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2015年1月23日 (金曜日)

434.【QC02-16】会計面の比較~見積り項目の不確実性の表現

2015/1/23

オーストラリアで開催されているサッカーのアジア・カップでは、アギーレ・ジャパンは順調にグループ・リーグを突破し、準々決勝へ進むこととなった。試合内容も、パレスチナとの第1戦から、イラク戦、ヨルダン戦と徐々に日本らしい連動が見られるようになった。選手たちも調子を上げているようで、今日の準々決勝も期待したい。

 

このシリーズも、会計上の見積りに入って4回目。アギーレ・ジャパンのように徐々に内容が良くなっていると良いのだが、なかなか難しい。しかし、悠長なことは言ってられない。いよいよ、今回が見積もりの最終回だ。

 

 

前回(1/15432)は、公正価値ヒエラルキーを真似て、公正価値だけでなく会計上の見積り全体を3つのレベルに分類・区分した。大雑把にいえば、レベル1は、市場価格等をそのまま調整なしに利用できる見積り。レベル2はある程度確立した利用可能な測定モデルや調整方法があり、かつ、それに市場情報等をインプットする見積り。レベル3は、これら以外の、独自の測定モデルや調整方法、インプット情報の影響が大きい見積りだった。このシリーズで、企業会計原則で会計上の見積りに関する原則である“保守主義の原則”と比較対象として想定するのは、これらのうち“レベル3の見積り”だ。

 

企業会計原則は、保守主義の原則の本文で「適当に健全な会計処理」を求めることで過度な楽観を戒める一方、その注解で「過度に保守的な会計処理」を禁じている。要するに、「ちょうど良く見積れ」ということだろう。なんてラフな規定の仕方か。でも、この頃は、このような見積り項目は種類も、それを行う機会も限られていた。しかし、今では固定資産の減損会計に出てくる“使用価値”や資産除去債務の見積り、企業買収時の一部の無形資産やその他の資産・負債の公正価値評価など、頻度は比べようもなく増えているし、難易度も増している。

 

勢い、レベル3のような見積りの中には「合理的な見積りができない」として、B/SやP/Lに載せるのを断念したり、注記にさえ記載しないケースがある(例えば、1/13431の末尾に記載した放射線廃棄物の最終処分までのコストなど)。その見積りが財務情報として重要であればあるほど、自信のない測定値は開示したくないものだ。出せば、数字が独り歩きする恐れがある。しかし、そのようなリスク回避の結果、財務情報としての価値を下げたり、作成者や経営者、そしてその企業に対する信頼を揺るがすこともある。

 

“レベル3の見積り”は、財務情報作成者の自由度が大きいが、もちろん、それはIFRSの概念フレームワークの“有用な財務情報の質的特性”、特に、“目的適合性”と“忠実な表現”という基本的な質的特性を備えていなければならない。しかし、これが難しい。もしIFRSでもこれだけの話なら、心細い。「読み手に役立つ、そして実態に則した見積りをせよ。やり方は自由だ。自分で考えよ」と、突き放された感じで、作成者の方々も、気持ちが萎えてしまうだろう。「せめて、方向性ぐらいは示してくれ」と思うに違いない。

 

果たしてIFRSの概念フレームワークは、どのように扱っているだろうか。僕が思うに、これは QC15 QC16 の段落に記載されている。凡そのところで要約すると次のようになる。

 

QC15)すべての面で完全に正確であることは要求されない。

 

例えば、その金額が見積りであるものとして明確かつ正確に記述され、その見積りのプロセスの内容と限界(=不確実性)が説明され、その見積りを作成するための適切なプロセスの選択と適用の際に誤謬が生じていない場合には、忠実となり得る。

 

QC16)見積もりの不確実性が非常に大きい場合は有用でない。

 

見積りの不確実性が非常に大きい場合には、その見積りは特に有用ではない(=読者の役に立たない、かえって誤解させる恐れがある)。一方、ある見積りについて、他により忠実な代替的な表現がない場合には、その見積りが最も有用かもしれない。

 

もっと砕いて書くと、次のようになると思う。

 

QC15)完璧でなくてよい代わりに、不確実性も説明せよ。

 

QC16)あまりに不確実な場合は有用ではないが、実態を説明する最善の努力をせよ。

 

一言で書けば、「不確実性にも気を配れ。注記で説明せよ。」ということだろうか。みなさんは、『企業会計原則の「ちょうど良く見積れ」よりマシだが、大差ない』と思われるかもしれない。だが、僕は、次のようなメッセージも受取った。あくまで僕の主観的な感想に過ぎないが。

 

見積り額に自信がない場合でも、その情報が有用・重要と思うなら勇気を持って(その不確実性の内容とともに)示せ。経営者は実態把握が不確実・不完全な状況であることを自覚し、それを読み手にも理解してもらうよう努めるべきだ。(ん~、ちょっと書き過ぎか?)

 

 

さて、放射性廃棄物の処分コストに関する日本の電力会社の開示はどうなっているだろうか。社会的な関心も高いし、不確実性も高い。原発を持つ電力会社の経営者にとっても、当然、非常に関心のあるところだろうし、重要な情報に違いない。しかし、見積るのは難しい。2014年3月期の東京電力の有価証券報告書を見てみると次のようになっている。

 

(核燃料関係)

B/S

 

使用済核燃料再処理等引当金 10,544億円

 

(参考)使用済核燃料再処理等積立金が、資産の部に10,169億円計上されている。また、使用済核燃料再処理等準備引当金が679億円計上されている。

 

・会計方針の注記

 

使用済核燃料再処理等引当金(具体的な再処理計画のあるもの)

 

再処理費用見積額の現価相当額を計上していること、および、現価に割引くための割引率を開示している。再処理費用の見積り方法(=見積りのプロセスや限界)については言及なし。恐らく、「より詳しく知りたい人は、電気事業会計規則を参照すること」が期待されているのだろう。

 

また、2種類の未認識(=計上対象になっていない)のコストが合計3千億ほどあって、順次計上されていくことについて説明している。

 

再処理費用の見積り額に関する不確実性の記載はない。再処理は、使用済核燃料からさらにウラン235やプルトニウムを取出す工程だが、主力工場である青森県六ケ所村の施設は、まだ稼働していない(2016年3月竣工予定 日本原燃HP)。稼働しなければ再処理計画は実現できないだろうし、当初 2009年の予定から、たび重なる稼働延期に伴い、建設費用は2.8倍に膨らんているという(Wikipedia)。それが最処理費用の見積りにどのように影響するのか、しないのか。

 

核燃料には上記の他、未使用のもの、原子炉内で使用中のもの、使用済で具体的に再処理計画がないものがあると思うが、これらについても不確実性の説明は特にない。即ち、これらに関する再処理コストは不確実性が高過ぎて計上していないのか、それとも、一定の手続で計上したのか。或いは、再処理しない場合(=直接処分)の処分コストがどう扱われているのかは、僕には読み取れなかった。

 

 

(原発設備関係)

 

C/S

 

原子力発電設備解体費 48億円*
(P/Lとしては、本表でも注記でも開示されていない。金額的に重要でないためと思われる。)

 

・会計方針の注記

 

原子力発電設備解体費

 

原子力発電施設解体費の総見積額の現価相当額を資産除去債務に計上しているとのこと。解体費の具体的な見積り方法については、経産省の“原子力発電施設解体引当金に関する省令”に記載されているらしい。

 

この他、福島第一原発に関しては見積りに限界があることが説明され、また、上記省令の変更に伴う見積り方法の変更の注記がある。

 

核燃料と同様だが、福島第一の件を除き、不確実性についての説明はないし、放射性廃棄物の最終処分に至るまでのコストの扱いに関する記載もない。

 

 

以上からお分かりいただけるように、「不確実性にも気を配れ」という概念フレームワークの規定は、日本の会計基準や会計慣行にとっては、意外に意識されていない。盲点となっており、IFRSへ移行する際に注意が必要かもしれない。この点が企業会計原則と大きく異なる部分だと僕は思う。

 

加えて、僕の主観的な感想を述べれば、電力会社の経営者が勇気をもって“分からない状況”を説明しなければ、投資家や債権者、その他一般の電力利用者に至る利害関係者は、原子力発電事業を信頼しないだろう(2014/12/30428の後半に記載した“福島県立医科大学”のリスク・コミュニケーションの話を思い出してほしい)。不確実性が高いために有用か有用でないか判断の難しいところ、いや、仮に有用でないと判断される情報であっても、そこに相手の重大な関心があるのなら、コミュニケーションの対象から除外してはいけない。そういう情報こそ、経営者は、勇気を持って語る必要があるのではないかと思う。

 

ちなみに、東京電力は、非財務情報の“事業等のリスク”に、さらりと記載しているが(“原子力発電・原子燃料サイクル”のところ)、あまりに薄すぎる。

 

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* 今回のテーマからは離れるが、“資産除去債務関係”の注記では、資産除去債務は、主としてこの原子力発電解体費用に当たるものが計上されているとされ、その総額は7,144億円(但し、B/S ではなぜか、7,142億円)。この解体費は定額償却されるが、上記 C/S 計上額とのバランスの悪さ(償却費が非常に少ない)については、上記見積り方法変更の影響だろうか? しかし、“会計方針”や“セグメント情報”にこの見積り方法の変更の注記があるが、この期の費用は170億円も増加したことになっている。よく分からない。おまけに、資産除去債務は1,130億円も減少している。“費用配分方法の変更”と書いてあるが、なぜ、資産除去債務が、こんなに大きく動いたのだろう?

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