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2015年1月13日 (火曜日)

431.【番外編】原発廃炉の会計処理が“問題あり”だって?~その3~本質論

2015/1/13

いよいよ、サッカーのアジア杯がオーストラリアで始まり、昨日は日本とパレスチナの試合が行われた。スコアは4-1で日本が勝利したが、日本の攻撃は今一つだった。みなさんもご存じのとおり、パレスチナにはイスラエルとの長い紛争の歴史があり、昨夏も大変な被害を出している。そんなパレスチナ人に勇気を与えたい気持ちが、彼らのモチベーションを上げていたようだ。なでしこJAPANがW杯で優勝したときと同じだ(2011年)。彼女たちも、東日本大震災からの復興を強く意識していた。日本人に勇気を与えたかったのだ。そんなモチベーションの高さが、日本の攻撃を鈍らせたのかもしれない。

 

さて、復習を兼ねてテーマの概要から確認しよう。

 

その東日本大震災で発生した福島第一原発の事故を契機に原子力行政が見直され、40年運転制限などの安全規制が厳しくなった。その結果、事故を起こした以外の原子力発電所も廃炉が現実的な問題になってきた(例えば、“老朽化した5原発”。NHK HP)。また、電力システム改革の中で電力料金規制の撤廃や発送電分離が予定されており(2018-2020 経産省HP資料)、原子力発電事業を取巻く環境が大きく変わろうとしている。これを機会に、原発廃炉の会計処理が、経産省の“廃炉に係る会計制度検証ワーキンググループ”(以下、“検証WG”)で検討されている。

 

検証WGが廃炉の会計処理を検討している目的は、2014/12/28の記事(427にも記載した通りだが、より簡潔に書けば、次のようになる。

 

・財務・会計上の理由から、不合理な廃炉先送りなどの判断がなされないようにする。

・一時期に多額に発生する廃炉費用で電力会社の事業継続(廃炉事業を含む)に支障をきたさないようにする。

 

即ち、電力会社の経営者が廃炉を怖がることなく、「廃炉の意思決定をスムーズに行える」ようにすることとされている。これに対して僕の疑問は、次のようなものだ。

 

会計は経済実態を忠実に表現する道具なので、損失が発生していれば損失計上せざるえない。損失計上を減らしたいなら経済実態として損失を減らす必要があるので、廃炉が決まった原子炉でも収益が獲得できるような仕組みがあるとか(=資産性の確保)、廃炉に関連して収入が確保される仕組みを設けるしかないのではないか(=損失を打消す利益の確保)。これは、会計の問題ではなく経営の問題ではないか。会計処理を変えるのではなく、実態を変えるべきだ。(そうすれば、自然と会計、即ち、財務諸表も変わる。)

 

2014/12/17 の検証WGの資料2「廃炉を円滑に進めるための会計関連制度の詳細制度設計について」によれば、具体的に次の会計処理が念頭にあるようだ。そして、それが可能となるように資産性を確保する仕組みが、検証WGの事務局から提案されている。

 

・会計処理の変更案

 

現行の会計では廃炉を決めた時点で減損処理される次のものを、“原子力廃止関連仮勘定”(以下“仮勘定”)として固定資産へ計上し、10年間で定額償却する。

 

・原子力発電設備(建設仮勘定に計上されているものを含む)

・核燃料(未使用、炉内で使用中、使用済を含む)

 

・資産性確保の仕組み

 

現行制度で減損損失(特別損失)は、規制料金の原価へ算入されない(総括原価方式)。したがって、原発廃炉の減損損失は、電力料金では回収されないものとして扱われている。それを、上記“仮勘定”へ計上して10年間で償却することで、その償却費を規制料金の原価へ算入することを容認する。すると電力料金は、総括原価方式の仕組みにより、“仮勘定”の償却費を回収できる水準で設定される。これで、“新勘定”の資産性が確保できる(と検証WGの事務局は考えている)。

 

但し、規制料金撤廃・発送電分離後は(2018年~2020年以降)、一定の経過措置はあるものの、上記の仕組みでの回収は困難となる。電力会社(発電会社)は電力料金を自らの経営判断で決められるようになるが、かといって“仮勘定”の償却費が回収できる水準で料金設定がされる保証はない(というか、刻々と価格が変動する市場取引も考えられているらしい。市場価格は原価とは全く関係なく決められるため、回収が保証されない)。電力利用者は、電力小売り事業者が提示するメニューから、自分の目的・用途、希望する価格体系を考慮して選択し購入契約する。

 

ただその場合(2018年~2020年以降)でも、送配電会社の“託送料金”には総括原価方式による規制料金が残るので、その仕組みを利用して発電会社が“仮勘定”の償却費相当額を電力使用料として回収できるように仕組みを作る。その具体的な仕組みは、電力利用者の負担の在り方なども考慮し、将来、検討する(即ち、原子力発電による電力を購入する利用者のみが“仮勘定”の償却費を負担するか、若しくは、全電力利用者に負担させるか、といった検討は将来行われる)。

 

現時点(1/12時点)では、まだ201412月の議事録は公表されていない。ただ、“4回議事要旨”は公開されていて、ここに主な意見がリストアップされている。上記の提案に対して、どのような意見が出たのだろうか。主なものを要約して記載したい(正確に知りたい方は、直接上記リンク先をご覧いただきたい)。

 

・仮に、この制度がなければ、廃炉が進まなくなるというのはわかっている。

・資産計上するためには、費用回収の確実性が前提条件。

・会計制度と料金制度は分けて考えるべき。回収可能かどうかは会計制度で決まるのではなく、料金制度で決まっていって、それを受けて会計制度でどのように表現するかということなので、合理的な説明可能なものとしては、事務局が提示した会計処理で整理できるのではないかと思う。

・事故によって廃炉となったもの以外は、基本的に全て対象となり得る(事務局)。

・経過措置料金がなくなる時期と、託送料金に移行する時期が一致するかもしれないし、一致しない場合もあると考えている。経過措置料金の撤廃方法については、システム改革は全体のエネルギー政策で整合的に進めていく必要があるため、これを踏まえて、議論する必要がある(事務局)。

・託送料金で回収するという局面で、例えば、広く薄く負担ということとなると、明らかに消費者負担の配分が変わる。

・整理できるのであれば、負担は薄く広くするべきだと思う。少なくとも20164月全面自由化に前に整理することが必要ではないか。

・事務局提案の基本的な考え方は賛同。費用の回収確実性が担保されることが重要。どの規制料金の中で回収するのかについては見通しきれないため、幅広い場合を考えて準備をしておくことが重要。

 

各委員は、基本的には、事務局案に賛同しているようだ。恐らく、廃炉の意思決定を歪めず合理的に行えるようにするという目的が最優先されているからだろう。しかし、この検証WGは、“廃炉に係る会計制度”を検証することが目的であって、廃炉を促すことではないはずだ。事務局が提案した会計処理が、経済実態を忠実に表現しているかどうか、それこそが問題のはずだ。

 

そこに焦点を当てるには、事務局が提案した“資産性確保の仕組み”にもっと踏み込む必要がある。委員の中には、「費用回収の確実性を前提条件」としたり、「回収可能性は会計制度で決まるものではなく、(会計は実態を)どのように表現するかということ」、といった点に言及された方々がいる。ただ、要約であるためか舌足らずな感じだ。これらの方が本当に言いたかったのは、次のようなことではないだろうか。

 

“仮勘定”を資産計上できるかどうかは、“仮勘定”を将来キャッシュ・フローで確実に回収できる料金制度になるかどうかにかかっている。しかし、料金制度は、エネルギー改革全体と整合するよう詳細が決まっていくという。事務局のいうように、制度の詳細が将来決まるなら、会計処理の判断もそのときに行えばよい。今言えるのは、「回収が確実な料金制度になるなら、資産計上可能」ということだけではないか。

 

さらに、僕はこの“仮勘定”を有形固定資産かのように、償却資産として扱うことには疑問がある。この“仮勘定”には、廃炉にされた原発発電設備や核燃料の簿価(=本来、減損損失に計上される額)が計上されるのだが、これらに価値があるのだろうか? これらは何も生産しない。何の付加価値も生み出さない。

 

“仮勘定”の償却費に見合うキャッシュ・フローが回収されるのは、法制度を後ろ盾とした電力利用者との契約に基づく電力料金だ。それは“仮勘定”が生み出すものではない。電力利用者が支払い義務を負うかどうかは、そのような法制度があることや、その法制度に基づいた電力利用契約を締結することによる。同様に、発電会社がそのキャッシュ・フローを受取れるのは、そういう法制度やその法制度に基づく電力供給契約を締結したことだ。“仮勘定”の存在はそのきっかけに過ぎない。

 

このように考えると、“仮勘定”(正式名称“原子力廃止関連仮勘定”)の実態は原発設備や核燃料という現物資産ではなく、契約によって将来キャッシュ・イン・フローを生み出す能力だ。即ち、実態は契約に基づく金融資産だ。債務者の特定はできないが、確定額の債権と考えられる。もし、名付けるとすれば“廃炉原発コスト徴収権”だろうか。この方が実態を分かりやすく表現できるように思う。そして、この金融資産は、期間10年で電力利用者から回収できるよう商品設計される予定だと、この検証WGの事務局は言っている。ならば、その商品設計ができた時に会計処理を最終決定すればよい。今の段階で言えるのは、「将来キャッシュ・フローで回収されるなら、(金融資産として)資産計上が可能」。ここまでだ。

 

そして会計処理だが、金融資産となれば“10年で償却”という事務局案はおかしい。次のようにすべきと思う。

 

(廃炉の意思決定時)

 

減損損失を計上し、それと同額の“廃炉原発コスト徴収益”を計上する(その相手勘定が上述の“廃炉原発コスト徴収権”)。

 

(その後)

 

電力利用者との契約に基づき、廃炉原発コストが回収された分を、“廃炉原発コスト徴収権”から減額する。そして、予定通り廃炉原発コストが回収できない場合は減損処理を行う。

 

このようにすれば、廃炉の意思決定という事実が、P/L及び減損の注記という形で財務諸表に開示される。また、電力利用者から、廃炉原発コストを徴収し過ぎるようなことも防止できるし、逆に、料金制度設計によっては全額回収できない可能性もあり得るので、そうなった場合の減損処理も要求される。事務局案にはこの辺りの内容がない。

 

もう少し具体的に書くと、“10年定額償却”という会計処理は、実際にいくら原発廃炉コストを回収できたかを管理できない。償却処理と料金徴収額が全く関係なくそれぞれ費用と収益に計上される。すると、次のような不合理が生じる。

 

例えば、原発電力の利用者からのみ、この原発廃炉コストの料金を徴収するという制度設計がされた場合、原発電力の需要と原発の稼働状況が見積もり通りでない場合は、料金を徴収し過ぎたり、又は、料金徴収額が不足したりする。しかし、この“10年定額償却”の会計処理ではその過不足の状況が分からない。いわゆる“どんぶり勘定”的な処理になる。原発電力の需要が見積もりより大きかった場合(=利用量が多い、或いは、利用者が多い場合)、この料金を予想よりたくさん徴収できるが、だからといって料金徴収期間が短縮されるとは限らない。10年間は料金算定基礎の原価に計上されるから、発電会社は焼け太りだ。逆に、原発電力の需要が見積もりより小さかった場合は、発電会社は原発廃炉コストの徴収に失敗する。だが、事務局案の会計処理で定額償却をしているだけでは、減損テストが行われない可能性がある。

 

また、広く一般の電力利用者からこの原発廃炉コストの料金を徴収するという制度になった場合、原発電力や原発の稼働状況とは全く関係なく、原発廃炉コストが電力料金として徴収されることになる。そうなれば、原子力事業と増々関係のないキャッシュ・イン・フローになるので、廃炉設備や核燃料の原価を定額償却する理由も、それを有形固定資産として資産計上する理由も希薄になる。即ち、事務局案は、増々、経済実態を表わさない会計処理になる。

 

 

なお、僕は反原発派(但し、“直ちに全部廃止”には拘らない)だが、それと、この会計処理の問題には関係ない。会計は実態をどう表現するか、どう表現したら実態を忠実に伝えられるかが問題であって、会計処理の話題をしている限り、原発が再稼働しようが、廃炉コストが全国民から回収されようが関係ない。極端にいえば、本来廃炉にされるべき原発が稼働してたって関係ない。ただ、その状況をどう表現するか、例えば、廃炉にした方が損失が少ないのにも拘らず稼働させているその状況を、どう表現するか。その実態を財務諸表の利用者に分かるようにすること。これが会計の問題だ。

 

この観点で見れば、廃炉の会計処理の本当の問題は、いまだ決まっていない放射線廃棄物の最終処分の方法とそのコストをどう見積って期間配分するか、原発事故が発生したときの損害額をどのように見積って期間配分するか(或いは、注記するか)だ。これによって、電力会社の経営者も、債権者も投資家も、原発事業の実態が分かるようになる。

 

そんな方はあまりいないと思うが、もし、「いやいや、そんなこと皆目見当がつかないから無理だよ」とか、「事故が起こらないように安全規制を厳しくしているから不要だよ」などと思われるとすれば、“原発の安全神話”がまだ抜けていない。検証WGは、電力会社の経営をサポートするかのようなテーマを扱っているが、本来は、こういった問題にこそ、取り組んで欲しいと思う。

 

 

 

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