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2014年10月 5日 (日曜日)

404.【番外編】欧州の不良債権問題

2014/10/5

「次の金融危機はどこか?」との問いに、「中国」と答える方が多いのではないか。しかし、欧州(ユーロ圏)も有力候補かもしれない。

 

「そんな馬鹿な。ついこの間、危機から回復したばかりじゃないか。」

「デフレのことを言ってるの? 金融危機とは違うんじゃない。」

 

なるほど、それもそうだ。間違いかもしれない。でもなあ・・・、気になる。

 

気になってるところに、次の記事を読んでしまったから、ついにこのブログのテーマにしてしまった。

 

米国の成功と欧州の失敗(日経新聞 有料記事 10/3 大磯小磯)

(この記事を読まれる方は、リンクが機能しないので、このタイトル“米国の成功と欧州の失敗”を日経電子版で記事検索していただきたい。)

 

このタイトルを見て、「ああ、金融緩和のことね。米国は量的緩和を大胆にやって経済成長を軌道に乗せたが、欧州はドイツの反対でできなくて、“日本化”が問題になっている。このことでしょ。」と思われたと思う。だいたい合っているが、重要な点が違う。この記事は“金融緩和”ではなく、“不良債権処理”の差を両経済圏の違いの原因と捉えている。米国は早々に不良債権処理を行い、経済成長路線への回帰を成功したが、欧州は未だに行っておらず、失敗したという。この着眼点がこの記事の面白いところだ。

 

この記事も「金融危機が起こる」とまでは書いてないが、現状を“偽りの夜明け”と表現し、暗に、危機がまだ完全に去ったわけではないことを示唆している。欧州はまだ不良債権処理にけじめをつけていない。

 

実は、僕もそれが気になっていた。というのは、2カ月前に次の記事を読んでいたからだ。

 

欧州の問題は過剰債務ではなく資本不足WSJ 有料記事 8/5

 

このタイトルの“過剰債務”というのは、イタリアやスペインのような南欧諸国の債務が GDP に対して過剰なことを指す。“資本不足”というのは「銀行や企業が不良債権処理を行うだけの余裕が、資本にない」状況を指す。不良債権の現状を改善する・変化させる(=不良債権の最終処理)にはもっと資金が必要だが、それがない。要するに、「まだ欧州は不良債権処理が終わっていない。それこそが、欧州が解決すべき問題」と主張している。日経の大磯小磯と同じく、欧州の不良債権処理はまだ終わっていないという見立てだ。

 

WSJ の記事は長文で、欧州の状況が詳しく書いてある。それを読むと、どうも、欧州の現状は、日本の2000年台初めのごろに似ている。小泉政権が発足し(2001/4)、竹中金融担当大臣が不良債権のバランス・シートからの切り離し(=不良債権の流動化)を金融機関に要求した頃(金融再生プログラム/竹中プラン 2002/10)だ。

 

(類似点)

・すでに問題の大きい金融機関は破たんした。

 

日本では、1997年ごろから北海道拓殖銀行、日本長期信用銀行、日本債券信用銀行、山一證券、日本リースなど、大手金融機関が次々と破綻した。住専各社もだ。

 

欧州でもアイルランドの銀行が国有化されたり、ギリシャやキプロスの銀行の破たん処理が行われ、最近ではポルトガルのエスピリト・サント銀行が破綻した。

 

・一応、会計上の手当ては済んだ。

 

この当時の日本では、金融機関に対する飴と鞭の政策で会計上の手当てが進められていた。“鞭”は、資産査定の実施と不良債権に対する会計基準の厳格化だ。“飴”は、税効果会計の導入による金融機関の会計上の負担軽減と公的資金の投入。

 

欧州でも同様だ。“鞭”は不良債権の認識(「IFRSは、貸倒損失の認識が遅い(“発生損失”というIAS39号の考え方への批判)」とされながらも、さすがに今では多額の不良債権が認識されている)。“飴”は、ECB(欧州中央銀行)による LTROLong Term Refinance Operation)、即ち、ECB が金融機関に低利で長期資金(3年)を担保付で融資する制度だ(2011/122012/2)。この融資で欧州の金融機関は多額の国債売買益・評価益を計上できたはず。建前は、民間企業に対する貸出を増やす効果を狙ったものとされたが、実際には使途制限はなく、かつ、民間企業の資金需要は低迷していたため、この資金は各国の国債へ投資された(例えば、三井住友銀行 調査月報2012/5月号の≪要旨≫)。それが投機資金を呼び込んで、欧州各国の国債は大きく値上がりし(金利は大きく低下)、現在に至っている(上記三井住友銀行の資料では、値下がりリスクが危惧されているが、そういう状況には現在まで至っていない)。その国別の効果は、金融危機の影響の大きさに比例したから、ちょうど良い“飴”になった。

 

・しかし、まだ金融機関などのB/Sに不良債権が計上されたまま残っている。

 

当時の日本では、「不良債権が金融機関のB/Sに計上されたままでは融資が増えず、日本経済の足かせになる」とされ、整理回収機構(1999/4 に住宅金融債権管理機構と整理回収銀行が合併して誕生)や産業再生機構(2003/42007/6)が、その後さかんに不良債権の最終処理に利用されるようになる。金融庁検査や監査の厳格化とともに生じた金融機関の貸し渋りが社会問題となったが、現在では金融機関のB/Sがクリーンになり、金融庁検査も方向性を変えている。なお、この期間の 2003 年にも、りそな銀行が国有化されたり、足利銀行が破綻処理されたりしている。

 

一方、欧州では現在 ECB の監督下で上位 131 行の金融機関の資産査定が行われている(恐らく、今月か来月に結果が出る)。これは日本と同様に個別債権ごとの精密な評価を行うが、目的は、B/S上の評価を厳格化することより、今後の不良債権の売却や回収などの最終処理(=不良債権の切り離し、流動化)を促進することにあると思われる。最終処理には個別債権(≒債務者)ごとの市場価値ベースの分析・評価が欠かせない。注意すべきは、この過程で、日本のりそな銀行や足利銀行のように新たな破たん金融機関が生じる可能性があることだ。

 

 

さて、ここで、なぜ僕が「次の金融危機は欧州か?」と危惧している理由を書くことにしよう。

 

日本の不良債権最終処理で活躍した整理回収機構や産業再生機構は、預金保険機構がこれらの親会社となることで(=預金者の立場を蔑にしないことで)、預金者に過度な負担を強いず金融システムを不安定化(=取付け騒ぎなどを発生)させない狙いがあった。しかし、ユーロ圏では各国別の預金保険機関はあっても、ECB のような共通機関・一元化されたシステムがないため、どのような主体が不良債権を買取ったり、回収したり、更には企業再生を担当するかが問題となる。この点について WSJ の記事は、プライベート・エクイティの活用を提案している。米国らしい「民間の力で」という主張だ。

 

しかし、営業拠点が欧州全域にまたがるような大手行の破綻処理を金融システムの不安定化なしに行うには、キプロスで見られたような場当たり的な処理ではなく、域内統一的な破たん処理システム・スキームが必要だ。そして、その前提に域内で一元化された預金保護制度が必要になると思う。金融機関の破たん処理には預金者や納税者に不公平感を与えないことが重要だ。しかし、預金保護制度の一元化に関する議論はあまり進んでいないらしい(例えば、国際貿易投資研究所HP 田中友義氏 5/15)。もし、欧州で金融危機が再燃するとすれば、資産査定の結果が火種になり、預金保護制度の一元化の遅れが油になる可能性が考えられる。

 

ん~、ところが、ここまで考えてきて、逆に危惧が薄れてきた。というのは・・・

 

資産査定は ECB の監督の下で行われており、ECB が欧州の金融システムを揺るがすような決定を行うとは考えにくい。なぜなら、ECB は、動きの鈍い欧州委員会や欧州議会より機動的で、マーケットからも信頼されている。もし、資産査定の結果が衝撃的なものであれば、ECB は、取付け騒ぎが起こらないような対応策も併せて公表するだろう。

 

そういえば、“飴”の LTRO は、また先月から始まった(今度は Targeted が頭について TLTRO と呼ばれている)。まるで資産査定にタイミングを合わせたかのようだ。ただ、それにはあまり需要がないというから、資産査定はあまり衝撃的な結果は見込まれてないのかもしれない。

 

そう考えると、やはり欧州がもう一度金融危機に陥る可能性はほとんどないかもしれない。いやしかし・・・

 

それでもあるとすれば、ECB 監督下の資産査定が、市場や預金者の信用を失った場合か。例えば上記のポルトガルのエスピリト・サント銀行は、資産査定では破たんの原因となった不正は見つけられなかった。このようなケースが他にいくつも出てくると危ない。

 

これはさすがに、考えすぎだ。でも・・・

 

さらにこれが EU への不信感の増大となり、イスラム国の脅威と結びつくと・・・

 

悲観的過ぎる。かなりおかしい。僕の精神は病んでしまったのか。

 

恐らく、清水エスパルスのJ2陥落への危機感が、僕の精神状態を不安定にしているのだろう。今日は、残留争いの重要な一戦、セレッソ大阪戦がある。勝ち点3で、一息つかせてほしい。加えて、みなさんのエスパルスへの暖かい応援も期待したい。また、念のために過ぎないが、欧州の資産査定の結果とその後の成り行きには、注目した方が良いと思う。

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