424.【QC02-13】会計面の比較~明瞭性の原則
2014/12/26 IAS1号の改正から、関連する情報を追加(赤文字)。
2014/12/16
衆院議員選挙の開票番組を2時半ごろまで(各党への議席配分が決まるまで)見ていたが、ふっと、「この番組を見ている人は、今、何人いるのだろう?」と思った。前夜、番組が始まった瞬間に事前報道通り与党の圧勝が見えていたし、投票率は低かったし、翌日はブルー・マンディーだし。こんな深夜まで起きている僕のようなもの好きはきっとごく少人数に違いない。
しかし、テレビ報道の人たちは必死に働いている。たとえ視聴者がごく少数だとしても、民主主義の根幹にある選挙報道は、きっと彼らを奮い立たせるテーマなのだろう。そこにちょっと共感した。
このブログを読まれるみなさんも、上記の僕と同様に“もの好き”だと思う。(失礼!) しかし、そのみなさんでさえ、時々思うのではないだろうか。「この人は一体何のためにこんなブログを書いているのか?」と。実は僕も時々そう思う。
ん~、でも書きたいのだ。ただ、書きたい。
まあ、強いて、テレビ報道の人たちのような立派な理由を掲げるとすれば、“企業の実態を表現する会計は重要だから”ということになるだろうか。“民主主義の根源”というほどの重要性はないかもしれないが、千差万別で絶えず変化し続ける、得体のしれない生き物である企業という抽象的なものを、財務という限定された一面からであっても表現する手法を持つことは人類共通の財産である、と書いても大袈裟ではない。企業は人々の協働の場となり、イノベーションを起こし、社会を変革していくと同時に、協働する人々の生計を支えていく。会計は、その企業のビジネスの一面を捉え、投資を促し、経営者評価の材料となり、企業経営の基盤となる。
このように、会計は、企業(やその一部である事業)を財務面から表現した、関係者間のコミュニケーションの道具だ。重要なのは、会計によってそのコミュニケーションが促進されること、効率的になること。したがって、会計はなるべく多くの人に理解されうる明瞭なものでなければならない。人類共通の財産である理由はそこにある。そういう意味で、“明瞭性の原則”は、会計の本質に関わる重要な原則だと思う。
ということで、このシリーズの前回(421-12/4)は、資本・利益区分の原則について記載したが、今回のテーマは“明瞭性の原則”としたい。
|
関係する一般原則 |
“会計面”の内容 |
◯ |
資本・利益区別の原則 |
会計の基本計算理(損益計算) |
◯ |
明瞭性の原則 |
F/Sの表示、注記 |
? |
継続性の原則 |
同一事象には同一処理 |
◯ |
保守主義の原則 |
会計上の見積り |
N/A |
単一性の原則 |
複数のF/Sがあっても会計記録は同一 |
(明瞭性の原則)
企業会計は、財務諸表によって、利害関係者に対し必要な会計事実を明瞭に表示し、企業の状況に関する判断を誤らせないようにしなければならない。
(IFRSの概念フレームワーク)
このような重要な“明瞭性の原則”をIFRSの概念フレームワークはどのように表現しているだろうか。実は、あちこちに記述が分散している。即ち、“第3章 有用な財務情報の質的特性”のうち、基本的な質的特性である“目的適合性”や“忠実な表現”、及び、補助的な質的特性である“理解可能性”あたりに散りばめられている。というか、見方によっては、第3章全体が“明瞭性の原則”なのかもしれない。
行為規定 vs. 情報規定
これはこのシリーズで繰り返し書いてきたことだが、企業会計原則は財務諸表の作成者に対して「こうしなさい」とか「これはダメ」などと、作成者の行為を規定している。一方、IFRSの概念フレームワークでは、“第3章 有用な財務情報の質的特性”というタイトルでも分かる通り、「情報がこういう性質を持っていれば有用といえる」と書いている。即ち、情報が持つべき特性を規定している。この表現方法の違いが、企業会計原則と概念フレームワークの構成や規定に大きな違いを与えている。
上記に「第3章全体が“明瞭性の原則”なのかもしれない」と書いたが、概念フレームワークには“明瞭”という言葉は1か所にしか出てこない。しかし、もし、“明瞭”という言葉を使わないで“企業の実態を誤解させない明瞭さ”を説明したらどうなるか、即ち、「財務情報が有用であることの条件」を表現しようとしたらどうなるか考えてみると、
・情報が目的にあっていて(=目的適合性がある)
・情報が実態を表わしていて(=忠実な表現をしている)
・かつ、分かりやすい(=理解可能性がある)
となるのではないか、と気が付いた。
企業会計原則は行為を規定するので、「誤解されないよう明瞭に表示しなさい」と簡潔に記述できるが、概念フレームワークは情報を規定するので、このように3つの要素を挙げなければならなかった。そう思うのだ。
ちなみに、この“第3章 有用な財務情報の質的特性”には、これ以外に以下の項目が記述されている。
・比較可能性(補強的な質程特性)
「比較可能性は、項目間の類似点と相違点を利用者が識別し理解することを可能にする質的特性である(QC21)」と定義されているので、理解を促進させるという意味では理解可能性の一部ともいえるかもしれない。そういう意味で、これも“明瞭性の原則”に関係する。
・検証可能性(補強的な質程特性)
これも同様で、「検証可能性は、その情報が表示しようとしている経済現象を忠実に表現していることを利用者に確信させるのに役立つ(QC26)」とされているので、この特性も財務諸表の利用者の理解を促進させる。したがって、“明瞭性の原則”に関係する。
・適時性(補強的な質程特性)
これは、「適時性とは、意思決定者の決定に影響を与えることができるように適時に情報を利用可能とすることを意味する(QC29)」とされていて、さすがに“明瞭性の原則”に関連するとは言えないだろう。
・コストの制約
これも、“明瞭性の原則”に関連するとは言えないだろう。
ところで、日本では“コスト制約”というと“重要性の原則”が思いつくが、IFRSでは“重要性”とこの“コスト制約”は別物と考えられている。それについては後述する。
ということで、“第3章 有用な財務情報の質的特性”の多くの項目が“明瞭性の原則”に関連していることが分かっていただけると思う。
“重要性”の位置づけ
企業会計原則の“重要性の原則”は、注解1に記載されている。そして注解1は、一般原則の“正規の簿記の原則”とこの“明瞭性の原則”の2か所にリファレンスされている。即ち、“重要性の原則”は、正確な会計帳簿の作成を求める“正規の簿記の原則”に関連する部分と、利害関係者の判断を誤らせない“明瞭性の原則”に関連する部分の2つの要素があることになる。このことを念頭に、“重要性の原則”が記載されている注解1(の一部)を見てみよう。
企業会計は、定められた会計処理の方法に従って正確な計算を行うべきものであるが、企業会計が目的とするところは、企業の財務内容を明らかにし、企業の状況に関する利害関係者の判断を誤らせないようにすることにあるから、重要性の乏しいものについては、本来の厳密な会計処理によらないで他の簡便な方法によることも正規の簿記の原則に従った処理として認められる。
重要性の原則は、財務諸表の表示に関しても適用される。
一般的には、帳簿作成に当たって簡便的な処理を行う場合は“正規の簿記の原則”に関連し、財務諸表の表示(注記を含む)を簡便的に行う場合は“明瞭性の原則”に関連すると考えられていると思う。
一方、概念フレームワークの“第3章 有用な財務情報の質的特性”では、 重要性について「(情報)の脱漏又は誤表示により、特定の報告企業に関する財務情報に基づいて利用者が行う意思決定に影響する可能性がある場合には、重要性がある(QC11)」とされている。目的適合性は、利用者の意思決定に違いを生じさせる特性なので、重要性は目的適合性の一側面と位置付けられている(QC11)。
これを企業会計原則で考えれば、「脱漏又は誤表示により」利用者が判断を誤るようなら、それは「必要な会計事実を明瞭に表示し」ていないので“明瞭性の原則”に反することになる。即ち、IFRSの“重要性”は、企業会計原則の“明瞭性の原則”に関連した概念ということになる。こういう形で、IFRSの目的適合性は、企業会計原則の“明瞭性の原則”に繋がっている。
では企業会計原則の“正規の簿記の原則”に繋がる注解1の重要性は、IFRSではどうなるのか。IASBは、それを含む概念を“コストの制約”(QC35~QC39)という別の言葉で表現している。ただ、その概念は“正規の簿記の原則”に繋がる重要性より広い。というのは、“コストの制約”の“コスト”は、作成者のコストだけでなく、利用者や、さらには資本市場全体のコストなど、IASBが会計規準設定主体という立場から考慮すべきものをすべて含んでいるからだ。
ということで、上述したように日本では「重要性というと“コスト制約”のこと」という印象が強い。しかし、IFRSを読むときには、企業会計原則の“明瞭性の原則”に対応するもののみに“重要性”という言葉が使われており、“コストの制約”という場合は、作成者だけでなくもっと広い範囲のコストも入ってくることに、若干、注意した方が良い。
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“会計学を学ぼう!”のこの原則のページにも記載されている通り、明瞭性の原則は、(上記の“人類の財産”である趣旨に加え)次の2つの内容を含むとされている。ちょっと細かい話になるので、ご興味のある方だけお読みいただきたい。
・財務諸表を区分表示したり、みやすい配列法、みやすい科目の分類法を採用するなどして財務諸表の概観性に考慮すること。
・財務諸表本体からは明らかにされない重要な会計方針、重要な後発事象などを財務諸表に付随する注記として開示すること。
(なお、このページには、この2つにそれぞれ“明瞭表示”と“適正表示”という見出しがついており、“明瞭表示”は財務諸表を、“適正表示”は注記を規定するかのように使われている。しかし、これらの使われ方は、IFRSや監査報告書で使用される同様の言葉と必ずしも対応していないと思われるので、引用するのをやめた。即ち、現在、企業会計原則以外では、このような使い分けはされないと思う。)
実は、これら“2つの内容”については、IFRSではIAS1号「財務諸表の表示」に委ねられており、概念フレームワークでは触れられていない。そして概念フレームワークには、“趣旨”に当たる部分が、有用な財務情報の質的特性のうちの基本的な質的特性である“目的適合性”や“忠実な表現”、及び、補助的な質的特性である“理解可能性”に散りばめられている。
“2つの内容”として記載されていることは、実は、企業会計原則でも一般原則ではなく、貸借対照表原則や注解に記載されている。“2つの内容”のうち、最初のものは“概観”に拘った記載をしているが、企業会計原則の貸借対照表原則にそのように記載があるわけではない。しかし、例えば貸借対照表の資産の部を1ページに収めようとするなど、実務的には考慮されている。IFRS(IAS1号)には“概観”に関する規定はなさそう。
但し、JICPA(=日本公認会計士協会)のHPに掲載された情報によれば、IAS1号は 12/19 に改正され、次のような内容が含まれているという。“概観”に関連すると思う。
本日公表されたIAS第1号の修正は、企業が自らの専門的な判断により、財務諸表に開示する情報を決定することを意図している。例えば、重要性の観点は財務諸表全体に適用されること、重要でない情報を含めることで財務開示の利便性が妨げられることを明確に示している。
なお、IAS1号の改正版の日本語訳は 12/26 日現在まだ公表されていない。
“2つの内容”のうち、2番目のものは注解に記載されており、今であれば“継続企業の前提”の注記もあってよいはずだが、企業会計原則の注解には記載されていない。IFRSは、“継続企業の前提”について概念フレームワークにも記述がある(ただ、“第3章 有用な財務情報の質的特性”ではなく、“第4章 1989年「フレームワーク」:残っている本文”。もちろん、IAS1号にも規定がある)。この辺りは、企業会計原則の時代、古さを感じさせる部分だ。
企業会計原則の注解1-4 では、財務諸表の次に重要な会計方針、その次にその他の注記、と順番が指定されているが、IFRSにはそれに該当する規定がない。したがって、企業の裁量に任されている。しかし、企業によって並びが違うので分かりにくい。
これに関連して、上記のHPの情報では、次のように記載されている。
財務開示における情報の表示場所や順番を、企業が専門的な判断により決定することも明確化している。
残念ながら、注記の場所が指定されている日本の開示に慣れ親しんだ我々にとっては、少々頭が痛い。但し、電子開示書類を見る場合は、検索機能を使用し特徴的なキーワードで注記へジャンプすることができる。痛い頭ではあるが、切替も必要かもしれない。
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