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2014年10月14日 (火曜日)

407.【QC02-06】リスク管理-重要性の原則

2014/10/14

先週に続き、今週も週の初めに台風19号が来日。しかし、アギーレJAPAN は一足先にブラジル戦に備えてシンガポールへ移動済み。今日はどんな試合をしてくれるか、楽しみだ。

 

さて、企業会計原則の一般原則とIFRSの概念フレームワークを比較するシリーズは、前回(40610/9)、不正防止に関する表現について比較し、どちらも一丁目一番地の扱いだが、表現方法の違いから、企業会計原則の方が強くメッセージが伝わってくると記載した。表現方法の違いとは、企業会計原則が作成者の行為を規定するのに対し、概念フレームワークは財務情報が有する特性を規定する形式になっていること。行為規定の方が読み手により直接的に響いてくる。

 

しかし、どちらも「不正をするな」と直接書いてあるわけではない。前者は「こうすべきだ」とか「こうしないように」と書くことで、財務諸表を作成する際の心構えというか目指す方向を示し、間接的に、不正へ向かわないようにしている。後者も、開示する財務情報の性質を記述することで、そうでない性質の情報が開示されないようにしている。

 

 

ということで、前回は統制環境の話だったが、今回は内部統制の2番目の基本的構成要素である“リスク管理と対応”に関する話だ。まずは、40510/7 の記事で整理した表から、今日のテーマに該当する内容を若干詳しく記載し、僕の注目点を加えよう。

           
 

 

 
 

リスク管理

 
 

僕の注目点

 
 

正規の簿記の原則

 
 

(注解1)重要性の原則
    重要性の乏しいものについては、本来の厳密な会計処理によらないで他の簡便な方法によることも認められる。財務諸表の表示に関しても適用される。

 
 

会計目的(=財務内容を明らかにし、企業の状況に関する“利害関係者の判断”を誤らせないこと)の範囲で重要性の判断が認められる。重要性は外部利害関係者目線か?

 

・「リスク管理に重要性の原則が入るのか?」と疑問をお持ちの方もいらっしゃると思うが、そういう方でも「リスク管理の対象となるものには重要性がある」、或いは、「重要性のないものをリスク管理から外す(或いは、リスクを受容する)」ことにはご賛同いただけると思う。重要性の判断は、まず、このようなリスク管理の入り口で行われる(その後もリスク評価の都度行われる)ので、リスク管理に重要性を含めている。同じようなことを、現 coso 会長のロバート・ハース氏も、講演で述べていた(3898/29 を書いたときの講演)。

・僕は、このような重要性と、会計上の重要性は同じものと考えている(2012/9/7の記事など)。財務諸表規則などで「~の1%」などと数値基準が示されることがあるが、これらは上記とはレベルの違う、開示専用の重要性の基準だ。詳細は下記を参照。

 

以上の注目点について、企業会計原則をさらに深掘りしたうえで、IFRSの概念フレームワークの規定を見てみたい。

 

(注目点-重要性は外部者目線?)

 

注解1では、明らかに外部利害関係者目線から重要性を考えている。しかし、一般原則の第7番の単一性の基準を見ると、経営者の判断(=経営者のための重要性)がその前提にあることが分かる。ちょっと見てみよう。

 

(単一性の原則)

株主総会提出のため、信用目的のため、租税目的のため等種々の目的のために異なる形式の財務諸表を作成する必要がある場合、それらの内容は、信頼しうる会計記録に基づいて作成されたものであって、政策の考慮のために事実の真実な表示をゆがめてはならない。

 

これに関する“会計学を学ぼう!”の解説には、次のように記載されている。

 

すべての財務諸表の情報ソースを一元化すること

 

即ち、単一性の原則は、財務諸表の様式は様々でも、そのデータ・ソース(=総勘定元帳などの会計帳簿)は同一でなければならないとしている。財務諸表ごとに、一部を欠落させたり逆に加えたりしてはならない。会計帳簿に記帳するかどうか、資産にするか費用にするか、といった判断は、どのような目的の財務諸表でも共通、或いは、整合していなければならないということだ。

 

実は昔、「原価計算には財務会計用と経営管理用の2種類がある」とされていたことがあった。しかも、経営管理用の原価計算は、財務データとの関連性・整合性が問われなかった。企業独自の考え方、管理手法が尊重されたからだ。しかし、今は違う。両者はなるべく共通化が図られ、異なる場合も整合性が確認される。これは、会計データと乖離した管理情報の信頼性が疑われたこと、及び、2種類の情報作成にかかる手間が嫌われたためだが、きっかけは、Windows パソコンが企業に導入された 1995年以降の企業の基幹システムの変更だったように思う。

 

上表の脚注で「重要性の判断は、まず、このようなリスク管理の入り口で行われる」と書いたが、会計上も、会計帳簿に記帳する入り口の段階で、最初の重要性の判断が行われる。この判断は、財務諸表規則等に記載された重要性の数値基準とは異なる。財務諸表規則等の数値基準は、財務諸表作成時、即ち、会計帳簿の出口で利用される。入り口時点と、同じものでないことがご理解いただけると思う。ただ、出口の基準をそのまま入り口にも適用することがあるが、それは企業の(=経営者の)意思・判断であり、外部者視線というわけではない。

 

結局、会計帳簿の出口では、外部者目線による重要性の判断が求められるものの、入口では経営の都合で判断される。出ていくときのことを考えれば、入口では出口と同じか、それ良い細かいレベルの判断が行われる。

 

では、IFRSの概念フレームワークでは、どのように規定されているだろうか。

 

・・・財務情報に基づいて利用者が行う意思決定に影響する可能性がある場合には、重要性がある。

言い換えれば、重要性は目的適合性の企業固有の一側面であり、・・・(QC11

 

これは、企業会計原則の注解1の重要性の原則の記述「利害関係者の判断を誤らせない」と実質的に同じ記述になっている。そして重要性は、2つある基本的な質的特性のうち、目的適合性に属するものとされている。これも、注解1の会計の目的に関連させる書き方と同じ意図を感じる。

 

では、IFRSにも単一性の原則のようなものがあって、入り口の重要性が経営者の判断であると書いてあるのだろうか。

 

これはない。でも次のように書いている。

 

・・・当審議会は、重要性についての統一的な量的閾値を明示することや、特定の状況において何が重要性があるものとなり得るかを前もって決定することはできない。QC11

 

IASBは重要性を決められないとしている。すると、決められるのは経営者しかない(入口も、出口も)

 

ということで、入口の重要性は経営者目線の判断だが、出口の重要性は、外部利害関係者目線による判断が必要だ。但し、具体的な数値基準は設けられない。

 

以上の結果、企業会計原則でも概念フレームワークでも、重要性の原則に差はないように思う。(日本基準で重要性の原則について数値基準が設けられているのは、個別基準や財務諸表規則等であり、企業会計原則ではない。)

 

蛇足だが、概念フレームワークの見直しプロジェクトで昨年公表されたディスカッション・ペーパーでは、不確実性を資産等の定義や認識規準から外すことが提案されていた。不確実性と重要性は密接な関係があり、もしこの提案が確定すると、IFRSの重要性の原則は影響を受けて変化することになる。これは今後の注目だ。

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