444. ASBJら、のれんの償却再導入に関するフィードバック・ステートメントを公表
2015/2/24
すでに、20日も前のことで恐縮だが、ASBJ(企業会計基準審議会)・EFRAG(欧州財務報告諮問グループ)・OIC(イタリアの基準設定主体)(=この3者を“リサーチ・グループ”と呼ぶ)は、今月4日、2014/7/22 に公表したディスカッション・ペーパー「のれんはなお償却しなくてよいか―のれんの会計処理及び開示」に寄せられたコメントをまとめたフィードバック・ステートメントを共同で公表した。
ASBJ、EFRAG及びOICが、ディスカッション・ペーパー「のれんはなお償却しなくてよいか―のれんの会計処理及び開示」に寄せられた回答に関するフィードバック・ステートメントを公表(ASBJのHP)
昨年7月22日に公表されたディスカッション・ペーパーに関しては、このブロクでもお伝えした(379-2014/7/28)。そこでは、のれんに償却制度を再導入するのが適当と結論付け、さらに、のれんの減損テストの改善、開示の改善、無形資産の会計処理にも言及している。
このディスカッション・ペーパーに寄せられたコメントから、リサーチ・グループが読み取った事項について要約されているが、それをさらに、僕流に要約すると次のようになる。
・大半⋆1のコメント提出者は、“償却再導入+減損テストの改善”に同意したが、“のれんの最長償却期間をIASBが示すべきか否か”については、意見が分かれた。
・少数⋆1のコメント提出者は、「償却モデルに意味はない」と、減損のみのアプローチを支持した。
・多数のコメント提出者は、もし、償却再導入となる場合は、耐用年数を確定できない無形資産にも同様の償却と、現行ののれんと無形資産の厳格な区別についての見直しを求めた。
本フィードパック・ステートメントは、上記ディスカッション・ペーパーに寄せられたコメントの正式な記録であり、上記リサーチ・グループを構成する3者のインプットとなる、としている。
以上が、このステートメントの概略だ。以下は、僕の感想を記載させていただきたい。
・現実的な解決策
減損のみのモデルを支持した 1 名のコメント提出者は、償却に賛成する概念的な議論もあり、最善の解決策は、被取得企業のその後の業績に関する情報を提供することであろうと指摘した。(P8)
僕は償却アプローチ支持者だが、このコメントには(当初)ガッテンだった。要は、重要なのは投資が回収できるかどうかの見通しなので、これについてもっと豊富な財務情報を読み手に提供しよう、ということだろう。そうすれば、読み手に誤解を引起す可能性を、低めることができそうだ。
しかし、良く考えてみると、いくら情報を増やしたとしても、経営者と同等の質と量は望めない。圧倒的に経営者が多くの良質の情報を持っている。先週まで、このブログで記載していたソフトバンクの件を振返ってもそうだ。
スプリントの財務情報は、スプリントが上場会社なので“その後の業績に関する情報”は豊富に提供されている。そのスプリントが自ら減損を計上したのに、ソフトバンクはそれを取消した。その本当の理由は、随分考えてみたものの、僕には分からなかった。やはり、“その後の業績に関する情報”だけでは、十分ではない。やはり、これだけで減損のみモデルを支持する気持ちにはなれない。
とはいえ、“その後の業績に関する情報”は、確かに重要だ。注記でもよいので、回収が順調だとか、順調ではないが回収軌道に乗せられる戦略と見通しがあるとか、経営者の判断を書いてもらえれば心強い。間違っても“会計基準のせい”にはしないでもらいたいと思う。(くどいが…)
・耐用年数の見積り
「大半のコメント提出者は、見積耐用年数にわたるのれんの規則的な償却におおむね同意した」とのことだが、その耐用年数の決め方、規定の仕方については、大別すると、次のような意見があったという。
・最長の償却期間を示した上でのれんを償却
・最長の償却期間を示さずのれんを償却
・償却期間をどのように決定すべきかを示した上でのれんを償却
これには、“のれん”が何であるか、どういう経済的効果があるか、なぜ減価するのか、などという会計的な基本事項にも関係者の合意形成ができていない状況が反映されている。実際は、「これは回収できる」、「これだけの価値がある」との経営者の判断があって投資が決まる。しかし、この判断の内容が十分言語化・分析されていない。のれんは、計算式のような定義の文章は作れても、本質がまだ理解されていないということだと思う。
ちなみに、この問題に関する僕の意見は以前記載した通り(2013/1/10 の記事など)、のれんは人の要素を現わしたものと思うが、このステートメントでは、そういう意見は皆無だった。(T_T)
・減損テストの改善
「多数のコメント提出者は、IASB がのれんの償却の要求を再導入する場合には、のれんの減損テストの目的適合性が大幅に減少し、したがって、ガイダンス及び開示の改善の必要性は大幅に減少するであろうと強調した」そうだ。確かにそうだ。
「それでも、多数のコメント提出者は、IAS 第 36 号「資産の減損」のガイダンスには改善の余地があるというリサーチ・グループの予備的見解に同意した」という。
ん~、この書き出しは、どんな改善提案があるのだろう、と期待させる。しかし、僕が期待していた内容のものはなかった。僕がピンボケしているのか? やはりそうか?
僕の期待は、M&Aの時に期待していたシナジーの内容を明確にしておく要求と、そのシナジー効果の実績管理を要求することだった。まあ実際は、M&Aの時点で、買収する会社の内容を正確に把握できるとは限らないので、M&Aのあとの暫くの期間は、シナジーの内容を変更してもよいと思う。しかし、正確に把握した結果、「高い値段で買い過ぎた」ということになれば、その時点ですぐその分を減損してほしい。そうではなく、「これなら十分なシナジー効果を期待できる」ということであれば、それを実現する計画を立てて、実績管理してほしい。それを減損テストに生かせるようにしてほしい。
もし、ソフトバンクがスプリントを買収したとき、シナジー計画に“Tモバイル買収による(トップ2に迫る)規模の拡大”があったとすれば(これを開示しないとしても)、Tモバイルの買収を断念した時点で減損損失を計上していた可能性が高かっただろう。その方が分かりやすい。
ところで、IAS36号「資産の減損」には、使用価値を見積る際の将来キャッシュフローの見積りに含めて良いもの、悪いものを次のよう規定している。
・資産の性能の改善・拡張は含めない。⋆2
・資産の日常的な保守であれば含める。⋆3
これについて、のれんの“シナジー効果で構成される部分”についてはどう考えるのだろうか。それが明確でない。「いや、明確だ。ここに書いてある通りにやれば良い」というなら、シナジー効果を将来キャッシュフローに見込むことは、かなり厳しくなる。日常的な活動だけでシナジー効果の成果が得られるなんて、そんな理想的なM&Aはなかなかない。実際にはM&Aのあとに色々追加投資(人材投資を含む改善・拡張投資)をやって、ようやく、のれんの回収が見込める経営体制になるケースの方がほとんどだと思う。その場合、この規程では将来キャッシュフローに、シナジー効果を見込めないことになりかねない。
それでものれんが計上され続けるのは、のれんが“期待”という資産だからだ。物理的・法的には何もないが、シナジー効果を成果として獲得できる期待は高い(だから、プレミアムを払った)。元々そういう性質の資産だから、“資産の性能の改善・拡張”であっても“期待の現状維持”にすぎない。
しかし、限度はあるに違いない。期待の中身が変化してもよいのだろうか。変化して良いとしたら、どこまで許されるのか。例えば、Tモバイルの買収がダメでもB案があれば良いのだろうか。その限度がよく分からない。
上述したように、のれんはまだ内容が良く解明されていない資産だ。おまけに“期待”という管理が難しいものからできている。だから、少なくとも計画という形で管理可能な姿にすべきだと僕は思う。それで、ようやく、減損テストがやれる条件がそろうのではないか。
・処分価値にプレミアムを考慮させないようにすべき(市場価格のある株式)。
これは、まさにソフトバンクが子会社スプリントが計上した減損を、ソフトバンクの連結財務諸表で取消したときに使った方法を禁止しようとするものだ。ソフトバンクは、支配権(プレミアムの一種)を考慮し減損を回避した。
これについては、440-2/13 の記事に、このブログの読者の方からコメントを頂いた。その方は、規定の解釈論ではなく本質論として「支配権を考慮して良いのか」と疑問を感じられたようだが、その疑問の通り、流れは禁止の方向へ向かっている。このステートメントでも、そういう意見が紹介されているし、IASBも、禁止する公開草案を公表していて、ASBJもそれに賛成しているようだ(IASB公開草案「子会社、共同支配企業及び関連会社に対する相場価格のある投資の公正価値での測定」に対するコメント(2015.1.14))。
ただ、僕には腑に落ちないこともある。
・なぜ、相場価格のある株式(レベル1)だけが禁止されるのか。
・M&Aのうわさや報道で買収される会社の株価が上昇することは良くあるし、TOB価格はその時点の相場より高い値段が設定される。それは、無視して良い現象なのか。プレミアムは現実に存在するのではないか。
IASBは、概念フレームワークのディスカッション・ペーパーで、資産の定義と認識基準の変更を提案している。そこでは、資産は経済的便益を生み出す能力があるものとされており、そういう能力があれば資産として認識するとしている(それをどう評価するか(100%~0%)とするかは測定規準として、各個別基準で決めるとしている)。
現実に存在するプレミアムという経済的便益を生むものが、一律に測定しないと規定されれば、現実の中で決断を強いられる経営はやりづらくなる。財務情報の読み手にしても、現実に起こりうるを無視される点、同じだと思う。確かに客観的で確実性の高い見積りは難しいのかもしれないが、実態として存在が認められる場合は(例えば、過去数か月以内にそのようなオファーがあったなどの場合)、測定の対象にしてもよいような気がした。
さて、IASBも、のれんを償却するか否かの検討を始めると報道されているが、日・欧が、概ね償却に賛成し、米国でも非上場会社については既に償却制度があり、上場会社へも適用を広げる検討されているという。IFRSでも、償却制度が再導入される可能性が高まってきた、と考えて良いのかもしれない。
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⋆1 P7 のグラフでは、次のようになっている。
・のれんの償却アプローチを支持 66% ・・・作成者やその企業団体が多い。
・両方のモデルをさらに検討すべき 24%
・減損のみのアプローチを支持 10% ・・・主に利用者。
“のれんの償却アプローチを支持”というのは、取得したのれんのコストをその消費期間に配分することに合理的な意味を認めたという積極的な支持から、“減損のみのアプローチ”よりはマシというコメントまでを含んでいるようだ。それに対して“両方のモデルをさらに検討すべき”というのは、償却アプローチも、減損アプローチも、まだ、見解を統一できるほど研究が進んでいないとか、実務に十分耐えうる域に達していないとか、さらにはこの2つのアプローチに限定できないなどのコメントがあったという。
⋆2 資産の性能を改善又は拡張することとなるキャッシュ・アウトフローが企業に生じるまで、将来キャッシュ・フローの見積りには、当該キャッシュ・アウトフローに関連する経済的便益の増加から生じると見込まれる将来キャッシュ・インフローの見積りは含めない(IAS36.48)
⋆3 将来キャッシュ・フローの見積りには、現在の状態での資産から生じると見込まれる経済的便益の水準を維持するために必要な将来キャッシュ・アウトフローを含める。資金生成単位が見積耐用年数の異なる資産で構成されていて、そのすべてが当該単位の継続的な営業に不可欠なものである場合には、耐用年数が短い資産の取替えは、当該単位に関連するキャッシュ・フローを見積る際に、当該単位の日常的な保守の一部とみなされる。同様に、単一の資産が見積耐用年数の異なる構成要素で構成されている場合には、耐用年数が短い構成要素の取替えは、当該資産が生成する将来キャッシュ・フローを見積る際に、当該資産の日常的な保守の一部とみなされる。(IAS36.49)
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