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2015年2月17日 (火曜日)

441.ソフトバンクのスプリント減損の不計上~あと書き

2015/2/17

このニュースを目にしてから、IFRSやUS-GAAPを読んで、2時間ぐらいで大筋が見えた。「よし、やれる」と思って始めたが、この時点では、4回も重ねる長い記事になるとは思ってなかった。もっと簡単だと思っていた。しかし、長い記事になったお陰で、IFRSのこと、ソフトバンクのことを色々考えることができた。今回はそれらを書き足したい。下記の事項だ。

 

・ソフトバンクが“会計基準の相違”を理由にしたことの意味

 

・減損テストで、“使用価値”ではなく、“処分コスト控除後の公正価値”を使用したことの意味

 

・僕は、ソフトバンク株を売らないと決めたこと

 

 

(ソフトバンクが“会計基準の相違”を理由にしたこと)

 

ソフトバンクは、“US-GAAPとIFRSの相違”を挙げた。僕は、そうではなく“連結の見地”による資金生成単位見直しの結果だとした。さて、どっちだろう。

 

もちろん、みなさんが信じるべきは、“US-GAAPとIFRSの相違”の方だ。僕は、US-GAAPにも疎い。しかし、そうであれば、僕はブログを訂正すべきだ。しかし、訂正しなかった。なぜだろう。自分でも、はっきり理由が分かっているわけではない。とにかく、それも考えたがそうしなかった。

 

それでも強いて言えば、理由が2つある。一つは、“連結の見地”の方がIFRSの教材として面白かったので、IFRSを勉強するこのブログにはふさわしかったという理由だ。IFRSに記述のない“連結の見地”を、その記述のある日本基準と比較しながら掘下げることができた。例えば、以下の項目だ。

 

僕は、IFRSと日本基準の相違を狭く捉え、子会社と親会社で資金生成単位が異なっていても、親が子の判断を覆す理由を持っていない限り、子の判断を引継ぐべきとした(4382/9 の記事の最後の方など)。しかし、もしかしたら正しい理解は、「親と子の資金生成単位が異なる場合は、連結財務諸表作成時に自動的に資金生成単位を見直すべし」ということかもしれない。こう理解する場合は、日本基準とIFRSの“連結の見地”には、相当大きな相違があることになる。

 

実は、このニュースを目にしてからの2時間は、僕は自動的に見直すのだろうと考えていた。しかし、記事を書き始めてから考えを変えた。

 

その理由は、日本基準もIFRSも、“経営管理の実情”を重視しており、形式的な判断は歓迎されないからだ。形式的な判断とは、例えば、「○○規程・マニュアルでは、資金生成単位はこうなってます」みたいなものより、取締役会で実際に使用されている管理資料の業績管理単位の方が重視される(と思う)。また、IFRSは、財務情報で将来キャッシュフローの見通しを示すために見積りを多用するので、経済実態を忠実に表現することへの要求が強い。形式より実態を優先させる。

 

そう考えると、IFRSで機械的な減損テストのやり直しはないだろうと思った。なにより、実態として減損があるかないかの判断こそが、経営的にも会計的にも重要だ。

 

二つ目は、「ソフトバンクには、言いたくても言えない事情があるのではないか」と思われる節も無きにしも非ずではないかと思われることだ。…まどろっこしい。

 

 

(減損テストで“使用価値”ではなく、“処分コスト控除後の公正価値”を使用したこと)

 

減損テストでは、“使用価値”と“処分コスト控除後の公正価値”のどちらか高い方と簿価を比較する。ソフトバンクは後者が簿価を上回っているとして、この第3四半期決算で減損しなかった。僕はここにも引っかかっていた。なぜなら、使用価値は、ソフトバンクがスプリント事業から得られる将来キャッシュフローの見通しから計算されるものなので、使用価値より売却価値の方が高いのなら、売却した方が良いと(外部から)見られるからだ。これではソフトバンクに、スプリント事業の価値を向上させるアイディアや能力がないと疑われてしまう。

 

こんな疑いを持たれたら、嬉しいはずがない。でも、そういうリスクを冒した。これも何か事情があるに違いない。僕にそれが分かるはずもないが、一応、可能性のありそうなパターンを考えてみた。

 

A. 会計的な判断に利用できる使用価値が計算できなかった。

 

a. 使用価値があまりに大胆な戦略に基づいており、ソフトバンクとしても、現時点では実現可能性の高いものと判断できなかった。(実際に行動に移している戦略であるならば、使用価値の算定に考慮されると思う。一方、決定前・開始前であれば、もちろん、使用価値に含めるべきでないと思う。)

 

b. 効果的で実行可能な戦略を構築中だが、使用価値を計算できるほどの具体性がない。

 

c. 簿価を上回るような使用価値が計算できなかった。(この場合は、上述の外部の見方に妥当性が出てくる。即ち、事業売却が経営上の最有力な選択肢となる。)

 

B. 使用価値は計算できたが、その根拠を外部へ説明することが困難だった。売却価値の方が説明しやすかった。

 

a. 説明が困難な複雑な事業規制や技術上の問題に関連していた。

 

b. 機密性の非常に高い案件に関連していた。

 

これらのうち、A の各ケースであれば、売却価値がスプリント事業の簿価を上回っていたとしても、残念ながら、資金生成単位の見直しをすべきではなかったと思う。即ち、スプリントが計上した減損損失をソフトバンクの連結決算に受け入れるべきだったと思う。なぜなら、使用価値が計算できない状態では、子会社の判断を覆すような根拠をソフトバンクは持ちえないと思うからだ。だから、B のいずれかではないかと想像した。(但し、B だとすると、開示上の印象は悪い。)

 

 

(僕は、ソフトバンク株を売らない)

 

ソフトバンクが“会計基準の相違”を減損損失不計上の理由に挙げている以上、それを信じるべきだ。一方、僕は全くの部外者であり、ソフトバンクの事情は分からない。恐らく“連結の見地”は、勉強の材料としては良くても、実際のソフトバンクの状況の理解としては適切でないのだろう。(但し、僕にはどこにその“相違”があるのか分からない。)

 

しかし、もし、ソフトバンクが本気で「本来は減損すべきなのに、会計基準に妨げられで損失計上できなかった」2 と考えているなら、僕はソフトバンクの株を売ると思う。いかに「本質的には減損すべきだと思っており、経営陣としては減損したつもりで受け止めている3 などと言い連ねても、それは無責任だ。本当にそうなら、IFRSから離脱する道もある(IAS1.19)。

 

僕は、「実態として減損には至っていない」という判断があったからこそ、減損をしなかったと考えたい。何か事情があって公にできないが、実は、苦境を打開できる戦略が既に開始されている、と考えたいのだ。

 

もしかしたら、その戦略は「米スプリントの孫会長、周波数帯域を売却か-高価値との認識」の記事(Bloomberg 2/6)に関係するかもしれない。「ブルームバーグ・インテリジェンスの試算によると、旺盛な需要で同社の2.5ギガヘルツ帯の価値は860億-1150億ドル(約101000億-135000億円)の範囲に高まっている可能性もある。これはスプリントの企業価値全体の480億ドルを大きく上回る。」というから、スプリントは、とんでもなく価値のある会社なのかもしれない。株価では過小評価されているということだ。ちなみに、スプリントの株式市場の評価(=時価総額)は、2/6 時点で1兆96百億円(194億ドル。換算レートは支配獲得日 2013/7/10 のレート)だ1

 

ブルームバーグ・インテリジェンスは、この周波数帯域を事業に有効活用できた場合の価値を計算していると思われるが、スプリントの時価総額がそれを遙かに下回るのは、逆に「有効活用できてないから」ということと思われる。孫正義氏が、この価値に注目を集めるような発言をしたということは、ここに着目した戦略が既に始まっていると、僕は考えたい。きっと、近いうちにこの戦略が明らかになるに違いない。

 

ということで、僕はソフトバンク株を売らない。次の一手を楽しみに待っていようと思う。

 

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1 公表されている数字を用いて、スプリントの時価(=公正価値)の推移を推定してみた。完全な計算はできないので、概算値であることをご了解願いたい。また、簡略化のため、為替レートはスプリントに対する支配獲得日(2013/7/10)で固定し(101.14円/ドル、2014/3 期有報 P112)、持ち分比率もすべての基準日において 79.9%2014/3 期有報 P7)であったと仮定している(この表は、4402/13 の記事から移動したもの)。

 

(スプリント)   2014/9E  2014/12E 2015/2/6E:月末) 

   株価      6.34$ 4.15$ 4.92$BloombergReuters

 A 時価総額a   253   166    196(百億円)

 B 支配持分b   202   132    157(百億円)

 C 簿.価.c   187   187    187(百億円)

 D=B-C     +15   -54    -30(百億円)

 D/C      +8.0%  -29.2%  -16.17%

 

最も目を惹くのは、ソフトバンクの第3四半期決算日である 2014/12 の“-29.2%”だ。ソフトバンクが支配権として時価に上乗せした3割と妙に符合する(4372/7 の記事に記載したロイター 2/6 の記事)。しかし、これについては、これ以上突っ込む材料が入手できない。恐らく、過去に3割程度のプレミアムで取得の打診があったとか、なんらかの根拠があってのことだと思われる。このような決算のキーとなる項目は、レビュー手続でも、通常の監査と同様に詳細にチェックされているはずだ。いずれにしても、スプリントの株価が 2014/12E を下回れば、今度こそ、ソフトバンクも減損損失を計上すると思われる。

 

a 時価総額は、2/6 の金額(Bloomberg の銘柄詳細情報)しか分からなかったので、それを各基準日の株価で調整した。即ち、発行済み株式総数が固定されている(本文中にあるように、為替レートも支配獲得日のレートに固定されている)。

 

b この金額(=時価総額のうちのソフトバンク持分相当額)が、ソフトバンクが保有するスプリント株式の公正価値になる。本文中にあるように、すべての基準日で 79.9% に固定して計算している。実際には、ストックオプションの行使などにより、多少の変動はあったかもしれない。また、この期間において、自己株式の買取をスプリントが行ったかは、調べていない。

 

c ソフトバンクが計上している簿価は、下記の2014/3 期有報 P111 記載のデータに基づいて計算した。実際には、これ以外にも取得をしていて、もう少し多いかもしれない。

 

a. のれんのB/S価額 27(百億円)

b. 純資産額/うち、非支配持分/ソフトバンク持分 206/46/160(百億円)

c. 現金支出額と転換社債の転換(=Sprint 株式の取得価額) 218(百億円)

d. 為替差益 31

推定による Sprint 株式の簿価(為替換算調整勘定分を除く) 187(百億円)=a+b 又は c-d

 

その他、参考までに。(Reuters HPより)

 

2013/7/10 5.85USD(支配獲得日)

2/5 の終値  4.82USD(スプリントの減損公表日)

スプリントの株価は、解約率などの下げ止まりを好感して、減損公表後も上昇している。

 

2 正確には「形式上、減損したくても計上できないということだ。」と孫正義氏は述べたという。(日経電子版 2/10 有料記事:ソフトバンクの孫社長「スプリントの経営改善、長い戦いになる」)

 

3 上の2と同じ記事に、孫正義氏の発言として記載されている。

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