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2015年1月

2015年1月31日 (土曜日)

436.会計日本代表の活躍

2015/1/31

今日は、サッカーのアジア・カップの決勝戦が、開催国のオーストラリアと韓国の間で行われる。日本代表が残念な結果だったことはみなさんもご存じの通りだ。しかし、その他の分野では日本代表が世界の舞台で活躍しているようだ。

 

例えば、会計も。IFRSの基準作りにASBJ(=企業会計基準委員会)が非常に貢献しているとIASBの鶯地氏が述べている。以下のリンクをご覧いただきたい。

 

日本への期待(IASBのホームページ 

 

これは、JICPAのホームページの「IFRSに関するお知らせ」(1/30付)に掲載された記事“IASB鶯地理事の記事「日本への期待」”から、リンクを辿ってIASBのホームページへ行くと、右側に小さな文字で掲載されているPDFファイルがある。そこへのリンクだ。この文章は、中央経済社の“経理情報”に掲載されたものらしい。

 

このような記事を読むと、ASBJを誇らしく感じる。現地(ロンドン)で傍聴して応援したい気持ちにもなるが、残念ながらサッカーW杯もテレビ観戦だったので、行くことはないだろう。それに、ASBJのプレゼンテーションは英語で行われるので、僕にはちんぷんかんぷんだ。これからも、日本語情報を頼りにせざるえない。

 

なお、このブログにも、一応、関連記事があるので、興味を持たれた方は、以下のリンクをご覧いただきたい。

 

379.IFRSへ のれん償却再導入? ~ASBJらが意見書公表 2014/7/28

380.CF-DP61)純損益とOCIASBJペーパーとFASBペーパー 2014/7/29

381.修正国際基準(JMIS)の公開草案~概要 2014/8/1

382.修正国際基準(JMIS)の公開草案~のれんの償却 2014/8/4

383.修正国際基準(JMIS)の公開草案~OCIリサイクリング 2014/8/6

384.CF-DP61)純損益とOCI~ASBJペーパー 2014/8/8

393. JMISに対するIASBの反応と日経のスクープ 2014/9/7

 

 

 

 

2015年1月27日 (火曜日)

435.【番外編】監査法人のガバナンス規制強化と監査基準の規制緩和

2015/1/27

期待通りアギーレ・ジャパンは準々決勝のアラブ首長国連邦戦を勝ちきった。今日の準決勝の相手は開催国のオーストラリア。さらに厳しい試合になりそうだが、期待もますます高まる。・・・うっ、こう書き出したかった。こう書き出せるものと思っていた。しかし、日本は敗れた。もう忘れよう。そうするしかない。

 

 

こんな、どよ~んとした気分のところに、日経電子版の以下の記事が飛び込んできた。

 

監査法人にもガバナンス改革の波 不正発見機能の強化道半ば、金融庁が動く1/25 有料記事)

「監査のみ規制は不十分」監査審査会の佐々木氏1/25 有料記事)

 

ん~、吉と出るか凶と出るか。興味津々だ。

 

記事は有料記事であり、あまり中身の紹介はできないが、いずれの記事も、監査をより良くするためには監査基準の改善と現状の公認会計士・監査審査会などによる検査機能だけでは足りず、監査法人のガバナンスにもメスを入れる必要がある、それが世界的な潮流となっている、ということらしい。

 

なるほど、監査法人のガバナンスは重要だ。特に、その統制環境に欠陥があるとしたら最悪だ。例えば・・・

 

・監査チームが関与先に問題を発見し経営者と対立しそうなときに、監査法人本部が現場を後押しせず経営者サイドに立ってしまう。

 

・そこまで露骨ではないが、監査法人本部が現場にあれやれこれやれと介入し、結果的に現場の力を殺いでしまう。(本部が「現場の能力に問題がある」というなら、社員登用制度を始め、人材育成や人事評価の仕組みを見直す必要がありそうだ。しかし、その場合でも、その現場の力を殺いでしまった本部の人を、人事評価見直しの対象に含めなければならないだろう。)

 

まあ、こんな例は、あまりありそうな気がしない。しかし、僕がすべてを知っているわけでもないし、あったら困る。従来の検査がこのような点をカバーできていないなら、カバーした方が良いと思う(僕の印象では、カバーしてなくもないが、詳細に踏込んでなかったかもしれない)。

 

しかし、1つ目の記事は、このような単なる制度論ではなく、“監査人と非監査会社のなれ合い”という重罪が、いまだに償われていないという監査人にとって非常に厳しく重い疑いに基づいて書かれている。

 

根拠として、2つの例が挙げられている。一つ目は、カネボウ事件をきっかけに導入された不正通報制度(金商法193条の3)による通報がほとんどない点だ。しかし、記者に誤解があるようだ。不正を見つけたら通報するという単純な制度が想定されているようだが、そうではない。もし、そのような単純な制度なら、確かに、通報がもっとたくさんあってよい。もし、そうなら、なれ合いの根拠になるだろう。でも、それは違う。この書き方では、記事の読者にも誤解を与える。

 

本当は、監査の過程で企業の重要な不正(又はその兆候)を発見して、是正措置を申し入れても効果がない場合、監査法人から金融庁へ通報を義務付けた制度だ。重要でない場合や是正された場合は通報されない。即ち、監査法人と非監査会社で深刻な意見の対立がない限り、この通報は行われない。

 

もし、重要なものが是正されずに財務諸表へ含まれてしまえば、不適正意見や限定意見の監査報告書が出る。「通報の実績がほとんどないから、なれ合ってる」というのは、「不適正意見や限定意見が出ないから、なれ合ってる」というのに等しい。そうだろうか?

 

かつて(カネボウ事件のあと)、継続企業の前提に重大な疑義があるとして“意見不表明”の監査意見が数多く(といっても年に2桁程度)出た時、厳しすぎると監査基準が変更された。“意見不表明”は、即、上場廃止につながるので、不適正意見や限定意見より、企業はより厳しい状況に追い込まれる(不適正意見や限定意見の場合、東証はケースバイケースで判断するが、上場廃止にならないことも多い)。それでも監査人は意見不表明を頻発していた。さて、不適正意見や限定意見と同レベルの不正通知がほとんどないということが、なれ合いの根拠になるだろうか?

 

もう一つは、監査法人と提携している税理士法人や傘下のコンサルティング会社を使って、規制逃れをしているのではないか、即ち、なれ合いがまだ続いているのではないか、という。実は、僕もそういう環境で監査をしていたし、関与先からその手の契約を受注するのは苦手ではなかった。

 

モノには限度というものがあり、本末転倒してしまう状況に至れば問題だ。しかし、薬を適量飲むのと同じで、監査契約以外の契約には、適量であれば、監査業務へのプラスの貢献がある。コストを掛けずに良質の情報を早いタイミングで入手することができる。例えば、そういう契約があるだけで、(その契約とは関係なく)監査人として、財務系以外の取締役やキー・パーソンと会いやすくなるし、会った時に入手できる情報も幅広くなる。早い段階の会社の動きが分かるから、財務上の問題の発生を想定しやすくなり、いわゆる、リスク・アプローチを有効に働かせられるし、早い段階で会社へ問題点を伝えられる。それに、監査業務で何かトラブルがあっても、スムーズに解決しやすくなる。

 

監査法人が絡んで提供するサービスというのは規制を受けており、税務も含め、ある意味関与先を突き放したところがある。重要な判断はしないし、作業もしない。至れり、尽くせりではない。基本的にサポートだ。しかし、関与先には判断力の研鑽(或いは、自分で判断したという満足感)やスキルの移転というメリットがある。だから、意外に喜んでもらえることも多い。規制が意外な形でサービスの特長を生んでいる。これがまた監査をやりやすくする。

 

監査以外の契約があることがプラスか、マイナスか、というのは、状況次第であり、一律に決めつけられることではない。この記事を読むにあたっては、その点の注意が必要だ。“ゼロか百か”ではない。情報の質と入手スピードを向上させる努力をすべて“関与先への接近”として否定してしまえば、コスト・パフォーマンスが良くて、質も高い監査の実現は、恐らく遠退いてしまう。とにかく、監査には情報が必要だ。その必要な情報は財務情報だけではない。

 

 

ちょっと細かい話に立ち入ってしまったが、こういう個々の監査人の状況判断に依存するような部分でなるべく問題を起こさないようにするには、冒頭の監査法人のガバナンスが重要だ。現状の監査法人のガバナンスが良いか、悪いかは僕には分からない。しかし、これらの記事によれば、日本の監査法人ガバナンスの規制は国際的には遅れているそうなので、追いつくことでより良くできるというのであれば、良いことだと思う。

 

但し、監査基準(国際監査基準も含めて)については、“規制緩和”が必要だと思う。内部統制監査が始まってから顕著だが、調書作成に追われる監査法人の若手は頭を使わないチェック・マシーンと化しているなどと言われていた。トヨタでは“なぜ”を5回繰り返すそうだが、監査も同じだから、“マシーン”になってはいけない。“マシーン”で過ごした年月は、監査人としての成長を遅らせるだけでなく、阻害するだろう。しかし、いずれはそういう環境で育った人々が監査責任者へ登用されていく。このままでは、監査は、増々、規制当局の目標から離れていく。監査人も望んでいないはずだ。

 

 

“絶対に不正を見逃さない監査”はありえない。だが、不正を見逃せば、その責任が情報開示という形で監査人や監査法人について回り、それが監査人と非監査会社の緊張感となって不正防止に働く。そんな制度を以前このブログで提案した(2012/10/20 【期待ギャ】「不正に対応した監査の基準の考え方(案)」(企業会計審議会監査部会)の「不正の端緒」)。ガバナンス改革もよいが、このアイディアは、今も良いと思う。

2015年1月23日 (金曜日)

434.【QC02-16】会計面の比較~見積り項目の不確実性の表現

2015/1/23

オーストラリアで開催されているサッカーのアジア・カップでは、アギーレ・ジャパンは順調にグループ・リーグを突破し、準々決勝へ進むこととなった。試合内容も、パレスチナとの第1戦から、イラク戦、ヨルダン戦と徐々に日本らしい連動が見られるようになった。選手たちも調子を上げているようで、今日の準々決勝も期待したい。

 

このシリーズも、会計上の見積りに入って4回目。アギーレ・ジャパンのように徐々に内容が良くなっていると良いのだが、なかなか難しい。しかし、悠長なことは言ってられない。いよいよ、今回が見積もりの最終回だ。

 

 

前回(1/15432)は、公正価値ヒエラルキーを真似て、公正価値だけでなく会計上の見積り全体を3つのレベルに分類・区分した。大雑把にいえば、レベル1は、市場価格等をそのまま調整なしに利用できる見積り。レベル2はある程度確立した利用可能な測定モデルや調整方法があり、かつ、それに市場情報等をインプットする見積り。レベル3は、これら以外の、独自の測定モデルや調整方法、インプット情報の影響が大きい見積りだった。このシリーズで、企業会計原則で会計上の見積りに関する原則である“保守主義の原則”と比較対象として想定するのは、これらのうち“レベル3の見積り”だ。

 

企業会計原則は、保守主義の原則の本文で「適当に健全な会計処理」を求めることで過度な楽観を戒める一方、その注解で「過度に保守的な会計処理」を禁じている。要するに、「ちょうど良く見積れ」ということだろう。なんてラフな規定の仕方か。でも、この頃は、このような見積り項目は種類も、それを行う機会も限られていた。しかし、今では固定資産の減損会計に出てくる“使用価値”や資産除去債務の見積り、企業買収時の一部の無形資産やその他の資産・負債の公正価値評価など、頻度は比べようもなく増えているし、難易度も増している。

 

勢い、レベル3のような見積りの中には「合理的な見積りができない」として、B/SやP/Lに載せるのを断念したり、注記にさえ記載しないケースがある(例えば、1/13431の末尾に記載した放射線廃棄物の最終処分までのコストなど)。その見積りが財務情報として重要であればあるほど、自信のない測定値は開示したくないものだ。出せば、数字が独り歩きする恐れがある。しかし、そのようなリスク回避の結果、財務情報としての価値を下げたり、作成者や経営者、そしてその企業に対する信頼を揺るがすこともある。

 

“レベル3の見積り”は、財務情報作成者の自由度が大きいが、もちろん、それはIFRSの概念フレームワークの“有用な財務情報の質的特性”、特に、“目的適合性”と“忠実な表現”という基本的な質的特性を備えていなければならない。しかし、これが難しい。もしIFRSでもこれだけの話なら、心細い。「読み手に役立つ、そして実態に則した見積りをせよ。やり方は自由だ。自分で考えよ」と、突き放された感じで、作成者の方々も、気持ちが萎えてしまうだろう。「せめて、方向性ぐらいは示してくれ」と思うに違いない。

 

果たしてIFRSの概念フレームワークは、どのように扱っているだろうか。僕が思うに、これは QC15 QC16 の段落に記載されている。凡そのところで要約すると次のようになる。

 

QC15)すべての面で完全に正確であることは要求されない。

 

例えば、その金額が見積りであるものとして明確かつ正確に記述され、その見積りのプロセスの内容と限界(=不確実性)が説明され、その見積りを作成するための適切なプロセスの選択と適用の際に誤謬が生じていない場合には、忠実となり得る。

 

QC16)見積もりの不確実性が非常に大きい場合は有用でない。

 

見積りの不確実性が非常に大きい場合には、その見積りは特に有用ではない(=読者の役に立たない、かえって誤解させる恐れがある)。一方、ある見積りについて、他により忠実な代替的な表現がない場合には、その見積りが最も有用かもしれない。

 

もっと砕いて書くと、次のようになると思う。

 

QC15)完璧でなくてよい代わりに、不確実性も説明せよ。

 

QC16)あまりに不確実な場合は有用ではないが、実態を説明する最善の努力をせよ。

 

一言で書けば、「不確実性にも気を配れ。注記で説明せよ。」ということだろうか。みなさんは、『企業会計原則の「ちょうど良く見積れ」よりマシだが、大差ない』と思われるかもしれない。だが、僕は、次のようなメッセージも受取った。あくまで僕の主観的な感想に過ぎないが。

 

見積り額に自信がない場合でも、その情報が有用・重要と思うなら勇気を持って(その不確実性の内容とともに)示せ。経営者は実態把握が不確実・不完全な状況であることを自覚し、それを読み手にも理解してもらうよう努めるべきだ。(ん~、ちょっと書き過ぎか?)

 

 

さて、放射性廃棄物の処分コストに関する日本の電力会社の開示はどうなっているだろうか。社会的な関心も高いし、不確実性も高い。原発を持つ電力会社の経営者にとっても、当然、非常に関心のあるところだろうし、重要な情報に違いない。しかし、見積るのは難しい。2014年3月期の東京電力の有価証券報告書を見てみると次のようになっている。

 

(核燃料関係)

B/S

 

使用済核燃料再処理等引当金 10,544億円

 

(参考)使用済核燃料再処理等積立金が、資産の部に10,169億円計上されている。また、使用済核燃料再処理等準備引当金が679億円計上されている。

 

・会計方針の注記

 

使用済核燃料再処理等引当金(具体的な再処理計画のあるもの)

 

再処理費用見積額の現価相当額を計上していること、および、現価に割引くための割引率を開示している。再処理費用の見積り方法(=見積りのプロセスや限界)については言及なし。恐らく、「より詳しく知りたい人は、電気事業会計規則を参照すること」が期待されているのだろう。

 

また、2種類の未認識(=計上対象になっていない)のコストが合計3千億ほどあって、順次計上されていくことについて説明している。

 

再処理費用の見積り額に関する不確実性の記載はない。再処理は、使用済核燃料からさらにウラン235やプルトニウムを取出す工程だが、主力工場である青森県六ケ所村の施設は、まだ稼働していない(2016年3月竣工予定 日本原燃HP)。稼働しなければ再処理計画は実現できないだろうし、当初 2009年の予定から、たび重なる稼働延期に伴い、建設費用は2.8倍に膨らんているという(Wikipedia)。それが最処理費用の見積りにどのように影響するのか、しないのか。

 

核燃料には上記の他、未使用のもの、原子炉内で使用中のもの、使用済で具体的に再処理計画がないものがあると思うが、これらについても不確実性の説明は特にない。即ち、これらに関する再処理コストは不確実性が高過ぎて計上していないのか、それとも、一定の手続で計上したのか。或いは、再処理しない場合(=直接処分)の処分コストがどう扱われているのかは、僕には読み取れなかった。

 

 

(原発設備関係)

 

C/S

 

原子力発電設備解体費 48億円*
(P/Lとしては、本表でも注記でも開示されていない。金額的に重要でないためと思われる。)

 

・会計方針の注記

 

原子力発電設備解体費

 

原子力発電施設解体費の総見積額の現価相当額を資産除去債務に計上しているとのこと。解体費の具体的な見積り方法については、経産省の“原子力発電施設解体引当金に関する省令”に記載されているらしい。

 

この他、福島第一原発に関しては見積りに限界があることが説明され、また、上記省令の変更に伴う見積り方法の変更の注記がある。

 

核燃料と同様だが、福島第一の件を除き、不確実性についての説明はないし、放射性廃棄物の最終処分に至るまでのコストの扱いに関する記載もない。

 

 

以上からお分かりいただけるように、「不確実性にも気を配れ」という概念フレームワークの規定は、日本の会計基準や会計慣行にとっては、意外に意識されていない。盲点となっており、IFRSへ移行する際に注意が必要かもしれない。この点が企業会計原則と大きく異なる部分だと僕は思う。

 

加えて、僕の主観的な感想を述べれば、電力会社の経営者が勇気をもって“分からない状況”を説明しなければ、投資家や債権者、その他一般の電力利用者に至る利害関係者は、原子力発電事業を信頼しないだろう(2014/12/30428の後半に記載した“福島県立医科大学”のリスク・コミュニケーションの話を思い出してほしい)。不確実性が高いために有用か有用でないか判断の難しいところ、いや、仮に有用でないと判断される情報であっても、そこに相手の重大な関心があるのなら、コミュニケーションの対象から除外してはいけない。そういう情報こそ、経営者は、勇気を持って語る必要があるのではないかと思う。

 

ちなみに、東京電力は、非財務情報の“事業等のリスク”に、さらりと記載しているが(“原子力発電・原子燃料サイクル”のところ)、あまりに薄すぎる。

 

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* 今回のテーマからは離れるが、“資産除去債務関係”の注記では、資産除去債務は、主としてこの原子力発電解体費用に当たるものが計上されているとされ、その総額は7,144億円(但し、B/S ではなぜか、7,142億円)。この解体費は定額償却されるが、上記 C/S 計上額とのバランスの悪さ(償却費が非常に少ない)については、上記見積り方法変更の影響だろうか? しかし、“会計方針”や“セグメント情報”にこの見積り方法の変更の注記があるが、この期の費用は170億円も増加したことになっている。よく分からない。おまけに、資産除去債務は1,130億円も減少している。“費用配分方法の変更”と書いてあるが、なぜ、資産除去債務が、こんなに大きく動いたのだろう?

2015年1月20日 (火曜日)

433.【番外編】視点を変えてみる~環境損益計算書

2015/1/20

会計学では、財務情報の読み手として一般投資家などの企業外部者を想定することが一般的だ。IFRSもそういう建前になっている。しかし、現実には会計の最も熱心な読者は経営者であり、事業の管理者だ。では、なぜ経営者や管理者が読者になるかというと、会計が経営のヒントを与えてくれるからだ。会計はそういう役割を果たさなければならない。

 

IFRSでは、財務情報は目的適合性があり経済実態を忠実に表現しなければならない。そうなることで、事業を財務面から切り取り、読者に意思決定の方向性を与える。これはとても重要な役割だが、読者にとってこれがすべてではない。いわゆる非財務情報も非常に重要だ。事業には、財務面だけでなく様々な要素があるから、実際の事業運営においては様々な角度から切取られて分析される。

 

ここで重要なのは、様々な角度と言ってもその角度が固定化されマンネリ化するとアイディアが枯渇し、事業を革新・改善、イノベーションを起こすことが難しくなることだ。このため、既存の切り口をさらに深化させることや新しい切り口・角度の探索が絶えず求められる。

 

そういう意味で面白い記事があったので紹介させていただきたい。

 

プーマ「環境損益計算書」の衝撃~先進企業は自然資本を経営にこう生かしている(後編)

(日経BizGate 1/14 閲覧するには会員登録(無料)を求められるかもしれない。)

 

タイトルには“プーマ”(スポーツ用品メーカー)と記載されているが、プーマに限らず、サプライ・チェーン全体と環境負荷という観点に目を向けることで新しい切り口を得、事業をより持続可能にするアイディアを創出する例が記載されている。リスク・マネジメントを高度化するアイディアといっても良いかもしれない。(“リスク・マネジメントの高度化”というと、スキルとか方法論とか、テクニカルな面に焦点が当たりがちだが、本来は、新たな“視点”の発見にこそ、真価があると思う。)

 

例に挙げられているのは、もちろん先進的な事例で、「ここまでやるのはコストがかかる」と思われるかもしれない。確かに、非財務情報として外部へ開示するならそういう面も避けられないかもしれない。でも、経営のヒントとして使うだけなら、そこまでのコストは必要ないかもしれない。重要なのは、頭に刺激を与えられることだ。

 

リスク・マネジメントの具体的な対応策として、“リスク分散”がある。仕入先であれば、1つの仕入先に頼りきりにならないようにすることだ。しかし、そればかりではない。先ごろ報じられたユニクロの中国の協力工場の従業員の待遇を改善するという話は、その仕入先とより長期的に安定した関係を結ぶためのものと見ることもできる。分散以外に、このような角度でもリスクを減らすことができる。これは先進的な手法でコストを掛けなければ実現できなかった、ということではない(ユニクロは、外部からのクレームに耳を傾けたことがきっかけだったようだ)。

 

今回は短いが、みなさんのお役にたてるかもしれないと思い、お知らせした。是非、上記のリンク先をご一読されることお薦めする。

2015年1月16日 (金曜日)

432.【QC02-15】会計面の比較~会計上の見積りのヒエラルキー(分類・区分)

2015/1/15

今回は久しぶりにメインテーマへ戻ってきた。その間【番外編】で、主に原発廃炉会計について記載してきたが、実は、この廃炉会計も会計上の見積りに関連しているので、まったく見当違いの道を走っていたわけではない。といっても、助走というほどストレートに繋がっているわけでもない。ただ一つ、2014/12/30の記事(428を除いては。

 

この 428 では、見積りが難しい極端な事例を紹介した。僕は、このシリーズの前回である2014/12/23の記事(426で「IFRSでは、すべてのB/S項目が見積り」と記載したが、すでにご承知の通り、見積り項目にも色々なものがある。例えば、市場価格のある株式と 428 の事例を同じ見積り項目として一括りで論じるのは、あまりに雑だ。

 

そこで今回は、IFRS13号「公正価値測定」の区分(=公正価値ヒエラルキー)を利用して、公正価値測定以外の見積り項目についても階層分類してみよう。そうすれば、議論の対象にしたい見積り項目がどのようなものか、よりはっきりする。(なお、これはあくまでこのブログの便宜上の分類・区分であり、IFRSには、公正価値測定以外の見積り項目に関するこのような分類・区分はない。)

 

レベル1

見積り対象に対し、測定日に企業がアクセスできる活発な市場における相場価格(無調整)を利用できるケース

 

公正価値測定の場合、このレベル1へ区分するポイントは、市場価格が“無調整”で利用されることだ。もし、市場価格が調整された場合は、レベル2やレベル3へ区分される。そういう意味では、このレベル1には恣意性が介入するリスクが低い。公正価値測定以外の見積り項目の場合も同様に考えらえる。

 

公正価値測定の例としては、日本基準でもお馴染みの市場価格のある株式がこれに当たる。公表されている市場価格をそのまま適用できるからだ。

 

公正価値以外であれば、例えば、IAS2号「棚卸資産」に出てくる“正味実現可能価額”を見積る際には、製品市場の通常の販売価格を利用できるケースがある。なお、“正味実現可能価額”は、IFRS13号の対象外(IFRS13.6(c))の見積り項目で、棚卸資産は原価と正味実現価額のどちらか低い方で計上される(IAS2.9 なお、その評価損はその後の決算で条件が整えば戻入可能)。

 

レベル2

見積りを行うに際し、レベル1に含まれる相場価格以外のもので、直接又は間接に観察可能な相場価格を利用できるケース。

 

公正価値測定は、市場参加者の立場で資産や負債を測定する。レベル1のように、実際に活発な市場がある場合はそのままそれを利用すれば、市場参加者の立場による測定になるが、それができない場合は、次のようなステップを踏むことになるだろう。

 

 ① 市場参加者が使用するであろう評価技法を選択する。

 ② 市場参加者が想定するであろう仮定や条件を想定し、調整方法を決定する。

 ③ 評価技法や調整方法へ市場参加者が使用するであろうデータ(=インプット)を投入する。

 

このうち、③の使用データ(=インプット)の客観性の度合いが、レベル2とレベル3を分ける。レベル2へ区分するポイントは、使用データが、相場価格などの観察可能な市場データを根拠にしているか否か、または、基礎にしているか否かだ。(IFRS13.74)(ちなみに、観察可能でないデータを利用しているが、測定額に重要な影響がない場合は、レベル2へ区分可能だ。)

 

公正価値測定以外の場合は、IFRS上はこのヒエラルキーの区分は必要ないが、会計上の見積りを整理したいので、無理やり思考実験してみる。公正価値測定以外の場合も、なるべく主観性を排除することは必要だが、そのために市場参加者を想定する必要はない。上記に引続きIAS2号の“正味実現可能価額”の例でいえば、仕掛品や原材料の測定するケースを考えてみると良いと思う。

 

仕掛品や原材料が製品を生産する目的で保有されている場合は、製品の販売価額から逆算して(=その後発生する原価などの見積り額を控除して)、正味実現価額を算定する。即ち、製品の販売価額を調整して、仕掛品や原材料の正味実現可能価額を算定する。(なお、IAS2号では、原価と正味実現可能価額の小さい方を棚卸資産の評価額とするから、正味実現可能価額がそのまま評価額になるわけではない。)

 

この“その後発生する原価の見積り”が、例えば、相場が業界で知られているような外注取引など市場参加者に観察可能なデータに基づいている場合は、これらの正味実現可能価額はレベル2とすることができる可能性がある。しかし、内部の原価計算データによるのであれば、レベル3へ区分されるだろうと思う。原価計算データは市場参加者が入手できないものであり、その分、客観性に欠けると考えられるからだ。だからといって、棚卸資産の正味実現可能価額の算定に外注データを利用した方が良いと言っているわけではない。公正価値測定ではないので、原価計算データに信頼性があれば、そちらの方が適切な場合が多いと思う。

 

ちなみに、仕掛品や原材料が、それ以上加工されずに転売される目的であれば、観察可能な転売価額が正味実現可能価額となる。その場合は、ここでいうところのレベル1だ。

 

もう一つ、公正価値測定以外のケースを例に挙げると、退職給付債務がある。退職給付債務のインプットは、2種類あって、一つは退職給付制度や給与水準・勤続年数といった膨大な個人データ。もう一つは、退職率・一時金選択率・死亡率・割引率といった指標系のもの。観察可能なデータは割引率と死亡率ぐらいのものだが、その他の指標系のものも個人データも客観的な事実であり、インプットに主観が入る余地は少ない。見積もり作業は膨大で計算内容も複雑だが、インプットは意外に客観性が高い。もし、これを公正価値ヒエラルキーに喩えて区分するなら、レベル2になるのではないか。IASBとしては、退職給付債務の見積りについて、その複雑性の割に、質の高い見積りが期待できると思っていると思う。

 

といっても、作成者サイドから見れば、問題がないわけではない。例えば・・・

 

昨年10月の日銀の追加緩和や、最近のギリシャ問題など欧州不安、原油価格の低下などにより、日本の国債金利も一段と低下している。公正価値測定される年金資産の運用が好調なら問題は軽減されるが、割引率を引下げると退職給付債務が増加するので、頭を痛めている企業も多いかもしれない。日本基準でも安全性の高い債券の期末の利回りを基礎として決定することになっているが、10%の重要性基準があるから割引率の改定を見送る企業もあるはずだ。なぜ、IFRSは期末の市場金利で割引率を改定しなければならないのか。退職給付債務の見積り対象期間は長期に渡るものであり、期末という一時期の市場金利に拘らなくてもよいのに・・・。

 

しかし、年金資産だけ期末日の公正価値で評価して、対応する負債、即ち退職給付債務に期末日の市場データを利用しないというのもおかしい。それに、IFRS採用企業同士であれば条件は同じだ。それで財務パフォーマンスに差が出るなら、それが実態に忠実といえるだろう。IASBは、これこそ会計基準の質の高さだと思っているに違いない。即ち、インプットに客観性があることを重視しているのだろう。

 

日本基準採用企業でも、割引率の改定による退職給付債務の変動が10%以内なら、改定するのもしないのも企業の自由といった運用は、監査人に容認されないと思う。実際の運用はもっとルール・ベースで恣意性の入らないものになっていると思うので、実態はIFRSとあまり差はないだろう。でも、会計基準としてはIFRSに比べて質が高いとはいえまい。もし、このヒエラルキーで考えるなら、日本基準を適用すると、恐らくレベル3に区分されるのではないか。

 

レベル3

見積りを行うに際し、資産又は負債に関する観察可能な相場価格がないケース

 

IFRS13号の適用指針(=ガイダンス)の B35項、B36 項には、レベル2とレベル3のインプットが例示されている。これらを見ると、金利スワップ、通貨スワップ、上場株式オプション、資金生成単位が両方の区分で例示されているのが興味深い。レベル2かレベル3かの区分は、単純に「金利スワップだから」というだけで一律に決められるものではなく、同じ金利スワップでもその取引価格を構成する内容によって区分が異なるということだ。即ち、取引価格を構成する重要な計算要素が、市場データに裏付けられたものかどうかで区分する。

 

公正価値測定以外の場合の、レベル3の代表的な例としては、使用価値の見積りが挙げられるだろう。減損テストで計算するやつだ。将来キャッシュ・フローの見積りは、企業の想定する事業計画や事業用途を前提にするので、市場参加者の想定とは関係ないからだ。企業の主観的な(といっても合理的でなければらない)事業見通しに基づいて計算される。冒頭で触れた 428 のケースも、レベル3に区分されるだろう。

 

 

企業会計原則の保守主義の原則による会計上の見積りに関する規定と、これに対応するIFRSの概念フレームワークの有用な財務報告の質的特性の記述を比較するにあたり、上記のレベル1~レベル3のうち、どれを念頭に置いたら適当だろうか。

 

この答えは、既にみなさんもお分かりと思う。レベル3だ。レベル3の特徴は、上記③のインプットについて、市場データで客観的に裏付けが取れないデータを使っているということだ。IASBは、評価技法の選択(=上記①)や調整方法の決定(=上記②)を、公正価値ヒエラルキーの区分を決定する要素としていない。上記③のインプットのみで判断するとしている。それは、市場参加者を想定することで、①や②については、どの企業が行ってもある程度同じ技法や方法に収斂するだろうと考えているからだと思う。しかし、公正価値測定以外の会計上の見積りを行う場合は、市場参加者の想定に必ずしもこだわらないので、①や②においても、経営者(或いは、財務諸表作成者)の判断が重要な役割を果たす場合があると思う。逆にいえば、レベル3はそれだけ自由度が高い。

 

この自由度の高いレベル3の見積りについて、企業会計原則は、一般原則で楽観を戒めながら、その注解で過度に悲観しないよう規定している。IFRSの概念フレームワークでは、どうなっているだろうか。残念だが、これは次回へ繰越したい。

 

2015年1月13日 (火曜日)

431.【番外編】原発廃炉の会計処理が“問題あり”だって?~その3~本質論

2015/1/13

いよいよ、サッカーのアジア杯がオーストラリアで始まり、昨日は日本とパレスチナの試合が行われた。スコアは4-1で日本が勝利したが、日本の攻撃は今一つだった。みなさんもご存じのとおり、パレスチナにはイスラエルとの長い紛争の歴史があり、昨夏も大変な被害を出している。そんなパレスチナ人に勇気を与えたい気持ちが、彼らのモチベーションを上げていたようだ。なでしこJAPANがW杯で優勝したときと同じだ(2011年)。彼女たちも、東日本大震災からの復興を強く意識していた。日本人に勇気を与えたかったのだ。そんなモチベーションの高さが、日本の攻撃を鈍らせたのかもしれない。

 

さて、復習を兼ねてテーマの概要から確認しよう。

 

その東日本大震災で発生した福島第一原発の事故を契機に原子力行政が見直され、40年運転制限などの安全規制が厳しくなった。その結果、事故を起こした以外の原子力発電所も廃炉が現実的な問題になってきた(例えば、“老朽化した5原発”。NHK HP)。また、電力システム改革の中で電力料金規制の撤廃や発送電分離が予定されており(2018-2020 経産省HP資料)、原子力発電事業を取巻く環境が大きく変わろうとしている。これを機会に、原発廃炉の会計処理が、経産省の“廃炉に係る会計制度検証ワーキンググループ”(以下、“検証WG”)で検討されている。

 

検証WGが廃炉の会計処理を検討している目的は、2014/12/28の記事(427にも記載した通りだが、より簡潔に書けば、次のようになる。

 

・財務・会計上の理由から、不合理な廃炉先送りなどの判断がなされないようにする。

・一時期に多額に発生する廃炉費用で電力会社の事業継続(廃炉事業を含む)に支障をきたさないようにする。

 

即ち、電力会社の経営者が廃炉を怖がることなく、「廃炉の意思決定をスムーズに行える」ようにすることとされている。これに対して僕の疑問は、次のようなものだ。

 

会計は経済実態を忠実に表現する道具なので、損失が発生していれば損失計上せざるえない。損失計上を減らしたいなら経済実態として損失を減らす必要があるので、廃炉が決まった原子炉でも収益が獲得できるような仕組みがあるとか(=資産性の確保)、廃炉に関連して収入が確保される仕組みを設けるしかないのではないか(=損失を打消す利益の確保)。これは、会計の問題ではなく経営の問題ではないか。会計処理を変えるのではなく、実態を変えるべきだ。(そうすれば、自然と会計、即ち、財務諸表も変わる。)

 

2014/12/17 の検証WGの資料2「廃炉を円滑に進めるための会計関連制度の詳細制度設計について」によれば、具体的に次の会計処理が念頭にあるようだ。そして、それが可能となるように資産性を確保する仕組みが、検証WGの事務局から提案されている。

 

・会計処理の変更案

 

現行の会計では廃炉を決めた時点で減損処理される次のものを、“原子力廃止関連仮勘定”(以下“仮勘定”)として固定資産へ計上し、10年間で定額償却する。

 

・原子力発電設備(建設仮勘定に計上されているものを含む)

・核燃料(未使用、炉内で使用中、使用済を含む)

 

・資産性確保の仕組み

 

現行制度で減損損失(特別損失)は、規制料金の原価へ算入されない(総括原価方式)。したがって、原発廃炉の減損損失は、電力料金では回収されないものとして扱われている。それを、上記“仮勘定”へ計上して10年間で償却することで、その償却費を規制料金の原価へ算入することを容認する。すると電力料金は、総括原価方式の仕組みにより、“仮勘定”の償却費を回収できる水準で設定される。これで、“新勘定”の資産性が確保できる(と検証WGの事務局は考えている)。

 

但し、規制料金撤廃・発送電分離後は(2018年~2020年以降)、一定の経過措置はあるものの、上記の仕組みでの回収は困難となる。電力会社(発電会社)は電力料金を自らの経営判断で決められるようになるが、かといって“仮勘定”の償却費が回収できる水準で料金設定がされる保証はない(というか、刻々と価格が変動する市場取引も考えられているらしい。市場価格は原価とは全く関係なく決められるため、回収が保証されない)。電力利用者は、電力小売り事業者が提示するメニューから、自分の目的・用途、希望する価格体系を考慮して選択し購入契約する。

 

ただその場合(2018年~2020年以降)でも、送配電会社の“託送料金”には総括原価方式による規制料金が残るので、その仕組みを利用して発電会社が“仮勘定”の償却費相当額を電力使用料として回収できるように仕組みを作る。その具体的な仕組みは、電力利用者の負担の在り方なども考慮し、将来、検討する(即ち、原子力発電による電力を購入する利用者のみが“仮勘定”の償却費を負担するか、若しくは、全電力利用者に負担させるか、といった検討は将来行われる)。

 

現時点(1/12時点)では、まだ201412月の議事録は公表されていない。ただ、“4回議事要旨”は公開されていて、ここに主な意見がリストアップされている。上記の提案に対して、どのような意見が出たのだろうか。主なものを要約して記載したい(正確に知りたい方は、直接上記リンク先をご覧いただきたい)。

 

・仮に、この制度がなければ、廃炉が進まなくなるというのはわかっている。

・資産計上するためには、費用回収の確実性が前提条件。

・会計制度と料金制度は分けて考えるべき。回収可能かどうかは会計制度で決まるのではなく、料金制度で決まっていって、それを受けて会計制度でどのように表現するかということなので、合理的な説明可能なものとしては、事務局が提示した会計処理で整理できるのではないかと思う。

・事故によって廃炉となったもの以外は、基本的に全て対象となり得る(事務局)。

・経過措置料金がなくなる時期と、託送料金に移行する時期が一致するかもしれないし、一致しない場合もあると考えている。経過措置料金の撤廃方法については、システム改革は全体のエネルギー政策で整合的に進めていく必要があるため、これを踏まえて、議論する必要がある(事務局)。

・託送料金で回収するという局面で、例えば、広く薄く負担ということとなると、明らかに消費者負担の配分が変わる。

・整理できるのであれば、負担は薄く広くするべきだと思う。少なくとも20164月全面自由化に前に整理することが必要ではないか。

・事務局提案の基本的な考え方は賛同。費用の回収確実性が担保されることが重要。どの規制料金の中で回収するのかについては見通しきれないため、幅広い場合を考えて準備をしておくことが重要。

 

各委員は、基本的には、事務局案に賛同しているようだ。恐らく、廃炉の意思決定を歪めず合理的に行えるようにするという目的が最優先されているからだろう。しかし、この検証WGは、“廃炉に係る会計制度”を検証することが目的であって、廃炉を促すことではないはずだ。事務局が提案した会計処理が、経済実態を忠実に表現しているかどうか、それこそが問題のはずだ。

 

そこに焦点を当てるには、事務局が提案した“資産性確保の仕組み”にもっと踏み込む必要がある。委員の中には、「費用回収の確実性を前提条件」としたり、「回収可能性は会計制度で決まるものではなく、(会計は実態を)どのように表現するかということ」、といった点に言及された方々がいる。ただ、要約であるためか舌足らずな感じだ。これらの方が本当に言いたかったのは、次のようなことではないだろうか。

 

“仮勘定”を資産計上できるかどうかは、“仮勘定”を将来キャッシュ・フローで確実に回収できる料金制度になるかどうかにかかっている。しかし、料金制度は、エネルギー改革全体と整合するよう詳細が決まっていくという。事務局のいうように、制度の詳細が将来決まるなら、会計処理の判断もそのときに行えばよい。今言えるのは、「回収が確実な料金制度になるなら、資産計上可能」ということだけではないか。

 

さらに、僕はこの“仮勘定”を有形固定資産かのように、償却資産として扱うことには疑問がある。この“仮勘定”には、廃炉にされた原発発電設備や核燃料の簿価(=本来、減損損失に計上される額)が計上されるのだが、これらに価値があるのだろうか? これらは何も生産しない。何の付加価値も生み出さない。

 

“仮勘定”の償却費に見合うキャッシュ・フローが回収されるのは、法制度を後ろ盾とした電力利用者との契約に基づく電力料金だ。それは“仮勘定”が生み出すものではない。電力利用者が支払い義務を負うかどうかは、そのような法制度があることや、その法制度に基づいた電力利用契約を締結することによる。同様に、発電会社がそのキャッシュ・フローを受取れるのは、そういう法制度やその法制度に基づく電力供給契約を締結したことだ。“仮勘定”の存在はそのきっかけに過ぎない。

 

このように考えると、“仮勘定”(正式名称“原子力廃止関連仮勘定”)の実態は原発設備や核燃料という現物資産ではなく、契約によって将来キャッシュ・イン・フローを生み出す能力だ。即ち、実態は契約に基づく金融資産だ。債務者の特定はできないが、確定額の債権と考えられる。もし、名付けるとすれば“廃炉原発コスト徴収権”だろうか。この方が実態を分かりやすく表現できるように思う。そして、この金融資産は、期間10年で電力利用者から回収できるよう商品設計される予定だと、この検証WGの事務局は言っている。ならば、その商品設計ができた時に会計処理を最終決定すればよい。今の段階で言えるのは、「将来キャッシュ・フローで回収されるなら、(金融資産として)資産計上が可能」。ここまでだ。

 

そして会計処理だが、金融資産となれば“10年で償却”という事務局案はおかしい。次のようにすべきと思う。

 

(廃炉の意思決定時)

 

減損損失を計上し、それと同額の“廃炉原発コスト徴収益”を計上する(その相手勘定が上述の“廃炉原発コスト徴収権”)。

 

(その後)

 

電力利用者との契約に基づき、廃炉原発コストが回収された分を、“廃炉原発コスト徴収権”から減額する。そして、予定通り廃炉原発コストが回収できない場合は減損処理を行う。

 

このようにすれば、廃炉の意思決定という事実が、P/L及び減損の注記という形で財務諸表に開示される。また、電力利用者から、廃炉原発コストを徴収し過ぎるようなことも防止できるし、逆に、料金制度設計によっては全額回収できない可能性もあり得るので、そうなった場合の減損処理も要求される。事務局案にはこの辺りの内容がない。

 

もう少し具体的に書くと、“10年定額償却”という会計処理は、実際にいくら原発廃炉コストを回収できたかを管理できない。償却処理と料金徴収額が全く関係なくそれぞれ費用と収益に計上される。すると、次のような不合理が生じる。

 

例えば、原発電力の利用者からのみ、この原発廃炉コストの料金を徴収するという制度設計がされた場合、原発電力の需要と原発の稼働状況が見積もり通りでない場合は、料金を徴収し過ぎたり、又は、料金徴収額が不足したりする。しかし、この“10年定額償却”の会計処理ではその過不足の状況が分からない。いわゆる“どんぶり勘定”的な処理になる。原発電力の需要が見積もりより大きかった場合(=利用量が多い、或いは、利用者が多い場合)、この料金を予想よりたくさん徴収できるが、だからといって料金徴収期間が短縮されるとは限らない。10年間は料金算定基礎の原価に計上されるから、発電会社は焼け太りだ。逆に、原発電力の需要が見積もりより小さかった場合は、発電会社は原発廃炉コストの徴収に失敗する。だが、事務局案の会計処理で定額償却をしているだけでは、減損テストが行われない可能性がある。

 

また、広く一般の電力利用者からこの原発廃炉コストの料金を徴収するという制度になった場合、原発電力や原発の稼働状況とは全く関係なく、原発廃炉コストが電力料金として徴収されることになる。そうなれば、原子力事業と増々関係のないキャッシュ・イン・フローになるので、廃炉設備や核燃料の原価を定額償却する理由も、それを有形固定資産として資産計上する理由も希薄になる。即ち、事務局案は、増々、経済実態を表わさない会計処理になる。

 

 

なお、僕は反原発派(但し、“直ちに全部廃止”には拘らない)だが、それと、この会計処理の問題には関係ない。会計は実態をどう表現するか、どう表現したら実態を忠実に伝えられるかが問題であって、会計処理の話題をしている限り、原発が再稼働しようが、廃炉コストが全国民から回収されようが関係ない。極端にいえば、本来廃炉にされるべき原発が稼働してたって関係ない。ただ、その状況をどう表現するか、例えば、廃炉にした方が損失が少ないのにも拘らず稼働させているその状況を、どう表現するか。その実態を財務諸表の利用者に分かるようにすること。これが会計の問題だ。

 

この観点で見れば、廃炉の会計処理の本当の問題は、いまだ決まっていない放射線廃棄物の最終処分の方法とそのコストをどう見積って期間配分するか、原発事故が発生したときの損害額をどのように見積って期間配分するか(或いは、注記するか)だ。これによって、電力会社の経営者も、債権者も投資家も、原発事業の実態が分かるようになる。

 

そんな方はあまりいないと思うが、もし、「いやいや、そんなこと皆目見当がつかないから無理だよ」とか、「事故が起こらないように安全規制を厳しくしているから不要だよ」などと思われるとすれば、“原発の安全神話”がまだ抜けていない。検証WGは、電力会社の経営をサポートするかのようなテーマを扱っているが、本来は、こういった問題にこそ、取り組んで欲しいと思う。

 

 

 

2015年1月 9日 (金曜日)

430.【番外編】遅ればせながら、新年のご挨拶~表現の自由

2015/1/9

みなさんもご存じのとおり、7日、パリにある風刺週刊紙シャルリー・エブドの編集部が銃撃され、風刺画家 4名を含む12名が殺された。昨年末には、映画「ザ・インタビュー」を巡ってソニー・ピクチャーズエンタテイメント(=SPE)がサイバー攻撃され、私的なメールや未公開の映画などがネット上に暴露されたり、この映画を公開しないよう脅しを受けた。いずれも、“表現の自由”を脅かすものとしてマスコミに大々的に取上げられ、“表現の自由”を守る熱心な市民運動にも発展しているようだ。

 

SPE は、6日、映画「ザ・インタビュー」のオンライン、ケーブル、および衛星通信による配信収入が、すでに3100万ドル(約36億7700万円)を突破したことを公表した。この他、映画館での興行収入が500万ドルあるという。(1/7 Reuters) テレビ・ニュースでも、「表現の自由を守るために見に来た」と言って映画館へ向かう観客の姿が報道されていた。ちなみに製作費は約4400万ドル(約53億円)(12/8 Bloomberg)で、このままの調子なら元は取れそうだ。

 

一方、シャルリー・エブドに関しては、早速その夜、追悼集会が開かれフランス国内だけで10万人以上が参加したという(1/8 AFP)。平均発行部数は3万部(1/7 朝日新聞DIGITAL)というから、熱心な購読者でない一般の人々も参加していたのだろう。またオランド大統領は銃撃が行われた現場に駆けつけたうえに、「表現の自由への攻撃」と激しく非難したという(同上)。

 

“表現の自由”が、いかに大事にされているかが分かる。

 

“表現”といえば“忠実な表現”、“自由”といえば“経理自由の原則”を思い浮かべてしまう僕は、「会計で同じような位置づけにあるものはなんだろうか?」と考えてしまった。(ちなみに、前者はIFRSの概念フレームワークで、2つある“有用な財務情報の基本的な質的特性”の1つ、後者は企業会計原則の底流にある、“真実性の原則”の一側面ともいえる考え方。) そして思った。会計もこれぐらい大切にされたらいいのに。

 

 

“表現の自由”は、多様な意見を持つ一般市民の合意形成を図る民主主義において、なくてはならない当然の権利だ。まず、一般市民が判断材料とする情報に“表現の自由”がなければならない。第二次大戦中の大本営発表みたいなウソの情報を与えられるのでは正しい判断ができない。多様な視点からの情報提供が必要だ。次に、一般市民が自らの意見を自由に披露できなければならない。そうでなければ合意形成は進まない。

 

この“一般市民”のところに“一般投資家”を強引に当てはめると、一般投資家が投資の判断材料とする財務情報が会計に関連する。しかし、財務情報の“表現の自由”は限られている。会計原則などによって開示情報は、かなり細かく規定されているからだ。上述の経理自由の原則はあっても、会計処理や表示方法の選択は会計原則の範囲内のみ許容される。ん~、これでは話が広がらない。

 

では、この“一般市民”のところに“会計原則のユーザー”と入れたらどうだろうか。会計原則を開発したり修正したりする過程で、会計原則のユーザーが情報を入手し、それに対する意見を披露しあい、合意形成していく。こちらの方が、しっくりくる。民主主義の過程と会計原則開発の過程は、結構、似ている。というか、会計原則の開発手続は、民主主義がベースにあるようだ。

 

例えば、IFRSを開発するプロセスは、IASBを監督するIFRS財団評議会が設定し、IASBへ課している。IASBはIFRS諮問会議やIFRS財団評議会と連携しながら審議事項を決定し、ディスカッション・ペーパーや公開草案で一般ユーザーの意見を募集し、基準書発効後には適用後レビューを行う。またIASBはこれらの他にも、情報提供や意見募集の機会を設定している(例えば、2010/10協議のプロセス IFRS開発への幅広い参加の促進JICPAのHP)。

 

ただ、残念なことにIASBの情報発信は英語だ。そして、もう一つ重要なことは、民主主義のような“マス・メディア”が限られている。マス・メディアは、一般市民の側に立って民主主義における権力をチェックするという重要な機能を担っているが、会計基準に関する報道は限られているし、専門的な内容を提供してくれるところもまだまだ少ないように思う。日本におけるIFRSの情報は、十分とは言えないと思う。

 

もし、このブログがそういう機能の一部を果たせればよいのだが、僕の能力では難しい。が、多少の貢献はしたい。

 

冒頭の風刺週刊紙シャルリー・エブドは、権力行使の矯正・適正化を目指し、或いは、民主主義による権力配分の適正化を目指し、フランス伝統のキツイ表現で物議を醸しながら、文字通り命がけの貢献をした。このブログでさえ匿名で書いている僕には到底真似できないことだ。でも、僕は僕なりの方法でやって行こうと思う。会計も、資本市場や、事業における適切な資源配分をサポートする重要なツールだ。そこに、少しだけでも貢献したい。

 

というわけで、本年もよろしくお願いします。

 

 

2015年1月 5日 (月曜日)

429.【番外編】2014/12の月間ページ・ビュー・ランキング

2015/1/5

明けましておめでとうございます。少々遅れましたが、先月のページ・ビュー・ランキングをお知らせします。

本年もよろしくお願いします。

 

―・―・―・―・―・2ケ月累計ランキング 11+12月)―・―・―・―・―・―・―

1)2014/8/1 381.修正国際基準(JMIS)の公開草案~概要

 

2)2014/10/1 412.【番外編】小売世界第2位の英テスコで粉飾?

 

3)2014/8/6 383.修正国際基準(JMIS)の公開草案~OCIリサイクリング

 

4)2012/1/10 持分(Equity)~会計用語のEquityって?

 

5)2013/5/13 248.【製造業】減損損失累計額を動かさないことで生じるマイナスの減価償...

 

6)2011/11/1 IFRSの資産~会計上の「資産」とは

 

7)2011/11/30 IFRSの資産~償却資産と減損1

 

8)2014/9/9(最新更新日) IFRS個別基準

 

9)2013/3/7 223.IFRS財団モニタリング・ボードとは

 

10)2014/7/28 379.IFRSへ のれん償却再導入? ~ASBJらが意見書公表

 

―・―・―・―・―・月間ランキング 12月)―・―・―・―・―・―・―

1)2014/8/1 381.修正国際基準(JMIS)の公開草案~概要

 

2)2012/1/10 持分(Equity)~会計用語のEquityって?

 

3)2011/11/30 IFRSの資産~償却資産と減損1

 

4)2014/10/1 412.【番外編】小売世界第2位の英テスコで粉飾?

 

5)2011/11/1 IFRSの資産~会計上の「資産」とは

 

6)2014/12/4 421.【QC02-12】会計面の比較~IFRSの資本・利益区別

 

7)2014/8/6 383.修正国際基準(JMIS)の公開草案~OCIリサイクリング

 

8)2014/12/9 422.【米FASB】同じ場所へ行く目標はなくなった

 

9)2013/5/23 248.【製造業】減損損失累計額を動かさないことで生じるマイナスの減価償...

 

10)2014/5/22 364.CF-DP48)純損益とOCI~OCIリサイクリング

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