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2014年12月

2014年12月30日 (火曜日)

428.【番外編】原発廃炉の会計処理が“問題あり”だって?~その2~ちょっと横道

2014/12/30

昨日の日経平均株価は 89 円ほど下落して、17,729.84 円に留まった。もし大納会(30日)で 8日の 17,935.64 円を超えて引ければ、3年連続年初来高値で年越しできるそうだが(これを“大納会高値引け”というらしい)、それにはあと 200円あまり上昇する必要がある。果たして達成できるだろうか。もしそうなれば、3年連続というのは戦後初ということで、記録的な大変おめでたい話になるのだが、それに水を差したこの日の下落の理由は、エボラだという。次の記事だ。

 

シエラレオネから帰国後発熱=都内の男性、エボラ感染検査―厚労省Yahoo ニュース 12/29 11:17

 

記事を読む限り、男性の発熱はエボラである可能性は低く、さらに帰国後は外出を控えているし、発熱後直ちに保健所へ連絡したので当局の管理下にあると思われる。社会的な、或いは経済的な不安要素のある内容はでないと思う。これでどうして株価が動くのだろうか。一時下げ幅は 300 円に迫ったというが(日経電子版 12/29 無料記事)、このニュースで株を売るなんて、まるで、豆腐の角に頭をぶつけるのを恐れて逃げ出すようなものだ。

 

僕はこう感じたが、みなさんはいかがだろうか。

 

もしかしたら、株を売った人たちは“厚労省”に引っかかったのかもしれない。厚労省が“可能性は低い”というなら、きっと“可能性は高い”に違いないとか、厚労省が“帰国してから外出してない”というなら、きっと“どこかのクリスマス・パーティで大騒ぎしていた”と、想像してしまったかもしれない。まあ、これは冗談だが。(たちが悪い?)

 

26 日の NHK スペシャル「38万人の甲状腺検査~被ばくの不安とどう向き合うのか」でも感じたが、コミュニケーション、特に、不安に対処するためのコミュニケーションは難しい。厚労省だけでなく官僚組織というものは、いやいや、官僚組織だけでなく民間企業もあまり上手でないことが多いように思う。例えば、エアバック・リコール問題のタカタや、中国の食品会社の生産管理の杜撰さで責められたマクドナルドも、その例かもしれない。

 

僕も監査人として企業の財務情報の公表に関わるなかで、(財務的な)リスクを開示するにあたって、実態を過不足なく伝えることの難しさを感じてきた。例えば、社会的に話題になるような事件に巻き込まれて、ある会社に多額の損失が発生したとする。それは、第一義的には、関連業務を依頼された外部者(複数)が発見・防止すべきだったが、それらの外部者がミスしてスルーしたので、会社に損害が発生した(もちろん、この会社にも責任はある)。そこで、会社は外部者へ訴訟を起こしたとする。このようなとき、監査人と会社は、次のようなやり取りをするかもしれない。

 

監査人「損失は計上しないのですか?」

 

会社 「はい。」

 

監査人「この事件に巻き込まれて損失ゼロというのは驚きですね。どうしてですか?」

 

会社 「その部分の損失は全額外部者へ請求してるんです。相手は拒否したので訴訟を提起しました。勝算は十分あります。ですから、損害賠償金収入を計上したので、ネットすれば損失額はゼロになります。確かに、裁判ですから当方の言い分が100%認められるとは限りません。しかし、会社としては自信を持っています。損害賠償金収入は全額計上するので、ネットの損失計上はできません。少なくとも、まだ損失は確定していないのです。計上したくても計上できません。」

 

監査人「しかし、まったく計上しなくてよいのですか?」

 

会社 「分かりません。裁判は始めたばかりで、まだ分からないのです。それに損失計上すると裁判が不利になることも考えられます。訴訟を起こして損害賠償請求しているのに、実は決算でそれを自ら放棄していると誤解されかねません。ですから、計上できません。」

 

そして監査人が詳しく検討してみても、損失額を外部者へ請求する根拠は十分あると思えたとする。しかし、このまま、この部分についてまったく損失計上しなくてよいだろうか。地域社会や顧客、金融機関の関心も高い。このような場合、どうやったら、関心を持つ人々に過大な不安を与えたり、逆に過度に楽観させないよう実態を開示できるだろうか。

 

① いくら相手に非があるように思えても、訴訟が会社の思い通りになるとは限らない。会社の請求が減額されることは想定できるし、考えにくいとはいえ敗訴する可能性もゼロではないだろう。

 

② かといって、敗訴を前提に損失計上するのは“過度に保守的”であり、経済的な実態と乖離する。財務諸表の利用者の不安を掻きたてるだけだ。

 

③ 一方、損失を計上しない場合、この損失に係る経緯や内容を詳しく開示する機会が失われるのではないか。すると、財務情報の読み手の関心を、スルーしてしまうことになる。これでは会社の誠実性に関して、悪い印象を与えるのではないか。恐らく、これは最悪だ。

 

④ 損失計上しなくても、(偶発債務の)注記で詳しく状況説明すれば足りるだろうか。その注記で、請求額の減額や敗訴のリスクを表現できるだろうか。注記だけではインパクトが軽すぎて、楽観させてしまうのではないか。或いは、逆に、③ほどではないにしても、会社の誠実性を疑う人もでてくるのではないか。

 

難しい。会社としては、巻き込まれて負うことになった損失に、過度に注目されることは避けたいだろう。それでなくても、社会的に話題になった事件と重ね合わされ、妙に悪い印象がついてしまっている。できれば、一言「大丈夫です。影響はたいしたことありません」と簡単に済ませたいに違いない。しかし、避けようとすればするほど関心は集まるし、寄せられた関心をスカせば不信感を持たれかねない。これも人情だ。さて、財務諸表の利用者が、「なるほど、そうなっているのか」と納得できるような表現、損失の計上や注記の方法は、どういうものだろうか。

 

僕の体験では、次のように対処した。もちろん、これは万能な方法ではないし、みなさんの参考になるようなものでもない。それになにより“正確な見積り”ではない。しかし、小さいが、一歩、踏込んだと思う。

 

(会計処理)

 

被告となっている外部者は複数あるが、その一部については、会社が仮に完全勝訴しても財務的な理由で損害賠償金を支払えないかもしれない。そこで、その回収不能額を厳格に見積り損失計上する(=引当金を計上する)。その際、財政基盤に問題のない他の被告との連帯責任が判決で確定し、回収可能性が高まることについては考慮しないし、減額されればその一部の外部者も支払できるといった可能性も考慮しない。このようにすると、事実上不可能な裁判の結果予想を避けて、多少は実態に近付けるだろうと考えた。

 

(注記)

 

損失に至った経緯や損失額の見積り方法、訴訟の提起について、具体的だが簡潔に記載するとともに、敗訴した場合の最大損失額も財務諸表の読者に推測できるように表現することにした。

 

今考えると、さらに「計上した損失額は、状況の推移に応じて将来大きく修正される可能性がある状況」も、注記の中に付け加えた方が良かったかもしれない。

 

 

おっと、話が逸れ過ぎて戻ってこれなくなりそうだ。今回のテーマは、前回(42712/28)に引続き、原発廃炉の会計処理についてだ。前回は、ニュースを辿って“総合資源エネルギー調査会 電力・ガス事業分科会 原子力小委員会”の公表文書を見たのだが、今回はさらにその下部ワーキング・グループである“廃炉に係る会計制度検証ワーキンググループ”の議事録等を見ることになっていた。

 

しかし、書いているうちに、【番外編】ではなく、12/23の「426.QC02-14】会計面の比較~会計上の見積り(保守主義の原則)について」の続きのようになってしまった。折角書いて勿体ないので、いずれ、426 の続きの中でもこの話を利用することにして、今回は【番外編】の流れに戻そう。とはいえ、もう長文になってきたので、残りは、なぜこんなことを書いたかを、なるべく簡潔に記載して終わりにしよう。

 

 

実は、この議事録等を読んでいて、このワーキング・グループ(以下WGと略す)を運営する事務局(官僚)のまるで“結論ありき”のような運営姿勢を感じてしまった。そして上記 NHKスペシャルにでてくる「放射能の影響はない」という“結論ありき”のような福島県立医科大学の説明姿勢と共通点を感じた。

 

WG事務局も、福島県立医科大学も、それぞれエネルギー政策の専門家と放射線医学の専門家であり、行動を起こす前から結論が見えているのかもしれない。しかし、NHKが取上げたように、そのような姿勢は時と場合によって、関係者を苛立たせたり、不安を煽ったりする。(そしてこれは、会計や監査の専門家である公認会計士も、関与先との間でしばしば経験することだ。)

 

僕がこのNHKスペシャルを見た感想は、次のようなものだった。

 

福島県立医科大学は、当初は「住民の放射能に対する過度の不安を抑える」目的で、簡単に放射能のリスクは低いと言い過ぎるなど、反って不安を煽った。その姿勢と相まって、甲状腺被ばくの検査についても、対象となる子供の親などから不満が出ていて、検査率が大幅に低下した。しかし、その後、地道に小規模の説明会を重ねるとか、近隣自治体や医療機関と連携した検査を受けやすい仕組みづくりをするなど、状況を改善すべく努力を重ねている。リスク・コミュニケーションは難しいけど、これらの努力が実るといいなあ。

 

要するに、難しいことにトライしてうまくいかずに大変だったけど、学習して、自らの考えを変えて、状況を改善しつつあるというポジティブな感想を持った。しかし、福島県立医科大学は、この番組を非常にネガティブに捉えたようだ。即ち、自分たちは批判されていると受け取ったらしい。下記のページには、この番組に対する放射線医学県民健康管理センター(福島県と福島県立医科大学)の反論が公開されている。

 

NHKスペシャル「38万人の甲状腺検査~被ばくの不安とどう向き合うのか」について 12/27

 

これを読んで感じたのは、番組の部分、部分を拾い上げて反論しているが、全体の流れ(=リスク・コミュニケーションは難しいが、改善しようと努力している)は見ていないように思えることだ。恐らく、この番組の中で、検査対象の子供の母親の一人が述べたことの意味が、まだ分かっていないのではないか。記憶で申し訳ないが、次のようなことだったと思う。

 

(小規模の説明会に参加して)放射能の影響は、本当はまだ良く分かっていないことが分かった。「放射能の影響は心配ない」という結論ありきの説明には不安を感じ、その不安から逃れようと検査を避けていたが、本当は良く分かっていないのであれば、私たちも検査に協力する方が良いと思った。

 

検査を受けても不安から逃れられない。でも「不安はない」と簡単に説明される。すると、ますます不安になる。だったら検査を受けても苛立つだけだから、検査を受けるのは止めよう。この心理に目が向かない限り、リスク・コミュニケーションは上手くいかない。

 

しかし、福島県立医科大学は「我々専門家には権威がある。その専門家が“心配ない”と言えば、不安は収まる」と、当初誤解していたようで、それがつまずく原因となった。逆に不安を煽ったのだ。権威は肩書だけで得られるものではないということだろう。さらにいえば、肩書があるのに権威を認められていないということは、個人的な信頼を失っている。だから、信頼回復が、失地回復のスタート地点だ。

 

そういう意味で、小規模な説明会を繰返すことは重要だと思う。そこで、実態を親御さんたちに分かってもらう、良いことも悪いことも知らせることが、同じ方向を向く唯一の方法なのだと思う。小規模な説明会を行っている医師たちは、地道で大変な努力をしていて、きっと、そのあたりのことをよく分かっているに違いない。しかし、上記の反論を書いたり指示した立派な肩書を持って福島県立医科大学を背負うような立場の人々は、分かっていないようだ。分かっていないから、番組が本当に言いたいことを理解できなかったのではないか。それで部分部分を取上げて、反論している。それで、読むと的外れな印象が残る。

 

廃炉に係る会計制度検証WGの議事録等に、これと共通する印象を持ったというのは、ちょっとオーバーかもしれない。しかし、WGに参加している委員の方々と事務局の間にギャップが感じられ、果たして議論がかみ合っているのか不安になった。事務局には電力会社の経営問題を会計制度の変更でサポートしよう、解決しようという意図があり、“会計は実態を表現するに過ぎない”といった一部の委員の言葉を聞き流しているように思う。

 

会計では経済実態を変えられない。経済実態が変われば会計も変わる。だから、会計制度を変更しても、経営問題を解決できるわけではない。経営問題を解決するには、経済実態を変える努力を積み重ねるしかない。

 

・・・と書いたところで、いよいよ長文になってきた。大変申し訳ないが、この続きはこのシリーズの次回へ繰越させていただきたい。

 

 

最後に、上記で「エボラのニュースが株式相場を下落させたのは、“厚労省”に引っかかったからだ」と書いたのは、完全に冗談なので、改めてここで強調させていただきたい。僕の意見はあくまで「このニュースで株を売る人の気がしれない」というものだ。こういうニュースで株価が動くから、“市場価格”は信頼がおけない。会計上も“市場価格”の信頼性が高まらないと考えている。

 

ちなみに、このニュースの方は、やはり陰性だったそうだ(「発熱男性はエボラ陰性 ウイルス検出されず、厚労省12/29 日経電子版無料記事)。

2014年12月28日 (日曜日)

427.【番外編】原発廃炉の会計処理が“問題あり”だって?

2014/12/28

数日前の話で恐縮だが、みなさんも、下記のニュースを聴いたと思う。経済産業省の有識者会議が原子力発電所の廃炉の会計処理について、「電力会社の負担を減らす特例措置を拡大するべき」という内容を含む中間報告を出したという。これは気になる。

 

原子力事業の在り方などで中間報告 12/24 NHK

 

会計方針や見積り方法を変更する場合、適正なのは次の2パターンしかない。

 

・実態が変化したので、それに合わせて会計方針や見積り方法を変更する。

 

・従来が間違っていたか、或いは、より良い方法が発見されたので、正しい方法やより良い方法へ変更する。

 

「財務諸表の利用者に影響を与えない範囲で作成者の負担を軽減する」という変更もあり得るが、これは、財務諸表の利用者にとって重要性がない項目の変更なので、ここでは取上げない。

 

何れの場合も目的は「財務諸表の利用者のため」だ。それ以外はありえない。このニュースの件はどちらなのだろうか。ところが、このニュースを見る限りでは、どちらでもなく、「電力会社の負担を軽減する」のが目的のように思えてしまう。本当だろうか。事実を確認してみよう、ということで、経産省のホームページを探してみた。

 

有識者会議の“中間報告”とは、これのことらしい。

 

場所)総合資源エネルギー調査会 電力・ガス事業分科会 原子力小委員会‐中間整理

 

ここに「中間整理」という PDF ファイルの文書が置いてある。そのP10 に次のように記載されている。

 

【廃炉に関する会計関連制度】

 

○原子力事業者が、廃炉の判断に伴って一括して費用が発生するおそれがあるという財務・会計上の理由から、廃炉判断を先送りするなど、事業者の合理的な判断を歪めるようなこと、事業者の最善の安全投資・不断の安全性向上に影響を及ぼすことは、厳に避けるべきである。

 

○また、廃炉判断を行った事業者に一括で多額の費用が発生し、場合によっては、廃炉の着実な遂行や電力の安定供給の確保に支障を来すという事態も避けるべきである。

 

○電力システム改革が進展していく中で、民間事業者が、適切かつ円滑な廃炉判断を行うとともに、廃炉を行う場合に廃止措置が安全かつ確実に進むよう、政府は必要な政策措置について検討を行うべきである(詳細はⅥ.に記載)。

 

詳細はⅥ.”とあるので、それも引用する。それは P19 にある。

 

【廃炉に関する会計関連制度】

 

○40年運転制限制の導入など安全規制ルールが見直される中、現行の会計・料金制度では、

 

①廃炉の判断に伴って一括して費用が発生するおそれがあり、財務・会計上の理由から事業者が廃炉判断の先送りや運転を継続する判断を行う可能性や、事業者の最善の安全投資・不断の安全性向上に影響を及ぼすおそれ

 

②廃炉判断を行った事業者に一括で多額の費用が発生し、場合によっては、廃炉の着実な遂行や電力の安定供給の確保に支障を来す可能性といった懸念がある。

 

○電力システム改革が進展していく中で、民間事業者が、適切かつ円滑な廃炉判断を行うとともに、廃炉を行う場合に廃止措置が安全かつ確実に進むよう、料金・会計の専門家も参加する場において、以下のような政策措置について検討を行う。

 

電力システム改革・自由化の進展を見据えつつ、原子力政策の変更や安全規制の変更によって廃炉に関する計画外の費用(※)が発生する場合に、一度に当該費用を発生させるのではなく、その後、一定期間をかけて償却・費用化を認める会計措置、及びそのために必要となる手当(平準化・激変緩和のための措置)。

 

※「バックフィット制度」や「運転期間延長認可制度(40年運転制限制)」等の影響により、計画外に発生する廃炉に伴う費用(資産の残存簿価、廃炉費用のうち引当が済んでいない分、その他これらに準ずるもの)

 

○原発依存度を低減させていく中において、財務会計上の理由から廃炉の判断が影響を受けることを回避し、事業者による廃炉の判断とその実施が適切かつ円滑に行われるよう、特に高経年炉7基の運転期間延長の申請期間が来年4月~7月に設定されていることも踏まえ、検討を進める。

 

なるほど。目的を正確にいえば「電力会社の負担軽減」ではなく、「廃炉の判断をスムーズに行う」ためのものらしい。これはもっともらしい目的だ。だが、冒頭に記載した会計処理の変更の適正な目的のいずれでもない。もっともらしいが、何かおかしい。財務諸表の利用者のためになっていないように思う。

 

そもそも、「原子力事業者が、廃炉の判断に伴って一括して費用が発生するおそれがあるという財務・会計上の理由から、廃炉判断を先送りする」などということがあってよいのだろうか。公益事業の経営者として恥ずべき行為だ。廃炉を検討するということは、「現状を続けるより廃炉にした方が良い可能性」が見えているということだ。普通なら、現状を続ける場合の将来キャッシュ・フローと、廃炉にした場合の将来キャッシュ・フローを試算して比較を行うことになる。

 

いや、そういう生易しいことばかりではないらしい。「廃炉判断を行った事業者に一括で多額の費用が発生し、場合によっては、廃炉の着実な遂行や電力の安定供給の確保に支障を来す可能性といった懸念がある」とされているので、廃炉が電力会社の倒産に直結する状況を想定している。

 

電力会社の経営者としては、会社を倒産させたくない。だから、廃炉にしてすぐ倒産するよりも、もっと大きな損害が将来発生すると分かっていても、廃炉にせず事業を継続する可能性がある、と心配しているのだ。

 

僕の想像が入るが、もっと分かりやすく具体的に書いてみよう。

 

・福島の事故以降の原子力規制の強化は電力会社の想定以上の厳しさであり、想定外の廃炉を求められることが現実的になってきているが、電力会社にそのような財務的な体力がない。恐らく、倒産する事業者が具体的に想定されている(例えば、活断層問題で、敦賀原発2号機の再稼働が難しくなった日本原子力発電株式会社、通称“げんでん”のことか)。

 

・将来、電力自由化(=料金設定の自由化や電力事業参入の自由化など)が進むと競争が激しくなり、電力会社の財務状況はさらに厳しくなることも予想される。その場合に経済的な理由から、最も重要な“原子力の安全”が軽んじられるかもしれないと心配している。

 

 

う~ん、いずれも電力会社の経営の問題であって、「会計処理に問題があるから直せ」という話ではないと思う。安全基準が満たせないで廃炉になるなら、その設備には収益獲得能力はないので損失計上せざるえない。電力会社の体力がないなら、その実態が分かるように表現せざるえない。会計とはそういうものだ。

 

もし、電力会社の経営問題を解決しようとするなら、廃炉設備であっても収益が稼げるような仕組みを作るか(まあ、普通はありえない)、廃炉による損失に見合った何らかの収入を外部から与えるかだろう。その結果、会計上、廃炉設備に資産性が生まれる、或いは、損失に見合った収入を計上できる。したがって、現状の会計処理を変える必要はない。このように、変える必要があるのは実態だ。

 

また、倒産や採算の悪化を恐れて原子力の安全を蔑にする経営経営者がいるというなら、原発は二度と再稼働させないでほしい。しかし、制度設計としては“いる”ことを前提にせざるえないのだろう。であれば、原子力規制庁の検査機能や権限を強化すべきだ。原子力規制委員会が廃炉の決定や経営者の処罰を行えるようにすればよい。これも、会計の問題ではない。

 

しかし、経産省の有識者会議(=原子力小委員会)が報道のような中間報告をしているということは、こんな単純思考ではなく、もっと深い考えがあるに違いない。だが、それは“中間整理”を見ても分からない。“中間整理”には、具体的な会計処理の変更内容の記載が乏しいので、何をどうしようというのか良く分からない。もっと情報はないだろうか。

 

ということで、経産省のHPを良く見ていくと、次のようなワーキンググループも活動していることが分かった。

 

廃炉に係る会計制度検証ワーキンググループ

(このリンクで開くページの一番下から二番目)

 

これこそ、ドンピシャだ。次回はこのワーキンググループの議事録等を読んで検討したい。

2014年12月23日 (火曜日)

426.【QC02-14】会計面の比較~会計上の見積り(保守主義の原則)について

2014/12/23

浦和レッドダイヤモンズの槙野智章選手。このブログでも紹介した無観客試合の原因となった差別横断幕(3483/17)について、自身の見解をクラブに無断で Tweet したとクラブから咎められ、公開謝罪を求められていたそうだ。その経緯や槙野選手のコメントが日刊スポーツに掲載された。

 

日刊スポーツの記事)https://twitter.com/pfd1212/status/546603870122569728

問題となった槙野選手の Tweethttps://twitter.com/tonji5/status/442281928092180480

 

槙野選手は信念を持ってクラブからの要請を拒んでいる。素晴らしい。当然のことだが、槙野選手はクラブから俸給をもらい生計を立てている。そのクラブからのプレッシャーを跳ね返すためには、大変な勇気と、自分の考えに対する揺るぎない自信が必要だ。どちらも簡単に持てるものではない。

 

FIFAクラブワールドカップで3位となったオークランドシティで、フル出場を続けた岩田卓也選手もそうだが、世の中、素晴らしい人がたくさんいる。勇気と自信を持って人生を切り開いている人を見ていると、こちらまで希望が湧いてくる。本当にありがたい。

 

そんな勇気と自信を持って、会計上の見積りが行えたらどんなに良いだろう。会計上の見積りは経営、例えば経営計画と密接に関係しており、企業内部へ向かっては事業の方向性と希望(というより、プレッシャー?)を与え、企業外部へ向かっては予測価値や確認価値を与え利害関係者の意思決定を助ける。この見積りを行う人は、マスコミに騒がれることは滅多にないという意味では地味だが、実はそういうところで多くの人に影響を与え、社会に貢献している。いい加減にできないことは当然だが、自信を持つことも難しい。勇気(思い切り?)が必要だ。

 

槙野選手や岩田選手が勇気や自信を持つには、恐らく、多くのファンや関係者の後押しがあり、助けになってくれたに違いない。同じように会計上の見積りに勇気や自信を持てるよう後押ししてくれるのは、事業の現場やマーケティングからの情報やアイディアだが、実は会計基準も貢献しているはずだ。でも、どのように?

 

このシリーズの前回(42412/16)は、明瞭性の原則について記載したので、今回はいよいよ最後の保守主義の原則、というか、会計上の見積りの比較になる。

                                   
 

 

 
 

関係する一般原則

 
 

“会計面”の内容

 
 

 
 

資本・利益区別の原則

 
 

会計の基本計算理(損益計算)

 
 

 
 

明瞭性の原則

 
 

F/Sの表示、注記

 
 

 
 

継続性の原則

 
 

同一事象には同一処理

 
 

 
 

保守主義の原則

 
 

会計上の見積り

 
 

N/A

 
 

単一性の原則

 
 

複数のF/Sがあっても会計記録は同一

 

 

 

 

(保守主義の原則)

 

企業の財政に不利な影響を及ぼす可能性がある場合には、これに備えて適当に健全な会計処理をしなければならない。

 

(注解4
企業会計は、予測される将来の危険に備えて慎重な判断に基づく会計処理を行わなければならないが、過度に保守的な会計処理を行うことにより、企業の財政状態及び経営成績の真実な報告をゆがめてはならない。

 

保守主義に関しては、既に記載した1。今回は、この保守主義の原則が、主に“会計上の見積り”を行う際に要請される点に着目し、“会計上の見積り”に関する企業会計原則とIFRSの相違について検討したい。

 

この“会計上の見積り”について、企業会計原則とIFRSを比べるとき、まず思いつくのは、会計上の見積りが必要となる項目が、企業会計原則が制定された時代に比べて大幅に広がったという点だ。我々の世代は、「現代の会計は取得原価主義で発生主義である」と習った。しかし、IFRSは発生主義ではあるが、もはや取得原価主義ではないと思う。それぐらい、見積りの範囲が拡大した。

 

取得原価主義なら過去の支出額が資産計上額決定のベースになる。支出額でB/Sに記録できるのであれば、会計上の見積りはあまり必要がない。だから企業会計原則の時代の会計上の見積りは、引当金や、未払費用や前払費用といった経過・未経過項目というほんの一握りの項目に限られていた。

 

それに対してIFRSは見積りだらけだ。ちょっと詳しく見てみよう。

 

まず、公正価値項目。

 

IFRSでは公正価値は見積りとして定義されている2。即ち、公正価値項目はすべて見積り項目ということになる。

 

そして、原価項目。

 

「原価項目なら見積りはいらないだろう」と思ったら大間違い。こちらも見積りだらけだ。

 

・負債性金融商品の事後測定(=決算整理時の評価手続)では、一部について割引現在価値ベースの見積りを行う(=償却原価、IFRS9や用語集3)。償却原価で測定されない金融商品は、公正価値で測定される。即ち、金融商品は流動・固定を問わず、すべて見積りだ。

 

・棚卸資産や有形固定資産、無形資産には減損手続がある。即ち、支出額は、将来キャッシュフローで回収できる範囲についてのみ資産計上できるので、毎期、そのテストのために、将来キャッシュフローの割引額(=使用価値)の見積りが必要になる。支出額のうち回収可能額を超える部分は強制的に損失処理されるから、支出額より見積額が優先されていると考えられる。即ち、IFRSでは、資産を取得するのにいくら支出したかではなく、将来の収入予想額が資産評価のベースだ。したがって、もはや、支出額によって資産を測定する取得原価主義ではない。

 

・有形固定資産や無形資産には減価償却手続がある。「減価償却は見積りか?」と思われた方がいるかもしれない。見積りだ、というか見積りに変わった。日本基準でも、減価償却方法や耐用年数、残存価額の変更は、会計方針の変更ではなく見積りの変更へ扱いが変わった。これは減価償却が見積もりであると同時に、その減価償却累計額が控除されたB/S計上額も見積りであることを示している。

 

それでは見積りでない項目はないのか? 基本的にはないと思う。なぜなら、概念フレームワークの第1章「一般目的財務報告の目的」には、財務諸表の読者のニーズは、「企業への将来の正味キャッシュ・インフローの見通しを評価するのに役立つ情報」(OB3)にあるとされているからだ。B/S計上額は、企業の将来キャッシュ・インフローを示唆する情報であることが求められているから、過去の支出額ではなく将来の収入額をベースに置くようになっている。それらは将来情報だから、すべて見積りだ。

 

なお、P/Lは実際の収入額や支出額がベースになっている。但し、上述のような事後測定による損益(=決算整理による評価損益や償却費)も計上されるので、結論(=包括利益や純利益)は、見積りに大きな影響を受ける。これに対し、キャッシュ・フロー計算書には見積りはない。

 

以上のように、企業会計原則の制定当時と現在のIFRSでは“会計上の見積り”の位置づけは全然違う。それでも企業会計原則は保守主義の原則を一般原則という高い次元に位置付けていた。恐らく、見積り項目が引当金など限定された項目のみであっても、決算に与える影響の大きさと恣意性の介在する可能性の高さを考慮したのだと思う。

 

一方、IFRSは概ね「すべてのB/S項目が見積り」という状況なので、“会計上の見積り”は、企業会計原則以上に概念フレームワークで大きく扱われていることが想像される。実際、概念フレームワークの第1章には次のような記述がある。(OB11

 

かなりの部分について、財務報告書は正確な描写ではなく見積り、判断及びモデルに基づいている。本「概念フレームワーク」は、そうした見積り、判断及びモデルの基礎となる概念を定めている。

 

かなりの部分”の原語は“a large extent”で、直訳すれば“大きな範囲”。概念フレームワークも見積り対象の広さを認めて、その基礎概念を定めるとしている。しかし、この文章は、次のように続く。

 

その概念は、当審議会及び財務報告書の作成者の努力目標である。目標の大半がそうであるように、本「概念フレームワーク」の財務報告に関する理想像は、少なくとも短期的には、完全には達成できそうにない。

 

「会計上の見積りの概念を定めるが、それは努力目標であり、直ちに達成できるものではない」という。ちょっと頼りない。こんな概念フレームワークは、果たして、我々に勇気と自信を与えてくれるだろうか。それは次回に見ていきたい。

 

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1 保守主義について

企業会計原則は、一般原則としては、不利な影響に備えて“適当に健全な会計処理”を求めているが、注解では、“過度に保守的な会計処理”はダメと書いている。これに対してIFRSは概念フレームワークの“忠実な表現”の説明を“「完全」で、「中立的」で、「誤謬がない」”ことと述べており(QC12)、さらに“中立的な描写”の説明では、意図的に低めの測定値を使うなどといった情報操作を否定している(QC14)。

 

“一般原則と注解は違うのか?”、“さらに企業会計原則とIFRSは違うのか?”という疑問については、このシリーズの以下の記事に記載した。

 

40810/16 「リスク管理-リスクへの備え(日本の保守主義)」

41010/21 「リスク管理-IFRSの保守主義」

 

要は、保守主義はリスク管理、即ち、内部統制の一部というのが僕の考えだ。企業会計原則はリスク管理という内部統制を会計処理と区別せず、というか、会計処理の一過程と考えて、会計原則の守備範囲にしているが、IFRSは内部統制と会計処理を区分して考えており、会計処理面だけを守備範囲にして“中立的”と言っている、と僕は思っている。

 

2 IFRS13「公正価値測定」の 2 項から定義の一部を抜粋

現在の市場の状況下で測定日時点で市場参加者の間で資産の売却又は負債の移転の秩序ある取引が生じるであろう価格を見積ることである(すなわち、当該資産を保有しているか又は当該負債を負っている市場参加者の観点からの測定日現在の出口価格)。

 

3 用語集(Glossary)の1ページ目より、金融資産又は金融負債の償却原価の定義

金融資産又は金融負債の当初認識時に測定された金額から元本返済額を控除し、当初金額と満期金額との差額についての実効金利法による償却累計額を加減し、さらに減損又は回収不能額を(直接又は貸倒引当金勘定を通じて)控除したもの

将来の予想収入額と契約期間における減価(又は増価)を見積ったものを、“償却原価”と称している。“支出額”は、原価算定の基礎にもなっていない。

 

 

2014年12月20日 (土曜日)

425.【番外編】“中国監査”の途中経過

2014/12/20

3332/25 [中国監査、何が起こってる?]の記事で、Big4と呼ばれる米国大手監査法人が、米SECの判事に「中国部門による米国上場企業の監査業務を半年間禁止する」判決を受けたと記載した。この件について、久しぶりに WSJ に続報が載ったので紹介したい。

 

12/16 米4大会計事務所とSEC、中国監査めぐる和解協議に進展

(これは有料記事だが、なぜかログインしなくても、今(12/19)、僕は全文を読むことができる。もしかしたら、WSJ の購読契約をしていない方も、今なら読めるかもしれない。)

 

このタイトルには“進展”とあるので「状況が変わったのでは」と期待を持たせるが、ポイントは次の3点。

 

・SECとBig4は、和解に向けた協議をしている。

・3回目の控訴審弁論の延期が決まり、来年2月26日へ先送りされた。

・延期は今回が最後と見込まれている。

 

というわけで、僕の能力では何が“進展”なのか、そしてこれからどうなるのか、この記事では分からない。「中国では、監査調書は“国家機密”に当たるので、検査のためであってもSECへ提出できない」という監査法人側の主張は、果たして認められるのだろうか。

 

 

と、これだけでは寂しいのでもう少し突っ込んでみよう。

 

“控訴審弁論”についてだが、控訴審は第2審以降の審理のこと、弁論はその最初に行われるもののようなので、どうも次のような状況らしい。

 

・すでに第1審は終了している。

 

恐らく、SECの判事が上記の判決を下しているので、それが第1審ということだと思われる。

 

・どうやら第2審は始まっておらず、その前に和解協議をしている。

 

今回が最後の延期だとすれば、和解は来年2月26日までに行われる。もし、それまでに和解できなければ、そこから第2審が始まる。

 

和解の内容についての情報は全くない。どうやら、WSJ がこの記事のタイトルで“進展”としたのは、和解の内容が固まってきたという意味ではなく、“最後の延期と見込まれる”、即ち、“結論が出る時期が固まった”ことを指すのかもしれない。

 

和解協議が続いているということは、白・黒はっきりした結果ではない結論が出される可能性がある。即ち、Big4は非を認めるが、“監査業務の半年禁止”は多くの上場企業に及びあまりにも影響が大きいので、それに代わる何らかの代償を支払う、例えば、金銭的な解決を図ることが考えられる。

 

但し、過去についてそのような合意ができたとしても、今後も引続き監査調書が提出されない状況が続くことは、SECは容認しないのではないか。例えば、最近も Bloomberg には次のような記事が載せられている。SECにとっては、中国企業や米国企業の中国子会社のガバナンスの難しさから生じる不正や開示のリスクは、決して見過ごせないはずだ。中国監査を監督できないなどということは、受け入れられないだろう。

 

12/10 米ウォルマートの中国部門で利益水増しと未承諾販売慣行(無料記事)

 

一方、監査法人側は「それなら中国当局とSECで直接交渉してくれ」と言うしかない。中国の法律を監査法人が変えることはできない。

 

もし、中国監査をBig4の中国部門(=Big4それぞれに属する中国法で設立された監査法人)に任せないで、Big4が自ら直接監査を行うことで“監査調書の国家機密化”を回避できるなら、SECはそれを求めるかもしれない(或いは、監査コストを考慮して、日本などの米PCAOBの検査を受入れる周辺国の監査法人へ中国監査を委託する可能性もある)。Big4にとっては、手塩にかけて育ててきた中国部門の経営に壊滅的打撃を食らうことになるので受け入れがたいと思うが、もはや監査人を犬としか見ていないSEC(3652013/5/27 [米国のIFRS停滞に変化の兆し? SEC 委員長ホワイト氏のスピーチ]の末尾)は容赦しないだろう。といっても、これはまったくの想像にすぎない。

 

う~ん、突っ込んでも全然霧は晴れない。ただ、日本にも似たような問題・悩みはあるはずで、関係者の関心は高いはず。僕も興味津々なので、引続き注目していきたい。

2014年12月16日 (火曜日)

424.【QC02-13】会計面の比較~明瞭性の原則

2014/12/26 IAS1号の改正から、関連する情報を追加(赤文字)。

 

2014/12/16

衆院議員選挙の開票番組を2時半ごろまで(各党への議席配分が決まるまで)見ていたが、ふっと、「この番組を見ている人は、今、何人いるのだろう?」と思った。前夜、番組が始まった瞬間に事前報道通り与党の圧勝が見えていたし、投票率は低かったし、翌日はブルー・マンディーだし。こんな深夜まで起きている僕のようなもの好きはきっとごく少人数に違いない。

 

しかし、テレビ報道の人たちは必死に働いている。たとえ視聴者がごく少数だとしても、民主主義の根幹にある選挙報道は、きっと彼らを奮い立たせるテーマなのだろう。そこにちょっと共感した。

 

このブログを読まれるみなさんも、上記の僕と同様に“もの好き”だと思う。(失礼!) しかし、そのみなさんでさえ、時々思うのではないだろうか。「この人は一体何のためにこんなブログを書いているのか?」と。実は僕も時々そう思う。

 

ん~、でも書きたいのだ。ただ、書きたい。

 

まあ、強いて、テレビ報道の人たちのような立派な理由を掲げるとすれば、“企業の実態を表現する会計は重要だから”ということになるだろうか。“民主主義の根源”というほどの重要性はないかもしれないが、千差万別で絶えず変化し続ける、得体のしれない生き物である企業という抽象的なものを、財務という限定された一面からであっても表現する手法を持つことは人類共通の財産である、と書いても大袈裟ではない。企業は人々の協働の場となり、イノベーションを起こし、社会を変革していくと同時に、協働する人々の生計を支えていく。会計は、その企業のビジネスの一面を捉え、投資を促し、経営者評価の材料となり、企業経営の基盤となる。

 

このように、会計は、企業(やその一部である事業)を財務面から表現した、関係者間のコミュニケーションの道具だ。重要なのは、会計によってそのコミュニケーションが促進されること、効率的になること。したがって、会計はなるべく多くの人に理解されうる明瞭なものでなければならない。人類共通の財産である理由はそこにある。そういう意味で、“明瞭性の原則”は、会計の本質に関わる重要な原則だと思う。

 

ということで、このシリーズの前回(42112/4)は、資本・利益区分の原則について記載したが、今回のテーマは“明瞭性の原則”としたい。

                                   
 

 

 
 

関係する一般原則

 
 

“会計面”の内容

 
 

 
 

資本・利益区別の原則

 
 

会計の基本計算理(損益計算)

 
 

 
 

明瞭性の原則

 
 

F/Sの表示、注記

 
 

 
 

継続性の原則

 
 

同一事象には同一処理

 
 

 
 

保守主義の原則

 
 

会計上の見積り

 
 

N/A

 
 

単一性の原則

 
 

複数のF/Sがあっても会計記録は同一

 

 

 

(明瞭性の原則)

 

企業会計は、財務諸表によって、利害関係者に対し必要な会計事実を明瞭に表示し、企業の状況に関する判断を誤らせないようにしなければならない。

 

 

(IFRSの概念フレームワーク)

 

このような重要な“明瞭性の原則”をIFRSの概念フレームワークはどのように表現しているだろうか。実は、あちこちに記述が分散している。即ち、“第3章 有用な財務情報の質的特性”のうち、基本的な質的特性である“目的適合性”や“忠実な表現”、及び、補助的な質的特性である“理解可能性”あたりに散りばめられている。というか、見方によっては、第3章全体が“明瞭性の原則”なのかもしれない。

 

行為規定 vs. 情報規定

 

これはこのシリーズで繰り返し書いてきたことだが、企業会計原則は財務諸表の作成者に対して「こうしなさい」とか「これはダメ」などと、作成者の行為を規定している。一方、IFRSの概念フレームワークでは、“第3章 有用な財務情報の質的特性”というタイトルでも分かる通り、「情報がこういう性質を持っていれば有用といえる」と書いている。即ち、情報が持つべき特性を規定している。この表現方法の違いが、企業会計原則と概念フレームワークの構成や規定に大きな違いを与えている。

 

上記に「第3章全体が“明瞭性の原則”なのかもしれない」と書いたが、概念フレームワークには“明瞭”という言葉は1か所にしか出てこない。しかし、もし、“明瞭”という言葉を使わないで“企業の実態を誤解させない明瞭さ”を説明したらどうなるか、即ち、「財務情報が有用であることの条件」を表現しようとしたらどうなるか考えてみると、

 

・情報が目的にあっていて(=目的適合性がある)

・情報が実態を表わしていて(=忠実な表現をしている)

・かつ、分かりやすい(=理解可能性がある)

 

となるのではないか、と気が付いた。

 

企業会計原則は行為を規定するので、「誤解されないよう明瞭に表示しなさい」と簡潔に記述できるが、概念フレームワークは情報を規定するので、このように3つの要素を挙げなければならなかった。そう思うのだ。

 

ちなみに、この“第3章 有用な財務情報の質的特性”には、これ以外に以下の項目が記述されている。

 

・比較可能性(補強的な質程特性)

 

比較可能性は、項目間の類似点と相違点を利用者が識別し理解することを可能にする質的特性であるQC21)」と定義されているので、理解を促進させるという意味では理解可能性の一部ともいえるかもしれない。そういう意味で、これも“明瞭性の原則”に関係する。

 

・検証可能性(補強的な質程特性)

 

これも同様で、「検証可能性は、その情報が表示しようとしている経済現象を忠実に表現していることを利用者に確信させるのに役立つQC26)」とされているので、この特性も財務諸表の利用者の理解を促進させる。したがって、“明瞭性の原則”に関係する。

 

・適時性(補強的な質程特性)

 

これは、「適時性とは、意思決定者の決定に影響を与えることができるように適時に情報を利用可能とすることを意味するQC29)」とされていて、さすがに“明瞭性の原則”に関連するとは言えないだろう。

 

・コストの制約

 

これも、“明瞭性の原則”に関連するとは言えないだろう。

 

ところで、日本では“コスト制約”というと“重要性の原則”が思いつくが、IFRSでは“重要性”とこの“コスト制約”は別物と考えられている。それについては後述する。

 

ということで、“第3章 有用な財務情報の質的特性”の多くの項目が“明瞭性の原則”に関連していることが分かっていただけると思う。

 

“重要性”の位置づけ

 

企業会計原則の“重要性の原則”は、注解1に記載されている。そして注解1は、一般原則の“正規の簿記の原則”とこの“明瞭性の原則”の2か所にリファレンスされている。即ち、“重要性の原則”は、正確な会計帳簿の作成を求める“正規の簿記の原則”に関連する部分と、利害関係者の判断を誤らせない“明瞭性の原則”に関連する部分の2つの要素があることになる。このことを念頭に、“重要性の原則”が記載されている注解1(の一部)を見てみよう。

 

企業会計は、定められた会計処理の方法に従って正確な計算を行うべきものであるが、企業会計が目的とするところは、企業の財務内容を明らかにし、企業の状況に関する利害関係者の判断を誤らせないようにすることにあるから、重要性の乏しいものについては、本来の厳密な会計処理によらないで他の簡便な方法によることも正規の簿記の原則に従った処理として認められる。

重要性の原則は、財務諸表の表示に関しても適用される。

 

一般的には、帳簿作成に当たって簡便的な処理を行う場合は“正規の簿記の原則”に関連し、財務諸表の表示(注記を含む)を簡便的に行う場合は“明瞭性の原則”に関連すると考えられていると思う。

 

一方、概念フレームワークの“第3章 有用な財務情報の質的特性”では、 重要性について「(情報)の脱漏又は誤表示により、特定の報告企業に関する財務情報に基づいて利用者が行う意思決定に影響する可能性がある場合には、重要性があるQC11)」とされている。目的適合性は、利用者の意思決定に違いを生じさせる特性なので、重要性は目的適合性の一側面と位置付けられている(QC11)。

 

これを企業会計原則で考えれば、「脱漏又は誤表示により」利用者が判断を誤るようなら、それは「必要な会計事実を明瞭に表示し」ていないので“明瞭性の原則”に反することになる。即ち、IFRSの“重要性”は、企業会計原則の“明瞭性の原則”に関連した概念ということになる。こういう形で、IFRSの目的適合性は、企業会計原則の“明瞭性の原則”に繋がっている。

 

では企業会計原則の“正規の簿記の原則”に繋がる注解1の重要性は、IFRSではどうなるのか。IASBは、それを含む概念を“コストの制約”(QC35QC39)という別の言葉で表現している。ただ、その概念は“正規の簿記の原則”に繋がる重要性より広い。というのは、“コストの制約”の“コスト”は、作成者のコストだけでなく、利用者や、さらには資本市場全体のコストなど、IASBが会計規準設定主体という立場から考慮すべきものをすべて含んでいるからだ。

 

ということで、上述したように日本では「重要性というと“コスト制約”のこと」という印象が強い。しかし、IFRSを読むときには、企業会計原則の“明瞭性の原則”に対応するもののみに“重要性”という言葉が使われており、“コストの制約”という場合は、作成者だけでなくもっと広い範囲のコストも入ってくることに、若干、注意した方が良い。

 

 

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“会計学を学ぼう!”のこの原則のページにも記載されている通り、明瞭性の原則は、(上記の“人類の財産”である趣旨に加え)次の2つの内容を含むとされている。ちょっと細かい話になるので、ご興味のある方だけお読みいただきたい。

 

財務諸表を区分表示したり、みやすい配列法、みやすい科目の分類法を採用するなどして財務諸表の概観性に考慮すること。

 

財務諸表本体からは明らかにされない重要な会計方針、重要な後発事象などを財務諸表に付随する注記として開示すること。

 

(なお、このページには、この2つにそれぞれ“明瞭表示”と“適正表示”という見出しがついており、“明瞭表示”は財務諸表を、“適正表示”は注記を規定するかのように使われている。しかし、これらの使われ方は、IFRSや監査報告書で使用される同様の言葉と必ずしも対応していないと思われるので、引用するのをやめた。即ち、現在、企業会計原則以外では、このような使い分けはされないと思う。)

 

 

実は、これら“2つの内容”については、IFRSではIAS1号「財務諸表の表示」に委ねられており、概念フレームワークでは触れられていない。そして概念フレームワークには、“趣旨”に当たる部分が、有用な財務情報の質的特性のうちの基本的な質的特性である“目的適合性”や“忠実な表現”、及び、補助的な質的特性である“理解可能性”に散りばめられている。

 

“2つの内容”として記載されていることは、実は、企業会計原則でも一般原則ではなく、貸借対照表原則や注解に記載されている。“2つの内容”のうち、最初のものは“概観”に拘った記載をしているが、企業会計原則の貸借対照表原則にそのように記載があるわけではない。しかし、例えば貸借対照表の資産の部を1ページに収めようとするなど、実務的には考慮されている。IFRS(IAS1号)には“概観”に関する規定はなさそう。

 

但し、JICPA(=日本公認会計士協会)のHPに掲載された情報によれば、IAS1号は 12/19 に改正され、次のような内容が含まれているという。“概観”に関連すると思う。

 

本日公表されたIAS第1号の修正は、企業が自らの専門的な判断により、財務諸表に開示する情報を決定することを意図している。例えば、重要性の観点は財務諸表全体に適用されること、重要でない情報を含めることで財務開示の利便性が妨げられることを明確に示している。

 

なお、IAS1号の改正版の日本語訳は 12/26 日現在まだ公表されていない。

 

“2つの内容”のうち、2番目のものは注解に記載されており、今であれば“継続企業の前提”の注記もあってよいはずだが、企業会計原則の注解には記載されていない。IFRSは、“継続企業の前提”について概念フレームワークにも記述がある(ただ、“第3章 有用な財務情報の質的特性”ではなく、“第4章 1989年「フレームワーク」:残っている本文”。もちろん、IAS1号にも規定がある)。この辺りは、企業会計原則の時代、古さを感じさせる部分だ。

 

企業会計原則の注解1-4 では、財務諸表の次に重要な会計方針、その次にその他の注記、と順番が指定されているが、IFRSにはそれに該当する規定がない。したがって、企業の裁量に任されている。しかし、企業によって並びが違うので分かりにくい。

 

これに関連して、上記のHPの情報では、次のように記載されている。

 

財務開示における情報の表示場所や順番を、企業が専門的な判断により決定することも明確化している。

 

残念ながら、注記の場所が指定されている日本の開示に慣れ親しんだ我々にとっては、少々頭が痛い。但し、電子開示書類を見る場合は、検索機能を使用し特徴的なキーワードで注記へジャンプすることができる。痛い頭ではあるが、切替も必要かもしれない。

2014年12月11日 (木曜日)

423.【投資】中国の予想外の利下げ~その2

2014/12/11

11/26 の“その1”を公表してから、早や半月、続編を書くと予告してそのままにしていたが、9日、ついに株式相場は世界的な調整を始めてしまった。きっかけは上海株式の暴落(上海市場の代表的な株価指数上証総合指数も5.4%安と、2009年以来の下げ幅となった。WSJ 12/10 有料記事)にあるようだ(それにギリシャの政局不安が輪をかけた)。これは、単なる、ありふれた調整だろうか。それとも、大厄災(=経済危機)の前触れだろうか?

 

ちょっと緊張感のある書き出しだが、実はまだ余裕があると思ってる。理由は、中国政府は日本のバブル崩壊過程を研究しているので、当時の日本政府より適切に対応するだろうという期待だ。それと、現在、世界的な金融緩和の最中であることが大きい。

 

 

日本の 1989 年から 1991 年頃のバブル崩壊のプロセス(Wikipediaの“バブル崩壊”など)と、今の中国経済を単純に比べてみると、「もう中国経済はバブル崩壊過程に入っているのではないか」と思えてくる。特に、この夏から顕著になった不動産価格の全国的下落(REUTERS 9/16 無料記事日本総研HP 10/3付レポートなど)は、バブル崩壊の兆候どころか、実際の崩壊現象だ。それなのに、少なくとも先週まで世界の株式市場は、9月下旬から10月中旬にかけて大きめの調整があったものの、概ね順調に上昇してきた。では、中国バブルが崩壊しても、世界経済に影響はないのだろうか。

 

いや、そうではない。みなさんもご存じのとおり、中国経済の減速によってブラジルやオーストラリアなどの資源国・新興国経済は、輸出が不振で不況に陥っている。先進国の輸出も伸び悩んでいる。やはり、中国経済の存在感は大きい。では、なぜ株式市場は上昇していられるのか。

 

どうやら問題は、バブル崩壊それ自体ではなく、“崩壊の仕方”、或いは、“崩壊のスピード”にあるようだ。即ち、崩壊自体は避けられないが(というか、中国政府自身が高度成長から安定成長へ、固定資産投資中心から民間消費中心の経済へ変革させようとしている。これはバブルつぶし政策だ)、そのプロセスによっては、世界経済、或いは、株価にそれほど大きなダメージを与えない可能性もある。(まあ、ないこともない、ぐらいかもしれない。)

 

ということで、僕が知りたいのは次のことだ。

 

・中国政府が間違った崩壊の仕方へ舵を切った場合、それを知ることができるか

・崩壊のスピードが速すぎるかどうかをどうやって見分けるか

 

恐らく、それは中国のGDP成長率に現われるのではないだろうか。政府目標と実績値の乖離として。

 

ん~、しかし、これでは当たり前過ぎるし、遅すぎる。もっと早く知って、崩れる前に相場から手を引けるようにしなくては。それにはもう一段深く考える必要がある。どうやら、もう一回続編が必要なようだ。

 

 

ちなみに、上海市場の10日の相場は反発した。即ち、暴落が止まって上昇へ転じた。9日に暴落したのは、8日に発表された決済機関による短期融資規制の厳格化が、当局の金融引締めと市場参加者に受け取られたためだったようだ(冒頭のWSJ 12/10有料記事、REUTERS 12/10無料記事Bloomberg 12/9無料記事)。これでは先月の利下げと矛盾するし、シャドーバンキングの信用不安を煽ることにもなる。投資家はびっくりしたことだろう。

 

しかし、良く考えてみると、中央銀行による利下げは銀行から融資を受ける企業全体に波及するのに対し、このレポ取引の担保規則の厳格化は、レポ取引を利用している金融機関や一部企業が影響を受けるものの、より直接的にはシャドーバンキングのプラットフォーム企業などを狙ったものだ。これらが発行する格付けの低い債券に対する需要を減退させることが目的だ。

 

即ち、「GDP成長率目標達成のために利下げはしたが、シャドーバンキングは引き締める」ということになる。中国政府の政策は、まだブレていない。したがって、先月の利下げを含め、今は“まだ余裕がある”と判断してよさそうだ。10日の上海市場の反発にはそういう意味があるのではないか。上海市場はこのところ異常な上昇を続けていたが、9日にはそれが冷やされた。その意味でも、この担保の厳格化は良かったと思う(但し、欧米市場は調整が続いている。上海は、まだ冷やし方が足りないかもしれない)。

 

2014年12月 9日 (火曜日)

422.【米FASB】同じ場所へ行く目標はなくなった

2014/12/9

残念な報告がある。先週、2002年から2010 年までFASB(=米国財務会計基準審議会)議長を務められた Robert H. Herz 氏の講演を聴きに行った。その講演の後半は、元IASBメンバーである山田辰己氏との問答形式だったが、山田氏からの重ねての質問に対し Herz 氏は、米国がIFRSを強制適用することはないだろうとの見解を述べた。「単一で高品質の国際基準」はどこへ行ったのか?

 

Herz 氏は、IASBとFASBが最も協調的だった時期のFASB議長であり、その後もFASBなどについて継続して関心を寄せている。その方でさえ、米国では「IASBとFASBが同じ場所へ行こうという目標はなくなった」と見ていることは、それだけ残念な状況にあるということだろう。

 

これは、単に、IASBとFASBによるバイラテラルな共同プロジェクトが、一部の会計規準を共通化できたものの、差異も残った形でほぼ終了し、今後はASAF(=IFRS財団会計基準アドバイザリー・フォーラム)というマルチラテラルな規準開発体制へ移行した状況を表現したに過ぎない、という見方もできるかもしれない。即ち、この目標は、IASBとFASBだけのものではなく、FASBを始めとする多くの国の会計規準設定主体が参加しているASAFとの目標へ昇華したのだ。これなら前向きだ。

 

いや、前後の文脈から、そうはとれない。

 

ただ将来、米国企業のIFRS採用がオプションとして認められるようになる可能性については排除しなかった。米国でも、多国籍事業展開しているグローバル企業は、グループ内で会計規準が統一できることに魅力を感じているとのことだった。(現在でも、米国市場に上場している外国企業には、IFRSの適用が認められている。)

 

ではどうして米国はIFRSに慎重なのだろうか。

 

すでにご存じの方も多いと思うが、リーマン・ショックがきっかけになっている。米国企業は、事業環境が厳しくなる中で、「一応US-GAAPが機能しているのに、なぜコストをかけてIFRSへ移行しなければならないのか」という疑問を払しょくできないでいるようだ。逆にG20では、リーマン・ショックをきっかけにして、「単一で高品質の国際基準」の実現を要求し始めた(2009年ピッツバーグ・サミット)。好対照だ。

 

もっと具体的に米国の考えていることを知りたいという方は、新日本監査法人のHPにある資料を紹介する。201112月のちょっと古いスピーチだが、すでに「コンドースメント」に関する米SEC(=米国証券取引委員会)のスタッフ・ペーパーが公表され、それを受けてのものとなっている。当時のFASB議長である Leslie Seidman 氏が米国公認会計士協会の全国大会で行ったスピーチの翻訳だ。

 

AICPA年次カンファレンス FASB議長サイドマン氏のスピーチ詳細

 

こちらの方が、まだ Herz 氏の見通しより希望があるような気がする(コンバージェンス+一定分野の会計規準開発権の留保)。(ということは、米国はここからさらに減退したのか。米国の景気は回復してきているというのに。)

 

また、FASBの監督官庁であるSECの状況について知りたい方は、3655/27 の記事に、今年 5/20Mary Jo White 議長のスピーチ(翻訳)へのリンクを掲載している(JICPAのHP)。SECは、ようやくリーマン・ショックの教訓を金融機関の規制へ反映する立法作業に一段落付け、IFRSの問題へ取り掛かったようだ。

 

 

というわけで、Herz 氏の見通しは暗いものだったが、Robert H. Herz 氏自身が暗い人というわけではない。

 

3898/27 の記事にも似た名前の“Robert B. Hirth”氏の講演が出てくるが、こちらは COSO の議長であり、別人だ。講演の印象も、COSOのボブさんは新しい COSO の紹介(売込み?)だったこともあり営業マンの感じだったが、こちらのボブさんは慎重で穏やか。山田氏の鋭くトゲのある質問にも抑えて対応するなど、まさに洗練された会計人・経理マンの感じがする方だった。FASB時代にASBJと交流して印象深かったのは“カラオケ”だったらしい。まさか“サザン”や“ユーミン”は唄わなかったと思うが、ASBJメンバーの揉み手・擦り手の手拍子に載せられ、マイクを握った Herz 氏の姿を想像すると、意外に似合いそうだし、馴染みそうな感じがした。

 

 

最後に、まったく話題は変わるが、清水エスパルスのJ1残留を報告したい。残留が決定した瞬間、多くの選手が目を潤ませていた。競争の厳しさ、残酷さを思い知ったシーズンだったが、それゆえの感動もあった。最終戦でのチーム一丸の守りを教訓にして、来シーズンは躍進してほしい。

2014年12月 4日 (木曜日)

421.【QC02-12】会計面の比較~IFRSの資本・利益区別

2014/12/4

この数日、非常に寒い。僕の風邪は鼻からだが、どうも来たらしい。くしゃみのあとすぐに鼻水が出てくるので、「俺はエボラだ」と冗談を言っている暇もない。みなさんも、お気を付けください。

 

さて、前回(42012/2 の記事)は企業会計原則の“資本・利益区別の原則”を見たが、その結果、資本取引と損益取引を区分することは期間損益計算の基本計算原理(の前提)であり今なお重要だが、資本剰余金と利益剰余金の区別は、あまり意味がないことが分かった。これについて、IFRSはどのようになっているかを、今回見ていきたい。

 

まず、概念フレームワーク(2010年改定)について、概略を記載すると以下のとおり。ちょっと、驚愕というか、拍子抜けというか・・・

 

・第3章の“有用な財務情報の質的特性”には、これに関連する記述はない。

 

・第3章以外については、以下のとおり。

 

・第1章“一般財務報告の目的”には、ちょっとかする程度に関連する記述がある。例えば・・・

 

ある期間中の報告企業の財務業績に関する情報は、投資者及び融資者から追加的な資源を直接入手すること(OB21項参照)以外による経済的資源及び請求権の変動により反映されるものである・・・(OB18

 

報告企業の経済的資源及び請求権は、追加的な所有持分の発行などの財務業績以外の理由によっても変動することがある。・・・(OB21

 

(注)“経済的資源及び請求権”及び“(これらの)変動”が分かりにくいと思う。僕は次のように理解している。

経済的資源”は、B/Sの資産のこと。

請求権”は、B/Sの負債と持分のこと。

IFRSでは、収益や費用といったP/L項目は、資産や負債が変動する際の相手勘定として定義されるので、“(これらの)変動”とは“収益”や“費用”を指すものと思われる。

 

・第4章“1989年「フレームワーク」:残っている本文”(=2010年に改訂されず、以前の本文をそのまま引き継いだもので、資産・負債・資本(=持分)、収益・費用などの定義や認識規準、測定規準などについて記述されている)にも、ちょっと関連した記述がある。例えば・・・

 

持分は、4.4項で残余として定義されているが、貸借対照表において細分類されることがある。・・・こうした分類は、企業が持分を分配あるいは他の方法で利用する企業の能力についての法律上の又はその他の制限を示す場合、意思決定のための財務諸表利用者のニーズに目的適合性を持ち得る。こうした分類はまた、企業に対する所有持分を有する者が、配当の受領又は拠出資本の償還に関して、異なる権利を有しているという事実を反映することもある。4.20

 

現行の概念フレームワークには、第2章はなく、第4章で終わっている。したがって、以上で概念フレームワークをすべて概観したことになる。つまり、IFRSの概念フレームワークには、企業会計原則の“資本・利益区分の原則”に直接対応する記載がない。

 

 

僕が感じた疑問は次の点。

 

なぜ、損益計算の基本原理(の前提)である、資本取引と損益取引の区別の必要性に言及しないのか。

 

納得したのは次の点。

 

やはり、資本剰余金と利益剰余金の区別には言及してない。

 

 

これらについて、詳しく検討してみよう。

 

(なぜ、損益計算の基本原理(の前提)である、資本取引と損益取引の区別の必要性に言及しないのか。)

 

これを検討するには、問題を2つに分けて考えた方が良いと思う。1つは“損益計算の基本原理”について、IFRSと企業会計原則は同じか否か。もう一つは、もし“基本原理”が異なるとしても、“資本取引と損益取引の区別”のようなその基本原理の前提は、なお重要ではないのか。即ち、個別会計規準の基盤となるような重要性があるのではないか(=概念フレームワークに記載すべきではないか、それは書いてあるのか)。

 

まず前者についてだが、結論は「異なる」だ。企業会計原則は、P/L重視であるのに対し、IFRSはB/S重視(資産・負債アプローチ)と言われる。企業会計原則はP/Lで損益計算を行うとしているが、IFRSはB/Sの持分(=資本)の期首と期末の増減差額で損益計算を行うとしている。両者とも損益計算を行うことに関しては同じだが、そのプロセスが異なる。よって、“損益計算の基本原理”が異なっても不思議はない。

 

企業会計原則は、P/Lで損益計算を行うのでP/L項目を把握すること、即ち、損益取引項目を資本取引項目と混同しないことは極めて重要だ。一方、IFRSはB/Sで損益計算を行うので、B/S項目を把握することが重要となる。しかし、それならIFRSも“負債・持分区分の原則”みたいな両者を混同しないよう注意を喚起する記述があってもよいのではないか。もし、混同すれば、持分の期首と期末の差額にぶれが生じ、適切な損益計算ができなくなるのだから。しかし、それはない。これが、後者の疑問となっている。

 

では、この観点で、改めて概念フレームワークを見てみよう。

 

その第4章では、まず、資産・負債を定義し、次に資産と負債の残余(=資産-負債)として持分を定義している。したがって、負債さえ識別できれば、自然に持分と分けられるという発想のようだ。そして、資産・負債の増減のうち、持分参加者の出資や分配に関連しないものを収益・費用と定義している。

 

ここで、ふっと思ったのは、財務諸表構成項目である資産・負債・持分・収益・費用のうち、負債と持分の区別だけを特別扱いする必要があるか、ということだ。もし、負債と持分の区別に注意喚起するのであれば、他の項目についても同様の記載が必要になるかもしれない。

 

想像だが、IASBは負債と持分だけを特別扱いする必要がないと判断したのだと思う。もし、問題があっても個別規準で対応すればよい、と。実際に、負債性金融商品と資本性金融商品の区分については、IAS32号(金融商品:表示)などで対応している。例えば、複雑な条件の付いた新株引受権のような金融商品だ。これらは、仮に混同しても、相手勘定が損益ではないので発行側の損益計算に影響を与えるケースはあまりないという事情もあるかもしれない。

 

一方で、負債のような性質を持ちつつ資本性金融商品として発行側が会計処理できるような、紛らわしい金融商品がたくさん開発された。損益計算に影響はなくても、BIS規制の対象になるような金融機関など、資本の部がたくさんあるように見せかけたい動機を持つ発行企業は多いようだ。投資側も、なるべくリスクが低くて(即ち、負債に近く)、かつ、いざとなれば儲けが大きくなる商品(持分証券に近い)を歓迎する。おかげでIAS32号の規程は複雑怪奇なものになっている。もし、概念フレームワークで、持分と負債の区分について明確な方針を示すことができていたら、32号の規程がもっとシンプルでもその運用(=解釈)は、もっと楽になっていたかもしれない。

 

ん~、だが“明確な方針”などあるだろうか。ん~、そう注文付けるのは簡単だが、実際にその一線を引く規定を考えるのは困難かもしれない。

 

 

(やはり、資本剰余金と利益剰余金の区別には言及してない。)

 

こちらについては明快だ。上に引用した 4.20 を見ても分かるように、概念フレームワークでは資本金の区分表示でさえ必須ではない。会社法などの規制で利益の分配に影響があるとか、その他各国法制度などの事情で、持分の内訳開示に意味がある状況を記載しているだけだ。もちろん、損益計算に関連するような書き方は全く見られない。関連するはずもない。企業会計原則とは明らかに違う。

 

 

ということで、企業会計原則が一般原則に掲げて注意喚起している“資本・利益の区別”は、IFRSの概念フレームワークでは定義の記載に留まっており、ほとんどスルーされている。だが、それでも実害は限られているようだ。

 

2014年12月 2日 (火曜日)

420.【QC02-11】会計面の比較~資本・利益区別の原則

2014/12/2

みなさんもご存じのとおり、11/30(日)夜、ジュビロ磐田はJ1昇格プレーオフでモンテディオ山形に劇的な敗戦を喫した。ゲーム終了間際のコーナー・キックで、なんと相手チームのゴール・キーパー山岸範宏選手にヘッディングで決勝ゴールを奪われ、ほぼ手中にしていたJ1昇格決定戦への挑戦権を逃した。

 

友人のジュビロ・サポーターは呼吸以外は何もできないほどに意気消沈し、翌朝ようやく生気を取戻した。そしてもう今期のジュビロの試合はなくなったことに気付き、スカパーの解約を思い立った。しかし、もう12月になっていたので、12月分の視聴料は徴収されるそうだ。もうジュビロの試合はないのに。

 

この友人はあの悲惨なゲームのことを忘れて、今は、スカパーへ怒りを集中している。というか、あの悲劇を忘れるためにスカパーを利用しているのかもしれない。

 

僕も他人ごとではない。清水エスパルスは、リーグ最終節まで残留争いを強いられている。運命の試合は 12/6(土) 15:30 から。ジュビロの試合より開始時間が早い分、より長時間の意気消沈を強いられるだろう。もちろん、それは最悪のケースに限ってのことだが。大前選手がいるから、きっと大丈夫に違いない。

 

 

さて、どうも悪い方、悪い方へ考えてしまうので、気分を変えて本題へ入ろう。企業会計原則の一般原則と、IFRSの概念フレームワークにある有用な財務情報の質的特性を比較するシリーズも、佳境に入ってきた。前回(41811/28の記事)は継続性の原則と単一性の原則について記載した。今回は残ったうちの“資本・利益区別の原則”に関して検討を行う。

                                   
 

 

 
 

関係する一般原則

 
 

“会計面”の内容

 
 

 
 

資本・利益区別の原則

 
 

会計の基本計算理(損益計算)

 
 

 
 

明瞭性の原則

 
 

F/Sの表示、注記

 
 

 
 

継続性の原則

 
 

同一事象には同一処理

 
 

 
 

保守主義の原則

 
 

会計上の見積り

 
 

N/A

 
 

単一性の原則

 
 

複数のF/Sがあっても会計記録は同一

 

 

(資本・利益区分の原則)

 

資本取引と損益取引とを明瞭に区別し、特に資本剰余金と利益剰余金とを混同してはならない。

 

会計を勉強し始めたころは、資本取引と損益取引を区別することにどれほどの意味があるのか良く分からなかったが、今では「これが会計の基本計算原理である」と実感を持って理解できる。出資者は、投資元本とその運用果実を区分できなければ投資の採算が良いのかどうかを評価できないから、これは絶対に必要な原則だ。両者を区別し、運用果実を測定することこそ、会計の基本計算原理だ。

 

ところが、これに、あまりに強いイメージとこだわりを持ってしまうと、実際の株式投資はできない。というか、実際の株式投資では、資本剰余金と利益剰余金の区別は、意識されていない。

 

こう書くと、みなさんは「何言ってんの?」と思われるかもしれないが、事実は事実だ。

 

例えば、過去の運用果実の累積値である利益剰余金の大きさや、その利益剰余金と投資元本である資本金及び資本剰余金の合計額との比率で、企業業績を評価する人はいない。最近よく耳にする“ROE(=Return On Equity、自己資本利益率)”も、利益を割る分母には、株主資本、即ち、“資本金+資本剰余金+利益剰余金”を使うが、分子に期間利益を使う。利益剰余金を使うことはない。要するに、利益剰余金は資本剰余金と同列に扱われており、区別する必要がない。

 

ROE”は“JPX日経400”という今年公表が始まった新しい株価指数でも中心的な役割を果たしている。東証のHPには、「・・グローバルな投資基準に求められる諸要件を満たした・・」と説明が記載されているが、その“グローバル”部分は、この“ROE”が負うところが大きい。“ROE”こそが、グローバルな投資尺度というわけだ。

 

ところが、“ROE”には批判も多い。“ROE”を良くするには、分子の利益を増やすだけでなく、分母の株主資本を減らすという手もあり、それが株主からの多額の配当要求や自己株買い要求に結び付き企業経営の手かせ・足かせになったり、手許現金を減らしたり負債を増やすことに繋がり企業の財務的健全性を阻害するというのだ。

 

以上について、順に整理していこう。

 

 投資では“資本剰余金と利益剰余金は区別されない”について

 

この問題を理解するには、「B/Sに計上された利益剰余金は“過去の”運用果実」という点に着目する必要があると思う。投資家は「将来いくら果実を生むか」に関心を持つのであって、「既にこれだけ儲けた」という情報については、「過去に効率よく儲けた」+「今後もそのペースを継続できる」という条件が伴わない限り価値を感じない。ところが、利益剰余金残高にはこの条件を示す情報がない。

 

投資家は、この条件を確認するために、今後の業績予想や過去数年の利益の状況を見るが、その際に預金でいうところの“複利計算の利回り”の推移に注目する。即ち、当初の投資額(=資本金+資本準備金)に対してではなく、それに毎年の期初の利益剰余金残高を加えた期初株主資本に対していくら利益を上げたか(=ROE)を、経営者の能力評価やその企業の業績評価の基礎にする。

 

期間損益を計算するために資本取引と損益取引の区分は重要だ。しかし、投資家が複利計算の利回りを重視する限り、資本剰余金と利益剰余金の区別は重要でない。

 

では、投資家が複利計算の利回りで企業業績を評価することがおかしいのだろうか。むしろ、当初投資額(=資本金+資本剰余金)と稼得果実(=利益剰余金や期間利益)の比率で企業評価すべきだろうか。もしそうなら、企業会計原則のいうとおり「資本剰余金と利益剰余金とを混同してはならない」ということになる。しかし、残念ながら、この問いの答えは“No”だ。

 

資本剰余金は、欠損填補や利益剰余金からの振替で変動するし、更には会社法改正で配当原資としても使えるようになった。もはや“資本金+資本剰余金”は一定ではなく、“当初投資額”ともいえない。“資本金+資本剰余金”を分母にしても、企業経営の効率性・有効性を測る理論的に有意義な指標にならないのだ。

 

また、上場企業の投資家はいつでも企業の株を購入できるので、はるか昔の企業設立時や増資時の資本金や資本剰余金を基準に企業業績を考えることはない。直近の株主資本に対して、いくら利益を稼ぐかに着目する方が、上場企業の投資家の視点として合理的だ。

 

したがって、「期間損益を計算するために資本取引と損益取引の区分は重要だ。しかし、資本剰余金と利益剰余金の区別は重要でない」ということになる。

 

 ROE”を良くするために、株主資本を減らしたり負債を増やすことは問題か

 

この問題は奥深い。①は単なる計算上の理屈の問題にすぎないが、こちらの方は一概に決め付けができない、企業の状況ごとに判断が必要な複雑なものだと思う。即ち、“ROE”はそれのみで企業評価ができる指標ではなく、他の足りない情報を補いながら利用する必要があるということだと思う。

 

言い換えると、「株主資本を減らしたり負債を増やす」ことが正当化されるケースもあれば、上述の批判のように正当化されないケースもあるということだ。ではどういう時に正当化されるのだろうか。

 

①を含めて今回の記載は僕の考えに過ぎないが、これから書くことは特にそうだ。色々異なる意見があると思う。だが、次に書くことは、みなさんも合意してもらえると思う。

 

投資家や株主は、経営者に対し、預けた資源を有効かつ効率的に使用してもらい、なるべく多くの利益を上げてもらいたいと思っている。

 

気を付けていただきたい。もしみなさんが、「キャッシュ・リッチな会社は、財務が健全だから投資したい」と思われるなら、上記に合意していない可能性がある。なぜなら、キャッシュ・リッチな会社は、事業投資したくなるような価値ある案件が不足しており、キャッシュという経営資源が活用されずに眠っている会社である可能性が高いからだ。そういう会社に投資したいと思われる方は、投資額を回収できない可能性がある。いくらキャッシュが豊富でも、有効な事業投資を継続できない会社はジリ貧だ。(余談だが、今の日本の民間経済は、現預金ばかり一杯あって、こういう状況に似ていなくもない。)

 

融資をするなら、こういう会社でもよいかもしれない(キャッシュ・リッチなので融資は不要だが)。しかし、投資をするならこれでは困る。企業価値が上がってくれないと困る。通常、企業価値を上げるには、経営者が経営資源を有効活用し続けてくれなくてはならない。キャッシュはキャッシュ以上の価値にならないから、キャッシュを事業に投資し、果実を獲得して価値を上げてほしい。しかし、それでもキャッシュが余っているということは、経営者が経営資源を活用しきるアイディアと能力がないということだろう、という推定が成立つ。即ち、その経営者にキャッシュを預けておくのは不効率、もったいないということになる。

 

ここでも重要なのは、「投資家や株主は、過去の成果ではなく将来の果実に重きを置く」という観点だ。経営者や幹部従業員には非常にプレッシャーになると思うが、そのプレッシャーが企業に改革を促し、企業の永続性を高めていく。その具体的なプレッシャーこそが、「有益な事業投資案件がないのであれば、キャッシュを株主へ返せ(=配当や自社株買いの要求)」ということになる。これは、投資家や株主の正当な要求であって、逆にこういう発想をしない投資家や株主では、企業に良い刺激を与えることができない。したがって、上記の“ROE”を高める方法のうち「株主資本を減らす」方法が正当化されるケースがありえる。

 

しかし、「良い事業投資案件があるのに、それより配当や自社株買いを優先せよ」と経営者へ要求するのは、間違っている。また、キャッシュ・リッチでない企業に「配当や自社株買いを増やせ」と要求するのもおかしい。配当や自社株買いのために、社債を発行したり借入するケースもあるらしいが、僕はおかしいと思う。そういう株主提案には賛成しないし、そういうプレッシャーに負けて負債を増やす経営者がいる企業の株は、売ってしまった方が良いかもしれない。

 

ただ、仮にキャッシュ・リッチでない会社に対してであっても、「借入を増やしてもペイするような事業投資を企画し実行せよ、そういうリスクを取れ」とプレッシャーをかけるのは、正しいケースがあると思う。企業の内部からは、意外と自らの強みが見えていないケースがあるからだ。或いは、企業自身で考えるより、他の企業の経営資源を利用することで簡単に弱みが補強できるケースもある。したがって、“ROE”を高める方法のうち「負債を増やす」方法が正当化されることもありえる。

 

さて、ここでもう一度①の問題を考えてみよう。キャッシュ・リッチな会社の典型は、過去に高い利益率でキャッシュを稼いできたが、今は事業が成熟し新しい投資案件がなく、収益性も成長性も頭打ちというより低下してしまったような会社だろう。恐らく自己資本の構成は、“資本金+資本剰余金”は比較的少なく、“利益剰余金”はたくさんあることが想像される。

 

もし、このような会社について、資本剰余金と利益剰余金を厳格に区別し、利益剰余金を資本金+資本剰余金で割った比率で評価したとすると、かなり良い会社と判定されるだろう。しかし、“ROE”で評価すると、株主資本が大きいのに収益性が低いので、良くない会社と判定される。投資の尺度としてどちら有効か、明らかだと思う。やはり、資本剰余金と利益剰余金を区分することにあまり意味はない。株主資本の構成項目の過去の結果にはあまり意味がないのだ。(蓄積や処分の“プロセス”には、また別の重要な意味があるが。)

 

ということで、企業会計原則の“資本・利益区別の原則”は、前半は今も重要な意味を持つが、後半については企業会計原則の制定当時は重要だったかもしれないが、今は意味を失っていると思う。いよいよ日本でも、アベノミクスの第三の矢の成長戦略『「日本再興戦略」改訂 2014(4ページなど)』で、“ROE”による企業のガバナンス改革が強調されるようになった。上記は投資家サイドに立って記載してきたが、経営サイドでも意識すべきは“ROE”であり、株主資本の構成内容ではない。

 

では、この点IFRSはどのようになっているだろうか。今回は既に長文となったので、続きは次回へ送る。

2014年12月 1日 (月曜日)

419.【番外編】2014/11の月間ページ・ビュー・ランキング

2014/12/1

相変わらず、古い記事にアクセスが多い・・・(=新しい記事に人気がない)。しかし、これがこのブログの特性と、割り切ることにした。

 

―・―・―・―・―・2ケ月累計ランキング 10+11月)―・―・―・―・―・―・―

1) 2014/8/1 381.修正国際基準(JMIS)の公開草案~概要

 

2) 2012/1/10 持分(Equity)~会計用語のEquityって?

 

3) 2014/10/30 412.【番外編】小売世界第2位の英テスコで粉飾?

 

4) 2014/8/6 383.修正国際基準(JMIS)の公開草案~OCIリサイクリング

 

5) ~2014/9/9 IFRS個別基準

 

6) 2013/5/23 248.【製造業】減損損失累計額を動かさないことで生じるマイナスの減価償...

 

7) 2011/11/1 IFRSの資産~会計上の「資産」とは

 

8) 2014/7/28 379.IFRSへ のれん償却再導入? ~ASBJらが意見書公表

 

9) 2011/11/30 IFRSの資産~償却資産と減損1

 

10) 2012/1/23 有用な財務情報とは~基本的な質的特性「目的適合性」

 

―・―・―・―・―・月間ランキング 10月)―・―・―・―・―・―・―

1) 2014/8/1 381.修正国際基準(JMIS)の公開草案~概要

 

2) 2014/10/30 412.【番外編】小売世界第2位の英テスコで粉飾?

 

3) ~2014/9/9 IFRS個別基準

 

4) 2014/8/6 383.修正国際基準(JMIS)の公開草案~OCIリサイクリング

 

5) 2013/5/23 248.【製造業】減損損失累計額を動かさないことで生じるマイナスの減価償...

 

6) 2012/1/10 持分(Equity)~会計用語のEquityって?

 

7) 2011/11/1 IFRSの資産~会計上の「資産」とは

 

8) 2014/7/28 379.IFRSへ のれん償却再導入? ~ASBJらが意見書公表

 

9) 2013/3/7 223.IFRS財団モニタリング・ボードとは

 

10) 2012/10/30 【製造業】開発費~辻褄が合わない!

 

=====================(前月分)=======================

―・―・―・―・―・2ケ月累計ランキング (9月+10月)―・―・―・―・―・―・―

2ヶ月で集計してみた。9月の記事がより正当に評価されると思われるため。来月の2ヶ月累計ランキングには、10月の記事が入ってくることを願いたい。

 

1) 2014/8/1 381.修正国際基準(JMIS)の公開草案~概要

 

2) 2012/1/10 持分(Equity)~会計用語のEquityって?

 

3) 2014/9/18 398.【番外編】ソニーの未来

 

4) 2014/9/7 393. JMISに対するIASBの反応と日経のスクープ

 

5) 2013/5/23 248.【製造業】減損損失累計額を動かさないことで生じるマイナスの減価償…

 

6) 2014/8/6 383.修正国際基準(JMIS)の公開草案~OCIリサイクリング

 

7) 2014/7/28 379.IFRS のれん償却再導入? ~ASBJらが意見書公表

 

8) 2011/11/1 IFRSの資産~会計上の「資産」とは

 

9) 2011/11/30 IFRSの資産~償却資産と減損1

 

10)2012/1/23 有用な財務情報とは~基本的な質的特性「目的適合性」

 

 

2014/11/1

―・―・―・―・―・月間ランキング 10月)―・―・―・―・―・―・―

10月の記事が1つもランキング入りしてないとは。(-_-;)

 

1) 2014/8/1 381.修正国際基準(JMIS)の公開草案~概要

 

2) 2012/1/10 持分(Equity)~会計用語のEquityって?

 

3) 2012/2/28 有用な財務情報とは~「忠実な表現」と「比較可能性」の前に固定資産に寄り道...

 

4) 2012/1/23 有用な財務情報とは~基本的な質的特性「目的適合性」

 

5) 2013/5/23 248.【製造業】減損損失累計額を動かさないことで生じるマイナスの減価償...

 

6) 2014/7/28 379.IFRS のれん償却再導入? ~ASBJらが意見書公表

 

7) 2011/11/1 IFRSの資産~会計上の「資産」とは

 

8) 2011/11/30 IFRSの資産~償却資産と減損1

 

9) 2014/8/6 383.修正国際基準(JMIS)の公開草案~OCIリサイクリング

 

10)~2014/9/9 IFRS個別基準

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