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2015年1月16日 (金曜日)

432.【QC02-15】会計面の比較~会計上の見積りのヒエラルキー(分類・区分)

2015/1/15

今回は久しぶりにメインテーマへ戻ってきた。その間【番外編】で、主に原発廃炉会計について記載してきたが、実は、この廃炉会計も会計上の見積りに関連しているので、まったく見当違いの道を走っていたわけではない。といっても、助走というほどストレートに繋がっているわけでもない。ただ一つ、2014/12/30の記事(428を除いては。

 

この 428 では、見積りが難しい極端な事例を紹介した。僕は、このシリーズの前回である2014/12/23の記事(426で「IFRSでは、すべてのB/S項目が見積り」と記載したが、すでにご承知の通り、見積り項目にも色々なものがある。例えば、市場価格のある株式と 428 の事例を同じ見積り項目として一括りで論じるのは、あまりに雑だ。

 

そこで今回は、IFRS13号「公正価値測定」の区分(=公正価値ヒエラルキー)を利用して、公正価値測定以外の見積り項目についても階層分類してみよう。そうすれば、議論の対象にしたい見積り項目がどのようなものか、よりはっきりする。(なお、これはあくまでこのブログの便宜上の分類・区分であり、IFRSには、公正価値測定以外の見積り項目に関するこのような分類・区分はない。)

 

レベル1

見積り対象に対し、測定日に企業がアクセスできる活発な市場における相場価格(無調整)を利用できるケース

 

公正価値測定の場合、このレベル1へ区分するポイントは、市場価格が“無調整”で利用されることだ。もし、市場価格が調整された場合は、レベル2やレベル3へ区分される。そういう意味では、このレベル1には恣意性が介入するリスクが低い。公正価値測定以外の見積り項目の場合も同様に考えらえる。

 

公正価値測定の例としては、日本基準でもお馴染みの市場価格のある株式がこれに当たる。公表されている市場価格をそのまま適用できるからだ。

 

公正価値以外であれば、例えば、IAS2号「棚卸資産」に出てくる“正味実現可能価額”を見積る際には、製品市場の通常の販売価格を利用できるケースがある。なお、“正味実現可能価額”は、IFRS13号の対象外(IFRS13.6(c))の見積り項目で、棚卸資産は原価と正味実現価額のどちらか低い方で計上される(IAS2.9 なお、その評価損はその後の決算で条件が整えば戻入可能)。

 

レベル2

見積りを行うに際し、レベル1に含まれる相場価格以外のもので、直接又は間接に観察可能な相場価格を利用できるケース。

 

公正価値測定は、市場参加者の立場で資産や負債を測定する。レベル1のように、実際に活発な市場がある場合はそのままそれを利用すれば、市場参加者の立場による測定になるが、それができない場合は、次のようなステップを踏むことになるだろう。

 

 ① 市場参加者が使用するであろう評価技法を選択する。

 ② 市場参加者が想定するであろう仮定や条件を想定し、調整方法を決定する。

 ③ 評価技法や調整方法へ市場参加者が使用するであろうデータ(=インプット)を投入する。

 

このうち、③の使用データ(=インプット)の客観性の度合いが、レベル2とレベル3を分ける。レベル2へ区分するポイントは、使用データが、相場価格などの観察可能な市場データを根拠にしているか否か、または、基礎にしているか否かだ。(IFRS13.74)(ちなみに、観察可能でないデータを利用しているが、測定額に重要な影響がない場合は、レベル2へ区分可能だ。)

 

公正価値測定以外の場合は、IFRS上はこのヒエラルキーの区分は必要ないが、会計上の見積りを整理したいので、無理やり思考実験してみる。公正価値測定以外の場合も、なるべく主観性を排除することは必要だが、そのために市場参加者を想定する必要はない。上記に引続きIAS2号の“正味実現可能価額”の例でいえば、仕掛品や原材料の測定するケースを考えてみると良いと思う。

 

仕掛品や原材料が製品を生産する目的で保有されている場合は、製品の販売価額から逆算して(=その後発生する原価などの見積り額を控除して)、正味実現価額を算定する。即ち、製品の販売価額を調整して、仕掛品や原材料の正味実現可能価額を算定する。(なお、IAS2号では、原価と正味実現可能価額の小さい方を棚卸資産の評価額とするから、正味実現可能価額がそのまま評価額になるわけではない。)

 

この“その後発生する原価の見積り”が、例えば、相場が業界で知られているような外注取引など市場参加者に観察可能なデータに基づいている場合は、これらの正味実現可能価額はレベル2とすることができる可能性がある。しかし、内部の原価計算データによるのであれば、レベル3へ区分されるだろうと思う。原価計算データは市場参加者が入手できないものであり、その分、客観性に欠けると考えられるからだ。だからといって、棚卸資産の正味実現可能価額の算定に外注データを利用した方が良いと言っているわけではない。公正価値測定ではないので、原価計算データに信頼性があれば、そちらの方が適切な場合が多いと思う。

 

ちなみに、仕掛品や原材料が、それ以上加工されずに転売される目的であれば、観察可能な転売価額が正味実現可能価額となる。その場合は、ここでいうところのレベル1だ。

 

もう一つ、公正価値測定以外のケースを例に挙げると、退職給付債務がある。退職給付債務のインプットは、2種類あって、一つは退職給付制度や給与水準・勤続年数といった膨大な個人データ。もう一つは、退職率・一時金選択率・死亡率・割引率といった指標系のもの。観察可能なデータは割引率と死亡率ぐらいのものだが、その他の指標系のものも個人データも客観的な事実であり、インプットに主観が入る余地は少ない。見積もり作業は膨大で計算内容も複雑だが、インプットは意外に客観性が高い。もし、これを公正価値ヒエラルキーに喩えて区分するなら、レベル2になるのではないか。IASBとしては、退職給付債務の見積りについて、その複雑性の割に、質の高い見積りが期待できると思っていると思う。

 

といっても、作成者サイドから見れば、問題がないわけではない。例えば・・・

 

昨年10月の日銀の追加緩和や、最近のギリシャ問題など欧州不安、原油価格の低下などにより、日本の国債金利も一段と低下している。公正価値測定される年金資産の運用が好調なら問題は軽減されるが、割引率を引下げると退職給付債務が増加するので、頭を痛めている企業も多いかもしれない。日本基準でも安全性の高い債券の期末の利回りを基礎として決定することになっているが、10%の重要性基準があるから割引率の改定を見送る企業もあるはずだ。なぜ、IFRSは期末の市場金利で割引率を改定しなければならないのか。退職給付債務の見積り対象期間は長期に渡るものであり、期末という一時期の市場金利に拘らなくてもよいのに・・・。

 

しかし、年金資産だけ期末日の公正価値で評価して、対応する負債、即ち退職給付債務に期末日の市場データを利用しないというのもおかしい。それに、IFRS採用企業同士であれば条件は同じだ。それで財務パフォーマンスに差が出るなら、それが実態に忠実といえるだろう。IASBは、これこそ会計基準の質の高さだと思っているに違いない。即ち、インプットに客観性があることを重視しているのだろう。

 

日本基準採用企業でも、割引率の改定による退職給付債務の変動が10%以内なら、改定するのもしないのも企業の自由といった運用は、監査人に容認されないと思う。実際の運用はもっとルール・ベースで恣意性の入らないものになっていると思うので、実態はIFRSとあまり差はないだろう。でも、会計基準としてはIFRSに比べて質が高いとはいえまい。もし、このヒエラルキーで考えるなら、日本基準を適用すると、恐らくレベル3に区分されるのではないか。

 

レベル3

見積りを行うに際し、資産又は負債に関する観察可能な相場価格がないケース

 

IFRS13号の適用指針(=ガイダンス)の B35項、B36 項には、レベル2とレベル3のインプットが例示されている。これらを見ると、金利スワップ、通貨スワップ、上場株式オプション、資金生成単位が両方の区分で例示されているのが興味深い。レベル2かレベル3かの区分は、単純に「金利スワップだから」というだけで一律に決められるものではなく、同じ金利スワップでもその取引価格を構成する内容によって区分が異なるということだ。即ち、取引価格を構成する重要な計算要素が、市場データに裏付けられたものかどうかで区分する。

 

公正価値測定以外の場合の、レベル3の代表的な例としては、使用価値の見積りが挙げられるだろう。減損テストで計算するやつだ。将来キャッシュ・フローの見積りは、企業の想定する事業計画や事業用途を前提にするので、市場参加者の想定とは関係ないからだ。企業の主観的な(といっても合理的でなければらない)事業見通しに基づいて計算される。冒頭で触れた 428 のケースも、レベル3に区分されるだろう。

 

 

企業会計原則の保守主義の原則による会計上の見積りに関する規定と、これに対応するIFRSの概念フレームワークの有用な財務報告の質的特性の記述を比較するにあたり、上記のレベル1~レベル3のうち、どれを念頭に置いたら適当だろうか。

 

この答えは、既にみなさんもお分かりと思う。レベル3だ。レベル3の特徴は、上記③のインプットについて、市場データで客観的に裏付けが取れないデータを使っているということだ。IASBは、評価技法の選択(=上記①)や調整方法の決定(=上記②)を、公正価値ヒエラルキーの区分を決定する要素としていない。上記③のインプットのみで判断するとしている。それは、市場参加者を想定することで、①や②については、どの企業が行ってもある程度同じ技法や方法に収斂するだろうと考えているからだと思う。しかし、公正価値測定以外の会計上の見積りを行う場合は、市場参加者の想定に必ずしもこだわらないので、①や②においても、経営者(或いは、財務諸表作成者)の判断が重要な役割を果たす場合があると思う。逆にいえば、レベル3はそれだけ自由度が高い。

 

この自由度の高いレベル3の見積りについて、企業会計原則は、一般原則で楽観を戒めながら、その注解で過度に悲観しないよう規定している。IFRSの概念フレームワークでは、どうなっているだろうか。残念だが、これは次回へ繰越したい。

 

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