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2014年12月23日 (火曜日)

426.【QC02-14】会計面の比較~会計上の見積り(保守主義の原則)について

2014/12/23

浦和レッドダイヤモンズの槙野智章選手。このブログでも紹介した無観客試合の原因となった差別横断幕(3483/17)について、自身の見解をクラブに無断で Tweet したとクラブから咎められ、公開謝罪を求められていたそうだ。その経緯や槙野選手のコメントが日刊スポーツに掲載された。

 

日刊スポーツの記事)https://twitter.com/pfd1212/status/546603870122569728

問題となった槙野選手の Tweethttps://twitter.com/tonji5/status/442281928092180480

 

槙野選手は信念を持ってクラブからの要請を拒んでいる。素晴らしい。当然のことだが、槙野選手はクラブから俸給をもらい生計を立てている。そのクラブからのプレッシャーを跳ね返すためには、大変な勇気と、自分の考えに対する揺るぎない自信が必要だ。どちらも簡単に持てるものではない。

 

FIFAクラブワールドカップで3位となったオークランドシティで、フル出場を続けた岩田卓也選手もそうだが、世の中、素晴らしい人がたくさんいる。勇気と自信を持って人生を切り開いている人を見ていると、こちらまで希望が湧いてくる。本当にありがたい。

 

そんな勇気と自信を持って、会計上の見積りが行えたらどんなに良いだろう。会計上の見積りは経営、例えば経営計画と密接に関係しており、企業内部へ向かっては事業の方向性と希望(というより、プレッシャー?)を与え、企業外部へ向かっては予測価値や確認価値を与え利害関係者の意思決定を助ける。この見積りを行う人は、マスコミに騒がれることは滅多にないという意味では地味だが、実はそういうところで多くの人に影響を与え、社会に貢献している。いい加減にできないことは当然だが、自信を持つことも難しい。勇気(思い切り?)が必要だ。

 

槙野選手や岩田選手が勇気や自信を持つには、恐らく、多くのファンや関係者の後押しがあり、助けになってくれたに違いない。同じように会計上の見積りに勇気や自信を持てるよう後押ししてくれるのは、事業の現場やマーケティングからの情報やアイディアだが、実は会計基準も貢献しているはずだ。でも、どのように?

 

このシリーズの前回(42412/16)は、明瞭性の原則について記載したので、今回はいよいよ最後の保守主義の原則、というか、会計上の見積りの比較になる。

                                   
 

 

 
 

関係する一般原則

 
 

“会計面”の内容

 
 

 
 

資本・利益区別の原則

 
 

会計の基本計算理(損益計算)

 
 

 
 

明瞭性の原則

 
 

F/Sの表示、注記

 
 

 
 

継続性の原則

 
 

同一事象には同一処理

 
 

 
 

保守主義の原則

 
 

会計上の見積り

 
 

N/A

 
 

単一性の原則

 
 

複数のF/Sがあっても会計記録は同一

 

 

 

 

(保守主義の原則)

 

企業の財政に不利な影響を及ぼす可能性がある場合には、これに備えて適当に健全な会計処理をしなければならない。

 

(注解4
企業会計は、予測される将来の危険に備えて慎重な判断に基づく会計処理を行わなければならないが、過度に保守的な会計処理を行うことにより、企業の財政状態及び経営成績の真実な報告をゆがめてはならない。

 

保守主義に関しては、既に記載した1。今回は、この保守主義の原則が、主に“会計上の見積り”を行う際に要請される点に着目し、“会計上の見積り”に関する企業会計原則とIFRSの相違について検討したい。

 

この“会計上の見積り”について、企業会計原則とIFRSを比べるとき、まず思いつくのは、会計上の見積りが必要となる項目が、企業会計原則が制定された時代に比べて大幅に広がったという点だ。我々の世代は、「現代の会計は取得原価主義で発生主義である」と習った。しかし、IFRSは発生主義ではあるが、もはや取得原価主義ではないと思う。それぐらい、見積りの範囲が拡大した。

 

取得原価主義なら過去の支出額が資産計上額決定のベースになる。支出額でB/Sに記録できるのであれば、会計上の見積りはあまり必要がない。だから企業会計原則の時代の会計上の見積りは、引当金や、未払費用や前払費用といった経過・未経過項目というほんの一握りの項目に限られていた。

 

それに対してIFRSは見積りだらけだ。ちょっと詳しく見てみよう。

 

まず、公正価値項目。

 

IFRSでは公正価値は見積りとして定義されている2。即ち、公正価値項目はすべて見積り項目ということになる。

 

そして、原価項目。

 

「原価項目なら見積りはいらないだろう」と思ったら大間違い。こちらも見積りだらけだ。

 

・負債性金融商品の事後測定(=決算整理時の評価手続)では、一部について割引現在価値ベースの見積りを行う(=償却原価、IFRS9や用語集3)。償却原価で測定されない金融商品は、公正価値で測定される。即ち、金融商品は流動・固定を問わず、すべて見積りだ。

 

・棚卸資産や有形固定資産、無形資産には減損手続がある。即ち、支出額は、将来キャッシュフローで回収できる範囲についてのみ資産計上できるので、毎期、そのテストのために、将来キャッシュフローの割引額(=使用価値)の見積りが必要になる。支出額のうち回収可能額を超える部分は強制的に損失処理されるから、支出額より見積額が優先されていると考えられる。即ち、IFRSでは、資産を取得するのにいくら支出したかではなく、将来の収入予想額が資産評価のベースだ。したがって、もはや、支出額によって資産を測定する取得原価主義ではない。

 

・有形固定資産や無形資産には減価償却手続がある。「減価償却は見積りか?」と思われた方がいるかもしれない。見積りだ、というか見積りに変わった。日本基準でも、減価償却方法や耐用年数、残存価額の変更は、会計方針の変更ではなく見積りの変更へ扱いが変わった。これは減価償却が見積もりであると同時に、その減価償却累計額が控除されたB/S計上額も見積りであることを示している。

 

それでは見積りでない項目はないのか? 基本的にはないと思う。なぜなら、概念フレームワークの第1章「一般目的財務報告の目的」には、財務諸表の読者のニーズは、「企業への将来の正味キャッシュ・インフローの見通しを評価するのに役立つ情報」(OB3)にあるとされているからだ。B/S計上額は、企業の将来キャッシュ・インフローを示唆する情報であることが求められているから、過去の支出額ではなく将来の収入額をベースに置くようになっている。それらは将来情報だから、すべて見積りだ。

 

なお、P/Lは実際の収入額や支出額がベースになっている。但し、上述のような事後測定による損益(=決算整理による評価損益や償却費)も計上されるので、結論(=包括利益や純利益)は、見積りに大きな影響を受ける。これに対し、キャッシュ・フロー計算書には見積りはない。

 

以上のように、企業会計原則の制定当時と現在のIFRSでは“会計上の見積り”の位置づけは全然違う。それでも企業会計原則は保守主義の原則を一般原則という高い次元に位置付けていた。恐らく、見積り項目が引当金など限定された項目のみであっても、決算に与える影響の大きさと恣意性の介在する可能性の高さを考慮したのだと思う。

 

一方、IFRSは概ね「すべてのB/S項目が見積り」という状況なので、“会計上の見積り”は、企業会計原則以上に概念フレームワークで大きく扱われていることが想像される。実際、概念フレームワークの第1章には次のような記述がある。(OB11

 

かなりの部分について、財務報告書は正確な描写ではなく見積り、判断及びモデルに基づいている。本「概念フレームワーク」は、そうした見積り、判断及びモデルの基礎となる概念を定めている。

 

かなりの部分”の原語は“a large extent”で、直訳すれば“大きな範囲”。概念フレームワークも見積り対象の広さを認めて、その基礎概念を定めるとしている。しかし、この文章は、次のように続く。

 

その概念は、当審議会及び財務報告書の作成者の努力目標である。目標の大半がそうであるように、本「概念フレームワーク」の財務報告に関する理想像は、少なくとも短期的には、完全には達成できそうにない。

 

「会計上の見積りの概念を定めるが、それは努力目標であり、直ちに達成できるものではない」という。ちょっと頼りない。こんな概念フレームワークは、果たして、我々に勇気と自信を与えてくれるだろうか。それは次回に見ていきたい。

 

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1 保守主義について

企業会計原則は、一般原則としては、不利な影響に備えて“適当に健全な会計処理”を求めているが、注解では、“過度に保守的な会計処理”はダメと書いている。これに対してIFRSは概念フレームワークの“忠実な表現”の説明を“「完全」で、「中立的」で、「誤謬がない」”ことと述べており(QC12)、さらに“中立的な描写”の説明では、意図的に低めの測定値を使うなどといった情報操作を否定している(QC14)。

 

“一般原則と注解は違うのか?”、“さらに企業会計原則とIFRSは違うのか?”という疑問については、このシリーズの以下の記事に記載した。

 

40810/16 「リスク管理-リスクへの備え(日本の保守主義)」

41010/21 「リスク管理-IFRSの保守主義」

 

要は、保守主義はリスク管理、即ち、内部統制の一部というのが僕の考えだ。企業会計原則はリスク管理という内部統制を会計処理と区別せず、というか、会計処理の一過程と考えて、会計原則の守備範囲にしているが、IFRSは内部統制と会計処理を区分して考えており、会計処理面だけを守備範囲にして“中立的”と言っている、と僕は思っている。

 

2 IFRS13「公正価値測定」の 2 項から定義の一部を抜粋

現在の市場の状況下で測定日時点で市場参加者の間で資産の売却又は負債の移転の秩序ある取引が生じるであろう価格を見積ることである(すなわち、当該資産を保有しているか又は当該負債を負っている市場参加者の観点からの測定日現在の出口価格)。

 

3 用語集(Glossary)の1ページ目より、金融資産又は金融負債の償却原価の定義

金融資産又は金融負債の当初認識時に測定された金額から元本返済額を控除し、当初金額と満期金額との差額についての実効金利法による償却累計額を加減し、さらに減損又は回収不能額を(直接又は貸倒引当金勘定を通じて)控除したもの

将来の予想収入額と契約期間における減価(又は増価)を見積ったものを、“償却原価”と称している。“支出額”は、原価算定の基礎にもなっていない。

 

 

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