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2014年10月 9日 (木曜日)

406.【QC02-05】会計基準における不正防止の表現

2014/10/9

ノーベル・物理学賞の受賞おめでとうございます。これは大ニュースだが、実は、僕がもっと驚いたのは、日本の若者が戦闘員になるためにイスラム国へ渡航を企て、阻止(正確には事情聴取)されたことだった。驚いた理由は2つある。

 

 社会に対する閉塞感や絶望感から、残虐な組織へ加わろうとする若者が日本にもいたこと。

 日本に、このような行為を罰する法律が存在したこと。

 

①については、大人の我々が大いに反省しなければならない。社会に対する不満や不安は、若者ならだれでも持つ可能性がある。だが、それが前向きに解消されるなら、社会の進歩へつながる。したがって、若者が不満や不安を持つことは社会にとってポジティブだ。恐らく問題は、不満や不安を持った若者が、孤独なことではないか。周りの大人が良い方向を示せなかったか、その若者の周りに頼りになる大人がいなかったか。ここまで考えると、確かにありがちな状況で、そんなに驚くべきではなかったかもしれない。

 

②については、NHK のニュース・サイト(10/6によれば、その道の専門家でも驚いている。しかし、日本でも過去に日本赤軍のような組織が存在していたので、考えてみれば、あっても不思議はない。

 

ちゃんと考えてみると日本でも当然起こりうる。それをノーベル賞のニュースより驚いてしまったことを、僕は反省しなければならない。いわゆる“平和ボケ”、即ち、「日本にだけは起こらない」という根拠のない自信を、僕も持っていたということだ。

 

でも、ノーベル賞受賞のニュースには驚いてよいのか。それこそ当然ではないか!(これも根拠のない自信?)

 

いずれにしても、人間だれでも“思い込み”がある。60年以上前に制定された企業会計原則に、内部統制の要素などあるはずがないと思っている方がいたら、それも“思い込み”に過ぎない。そもそも会計原則は、みんながバラバラな会計処理をして、財務情報を見る人に混乱や誤解を与えてはいけない、特にそれを意図的にやるのはもってのほかだ、というところから始まっているので、考えてみれば、会計原則において不正防止は一丁目一番地だ。企業会計原則の一般原則に、その要素が散りばめられているのは、むしろ当然だ。

 

では、IFRSはどうか。同じだろう。でもどういうふうに?

 

ということで、この面から、真実性の原則以外の一般原則(日本基準)と基本的な質的特性(IFRS)を比べてみよう。まず、前回(40510/7の記事で)分類・整理した表から、今回に関係する部分を抜き出して再掲する。

                           
 

他の一般原則

 
 

(内部統制面)統制環境

 
 

正規の簿記の原則

 
 

不正防止“正確な(会計帳簿)

 

    “判断を誤らせない”

 
 

資本・利益区別の原則

 
 

 ---記載なし---

 
 

明瞭性の原則

 
 

不正防止“判断を誤らせない”

 
 

継続性の原則

 
 

不正防止“判断を誤らせない”

 
 

保守主義の原則

 
 

不正防止“歪めない”

 
 

単一性の原則

 
 

不正防止“歪めない”

 

要するに、色々な一般原則において、“正確な”とか、“判断を誤らせない”とか、“歪めない”などといった言葉を使って、不正防止の趣旨をにじみ出している。“不正防止”とは書いてないが、読んでみると「不正はダメ」というメッセージが伝わってくるようになっている。

 

では、IFRSはどうか。基本的には同じように“不正防止”とは書いてないが、それがにじみ出るようになっていることが予想できる。多分、基本的な質的特性である“目的適合性”と“忠実な表現”がどのようなものであるかを説明することで、暗に、そこに不正があってはならないことを表現するといった形で。

 

ところが実際に読んでも、そういうメッセージはほとんど伝わってこない。例えば、“正確”、“判断”、“歪”といった単語で概念フレームワークを検索してみても、ヒットした箇所に記載されているのは、期待外れの内容ばかりだ(その具体的な内容は、いずれ紹介する機会があると思うが、ここでは省略する)。それはなぜか。次の2つの考え方がありえると思う。

 

A. 書き方の違いで、このメッセージが伝わりにくくなっている。

 

IFRSの概念フレームワークでも、企業会計原則同様“不正防止”は重要なテーマなのだが、表現方法の違いによって、それが伝わりにくくなっている。

 

具体的には、企業会計原則(の一般原則)は、会計をする人を対象に置いて、「こうしなければならない」とか、「こうしてはいけない」という書き方をしている。この書き方は、“人”に語りかけて、“人”の行為を規定しているので、「不正をしてはいけない」というメッセージが伝わりやすい。

 

一方、概念フレームワークの質的特性は、財務情報を対象に、「こういう性質を持っている」という書き方をしている。“人”に語りかけてないし、“人”の行為を直接規定するのでもない。よって、「不正をしてはいけない」という人の行為を規定するメッセージが伝わりにくい。

 

B. COSO などの内部統制に関する基準、監査基準が別にあるので、IFRSは“不正防止”を扱う必要がない。

 

こういう考え方もあるかもしれないが、僕は否定的だ。それは「IFRSの原則主義は、不正防止に役立つ」などと、不正防止がIFRSのメリットとして主張されるからだ。不正防止が軽視されるはずがないと思う。

 

ただ、会計上の見積りなど判断を要する会計規準の増加もあって、会計規準だけで不正防止ができるとも考えてないと思う。したがって、COSO などに対する依存はあるだろう。これは当然のことであり、企業会計原則も監査基準に依存している。

 

ということで、表現方法の違いで伝わりにくいが、IFRSにも不正防止の意図は隠れているがちゃんとある。むしろ、情報が持つべき性質(=質的特性)を詳細に記述することで、なんとかその効果を上げようとしていると感じる。

 

 

以上の結果、企業会計原則の一般原則には、不正防止のメッセージが、行為を規制する書き方で散りばめられており、概念フレームワークでは、財務情報の性質(=質的特性)を詳述することで、その効果を出そうとしていることが分かった。方法は違うが、両者は同じところを目指している。

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