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2015年2月11日 (水曜日)

439.ソフトバンクのスプリント減損の不計上~検証~資金生成単位の見直し②

2015/2/11

始めた当初、この件はもっと簡単に片付くと思っていた。しかし、やってみると意外と奥が深くて手間がかかる。そして何より大変なのが、説明をシンプルに平易にすること。直感を言葉に直すことは、本当に難しい。久しぶりに、審査をパスするための監査調書を作成しているような気分になった。

 

前置きが長いと、それでなくても長文になりがちなこの件が増々冗長になるので、早速、前回までの復習に入ろう。

 

(前々回:疑問の提示 4372/7

 

次の2点を疑問として提示した。

 

(減損の資金生成単位の見直し)

・ソフトバンクは、連結の見地から資金生成単位を見直し、スプリントの減損を取消しているようだが、この資金生成単位の見直しはやってよいことだったのか。

 

(減損テストで支配権を考慮)

・ソフトバンクは減損テストにスプリント株式の時価の見積りを使っているが、その時価には支配権(=コントロール・プレミアム)が考慮されている。考慮して良いのか。

 

(前回:検討結果とその説明の一部 4382/9

 

前回は、2つの疑問点のうち、最初のものについて検討結果とその説明を記載した。但し、検討結果には下記 A, B, C の3つがあるが、長文になり過ぎるので、A, B についてのみ記載し、C については今回記載する。

 

(検討結果)

 

A. 今回の処理は、US-GAAPのとIFRSという会計基準の差異によるものではなさそう。

 

各基準の書き振りを提示しながら説明した。

 

減損テストは、個別資産ごとに実施可能なものは個別資産が資金生成単位となるが、それができないものは資産グループを資金生成単位とする。資金生成単位は、各基準とも「独立したキャッシュフローを生成する最小単位」というような書き振りであり、内容は概ね同じと思われる。

 

B. 今回の処理は、親会社と子会社という経営階層の違いで生じたものだと思う(≒連結の見地)。

 

“連結の見地”というキー・ワードを中心に説明した。

 

日本基準でもIFRSでも、親会社が連結財務諸表を作成するにあたって、“連結の見地”から減損テストの評価単位である資金生成単位を見直し、減損テストをやり直すケースがある(US-GAAPも同じ)。日本の減損基準はこの“連結の見地”を、親会社が設定した資金生成単位が子会社の事業領域より大きい場合、即ち、複数のグループ企業にまたがる場合に限定しているが、IFRSにはそのような記載はない。ということは、IFRSは日本基準より“連結の見地”が広いのではないか、とも思われるが、以下の限定があるので、結局、概ね、同じだと思う。

 

・資金生成単位は“最小単位”と定義されている。

 

原則として、子会社が親会社より狭い範囲を設定していれば、それを優先すべき。ただ、それを覆す“事実や状況”があれば、“連結の見地”による見直し(=親会社が設定している資金生成単位へ見直すこと)が可能。

 

・その“事実や状況”の代表例は、日本基準の“連結の見地”だ。

 

もし、“事実や状況”の例が日本基準の“連結の見地”以外にないとすると、ソフトバンクが今回行った「資金生成単位の見直し及び減損の不計上」は否定されてしまうかもしれない。だが、それ以外の例もあるかもしれない。それを今回みなさんに提示する。そして、その例は下記 C の条件を満たす必要がある。

 

C. IFRSにおいてソフトバンクがこの見直しをするためは、以下の条件をクリアする必要があると思う。

 

資金生成単位は、減損会計の“見積りの前提”だ。これは、関連する事実や状況に基づいて“判断”されるもの。

 

・当然だが、この判断に不正な意図があってはならない。

 

上述のように、この“連結の見地”に関してIFRSには具体的な規定がない。このような場合、概念フレームワークを参照して判断することになる。ソフトバンクの連結財務諸表では、スプリントが損失計上した資産が再計上されるので、この部分について次の検討が必要だ。

 

・財務情報の質的特性(特に、目的適合性や忠実な表現)や資産の定義・認識規準を満しているか。

 

 

以上のうち、茶色の太字部分が今回の範囲だ。(ふぅ~、復習なのに、長い。)

 

ということで、今回は、例として「未だ表に出てない親会社主導のM&Aが密かに進行している事実、或いは、状況」を挙げ、それが C の条件(主に2つ目)を満たしているかを検討する。満たしていれば、目出度く、ソフトバンクの今回の資金生成単位の見直しは、正当化される(あくまで、僕の妄想の中での話だが)。

 

まず、子会社の計上した減損損失を親会社の連結決算に反映させたくない、親会社の連結決算を実態より良く見せたい、などという不正な目的がある場合は、アウトだ。これは言うまでもない。典型的には、資金生成単位を子会社が減損損失を計上したタイミングで変更するようなことがあれば、不正の意図が疑われる。しかし、ソフトバンクは前回見たように、スプリントを買収した 2014/3 期から、すでにスプリント全体を一つの資金生成単位としており、ここにきて変えようとしたわけではない。少なくともこの点からの不正の意図は認められない。

 

そして、もう一つ。こちらが問題だが、概念フレームワークの財務情報の質的特性や資産の定義・認識規準といった記載と、上記の例を照らし合わせてみたい。その準備として、僕が妄想している例のストーリーをもう少し詳しく記載しよう。

 

それは、その子会社の経営者にはできない経営戦略を親会社が持っていること、即ち、親会社だからできる経営戦略がすでに動いていて、親会社が、子会社が作成した事業計画より良い見通しを持っていることだ。言い換えれば、その子会社と親会社(及びその企業グループ)とのシナジー効果を具体的に見込める見通しがあることだ。

 

今までも妄想だが、ここからは“完全妄想モード”になる。

 

具体的例としては、「スプリント事業を盛上げる新たなM&Aがソフトバンク主導で密かに進行している」などということが考えられる。もちろん、米独禁法規制当局(FCC)の壁を越えられず、昨夏、断念した形になっているTモバイル買収のことではない。その他に、スプリントの高速移動通信サービスの革新的向上に貢献できる相手はいないだろうか。(或いは、Tモバイル買収に関して FCC を説得できる新たな材料を入手したのでもよいが、この可能性は低そう。)

 

ソフトバンクは米国事業1を、ベライゾンやAT&Tといった通信会社に加え、ケーブルTV大手のコムキャストをも競争相手やターゲットとして捉え、その主戦場はインターネット通信事業と考えているようだ。ネットフリックス2のような映像コンテンツをインターネット上でオンデマンド配信する企業が存在感を増して来れば、通信会社だけでなく、ケーブルTV会社も同じ市場に巻き込んだ競争が始まる。(ワンセグ放送が始まった頃だろうか、“放送と通信の融合”が将来の構想として話題になったが、現在は、そのステップがどんどん進行しつつある。)

 

これらの競争相手は多額の固定通信設備を持っているが、一方、スプリントはあまり持っていない。ソフトバンクは、これを逆に強みにしようと考えたようだ。もし、ソフトバンクの目論み通りに移動通信が著しくその地位を高めれば、固定通信設備は逆に減損リスクを抱えることになるからだ。

 

確かに、通信品質が良く、セキュリティーの問題をクリアできるのであれば、固定通信より移動通信の方が便利だ。程好いコストなら固定通信サービスの顧客を移動通信サービスへ惹きつけることができる。固定通信設備をあまり持たないスプリントは、移動通信サービスを強化・展開するのにうってつけの器だったわけだ。(ということは、スプリントの固定通信サービスは、ソフトバンクにとってはあまり重要ではない。よって、ソフトバンクが、買収当初からスプリント全体を移動通信サービスの資金生成単位と考えていたことに違和感はない。)

 

以上が、僕の考えた例だが、ちょっとがっかりされた方も多いかもしれない。あまりに具体性がない。買収候補となるような会社名や買収後の絵を示せればよいのだが、しかし、僕の知識と能力では、妄想といえどもこれが限界だ。しかも、移動通信事業の研究開発は、Google3 など他の米国企業も熱心に行っている。アジア・カップどころか、ワールド・カップで優勝するぐらい難しい。簡単に良い見通しが得られる分野ではない。

 

そうはいっても会計のブログとして重要なのは、この例が、概念フレームワークの規定に照らして、資産測定に考慮すべき要素として相応しいものかどうかだ。ということで、このまま次のステップ(=概念フレームワークの検討)へ進みたい。

 

 

ここで、はっきりさせておきたいのは、今回は、進行中のM&Aプロジェクトが資産かどうかを検討しようというのではないことだ。資産でないことは明らかだ。そういう問題設定ではない。今回の問題は、すでに計上している資産が減損しているかどうかを判断する際に、進行中のM&Aプロジェクトをどう扱うかだ。これを将来キャッシュフローの見積りの要素に加えて良いかどうかという問題だ。良いのであれば、減損テストの結果が変わる可能性があるので、資金生成単位を見直す価値がある。良くないのであれば、資金生成単位を見直すことはない。

 

したがって、概念フレームワークの財務情報の質的要素や資産の定義・認識規準のすべてを検討する必要はない。では何を検討するか。僕が最も重要と思うのは、下記の資産の定義の色を赤く変えた部分だ。あとは、このことが、目的適合性や忠実な表現といった観点からどう見えるかを考えてみよう。

 

(資産の定義)

 

資産とは、過去の事象の結果として企業が支配し、かつ、将来の経済的便益が当該企業に流入すると期待される資源をいう。

 

僕は、上記において「“進行中の”M&Aプロジェクト」という表現を多用したが、既に(水面下であっても)進行中でないと“過去の事象の結果”にはならないと思う。このことは、以前、のれんの減損シリーズで詳しく書いた(2013/2/13 の記事やその直前の 2013/2/11 の記事など)。

 

したがって、既に進行している具体的なプランがないのであれば、或いは、そのプランの実現可能性があまり高くないようであれば、ソフトバンクはスプリントが作成した事業計画をそのまま受け入れるしかない。その場合は、資金生成単位の見直しはできないと思う。これが妄想で、ソフトバンクとの特別な利害関係によって僕が甘い判断をしているとしても、譲れないところだ。逆にいえば、既に進行中なら、資金生成単位の見直しにつながる。

 

次に、目的適合性と忠実な表現の観点から考えてみよう。

 

財務情報の読者は、財務情報から、その企業が獲得する将来キャッシュフローの見通しを得ることを目的にしている(とIASBは考えている)。そして、資産の減損は「獲得できる将来キャッシュフローが減少しそうだ」という企業の告白だ。もし、この告白の時期や内容が不適切であれば、読者は、財務情報を読む目的が果たせない。企業も責任を果たせない。そして、告白の適切さは、それが経済実態に合っているかどうかで決まる。

 

今回は、子の告白を親が否定した。そこには、当然、単なる会計技術的なペーパー上の話だけではない実態を伴う裏付けがあるはずだ。「この子はまだ知らないんですけど、実は・・・」みたい実態の話がなければ、親こそが信用を失う。

 

このことは、当然ソフトバンクも知っている。しかし、ソフトバンクは、両社の会計基準と連結手続という会計技術的な説明しかしていない。そこには恐らく説明できない事情(=実態上の理由)があるのだろう。きっと、明かすと、株主やその他の利害関係者にも不利益が及ぶ経営上の秘密が絡んでいるに違いない。しかし、相当重要な秘密でないと許されるものではない。だが、M&Aなら、そういう秘密の典型といえる。

 

ということで、この例であれば、“連結の見地”からの資金生成単位の見直しができるのではないか、というのが僕の意見だ。したがって、ソフトバンクの資金生成単位の見直しは、これに類する事実や状況があれば正当化できると思う。

 

なお、孫正義氏は、2/10 の決算発表の記者会見で「会計の形式上、減損したくても計上できないが、実質的には減損すべきだと思っている」と述べたという(2/10 日経電子版無料記事)。ん~~~。がんばってください。

 

 

とにかくこれで、ようやく最初の疑問が終わって、次回は2つ目の疑問へ進むことができる。2つ目の疑問は、減損テストの具体的な方法、回収可能額の具体的な計算要素に関する問題だ。実は、こちらも、かなり頭が痛い。だが、論点は絞られているので、1回で終わると思う。

 

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1 ソフトバンクの米国事業戦略については、主に以下の記事を参考にした。

 

スプリントの超高速ブロードバンド構想、米メディア業界一変も (WSJ 2014/3/24無料記事)

ソフトバンク社長、米市場の競争について当局と議論深めたい (Bloomberg 2014/6/17

 

2 ネットフリックス社については、以下の記事に紹介されている。自社製作ドラマが人気を博しているらしい。今年中に日本でもサービスを開始するとのこと。

 

ユーチューブを凌ぐ、ネットフリックスの今 (東洋経済ONLINE 2014/3/29

テレビ震撼!「ネットフリックス上陸」の衝撃 (東洋経済ONLINE 2015/2/5

 

もはや、TV番組は、TV局から受けるものとはいえなくなる。インターネット経由のチャンネルが、従来のTVチャンネルと同じように選択できる時代になりつつある。まさに、通信会社とケーブルTV会社の市場は統合されていく。

 

3 Google については、以下の報道がある。

 

グーグルが無線通信の新興企業買収、高速ネットサービス拡大へ (WSJ 2014/6/20 有料記事)

 

この記事には「このほか気球、無人機、衛星を利用したネット接続プロジェクトも進めている。」とある。

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