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2015年2月18日 (水曜日)

442.ソフトバンクのスプリント減損の不計上~補筆~なぜ、固定資産の減損テストに子会社株式の公正価値を使うのか

2015/2/18

このシリーズは、前回(4412/17)終了するつもりで“あと書き”とした。しかし、その原稿を書き上げたタイミングで、読者から大切なポイントを突いた質問があることに気が付いた。その質問は、すっぽり僕の記述から抜け落ちており、しかも、議論の前提として欠くべからざる内容を問うものだったので、丁寧な説明が必要と考え、この記事を追加することにした。ただ今回は、いつもに増して、理屈っぽい。

 

(テーマ)

 

ソフトバンクは、スプリント事業の固定資産およびのれんの減損テストのために、スプリント株式の取得価額と市場評価額の持分相当額(+支配権)を比較した。

 

しかし、通常なら、固定資産やのれんから獲得される将来キャッシュフローの現在価値を計算するか、固定資産やのれんの売却価値を計算するのではないか。株式の市場評価額なんぞでスプリント事業の固定資産とのれんの価値が下がっているかどうかが分かるのか?

 

これはもっともな疑問だ。確かに、株式市場が固定資産やのれんに焦点を当てて会社を評価しているとは思えない。単純に、純資産と市場評価額を比較するというなら意味は分かるが、これで固定資産やのれんを評価できるのか? そう思われた方は多いかもしれない。

 

しかし、ソフトバンクが採用したこの方法は、簡便法ではあるものの、減損テストの単位(=資金生成単位)が、対象となる会社全体である場合には、通常の固定資産やのれんの売却価値を計算する方法と、概ね同じ効果が期待できる(簡便法だから、正確に減損損失の算定まで行うのは難しいかもしれない)。そうなる理由を説明したい。

 

 

まず、理屈っぽくならないよう、直感的な説明を試みたい。

 

減損会計は、投資額を十分回収できる見込みがあるかどうかを確認する手続だ。子会社全体が資金生成単位の場合、親会社の投資額は子会社株式の取得価額であり、売却することでそれを上回る対価が得られるのであれば、投資額を全額回収できる。したがって、企業評価額(=売却額)を利用する方法は、簡便法ではあるが、減損が生じていないことを、概ね、確認できる。これが今回のソフトバンクのケースだ。

 

 

以上の説明で十分という方は、この先へ進まなくてもよいかもしれない。「いや、全然しっくりこない」という方は、申し訳ないが、ちょっとややこしいことを覚悟して、続けてお読みいただきたい。では、この企業評価額を利用する方法が、のれんや固定資産を抜き出して評価する通常の手続と、概ね、同じ効果があることを説明する。

 

もし、買い手がこの子会社を50と評価した場合、50は次のように分解される(単純化している)。

 

50=60+10-20

 

60:子会社の事業から得られる将来キャッシュフローの現在価値(≒買い手の使用価値)

10:基準日時点の子会社のB/Sに計上されていた流動資産の現金流入額

20:基準日時点の子会社のB/Sに計上されていた負債の現金支出額

 

即ち、企業評価額=使用価値+流動資産-負債  …①

 

使用価値は、基準日以降に固定資産の使用により見込まれる将来キャッシュフローの現在価値。この将来キャッシュフローには、基準日以降の事業活動の成果が見積もられる。基準日以前の事業活動の結果、基準日時点ですでにB/S計上されている流動資産や負債から生じる現金の動きは含まれていない。したがって、これらを加味して、企業評価額となる。

 

みなさんご存じのとおり、「純資産=流動資産+固定資産-負債」なので、この式の両辺を①の両辺からそれぞれ引いて整理すると、次の式が得られる。

 

企業評価額-純資産=使用価値-固定資産  …②

 

この②式の右辺は減損テストの式だ。すると、企業評価額がこの会社の純資産を上回る限り右辺もプラスになるから、(資金生成単位がこの会社全体である場合は)固定資産に減損は生じていないことになる。(この会社に資金生成単位が複数ある場合は、単位ごとにそれぞれプラスもあれば、マイナスもありえる。したがって、この式では頼りがいのある減損テストにならない。)

 

親会社から見ると、「子会社株式簿価=取得時の純資産+のれん」なので、この式の両辺を②式の両辺からそれぞれ引いて整理すると次のようになる。

 

企業評価額-子会社株式簿価=(使用価値-固定資産-のれん)+(純資産-取得時の純資産) …③

 

すると、左辺の企業評価額が子会社株式の簿価を上回っていれば右辺もプラスだから、買い手が見積もった使用価値が、固定資産とのれんを上回っていることになる(但し、純資産が取得時から増えていない場合。スプリントは赤字続きだから増えていないと思う)。したがって、企業評価額が子会社株式簿価を上回っている限り、スプリントの固定資産とのれんに減損は生じていないことになる。ソフトバンクは、これを減損が生じていない根拠とした。

 

 

実は、このような、企業評価額と固定資産の減損を関連付ける考え方は、日本基準やIFRSにも見られる。ただ、ソフトバンクのように「減損がないことを確認する方法」ではなく、減損の兆候を示す例として出てくる。僕が知っている範囲では、次の規定がある。

 

(日本基準)

 

減損会計適用指針76

 

被取得企業の時価総額を超えて多額のプレミアムが支払われた場合」が、減損の兆候とされるケースがあるとされている。これは、企業評価額(=被取得企業の時価総額)と子会社株式の簿価(≒多額のプレミアム+取得時の純資産)を比較する考え方なので、上記の③式に当たる。

 

(IFRS)

 

IAS36号「資産の減損」12.(D)

 

減損の兆候の例として「報告企業の純資産の帳簿価額が、その企業の株式の市場価値を超過している」が挙げられている。これは、ちょうど、上記の②式に当たる。

 

 

今回は、理屈っぽいものをそのまま理屈っぽく記載した。何か良い比喩でも使えれば、と思ったが、思い浮かばなかった。それに、下手に比喩を使うと、余計に分かりにくくなる。例えば、4402/13 の記事では、公正価値や処分価値の見積りに関して“気温”の比喩を使ったが、不評だったようだ(アクセス数が少なかった。僕は気に入ってたのだが・・・)。というわけで、今回はこれで勘弁願いたい。

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