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2015年2月 9日 (月曜日)

438.ソフトバンクのスプリント減損の不計上~検証~資金生成単位の見直し①

2015/2/9

前回(4372/7)の記事では、日経電子版、ロイター、そしてソフトバンクのニュース・リリースから、ソフトバンクが米国子会社スプリントの計上した巨額の減損損失を計上しないとした理由について、僕なりに整理してみた。その結果、以下の疑問が残った。

 

(減損の資金生成単位の見直し)

・ソフトバンクは、連結の見地から資金生成単位を見直し、スプリントの減損を取消しているようだが、この資金生成単位の見直しはやってよいことだったのか。

 

(減損テストで支配権を考慮)

・ソフトバンクは減損テストにスプリント株式の時価の見積りを使っているが、その時価には支配権(=コントロール・プレミアム)が考慮されている。考慮して良いのか。

 

今回は、最初の疑問について公表されている有価証券報告書等の情報に基づいて具体的に検証し、前回想定しきれなかったソフトバンクの考え方をもっと深く探ってみたい。但し、思いのほか長文になってしまったため、下記 A, B, C のうち、今回は A, B のみとし、C 及び2つ目の疑問は後日としたい。(=今回は太字で色が変わってる部分のみ。)

 

以下を読むにあたって、気を付けていただきたいことが2つある。一つ目は、僕の想像力と知識では本当のソフトバンクの判断過程に肉薄することはできない。あくまで以下は、僕の単なる妄想に過ぎないこと。もう一つは、僕はソフトバンクの株主だ。即ち、いわゆる“特別な利害関係”を持っている。それに、ソフトバンク携帯の使用者であり(株主優待割引あり)、かつ、孫正義氏のファンだ。甘い判断をするかもしれない。

 

 

ということで、最初の疑問“減損の資金生成単位の見直し”について検討してみよう。まず、その検討結果を要約する。そのあとで、そのプロセスや根拠を説明する。

 

(検討結果)

 

A. 今回の処理は、US-GAAPのとIFRSという会計基準の差異によるものではなさそう。

 

“資金生成単位”は、日本基準、IFRS、US-GAAPで、概ね同じものであり、このケースで大きな差が出るとは思われれない。したがって、今回のソフトバンクの処理は、報道にあるようなソフトバンクとスプリントの適用する会計基準の相違によるものではないと思う。

 

B. 今回の処理は、親会社と子会社という経営階層の違いで生じたものだと思う。

 

このケースにおける資金生成単位の見直しは、(会計基準の相違ではなく)“連結の見地”から行われたものと思う(子会社スプリントは移動通信サービスと固定通信サービスを分けたが、ソフトバンクは親会社の立場から、スプリント全体を一つの資金生成単位としている)。しかし、この資金生成単位の見直しは、日本基準であれば行われなかったかもしれない。だが、IFRSでは、下記 C の条件はあるが、行える可能性があると思った。(“連結の見地”は、日本基準とIFRSで微妙に違うのかもしれない。)

 

C. IFRSにおいてソフトバンクがこの見直しをするためは、以下の条件をクリアする必要があると思う。

 

資金生成単位は、減損会計の“見積りの前提”だ。これは、US-GAAPの表現を借りれば、「関連する事実や状況に基づいて判断されるもの」ということになる(Topic 350-30-35-221)。

 

・当然だが、この判断に不正な意図があってはならない。

 

実は、この“連結の見地”に関してIFRSには具体的な規定がない。このような場合、概念フレームワークを参照して判断することになる。ソフトバンクの連結財務諸表では、スプリントが損失計上した資産が再計上されるので、この部分について次の検討が必要だ。

 

・財務情報の質的特性(特に、目的適合性や忠実な表現)や資産の定義・認識規準を満しているか。

 

 

では、上記に至ったプロセスを説明する。まずは、A の会計基準の相違によるものかどうか、という問題だ。

 

減損テストにおける評価単位は、どの基準でも“資金生成単位”、または、“資産又は資産グループ”であり、個別の資産ごとに減損テストができない場合は、資産グループを資金生成単位として減損テストを行うことになっている。そして資金生成単位は、概ね「独立したキャッシュフローを生成する最小単位」といった感じで規定されている。以下、それぞれの会計基準の書き振りを紹介するので、基本的には同じものであることを感じていただきたい。

 

日本基準

 

(減損会計意見書 四 2.(6)①)

 

・・・資産のグルーピングに際しては、他の資産又は資産グループのキャッシュ・フローから概ね独立したキャッシュ・フローを生み出す最小の単位で行うこととした。実務的には、管理会計上の区分や投資の意思決定(資産の処分や事業の廃止に関する意思決定を含む。)を行う際の単位等を考慮してグルーピングの方法を定めることになると考えられる。

 

IFRS

 

IAS36.6

 

資金生成単位とは、他の資産又は資産グループからのキャッシュ・インフローとはおおむね独立したキャッシュ・インフローを生成する最小の識別可能な資産グループをいう。

 

IAS36.69

 

・・・資産(又は資産グループ)からのキャッシュ・インフローが、他の資産(又は資産グループ)からのキャッシュ・インフローからおおむね独立しているかどうかを識別する際に、企業は種々の要因を考慮する。それには、経営者が企業の営業をどのように監視しているのか(例えば、製品系列別、事業別、場所別、地方別又は地域別)や、経営者が企業の資産及び営業を継続するか処分するかに関する意思決定をどのように行うのかが含まれる。・・・

 

US-GAAP

 

例えば、Topic 350-30-35-23241 があるが、その文章をそのまま引用することが憚られるので、大変申し訳ないが、僕の拙い簡略化した意訳でご勘弁願いたい。書き振りの雰囲気を感じていただきたい。

 

Topic 350-30-35-241 

 

以下は、それぞれ別の資金生成単位として減損テストすべき。

 a. それぞれの無形資産が、他から独立したキャッシュ・フローを生成している場合。

 b. ・・・

 

日本基準やIFRSでは、資金生成単位を識別する際のポイントとして“経営上の管理区分”を挙げているが、US-GAAPでは、耐用年数を確定できない無形資産(indefinite-lived intangible assets)に関して、このような規定はない。この点が、ソフトバンクやロイターが「US-GAAPの方が資金生成単位が細かく、“会計基準の相違”と説明する根拠なのかもしれない(前回を参照)。スプリントの減損損失(21億ドル)の大半は、耐用年数を確定できない無形資産(商標権 19億ドル)の減損らしい。

 

しかし、“経営管理”という表現ではないが、実質的に同じような結果となる記述がUS-GAAPにもある。即ち、個別の資産より、それを他の資産とグループにした方が良い使い方ができるとか、高く売れる場合は、その資産グループを資金生成単位とする根拠になりうるとされている(Topic 350-30-35-23c1)。

 

例えば、商標権を単独で売買したり賃貸するより、自ら商標権を使用して製品を生産・販売する方が多くのキャッシュフローを生み出すのであれば、その製品の生産設備なども含めて一つの資金生成単位とすることができる。これならば、US-GAAPがIFRSなどとそう違うとは思えない。したがって、僕には、今回のスプリントの件で、決定的な違いを生む原因となるような違いが、IFRSとUS-GAAPの間にあるとは思われない。

 

よって、僕の考えでは、資金生成単位がスプリントと親会社のソフトバンクで異なるのは、会計基準の相違ではなく、独立したキャッシュフローを生成する最小単位の考え方の違い、即ち、“見積りの前提”が、スプリントとソフトバンクで異なるため、ということだと思う。

 

このように書くと、続いて、次のような追加の疑問が浮かぶかもしれない。

 

・「会計方針をグループ内で統一しましょう」と耳にするが、“見積りの前提”は異なってもよいのだろうか。

 

・資金生成単位が「~を生成する最小単位」であるならば、ソフトバンクは、より小さな資金生成単位を設定しているスプリントに合わせるべきではないのか。

 

 

これらの疑問に答えるためにも、次の B の説明へ進もう。まずは“連結の見地”とは何か。これを考えるには、次の日本基準の規定を読むと分かりやすい。

 

(減損適用指針 10

個別財務諸表上は、資産のグルーピングが当該企業を超えて他の企業の全部又は一部とされることはないが、連結財務諸表においては、連結の見地から、個別財務諸表において用いられた資産のグルーピングの単位が見直される場合がある(減損会計意見書 四2.(6)①なお書き参照)。これは、管理会計上の区分や投資の意思決定を行う際の単位の設定等が複数の連結会社(在外子会社を含む。)を対象に行われており、連結財務諸表において、他の資産又は資産グループのキャッシュ・フローから概ね独立したキャッシュ・フローを生み出す最小の単位が、各連結会社の個別財務諸表における資産のグルーピングの単位と異なる場合をいう(第 75 項参照、[設例 1-6])。

 

(減損適用指針 75 後段)

このように、連結財務諸表における資産のグルーピングの単位の見直しは、必ず行わなければならないものではなく、また、管理会計上の区分や投資の意思決定を行う単位の設定等が複数の連結会社を対象に行われていない場合には、見直されるわけではない。

 

即ち、親会社が設定する資金生成単位が個別子会社の事業領域より広い場合に限って、連結財務諸表作成時に資金生成単位を見直すことができる。その結果、個別子会社が自らの事業領域の範囲内で設定していた小さな資金生成単位で認識した減損損失が、親会社が資金生成単位を拡大したことで回収可能となり、連結決算で計上されなくなる場合がある。

 

これを今回のケースに当てはめると、ソフトバンクが設定している資金生成単位が、スプリント(及びその配下の企業)の事業領域より大きい場合は、“連結の見地”から、資金生成単位の見直しが行われることになる。

 

そうなっているだろうか。これを検証するにはどうれば良いか。まずは、有報のセグメント情報を見てみよう。なぜなら、資金生成単位がいくら大きくても、セグメント情報で開示される事業セグメントを超えることはないからだ(IAS36.80(b))。もし、セグメント情報の事業セグメントがスプリントの事業領域より大きければ、連結で資金生成単位が見直される可能性がある。しかし、事業セグメントがスプリントの事業領域以下であれば、連結で見直すことはない。

 

スプリントを支配下に入れて最初に提出されたソフトバンクの有価証券報告書(2014/3期)の P124 には、次のように記載されている。

 

「スプリント事業」においては、スプリントが、米国における移動体通信サービスの提供や、同サービスに付随する携帯端末やアクセサリー類の販売、固定通信サービスの提供を行っています。

 

「スプリント事業」は、スプリントを2013年7月に子会社化したことに伴い、2014年3月31日に終了した1年間より新設しました。

 

さらに、P136(のれん)を見てみよう。ここには資金生成単位に関する記述もある。

 

報告セグメント    :スプリント事業

資金生成単位グループ :スプリント(注5

(注5)当該資金生成単位グループは、Sprint Corporationおよびのその傘下の会社から構成されています。

 

これを見る限り、事業セグメントは、スプリントの事業領域そのものだ。かつ、それがそのまま資金生成単位となっている。したがって、上記の日本基準の“連結の見地”は適用できない。ソフトバンクが設定した資金生成単位がスプリントの事業領域を超えていないので、ソフトバンクは連結決算において資金生成単位を見直すことはない。即ち、スプリントが計上した減損損失をそのまま連結決算に反映させるはずだ。

 

では、なぜソフトバンクは見直したのか。そして、スプリントが計上した減損損失を連結で取消したのか。僕は日本基準とIFRSがこの“連結の見地”が微妙に違うためだと思う。IFRSでは、「親会社が設定している資金生成単位が、子会社と異なる」ことのみで、連結決算時に資金生成単位を見直せる場合があるのではないかと思う。

 

その理由は、前回も記載したようにIFRSでは、連結における減損の見直し規定がないからだ。IAS36号「資産の減損」にもないし、IFRS10号「連結財務諸表」にもない。そうなると、連結財務諸表であろうが、あたかも個別財務諸表を作成するが如く、(親会社の)経営上の管理単位などを考慮しながら、資金生成単位を設定することになる。親会社と子会社では企業グループ全体の経営階層が違うので、それを反映して資金生成単位が変わってくることはありえる。親会社はグループ企業全体を管理するので、グループ各個社ほど細かく見ていないケースは多いだろう。US-GAAPがいうように、それが“関連する事実や状況”であるならば、それに基づいて資金生成単位を判断することになる。

 

したがって、上記の追加の疑問の一つ目である「親子会社間で“見積もりの前提”が異なってもよいのか」については、「異なってもよい」というのが僕の考えだ。

 

一方、2つ目の追加の疑問「小さい方に合わせるべきではないか」は、もっと難しい。これの詳細は、冒頭の(検討結果)の C に関連するので、後日に譲る。だが、簡単にちょっとだけ記載すると、原則的には「小さい方に合わせるべき」だと僕は思う。なぜなら、子会社が細かく管理して減損があると判断したものを、大雑把に見ている親会社が否定することは難しいからだ。否定するなら、子会社の判断を覆せる理由が必要だ。

 

その判断を覆すには、子会社には見えてないが親会社には見えている“事実や状況”の存在が必要だ。例としては、日本基準の“連結の見地”のように、他の子会社Bが行っている事業が、その減損を計上した子会社Aの事業と密接に関連しているケースがある。具体的には、生産子会社Aの製品を販売子会社Bが売っているケースが分かりやすい。親会社には子会社のAもBも見えているが、減損を計上した生産子会社Aには販売子会社Bが見えない。こういう場合は親会社が設定したAとBの両子会社を含む資金生成単位の方が、減損テストに適している。もしかしたら、生産子会社Aでは赤字の製品も、販売子会社Bでそれを打消すような黒字を出しているかもしれない。グループで見れば、生産子会社Aの製造設備に減損は生じていない。

 

しかし、上述したように、今回のケースは日本基準の“連結の見地”には該当しない。もっと、違う例が必要だ。そういう例があるのか。上記の検討結果の B に書いたように、その可能性はあると思っている。C を満たす場合だ。だが、それについては、次回としたい。

 

-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-

1 US-GAAPのこのインデックス(Topic 350-30-35-22)は、僕が参照を入れた規定が、次のような位置づけにあることを表わしている。

 

350 Intangibles-Goodwill and Other:無形資産-のれん、その他

30 General Intangibles Other Than Goodwill:のれん以外の無形資産

35 Subsequent Measurements:事後測定(≒評価)

xx 段落の番号

 

即ち、僕はUS-GAAPの、無形資産の事後測定の規定から必要な個所を紹介している。さらに詳しく言えば、“耐用年数を確定できない無形資産”の規定を参照している。これは、スプリントが計上した減損損失の大半が、商標権から生じたものであるため。

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