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2014年10月16日 (木曜日)

408.【QC02-07】リスク管理-リスクへの備え(日本の保守主義)

2014/10/16

アギーレJAPAN のブラジル戦、残念でした。ボール支配率も圧倒されたが、日本のテレビ中継なのに、サッカー解説者の話題支配率もネイマール選手に圧倒された。しかし、見所が全くなかったわけではない。元清水エスパルスの太田宏介選手(現 FC東京)のクロスは冴えていた。これでは、インテル長友佑都選手さえもうかうかしていられないだろう。アギーレ監督のJリーグ重視は正解かもしれない。他にも柴崎岳選手(鹿島アントラーズ)、塩谷司選手(サンフレッチェ広島)などに期待感を持つことができた。

 

 

さて、今回のテーマは「リスクへの備え」。会計的には保守主義とか慎重性などと呼ばれ、一般的には「日本基準にはあるが、IFRSにはない」ため、IFRSの問題点の一つとされている。欧州でもこの点が批判の対象になっている。しかし、日本の保守主義は正しく理解されているだろうか。IFRSには本当に保守主義はないのだろうか。

 

まずは40510/7 の記事で企業会計原則の一般原則を整理した表から、今日のテーマに該当する内容を若干詳しく記載し、ついでに僕の注目点を加えよう。

           
 

 

 
 

リスク管理

 
 

僕の注目点

 
 

保守主義の原則

 
 

(本文)企業の財政に不利な影響を及ぼす可能性がある場合には、これに備えて適当に健全な会計処理をしなければならない。
    (注解4)過度に保守的な会計処理を行うことにより、企業の財政状態及び経営成績の真実な報告をゆがめてはならない。

 
 

本文で楽観を、注解で悲観を戒めている。総合するとどうなる?

 

実は、「日本の会計基準には保守主義があるが、IFRSにはない」と言われることについて、すでに以前何度か記載した(例えば 2012/9/4 「脱線4~保守主義の本質はリスク管理?」など)。また同じことを繰返すのでは申し訳ないので、最初に、僕の意見をなるべく簡潔に記載させていただく。

 

保守主義はリスク管理(=内部統制)の問題。会計への関わりとしては「判断に際して、楽観ではなく慎重な態度で臨むこと」であり、将来事象への会計上の判断・見積りの精度を高める要求だと思う。良く聞かれるような「費用を早め多めに」という単純な、そして、些末な意味ではない。

 

「不測の事態に備える」という場合の“不測の事態”とはテール・リスクのことだから、「費用を早め多めに」程度の備えでは、全く不十分。もし、保守主義がそんなものであれば、企業経営にとって重要な意味がないから、企業会計原則の一般原則になるはずがない。精々、重要性の一部として扱えば足りる。

 

企業会計原則がこのような重い扱いをしているのは、保守主義が(テール・リスクだけでなく)“不確実性への対処(=リスク管理)”という経営の主要活動・機能と直接関連しているからであり、保守主義とは、「その主要機能を働かせるのと同等の慎重な態度で会計上の判断をして、その精度を高めてほしい」という要求だと思う。

 

ここまで読んで、ふんっ、と鼻で笑われた方もいらっしゃると思う。例えば、次のような理由で。

 

・うちの経営陣は楽観的・直感的で、そんな面倒な、慎重な判断をしてないよ。

・うちの経営陣は創業社長の言いなりで、そんな慎重な判断をしてないよ。

・うちの経営陣は稟議書にめくら判を押すだけ。

 

会計上の判断は、これと同じ態度でいいの?

 

そういえば、お隣の国の上場企業の取締役会が、凄い意思決定をしたと話題になっていた。

 

現代自動車の取締役会、1兆円の土地購入を価格知らずに承認」(10/13 WSJ無料記事)

 

ん~、確かに問題だ。しかし、みんながみんな、そういうことでもない。

 

むしろ、直接経営者に話を聞くと全く違う印象を受けることが多い。実に考えが深いというか、顧客を良く知っているというか、マーケットや競合先の出方などを多角的に見ているとか。そういう経営者からすれば、次のように思っているだろう。

 

・経営判断は不確実性との戦いであり、たいした根拠もなく直感に頼ることもやむをえない。

・すべて分かっているなら経営者などいらない。分からないなかで判断を下すのが経営者だ。

・経営者も間違える。だが、ここ一番では間違わない。少なくとも考えうるあらゆる努力をする。

 

少なくとも不確実性への危機感はありそうだが、これならいい?

 

ちなみに、経営陣のリスク感覚と責任感の評価は、監査人にとって極めて重要な監査手続だ。監査の依頼が来た段階で手続きが始まり、監査契約締結前に一定の評価を行い、所属監査法人における審査を受ける。合格しなければ、監査を引受けられない。即ち、監査契約を受嘱できない。(その会社の事業内容・市場環境などその他の評価項目もある。)

 

リスク感覚や責任感といった内面の問題は、簡単に評価できるものではないから、監査契約締結後もあらゆる場面で更新されていき、場合によっては監査を途中で止めて、契約解除させていただくこともある。翌年の監査契約を更新する際には、改めて所属監査法人の審査を受ける。(僕は監査契約の途中解除はないが、受嘱をしなかったことや、更新しなかった経験はある。内部統制の整備状況など、この評価以外の理由も総合しての判断だった。)

 

同じようなことは監査契約に限らず他の契約、例えば、長期的な、或いは、金額の多めの契約であれば、一般に行われている。契約相手が信用できるかどうかを確かめることは当たり前だ。ただ監査契約では、“企業統治に重要な役割を果たす人々”のリスク感覚と責任感の評価に対する比重が大きい。

 

日本の経営者クラスの人は、そこまで上り詰めるために、数十年キャリアを積上げていることが多い。多くの場合、リスク感覚や責任感が備わっている。しかし、そうでない人がいた場合は、その人の発言力や影響力の大きさが問題になる。いざという時、その人を説得できる慎重派の人が他にいるかについて心証を得ておく必要がある。役職など公式の制度だけでなく、人間関係や相性はもとより、姻戚関係にまで関心を持つことがある。

 

“リスク感覚と責任感”について、もう少し掘り下げると、僕の観点は「事実が見込みと違った時(=悪い報告を受けた時)にどう対処するか」にあったように思う。普通なら、事実を事実として受入れる。そうしないと適切な対応策は見いだせない。しかし、もし然したる根拠もなく「この報告は事実ではない」とか、「報告を変えてしまおう」などとする姿勢が垣間見えると警戒レベルが一挙に上がる。「この人は、使命より、体面を優先する」とか、「本当の問題を分かってない」と思うからだ。こういう人はリスクの認識や評価も、対応策の選択も間違えるし、責任感の置き場所もおかしい。

 

会計における保守主義も、同じような感覚だと思う。事実を事実として受入れる。上も下もない。楽観も悲観もない。事実に冷静に向き合う。事実を大事にする。だからこそ、面倒がらずに実態の把握に力を尽くし、手間をかける。

 

このように書くと、「なんだ、保守主義なんて当たり前で簡単なこと。大袈裟に一般原則にする必要はない」と思われるかもしれない。しかし人間、特に僕のような凡人は、意外に認めたくない事実も多い。だから、この難しさが分かる。一つ例を挙げよう。テレビ・ニュースで流れたので、ご存じの方も多いかもしれない。

 

乗客が冗談で「エボラ患者」機内は騒然10/11 NHK

 

ブラック・ジョークのつもりが大騒動になってしまったという話で、このHPでは、「(エボラ出血熱に対する)警戒を強めていることがうかがえます。」と結んでいる。米国航空会社のリスク管理の厳格さ(保守主義?)で記事をまとめているが、僕は、彼(=このジョークを言った人)の態度に焦点を当てたい。保守主義は態度や心構えだからだ。

 

日本でも、くしゃみをした後に「あ~、びっくりしたあ」とか、「誰か噂してるな」など、照れ隠しに一言付け加える人がいる。アメリカ人も同じ感覚を持っているようで、彼は「俺はエボラだ」と言ったらしい。恐らく笑顔か、おどけた表情で。だがこの結果、彼は目的地に到着するやいなや、大袈裟な防護服に身を包んだ当局職員たちに、直接座席から連れ出されることになった。

 

彼は、防護服の職員たちに「ジョークだ」と言って抵抗したらしいが、さて、みなさんならどうする?

 

 彼と同じように、「ジョークだ」と事実を知らせて抵抗する。

 ジョークである旨丁寧に伝えて、周囲の旅行客などに謝罪する。

 

僕はこのジョークが好きだ。自宅などで家族や気心の知れた人に言うなら傑作だと思う。それに、彼には悪気はなさそうだ。退屈な機内でみんなを一時楽しませることができたと、むしろ、得意気な気持ちでいたかもしれない。

 

しかし、悪い知らせがきた。本当に防護服を着込んだ対策チームが機内に乗り込んできたのだ。彼の失敗は、周りが見知らぬ他人ばかりで、しかも密閉された飛行機の機内でこのジョークを言ったことだ。直前に米国のエボラ患者が亡くなっていたこともあり、周りの旅行客のなかに恐怖に震えたか、ジョークにしても質が悪すぎると怒り心頭の人がいたに違いない。恐らく乗務員もだろう。しかし、彼はそこまで気が回っていなかったと思う。だから、防護服の職員に腕を掴まれ引き立たされた時に、さぞや気が動転しただろうし、たかがジョークなのにこの扱いは承服しがたかったと思う。

 

まさに、自分の予測と全く異なる事態に陥った。そのときどんな判断ができるか。果たして、あのジョークで気分を害した人がいた事実に思いを巡らせることができるか。気が動転し、かなり難しいだろう。恐らく僕にはできない。

 

ただ多くの場合、経営者にはもっと時間的な余裕があるし、周りからのアドバイスもある。本人にその気があれば、それに耳を傾け、真摯に事実に向き合うことが可能だ。それでこそ、適切な対応策立案への第一歩が踏める。不都合であれ、不条理であれ、事実なら受け入れなければならない。

 

その同じ態度で会計にも向き合えるか。その態度で会計上の見積りや会計方針の選択などの判断を行えるか。これこそ企業会計原則の一般原則として規定された保守主義の本質だと、僕は思う。

 

 

ところで、上記自動車会社の監査人は、今頃頭を抱えながら経営者評価の監査調書を更新し、所属事務所の審査の準備をしていることだろう。健闘を祈りたい。

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