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2015年4月10日 (金曜日)

459.【収益認識'14-02】5つのステップ

2015/4/10

この数日、寒くて暗い憂鬱な天気が続き、花見の華やいだ気分も遠い出来事のように感じられる。しかし、FC東京の武藤嘉紀選手に来たオファーは、そんな雨雲や冷気を吹き飛ばし、一気に夏の到来を予感させる凄いニュースだった。なんと、イングランド・プレミアリーグ、モウリーニョ監督のチェルシーから正式なオファーが来たという1。まだ本人はどうするか決めていないようだが、もし、挑戦するとなれば、この夏以降が本当に楽しみだ。でも、武藤君は英語、大丈夫だろうか?

 

 

さて、今回はIFRS15の2回目。前回はななめ読みだったから、今回が詳細項目の第1回目となる。そのテーマは“5つのステップ”だ。今回は、これを受注販売業の業務と比較しながら、各ステップのイメージを高めていきたいと思う。

 

前回(4584/7)は、これについて次のように記載した。

 

このステップを実務に当てはめてみると、受注活動においてステップ1(=顧客との契約の識別)が識別され、ステップ24(=履行義務の識別、取引価格の算定、取引価格の履行義務への配分)が提案書になり、受注した段階で概ね確定し、受注マスタ登録される。ステップ5(=履行義務の充足)が売上計上のタイミング(=受注マスタから売上マスタを登録)となる。概ね、小売業以外の一般的な販売取引に沿ったステップだ。

 

今回はこれをもう少し深掘りしたい。会計基準上のステップが、企業のどんな業務とどのように関わるのかのイメージを持ちたいのだ。そのために、まず、前回“小売業以外の”と書いた小売業から始めたい。

 

(小売業)

 

みなさんは既にお分かりのように、小売業には受注プロセスがない。もちろん、店頭にない商品を取り寄せる場合や、楽天市場のようなネットショップには受注プロセスがある。居酒屋さんにもある。しかし、デパートやスーパーなどの、展示してある商品をそのまま販売するスタイルの典型的な小売業では、受注プロセスがない。

 

受注プロセスがないとステップ24 がなく、顧客がレジへ商品を持ち込んだ時に、ステップ1とステップ5が同時に発生して終わる。IFRS15では、ステップを適用して収益を認識する旨記載がある2が、適用できないステップがあるということは、IFRS15を適用できないということだろうか。即ち、小売業はIFRS15の適用対象外だろうか。

 

基準本体では、小売業のこの疑問に関する記載は一切ない。では、書いてないから適用できない? いや、そうではない。原則主義なので、書いてなくても基準の趣旨に合っていれば適用する。例えば、基準本体に記載はないが、結論の根拠には、かろうじて次のような記載はある。

 

包括的な枠組みを提供することによって、顧客との契約から生じる収益を報告する際のIFRS第15号の最も重大な影響の1つは、経済的に類似した取引の会計処理の整合性が高まることである。・・・単純明快な小売取引などの他の契約にとってはIFRS第15号の影響は(あるとしても)ほとんどないであろう。IFRS15.BC462

 

この段落は、IFRS15という収益認識の包括的な基準の適用が、企業の業務や開示に与える影響について記載しているが、そこで、小売業についても適用を前提とした記述がされている。仮に、このような記述がなかったとしても、原則主義なのだから、“顧客との契約から生じる収益認識”に該当する取引であれば、IFRS15の趣旨を生かして適用することになる。

 

要は、小売業については、ステップ24に関する業務は省略可。但し、レシートには買い物明細が明示されるので、ステップ24は、企業に業務として意識されないだけで、実際にはちょっと違った形で存在しているのかもしれない。それはちょうど、サッカーで相手キーパーから直接ボールを奪ってゴールを決めるようなもので、本来なら自陣からビルドアップして、相手ディフェンダーを攪乱して…、というプロセスが省略されている。しかし、ゴールはゴールだ。

 

決して小売業が、このゴールのようにラッキーな商売と言ってるわけではない。こんなゴールを決められる選手は、例えば、日本代表の岡崎慎司選手のような特定の選手に限られる。相手キーパーの心理と行動を読んだり、油断させたり、チャンスを逃さない抜け目なさ、貪欲さといった特殊な能力・性質を備えている。小売業も、顧客に来店させ、短時間で(多くの場合、自発的に)購入を決めさせるという特殊な能力が必要で、そのためにステップ24が顧客が来店する前に準備されているのかもしれない。通常であればステップ24は、顧客の顔を見ながら、或いは、思い浮かべながら行われるもののように思うが、小売業はそうではない。そこが特別なスキルだ。

 

(営業部門)

 

一般的な販売活動は、企業が提供する財・サービスの顧客を探すところから始まる。見込み顧客が見つかると、① 企業自身の信頼を得る、② 提供する財・サービスの内容を顧客のニーズに合うよう調整する(或いは、開発する)、③ 価格を相談する、③ 顧客と合意する(=受注の確定)、と進む。

 

この一連の活動は、いわゆる営業部門の業務で、営業部門としては受注の確定を持って業務を終える感覚を持つことが多い。しかし、顧客にとって営業部門はその企業の顔なので、財・サービスの提供や代金の回収など、営業部門が直接担当しないプロセスにまで、その企業が顧客と関わり続ける限り、営業部門の仕事は続く。それが、次の受注にも繋がっていく。結局、営業部門は、顧客からすべての責任を果たすよう求められるし、そのように頼られる存在にならなければならない。

 

そのために、

 

・顧客のニーズを明確に理解し、顧客と確認し合う。

・財・サービスの提供を行う部門に顧客のニーズ・約束を明確に伝達し、

 必要に応じて実行をモニタリングする。

・対価の回収を行う部門に必要な情報を提供する。

・企業の財・サービスに関する顧客の評価を入手する。

・一連の業務の経過・成果をマネジメントへ報告する。

 

営業部門は大変なのだ。この大変な業務を効率的・効果的に行うために、情報伝達の内容やタイミング及びその方法が整理され、システム化される。そして、そこにIFRS15は目を付けてステップを設定した。みなさんもお分かりの通り、特にステップ14は、この一連の活動で生み出される情報を利用するものとなっている。具体的にどのように利用するか。

 

(ステップ1:顧客との契約の識別)

 

実態のある契約を網羅的に識別するには、契約に至るプロセスの情報やそのデータベースに基づくことが重要となる。上記で見るように、営業部門としては受注・成約までが最も精力をつぎ込むプロセスなので、見込み顧客と、それに対する営業内容の情報は、どのような形であれ、必ず存在する。ただ、それが担当者以外にも利用可能な形、検証可能な形で整理されているかどうかがポイントとなる。

 

個別の営業活動なしに、繰返し受注を受けられるような取引の場合は、顧客から受けた注文の最初の受取り情報(例えば、FAXによる受注であればそのFAX、電話による受注であればメモ、電子受注であればそのデータ)の管理がポイントになる。また、顧客訪問時に顧客の生産計画など、凡その受注予想ができる情報を入手する場合は、その情報からその企業の発注や生産計画が行われるので、その情報の利用と管理がポイントになる。

 

(ステップ24:履行義務の識別、取引価格の算定、取引価格の履行義務への配分)

 

履行義務の正確・詳細な検討は後日に譲るとして、とりあえずここでは、履行義務を“提案項目”と理解しておこう。したがって、履行義務は提案書にその情報がある。ステップ24のポイントは提案書の管理だ(直接には最終の提案書や契約書の情報の保存・管理だが、それが作成される過程も大事)。

 

ステップ3は、提案書の価格条件に焦点を当てている。固定価格なら問題ないが、数量リベートのように条件で単価が変わるものについては、最終的に顧客からいくら回収できるかについて見積りが必要になる。数量リベートであれば、顧客がどの程度条件をクリアできるかを見積らなければならない。

 

提案の内容が複数の財・サービスに関するものか、それともそれらは一連の流れにあるものかで、ステップ4が変わってくる。一連の流れにあるものであれば、提案書記載の金額で、ステップ4をクリアできるが、個々にが独立性のある財・サービスを提供する提案(=複数の履行義務を含む提案)であれば、それぞれの内訳について価格を決めなければならない(これを“配分”と呼んでいる)。

 

顧客から提案書の明細(=履行義務)ごとの単価・金額が欲しい、と求められてそのレベルで単価や金額の合意がある場合は良いが、顧客が明細を求めない場合、或いは、明細金額を提案書に含めないでほしいと要請された場合は、一定の客観的なルールで契約の対価を明細単位に配分する必要がある。これがステップ4だ。

 

これら、ステップ24は、提供する財・サービスに見合った対価を回収できるかどうかを評価することになるから、企業の経営成績(=採算性)に重要な影響を与える。また、例えば総額100億円の複数年度にまたがる提案書がある場合、各履行義務がどの年度で充足されるかで、それぞれの期間損益が大きく変わってくる。事業計画や予算作成に与える影響が大きいし、もちろん、実績管理にとっても重要な情報となる。

 

「過去に受注した大型工事の採算が悪いため、当期の業績が悪化した」などという決算説明は、それほど珍しいものではない。ステップ24は、そういう業績管理活動と直結している。

 

(財・サービスの提供)

 

営業部門が顧客に約束したことを、製造部門や工事部門などが実行する(=履行義務を充足する)と、顧客から支払を受けられるようになる。そこで収益を認識する(=売上伝票を起票する)。従来の会計基準はこの部分にのみ着目していた。一方IFRS15は、上記のように、ここに至る一連のプロセス全体に着目することで、様々なビジネスモデルに対応できる包括的な基準になった。とはいえ、やはり、売上計上という会計行為を直接規定するこのステップ5は重要だ。具体的には次の項目を規定している。

 

・どういう状況で収益実現と考えるか(≒検収基準の内容)

・完了基準と進行基準の使い分け

・進行基準の進捗度の測定方法

 

履行義務を単位として売上計上する場合は完了基準で、1つの履行義務を徐々に売上計上する場合は進行基準。これをIFRS15は、次のように記載している。

 

履行義務は、一時点で充足される場合(顧客に財を移転する約束の場合に一般的)もあれば、一定の期間にわたり充足される場合(顧客にサービスを移転する約束の場合に一般的)もある。IFRS15.IN7(e)

 

 

さて、以上で、IFRS15の5つのステップを企業の経営活動と関連付けられるように概略してきたが、最後にステップ5に関連して、一つ、余分な感想を。

 

営業部門が築き上げてきた企業の信用は、約束が実行されることで一つの区切りを迎える。顧客が満足すれば本物の信用になるが、不満足な結果に終われば損なわれる。顧客が満足して対価を支払うか、渋々支払うかの違いは大きい。しかし、どちらにしても売上は計上されるので、残念ながら財務情報だけでは、企業が顧客を満足させる価値を生み出しているかどうかを判断することはできない。これはIFRS15でも、同じだ。

 

会計に携わる者としては悲しい現実だが、このような“事業継続価値”は自己創出のれんなので、現行の会計の対象外だ。今後の会計理論の進歩、或いは、統合報告など会計以外の企業情報開示制度の進化に期待するしかない。(が、それは遠い将来の話なので、とりあえずは武藤選手の活躍を期待したい。)

 

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1  「チェルシーからFC東京の武藤に正式オファー 」日経電子版 4/9 無料記事

武藤 チェルシーから正式オファー!今夏獲得へ移籍金7億円提示YAHOO! ニュース など多数。

 

2 基準の正確な表現は次の通り(IFRS15.IN7)。

 

・・・企業は、以下のステップを適用することにより、この中心となる原則に従って収益を認識する。

 

 この次に、5つのステップの説明が続く。

 

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