449.【リース'15/2】'13EDからの変化~定義、入替権
2015/3/10
Jリーグ開幕。唯一、日曜に開催された清水エスパルスと鹿島アントラーズの開幕戦は、ホームの清水の快勝となった。意外にも、鹿島は清水とのアウエー戦に分が悪く、この5年間に1勝4敗と大きく負け越していたそうだ⋆1。そういえば、このブログでも、以前、この両者の試合を取上げたことがあったが、そのときもホームの清水が劇的な逆転勝利を収めた⋆2(そのときも、リース('13ED=2013/5 の公開草案)のシリーズ中だった)。
さて、今回は、リースの定義に関連して、IASBが当時の'13ED から変更を仮決定した事項について見ていこう。結論としては、定義それ自体は変更しないが、それを説明するガイダンスについては、コメント提出者の意見を汲み取り、いくつか改善をした。
(リースの定義を変更しなかった理由)
'13ED のIASBの提案について、概ね、賛意を得たようだ。但し、IASBの意図をもっと分かりやすく表現してほしいと注文をもらったり、さらには少数だが代替案も寄せられたらしい。これらに対してIASBは(定義は変えないが)、ガイダンスについていくつかの改善をしたという。
定義を変更しなかった理由は、変更するとより不雑化になることが懸念されたことと、もっと重要なのは資産計上されないリースが出てくる可能性があったことだという。どうやら、コメント提出者によって提案された代替案の一部は、リースの範囲を狭くするものであったらしい(油田掘削装置や船が、除外される例として挙げられていた)。その他の代替案についてもIASBは次のように判断し、'13ED の定義を変更しなかった。
・リース契約へ良からぬ変更を誘発する代替案。例えば、リース契約にサービスを追加することでリースへの分類を免れてしまえるような代替案。
・IFRS15(収益認識)と矛盾するガイダンスや手続の追加によって、より複雑になってしまう代替案。
・その他、好ましからざる結果となってしまう代替案。
なお、変更しなかったリースの定義の具体的な文章については、3/3 の 447 の記事をご覧いただきたい。
(IASBが変更を仮決定したガイダンス)
・入替権('13ED.9)のガイダンスの変更
'13ED.8項では、対象資産の入替権を契約の供給者が持つ場合は、リースではなくサービスへ分類されるとされており、どのような場合にその入替権があると判断されるか、即ち、「供給者が実質的な入替権(=substantive right to substitute the asset)を持つとはどういうことか」について '13ED.9項で説明がされている⋆3。今回、実質的な内容の変更はしないが、この '13ED.9項をより分かりやすいガイダンスへ改善するという。
('13ED.9)次の2つの要件を挙げていた。
(a) 供給者が、顧客の同意なしに資産の入替ができること。
(b) 供給者の入替権に“経済的障害がない”(=no economic barriers)こと。
これについて、「どういうものが“経済的な障害”に当たるのか」に関する説明が不十分だったとされている。この点を、「提供者が入替から得られる利益」に焦点を当てて、改善するという。その結果、従来の表現に代えて、次のようなガイダンスが仮決定されている。
(今回)提供者の入替権が実質的であるのは、次の両方を満たす場合。
(a) 提供者が入替える実際の能力を持っていること。
(b) 提供者が入替から利益を享受できること。
さらに、「顧客が、実質的かどうかを決められない場合は、実質的でないと推定する」(その結果、リースへ分類される)というガイダンスを追加するとしている。
さて、みなさんにとって分かりやすい文章へ改善されただろうか。もし、'13ED が、どのようなものを入替権のある契約と考えていたかについて関心を持たれた場合は、前回のシリーズの記事⋆4が参考になるかもしれない。鉄道車両の例が挙げられていた。
僕の第一印象は、「実質的な内容の変更はないと言いつつ、実はリースの範囲は広がったのかもしれない」だった。しかし、シンプルになった。これは大きな改善だと思う。多分、判断はやりやすくなったに違いない。
というのは、顧客の同意は関係なくなったし、入替が供給者に有利に働くかどうかを見れば良いことになったからだ。供給者が自発的に入替を希望する可能性があれば、供給者は入替から利益を享受すると判断されるだろう。これなら、形式的に「顧客の同意が必要」と契約書に記載があっても、安易にサービスと判断されることはなくなる。最後の推定規定も役立ちそうだ。僕はこの変更には肯定的な印象だ。
ところで、サッカー選手の移籍を“完全移籍”とか“レンタル移籍(又はリース)”と表現することがある。どうやら、所有権を移籍元のチームが保有しつつ、実際は移籍先のチームで活動することを“レンタル移籍(又はリース)”と呼ぶらしい。では、サッカー選手に“レンタル”と“リース”の違いがあるのだろうか。例えば、“レンタル”はサービスなので、移籍先の資産にはならないが、“リース”なら、移籍先の資産という具合に⋆5。
今回の“入替権”でこの問題を解決できるだろうか。例えば、サッカー選手の価値や用途は個々の能力に完全に依存する非常に個性の強いものだ。したがって、同じポジションの選手だからといって入替はできない。供給元に入替を行える実際の能力はないはずだ。ということは、サッカー選手の移籍契約には、“レンタル”は存在せず、すべてリースということになる。
これは、不動産の賃貸に似ている。個性が強く同じ物件など存在しないから、入替権はないと考えるのが一般的ではないか。すると、不動産賃貸も、原則として、すべてリースとして資産計上するのか。
ん~、そうではあるまい。この問題は次回見る予定の“使用の管理”(=control the use of an asset)に関するガイダンスで判断することになる。
―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・
⋆1 「【J1第1節予想スタメン 清水vs鹿島】タイトル奪還に燃える鹿島、苦手とするアウェイ清水戦で勝ち点3獲得なるか」(SoccerKING 3/6)の最後の文章。
⋆2 「282.【リースED】リース期間とサッカーの試合時間」(2013/8/29)の最後の方。
⋆3 2013ED.8~9 など
リース資産は特定の資産に対する使用権であるため、その対象資産は特定されていなければならない。しかし、提供者側に入替権があり、契約期間中に入替えられるとすると、特定は不可能だ。提供者が顧客の意思や都合に関係なく他の(同種の)資産と取り換えてしまうからだ。したがって、入替権を提供者が持つ場合は、リースではなくサービスへ分類される。
ただ、このとき、入替えるのにペナルティがあるとか、製造ラインに組込まれており入替えるのに多くのコストがかかるなど実質的に入替ができない状況(=経済的障害があるケース)も考えられる。その場合は実質面を考慮し、“実質的な入替権”がないと判断しリースへ分類されることになる。このように、'13ED では、“実質的な入替権”があるためには、“経済的障害がない”ことが条件とされていた。
⋆4 273.【リースED】供給者の入替権 (2013/7/31)
⋆5 これは、例え話であって、実際のサッカークラブの会計処理には関係がない。(移籍金は資産計上するが、)選手自体を資産計上することはないからだ。したがって、レンタルとリースの区別は行う意味がない。
« 448.【リース'15/2】日本基準との相違 | トップページ | 450.【番外編】3.11の鳩山外交 »
「IFRS個別基準」カテゴリの記事
- 579【投資の減損 06】両者の主張〜コロンビア炭鉱事業(ドラモントJV)(2016.09.13)
- 578【投資の減損 05】持分法〜“重要な影響力”の意図(2016.09.06)
- 577【投資の減損 04】持分法〜関連 会社、その存在の危うさ(2016.08.23)
- 576【投資の減損 03】持分法〜ドラマの共有(2016.08.16)
- 575【投資の減損 02】検討方針(2016.08.02)
この記事へのコメントは終了しました。
コメント