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2015年4月14日 (火曜日)

460.【収益認識'14-03】基準の目的:収益基準なのに“キャッシュ・フロー”

2015/4/14

最近何かと話題になる、AIIB(=中国が主導するアジアインフラ投資銀行)。どうやら、政府の対応について「乗り遅れた!」と「慌てるな!」という2つの主張があるようだが、みなさんはどちらを支持されるだろうか。これは難しい問題だが、かねてからこのブログでも書いてきたとおり、難しい時は“目的へ向かう”というのが僕の考え方だ。ということで、今回は、まず、IFRS15のの第1項から第4項までの“目的”について考えてみたい。その後で、AIIBについて僕の感じたことを書かせてもらおうと思うので、気になる方はそのままお読みいただきたい。

 

 

目的(1

 

本基準の目的は、顧客との契約から生じる収益及びキャッシュ・フローの性質、金額、時期及び不確実性に関する有用な情報を財務諸表利用者に報告するために、企業が適用しなければならない原則を定めることである。

 

この中で僕が注目したのは、収益と並んで“キャッシュ・フロー”の有用な情報を規定しようとしている部分だ。会計は発生主義なので、“収益”に関する情報提供を規定するのは分かる。それと“キャッシュ・フロー”を並べるのは、どんな意味があるのだろうか。という観点で“目的への合致”という小見出しが付いている第2項~第4項を読むと、収益の測定は“見積り”であることが分かる。

 

 (個別契約ごとに)

 

・収益は「いくら回収できるか」で測定する(2)⇒ 即ち、見積りが必要。

・契約の条件、関連するすべての事実状況を、一貫性をもって考慮せよ(3)⇒ 見積りの原則的な方針。

 

 (ポートフォリオで)

 

類似の契約をまとめて扱うことができる(4)⇒必然的に見積もりとなる。

 

というわけで、既に、ななめ読み(4584/7)の時点で、測定に手間がかかりそうな雰囲気を察知していたが、早速それが出てきたようだ。IFRS15では、単純に「数量×契約単価」で売上伝票を起票できないのか? ん~、それではあまりに手間がかかり過ぎるのではないか。

 

しかし、考えてみれば、現行の日本基準でも売上伝票は「数量×契約単価」で起票するが、関連する信用リスク、返品リスク、売上割戻し等は見積りを行う。その結果、売上から諸リスク額を控除した収益額は見積りとなる。そう、こんなやり方でも、一応、収益額は結果的に見積りだ。これは許されるのだろうか? もしかしたら、こういうやり方(=大量の売上伝票はそのまま計上し、回収に係る諸々のリスクを性質ごとに見積る方法)を“ポートフォリオ”と呼んでいるのだろうか?

 

おっと、ちょっと議論が横道に逸れてしまいそうだ。この問題にはいずれ戻ってこよう。今回のテーマは“手間”ではなく、なぜ“キャッシュ・フロー”が収益と並んで収益認識の基準の“目的”に記載されているかだった。

 

実は、このIFRS15の基準本体には、この問いに直接答えるような記述は見当たらなかった。結論の根拠も同様だ。但し、結論の根拠には若干のヒントがあった。それは、概念フレームワークの“一般財務報告の目的”にある文章と似た文章が記載されていたことだ1。それで分かったことは、次のことだ。

 

・財務諸表の利用者は、(正味の将来)キャッシュ・フローを適切に予測したいというニーズがあると考えられており、IFRSはそのニーズを満たすことを目指して、或いは、それを目的に開発されている。IFRS15も、当然その目的のために開発されている。だから、“キャッシュ・フロー”がこの基準の目的にも記載されている2

 

・収益額は“測定”によって“キャッシュ・フロー”へ変換される。その測定の方法は“見積り”となる(ので手間がかかる)。

 

・実務上の便宜のために、個別契約ごとでなく“ポートフォリオ”として扱う方法が用意されている(これによって、“キャッシュ・フロー”による開示コストを下げている)。

 

どうやら、“収益”のイメージを少し変える必要がありそうだ。キャッシュ・フロー計算書は、現金主義で現金の出入り(の実績)を示したものだが、損益計算書は、発生主義による現金の出入り(見積りになる)を示したものらしい。どちらも同じキャッシュ・フロー・ベースの計算書だが、認識規準が現金主義と発生主義で異なる。と同時に、発生主義をキャッシュ・フローとして測定することで、キャッシュ化するまでのリスクを網羅しようとする意味合いを強めているように思う。

 

 

さて、AIIB の目的はなんだろうか。或いは、AIIBへ参加する目的はなんだろうか。AIIBの目的がアジア諸国の人道的・民主的な経済振興であれば、日本がAIIBへ協力することは賛成だ。では、日本がAIIBへ参加する目的はなんだろうか。日本企業がアジア諸国の開発プロジェクトに参加しやすくするためか? それは無理だろう。

 

50%の議決権を持つ構想の中国は、拒否権を行使しないと宣言してヨーロッパ諸国を取込んだようだが、残り50%のうちアジア諸国で25%を持つべきと主張しており3、その中には中国の言いなりになる国が必ずあるので、というか、開発投資してもらうアジアの国々の多くは基本的に中国に従わざるえないだろう。だから、最初から拒否権など不要だ。

 

AIIBへ参加することの意味は、日本とヨーロッパ諸国では明らかに違う。アジアは、ヨーロッパ諸国にとっては隣のマンションのことだが、日本にとっては同じマンションのことだ。そのマンションのことを決めるのに、実質的に50%を超える議決権を中国に握られているのだから、参加するなら日本は肩身が狭いことを覚悟する必要がある。

 

加えて、AIIBの開発プロジェクトに日本企業を喰いこませたければ、AIIBへの出資以上に、両国の政治関係が重要になると思う。

 

中国は、台湾からのAIIB参加申請を拒んだ。理由は“チャイニーズ・タイペイ”という名称が気に入らなかったからだそうだ4。みなさんもご存じのとおり、中国は台湾を自国の一部と見ており、そのため、台湾は正式名称である“中華民国”という名称を国際的にはほとんど使用できない状況にある。そこで、中国の一部のように聞こえる“チャイニーズ・タイペイ”という名称を、国際スポーツ大会やADB(=アジア開発銀行)などで使用していたが、しかし、AIIBではその名称さえも許されなかった。

 

そういう中国に対して、実は、多くのアジア諸国は日本に牽制してくれることを期待していると思う。中国以外の選択肢が欲しいのではないかと思う。中国から見て良好な日中関係、即ち、日本が中国につき従うことを、期待しているわけではないと思う。恐らく、そうなってしまえば、アジア諸国の日本へ対する支持や期待感も低下してしまうだろう。結局、参加しても日本企業のメリットは多くならないのではないか。政治的に頭を低く下げない限り。

 

日本は、日米が主導するADBに不備があればそれを改善し、アジア諸国により良い選択肢を提供すべきではないだろうか。ADBAIIBが競争して、開発を希望するアジア諸国にとって、より良いインフラ開発が期待できる状況を実現することが、日本の役割であり、日本の利益になるのではないかと思う。“目的”から考えると、そういうことになると思う。

 

 

別に、中国と喧嘩したいわけではない。しかし、頑張るところで頑張らないと目的が歪められ、その代償は非常に大きなものになると思う。中国とは、隣人だからこそ、良い、悪いをはっきりさせながら、紆余曲折を覚悟して長い目で付き合っていく必要があると思う。会計基準においても、最初から“収益もキャッシュ・フローで”と意識しておかないと、後戻りする羽目になるかもしれない。とにかく、“目的”が重要だと思う。

 

―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・

1 IFRS15.BC484には、次のように記載されている。

 

さらに、IFRS15号は包括的な開示要求を提供しており、財務諸表で報告される収益に関する情報を大きく改善するはずである(BC327項からBC361項参照)。具体的には、収益に関する情報が、企業の顧客との契約及び当該契約から生じる収益を財務諸表利用者がより適切に理解できるようになり、キャッシュ・フローをより適切に予測できるようになる。また、この情報は、財務諸表利用者がより十分な情報に基づいた経済的意思決定を行うことにも役立つはずである。両審議会は、これらの改善は作成者にとってのIFRS15号の適用のコストを増加させるかもしれないことを承知していた。しかし、両審議会は、これらのコストは、財務諸表利用者にとって企業の業績及び見通しの分析及び理解に非常に重要な領域における財務報告の有用性を改善するために必要であると結論を下した。

 

一方、概念フレームワークの“一般財務報告の目的(OB3)”には、次のような文章がある。

 

現在の及び潜在的な投資者による、資本性及び負債性金融商品の売買又は保有に関する意思決定は、当該金融商品への投資から彼らが期待するリターン(例えば、配当、元利支払又は市場価格の上昇)に左右される。同様に、現在の及び潜在的な融資者及び他の債権者による、貸付金及び他の形態の信用の供与又は決済に関する意思決定は、彼らが期待する元利支払又は他のリターンに左右される。投資者、融資者及び他の債権者のリターンに関する期待は、企業への将来の正味キャッシュ・インフローの金額、時期及び不確実性(見通し)に関する彼らの評価に左右される。したがって、現在の及び潜在的な投資者、融資者及び他の債権者は、企業への将来の正味キャッシュ・インフローの見通しを評価するのに役立つ情報を必要としている。

 

IFRS15.BC484では、「財務諸表利用者が(企業の)キャッシュ・フローを予測する」としているが、概念フレームワークのOB3では、「財務諸表利用者が、正味キャッシュ・インフローの見通しを評価する」としている。表現に若干に違いはあるが、共通しているのは「財務諸表の利用者が見たいのは“キャッシュ・フロー”の予測や見通しの評価に役立つ情報」という部分だ。“収益”は、単にそれが開示されればよいということではなく、“キャッシュ・フロー”の予測や見通しの評価に役立つ情報としての収益でなければ、開示する価値がないということだろう。

 

2 ちなみに、昨年公表されたIFRS9号の改定版も、“目的(1.1)”のところに次のように“キャッシュ・フロー”が記載されている。恐らく、最近開発された基準の“目的”には、“キャッシュ・フロー”が付きものになっているのだろう。

 

本基準の目的は、財務諸表の利用者が、将来キャッシュ・フローの金額、時期及び不確実性を評価するにあたって、目的適合性のある有用な情報を表示する金融資産及び金融負債の財務報告に関する原則を確立することである。

 

ところが、現行の収益基準“IAS18”にも“目的”はあるが、そこに“キャッシュ・フロー”は出てこない。文章の内容も、力点を置いているところが全然違っている。下記の通り、IAS18の目的は“認識”に力点を置いているが、本文にあるようにIFRS15の目的はより“測定”に力点を置いている。

 

「財務諸表の作成及び表示に関するフレームワーク」において,広義の収益は会計期間中の資産の流入若しくは増価又は負債の減少の形をとる経済的便益の増加であり,持分参加者からの拠出に関連するもの以外の持分の増加を生じさせるものとして定義されている。広義の収益には,収益と利得の両方が含まれる。収益は,企業の通常の活動の過程において発生し,売上,報酬,利息,配当及びロイヤルティを含むさまざまな名称で呼ばれるものである。本基準の目的は,ある種の取引及び事象から生じる収益に関する会計処理を定めることである。

収益に関する会計上の主要な論点は,いつその収益を認識するかを決定することである。収益は,将来の経済的便益が企業に流入する可能性が高く,これらの便益を,信頼性をもって測定できるときに認識される。本基準は,これらの規準が満たされ,それによって収益が認識される状況を明らかにする。本基準はまた,これらの規準を適用するうえでの実務指針を提供する。

 

3 AIIB設立要綱、理事会設置で実質合意=国際金融筋 REUTERS 4/12

 

4 中国、台湾のAIIB参加申請を拒否WSJ 4/13有料記事

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