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2014年12月 9日 (火曜日)

422.【米FASB】同じ場所へ行く目標はなくなった

2014/12/9

残念な報告がある。先週、2002年から2010 年までFASB(=米国財務会計基準審議会)議長を務められた Robert H. Herz 氏の講演を聴きに行った。その講演の後半は、元IASBメンバーである山田辰己氏との問答形式だったが、山田氏からの重ねての質問に対し Herz 氏は、米国がIFRSを強制適用することはないだろうとの見解を述べた。「単一で高品質の国際基準」はどこへ行ったのか?

 

Herz 氏は、IASBとFASBが最も協調的だった時期のFASB議長であり、その後もFASBなどについて継続して関心を寄せている。その方でさえ、米国では「IASBとFASBが同じ場所へ行こうという目標はなくなった」と見ていることは、それだけ残念な状況にあるということだろう。

 

これは、単に、IASBとFASBによるバイラテラルな共同プロジェクトが、一部の会計規準を共通化できたものの、差異も残った形でほぼ終了し、今後はASAF(=IFRS財団会計基準アドバイザリー・フォーラム)というマルチラテラルな規準開発体制へ移行した状況を表現したに過ぎない、という見方もできるかもしれない。即ち、この目標は、IASBとFASBだけのものではなく、FASBを始めとする多くの国の会計規準設定主体が参加しているASAFとの目標へ昇華したのだ。これなら前向きだ。

 

いや、前後の文脈から、そうはとれない。

 

ただ将来、米国企業のIFRS採用がオプションとして認められるようになる可能性については排除しなかった。米国でも、多国籍事業展開しているグローバル企業は、グループ内で会計規準が統一できることに魅力を感じているとのことだった。(現在でも、米国市場に上場している外国企業には、IFRSの適用が認められている。)

 

ではどうして米国はIFRSに慎重なのだろうか。

 

すでにご存じの方も多いと思うが、リーマン・ショックがきっかけになっている。米国企業は、事業環境が厳しくなる中で、「一応US-GAAPが機能しているのに、なぜコストをかけてIFRSへ移行しなければならないのか」という疑問を払しょくできないでいるようだ。逆にG20では、リーマン・ショックをきっかけにして、「単一で高品質の国際基準」の実現を要求し始めた(2009年ピッツバーグ・サミット)。好対照だ。

 

もっと具体的に米国の考えていることを知りたいという方は、新日本監査法人のHPにある資料を紹介する。201112月のちょっと古いスピーチだが、すでに「コンドースメント」に関する米SEC(=米国証券取引委員会)のスタッフ・ペーパーが公表され、それを受けてのものとなっている。当時のFASB議長である Leslie Seidman 氏が米国公認会計士協会の全国大会で行ったスピーチの翻訳だ。

 

AICPA年次カンファレンス FASB議長サイドマン氏のスピーチ詳細

 

こちらの方が、まだ Herz 氏の見通しより希望があるような気がする(コンバージェンス+一定分野の会計規準開発権の留保)。(ということは、米国はここからさらに減退したのか。米国の景気は回復してきているというのに。)

 

また、FASBの監督官庁であるSECの状況について知りたい方は、3655/27 の記事に、今年 5/20Mary Jo White 議長のスピーチ(翻訳)へのリンクを掲載している(JICPAのHP)。SECは、ようやくリーマン・ショックの教訓を金融機関の規制へ反映する立法作業に一段落付け、IFRSの問題へ取り掛かったようだ。

 

 

というわけで、Herz 氏の見通しは暗いものだったが、Robert H. Herz 氏自身が暗い人というわけではない。

 

3898/27 の記事にも似た名前の“Robert B. Hirth”氏の講演が出てくるが、こちらは COSO の議長であり、別人だ。講演の印象も、COSOのボブさんは新しい COSO の紹介(売込み?)だったこともあり営業マンの感じだったが、こちらのボブさんは慎重で穏やか。山田氏の鋭くトゲのある質問にも抑えて対応するなど、まさに洗練された会計人・経理マンの感じがする方だった。FASB時代にASBJと交流して印象深かったのは“カラオケ”だったらしい。まさか“サザン”や“ユーミン”は唄わなかったと思うが、ASBJメンバーの揉み手・擦り手の手拍子に載せられ、マイクを握った Herz 氏の姿を想像すると、意外に似合いそうだし、馴染みそうな感じがした。

 

 

最後に、まったく話題は変わるが、清水エスパルスのJ1残留を報告したい。残留が決定した瞬間、多くの選手が目を潤ませていた。競争の厳しさ、残酷さを思い知ったシーズンだったが、それゆえの感動もあった。最終戦でのチーム一丸の守りを教訓にして、来シーズンは躍進してほしい。

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