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2014年12月30日 (火曜日)

428.【番外編】原発廃炉の会計処理が“問題あり”だって?~その2~ちょっと横道

2014/12/30

昨日の日経平均株価は 89 円ほど下落して、17,729.84 円に留まった。もし大納会(30日)で 8日の 17,935.64 円を超えて引ければ、3年連続年初来高値で年越しできるそうだが(これを“大納会高値引け”というらしい)、それにはあと 200円あまり上昇する必要がある。果たして達成できるだろうか。もしそうなれば、3年連続というのは戦後初ということで、記録的な大変おめでたい話になるのだが、それに水を差したこの日の下落の理由は、エボラだという。次の記事だ。

 

シエラレオネから帰国後発熱=都内の男性、エボラ感染検査―厚労省Yahoo ニュース 12/29 11:17

 

記事を読む限り、男性の発熱はエボラである可能性は低く、さらに帰国後は外出を控えているし、発熱後直ちに保健所へ連絡したので当局の管理下にあると思われる。社会的な、或いは経済的な不安要素のある内容はでないと思う。これでどうして株価が動くのだろうか。一時下げ幅は 300 円に迫ったというが(日経電子版 12/29 無料記事)、このニュースで株を売るなんて、まるで、豆腐の角に頭をぶつけるのを恐れて逃げ出すようなものだ。

 

僕はこう感じたが、みなさんはいかがだろうか。

 

もしかしたら、株を売った人たちは“厚労省”に引っかかったのかもしれない。厚労省が“可能性は低い”というなら、きっと“可能性は高い”に違いないとか、厚労省が“帰国してから外出してない”というなら、きっと“どこかのクリスマス・パーティで大騒ぎしていた”と、想像してしまったかもしれない。まあ、これは冗談だが。(たちが悪い?)

 

26 日の NHK スペシャル「38万人の甲状腺検査~被ばくの不安とどう向き合うのか」でも感じたが、コミュニケーション、特に、不安に対処するためのコミュニケーションは難しい。厚労省だけでなく官僚組織というものは、いやいや、官僚組織だけでなく民間企業もあまり上手でないことが多いように思う。例えば、エアバック・リコール問題のタカタや、中国の食品会社の生産管理の杜撰さで責められたマクドナルドも、その例かもしれない。

 

僕も監査人として企業の財務情報の公表に関わるなかで、(財務的な)リスクを開示するにあたって、実態を過不足なく伝えることの難しさを感じてきた。例えば、社会的に話題になるような事件に巻き込まれて、ある会社に多額の損失が発生したとする。それは、第一義的には、関連業務を依頼された外部者(複数)が発見・防止すべきだったが、それらの外部者がミスしてスルーしたので、会社に損害が発生した(もちろん、この会社にも責任はある)。そこで、会社は外部者へ訴訟を起こしたとする。このようなとき、監査人と会社は、次のようなやり取りをするかもしれない。

 

監査人「損失は計上しないのですか?」

 

会社 「はい。」

 

監査人「この事件に巻き込まれて損失ゼロというのは驚きですね。どうしてですか?」

 

会社 「その部分の損失は全額外部者へ請求してるんです。相手は拒否したので訴訟を提起しました。勝算は十分あります。ですから、損害賠償金収入を計上したので、ネットすれば損失額はゼロになります。確かに、裁判ですから当方の言い分が100%認められるとは限りません。しかし、会社としては自信を持っています。損害賠償金収入は全額計上するので、ネットの損失計上はできません。少なくとも、まだ損失は確定していないのです。計上したくても計上できません。」

 

監査人「しかし、まったく計上しなくてよいのですか?」

 

会社 「分かりません。裁判は始めたばかりで、まだ分からないのです。それに損失計上すると裁判が不利になることも考えられます。訴訟を起こして損害賠償請求しているのに、実は決算でそれを自ら放棄していると誤解されかねません。ですから、計上できません。」

 

そして監査人が詳しく検討してみても、損失額を外部者へ請求する根拠は十分あると思えたとする。しかし、このまま、この部分についてまったく損失計上しなくてよいだろうか。地域社会や顧客、金融機関の関心も高い。このような場合、どうやったら、関心を持つ人々に過大な不安を与えたり、逆に過度に楽観させないよう実態を開示できるだろうか。

 

① いくら相手に非があるように思えても、訴訟が会社の思い通りになるとは限らない。会社の請求が減額されることは想定できるし、考えにくいとはいえ敗訴する可能性もゼロではないだろう。

 

② かといって、敗訴を前提に損失計上するのは“過度に保守的”であり、経済的な実態と乖離する。財務諸表の利用者の不安を掻きたてるだけだ。

 

③ 一方、損失を計上しない場合、この損失に係る経緯や内容を詳しく開示する機会が失われるのではないか。すると、財務情報の読み手の関心を、スルーしてしまうことになる。これでは会社の誠実性に関して、悪い印象を与えるのではないか。恐らく、これは最悪だ。

 

④ 損失計上しなくても、(偶発債務の)注記で詳しく状況説明すれば足りるだろうか。その注記で、請求額の減額や敗訴のリスクを表現できるだろうか。注記だけではインパクトが軽すぎて、楽観させてしまうのではないか。或いは、逆に、③ほどではないにしても、会社の誠実性を疑う人もでてくるのではないか。

 

難しい。会社としては、巻き込まれて負うことになった損失に、過度に注目されることは避けたいだろう。それでなくても、社会的に話題になった事件と重ね合わされ、妙に悪い印象がついてしまっている。できれば、一言「大丈夫です。影響はたいしたことありません」と簡単に済ませたいに違いない。しかし、避けようとすればするほど関心は集まるし、寄せられた関心をスカせば不信感を持たれかねない。これも人情だ。さて、財務諸表の利用者が、「なるほど、そうなっているのか」と納得できるような表現、損失の計上や注記の方法は、どういうものだろうか。

 

僕の体験では、次のように対処した。もちろん、これは万能な方法ではないし、みなさんの参考になるようなものでもない。それになにより“正確な見積り”ではない。しかし、小さいが、一歩、踏込んだと思う。

 

(会計処理)

 

被告となっている外部者は複数あるが、その一部については、会社が仮に完全勝訴しても財務的な理由で損害賠償金を支払えないかもしれない。そこで、その回収不能額を厳格に見積り損失計上する(=引当金を計上する)。その際、財政基盤に問題のない他の被告との連帯責任が判決で確定し、回収可能性が高まることについては考慮しないし、減額されればその一部の外部者も支払できるといった可能性も考慮しない。このようにすると、事実上不可能な裁判の結果予想を避けて、多少は実態に近付けるだろうと考えた。

 

(注記)

 

損失に至った経緯や損失額の見積り方法、訴訟の提起について、具体的だが簡潔に記載するとともに、敗訴した場合の最大損失額も財務諸表の読者に推測できるように表現することにした。

 

今考えると、さらに「計上した損失額は、状況の推移に応じて将来大きく修正される可能性がある状況」も、注記の中に付け加えた方が良かったかもしれない。

 

 

おっと、話が逸れ過ぎて戻ってこれなくなりそうだ。今回のテーマは、前回(42712/28)に引続き、原発廃炉の会計処理についてだ。前回は、ニュースを辿って“総合資源エネルギー調査会 電力・ガス事業分科会 原子力小委員会”の公表文書を見たのだが、今回はさらにその下部ワーキング・グループである“廃炉に係る会計制度検証ワーキンググループ”の議事録等を見ることになっていた。

 

しかし、書いているうちに、【番外編】ではなく、12/23の「426.QC02-14】会計面の比較~会計上の見積り(保守主義の原則)について」の続きのようになってしまった。折角書いて勿体ないので、いずれ、426 の続きの中でもこの話を利用することにして、今回は【番外編】の流れに戻そう。とはいえ、もう長文になってきたので、残りは、なぜこんなことを書いたかを、なるべく簡潔に記載して終わりにしよう。

 

 

実は、この議事録等を読んでいて、このワーキング・グループ(以下WGと略す)を運営する事務局(官僚)のまるで“結論ありき”のような運営姿勢を感じてしまった。そして上記 NHKスペシャルにでてくる「放射能の影響はない」という“結論ありき”のような福島県立医科大学の説明姿勢と共通点を感じた。

 

WG事務局も、福島県立医科大学も、それぞれエネルギー政策の専門家と放射線医学の専門家であり、行動を起こす前から結論が見えているのかもしれない。しかし、NHKが取上げたように、そのような姿勢は時と場合によって、関係者を苛立たせたり、不安を煽ったりする。(そしてこれは、会計や監査の専門家である公認会計士も、関与先との間でしばしば経験することだ。)

 

僕がこのNHKスペシャルを見た感想は、次のようなものだった。

 

福島県立医科大学は、当初は「住民の放射能に対する過度の不安を抑える」目的で、簡単に放射能のリスクは低いと言い過ぎるなど、反って不安を煽った。その姿勢と相まって、甲状腺被ばくの検査についても、対象となる子供の親などから不満が出ていて、検査率が大幅に低下した。しかし、その後、地道に小規模の説明会を重ねるとか、近隣自治体や医療機関と連携した検査を受けやすい仕組みづくりをするなど、状況を改善すべく努力を重ねている。リスク・コミュニケーションは難しいけど、これらの努力が実るといいなあ。

 

要するに、難しいことにトライしてうまくいかずに大変だったけど、学習して、自らの考えを変えて、状況を改善しつつあるというポジティブな感想を持った。しかし、福島県立医科大学は、この番組を非常にネガティブに捉えたようだ。即ち、自分たちは批判されていると受け取ったらしい。下記のページには、この番組に対する放射線医学県民健康管理センター(福島県と福島県立医科大学)の反論が公開されている。

 

NHKスペシャル「38万人の甲状腺検査~被ばくの不安とどう向き合うのか」について 12/27

 

これを読んで感じたのは、番組の部分、部分を拾い上げて反論しているが、全体の流れ(=リスク・コミュニケーションは難しいが、改善しようと努力している)は見ていないように思えることだ。恐らく、この番組の中で、検査対象の子供の母親の一人が述べたことの意味が、まだ分かっていないのではないか。記憶で申し訳ないが、次のようなことだったと思う。

 

(小規模の説明会に参加して)放射能の影響は、本当はまだ良く分かっていないことが分かった。「放射能の影響は心配ない」という結論ありきの説明には不安を感じ、その不安から逃れようと検査を避けていたが、本当は良く分かっていないのであれば、私たちも検査に協力する方が良いと思った。

 

検査を受けても不安から逃れられない。でも「不安はない」と簡単に説明される。すると、ますます不安になる。だったら検査を受けても苛立つだけだから、検査を受けるのは止めよう。この心理に目が向かない限り、リスク・コミュニケーションは上手くいかない。

 

しかし、福島県立医科大学は「我々専門家には権威がある。その専門家が“心配ない”と言えば、不安は収まる」と、当初誤解していたようで、それがつまずく原因となった。逆に不安を煽ったのだ。権威は肩書だけで得られるものではないということだろう。さらにいえば、肩書があるのに権威を認められていないということは、個人的な信頼を失っている。だから、信頼回復が、失地回復のスタート地点だ。

 

そういう意味で、小規模な説明会を繰返すことは重要だと思う。そこで、実態を親御さんたちに分かってもらう、良いことも悪いことも知らせることが、同じ方向を向く唯一の方法なのだと思う。小規模な説明会を行っている医師たちは、地道で大変な努力をしていて、きっと、そのあたりのことをよく分かっているに違いない。しかし、上記の反論を書いたり指示した立派な肩書を持って福島県立医科大学を背負うような立場の人々は、分かっていないようだ。分かっていないから、番組が本当に言いたいことを理解できなかったのではないか。それで部分部分を取上げて、反論している。それで、読むと的外れな印象が残る。

 

廃炉に係る会計制度検証WGの議事録等に、これと共通する印象を持ったというのは、ちょっとオーバーかもしれない。しかし、WGに参加している委員の方々と事務局の間にギャップが感じられ、果たして議論がかみ合っているのか不安になった。事務局には電力会社の経営問題を会計制度の変更でサポートしよう、解決しようという意図があり、“会計は実態を表現するに過ぎない”といった一部の委員の言葉を聞き流しているように思う。

 

会計では経済実態を変えられない。経済実態が変われば会計も変わる。だから、会計制度を変更しても、経営問題を解決できるわけではない。経営問題を解決するには、経済実態を変える努力を積み重ねるしかない。

 

・・・と書いたところで、いよいよ長文になってきた。大変申し訳ないが、この続きはこのシリーズの次回へ繰越させていただきたい。

 

 

最後に、上記で「エボラのニュースが株式相場を下落させたのは、“厚労省”に引っかかったからだ」と書いたのは、完全に冗談なので、改めてここで強調させていただきたい。僕の意見はあくまで「このニュースで株を売る人の気がしれない」というものだ。こういうニュースで株価が動くから、“市場価格”は信頼がおけない。会計上も“市場価格”の信頼性が高まらないと考えている。

 

ちなみに、このニュースの方は、やはり陰性だったそうだ(「発熱男性はエボラ陰性 ウイルス検出されず、厚労省12/29 日経電子版無料記事)。

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