の選択というテーマには、あまり注目してこなかった。来年公表される概念フレームワークの公開草案には、それが記載されるはずなので楽しみにしよう。

 

 

ASBJやFASBからアイディアが示されているとはいえ、IASBには相当の試練になると思う。IASBの腕が試されるところだ。アギーレ監督が若い選手を見るように、我々も、IASBを見守れると良いと思う。

 

なお、前回(3949/9)は錦織圭選手の偉業を茶化すように書いてしまい、大変申し訳なかった。改めて、錦織選手の準優勝を讃えたい。おめでとうございます。

 

また、前々回のフーガ―ホーストIASB議長の発言を紹介した記事(3939/7)で一部引用した Deloitte. の記事は、監査法人トーマツのHPに全文が日本語で掲載されていたので、前々回の記事の冒頭へそのリンクを追加した。良かったらご覧いただきたい。

 

 

2014年9月 9日 (火曜日)

394.CF-DP67)純損益とOCI~まとめ~益出し取引はどうなる?

2014/9/9

前回(393 - 9/7)の記事を見て、「なぜアギーレJAPAN のウルグアイ戦のことに触れてないのか?」と意外に思われた方がいらっしゃるかもしれない。僕の感覚としてはまだ注視している段階であって、論評するタイミングではない。結果が出るのは今日のベネズエラ戦だ。

 

今回、僕が最も注目しているのは、アギーレ監督だ。アギーレ監督は、ウルグアイ戦とベネズエラ戦の2試合のために新チームを招集した。ならば、両方見てから評価しようと思うのだ。どうせ暫定評価に過ぎないが、それでも今の段階で評価するのは、売上を早期計上することに等しい。まだ、十分に要件が整っていないと思う。

 

 

ところで前回の日経新聞のスクープ記事を見て、“FVTOCI 指定された持合い株式等のリサイクリング禁止規定の妥当性”というテーマは、もう終わりにした方が良いと思われた方は多いと思う。フーガ―ホースト氏が見直すと発言しているのだから、もう“勝負あった”のではないか、と。ASBJの努力の結果、IASBが日本の主張へ歩み寄ると分かれば、それで十分と。しかし、こちらもまだ要件が整っていないように思う。

 

僕も、気付いたら「未実現の状態でOCIへ計上された損益が、その後どのような結末を迎えたかをP/Lで知ることができない」とか、「純損益だけ見ていると、何が起こったか分からない」と書いている。要するに、IASBが「好ましくない取引の抑制」などという目的をこっそり取り込んだために、財務情報が持つべき重要な質的特性のひとつ、“忠実な(経済実態の)表現”を損ねたということだ。これで、探していた“実害”が見つかった。・・・と思ったのだが。

 

しかし、それでも消えない疑問がある。もし単純に、持合い株式等へリサイクリングを要求すると、それを利用した利益平準化取引も許容することになる。IASBは、本当にそれを許すだろうか?

 

財務報告にとって、どちらの実害が大きいのだろう? 利益平準化の弊害か、それとも忠実な表現の不備か。IASBはこれらの大きさを客観的に測る基準や尺度を見つけて、比較したのだろうか。その上で、リサイクリングを要求する方向へ舵を切ろうとしているのか。

 

と書いておきながら、実は、僕の予想というか想像では、この問題の解決に“実害の大きさ”は関係ない。恐らくIASBは、“経済実態を忠実に描写する”という大原則を優先させ、「好ましくない取引を抑制する」という余計な目的を後退させると思う。なぜなら、これこそが原則主義の在り方だと思うからだ。

 

具体的には、例えば益出し取引をやった場合は、現行のようにリサイクリングを禁止して純損益から除外するのではなく、リサイクリングによって純損益へ計上させ、それを益出し取引と分かるように開示方法を工夫する方向を考えているのではないだろうか。

 

こう考える理由は、次の2つだ。

 

・流行りの“Comply or Explaine”原則とも相性が良い

 

益出し取引等の利益平準化は違法か? 会計原則で禁じられているか? 要件設定が難しく規制は困難であり、いずれも No だ。しかし、非常に好ましくない、或いは、まったく適当でないと考えられている。このような取引を抑制するために、関係者の自治機能に委ねる“Comply or Explaine”原則が利用されることがある。

 

法律で禁止された行為をやれば違法、会計原則で禁じられた処理は虚偽記載や粉飾。しかし、何を持って益出し取引とするか、要件設定は難しい。この“Comply or Explaine”原則は、守らないならその理由を説明させる。それを関係者が納得すれば罰せられることはないが、納得されなければ手痛いしっぺ返しを食う。したがって、状況によって例外を柔軟に設けられるし、同時にこのような取引の抑制効果もある。これは、コーポ―レート・ガバナンス分野で流行りのルール、原則、或いはアプローチだ。ご存じのとおり、日本でも会社法改正に組込まれている(詳しくは、こちら【大和総研のレポート】)。 またこの原則は、IFRS財団でも取り入れられている(例えば、IFRS開発手続等を定めた Due Process Handbook 2013/2 改定版 P15)。

 

この方式を利用した開示が考えられる。持合い株式等の売却取引についてもリサイクリングが適用されるが、その一方で、それが目立つように記載され、かつ、利益平準化のための益出しではない理由も詳しく開示される。そして株式市場が納得すれば株価は下がらないし、株主総会も荒れないが、納得されなければ大変なことになる。そんなイメージが想像される。(但し、これが有効に機能するには、“益出しは悪”と一般的に認識されることが前提。)

 

・FASBペーパーの提案(387-8/20 の記事)とも相性が良い

 

この提案は、米国で慣習的に開示されている“非GAAP利益”のような区分利益を“営業利益”としてIFRSのP/Lへ開示しようというもの。その場合、恐らくこのような“益出し取引”は“営業利益”には含まれず、P/Lとは別表となる営業利益から包括利益までの表へ記載されると思う。

 

この米国版“営業利益”は、事業に関する包括的な利益であり、日本の“営業利益”や“経常利益”より範囲が広い。そして、なにを“営業利益とするか”の状況は企業ごとに異なるので一律の規定は難しいと思う。したがって、「P/Lとは別表となる営業利益から包括利益までの表」は、例外項目のみが記載されるはずのため、反って注目されると思う。或いは、注目されるよう興味を惹きつける詳細な注記が要求されるのではないだろうか。そんなことが想像される。

 

 

ちょっと調子に乗って、色々書き過ぎたかもしれない。上記はいずれも、“想像”というより“妄想”だ。実際にこの片鱗でも見えるのは、早くて来年1Qの概念フレームワークの公開草案公表時となる。結果が出るのはまだまだ先の話だ。今の段階でこのテーマを書くのは、売上の早期計上どころか、まだ受注前の提案書の起草段階にもならない。でも売上計上(=記事に)してしまった。これは完全な暴走、粉飾決算だ。

 

こんな妄想するなら、錦織圭選手の US オープン決勝戦を応援した方が遙かに良い。(この記事がアップされる頃は、まだ第1セットぐらいか。)

 

しかし、今まで僕は、数時間に及ぶテニスの試合をまともに観戦できたことがない。こんな妄想なら、あっという間に数時間が経つのに! ということで、応援の気持ちだけを送ることにしよう。

 

錦織選手、がんばってくれっ! 既に歴史的な快挙だが、まだ売上ではない。

 

ん~、完全にダブル・スタンダードだ。自分に甘すぎる。

2014年9月 7日 (日曜日)

393. JMISに対するIASBの反応と日経のスクープ

2014/9/11 下記の Deloitte. の記事が、監査法人トーマツのHPに日本語で掲載されていたので紹介します。

2014.09.03 IASB議長が、日本の修正国際基準(JMIS)および未実現損益を考慮しないことの危険性について論じる

 

2014/9/7

JMISに関するIASB議長ハンス・フーガーホースト氏の反応について2つの記事を紹介する。一つは日経新聞(9/5「企業・市場に冷めた声」:有料記事)で、9/3 に東京都内で開かれた会計シンポジウムの発言として紹介されている。もう一つは、Deloitte.のHPで公開されている 9/3 付のIAS Plus の記事(「IASB議長、JMISと未実現利益無視に対する危険を議論」 原文は英語)だ。こちらは東京で開かれたIFRSカンファレンスでのスピーチとして紹介されている。

 

どちらも同じ講演を取材したもののようだが、日付や開催地の情報がなければそうとは気が付かないかもしれない。両者は、かなり印象が違うように思う。

 

(日経新聞)

 

「日本の新基準を使うメリットは少ない。海外投資家はIFRSとみなさないからだ」

 

これは、「会計規準が一杯あっても誰の役にも立たない」とJMISを批判する記事の一部であり、この会計シンポジウム自体を報じるものではない。このためか、これ以外に同氏の発言は紹介されていない。そこで、もう一つの記事で詳しい内容を補足しよう。

 

Deloitte.

 

Mr Hoogervorst commented that the increase of the voluntary use of IFRSs in Japan was especially encouraging as Japanese companies have the choice of several sets of standards and would only choose to adopt IFRS if they thought it was a strong business case.

 

参考までに、この部分の拙い僕の翻訳も記載する。

 

フーガ―ホースト氏は次のように言及した。日本でIFRSの任意適用が増加していることは、特に喜ばしい。なぜなら、複数の会計規準の選択肢があるなかで、日本の会社はIFRSを選んだと考えられるからだ。ビジネス上の強いメリットが理由ではないか。

 

としたうえで、“ビジネス上の強いメリット”を次のように説明している。

 

He explained that IFRSs are a cost effective alternative for companies with subsidiaries as they can apply one single financial reporting language for both internal and external reporting. In addition, the use of IFRS would make it more attractive to foreign investors to invest in Japanese shares if the financial statements were prepared in a reporting language they understand.

 

議長は、連結子会社を持つ会社にとって、IFRSがコストに優れた選択肢であることを説明した。それは、国内でも海外でも一種類の連結パッケージで足りることだ。加えて、IFRSを使用すると、海外投資家が理解する基準で財務諸表が作成されるので、日本株への投資がより魅力的になる。

 

もし、僕が日経新聞の記者で、フーガ―ホースト氏の発言を正確に伝えようとすれば、恐らく次のように紹介すると思う。(但し、これでは、この記事にフーガ―ホースト氏の発言を引用する意味がなくなってしまうが。)

 

「IFRSの任意適用が増加していることは喜ばしい。ビジネス上のメリットが大きいからだろう」

 

フーガ―ホースト氏は、ここではJMISに言及していない。一方、日経新聞は「JMISにメリットがない」と書いた。印象が異なる理由は、ここにありそうだ。日経新聞は、ちょっと意訳が過ぎるのではないか。

 

とはいえ、日経新聞にもこう書いた理由がないわけではない。Deloitte.の記事のタイトルでも分かるように、フーガ―ホースト氏は、この講演で、JMISの前提になっているASBJのシンプルな考え方、即ち、純損益とOCIを区分する「不可逆性(=実現)の規準」について反論したからだ。日経新聞は、それを総合的考えて、「JMISにメリットがない」と書いてもよいと判断したのかもしれない。

 

しかし、ASBJ関係者は、この講演を聴いて首をかしげたのではないか。というのは、フーガ―ホースト氏の反論は、ASBJがASAFに提出したいわゆるASBJペーパー(8/8 の記事で紹介)をちゃんと理解しているように思えないからだ。その特徴的なところを Deloitte.の記事から紹介すると、次のようになっている。

 

He explained that a systematic relegation of unrealised income items to OCI could result in a lack of faithful presentation, especially as unrealised income does not only consist of gains, but also of losses.

 

彼は、機械的に未実現利益項目をOCIへ追出すことは、忠実な表現を欠く結果になるだろうと説明した。特に、未実現利益は利得だけでなく、損失をも含むのだから。

 

ASBJは、現行規程で純損益へ計上している未実現項目、例えば、売買有価証券やその他の公正価値評価する有価証券の評価損をOCIへ計上する、というような主張はしていない(僕は、リサイクルを前提にその方が良いと思うが)。もちろん、減損損失も、現行通り純損益に計上するとしている。それなのに、なぜフーガ―ホースト氏は、「ASBJの考えだと損失が先送りされる」みたいな反応をしたのだろうか?

 

むしろ、IFRSの“のれんの非償却”や“リサイクリング禁止”の方が危ない。のれんは、減損のタイミングが遅い、損失の先送りと批判されているし、リサイクリングが禁止された項目は、資本の部のOCIがこっそり利益剰余金へ振替えられる。即ち、未実現の状態でOCIへ計上された損益が、その後どのような結末を迎えたかをP/Lで知ることができない。例えば、(日本の持合い株のようなものに適用される)OCIオプションを指定すると決算時の評価益がOCIへ計上されるが、いざ売却時に損失となっても純損益に損失計上されない(OCIへ計上される)。純損益だけ見ていると、何が起こったか分からない。

 

まったく不思議だ。議長としてのポジション・トークだろうか。

 

現行のIFRSの方が、のれんに関して費用または損失のタイミングが遅いし、OCIに注目していないと危ない。「OCIを無視するな」との警告は、JMISではなくリサイクリングを禁止するIFRSに対して発せられるべきもののように思える。批判の対象が逆ではないか?と思えるのだ。しかし、フーガ―ホースト氏は、議長だから、IASBの批判をするわけにはいかないのだろうか。

 

 

もしかしたら、日経新聞の記者もおかしいと思ったのかもしれない。フーガ―ホースト氏に直接インタビューをしたらしい。それが 9/6 付の次のタイトルの記事(有料)になっている。

 

「のれん」会計、見直しも 国際会計基準 前倒し処理しやすく 持ち合い株売却は最終損益に計上

 

この記事では、フーガ―ホースト氏が「現在の基準が完璧でないことは認める」とか、「IFRSが方針を転換する。」と発言したことを紹介している。IASBが、のれんと持ち合い株式の会計規準を見直すのだ。日本の主張の方向へ歩み寄ると考えて良い。これは、スクープだ。

 

もしかしたらフーガ―ホースト氏は、この講演でIFRSの方を批判したかったのではないか。でもそれは立場上できないから、ASBJペーパーへの反論という衣を着せたのではないか。

 

しかしそうなると、冒頭の日経新聞の記事の「JMISにメリットはない」というフーガ―ホースト氏の発言の紹介の仕方はおかしい。「誰のためにもならない」というこの記事の主張もおかしい。「でも、日本の意見を主張するのに役立っている」と、少し趣旨を変えるべきだったと思う。

 

 

2014年9月 5日 (金曜日)

392.CF-DP66)純損益とOCI~まとめの前に~株式持合いや安定株主は悪か?

2014/9/5

実は、前回(9/2の記事)に引続き、まだ悩み中だ。いわゆるOCIオプション(=資本性金融商品について、「公正価値の変動をOCIを通じて測定する FVTOCI」へ指定をすること)が、「余計な目的を会計に持ち込んでおり、良くない」と言いたいのに、これに実益はあっても、実害が思い浮かばない。だから言えない。それで困っている。前回は、今回この悩みのプロセスを記載するとしていた。

 

だが、考えているうちに、ちょっと気になったことがある。

 

僕は、「株式持合いや安定株主は良くない」ことを前提に話を進めているが、本当にそうだろうか。OCIオプションは、この“良くない”ことを抑制する、或いは、業績から除外するのでやっても無意味にする実益があると考えたが、本当に“良くない”と決めてかかってよいだろうか。もし、ここが間違っていたら大変だ。議論が根底からひっくり返る。しっかり固めておく必要がある。それに、ここにこの悩みを解決する突破口があるかもしれない。

 

みなさんは、僕が「藁をも掴む」感じで、溺れかかっているように感じられるかもしれない。しかし、ここで溺れても命を取られるわけではないし、もう一度、水に入ってみようと思う。

 

 

昔、株式持合いや安定株主は、年功序列型賃金制度や終身雇用制度と同様、長期志向の日本的経営を支える誇るべき慣習と考えられていたように思う。つまり、“安定株主”という言葉・用語は、ポジティブなイメージだった。今はどうだろう。一般的にはどう思われているだろうか。ネガティブ・イメージか? 

 

これを調べるため、試に、久しぶりに EDNET でいくつか検索・分析してみた(9/4 現在)。結論から書くと次のようになる。

 

・“安定株主”が使われている場合、ほとんど、ポジティブ・イメージだった。

 

株式を保有する目的が、単に「取引先との関係の維持・強化」の場合は、“安定株主”という言葉・用語は使われていない。それより包括的な信頼関係を表現するために“安定株主”が使われているようだ。

 

・一方で、“安定株主”は、あまり使われなくなっている。

 

以前はもっと気軽に使われていたように思うが、今では“安定株主”はかなり限定的な用語になっている。例えば、この1年間の有価証券報告書を対象に全文検索すると、僅か、85 件しかヒットしない。投資信託等ファンドを除く有価証券報告書は、4,199 件もある。さらに、新規公開会社や、増資・売出し時に発行される有価証券届出書も同様で、投資信託等を除く 801 件のうち、“安定株主”にヒットしたのは、僅かに 21 件だった。うち、新規公開会社が発行したものに限ると、68 件のうち、2 件にしか使われていなかった。

 

この結果を見る限り、株式持合いとか安定株主というのは、日本の慣習から消えてしまったように見える。本当にこれだけしかないのだろうか。ん~、俄かには信じがたい。

 

一方で、株式の保有目的を「取引先との関係の維持・強化」などと表現するケースがたくさんあるようだ。こういう保有目的の場合は、株主総会の議題について真剣に賛否を検討し、必要があれば反対もするのだろうか。もし、あまり深く考えず、すべての議案に賛成するなら、これも実質的に安定株主だ。“安定株主”のような固定的な用語がないので、残念ながら検索では拾い切れず、実態はつかめないが。

 

“安定株主”は、開示資料から消えていく傾向にあるが、実態はこのような形で残っているように思う。つまり、“安定株主”のアングラ化が進行しているということではないか。実際は安定株主だが、それを言いにくくなっている。ということは、“安定株主”は、社会的にネガティブ・イメージが付いている、少なくとも、付けられつつあるのだろう。

 

なぜそうなのか。或いは、そうなりつつあるのか。株式持合いや安定株主は、本当に社会的に悪なのか。そこをもっと掘り下げる必要がありそうだ。

 

 

なお、上記の検索と分析のプロセスを、下記に追記する。もし関心があれば、お読みいただきたい。

----------------------------------------------------------------------------------------------------

昔は、企業が株式持合いで安定株主作りをすることは当たり前だった。旧財閥系企業はもちろんのこと、その他の企業も、多くはそうしていた。総会屋などという不逞の輩がいたこともあるし、株主総会を短く終わらせることが良いことのようなイメージもあった。そのためには、株主総会から議論を取り去り、単に経営者の提案を追認する場とする必要があった。そのために、安定株主が必要だったのだ。

 

新規公開企業も例外ではない。新規公開企業が従業員持ち株会を作るのも、従業員の資産形成や会社に対するロイヤルティ育成以外に、その目的があった。上場準備期間中に、従業員持ち株会を作り、さらに金融機関、取引先へ安定株主になってくれるよう依頼し、それでも足りずに会社幹部の個人的伝手などを頼って、株を持ってくれそうな会社・人を探した。こうして、上場後の株主総会を円滑に運営できる株主構成にすることを、資本政策と称していた。

 

現在(9/4)も、例えば EDNET で“安定株主”で全文検索すると 1,962 件もヒットする(その他の条件はデフォルトのまま。検索対象期間は1年となる)。しかし、検索範囲を有価証券報告書に限ると、85 件(=85 社)へ激減する。ほとんどは、大量保有報告書や変更報告書であり、株式の保有目的欄に“安定株主”という用語を使用している。

 

では、大量保有報告書や変更報告書は全体で何件あるかというと、この1年間で 12,498 件提出されている。意外と保有目的に“安定株主”と記載されるケースは少ないことが分かる。数件閲覧してみたが、“安定株主”に代りに“長期保有”という用語が使用されることが多いようだ。その他には、投資信託による信託財産としての保有も多い。証券業務によるもの、ディーリング目的といったものも散見される。

 

もう少し分析を続けよう。

 

新規公開や増資等の際に提出される有価証券届出書は、この1年で 5,103 件。だが、投資信託の組成等に関するものが多い(4,302 件)ので除くと、残りは 801 件となる。このうち、“安定株主”が使用されているのは 23 件で、うち 2 件は外国投資信託受益証券と債券の発行に係るものだったので除くと、残りは 21 件。“たった 21 件”といえると思う。内容は次のようになる。

 

・新規公開に係るものは 2

 

1件目)公開前の第三者割当増資(いわゆる資本政策)。相手は、親会社、従業員持ち株会、取引先(2 社)等で、まさに発行会社の応援団になりそうだ。

 

2件目)これも公開前の株式の移動(いわゆる資本政策)。異動元は投資ファンドで、移動先は従業員持ち株会、従業員や関係会社役員、その他の大株主。これも応援団づくりといえる。

 

(参考)この1年間の新規公開 68

 

有価証券届出書を“【株式公開情報】”で全文検索すると 68 件ヒットした。上記 2 社以外は安定株主作りをしていないのかというと、各社の【株式公開情報】を眺めていると、そうはいえないケースもあると思う。恐らく、「“安定株主”という用語を簡単に使わなくなった」のではないか。

 

18 件は、第三者割当(増資、自己株式処分、新株予約権付社債の発行)

 

特定の相手に割当てを行う場合、事業上の関係強化や財務上のサポートを目的とすることが多いが、必要以上に経営に入り込んで欲しくない。そういう相手を選んでいるようだ。なるほど、安定株主だ。

 

・残る 1 件は、株主(創業家)に対する説明で使用

 

再建過程で、創業家が持ち株の一部を失ったが、引続き安定株主として長期保有するという説明。

 

数は少ないが、記載のある会社は“安定株主”を有難い存在として、ポジティブなイメージで使用している状況が窺える。

 

85 件の有価証券報告書も見てみよう。有価証券報告書はこの1年で 9,884 件提出されたが、投資信託等(5.685 件)を除くと 4,199 件となる。そのうち、85 件に“安定株主”が使われている。その内容を見てみよう。

 

(使われ方)

 

ポジティブ・・・83

ネガティブ・・・2 件(下記の【対処すべき課題】の“2-”)

 

(記載場所)

 

【コーポレート・ガバナンスの状況】 72

【自己株式等】   2

【注記事項】    1

【対処すべき課題】 2-、1

【第三者割当等による取得者の株式等の移動状況】 1

【事業の内容】   1

【事業等のリスク】 3

 

【コーポレート・ガバナンスの状況】に、なぜ“安定株主”がたくさん出てくるかというと、ここに“特定投資株式の保有理由”の記載が要求されているからだ(2010/3期から。経緯や内容については、大和総研の資料“株式の保有状況開示”が詳しい)。“特定投資株式”とは、IFRS流にいえば、公正価値の変動を純損益を通して測定する(=FVTPL)ような純投資以外の目的で保有される株式だ。即ち、OCIオプションが指定されるような株式が、そこにリストアップされ、かつ、保有理由の記載が要求される。上記の場合は、保有理由として“安定株主”が記載されている。

 

なぜ、それが【コーポレート・ガバナンスの状況】に記載されるかだが、恐らく、そこにリストアップされた会社が、株式の持ち合いによって、有価証券報告書の発行会社の株式を保有しており、株主総会で無条件に賛成票を投じると疑われているのではないか。もしそうだとすると、株式総会の企業統治機能が阻害される。金融庁は、株式総会の意思決定を歪め、企業統治を阻害する可能性を、そこで表現させようとしていると思われる。

 

このため、多くの企業は“安定株主”という表現を避けるようになったと思われる。その結果、“取引先との関係の維持・強化”みたいな表現が増えたのだ。もしそうであれば、単に表現が変わっただけで、“安定株主”の実態は依然として残っているのではないか。

 

 

ところで、EDINET を久しぶりに利用したが、非常に便利だ。使いやすくなったので驚いた。例えば、上記の 85 件は、検索結果を Excel へダウンロードできたので、簡単に分析できた。検索の選択肢の分かりにくさや、検索から除外する条件が設定しにくいなど、改善した方が良い点もあるが、全体としては素晴らしいと思った。

2014年9月 2日 (火曜日)

391.CF-DP65)純損益とOCI~まとめ~FVTOCIリサイクリング禁止の実害その1

2014/9/2

この週末、日本でいう“その他有価証券”の売却益を純損益にリサイクリングしないIFRSの規程の意味を考えた。いや違う、それは既に前回(390-8/29)の記事に記載した。考えていたのは、次の2つだ。

 

A.“好ましくない取引の抑制”は、会計の目的に相応しいか

 

B.それをこっそり(=概念フレームワークに記載せずに)会計の目的に加えることの正当性

 

この2つから、FVTOCI のリサイクリングを禁止したIFRS9の規程や、概念フレームワークに関するディスカッション・ペーパーでのIASBの主張に対する評価(=僕の結論)が得られると思ったのだ。

 

結論から書くと次の通り。

 

A.相応しいか・・・相応しくない。即ち、×

 

B.正当性・・・好ましくはないが、否定もできない。したがって、

 

総合評価・・・マル

 

×を総合して、“マル”とはどういうことか? まったく理不尽な結論だが、その理由は一言でいえば次の通り。

 

(理屈では×だが)実害がない。しかし、実利はあるので、あった方が良い。よって“マル”。

 

 

僕は悩んだ。理屈では、×以外の結論はありえないように思う。

 

会計は実態を表現するものだ。そして、その実態を見て、価値判断が行われるべきだ。災害が発生する確率を判断する人・部署が、それに集中すべきであるように、会計は実態を表現することに集中すべきだ。他の判断を入れることは、実態の表現を歪める可能性に繋がる。ところが、FVTOCI に関しては、“好ましくない取引”などという価値判断が、予め会計の中へ取込まれてしまい、その結果その“好ましくない取引”が、会計で見えなくなっている。即ち、P/Lを見ても、益出しの実態は簡単には分からない。

 

おまけに、このことをIASBは明確に説明していない。やろうと思えば、概念フレームワークでなくても、IFRS9の結論の根拠にでも記載できるはずだが、そこには、分かりにくいことが書いてあるだけだ。IASBにも、なにか後ろめたい気持ちがあるのだろうか。

 

では、それにどんな実害はあるだろうか? 益出し取引が純損益から除外されると、何が困るだろうか。ん~、何か困るだろうか?

 

マンチェスター・ユナイテッドから古巣のドルトムントへ移籍する香川選手も大変に悩んだという。しかし、それに負けないぐらい、いや、それは言い過ぎだが、そう言いたくなるぐらい悩んだ。しかし結局、実害らしい実害を考え付かなかった。それで上記の結論を出さざるえなかったのだ。

 

 

次回、その考えたことを記載するが、もし、みなさんにもっと良い考えがあれば、是非教えて欲しい。「理屈で×なのに実害がないなんて、本当はおかしい」と思うのだが・・・ ん~、どうしても、思い浮かばない。

 

 

 

 

« 2014年8月 | トップページ | 2014年10月 »

2023年6月
        1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30  
無料ブログはココログ