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2014年10月

2014年10月30日 (木曜日)

412.【番外編】小売世界第2位の英テスコで粉飾?

2014/10/30

会計不正など不祥事が発生すると、臨時報告書や適時開示などの開示が必要かどうか、必要なら、いつ、どういう内容を開示するか、そして原因究明と再発防止をどうするかで、企業は頭を痛める。僕も監査人として関わった企業で、何度か相談を受けた経験がある。といっても、テスコのような深刻なケースはないが、内容と状況によっては経営者を説得したり、僕の判断を監査法人内でチェックする手続が必要になるなど緊張を強いられるイベントが続く。しかも極めて短期間のうちに。したがって、強烈な印象が残っている。

 

日経電子版では、Financial Times の一部記事の翻訳を読むことができる。これらはみな有料記事と思っていたが、それは間違いで、誰でも読める記事だったので紹介したい。どうやら英スーパー最王手のテスコは、少なくとも前期から、売上と、仕入先に対する未収リベートを過大計上(=仕入原価の過小計上)していたらしい。

 

[FT]テスコ会計疑惑で英企業統治に課題(社説)10/27

 

 

さて、テスコは事件の発覚からどのように対応しただろうか。WSJでは、以前から記事が掲載されていたので、他紙の情報も補足しながら、時系列に並べてみたい。

 

8/29 英テスコ、業績予想を下方修正

 

記事の概要】

2015/2期(通期)の予想利益を、27億〜28億英ポンドから24億〜25億ポンド(当時のレートで約4130億〜4300億円)へ修正している。業績予想の下方修正は、この3年間で3度目。

 

修正幅は3億ポンドで1割強の下方修正だから、一見、なんてことない記事に思える。しかし、気になる記載もある。CEO(最高経営責任者)の交代を、1カ月早めて、9/1 に行うというのだ。CEOの就任時期が前倒しされるというのは異例だ。交代でさえ、数年に1度なのだから。

 

CEO が交代する理由は、日経 7/21 の無料記事によれば英国での業績不振らしい。テスコは8/23に第2四半期末を迎えたが、第1四半期に輪をかけて悪かったようだ。第1四半期(5/23)は、売上が前年同期比で 3.8% 減少していた。これは、当時の CEO 2011年に就任して以降最悪(ロイター 6/4)だっただけでなく、40年間の歴史でも最悪だったという(ロイター 10/23)。

 

なお、別のロイターの記事(9/22によれば、同時に上期の利益予想も公表していたらしい。

 

この段階では、不正会計のことは一切記載されていない。

 

9/23 テスコ、業績予想を下方修正―会計上の問題で

 

【記事の概要】

22日、新 CEO は深刻な会計上の問題を発見し、通期の業績予想が 2億5000万英ポンド(当時のレートで約445億円)かさ上げされていたと公表。同時に、調査終了までに幹部を 4 名停職処分にしたとも公表している。調査は外部の法律事務所及び監査法人に依頼。

 

ここで不正が公表された。この記事については、次の点に興味を持った。

 

「不正にかさ上げされていた」のは“業績予想”であり、決算数値ではない。英国の開示制度や慣習では、業績予想に関する不正も、決算の不正と同様に法的・道義的責任を追及されるのかもしれない。

 

上述したロイターの記事(9/22)によれば、同時に上期の予想利益も修正された。

 

9/23 テスコ、新CFOが繰り上げ入社―会計操作問題に対処

 

【記事の概要】

CFO(=最高財務責任者)は、就任時期を12/1 から急遽繰り上げ、不正問題への対応に当たることとなった。CFO 職は、前任者が 4月に退社して以来空席で(CEOが直接統括)、7/10 に指名が行われていた。新CFOは、マークス・アンド・スペンサーのCFOで、指名日以降は同社を休職していた。

 

これは、上記の業績予想下方修正の翌日 23日に公表されたもの。この記事では、不正が従業員の告発によって発覚したことも伝えている。

 

ところで、2月決算会社の CFO 4月に会社を辞めるとは、どういうことだろう? 日本なら株主総会まで務めると思うが。

 

調べてみると、英国の会社法(2006年)では、決算期末日から6カ月以内に年次株主総会を開催し、完全な決算書を提出する(JETRO Report5 P51)。4月は決算発表の時期と思われるので、それを終えたタイミングで辞めたということかもしれない。6ヶ月も待つのは確かに長過ぎる。

 

それにしても、4月から11月まで CFO が空席の予定だったとは。CEOが会計の専門知識に自信があったのだろうか。また日本なら、CFO には、イケイケの現業部門責任者に慎重さをもたらす役割があるが、英国では保守主義(=リスク管理)が現業部門責任者にも浸透していて、あまりそういう役割を期待されていないのかもしれない。この辺りには、お国柄の違いを感じる。

 

10/1 テスコの会計不正、当局が調査開始

 

【記事の概要】

英金融行動監視機構(FCA)*1が、本格調査の着手を通知していたことが明らかになった。また、英財務報告評議会(FRC)*2も24日、会計不正を受けテスコを監視対象に置いていることを確認した。

 

日本でいえば、証券取引等監視委員会や公認会計士・監査審査会が動き出したという記事。会社や担当監査人にとっては、背筋がゾクゾクするニュースだ。

 

さらに、「テスコは、922日、・・・過去3カ月で3回目となる業績予想の下方修正を明らかにした」とあるので、上記の 8/29 9/22 以外にも下方修正の発表があったようだ。会社の混乱ぶりが窺える。

 

10/6 会計操作発覚のテスコ、取締役会を強化―社外取締役2人追加

 

【記事の概要】

かねてから批判のあった「取締役会に小売経験者が少ない」ことを解消するため、テスコは11/1より2名の社外取締役を追加すると発表した。

 

まだ、外部の調査報告はでていないが、早くもガバナンス強化に動いている。日本なら、調査結果が出てから動くような気がする。

 

10/6 テスコ会長、不正会計調査完了後に辞任か=関係筋

 

【記事の概要】

事情を知る関係者から、テスコ会長(CEOとは別の人)は調査が終わり次第、辞任する意向であることが分かった。

 

9/22 の不正会計の公表からまだ 2週間。かなり早い決断だ。誰かが説得したのだろうか・・・。ただ、調査が終わるのは、来年半ばという見方が紹介されている。調査期間が長い!

 

10/15 テスコ、不正会計めぐり社員3人を新たに停職処分

 

【記事の概要】

すでに4名の幹部が停職処分となっているが、追加で3名の停職処分を公表した。

 

外部監査法人に、調査を阻害する恐れがあるとこの3名の停職を要請されたのか、それとも独自の調査で3名の関与を確認して停職にしたのか。合わせて7名の停職者は、調査に協力しているのだろうか、それとも自宅や特定の場所に待機しているのだろうか。確か、オリンパスのときは、調査に協力していたように記憶している。

 

10/23 英テスコ会長が辞意表明、3-8月期は大幅減益

 

【記事の概要】

調査の途中経過の公表と上期の決算発表、会長の辞意表明が行われた。不正会計の影響は2億6300万英ポンドへふくらみ、それは上期決算に反映されたが、通期の業績予想は、調査が進行中であるとして示されなかった。会長は新たな事業計画策定後に後継者へ交代する。不正会計に絡んだ横領や詐欺などの犯罪はなかったとしている。

 

9/22 からちょうど1ヵ月。会長は辞意表明したが、辞任する時期は未定で、新しい事業計画策定に関わる(恐らく、後継者も一緒に作りながら引継ぎをする)のだから、会長自身は不正会計に関与していないと判断されたのだろう。

 

ロイターの記事(10/23では、すでに資金繰りを確保するための資産処分の検討も行われているようだ。上期決算は黒字(営業利益は93700万ポンド、純利益は600万ポンド)なので、形式的には、日本基準でいうところの“継続企業の前提に関する重要な疑義”には当たらないが、テスコはそういう想定も踏まえて、リスク管理しているようだ。若しくは、金融機関や取引先の不正会計に対する態度が日本より厳しくて、具体的なリスクを感じているのかもしれない。

 

また、このロイターの記事では「不正な利益計上が予想を上回る長期間にわたって行われていたことを公表」としているので、上期決算や通期業績予想だけでなく、すでに確定した過去の決算についても不正があったことが、この時点で判明したことになる。日本ならば、ここで初めて“不正会計”と表現されるだろう。即ち、日本であれば、10/23 に「不正会計がありました」と公表されていた可能性がある。

 

 

以上の中で、僕が特に関心を持ったのは次の点だ。

 

・不正の発覚から一連の対応が早い(オリンパスのときに比べても)。決算以外は、調査報告を待たずに対応(処分や再発防止・経営改善)を進めている。

 

・業績予想についても“不正会計”と表現されている。確かに業績予想は重要だ。日本はこの感覚に欠けているのではないか。

 

・未収リベートは、いわゆる会計上の見積りであり、経営者の判断だ。それを“不正”と断定できた要因・状況とは、どういうものだったのだろうか。

 

 

最後の点については、改めて記事を書くかもしれない。

 

この記事を書くために「欧州流通、値下げ消耗戦 カルフールやテスコ 節約志向にらみ 海外縮小、国内に集中」(7/30 日経電子版有料記事)を読んだが、今、欧州はまるで日本の2000年前後のような小売業受難の時代を迎えている。ヤオハンやダイエーが経営破たんした頃だ。テスコのような伝統的なスーパーマーケット事業は、消費者の節約志向が進むなか、新興のディスカウント・ストアから標的にされ、脅威を受けている。

 

このような環境では過去の実績は当てにならず、売上の減少が予想を超えることも当然起こるが、その結果、未収リベートの見積りも過大となる。どこで、“不正”と“予想の誤り”の線を引いたのだろうか。何があったのだろうか。普通なら、かなり難しい判断になるはずだ。その線引きには、我々の知らない“原則”のようなものがあるのではないか。元監査人としては、興味が尽きない。

 

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*1FCAは、“Financial Conduct Authority”の略で、英国中央銀行(=イングランド銀行)の中に設けられた金融サービス業の規制を担当する組織。日本の金融庁に当たる FSA(=金融サービス機構)が金融危機の反省から解体され、健全性規制機構(The Prudential Regulatory Authority…金融機関の監督を担当)とともに、その機能が中央銀行へ移管された。詳細は、こちら(ニッセイ基礎研究所の資料)。

 

*2FRCは、日本の公認会計士・監査審査会のような役割を持つが、日本公認会計士協会のような職業会計人協会の下にある自主規制組織。詳細は、こちら(龍谷大学経営学部 加藤正浩教授の論文)。 

2014年10月28日 (火曜日)

411.【投資】投資の勧め~保守主義の活用

2014/10/28

この記事は番外編であって、このブログの目的から外れている。特に今回は、リスクの高い“投資”をみなさんに勧めるという異例中の異例の記事になる。もしかしたら、このブログには載せない方が良いかもしれない。しかし、“【製造業】加工貿易と円高 2012/10/15”を書いて以来、ずっと頭を離れないことがあって、もやもやしていた。それは次の問題だ。

 

今さら、英語を習得しようなどと思わない、そして、海外へ商売を広げようなどと思わない、ドメスティック、ローカルな人たちは、どうすればこれからの時代を乗り切って行けるだろう。

 

上記の“円高と加工貿易”の記事は、「みなさんのご子息にどのような教育を受けさせたいか」という問い掛けから始めたので、僕やみなさんの一部のように、もう社会人になって年数が経ち、これから英語を学び直そうなどと思わない人たちが、対象から外れている。外国でのコミュニケーションができる人は企業が海外進出する一翼を担い、企業の経営理念を広く実現し、利益を増やすことに貢献できるので、その貢献に応じた報酬を得られる。しかし、それができない我々のような人はどうすれば良いのだろうか。僕はどうすれば良いのだろうか。(輸入)インフレで、実質所得・資産が目減りするのを耐え忍ぶしかないのか。

 

今回は、これに関する僕なりの回答を書こうと思う。僕の専門外で、僕の能力を遙かに超える問題だが、“円高と加工貿易”を書いたこのブログに、この回答も書きたい。

 

 

結論は、タイトルにもある通り“投資をやろう”ということになる。投資にはリスクがある。だから慎重になる。では投資をしなければリスクもないか? この点が重要だ。なぜなら、“投資をしないこと”にリスクがあれば、「上手な投資ができないか?」という方向へ考えが向く。

 

この点を考えるために、僕が前提にするのは以下の法則、ないし、事実だ。

 

1.報酬は、(全体の傾向としては)増加した利益への貢献度合いに応じて支払われる。

2.ピケティ氏の“21世紀の資本論1”によれば、労働提供者より資本提供者の報酬の方が高い2

 

もし、上記2つがこれからの日本経済に成り立つのであれば、僕やみなさんの一部の方は、将来、経済的により辛い思いを強いられる。なぜなら・・・

 

企業が利益を増やせる場は、国内より海外である可能性が高い。しかし、僕やみなさんの一部の方は、そこには関われない。したがって、利益増加へ貢献できない可能性が高く、その結果、報酬は増えないことになる。報酬が増えないどころか、経理業務がIT化され、職がなくなることも考えなければならない。

 

しかし、実は、海外事業に貢献できる人達でさえ、安穏とはしていられない。なぜなら、過去の統計から事業利益は、労働提供者より資本提供者へ多く分配されることが分かっているから。即ち、企業内で海外事業へ貢献しても、株主や金融機関が受取る報酬には適わない。海外事業へ貢献できない我々は、さらに劣後する。

 

なかには、安倍首相が経済団体に賃上げのプレッシャーをかけているから大丈夫、と思われる方もいらっしゃるかもしれない。しかし、僕は上記2つの法則、ないし、事実により信頼を置いているので、効果があっても一時的、即ち、時間稼ぎにとどまると思っている(が、もちろん、安倍首相が何もしないより遙かに良い)。要するに、当てにしていない。

 

また日銀は、輸入インフレ(=悪いインフレ)でも、(景気が良くなって)需要超過によるインフレ(=良いインフレ)でも、どちらでもインフレ率が上がることには変わりない、どちらでもよい、と思っている節があるようだ。米国FRBのイエレン議長は、失業率を単なる数字として見ず、その背景にいる失業中の人々、或いは、希望しない待遇で働いている人々の現実まで見ようとしているが、日銀の黒田総裁はそこまで優しくない。インフレ率という“数字”が目標へ向かっていれば良いと思っているように見える。日銀は、分配の問題、格差問題は、守備範囲外と思っているようだ。恐らく、我々が望まない形であっても、インフレは起こる。日銀が起こす。「金利をあまり上げないまま、インフレを起こす」ことは、国債を償還するために避けられない道だ。だがそれは、輸入インフレを激化させ、国内に格差の拡大をもたらす可能性がある。

 

これがリスクでなくて、何がリスクだろうか? このような不利な立場にいて、インフレ率以上の所得上昇率を確保できるだろうか。宮仕えを続ける限り、僕は無理だと思う(僕は宮仕えをしていないが)。それで我々は幸福でいられるだろうか。

 

みなさんの中には、もしかしたら、企業のオーナー経営者という方もいらっしゃるかもしれない。このような方は、元々大きなリスクを負っているので、それに追加して余分なリスクを背負う必要はなく、本業に邁進するのが良いと思う。

 

また、国内事業で目覚ましく伸びている企業へお勤めの方もいらっしゃると思う。そういう恵まれた境遇の方は、心配ないと思われるかもしれない。しかし、いつまでもそれが続くとは限らない。問題は、「安定した職を得ている」かのように錯覚して、リスクをリスクと思っていない我々のような一般小市民にある。我々の将来は安定しているわけではない。社会や経済の諸条件の変化に対応しなければジリ貧になるのは、我々個人の生活も企業と同じなのだと思う。上述のようなリスクが現実となってから「備えておけばよかった」と後悔しても遅い。“備え”が必要なのだ。

 

少子高齢化社会・人口減少と潜在成長率の低下、社会保障費の増大と多額の国債発行残高、インフレが常態となる経済、ITなど科学技術の進歩。課題先進国日本とそこに暮らす我々は、大きなリスクにさらされており、政府に任せておける状況ではない。個人による主体的な生活防衛が必要だ。

 

 

では、その“備え”とは何か? 話の流れからお分かりの通り、それが“投資”だ。ピケティ氏の調査にあるように、労働より、資本の収益性の方が良いというなら、我々が資本の出し手になるしかない。しかし、いきなり「投資しましょう」と言われても、多くの方は戸惑うばかりだろう。そこで、ちょっと僕の経験話を・・・。

 

実は、僕も“投資”を始めた。監査人時代には、株式保有は実質的に禁止されていたし、退職後も2年間は、自分の関与先の株を持つことは憚られた。しかし、もう退職して4年目なので、何を持とうと自由だ。最初はリートの投信(外貨建て)から始めて、日経225 などのインデックスもの(上場・非上場)、そして現在では個別株(日本株、米国株)も持つようになった。(だが結局、いまだに元関与先の株は持っていない。なんとなく気が退ける。)

 

僕の投資は、必ずしも成功しているとは言い難いし、まだまだ初心者の域を出ないが、それでも思うのは「何もしないリスクよりはマシ」ということだ。「何もしない」ことは、実質的にリスク管理を放棄しているようなものだと思う。一方、投資のリスクは、ある程度管理できると信じている。これから述べるように、忍耐が必要で難しいことには間違いないが、決して「必ず失敗する」ようなものではないと思っている。(例えば、今年の運用は現時点で僅かにプラス。その間、日経平均は 900円ほど下げている。)

 

もし、みなさんがその気になられたなら、次のことを心に刻みつけることをお薦めする。

 

・投資に“絶対”はない。

・相場が上がり続けることはない。もし上がり続けたら、必ず(辛い)下げがくる。

・重要なのは忍耐力。特に下げ相場(最近もあったが、これが非常に辛い)。

・情報収集(例えば、新聞、証券会社のセミナーなど)で自分なりの相場観を持つが、それに拘泥しない。

・少額でも投資はできる(積立を利用するなど、将来大きくする目標があれば良い)。

・失敗しても人のせいにしない。自分の判断を改善する材料、教訓にする。

・デイ・トレードはしない。本業ができなくなる。

 

個別株は夢があって面白いが、情報収集も相場変動への忍耐も大変で手間がかかる。投信は、自分のテーマに沿って選べるし信頼できる投信に出会えると楽で有難いが、各種手数料が高い。この点、インデックスものなどの上場投信は手数料が安いが、商品種類が限られている。一長一短があるので、やりながら、自分のスタイルに合うものを選ぶのが良いと思う。

 

株や上場投信なども、予め「この価格になったら売る」とか、「この価格で買う」といった申込方法があるので、相場表示板の前に張付いている必要はない。ネット証券で自分のPCから申し込めば、手数料も驚くほど安い。投信は、一日一回時価が決まり、それでのみ取引されるので、もともと相場表示板などないから、張付いている必要はない。

 

ここからは、僕が感じている投資の勘所、大事なポイントを書きたい。キーワードは“忍耐”だ。

 

頭では、儲けるために「安く買って高く売る」と分かっている。しかし実際には、そうできない。僕は、「買ったら下がって、売ったら上がる」経験を何度もした。今もしている。下がっていると「もっと下がる」と思うから買えないし、上がっているときは、「もっと上がる」と思うから売れない。“楽観”という甘い誘惑に逆らえないのだ。買うにも、売るにも、忍耐が足りない。下がり始めるとおろおろし、上がり始めるとそわそわし、いずれも程好いタイミングを外してしまう。

 

確かに、「底で買い、天井で売る」のは理想だが、それは神様でない限り不可能だ。しかし、なるべく良いタイミングで売買したい。それには目先の動きに捉われず、大きな流れを冷静に読める“忍耐力”を養うことだと今は思っている。

 

例えば、個別株やインデックスものの投信は、相場の上下に一喜一憂せず、数か月から一年単位で買い場(調整局面)を探し、上がり続けたら少しずつ売っていくのが良いようだ(その銘柄に特別な悪材料がない限り、その銘柄の売買を繰返す)。今年の日本株は、1月から2月にかけてと、9月から10月にかけて、数週間続く、比較的大きな調整局面(=下げ相場)があった。この他、3月、4月、5月、7月の終わりから8月の上旬にも、数日から10日ほどのミニ調整局面があった。調整局面は、待っていれば必ず来る。相場が上がり続けると買いたい衝動に駆られるが、そこで買うと高値づかみになる。辛抱が必要だ。

 

逆に相場が下がり続ける調整局面では、売りたい衝動に駆られる。毎日、含み益が減ったり、含み損が増えていく様子を見るのは辛いからだ。このような場合、売った方が良い場合もあれば、我慢が必要な場合もある。

 

例えば、中国の金融危機が現実味を帯びてくるような大きな情報があった場合は、すべての銘柄について持ち続けるかどうか考えざるえないだろう。とはいえ、そういう情報が間違っている場合もある。特に最初は悲観的な報道がされがちだ。ところが、急に楽観的なニュースが流れ、気付いたら高値に戻していて、売ったものをもう買戻せないということがある。そうしたら、また半年・一年を覚悟して待つ。忍耐だ。それが嫌なら、悲観的な情報に接したとき、その情報の信頼性を疑ってみることだ。但し、その検証作業の間に、含み損は増えていく。それを耐えるのだ。楽観も、悲観もNGで、自分で「これが実態だ」という感触を得て、売るか持ち続けるかを判断する。平静を保つのは、かなり難しい。

 

“調整局面”とは、あとから見ての“調整”なのであって、下がっている最中は、どこまで下がるか分からず、永遠に下がり続けるような錯覚に襲われる。売りそびれて保有したまま調整局面を迎えた場合は(というか、必ず売りそびれるのだが)、本当に辛い。下げている理由が新聞や証券会社のセミナー(例えばオンライン・セミナー)などで語られるので、それが本物の経済危機につながるかどうかを、冷静に自分で判断する必要がある。本物なら、どれだけ損になろうとも売るしかない。杞憂に過ぎないと判断すれば、我慢して下げ止まるのを持ち続ける。忍耐だ。

 

特定のテーマを持つ投信は、そのテーマに沿ったタイミングを探す。例えば、原油価格が安い今なら、エネルギー生産関連の投信も安くなっている。エネルギー生産関連企業が利益を上げにくい環境だからだ。しかし、「冬になれば価格が上がるだろう」、「原油相場は今が底、或いは底に近い」と見れば、今が買い場だ。「いやいや、ロシアやイスラム国を困らせるために、余力の大きいサウジは原油相場の低迷を放置するだろう」とか、「今年は暖冬で、エネルギー需要は高まらない」と見れば、待った方が良い。この背景には、世界景気の減速で、将来需要が従来予想ほど増えないという IEA などの見通しの改定がある。したがって、中国や欧州の景気が予想外に上向いてくると、原油相場も、この種の投信も価格を上げることになる。

 

どちらのシナリオをメインにするか、判断は冷静にしなければならない。「こうあって欲しい」という期待や願望を紛れ込ませてはいけない。楽観は禁物。だが、悲観し過ぎてもリターンは良くならない。会計と同様、保守主義の態度を貫く必要がある。これぞ忍耐。ちなみに、同じテーマの投信でも、発行会社が違うとパフォーマンスも違ってくる。

 

以上について、みなさんは「大袈裟な。そんな難しいことじゃないでしょ」と簡単に思われるかもしれないが、僕にはなかなか難しい。難しかった。でも、“信頼のおける情報源”或いは“情報源の信頼度”をある程度特定できると、情報収集・分析コストも下がるし、自分の見通しにそれまでより自信を持てるようになる。これは大きな助けだ。

 

参考までに、僕の情報源を紹介しよう。毎週月曜のマネックス証券チーフ・ストラテジストによる“広木隆のマーケット展望(Weekly)”と、不定期の日経新聞コラム“豊島逸夫の金のつぶやき”が、双璧だ。前者は証券会社の Webのオン・ライン、或いは、オン・ディマンドで無料で視聴できる。後者は日経電子版の購読料がかかる。実は、今回の記事である“投資の勧め”も広木隆氏のレポート『21 世紀の資本論』 に大きな影響を受けている。実は、今まで何度も“投資の勧め”を書こうと思ったものの、踏み切れなかった。しかし、今回は、このレポートに背を押された。このほか、WSJ やロイター、日経電子版のその他の記事も、景気の先行き判断や個々の投資に当たって参考にしている。

 

 

長くなるが、大切な税金の話も書いておこう。僕はすべて“特定口座”で取引を行っている。これは、税務当局に証券会社から口座の動きが情報提供され、かつ、所得税などが源泉徴収される口座だ。したがって、確定申告が不要で、とても楽だ。銀行預金の受取利息の確定申告が不要なのと同じ感覚だ。

 

但し、すべての投資にこの“特定口座”が利用できるわけではない。例えば、信用取引や指数取引、オプション取引などを行いたい場合は、“特定口座”が利用できないので、確定申告が必要になる。外国株取引については、証券会社によって、“特定口座”対応をしているところもある。証券会社サービス内容の確認については、ホームページを探すのもよいが、直接サポートに電話を掛けた方が遙かに早いと思う(電話番号はホームページにある)。証券会社は、お客様が増えると思って快く対応してくれる。

 

“特定口座”では、信用取引等ができないので相場の下落に備えたヘッジ取引ができない。そこまでやりたくなったら、確定申告の手間と比較考量して、将来的には手を広げるかもしれない。しかし、現段階では経済危機が来たら、全部売って相場から数か月か数年か、離れようと思っている。

 

ちなみに米国株は、過去長期的に見て日本株よりパフォーマンスが良いし馴染みのある会社も多いから、円相場の見通しによっては外せない分野だ。僕が取引している証券会社では、一部の米国上場投信を買うことも可能だ。ちなみに、中国株も“特定口座”対応しているが、僕は購入していない。僕にはそこまでの度胸はない。

 

 

今回は久しぶりに長文になったが、最後にもう一つ強調しておきたい。

 

日本はもはや、貿易収支で食っていける国ではなくなった。企業も、個人も、資本収支で稼ぐ時代になったのではないかと思う。最初は少額で忍耐力を鍛え、感覚が身に着いたら、貯金増やすように徐々に投資を増やしていく。この選択肢は、真剣に考える価値があると思う。決して簡単ではない、むしろ茨の道かもしれない。しかし、現実は変化しているし、そこにチャンスもある。このままが良いか、変化に対応するか、選択するならインフレが進む前の早い段階が良い。(或いは、中国危機が納まったあとの方が良いという考え方もあるかもしれない。) いずれにしても、みなさんが社会変化の実態を見通す保守主義的な態度をお持ちであること、そして、リスクを識別したら果敢に対応できる実行力を備えていること期待したい。保守主義を理解しているみなさんなら、きっと良い結果が期待できる。健闘をお祈りする。

 

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1 ピケティ氏の“21世紀の資本論”の内容についてより詳細に知りたい方には、以下のような情報がある。この本の日本語での出版は、2017年になるらしい。

ピケティ『21世紀の資本論』はなぜ論争を呼んでいるのか(日経BP 5/20 齋藤精一郎氏のコラム)

日本でも格差は広がる―欧米で話題『21世紀の資本論』WSJ 5/13 JAPAN REALTIME 無料記事)

【オピニオン】「21世紀の資本論」ピケティ氏は急進的なのかWSJ 5/26 無料記事)

この他、本文中に紹介した広木隆氏のレポートにも記載されている。

 

 

2 より正確な表現としては、「資産の収益率が長期的には経済全体の成長率より高い」とか、「高所得層の国民所得シェアの上昇している」というような書き方らしい。要するに、資産家に益々資産が集まり、格差が拡大する。過去 200年の日本や欧米の税務書類などから確認しているらしい。

2014年10月21日 (火曜日)

410.【QC02-08】リスク管理ーIFRSの保守主義

2014/10/21

このシリーズの前回(408-10/16)は、日本の保守主義の意味するところについて僕の思うことを記載した。保守主義は、評価額などの会計上の見積りの高低、費用の早期計上や収益の遅延認識などを要求しているのではなく、現状を正しく、予断なく理解しようとする態度・姿勢であり、経営者が経営環境の実態を理解しようとする場合の態度・姿勢と共通している。

 

今回は、それに対してIFRSがどうなっているかを検討する順番だ。といっても、すでに「【製造業】マーフィーの法則と保守主義(2012/9/18」に記載しているので、重複してしまう。まず、これを簡単に要約しよう。

 

結論からいうと、この記事にも、前回の日本の保守主義と同様、IFRSでも保守主義は態度の問題だから、「資産の評価額を低めに、費用を早めに」といった会計の問題以前の問題である、と僕の考えを記載した。即ち、保守主義とは「リスク管理をしっかりやること」だと書いた。その結果の見積りなら、IASBがいうところの適切な「中立的な」金額となる。

 

そう考えると、IFRSに「保守主義がない」というより、IFRSは保守主義を前提としているが、「保守主義はリスク管理、つまり、内部統制の問題なので、概念フレームワークに記載されていない」というのが、僕の解釈だ(僕の考えに過ぎないが、一応、概念フレームワークの文章から類推して、この結論に至った)。

 

では、今回は何を書くか。

 

「内部統制の問題である保守主義を、会計規準に記述すべきかどうか」というのはどうだろう。ただ、正直言って、僕にはあまり関心が湧かないテーマだ。どちらでも、使い勝手が良ければよいと思う。

 

ということで、書くことが思い浮かばなかった。要するに、IFRSだからといって、日本の保守主義と違うことはないのではないだろうか。

 

 

 

2014年10月20日 (月曜日)

409.【消費税】税率アップで日本は救われるか?

2014/10/20

円安でも輸出が増えないことが明らかになり、日本経済の日銀見通しは怪しくなってきた。しかし、日銀も政府筋も相変わらず強気だ。12月には、消費税の税率を予定通り 10%に上げるかどうかの意思決定が行われる。これについてロイターの記事を紹介する。7月時点では、4-6月期は4月の消費増税の駆け込み需要の反動で GDP 成長率が落ち込んだものの、7-9月期は回復するとの予想を根拠に消費税率を上げても問題ないとされていた。しかし、7-9月期も厳しいことが明らかになってきた。すると今度は、9月以降の個別の経済指標が上向きかどうかで判断するという。

 

焦点:政府に増税ハードル引き下げ論、民間成長予想の下方修正相次ぐ
 (ロイター
10/16:ロイターの記事はすべて無料)

 

現在予想されるメインシナリオ:

7-9月期 GDP 成長率が期待外れでも増税決定+大型経済対策。

理由   :9月の一部消費データに回復感がみられるから。
      7-9月期が2%台の成長率でも潜在成長率以上だから。

この記事の面白いところ:期待外れの経済指標に対する政府当局者発言の変遷。

 

僕の疑問:

4-6 月期が△7.1%、7-9 月期が2%台の成長率で、2014年が潜在成長率以上になるか?

 大型経済対策こそ税金の無駄遣いでは?

 税率上げて、本当に税収が増える?

 

ということで、疑問①~③について見ていこうと思う。

 

(①について)

 

まず、「日本の潜在成長率って何%?」と思われた方がいらしたと思う。日銀は0.5%と言っている10/17 ロイター。内閣府は2/14付の「潜在成長率について」という資料で 0.8%としている。その資料によれば、IMF 0.8%、民間シンクタンクは0.6%1.3%と推測している。

 

次に、今年の四半期ごとの GDP 成長率(年率換算)を並べてみよう(日経電子版の各種データ)。

 

 2014/1-3期  6.0%

 2014/4-6期 △7.1%

 2014/7-9期  2%
 (参考)
2012/10-12期 △0.5%2013/10-12期 △0.5%

 

2014/1-6の半年を単純に通算すると、△1.1%になる。仮に2014/7-9期を2.5%と置くと、9月までで1.4%しか成長していない。それでも民間シンクタンクの最高値より高いので、「2%台でも潜在成長力以上」と言っているのだろう。しかし、10-12期がマイナス成長になれば、「2014年は潜在成長力以上」といえるか微妙だ。ちなみに、日経電子版のデータでは、2012年、2013年と2年連続で10-12期は0.5%のマイナス成長となっている。今年も、世界株式市場が変調しているように、不安要素があってどうなるか分からない。

 

(②について)

 

日銀の黒田総裁は、3月か4月の時点で「完全雇用を達成している」とか、「需給ギャップはゼロ」などと言っていた(例えば、日経電子版 4/8有料記事)。需給ギャップとは、総需要と総供給の差のこと。例えば、需要不足が生じると景気が悪くなるので、公共事業で需要を増やしてギャップを埋めると GDP が増加する。

 

ところが、需給ギャップがない時に公共事業を追加すると悪影響を及ぼす(クラウディング・アウト)。公共事業を増やすと、その分、民間の需要に供給が追い付かないため、価格の高騰や輸入の増加が起こって、民間の需要が減少したり、輸入品で代替されて国内生産が減少する。

 

3月や4月の頃は、消費税率上昇前の駆け込み需要が発生していたが、今はないので、今は経済全体から見れば需給ギャップが生じているだろう。しかし、「公共事業が消化しきれない」などといわれているので、公共事業の分野では需給ギャップがゼロか、マイナスになっていると思われる。だから、追加の経済対策は、日本の借金が増えることに加えて、経済にもマイナスだ。

 

(③について)

 

この4月の消費税率アップで、本当に税収は増えたのだろうか。「もし、消費税を上げなかったら景気が落ち込まなかったので、もっと税収が増えていた」なんてことになってないだろうか。微妙な感じがする。さらに、消費税率を8%から10%へ上げて大丈夫なのだろうか。不安だ。

 

 

とはいえ、1000兆円を超える借金を返さなければならない。これは本当に大事業だ。消費税率を35%に上げるべきという試算もあるようだ(日経ビジネス 2012/4/13「消費税率35%でも年金は賄えません」)。まったく現実的でない。そもそも、そんな税率にしたら経済がボロボロになるだろう。その現実的でない状況に耐えないと返せない。それだけ、国の財政が非常事態にある。

 

しかし、これは消費税では解決できない。もっと根本的な社会変革を促す政策が必要ではないか。それは何か。アベノミクスの成長戦略のメニューで足りるのだろうか。消費税35%に比べれば、TPP の関税撤廃も、福祉の見直しも、移民の受入さえも現実感がある。細かい消費税率アップに拘泥する間に、もっと大きな議論を期待したい。

 

2014年10月16日 (木曜日)

408.【QC02-07】リスク管理-リスクへの備え(日本の保守主義)

2014/10/16

アギーレJAPAN のブラジル戦、残念でした。ボール支配率も圧倒されたが、日本のテレビ中継なのに、サッカー解説者の話題支配率もネイマール選手に圧倒された。しかし、見所が全くなかったわけではない。元清水エスパルスの太田宏介選手(現 FC東京)のクロスは冴えていた。これでは、インテル長友佑都選手さえもうかうかしていられないだろう。アギーレ監督のJリーグ重視は正解かもしれない。他にも柴崎岳選手(鹿島アントラーズ)、塩谷司選手(サンフレッチェ広島)などに期待感を持つことができた。

 

 

さて、今回のテーマは「リスクへの備え」。会計的には保守主義とか慎重性などと呼ばれ、一般的には「日本基準にはあるが、IFRSにはない」ため、IFRSの問題点の一つとされている。欧州でもこの点が批判の対象になっている。しかし、日本の保守主義は正しく理解されているだろうか。IFRSには本当に保守主義はないのだろうか。

 

まずは40510/7 の記事で企業会計原則の一般原則を整理した表から、今日のテーマに該当する内容を若干詳しく記載し、ついでに僕の注目点を加えよう。

           
 

 

 
 

リスク管理

 
 

僕の注目点

 
 

保守主義の原則

 
 

(本文)企業の財政に不利な影響を及ぼす可能性がある場合には、これに備えて適当に健全な会計処理をしなければならない。
    (注解4)過度に保守的な会計処理を行うことにより、企業の財政状態及び経営成績の真実な報告をゆがめてはならない。

 
 

本文で楽観を、注解で悲観を戒めている。総合するとどうなる?

 

実は、「日本の会計基準には保守主義があるが、IFRSにはない」と言われることについて、すでに以前何度か記載した(例えば 2012/9/4 「脱線4~保守主義の本質はリスク管理?」など)。また同じことを繰返すのでは申し訳ないので、最初に、僕の意見をなるべく簡潔に記載させていただく。

 

保守主義はリスク管理(=内部統制)の問題。会計への関わりとしては「判断に際して、楽観ではなく慎重な態度で臨むこと」であり、将来事象への会計上の判断・見積りの精度を高める要求だと思う。良く聞かれるような「費用を早め多めに」という単純な、そして、些末な意味ではない。

 

「不測の事態に備える」という場合の“不測の事態”とはテール・リスクのことだから、「費用を早め多めに」程度の備えでは、全く不十分。もし、保守主義がそんなものであれば、企業経営にとって重要な意味がないから、企業会計原則の一般原則になるはずがない。精々、重要性の一部として扱えば足りる。

 

企業会計原則がこのような重い扱いをしているのは、保守主義が(テール・リスクだけでなく)“不確実性への対処(=リスク管理)”という経営の主要活動・機能と直接関連しているからであり、保守主義とは、「その主要機能を働かせるのと同等の慎重な態度で会計上の判断をして、その精度を高めてほしい」という要求だと思う。

 

ここまで読んで、ふんっ、と鼻で笑われた方もいらっしゃると思う。例えば、次のような理由で。

 

・うちの経営陣は楽観的・直感的で、そんな面倒な、慎重な判断をしてないよ。

・うちの経営陣は創業社長の言いなりで、そんな慎重な判断をしてないよ。

・うちの経営陣は稟議書にめくら判を押すだけ。

 

会計上の判断は、これと同じ態度でいいの?

 

そういえば、お隣の国の上場企業の取締役会が、凄い意思決定をしたと話題になっていた。

 

現代自動車の取締役会、1兆円の土地購入を価格知らずに承認」(10/13 WSJ無料記事)

 

ん~、確かに問題だ。しかし、みんながみんな、そういうことでもない。

 

むしろ、直接経営者に話を聞くと全く違う印象を受けることが多い。実に考えが深いというか、顧客を良く知っているというか、マーケットや競合先の出方などを多角的に見ているとか。そういう経営者からすれば、次のように思っているだろう。

 

・経営判断は不確実性との戦いであり、たいした根拠もなく直感に頼ることもやむをえない。

・すべて分かっているなら経営者などいらない。分からないなかで判断を下すのが経営者だ。

・経営者も間違える。だが、ここ一番では間違わない。少なくとも考えうるあらゆる努力をする。

 

少なくとも不確実性への危機感はありそうだが、これならいい?

 

ちなみに、経営陣のリスク感覚と責任感の評価は、監査人にとって極めて重要な監査手続だ。監査の依頼が来た段階で手続きが始まり、監査契約締結前に一定の評価を行い、所属監査法人における審査を受ける。合格しなければ、監査を引受けられない。即ち、監査契約を受嘱できない。(その会社の事業内容・市場環境などその他の評価項目もある。)

 

リスク感覚や責任感といった内面の問題は、簡単に評価できるものではないから、監査契約締結後もあらゆる場面で更新されていき、場合によっては監査を途中で止めて、契約解除させていただくこともある。翌年の監査契約を更新する際には、改めて所属監査法人の審査を受ける。(僕は監査契約の途中解除はないが、受嘱をしなかったことや、更新しなかった経験はある。内部統制の整備状況など、この評価以外の理由も総合しての判断だった。)

 

同じようなことは監査契約に限らず他の契約、例えば、長期的な、或いは、金額の多めの契約であれば、一般に行われている。契約相手が信用できるかどうかを確かめることは当たり前だ。ただ監査契約では、“企業統治に重要な役割を果たす人々”のリスク感覚と責任感の評価に対する比重が大きい。

 

日本の経営者クラスの人は、そこまで上り詰めるために、数十年キャリアを積上げていることが多い。多くの場合、リスク感覚や責任感が備わっている。しかし、そうでない人がいた場合は、その人の発言力や影響力の大きさが問題になる。いざという時、その人を説得できる慎重派の人が他にいるかについて心証を得ておく必要がある。役職など公式の制度だけでなく、人間関係や相性はもとより、姻戚関係にまで関心を持つことがある。

 

“リスク感覚と責任感”について、もう少し掘り下げると、僕の観点は「事実が見込みと違った時(=悪い報告を受けた時)にどう対処するか」にあったように思う。普通なら、事実を事実として受入れる。そうしないと適切な対応策は見いだせない。しかし、もし然したる根拠もなく「この報告は事実ではない」とか、「報告を変えてしまおう」などとする姿勢が垣間見えると警戒レベルが一挙に上がる。「この人は、使命より、体面を優先する」とか、「本当の問題を分かってない」と思うからだ。こういう人はリスクの認識や評価も、対応策の選択も間違えるし、責任感の置き場所もおかしい。

 

会計における保守主義も、同じような感覚だと思う。事実を事実として受入れる。上も下もない。楽観も悲観もない。事実に冷静に向き合う。事実を大事にする。だからこそ、面倒がらずに実態の把握に力を尽くし、手間をかける。

 

このように書くと、「なんだ、保守主義なんて当たり前で簡単なこと。大袈裟に一般原則にする必要はない」と思われるかもしれない。しかし人間、特に僕のような凡人は、意外に認めたくない事実も多い。だから、この難しさが分かる。一つ例を挙げよう。テレビ・ニュースで流れたので、ご存じの方も多いかもしれない。

 

乗客が冗談で「エボラ患者」機内は騒然10/11 NHK

 

ブラック・ジョークのつもりが大騒動になってしまったという話で、このHPでは、「(エボラ出血熱に対する)警戒を強めていることがうかがえます。」と結んでいる。米国航空会社のリスク管理の厳格さ(保守主義?)で記事をまとめているが、僕は、彼(=このジョークを言った人)の態度に焦点を当てたい。保守主義は態度や心構えだからだ。

 

日本でも、くしゃみをした後に「あ~、びっくりしたあ」とか、「誰か噂してるな」など、照れ隠しに一言付け加える人がいる。アメリカ人も同じ感覚を持っているようで、彼は「俺はエボラだ」と言ったらしい。恐らく笑顔か、おどけた表情で。だがこの結果、彼は目的地に到着するやいなや、大袈裟な防護服に身を包んだ当局職員たちに、直接座席から連れ出されることになった。

 

彼は、防護服の職員たちに「ジョークだ」と言って抵抗したらしいが、さて、みなさんならどうする?

 

 彼と同じように、「ジョークだ」と事実を知らせて抵抗する。

 ジョークである旨丁寧に伝えて、周囲の旅行客などに謝罪する。

 

僕はこのジョークが好きだ。自宅などで家族や気心の知れた人に言うなら傑作だと思う。それに、彼には悪気はなさそうだ。退屈な機内でみんなを一時楽しませることができたと、むしろ、得意気な気持ちでいたかもしれない。

 

しかし、悪い知らせがきた。本当に防護服を着込んだ対策チームが機内に乗り込んできたのだ。彼の失敗は、周りが見知らぬ他人ばかりで、しかも密閉された飛行機の機内でこのジョークを言ったことだ。直前に米国のエボラ患者が亡くなっていたこともあり、周りの旅行客のなかに恐怖に震えたか、ジョークにしても質が悪すぎると怒り心頭の人がいたに違いない。恐らく乗務員もだろう。しかし、彼はそこまで気が回っていなかったと思う。だから、防護服の職員に腕を掴まれ引き立たされた時に、さぞや気が動転しただろうし、たかがジョークなのにこの扱いは承服しがたかったと思う。

 

まさに、自分の予測と全く異なる事態に陥った。そのときどんな判断ができるか。果たして、あのジョークで気分を害した人がいた事実に思いを巡らせることができるか。気が動転し、かなり難しいだろう。恐らく僕にはできない。

 

ただ多くの場合、経営者にはもっと時間的な余裕があるし、周りからのアドバイスもある。本人にその気があれば、それに耳を傾け、真摯に事実に向き合うことが可能だ。それでこそ、適切な対応策立案への第一歩が踏める。不都合であれ、不条理であれ、事実なら受け入れなければならない。

 

その同じ態度で会計にも向き合えるか。その態度で会計上の見積りや会計方針の選択などの判断を行えるか。これこそ企業会計原則の一般原則として規定された保守主義の本質だと、僕は思う。

 

 

ところで、上記自動車会社の監査人は、今頃頭を抱えながら経営者評価の監査調書を更新し、所属事務所の審査の準備をしていることだろう。健闘を祈りたい。

2014年10月14日 (火曜日)

407.【QC02-06】リスク管理-重要性の原則

2014/10/14

先週に続き、今週も週の初めに台風19号が来日。しかし、アギーレJAPAN は一足先にブラジル戦に備えてシンガポールへ移動済み。今日はどんな試合をしてくれるか、楽しみだ。

 

さて、企業会計原則の一般原則とIFRSの概念フレームワークを比較するシリーズは、前回(40610/9)、不正防止に関する表現について比較し、どちらも一丁目一番地の扱いだが、表現方法の違いから、企業会計原則の方が強くメッセージが伝わってくると記載した。表現方法の違いとは、企業会計原則が作成者の行為を規定するのに対し、概念フレームワークは財務情報が有する特性を規定する形式になっていること。行為規定の方が読み手により直接的に響いてくる。

 

しかし、どちらも「不正をするな」と直接書いてあるわけではない。前者は「こうすべきだ」とか「こうしないように」と書くことで、財務諸表を作成する際の心構えというか目指す方向を示し、間接的に、不正へ向かわないようにしている。後者も、開示する財務情報の性質を記述することで、そうでない性質の情報が開示されないようにしている。

 

 

ということで、前回は統制環境の話だったが、今回は内部統制の2番目の基本的構成要素である“リスク管理と対応”に関する話だ。まずは、40510/7 の記事で整理した表から、今日のテーマに該当する内容を若干詳しく記載し、僕の注目点を加えよう。

           
 

 

 
 

リスク管理

 
 

僕の注目点

 
 

正規の簿記の原則

 
 

(注解1)重要性の原則
    重要性の乏しいものについては、本来の厳密な会計処理によらないで他の簡便な方法によることも認められる。財務諸表の表示に関しても適用される。

 
 

会計目的(=財務内容を明らかにし、企業の状況に関する“利害関係者の判断”を誤らせないこと)の範囲で重要性の判断が認められる。重要性は外部利害関係者目線か?

 

・「リスク管理に重要性の原則が入るのか?」と疑問をお持ちの方もいらっしゃると思うが、そういう方でも「リスク管理の対象となるものには重要性がある」、或いは、「重要性のないものをリスク管理から外す(或いは、リスクを受容する)」ことにはご賛同いただけると思う。重要性の判断は、まず、このようなリスク管理の入り口で行われる(その後もリスク評価の都度行われる)ので、リスク管理に重要性を含めている。同じようなことを、現 coso 会長のロバート・ハース氏も、講演で述べていた(3898/29 を書いたときの講演)。

・僕は、このような重要性と、会計上の重要性は同じものと考えている(2012/9/7の記事など)。財務諸表規則などで「~の1%」などと数値基準が示されることがあるが、これらは上記とはレベルの違う、開示専用の重要性の基準だ。詳細は下記を参照。

 

以上の注目点について、企業会計原則をさらに深掘りしたうえで、IFRSの概念フレームワークの規定を見てみたい。

 

(注目点-重要性は外部者目線?)

 

注解1では、明らかに外部利害関係者目線から重要性を考えている。しかし、一般原則の第7番の単一性の基準を見ると、経営者の判断(=経営者のための重要性)がその前提にあることが分かる。ちょっと見てみよう。

 

(単一性の原則)

株主総会提出のため、信用目的のため、租税目的のため等種々の目的のために異なる形式の財務諸表を作成する必要がある場合、それらの内容は、信頼しうる会計記録に基づいて作成されたものであって、政策の考慮のために事実の真実な表示をゆがめてはならない。

 

これに関する“会計学を学ぼう!”の解説には、次のように記載されている。

 

すべての財務諸表の情報ソースを一元化すること

 

即ち、単一性の原則は、財務諸表の様式は様々でも、そのデータ・ソース(=総勘定元帳などの会計帳簿)は同一でなければならないとしている。財務諸表ごとに、一部を欠落させたり逆に加えたりしてはならない。会計帳簿に記帳するかどうか、資産にするか費用にするか、といった判断は、どのような目的の財務諸表でも共通、或いは、整合していなければならないということだ。

 

実は昔、「原価計算には財務会計用と経営管理用の2種類がある」とされていたことがあった。しかも、経営管理用の原価計算は、財務データとの関連性・整合性が問われなかった。企業独自の考え方、管理手法が尊重されたからだ。しかし、今は違う。両者はなるべく共通化が図られ、異なる場合も整合性が確認される。これは、会計データと乖離した管理情報の信頼性が疑われたこと、及び、2種類の情報作成にかかる手間が嫌われたためだが、きっかけは、Windows パソコンが企業に導入された 1995年以降の企業の基幹システムの変更だったように思う。

 

上表の脚注で「重要性の判断は、まず、このようなリスク管理の入り口で行われる」と書いたが、会計上も、会計帳簿に記帳する入り口の段階で、最初の重要性の判断が行われる。この判断は、財務諸表規則等に記載された重要性の数値基準とは異なる。財務諸表規則等の数値基準は、財務諸表作成時、即ち、会計帳簿の出口で利用される。入り口時点と、同じものでないことがご理解いただけると思う。ただ、出口の基準をそのまま入り口にも適用することがあるが、それは企業の(=経営者の)意思・判断であり、外部者視線というわけではない。

 

結局、会計帳簿の出口では、外部者目線による重要性の判断が求められるものの、入口では経営の都合で判断される。出ていくときのことを考えれば、入口では出口と同じか、それ良い細かいレベルの判断が行われる。

 

では、IFRSの概念フレームワークでは、どのように規定されているだろうか。

 

・・・財務情報に基づいて利用者が行う意思決定に影響する可能性がある場合には、重要性がある。

言い換えれば、重要性は目的適合性の企業固有の一側面であり、・・・(QC11

 

これは、企業会計原則の注解1の重要性の原則の記述「利害関係者の判断を誤らせない」と実質的に同じ記述になっている。そして重要性は、2つある基本的な質的特性のうち、目的適合性に属するものとされている。これも、注解1の会計の目的に関連させる書き方と同じ意図を感じる。

 

では、IFRSにも単一性の原則のようなものがあって、入り口の重要性が経営者の判断であると書いてあるのだろうか。

 

これはない。でも次のように書いている。

 

・・・当審議会は、重要性についての統一的な量的閾値を明示することや、特定の状況において何が重要性があるものとなり得るかを前もって決定することはできない。QC11

 

IASBは重要性を決められないとしている。すると、決められるのは経営者しかない(入口も、出口も)

 

ということで、入口の重要性は経営者目線の判断だが、出口の重要性は、外部利害関係者目線による判断が必要だ。但し、具体的な数値基準は設けられない。

 

以上の結果、企業会計原則でも概念フレームワークでも、重要性の原則に差はないように思う。(日本基準で重要性の原則について数値基準が設けられているのは、個別基準や財務諸表規則等であり、企業会計原則ではない。)

 

蛇足だが、概念フレームワークの見直しプロジェクトで昨年公表されたディスカッション・ペーパーでは、不確実性を資産等の定義や認識規準から外すことが提案されていた。不確実性と重要性は密接な関係があり、もしこの提案が確定すると、IFRSの重要性の原則は影響を受けて変化することになる。これは今後の注目だ。

2014年10月 9日 (木曜日)

406.【QC02-05】会計基準における不正防止の表現

2014/10/9

ノーベル・物理学賞の受賞おめでとうございます。これは大ニュースだが、実は、僕がもっと驚いたのは、日本の若者が戦闘員になるためにイスラム国へ渡航を企て、阻止(正確には事情聴取)されたことだった。驚いた理由は2つある。

 

 社会に対する閉塞感や絶望感から、残虐な組織へ加わろうとする若者が日本にもいたこと。

 日本に、このような行為を罰する法律が存在したこと。

 

①については、大人の我々が大いに反省しなければならない。社会に対する不満や不安は、若者ならだれでも持つ可能性がある。だが、それが前向きに解消されるなら、社会の進歩へつながる。したがって、若者が不満や不安を持つことは社会にとってポジティブだ。恐らく問題は、不満や不安を持った若者が、孤独なことではないか。周りの大人が良い方向を示せなかったか、その若者の周りに頼りになる大人がいなかったか。ここまで考えると、確かにありがちな状況で、そんなに驚くべきではなかったかもしれない。

 

②については、NHK のニュース・サイト(10/6によれば、その道の専門家でも驚いている。しかし、日本でも過去に日本赤軍のような組織が存在していたので、考えてみれば、あっても不思議はない。

 

ちゃんと考えてみると日本でも当然起こりうる。それをノーベル賞のニュースより驚いてしまったことを、僕は反省しなければならない。いわゆる“平和ボケ”、即ち、「日本にだけは起こらない」という根拠のない自信を、僕も持っていたということだ。

 

でも、ノーベル賞受賞のニュースには驚いてよいのか。それこそ当然ではないか!(これも根拠のない自信?)

 

いずれにしても、人間だれでも“思い込み”がある。60年以上前に制定された企業会計原則に、内部統制の要素などあるはずがないと思っている方がいたら、それも“思い込み”に過ぎない。そもそも会計原則は、みんながバラバラな会計処理をして、財務情報を見る人に混乱や誤解を与えてはいけない、特にそれを意図的にやるのはもってのほかだ、というところから始まっているので、考えてみれば、会計原則において不正防止は一丁目一番地だ。企業会計原則の一般原則に、その要素が散りばめられているのは、むしろ当然だ。

 

では、IFRSはどうか。同じだろう。でもどういうふうに?

 

ということで、この面から、真実性の原則以外の一般原則(日本基準)と基本的な質的特性(IFRS)を比べてみよう。まず、前回(40510/7の記事で)分類・整理した表から、今回に関係する部分を抜き出して再掲する。

                           
 

他の一般原則

 
 

(内部統制面)統制環境

 
 

正規の簿記の原則

 
 

不正防止“正確な(会計帳簿)

 

    “判断を誤らせない”

 
 

資本・利益区別の原則

 
 

 ---記載なし---

 
 

明瞭性の原則

 
 

不正防止“判断を誤らせない”

 
 

継続性の原則

 
 

不正防止“判断を誤らせない”

 
 

保守主義の原則

 
 

不正防止“歪めない”

 
 

単一性の原則

 
 

不正防止“歪めない”

 

要するに、色々な一般原則において、“正確な”とか、“判断を誤らせない”とか、“歪めない”などといった言葉を使って、不正防止の趣旨をにじみ出している。“不正防止”とは書いてないが、読んでみると「不正はダメ」というメッセージが伝わってくるようになっている。

 

では、IFRSはどうか。基本的には同じように“不正防止”とは書いてないが、それがにじみ出るようになっていることが予想できる。多分、基本的な質的特性である“目的適合性”と“忠実な表現”がどのようなものであるかを説明することで、暗に、そこに不正があってはならないことを表現するといった形で。

 

ところが実際に読んでも、そういうメッセージはほとんど伝わってこない。例えば、“正確”、“判断”、“歪”といった単語で概念フレームワークを検索してみても、ヒットした箇所に記載されているのは、期待外れの内容ばかりだ(その具体的な内容は、いずれ紹介する機会があると思うが、ここでは省略する)。それはなぜか。次の2つの考え方がありえると思う。

 

A. 書き方の違いで、このメッセージが伝わりにくくなっている。

 

IFRSの概念フレームワークでも、企業会計原則同様“不正防止”は重要なテーマなのだが、表現方法の違いによって、それが伝わりにくくなっている。

 

具体的には、企業会計原則(の一般原則)は、会計をする人を対象に置いて、「こうしなければならない」とか、「こうしてはいけない」という書き方をしている。この書き方は、“人”に語りかけて、“人”の行為を規定しているので、「不正をしてはいけない」というメッセージが伝わりやすい。

 

一方、概念フレームワークの質的特性は、財務情報を対象に、「こういう性質を持っている」という書き方をしている。“人”に語りかけてないし、“人”の行為を直接規定するのでもない。よって、「不正をしてはいけない」という人の行為を規定するメッセージが伝わりにくい。

 

B. COSO などの内部統制に関する基準、監査基準が別にあるので、IFRSは“不正防止”を扱う必要がない。

 

こういう考え方もあるかもしれないが、僕は否定的だ。それは「IFRSの原則主義は、不正防止に役立つ」などと、不正防止がIFRSのメリットとして主張されるからだ。不正防止が軽視されるはずがないと思う。

 

ただ、会計上の見積りなど判断を要する会計規準の増加もあって、会計規準だけで不正防止ができるとも考えてないと思う。したがって、COSO などに対する依存はあるだろう。これは当然のことであり、企業会計原則も監査基準に依存している。

 

ということで、表現方法の違いで伝わりにくいが、IFRSにも不正防止の意図は隠れているがちゃんとある。むしろ、情報が持つべき性質(=質的特性)を詳細に記述することで、なんとかその効果を上げようとしていると感じる。

 

 

以上の結果、企業会計原則の一般原則には、不正防止のメッセージが、行為を規制する書き方で散りばめられており、概念フレームワークでは、財務情報の性質(=質的特性)を詳述することで、その効果を出そうとしていることが分かった。方法は違うが、両者は同じところを目指している。

2014年10月 7日 (火曜日)

405.【QC02-04】真実性の原則以外の一般原則(日本基準)の分類・整理

2014/10/7

台風18号はホントに迷惑だった。通勤時間を直撃し、過ぎたら過ぎたで夏が戻ってきたよう暑さを置いて行った。しかし幸いなことに、直撃を受けた割には近所の被害は少なかったようだ(だが浸水被害はあったし、ちょっと東方では崖崩れでJRの線路が埋まった)。みなさんのところはいかがだろうか。

 

こんな台風でも、ちょっと見方を変えると興味が湧く。僕には一つ注目していたことがあった。それは、台風の進路が富士山にまっすぐ向かっていたことだ。果たして、この台風は富士山とガチンコ勝負していくのだろうか。富士山が台風に押し出されることはないだろうが、台風が富士山頂を乗り越えていくことはありえる。そんな大胆な台風をいままで見たことがない。しかし、この台風は大型で強い勢力を保っているので、やってくれるかもしれない。

 

結果は、浜松に上陸する直前に北向きに進路を変えたと思ったら、浜松インターで東名高速に乗ったらしく、今度は東向きに進路を変えた。結局、富士登山コースを南に外れ、駿河湾の北端を渡って箱根を超えた。午前9時前後に僕の真上を通過したようだ。9時過ぎに雲の切れ間から青空が見え、「これが噂に聞く台風の目か」と思った。しかし、そのままたいした雨も降らずに天気が回復してしまった。恐らく、時計の反対周りをしている雨雲が富士山で遮られて、台風の背後が晴れてしまったのだろう。台風でも避ける。雨雲も遮る。富士山は偉大なのだ。

 

会計界において、その富士山のように偉大にそびえたつのが、企業会計原則。と言いたいが、会計ビックバン以降は「改正したいが改正できない」とされ(修正を要する個所が多過ぎるらしい)、ちょっと蔑にされている。しかし、このシリーズの前回(40310/2の記事で)見たように、1949年制定の真実性の原則は、60年のときを超えて見事に2010年の基本的な質的特性に対応していた。改めて読んでみると、凄いのだ。

 

とはいえ、真実性の原則は企業会計原則の第1行目。残りの行はどうなのだろう。特に、我が国会計規準の基本中の基本である残りの一般原則は、今も生きているのだろうか。

 

ということで今回は、真実性の原則の色々な側面を表現したとされる、その他の一般原則を分析の対象としたい。その切り口は“会計面と、統制環境/リスク管理/その他という内部統制面”としてみたい。下表では、関連する企業会計原則注解も、分類・整理の対象にした。

                                                                     
 

 

 

その他の一般原則

 
 

(会計面)

 
 

(内部統制面)

 

統制環境

 
 

 

 

リスク管理

 
 

 

 

その他

 
 

正規の簿記の原則

 
 

 

 
 

不正防止

 

“正確な(会計帳簿)

 

“判断を誤らせない”

 
 

重要性の原則

 
 

正確な会計帳簿の作成

 
 

資本・利益区別の原則

 
 

会計の基本計算理

 
 

 

 
 

 

 
 

 

 
 

明瞭性の原則

 
 

F/Sの表示、注記

 
 

不正防止

 

“判断を誤らせない”

 
 

 

 
 

 

 
 

継続性の原則

 
 

同一事象には同一処理

 
 

不正防止

 

“判断を誤らせない”

 
 

 

 
 

 

 
 

保守主義の原則

 
 

会計上の見積り

 
 

不正防止

 

“歪めない”

 
 

リスクへの備え

 
 

 

 
 

単一性の原則

 
 

複数のF/Sがあっても会計記録は同一

 
 

不正防止

 

“歪めない”

 
 

 

 
 

信頼しうる 会計記録

 

・統制環境の列で“”されているのは、原則や注解で使われている表現(をちょっと短縮したり、意味が明確になるよう足したもの)。

・このほか、後発事象などの具体的項目に関する規定もある。IFRSでは個別規準の扱いなので、分類・整理の対象から外している。

・一般原則の規定や注解をご覧になりたい方は、次のリンクをご覧いただけると良いと思う。

一般原則Wikibooksの企業会計原則)

注解(同注解)

・これらの解説をご覧になりたい方は、このシリーズの前々回(4019/30)にも紹介した下記のHPをどうぞ。

企業会計原則の解説(会計学を学ぼう!)

 

上表は、僕が勝手に作ったものなので、異論・違和感をお持ちの方もいらっしゃると思う。他にもっと良い整理がきっとあるだろうと僕も思う。ただ、どのように整理してもこのような切り口でやれば、内部統制へ分類される原則や注解が多くなるだろう。企業会計原則制定時の事情(=会計の普及・啓蒙の必要性)が影響しているのかもしれない。

 

次回から、この切り口を軸にしながら、IFRSの概念フレームワークの質的特性を中心に比較してみたい。それによって、日本基準の基本にある企業会計原則とIFRSの基本がどのように異なるか、なぜそれが異なるかを考えていきたい。両規準の、枝葉ではない、根本的な違いが見えてくると嬉しい。

 

 

 

さて、前回(40410/5)触れた清水エスパルスのセレッソ大阪戦との残留争いは、とてもラッキーな勝利を挙げることができた。スコアは3-0だが、うち2ゴールは、シュートがデフィンダーに当たってコースが変わったり、キーパー(敵ながら良いキーパーだ)の滅多にないファンブルを押し込んだもので、こんな幸運は連敗中にはなかった。流れの変化を感じるが、みなさんの暖かい応援のお陰があったように思う。選手たちも献身的に運動量をかけて前線からの守備と、素早い攻撃をしており、以前に増して見どころの多いゲームしてくれている。もしよければ、引続き応援をお願いしたい。

2014年10月 5日 (日曜日)

404.【番外編】欧州の不良債権問題

2014/10/5

「次の金融危機はどこか?」との問いに、「中国」と答える方が多いのではないか。しかし、欧州(ユーロ圏)も有力候補かもしれない。

 

「そんな馬鹿な。ついこの間、危機から回復したばかりじゃないか。」

「デフレのことを言ってるの? 金融危機とは違うんじゃない。」

 

なるほど、それもそうだ。間違いかもしれない。でもなあ・・・、気になる。

 

気になってるところに、次の記事を読んでしまったから、ついにこのブログのテーマにしてしまった。

 

米国の成功と欧州の失敗(日経新聞 有料記事 10/3 大磯小磯)

(この記事を読まれる方は、リンクが機能しないので、このタイトル“米国の成功と欧州の失敗”を日経電子版で記事検索していただきたい。)

 

このタイトルを見て、「ああ、金融緩和のことね。米国は量的緩和を大胆にやって経済成長を軌道に乗せたが、欧州はドイツの反対でできなくて、“日本化”が問題になっている。このことでしょ。」と思われたと思う。だいたい合っているが、重要な点が違う。この記事は“金融緩和”ではなく、“不良債権処理”の差を両経済圏の違いの原因と捉えている。米国は早々に不良債権処理を行い、経済成長路線への回帰を成功したが、欧州は未だに行っておらず、失敗したという。この着眼点がこの記事の面白いところだ。

 

この記事も「金融危機が起こる」とまでは書いてないが、現状を“偽りの夜明け”と表現し、暗に、危機がまだ完全に去ったわけではないことを示唆している。欧州はまだ不良債権処理にけじめをつけていない。

 

実は、僕もそれが気になっていた。というのは、2カ月前に次の記事を読んでいたからだ。

 

欧州の問題は過剰債務ではなく資本不足WSJ 有料記事 8/5

 

このタイトルの“過剰債務”というのは、イタリアやスペインのような南欧諸国の債務が GDP に対して過剰なことを指す。“資本不足”というのは「銀行や企業が不良債権処理を行うだけの余裕が、資本にない」状況を指す。不良債権の現状を改善する・変化させる(=不良債権の最終処理)にはもっと資金が必要だが、それがない。要するに、「まだ欧州は不良債権処理が終わっていない。それこそが、欧州が解決すべき問題」と主張している。日経の大磯小磯と同じく、欧州の不良債権処理はまだ終わっていないという見立てだ。

 

WSJ の記事は長文で、欧州の状況が詳しく書いてある。それを読むと、どうも、欧州の現状は、日本の2000年台初めのごろに似ている。小泉政権が発足し(2001/4)、竹中金融担当大臣が不良債権のバランス・シートからの切り離し(=不良債権の流動化)を金融機関に要求した頃(金融再生プログラム/竹中プラン 2002/10)だ。

 

(類似点)

・すでに問題の大きい金融機関は破たんした。

 

日本では、1997年ごろから北海道拓殖銀行、日本長期信用銀行、日本債券信用銀行、山一證券、日本リースなど、大手金融機関が次々と破綻した。住専各社もだ。

 

欧州でもアイルランドの銀行が国有化されたり、ギリシャやキプロスの銀行の破たん処理が行われ、最近ではポルトガルのエスピリト・サント銀行が破綻した。

 

・一応、会計上の手当ては済んだ。

 

この当時の日本では、金融機関に対する飴と鞭の政策で会計上の手当てが進められていた。“鞭”は、資産査定の実施と不良債権に対する会計基準の厳格化だ。“飴”は、税効果会計の導入による金融機関の会計上の負担軽減と公的資金の投入。

 

欧州でも同様だ。“鞭”は不良債権の認識(「IFRSは、貸倒損失の認識が遅い(“発生損失”というIAS39号の考え方への批判)」とされながらも、さすがに今では多額の不良債権が認識されている)。“飴”は、ECB(欧州中央銀行)による LTROLong Term Refinance Operation)、即ち、ECB が金融機関に低利で長期資金(3年)を担保付で融資する制度だ(2011/122012/2)。この融資で欧州の金融機関は多額の国債売買益・評価益を計上できたはず。建前は、民間企業に対する貸出を増やす効果を狙ったものとされたが、実際には使途制限はなく、かつ、民間企業の資金需要は低迷していたため、この資金は各国の国債へ投資された(例えば、三井住友銀行 調査月報2012/5月号の≪要旨≫)。それが投機資金を呼び込んで、欧州各国の国債は大きく値上がりし(金利は大きく低下)、現在に至っている(上記三井住友銀行の資料では、値下がりリスクが危惧されているが、そういう状況には現在まで至っていない)。その国別の効果は、金融危機の影響の大きさに比例したから、ちょうど良い“飴”になった。

 

・しかし、まだ金融機関などのB/Sに不良債権が計上されたまま残っている。

 

当時の日本では、「不良債権が金融機関のB/Sに計上されたままでは融資が増えず、日本経済の足かせになる」とされ、整理回収機構(1999/4 に住宅金融債権管理機構と整理回収銀行が合併して誕生)や産業再生機構(2003/42007/6)が、その後さかんに不良債権の最終処理に利用されるようになる。金融庁検査や監査の厳格化とともに生じた金融機関の貸し渋りが社会問題となったが、現在では金融機関のB/Sがクリーンになり、金融庁検査も方向性を変えている。なお、この期間の 2003 年にも、りそな銀行が国有化されたり、足利銀行が破綻処理されたりしている。

 

一方、欧州では現在 ECB の監督下で上位 131 行の金融機関の資産査定が行われている(恐らく、今月か来月に結果が出る)。これは日本と同様に個別債権ごとの精密な評価を行うが、目的は、B/S上の評価を厳格化することより、今後の不良債権の売却や回収などの最終処理(=不良債権の切り離し、流動化)を促進することにあると思われる。最終処理には個別債権(≒債務者)ごとの市場価値ベースの分析・評価が欠かせない。注意すべきは、この過程で、日本のりそな銀行や足利銀行のように新たな破たん金融機関が生じる可能性があることだ。

 

 

さて、ここで、なぜ僕が「次の金融危機は欧州か?」と危惧している理由を書くことにしよう。

 

日本の不良債権最終処理で活躍した整理回収機構や産業再生機構は、預金保険機構がこれらの親会社となることで(=預金者の立場を蔑にしないことで)、預金者に過度な負担を強いず金融システムを不安定化(=取付け騒ぎなどを発生)させない狙いがあった。しかし、ユーロ圏では各国別の預金保険機関はあっても、ECB のような共通機関・一元化されたシステムがないため、どのような主体が不良債権を買取ったり、回収したり、更には企業再生を担当するかが問題となる。この点について WSJ の記事は、プライベート・エクイティの活用を提案している。米国らしい「民間の力で」という主張だ。

 

しかし、営業拠点が欧州全域にまたがるような大手行の破綻処理を金融システムの不安定化なしに行うには、キプロスで見られたような場当たり的な処理ではなく、域内統一的な破たん処理システム・スキームが必要だ。そして、その前提に域内で一元化された預金保護制度が必要になると思う。金融機関の破たん処理には預金者や納税者に不公平感を与えないことが重要だ。しかし、預金保護制度の一元化に関する議論はあまり進んでいないらしい(例えば、国際貿易投資研究所HP 田中友義氏 5/15)。もし、欧州で金融危機が再燃するとすれば、資産査定の結果が火種になり、預金保護制度の一元化の遅れが油になる可能性が考えられる。

 

ん~、ところが、ここまで考えてきて、逆に危惧が薄れてきた。というのは・・・

 

資産査定は ECB の監督の下で行われており、ECB が欧州の金融システムを揺るがすような決定を行うとは考えにくい。なぜなら、ECB は、動きの鈍い欧州委員会や欧州議会より機動的で、マーケットからも信頼されている。もし、資産査定の結果が衝撃的なものであれば、ECB は、取付け騒ぎが起こらないような対応策も併せて公表するだろう。

 

そういえば、“飴”の LTRO は、また先月から始まった(今度は Targeted が頭について TLTRO と呼ばれている)。まるで資産査定にタイミングを合わせたかのようだ。ただ、それにはあまり需要がないというから、資産査定はあまり衝撃的な結果は見込まれてないのかもしれない。

 

そう考えると、やはり欧州がもう一度金融危機に陥る可能性はほとんどないかもしれない。いやしかし・・・

 

それでもあるとすれば、ECB 監督下の資産査定が、市場や預金者の信用を失った場合か。例えば上記のポルトガルのエスピリト・サント銀行は、資産査定では破たんの原因となった不正は見つけられなかった。このようなケースが他にいくつも出てくると危ない。

 

これはさすがに、考えすぎだ。でも・・・

 

さらにこれが EU への不信感の増大となり、イスラム国の脅威と結びつくと・・・

 

悲観的過ぎる。かなりおかしい。僕の精神は病んでしまったのか。

 

恐らく、清水エスパルスのJ2陥落への危機感が、僕の精神状態を不安定にしているのだろう。今日は、残留争いの重要な一戦、セレッソ大阪戦がある。勝ち点3で、一息つかせてほしい。加えて、みなさんのエスパルスへの暖かい応援も期待したい。また、念のために過ぎないが、欧州の資産査定の結果とその後の成り行きには、注目した方が良いと思う。

2014年10月 2日 (木曜日)

403.【QC02-03】真実性の原則(日本基準)と基本的な質的特性(IFRS)~ユリ・ゲラー氏の真実性

2014/10/2

ユリ・ゲラー氏とは懐かしい。僕も子供の頃TVの前でスプーンを曲げようと一生懸命こすった。当時、アニメのバビル2世にも憧れていたから、自分に超能力の素質があるか見極めようと必死だったのだ(もちろん、あるわけなかった)。果たして同氏は本物の超能力者か、それもとペテン師か。前者を支持する人は少ないようだが、本人は今でも大真面目なようである。

 

iPhone6が曲がった理由‐超能力者ユリ・ゲラーの解説WSJ無料記事 9/30

 

ご存じの方が多いと思うが、新型 iPhone6 Plus)は、ズボンのボケットに入れると簡単に曲がってしまうという報告が、ソーシャル・メディアなどで急速に広まったという。それに対しアップル社は、そんなことは「極めて稀だ」と強く反論した。そしてこれに割って入ったのがユリ・ゲラー氏で、「超能力でまがった」と主張している。正確には次のように記載されている。

 

「購入した1000万人の興奮がエネルギーとなって超能力を呼び起こし、それがiPhoneを折れ曲げた」

 

昨年 iPhone5s を購入したばかりの僕は、今年のフィーバーを苦々しく見てきたが、ちょっと溜飲を下げた思いがする。さあ、曲がるのか、曲がらないのか。そして曲がるとしたら、それは“超能力”なのか。どれが真実なのか、興味津々だ。

 

 

さて、このシリーズの前回(4019/30)の記事では、企業会計原則の最も重要な一般原則である“真実性の原則”が文学的過ぎて、“真実の中身”が分からない。その分からないところがIFRSの概念フレームワークの“(基本的な)質的特性”に当たる、或いは、そこに書いてある、とした。今回は、“真実性の原則”と“基本的な質的特性”を比較してみたい。

 

(企業会計原則の真実性の原則)

 

企業会計は、企業の財政状態及び経営成績に関して、真実な報告を提供するものでなければならない。

 

(概念フレームワークの基本的な質的特性)

 

基本的な質的特性は、「目的適合性」及び「忠実な表現」である。QC5

 

目的適合性は、財務情報の利用者の意思決定に影響を与えられる情報であること。例えば、利用者の意思決定に関係ない情報は、目的適合性がない。予測価値(=利用者が将来予測をする際のインプット情報として使える)や確認価値(=利用者が過去に行った予測の実績値による検証ができる)を有する情報は、目的適合性があるといえる。(QC6QC7 を意訳的に要約)

 

忠実な表現は、表現しようとする現象に忠実なことで、“完全”で“中立”で、かつ、“誤謬がない”という3つの特性を持つとされている。但し、これら3つの特性に対して、実務上完璧は求められないので、最大化を目指すとしている。(QC12QC13 を意訳的に要約)

 

以前僕は、目的適合性は利用者側の視点、忠実な表現は作成者側の視点を持っていると書いた(2012/1/23同年 1/24の記事)。しかし、より正確にいえば、前者は情報の範囲や形式を規定し、後者は情報の中身というか性質を規定している。この観点で真実性の原則を眺めると、前者に当たる部分が「企業の財政状態及び経営成績に関して」で、後者に当たる部分が「真実な報告を提供する」と読めなくもない。

 

意外や意外、1949年制定の真実性の原則は、60年の時を超えて、見事に2010年制定の基本的な質的特性に対応している。企業会計原則、恐るべし。そして、真実性の原則の詳細が基本的な質的特性にあるとする僕の主張も、あながち的外れとは言えない。いや、ドンピシャではないだろうか。

 

実は、僕自身、ここまで綺麗に対応していると思っていなかったので、かなり驚いている。このテーマの発案時点では(=このシリーズの前回)、単に「なんとなく関係がありそうだ」と思っていた程度だった。それがこんなにハマるとは。ん~、凄い。もしかしたら、僕も超能力者か!?

 

 

超能力といえば、冒頭のユリ・ゲラー氏は、超能力を根拠とする理由を次のように語っているという。

 

「アインシュタインは相対性理論で、宇宙のあらゆるものがエネルギーからできていることを証明した。iPhoneも同じだ」

 

これは、アインシュタインの特殊相対性理論にある次の有名な公式

 

E = MC^2

(エネルギー= 質量 × 光速の二乗)

 

をイメージしたものと思うが、残念なところが2点ある。

 

・エネルギーと質量の間には、光速の二乗という、とてつもなく巨大な定数がある。これは、ちょっとした質量の変化(消失)が巨大なエネルギーを生むことを示している(これが核エネルギーの大きさ、原子爆弾の破壊力)。だが、物体が曲がることとは関係がない。したがって、この情報には目的適合性がない。真実性の原則に違反している。

 

・超能力が物理法則に従う? なんか、興ざめする。

 

やはり、超能力は眉唾か。というか、ユリ・ゲラー氏流のギャグかジョークなのかもしれない。だとしても、自らをピエロにするかなりの自虐ネタだ。WSJ も、キワモノ扱いしている。ちょっと物悲しい。(まあ、僕も同じだが。)

2014年10月 1日 (水曜日)

402.【番外編】2014/9の月間ページ・ビュー・ランキング

2014/10/1

ご覧のとおり、古いものが意外と多い。逆にいえば、新しいものにあまり人気がないのかもしれない。(T_T)

時々熱心な方がいらっしゃるようなので、参考までに定期的に載せることにした。ページ・ビュー数(=アクセス数)は、上位は百を超えるが、下位は二桁。

 

1) 2014/8/1 381.修正国際基準(JMIS)の公開草案~概要

 

2) 2014/9/7 393. JMISに対するIASBの反応と日経のスクープ

 

3) 2014/9/18 398.【番外編】ソニーの未来

 

4) 2012/1/10 持分(Equity)~会計用語のEquityって?

 

5) 2013/5/23 248.【製造業】減損損失累計額を動かさないことで生じるマイナスの減価償…

 

6) 2014/8/6 383.修正国際基準(JMIS)の公開草案~OCIリサイクリング

 

7) 2011/11/1 IFRSの資産~会計上の「資産」とは

 

8) 2014/9/14 【番外編】会計の本質論と公認会計士の立場

 

9) 2014/7/28 379.IFRS のれん償却再導入? ~ASBJらが意見書公表

 

10)2011/11/30 IFRSの資産~償却資産と減損1

 

10)2014/8/4 382.修正国際基準(JMIS)の公開草案~のれんの償却

 

 

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