457.【投資】歯痛耐性とリスク耐性
2015/4/6 米株式市場は月曜まで4連休と書いてあるが、これは間違いで、月曜(4/6)は開かれるようだ。
2015/4/4
虫歯の痛みに参っている。もちろん、治療をしているのだが、僕が通っている歯医者は人気があるらしく、次の予約が2週間先になる。その間、ときどき、ズキズキ痛んでくる。これが夜に多い。このところ歯の健診を定期的に受けていたためか虫歯はなく、実は、歯の治療は10年ぶりだ。しかし、「10年前もこんなに痛かったのだろうか?」と思うぐらい痛い。
僕は薬を飲むのが嫌いで、基本的には痛くても我慢する。しかし、今回は鎮痛剤を飲んだ。最初は、10年前に処方されていたが飲んでいなかった鎮痛剤を、そして、それが足りなくなり、新しく処方してもらって飲んでいる。
と、ここまで書いてようやく思い出してきた。10年前もすごく痛かったのだ。それで歯医者で痛みを訴えたら、鎮痛剤を処方してくれたのだ。(ただ、実際には我慢して、ほとんど飲んでいなかった。)
ん~、どうやら僕は痛い思いをしても、忘れてしまう性質らしい。
ところで、10年ぶりといえば、20年ぶりの記録更新を続けているものがある。毎月公表される米国雇用統計の労働者数⋆1の連続増加記録だ⋆2。「雇用統計ってなに? 唐突な!」と思われたと思う。しかし、投資をやる人には、これが重要だ。発表されるたびに相場が大きく動くので、毎月、まるで大晦日のカウントダウンのような、お祭り騒ぎになっている。
なぜ米国の雇用統計が相場を動かすのか? 知っている人には当たり前だが、そうでない人もいると思うので簡単に説明したい。
米雇用統計が重要な理由は3つある。
一つは、米国の中央銀行である FRB が、日銀のように物価の安定だけでなく、雇用最大化も(法的な)使命にしているからだ(=デュアル・マンデート)。FRB は FOMC(=連邦公開市場委員会)を開催して金融政策を決定するので、FRB の決定は米国経済に大きな影響を与える。もちろん、株式市場や外国為替市場にも⋆3。
二つ目は、より単純で、投資家にとっても雇用情勢が、米国経済の良し悪しを判断する重要な指標になるからだ⋆4。
そして最後は、FRB の金融政策や米国投資家の判断・投資行動が、世界の株式や通貨市場へ大きな影響を与えることだ⋆5。もちろん、日本の株式市場にも。
基本的には「株価は、雇用統計が良ければ上昇、悪ければ下落」となる。しかし、いつもこうなるとは限らない。そこが面白いところだ⋆6。要するに雇用統計には、株価にとってプラスとマイナスの両面があり、上昇することもあれば下落することもある。かなり気まぐれなのだ。
ところで、昨夜公表された雇用統計は、久しぶりに悪い内容だった。しかも極端に。したがって、基本的には株価にはマイナスのはずだ。雇用統計は米国の株式市場が開く1時間前に公表されるので、通常なら、どちらに反応するかを1時間後に確認することができる。しかし、今回に限ってはイースター(=復活祭)の休日で、月曜まで米国株式市場は4連休だ。う~ん、これは気になる。どちらに動くだろうか。
一方、外国為替市場は開いていて、円高、ユーロ高、即ち、ドル安に大きく動いた。月曜の日本の株式市場は、きっと大きく下げるだろう。しかし、それは仮の姿であり、日本時間の火曜の夜に米国市場が始まるまでは、いや、火曜の米国市場が引けて、水曜の日本市場が始まるまで、本当の流れは分からない。月曜、火曜と日本の株価が下落する間、不安を抱えたまま僕は耐えて行けるだろうか。それとも、不安に負けて持ち株を売却してしまうだろうか。いや逆に、企業業績は良いはずだから、水曜には上がる、水曜に上がらなくても、その翌週には上がると考えて、下がったところを買い増すだろうか。
このように、相場の下落に慌てず辛抱強く耐える能力を“リスク耐性”と呼ぶらしい。いや、もう少し正確に書くと、「目の前の悪いニュースに惑わされず、冷静に状況を判断できる能力」と表現した方が良いのかもしれない。投資では、これこそが一番重要な資質・能力だそうだ。
目の前の歯痛に堪えきれず鎮痛剤を飲むようになった僕に、果たしてこの能力があるかどうか。痛い目にあったことをすぐ忘れてしまえる能力はあるのだが(⇒失敗を繰り返すタイプ)。
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⋆1 正確には、米労働省労働統計局が発表する非農業部門就労者数で、Non-farm Payroll や、これを略して NFP などとも呼ばれている。通常、第一金曜日の米国の株式市場が開く1時間前(米国が夏時間なら、日本時間の夜9時半。冬時間なら、日本時間の夜10時半)に公表される。
⋆2 「改善続く米雇用統計の今後の見通しは? 消費は伸びるが投資減速」YAHOO!ニュースBUSINESS 2/11 には、「1月は昨年12月よりも増加幅は縮小したが、雇用回復の目安とされる20万人は11カ月連続で上回った。10か月以上連続で上回るのは、1993年9月から1995年3月までの19カ月連続以来である。」とある。2月も20万人を上回ったので、12カ月連続となっていた。但し、昨夜公表された3月分の統計では、12万6千人と大幅に20万人を割り込んだ。
⋆3 雇用統計は、FRB がその使命を果たしているかどうかを測る直接的な指標であるとともに、FRB がその後の金融政策(=金利の上げ下げ、最近では量的緩和の程度に関する方針)を決めるための基本的な指標になっている。雇用統計では、就業者数に関する推計だけでなく、失業率、賃金上昇率といった様々なデータが公表される。FRB は、景気が過熱しないよう早めに金融政策を引き締め、景気が減速しないよう金融政策を緩和的にする。
基本的には、金利を上げるときは景気が良い。金利を下げるときは景気が悪くなっている。したがって、金利を上げる状況では株価はすでに上昇しており、金利を下げる場合は株価は下落している。問題は、金利の上げ幅が大き過ぎたり、上げるタイミングが早過ぎたりすることで、必要以上に急ブレーキをかけてしまったり、またはその逆に、十分に減速できずにバブルを発生させてしまうことがあることだ。そうなると、株式市場や外国為替市場などが中長期にわたって大きく乱高下することになる。
⋆4 雇用状況は、投資家にとっても現在の景気を測ったり、或いは、消費の動向を探る重要な指標になる。経済学を勉強したことのない方でも、失業者が増えれば景気は悪いと直感できるだろう。逆に、労働者数が増えて経済全体の労働者の収入が増えれば、消費も増加すると連想しやすいと思う。投資家も同じように判断する。
⋆5 米国の投資家は世界中の株式市場・債券市場・通貨市場で取引するし、取引金額も大きい。それを、各国の投資家も注視しているので、二重の意味で世界中のマーケットに影響を与える。
⋆6 というのは、投資家が、FRB が金融政策を引き締めると予想するか緩めると予想するかで、その投資姿勢に、上記とは逆向きに大きな影響を与えるからだ。例えば、引締めが予想されると、いわゆる“リスクオフ”となり、株式相場は下落するし、為替相場は新興国通貨が下落する一方で、安全なイメージのある通貨が上昇する。逆に、緩和が予想されると“リスクオン”となり、株式相場が上昇したり新興国への投資が増えたり(=新興国通貨が上昇)することが多い。したがって、良い雇用統計が公表され FRB が景気がよいと判断しようとすると、投資家がそれを察知して、株価を下げたり、新興国市場から投資を引上げようとする(=ドルや円が買われる)。
これらは、借入で投資をする信用取引を行う投資家やヘッジ・ファンドなどの投資行動が相場全体へ波及するものらしい。金利上昇がこれら投資家のコストになるためだ。借入に依存しない投資家も、これらの投資家の動きに合わせるように行動する。この“コスト増”は企業も同様で、金利が上がると企業業績や設備投資の増減に影響するから、金利上昇は株価下落を連想させ、これがまた投資家の投資行動に影響を与える。
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