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2015年3月26日 (木曜日)

455.【リース'15/2】'13EDからの変化~設例)冷蔵トラックとオイル・タンカー(“重要性”について再考)

2015/3/26

今回は、IASBスタッフがこの小冊子で示した6つの設例のうち、3番目“冷蔵トラックに関する4年間のオペレーティング・リース契約”と4番目“オイルタンカーに関する20年間の運航サービス付リース契約”の設例を考えてみる。いずれも、対象資産のメンテナンス・サービスが契約に含まれている。さらに4番目の設例には、タンカーの運航サービスまで含まれている。即ち、契約の提供者がタンカーを運行する。

 

まずは、冷蔵トラックについて考えてみよう。

 

現行の日本基準で考えれば、この契約の顧客は、冷蔵トラックのリースはメンテナンス費用相当額を控除した残額について、ファイナンスリースかどうかを判定し、ファイナンスリースであれば、資産計上することになるだろう(メンテナンス費用相当額に重要性がない場合はそれも資産計上できる1)。これは、概ね、今度のIFRSの新リース基準でも変わらない。

 

ただ、日本基準との違いを探すとすれば、2点考えられる。

 

1.日本基準では、“リース料総額の現在価値90%基準”が満たされない場合は、ファイナンス・リースと判定されない2が、IFRSの新基準ではこのような数値基準による判定は不要。契約内容で判断する。

 

2.IFRSの新基準では、この契約の顧客がその気になれば、メンテナンス費用相当額の重要性に関係なく、契約全体を資産計上する方法を選択できる(“重要性”については後述)。

 

さて、問題はオイル・タンカーのケースだ。基本的には冷蔵トラックのケースと同じだが、オイル・タンカーの場合は、もう一つ厄介な条件がある。

 

確かにこの契約の顧客(=荷主)は、20年間特定のタンカーを独占使用でき、かつ、タンカーを使用する時期や航路、目的地を独自に決められる。しかし、タンカーの運航をこの契約の提供者(=船主)に頼らなければならない。例えば、荷主が勝手に船員を雇って船を動かすことはできない。使用の目的や方法は荷主が決められるが、この船を具体的に使用するのは船主だ。

 

これでも、この契約期間中、タンカーはこの契約の顧客(=荷主)のものだろうか(=荷主側が資産計上すべきか)。それとも、タンカーは船主のもので、荷主は単に石油の運搬サービスを受けているだけだろうか。言い換えれば、この契約は資産のリース契約なのだろうか、それとも、サービス契約なのだろうか?

 

僕のこの問い掛けに、みなさんは「ナンセンス! 契約全体がリースかサービスか、なんて関係ない。リースの要素があれば抜き出して資産計上するのが新基準だ」と思われるかもしれない。確かにその通りだ。しかし、レッシー(=契約の顧客)は、リース部分を抜き出すことを省略し、契約全体をリースとして扱うことが認められているから、これに拘りたくなる。契約の中のサービス部分が重要と考えられたとしても、契約全体をリースとして扱うことが可能なのだ。

 

ということで、検討課題は2つ見えてきた。1つは、この状況で“使用を支配”しているといえるかどうか。もう一つは、“重要性”の問題だ。サービス部分に重要性があっても、それを含めてリースとして扱うことが容認されていることだ。

 

・“使用の支配”について

 

運航を船主に依存することついてこの小冊子は、「これは従業員による業務上の意思決定のようだ」といっている。そして、この従業員による意思決定は「その会社の取締役会の戦略的決定に従っている」という。これは従業員を船主に、取締役会を荷主に喩えている。

 

要するに、船の運航上の意思決定を船主が行ったとしても、それは荷主の意思決定を実現するために、付随して行われる実務上の意思決定に過ぎず、荷主の“使用の支配”を侵すものではない、ということだろう。

 

・“重要性”について

 

くどいが、もう一度復習してみよう。原則は、タンカー本体の賃貸料に相当する部分のみが資産計上の対象となる。そして、メンテナンスと運航費用部分は、原則として費用処理だ。しかしそれらは原則であって、もし、この契約の顧客が簡便な方法を選択すれば、契約全体を一括してタンカー賃貸料として資産計上することが容認されている。

 

そう、なんと、メンテナンスや運航の費用をも資産計上する処理が認められている。

 

僕は、4523/19 の記事のタイトルに「契約におけるリース構成部分の区分(重要性)」と付け、(日本基準と同様に)契約に含まれるサービス部分に重要性がない場合のみ、契約を一括してリースとして扱えるかのように記載した。しかし、実は、このIASBスタッフが公表した新基準の小冊子には、明示的に“重要性”の条件は付いていない。では、本当に“重要性”は考慮されなくてよいのだろうか?

 

この小冊子に記載されてなくても、僕は、“重要性”は考慮される(べき)と思う。

 

というのは、サービス部分も含めて資産計上すると、リースに関連する資産(及びそれに対応する負債)が、その分多額となり、会計上次のような効果が考えられるからだ。

 

 資産(・負債)の過大計上により、B/S上の実態が歪められる。例えば、資本回転率などの経営の効率性を示す指標が本来の姿より悪化する。

 

 一方で、P/Lへの効果はほとんどない(費用計上額はあまり変わらない)。

 

 将来、減損となった時には、より多額の減損損失を計上するリスクを負ってしまう。

 

要するに、リースを会計処理する際には、サービス部分も含めてリースとして扱うことで見積りの手間が省け楽になるが、その分、ディメリットを負うことになる。恐らく企業は、このディメリットが大きくならない程度に楽をする、即ち、結局、ここで(自発的に)重要性を考慮することになると思う。また、そうすべきではないかと思う。

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1 リース取引に関する会計基準の適用指針」の第25項。(リンク先はASBJのHP。)

 

 

2 このブログの 4483/5 の記事を参照。

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