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2014年10月30日 (木曜日)

412.【番外編】小売世界第2位の英テスコで粉飾?

2014/10/30

会計不正など不祥事が発生すると、臨時報告書や適時開示などの開示が必要かどうか、必要なら、いつ、どういう内容を開示するか、そして原因究明と再発防止をどうするかで、企業は頭を痛める。僕も監査人として関わった企業で、何度か相談を受けた経験がある。といっても、テスコのような深刻なケースはないが、内容と状況によっては経営者を説得したり、僕の判断を監査法人内でチェックする手続が必要になるなど緊張を強いられるイベントが続く。しかも極めて短期間のうちに。したがって、強烈な印象が残っている。

 

日経電子版では、Financial Times の一部記事の翻訳を読むことができる。これらはみな有料記事と思っていたが、それは間違いで、誰でも読める記事だったので紹介したい。どうやら英スーパー最王手のテスコは、少なくとも前期から、売上と、仕入先に対する未収リベートを過大計上(=仕入原価の過小計上)していたらしい。

 

[FT]テスコ会計疑惑で英企業統治に課題(社説)10/27

 

 

さて、テスコは事件の発覚からどのように対応しただろうか。WSJでは、以前から記事が掲載されていたので、他紙の情報も補足しながら、時系列に並べてみたい。

 

8/29 英テスコ、業績予想を下方修正

 

記事の概要】

2015/2期(通期)の予想利益を、27億〜28億英ポンドから24億〜25億ポンド(当時のレートで約4130億〜4300億円)へ修正している。業績予想の下方修正は、この3年間で3度目。

 

修正幅は3億ポンドで1割強の下方修正だから、一見、なんてことない記事に思える。しかし、気になる記載もある。CEO(最高経営責任者)の交代を、1カ月早めて、9/1 に行うというのだ。CEOの就任時期が前倒しされるというのは異例だ。交代でさえ、数年に1度なのだから。

 

CEO が交代する理由は、日経 7/21 の無料記事によれば英国での業績不振らしい。テスコは8/23に第2四半期末を迎えたが、第1四半期に輪をかけて悪かったようだ。第1四半期(5/23)は、売上が前年同期比で 3.8% 減少していた。これは、当時の CEO 2011年に就任して以降最悪(ロイター 6/4)だっただけでなく、40年間の歴史でも最悪だったという(ロイター 10/23)。

 

なお、別のロイターの記事(9/22によれば、同時に上期の利益予想も公表していたらしい。

 

この段階では、不正会計のことは一切記載されていない。

 

9/23 テスコ、業績予想を下方修正―会計上の問題で

 

【記事の概要】

22日、新 CEO は深刻な会計上の問題を発見し、通期の業績予想が 2億5000万英ポンド(当時のレートで約445億円)かさ上げされていたと公表。同時に、調査終了までに幹部を 4 名停職処分にしたとも公表している。調査は外部の法律事務所及び監査法人に依頼。

 

ここで不正が公表された。この記事については、次の点に興味を持った。

 

「不正にかさ上げされていた」のは“業績予想”であり、決算数値ではない。英国の開示制度や慣習では、業績予想に関する不正も、決算の不正と同様に法的・道義的責任を追及されるのかもしれない。

 

上述したロイターの記事(9/22)によれば、同時に上期の予想利益も修正された。

 

9/23 テスコ、新CFOが繰り上げ入社―会計操作問題に対処

 

【記事の概要】

CFO(=最高財務責任者)は、就任時期を12/1 から急遽繰り上げ、不正問題への対応に当たることとなった。CFO 職は、前任者が 4月に退社して以来空席で(CEOが直接統括)、7/10 に指名が行われていた。新CFOは、マークス・アンド・スペンサーのCFOで、指名日以降は同社を休職していた。

 

これは、上記の業績予想下方修正の翌日 23日に公表されたもの。この記事では、不正が従業員の告発によって発覚したことも伝えている。

 

ところで、2月決算会社の CFO 4月に会社を辞めるとは、どういうことだろう? 日本なら株主総会まで務めると思うが。

 

調べてみると、英国の会社法(2006年)では、決算期末日から6カ月以内に年次株主総会を開催し、完全な決算書を提出する(JETRO Report5 P51)。4月は決算発表の時期と思われるので、それを終えたタイミングで辞めたということかもしれない。6ヶ月も待つのは確かに長過ぎる。

 

それにしても、4月から11月まで CFO が空席の予定だったとは。CEOが会計の専門知識に自信があったのだろうか。また日本なら、CFO には、イケイケの現業部門責任者に慎重さをもたらす役割があるが、英国では保守主義(=リスク管理)が現業部門責任者にも浸透していて、あまりそういう役割を期待されていないのかもしれない。この辺りには、お国柄の違いを感じる。

 

10/1 テスコの会計不正、当局が調査開始

 

【記事の概要】

英金融行動監視機構(FCA)*1が、本格調査の着手を通知していたことが明らかになった。また、英財務報告評議会(FRC)*2も24日、会計不正を受けテスコを監視対象に置いていることを確認した。

 

日本でいえば、証券取引等監視委員会や公認会計士・監査審査会が動き出したという記事。会社や担当監査人にとっては、背筋がゾクゾクするニュースだ。

 

さらに、「テスコは、922日、・・・過去3カ月で3回目となる業績予想の下方修正を明らかにした」とあるので、上記の 8/29 9/22 以外にも下方修正の発表があったようだ。会社の混乱ぶりが窺える。

 

10/6 会計操作発覚のテスコ、取締役会を強化―社外取締役2人追加

 

【記事の概要】

かねてから批判のあった「取締役会に小売経験者が少ない」ことを解消するため、テスコは11/1より2名の社外取締役を追加すると発表した。

 

まだ、外部の調査報告はでていないが、早くもガバナンス強化に動いている。日本なら、調査結果が出てから動くような気がする。

 

10/6 テスコ会長、不正会計調査完了後に辞任か=関係筋

 

【記事の概要】

事情を知る関係者から、テスコ会長(CEOとは別の人)は調査が終わり次第、辞任する意向であることが分かった。

 

9/22 の不正会計の公表からまだ 2週間。かなり早い決断だ。誰かが説得したのだろうか・・・。ただ、調査が終わるのは、来年半ばという見方が紹介されている。調査期間が長い!

 

10/15 テスコ、不正会計めぐり社員3人を新たに停職処分

 

【記事の概要】

すでに4名の幹部が停職処分となっているが、追加で3名の停職処分を公表した。

 

外部監査法人に、調査を阻害する恐れがあるとこの3名の停職を要請されたのか、それとも独自の調査で3名の関与を確認して停職にしたのか。合わせて7名の停職者は、調査に協力しているのだろうか、それとも自宅や特定の場所に待機しているのだろうか。確か、オリンパスのときは、調査に協力していたように記憶している。

 

10/23 英テスコ会長が辞意表明、3-8月期は大幅減益

 

【記事の概要】

調査の途中経過の公表と上期の決算発表、会長の辞意表明が行われた。不正会計の影響は2億6300万英ポンドへふくらみ、それは上期決算に反映されたが、通期の業績予想は、調査が進行中であるとして示されなかった。会長は新たな事業計画策定後に後継者へ交代する。不正会計に絡んだ横領や詐欺などの犯罪はなかったとしている。

 

9/22 からちょうど1ヵ月。会長は辞意表明したが、辞任する時期は未定で、新しい事業計画策定に関わる(恐らく、後継者も一緒に作りながら引継ぎをする)のだから、会長自身は不正会計に関与していないと判断されたのだろう。

 

ロイターの記事(10/23では、すでに資金繰りを確保するための資産処分の検討も行われているようだ。上期決算は黒字(営業利益は93700万ポンド、純利益は600万ポンド)なので、形式的には、日本基準でいうところの“継続企業の前提に関する重要な疑義”には当たらないが、テスコはそういう想定も踏まえて、リスク管理しているようだ。若しくは、金融機関や取引先の不正会計に対する態度が日本より厳しくて、具体的なリスクを感じているのかもしれない。

 

また、このロイターの記事では「不正な利益計上が予想を上回る長期間にわたって行われていたことを公表」としているので、上期決算や通期業績予想だけでなく、すでに確定した過去の決算についても不正があったことが、この時点で判明したことになる。日本ならば、ここで初めて“不正会計”と表現されるだろう。即ち、日本であれば、10/23 に「不正会計がありました」と公表されていた可能性がある。

 

 

以上の中で、僕が特に関心を持ったのは次の点だ。

 

・不正の発覚から一連の対応が早い(オリンパスのときに比べても)。決算以外は、調査報告を待たずに対応(処分や再発防止・経営改善)を進めている。

 

・業績予想についても“不正会計”と表現されている。確かに業績予想は重要だ。日本はこの感覚に欠けているのではないか。

 

・未収リベートは、いわゆる会計上の見積りであり、経営者の判断だ。それを“不正”と断定できた要因・状況とは、どういうものだったのだろうか。

 

 

最後の点については、改めて記事を書くかもしれない。

 

この記事を書くために「欧州流通、値下げ消耗戦 カルフールやテスコ 節約志向にらみ 海外縮小、国内に集中」(7/30 日経電子版有料記事)を読んだが、今、欧州はまるで日本の2000年前後のような小売業受難の時代を迎えている。ヤオハンやダイエーが経営破たんした頃だ。テスコのような伝統的なスーパーマーケット事業は、消費者の節約志向が進むなか、新興のディスカウント・ストアから標的にされ、脅威を受けている。

 

このような環境では過去の実績は当てにならず、売上の減少が予想を超えることも当然起こるが、その結果、未収リベートの見積りも過大となる。どこで、“不正”と“予想の誤り”の線を引いたのだろうか。何があったのだろうか。普通なら、かなり難しい判断になるはずだ。その線引きには、我々の知らない“原則”のようなものがあるのではないか。元監査人としては、興味が尽きない。

 

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*1FCAは、“Financial Conduct Authority”の略で、英国中央銀行(=イングランド銀行)の中に設けられた金融サービス業の規制を担当する組織。日本の金融庁に当たる FSA(=金融サービス機構)が金融危機の反省から解体され、健全性規制機構(The Prudential Regulatory Authority…金融機関の監督を担当)とともに、その機能が中央銀行へ移管された。詳細は、こちら(ニッセイ基礎研究所の資料)。

 

*2FRCは、日本の公認会計士・監査審査会のような役割を持つが、日本公認会計士協会のような職業会計人協会の下にある自主規制組織。詳細は、こちら(龍谷大学経営学部 加藤正浩教授の論文)。 

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