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2015年4月

2015年4月28日 (火曜日)

465.【収益認識'14-06】“顧客との契約”~契約 (真球対決は決着したが…)

2015/4/28

25日に放送された『凄ワザ』では、冒頭、NHKから詫びが入った。「先週(18日)の放送は済みません」と(18日の放送については、4624/19 を参照)。そしてなぜアクシデントが起こったか説明がされた。おかげで僕もわだかまりが消え、真球対決に集中できた。日本対ドイツ、職人技対ハイテク技術、中小企業対グローバル企業という3つもの要素が絡んだ世紀の真球対決だ。

 

ご存じの方が多いと思うので、結論から申し上げる。日本の職人技がドイツのハイテク技術に勝った。日本の2つのガラス玉は、ドイツの2つの鋼鉄球以上に 7.5cm幅の細い橋を長く転がっただけでなく、一つは30mを渡り切った。凄い。ドラマだった。その瞬間、涙が出そうだった。そして、ドイツの技術者の謙虚さにも好感した。

 

一方、4624/19 の記事では、NHKと共に、連敗中の清水エスパルスにも(勝手に)反省を求めた。しかし、こちらは22日にカップ戦で1勝を挙げたものの、25日のリーグ戦では、また敗戦した(これでリーグ戦5連敗)。こちらも涙が出そうだった。(T_T) 次節(29日)こそは、頼むっ!

 

 

さて、このシリーズの前回(4644/24)は、“顧客との契約”の“顧客”について記載した。IFRS15の収益認識モデルは、この“顧客との契約”という言葉に大きく依存している(4634/22)が、前回は、“顧客”相手であっても、リースや保険の契約については、(他に適当な基準があるので)IFRS15の対象外になることを記載した。さらに、“顧客か、顧客でないか”の判断も重要になる。企業にとっては、事業目的に照せば間違いようのないことであるが、“顧客かどうか”を判断することが必要になることも記載した。(売掛金や買掛金などの通常の営業債権債務以外の金融商品に関連する契約もほぼ対象外となるが、これも、金融商品の発行元企業にとって、金融商品保有者は“顧客”でないため、と僕は思っている。金融商品の取引相手の場合、“顧客”というより、事業の“協力者”の方が近いからだ。)

 

そして今回は“顧客との契約”の“契約”がどのようにIFRS15の範囲を規定するかを見ていきたい。具体的には、基準本体の“契約の識別”を見れば、この基準がどういう“契約”を対象としているかを理解できる。(即ち、契約であるかないか、と共に、契約であっても対象外になるものがありえる。) 僕の印象としては、やはり顧客との“契約”というのは、単なる“契約”ではない。顧客は企業にとって最も重要なものなので、“契約”にも、そういう配慮をすることが想定されていると思う。

 

 

(契約か、契約でないか)

 

IFRS15では、契約を、とりあえず、次のように定義している(10)。

 

契約とは、強制可能な権利及び義務を生じさせる複数の当事者間の合意である。1

 

・合意が他の当事者に対して強制可能な権利及び義務を生じさせる場合には、契約が存在している。

 

・文書である必要はない。

 

・契約の成立時期(収益計上時期ではない)の判断は、慣行やプロセスも考慮して判断する。即ち、“ハンコ”の有無では、判断しない場合がある。

 

顧客との間に「強制可能な権利及び義務を生じさせる合意」を得た時に“顧客との契約”となる。もちろん、契約の各当事者それぞれが、それぞれの義務と権利の内容を識別・理解していなければならない(9(a)(c)BC36)。そうでなければ、有効な契約とはいえないし、仮にそのまま進んでも、将来、顧客とトラブルになりかねない。そのままでは、企業のサービスの質、信用、評判に関わる問題につながるリスクがある。

 

“契約”がいつ成立したか、という判断には“慣行やプロセス”を考慮する。「常に正式な承認(例えば“ハンコ”)が必要」とは書いてない。ただ、それは、例えばスーパーのような小売業のケース(一々売買契約書を取り交わさない)をイメージしているようだ。顧客側の社内稟議が下りて正式な契約書を交わさないと契約が成立しないなら、もちろん、“ハンコ”が必要になる。これが“慣行やプロセスを考慮する”という意味のようだ。2

 

 

(契約から除外されるケース)

 

以下の条件を満たさなければ、契約として識別しない(9.(d)(e))。

 

・契約に経済的実質がある。

 

・対価を回収できる可能性が高い(=合理的に確実 BC44)。

 

いずれも、当たり前といえば、当たり前かもしれない。

 

「契約に経済的実質がある」という条件については、まず、売上を水増しするための同業者間の取引を収益計上させない趣旨が記載されている(BC40)。しかし、この例に限らず、すべての取引には経済的な実質が必要とも記載されている(BC41)。3

 

回収できると合理的に見込めないのに、企業が顧客と契約を結ぶということは通常は想定されない。企業は、契約を締結するに際し、必ず、そういう信用評価を行うと想定されている。(BC43

 

もし、回収できると合理的に見込めないのに契約をしてしまった場合、会計上は“顧客との契約”として扱われない。その後顧客の信用状況に関する不確実性が改善し、回収できると見込まれた時点で“顧客との契約”として扱われる(再判定)。即ち、極端な場合は、入金時に初めて収益認識することがありえる。

 

 

(契約の要素として“強制可能でないもの”を考慮する)

 

“顧客との契約”を識別した場合、その内容には、強制可能でないものも考慮する。これは、IFRS15では、契約を識別すると、その後のステップに“履行義務の識別”、“取引価格の算定”、“取引価格の履行義務への配分”があるために必要となる。これらのステップは、“顧客との契約”の会計上の明細を作成・整理することなので、その明細に“強制可能でないもの”を含めるべきかどうか、そして、その取引価格をいくらにするかを検討する。その際、“強制可能でないもの”として考慮されるのは、以下のもの。

 

・顧客に生じさせた“期待”(BC32,BC87

 

・強制可能なのに強制しない“慣行”(BC36

 

“期待”は営業活動で、つい、口を滑らせたとか、顧客に示した他社例などを通じて生じてしまった“誤解”のようなものも含まれると思う。こういうものについても、契約書に記載がなくても(=必ずしも、強制されないでも)、履行すべきかどうかしっかり検討することが必要になる(会計上も重要だが、顧客サービス面からは、もっと重要と思う。もし、“期待”が存在しているのに履行義務としないならば、そのことを顧客にしっかり説明する必要がある)。

 

ここでの“慣行”とは、「契約書上に最低発注量が明示されているにもかかわらず、それに達しない発注量を慣行的にペナルティなしで容認しているようなケース」が結論の根拠に例示されている。契約書に義務として明示されていても、実際には努力目標的扱いであれば、実際の扱いが優先される。そうなれば、ペナルティが定められていても、取引価格の評価からは除外される。

 

 

以上を通じて、IFRSが「企業にとって重要なのは顧客」と考えているように感じた。特に“期待”にまで配慮が及んでいることには感心した。

 

顧客は企業に“期待”する。もちろん、すべてが契約で明らかになっていれば良いが、言葉で表現できないこともある。例えば、しばしば、“御社を信頼して”などと聴くことがあるが、これなど、「全てを想定して条件を詰められないけど、困ったときは一緒にがんばってくれるよね」という思いが詰まっている(このような漫然とした“期待”は、履行義務にはならないが)。これに応えられるかどうかが、企業の信用、評判、のれん、即ち、本当の企業価値を高めることになる。顧客にすれば、「そこまでがんばってくれる」というところが心強い。

 

さて、エスパルスはどうか。僕は“期待”している。他のサポーターも一緒だ。しかし、“サポーター”なので顧客ではない? そんなこと言わずに、その思いに応えて、お願い。<(_ _)>

 

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1 ちなみに、IAS32号の契約の定義は次のようになっている(IAS32.13)。

 

本基準では、「契約」及び「契約上の」という用語は、通常、法律により強制可能であるという理由により、当事者には回避する自由裁量が(仮にあっても)ほとんどないという明確な経済的効果のある複数の当事者間の合意を指している。

 

IFRS15の定義より複雑な書き振りになっている。IASBは、これに関して次のような記載をしている(IFRS15.BC31)。

 

・IFRS15の定義は「米国における契約の一般的な法律的定義に基づいて」いる。

・「IAS第32号「金融商品:表示」で使用している契約の定義と類似している」が、下記については異なる。

・「IAS第32号の定義は、契約には法律による強制力のない契約も含まれる可能性があることを含意している」。

 

ということで、両者は若干異なるらしい。ただ、具体的にどういうケースがあるかは僕には分からなかった。

 

2 取引慣行として「口発注で、しばしば、(納入前に)キャンセルされる」ようなケースはどうするか。こういう口発注には強制力が伴わないとも考えられるので、契約とはいえない可能性がある(IFRS15.12)。

 

しかし、実務的には、“契約”として管理せざるえない。そうしないと、在庫確認・発注・出荷といったステップを踏めないことになる。ただ、“契約”として管理することと収益計上は同一ではない。実際に財・サービスの支配を移転し、履行義務を充足しないと収益計上の段階にならない。

 

では、実務上“契約”として扱うが、IFRSでは“契約”として扱えない場合、どういう問題が発生するか?

 

それは、直接関連する費用を資産計上する場合に問題となる。IFRS上“契約”でないなら、資産計上できない。これは、“契約コスト”という箇所(IFRS15.90104)があるので、いずれ、そこで触れると思う。

 

さらに、納入後も返品自由なケースがある(昔の富山の薬売り、使用高払い、通販の返品自由商品、出版物など)。このような返品に制限のないところまでくると、出荷した後も強制力があるとはいえないのではないだろうか。これらのものに、“慣行やプロセスを考慮する”余地はあるのだろうか?

 

どうやら、“変動対価”(IFRS15.5054)のところに、返品調整引当金の代わりになるような負債を計上する会計処理について記載があるので、これで対応可能な取引もありそうだ。これも、いずれ触れると思う。

 

“価格未定”というケースもあるが、これは“契約”として識別されるようだ。履行義務が充足されれば収益計上もされる。但し、上記の“変動対価”として、収益計上額は見積りが必要になる(BC39など)。

 

3 循環取引では、多くの取引参加者がある。そして、実際に入出金も行われる。入出金があるなら「契約に経済的実質がある」ということにならないだろうか。

 

このような場合は、取引取引者のすべての契約を合わせて判定されると思う。すべての取引参加者が取引の全体像を把握できるか疑いはあるが、少なくとも起点となった企業は終点にもなるので、起点と終点の取引は“結合”(IFRS15.17)されることになりそうだ。起点となる取引の履行義務が充足されても、終点となる取引の履行義務が終わってなければ、収益計上されない。収益計上されていれば、会計基準違反となるのではないか。

 

起点、終点以外の企業は、すべての参加者のすべての契約を知らないかもしれないが、自分に関係する購入取引と売却取引の両方の契約は当然知っているので、これらを結合することになるだろうと思う。すると、代理人(IFRS15.B34B38)としての会計処理が必要になる。そうしなければ、会計基準違反となると思う。

 

そして、そもそも、循環取引には“顧客”がいない。

 

日本では、循環取引について、具体的に「どの会計基準のどの規定に違反している」という指摘は困難で、この解決は監査基準や公認会計士協会の公表文書に委ねられていた。しかし、IFRSでは、会計基準の問題として、はっきり指摘できるようになるのではないだろうか。

 

 

 

2015年4月24日 (金曜日)

464.【収益認識'14-05】“顧客との契約”~顧客

2015/4/24

サントリーの新商品、“レモンジーナ”と“ヨーグリーナ”が発売直後に品切れが続出し、それがメーカの出荷停止にまで及んで話題を集めていたそうだ。僕は全然知らなかったが、下記の記事で知った。

 

レモンジーナ品切れ騒動にみるヒット商品のワナ(日経電子版 4/22 有料記事1

 

何とも景気が良いニュースだ。メーカーはお詫びの会見を開いたようだが、発売直後に1年分の注文が殺到するなんて、笑いが止まらなかったに違いない。「需給予測や生産などの意思決定の仕組み、仕事のあり方に至るまで見直す」1と釈明したようだが、ドイツの提唱する“Industrie 4.02”が実現しても無理かもしれない。もちろん、やるべきことはすべてやる覚悟は素晴らしいし、消費者としては少しでもその成果を上げてもらえるとありがたい。しかし、一方で、大量受注の喜びを顔に出さずにお詫びする訓練も、忘れない方が良いと思う。店に無駄足を運んで残念がる顧客の顔を思い浮かべて。

 

だが、このようなメーカーのお詫びを消費者は(或いは、メディア記者は)、どのような顔をして聞けばよいのだろうか。少なくとも「お前はなんて悪いことをしたんだ」という顔ではないだろう。むしろ、本心としては、「そんな良い商品を開発してくれたのか」という感謝の気持ちや、「飲みたいから、早く出荷再開してくれ」という期待の気持ちがあるに違いない。しかし、相手が謝るというのだから、一応、怖い顔で受けるのが良さそうだ。

 

ということで、お互いに本心を隠しながらの妙な会見になる。妙だが、これがお互いの分をわきまえた節度ある態度だと思う。しかし、悪くない。というより、食品偽装の謝罪会見などと違って、ずっと良い。むしろ、こういう会見を一杯開けるよう、消費者を驚かせる商品をたくさん開発してほしい。

 

 

さて、前回(4634/22)は“顧客との契約”という言葉が、IFRS15の収益認識モデルにどのように関わっているかについて記載したが、ほとんど“顧客との契約”という言葉がIFRS15を支配しているかのようだと思われたかもしれない。今回は、“顧客との契約”という言葉が、IFRS15の適用対象範囲に影響を与えているところへ注目してみたい。

 

と書いたが、実は、結論の根拠に記載されている次の一言に尽きる(BC30)。

 

契約及び顧客の・・・定義が、IFRS15号の範囲を設定している。3

 

基準本体にも次のような記載がある(6)。

 

企業は、契約の相手方が顧客である場合にのみ、本基準を契約(第5項に列挙した契約を除く)に適用しなければならない。

 

ということは、「顧客との契約にはIFRS15を適用する」ということだが、第5項には少し例外が記載されているようだ。第5項を具体的に見てみよう。(正確な記載については4を参照。)

 

(a) リース契約

 

(b) 保険契約

 

(c) 金融商品及び企業結合や共同事業に関連する他の契約上の権利又は義務

 

(d) 顧客又は潜在的顧客への販売を容易にするための、同業他社との非貨幣性の交換

 

(a)(b)は、顧客との契約だが、IFRS15の対象にならないものだ。これらは確かに例外だ。しかし、(c)(d)は、そもそも、契約の相手が顧客とはいえないと思う。

 

(c)は、その企業の事業の継続的な協力者、或いは、その企業に対する資本提供者が契約先だ。即ち、契約相手は顧客ではない。(d)は“同業者”なので基本的には競争相手だ。4をご覧いただくと、(d)には“石油会社”という具体的な例が記載されているが、(c)のような継続的な共同事業者の関係ではないし、“顧客”というわけでもない。顧客はそれぞれ別におり、お互いに一時的な便宜を図っているに過ぎない。

 

(c)(d)、特に(d)を見ていると、「では、“顧客”とは何か?」という疑問が湧く。それについては、第6項に定義がある。

 

顧客とは、企業の通常の活動のアウトプットである財又はサービスを対価と交換に獲得するために当該企業と契約した当事者である。

 

ちょっと小難しい、眉間に皺を寄せずには理解が難しい文章だ。しかし、企業にとって、“顧客とは?”という問いは、分かり切っているはずだ。会計基準に教わるものではない。これが分からないで事業はできない。もし、分からない企業があるとすれば、社会的な存在意義を失うだろう。顧客の評価こそが企業に存在意義を与えてくれるのだから。企業は顧客に感動と満足を与えるために活動している。その顧客を頭に浮かべれば、IFRS15でも間違いないと思う。

 

なお、前回、“顧客との契約”について2回に分けて記載すると書いたが、次回もこのテーマを続けたい。残るは“契約”だ。

 

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1 無料で読める関連記事には次のものがある。

 

レモンの次はヨーグルト、サントリーがまたも“秒速”品切れ(日経ビジネス 4/20

 

2 興味を持たれた方は、次の記事が参考になるかもしれない。

 

インダストリー4.0とは何か?(日経ビジネス 2014/7/22

 

受注から出荷に至るまで、すべての関連設備をネットで統合し、ほとんど人手を介さず生産計画から全自動生産・出荷するイメージ。受注生産が主にイメージされているようなので、飲料製品のような在庫商品、しかも、初回生産量を適正に決める、というのはかなり難しいと思われる。

 

3 結論の記載のBC30項を正確に引用すると、“・・・”のところには、次の赤字部分が入る。

 

契約及び顧客のコンバージェンスされた定義が、IFRS15号の範囲を設定している。

 

この「コンバージェンスされた」というのは、IASBとFASB(=米国財務会計審議会)のそれぞれの定義を調整して同じものにしたというほどの意味だと思う。したがって、IFRS15を考える上では、省略しても支障ないと思う。

 

4 5項に挙げられている例外規定は、正確には、次のように記載されている。

 

(a) IAS17号「リース」の範囲に含まれるリース契約

 

(b) IFRS4号「保険契約」の範囲に含まれる保険契約

 

(c) IFRS9号「金融商品」、IFRS10号「連結財務諸表」、IFRS11号「共同支配の取決め」、IAS27号「個別財務諸表」及びIAS28号「関連会社及び共同支配企業に対する投資」の範囲に含まれる金融商品及び他の契約上の権利又は義務

 

(d) 顧客又は潜在的顧客への販売を容易にするための、同業他社との非貨幣性の交換。例えば、2つの石油会社の間で、異なる特定の場所における顧客からの需要を適時に満たすために石油の交換に合意する契約には、本基準は適用されない。

2015年4月22日 (水曜日)

463.【収益認識'14-04】“顧客との契約”~収益認識モデル

2015/4/22

金融庁は4/15に“IFRS適用レポート”を公表した1。これは同日開催された企業会計審議会第2回会計部会において金融庁から報告されたもの。2014/6/24に閣議決定された“『日本再興戦略』改訂2014”において、

 

「IFRSの任意適用企業がIFRS移行時の課題をどのように乗り越えたのか、また、移行によるメリットにどのようなものがあったのか、等について、実態調査・ヒアリングを行い、IFRSへの移行を検討している企業の参考とするため、『IFRS適用レポート(仮称)』として公表するなどの対応を進める」

 

とされたものを受けている。

 

僕は“監査対応”の部分などを読んだが、原則主義の解釈の仕方、監査人との意見相違など問題、その乗越え方などについて個別基準レベルの記載があり、大変面白かった。もし、まだお読みでない方は、欄外の脚注にリンクを貼ったので、ご覧いただけると良いと思う。

 

 

さて、このシリーズの前回(4604/14)は“キャッシュ・フロー”に着目した。本来、収益金額とキャッシュ・フロー金額は別もので、この基準でもそれはその通りだが、しかし、僕はこの基準で使われている“キャッシュ・フロー”という言葉に“測定基準”のような意味があるのではないかと感じた。従来の収益金額より、より回収されるキャッシュ・フローを強くイメージし、回収までのすべてのリスクを測定に織り込むというようなIASBの意思を感じたことを記載した。

 

今回は、IFRS15のタイトルにも付いている“顧客との契約”にこだわってみたい。「そんな“言葉”にこだわってどうするの? 文学作品でもないのに」という声も聞こえてきそうだが、僕には、IASBがこだわっているように思えるのだ。

 

そもそも、P/Lの一行目の“売上高”は、単なる収入ではない。企業が事業目的を遂行することで稼ぐ収入を計上する。不要になった固定資産の売却収入、損害をカバーするための保険収入などは計上されない。それらは顧客からの収入ではないためだ。IFRS15のタイトルは、“顧客”が経営の最上位にあること、そして、それを反映するかのように、P/Lも顧客からの収入を最上位に記載することを改めて思い起こさせる。

 

というのは僕の感想で、IASBがそういってるわけではない。では、どういってるかについて、今回と次回の2回に分けて、IFRS15の結論の根拠を見ていきたい。今回は“収益認識モデル”、即ち、IFRS15の根底にある認識(=いつ記帳するか=伝票日付)や測定(=いくらで記帳するか=伝票金額)の考え方に、“顧客との契約”がどのように関わっているかがテーマだ。

 

IFRS15の基準本体には“収益認識モデル”という言葉は出てこないが、結論の根拠には、“代替的な収益認識モデル”という言葉を使って、IFRS15で基準化されたものとは別のタイミングや金額で収益認識する方法を検討したことが記載されている。その“代替的な収益認識モデル”がなぜ採用されなかったかを考えることが、この基準の理解に役立つように思う。

 

 

まず、このIFRS15に採用された収益認識モデルと、代替的な収益認識モデルのそれぞれを代表する、そして、特徴づけるテクニカル・タームを紹介したい。

           
 

 

 
 

   IFRS15       ⇔ 代替的な収益認識モデル

 
 

認識

 
 

支配の移転、履行義務の充足   ⇔ 活動モデル

 
 

測定

 
 

配分後の顧客対価(=取引価格) ⇔ 現在出口価格

 

 

 

次に“認識”のテクニカル・タームから、代替的な収益認識モデルが採用されなかった理由について、“顧客との契約”がいかに深く関わっているかについて記載したい。

 

“認識”の“支配の移転”と“履行義務の充足”は、概ね同じことを表現していると思う(詳しくは、いずれ検討する)。一方、これらと“活動モデル”は異なっており、その最も重要な相違”は、「顧客との契約を前提としているか否か」だと考えられる。具体的に見てみよう。

 

A.“支配の移転”や“履行義務の充足”は、特定の顧客との契約(或いは約束)が前提にある。

 

“支配の移転”や“履行義務の充足”は、顧客に対する契約(や約束)の内容として存在するもの。財・サービスの提供企業側だけの状況や都合ではない。

 

例えば、検収基準は、“検収”が顧客との契約(や約束)を顧客が確認する手続なので、こちら側に属する考え方になると思われる。(但し、IFRS15は“検収”だけに焦点を当てておらず、顧客との契約(や約束)が成立するところから履行義務を把握・管理する点(=5つのステップ2)が、単純な検収基準とは異なる。)

 

B.“活動モデル”は、企業活動の進行状況によって収益を認識する。顧客との契約を意識する必要がない。

 

例えば、税法の出荷基準は“出荷”という企業活動にのみ焦点を当てるので、こちらに入ると思われる。また、費用の発生状況で収益実現の進捗を測る従来の進行基準もこちらに属する考え方と思われる。

 

IFRS15が A を採用した理由をIASBは次のように記載している(BC17)。

 

両審議会は、顧客との契約から生じる資産又は負債の認識及び測定と、契約の存続期間にわたる当該資産又は負債の変動に焦点を当てることで、利益稼得過程アプローチに規律がもたらされると判断した。したがって、従前の収益認識の要求事項の場合よりも、企業が収益をより整合的に認識する結果となる。

 

規律がもたらされる」とは、概ね、“不正防止に有効”という意味だろう。Aのような顧客との契約や約束を前提としたアプローチの方が、企業の活動だけに着目するより不正が行われにくいと両審議会(IASBとFASB)は考えたようだ。この結果、IFRS15は、受注活動の段階から補足することが求められる5つのステップ2が設けられた。恐らく、内部統制報告書制度へ対応している既存の上場企業にとっては、特別なことではないと思われる。逆に、IFRS15がCOSOフレームワークに歩調を合わせたともいえる。

 

また、純粋理論的には、顧客に対する“契約資産”(=対価を受取る権利)及び“契約負債”(=財・サービスを移転する義務)を認識するとしている。収益は、これらの資産・負債のネット・ポジションの変動によって認識される(あくまで理論的なものであり、実際にこのような会計処理は行われないが)。この考え方は、概念フレームワークの収益や費用の定義が、資産や負債の増減に伴うものとされているので、それと整合させる意味があると思う。

 

ただ、それだけでなく、収益の側については、実務的に次の点には注意する必要がありそうだ。

 

・顧客との契約がなければ(=受注前は)契約資産は生じない。即ち、収益は認識されない(BC19BC22)。

 

・受注時点では「契約資産=契約負債」からスタートする。即ち、受注時点で収益は認識されない(BC19)。

 

・収益は、企業が約束した財又はサービスを顧客に移転し、それにより契約における履行義務を充足した時にのみ認識する(BC20)。

 

そのタイミングで、契約資産が増加(又は、契約負債が減少)し、資産・負債のネット・ポジションが変動すると考えるため。これは、契約の有無に関係なく、企業活動の進捗によって収益を認識する活動モデルを否定することへ繋がる(BC23(a)など)。

 

一方、費用については、特定の顧客があろうがなかろうが使えば発生するため、別途規定があり3、それに従うことになる。顧客から回収可能なものなど一定のものは資産計上できる。日本の感覚とあまり変わらないようだ。いや、むしろ、緩いかも。という表現は宜しくない。これを“合理的”というのだろう。事実認定をしっかりやれることが鍵になりそうだ。(恐らく、これについても、後日、立ち寄ることになると思う。)

 

以上は、IASBが“顧客との契約”へこだわりを見せた部分だが、これらの他、“活動モデル”でなく A を採用した理由として、次の点も挙げている。

 

・多くの財務諸表利用者にとって直観に反する(BC23(b)

 

約束した財又はサービスを顧客が交換に受け取っていない時点で、企業が対価を収益として認識することになる。しかし、財務諸表の利用者はそのように考えない。

 

・従前の収益認識の要求事項及び実務の重大な変更となる(BC23(d)

 

IFRSでは、従来から、財の販売による収益の認識を、企業がその財の所有権を顧客に移転した時に要求していた。また、進行基準についても、“支配の移転”や“履行義務の充足”を基礎とする考え方で適用可能(…適用できる範囲は狭まると思うが)。

 

 

最後に、測定のテクニカル・タームについて。

 

契約資産及び契約負債を“現在出口価格”で測定すると、受注時点で見込み利益(又はその一部)が計上されることになり、受注時点で収益認識をしないとする(認識の)方針に反することになる(BC19BC25(a)など)。したがって、“現在出口価格”アプローチは採用しなかったとしている。

 

この場合の契約資産や契約負債の“現在出口価格”とは、例えば、受注金額や見積りコストをイメージしてみると良いと思う。また、IASBは、契約負債の“現在出口価格”は、観察不能で見積りやその検証も困難なことが多いとしている(BC25(c))。

 

なお、今回は“配分後の顧客対価”について触れないが、いずれ、検討することにしたい。しかし、“顧客対価”という表現からも分かる通り、これも“顧客のと契約”が前提になっていると思われる。

 

 

以上から、改めてIFRS15の収益認識モデルを考えてみると、その特徴は次のようになるのではないかと思う。

 

・“顧客との契約”を前提に考える。

・5つのステップを想定する。

 

この2つから導き出されたものが、IFRS15になっている。そう思われるほど、“顧客との契約”という言葉は重要な役割を果たしているように思う。

 

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1 IFRS適用レポートの公表について(金融庁HP)

 

(関連記事)

[データは語る]システム対応期間は1年4カ月、金融庁がIFRS適用企業の実態を調査ITpro 4/17

「IFRS適用レポート」の公表と日本の会計基準の今後(新日本監査法人 5/15

 

2 459.【収益認識'14-02】5つのステップ4/10)を参照。

 

 

3 IFRS15.9198

2015年4月19日 (日曜日)

462.【番外編】超絶 凄ワザ!「真球頂上決戦」はNHKの負け?

2015/4/28 真球対決の結果について記載した記事のリンクを最下部に追加。

 

2015/4/19

みなさんもお好きな方が多いかもしれない、NHKの番組「超絶 凄ワザ!」は、この4月から木曜の深夜から土曜のゴールデンへ放送時間が変更された。僕は、いつも楽しみにしている。この番組は、“モノづくり”の凄ワザを2組の企業や個人が競うというもので、しばしば対決を2回に分けて放送することがある。第一週目は対決種目の紹介と対決者それぞれの“凄ワザ”や、その“凄ワザ”でも簡単にはクリアできない対決種目の難しさを見せて終わり、その一週間後に苦難の課題解決過程と対決本番を放送する。この間、一週間は待ち遠しい。

 

さて、ゴールデン移行後の記念すべき第1回目の放送(4/11放送)は、真球、即ち、どれぐらいまん丸の球を作れるかを、ドイツの世界一のベアリング会社シェフラー社のハイテク工業技術と、日本の中小企業岡本光学加工所の職人技が競うという企画と、それぞれの“凄ワザ”の一端の紹介だった。そして、その一週間後の昨日(4/18)は、いよいよ、対決本番が放送されるはずだった。その対決方法は、30mもの長さの水平、真っ平ら、真っ直ぐな、温度や湿度による影響を受けにくい石を磨いて作った細い橋を、どこまで落ちずに転がれるかを競うという。試しにビリヤードの玉を転がしてみると5mで落ちてしまう。僕は、とても楽しみにしていたのだ。本当に30mも転がるのだろうか。それができるのはどちらだろうかと。

 

しかし、この放送は意外な形で延期された。地震などの災害や大事件が起こって番組が延期されたのではない。この番組は予定通り放送され、両者が苦難を突破して、歪みがナノレベルという、本当に精度の高い真球を作り上げたところまで紹介された。ドイツ・チームは日本の職人技に感動していた。そして、いよいよ、30mの細い橋を転がす場面まで来て、なんと、真球を転がす装置の不備で、苦労して製作した“真球”が1mほど下の床へ落下してしまったのだ。折角苦労して、歪みをナノレベルまで抑えた真球が1mも落下したら、その衝撃で精度が狂ってしまう。もはや対決はできない。だから、再対決をする、次回を乞うご期待、ということで番組が終わった。

 

僕はズッコケた。いや、元々寝転んで見ていたので、それ以上ズッコケることはなかったが、気持ちの中では階段をずり落ちたような感じがした。こんな展開はありだろうか? 実は、この番組は、清水エスパルスと名古屋グランパスの試合と放送時間が重なっていたので、録画で見た。その試合ですでにズッコケていた僕は(エスパルスが負けた。公式戦7連敗中)、それと重なって、かなり衝撃が大きかった。それに、ドイツ・チームは、この再対決のために、わざわざ再来日するのだという。

 

この対決、ドイツ・チームも、日本チームも、まだどちらも負けてはいない。でも、舞台装置を作ったNHKは負けだろう。転がす装置の不備は、両チームの“凄ワザ”に比べて見劣りがするし、どう考えてもありえない。しかしそれを番組として見せられると、また来週が待ち遠しくなる。どっちが成功するんだろう、願わくば日本の職人チームは成功してほしい、早く見たいと。さらには、今度は無事に転がせるかな?などと。するとNHKは負けてないのかもしれない。結局、来週の視聴者を確保しているのだから。

 

でも、反省はしてほしい。もう、これを繰返すことは許されない。NHKもエスパルスの監督も(-_-メ)

 

 

この対決の結果が気になる方は、下記をご参照いただきたい。

 

465.【収益認識'14-06】“顧客との契約”~契約 (真球対決は決着したが…)

2015年4月16日 (木曜日)

461.【番外編】AIIBのガバナンスとサブ・プライム危機(REUTERSの記事から)

2015/4/16

前回(4604/14)は、日本がAIIB(=アジア・インフラ投資銀行)の創設メンバーへ参加申請しなかったことについて僕の勝手な意見を記載した。今回紹介するREUTERSのコラムは、米国の共和党が、そもそも国際金融機関自体不要と主張していると、書いている(IMFも世界銀行も)。「なるほど、こういう意見もあるのか(賛成かどうかは別として)」という気になってきて、面白い。それに、AIIB問題の背景も分かってくる。

 

コラム:乱立する国際金融機関、「サブプライム危機」再来も REUTERS 4/9

 

以下にざっと要約するが、できれば、上記のリンクを辿って REUTESの記事を直接読んでいただきたい。ニュアンスが変わってくるだけでなく、僕が適当に省略した所に大事なことが書いてあるかもしれない。

 

サブプライム危機は次のような構図で発生したとしている。

 

金融機関の過当競争 + 収入以上の暮らしを求める消費者 ⇒ 破綻 

 

国際金融機関の乱立で、同じような構図が起こる。

 

国際金融機関の過当競争 + 独裁者が率いる貧しい国家 ⇒ 破綻

 

国際機関として、IMF(=国際通貨基金)、世界銀行に加え、中国主導のAIIB、シルクロード基金、新興5か国の新開発銀行が挙げられている(が、ADB(=アジア開発銀行)も当然含まれるだろう。確かに乱立状態になりそうだ)。過当競争は腐敗を生むとされている(サブプライムでは金融機関や格付け機関の融資基準や評価基準の杜撰な運用が批判されたし、独裁国家では政府が腐敗する)。

 

また、“収入以上の暮らしを求める消費者”と“独裁者が率いる貧しい国家”の共通点は“ガバナンスの悪さ”だ。即ち、次のような共通の構図がある。

 

金融機関の過当競争 + 債務者の悪いガバナンス ⇒ 腐敗 ⇒ 破綻

 

かねてから米国共和党はこのような主張で、米国はIMFや世界銀行から手を引くべきであるとして、IMF改革を遅らせてきた。IMF改革に必要な米議会の承認が棚上げされ続けている。しかし、その結果、国際的役割の拡大を求める中国が不満を溜め、皮肉にも、中国による国際金融機関構想のきっかけとなった。ということで、「(世界経済が新たな火種を抱えることになったが、)その責任は米国議会にある」と、このコラムの著者は主張している。

 

こういう議論を、中国も欧米諸国も当然知っているだろう。上記では、“ガバナンスの悪さ”を主に債務者の問題として記載したが、そういう債務者に金を貸す、或いは、過当競争を繰り広げる金融機関のガバナンスにも問題がある。

 

AIIBのガバナンスに米国(や日本)が冷ややかなのは、そして、AIIBADBの関係が補完的か競争的かが注目されるのは、こういう背景があるのだろうと思う。中国が、未参加の米国や日本の参加を、いまだに歓迎する理由も、多少、ここにありそうな気がする。金融機関のガバナンスが難しいことは、中国自身も体験している*1。中国も心配なのではないだろうか。

 

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*1 例えば、下記には中国大手行、中国銀行に係る不正なマネーロンダリングの疑惑が記載されている。

 

中国人民銀行、中国銀行の資金洗浄めぐる報道を確認中=新華社REUTERS 2014/7/11

 

この他、シャドー・バンキング絡みで、投資家にリスクの説明なしに信託商品を販売していた件など、みなさんも多くのニュースに接していると思う。国有商業銀行の監督でも難しい。国際機関はもっと腐敗しやすい。

 

2015年4月14日 (火曜日)

460.【収益認識'14-03】基準の目的:収益基準なのに“キャッシュ・フロー”

2015/4/14

最近何かと話題になる、AIIB(=中国が主導するアジアインフラ投資銀行)。どうやら、政府の対応について「乗り遅れた!」と「慌てるな!」という2つの主張があるようだが、みなさんはどちらを支持されるだろうか。これは難しい問題だが、かねてからこのブログでも書いてきたとおり、難しい時は“目的へ向かう”というのが僕の考え方だ。ということで、今回は、まず、IFRS15のの第1項から第4項までの“目的”について考えてみたい。その後で、AIIBについて僕の感じたことを書かせてもらおうと思うので、気になる方はそのままお読みいただきたい。

 

 

目的(1

 

本基準の目的は、顧客との契約から生じる収益及びキャッシュ・フローの性質、金額、時期及び不確実性に関する有用な情報を財務諸表利用者に報告するために、企業が適用しなければならない原則を定めることである。

 

この中で僕が注目したのは、収益と並んで“キャッシュ・フロー”の有用な情報を規定しようとしている部分だ。会計は発生主義なので、“収益”に関する情報提供を規定するのは分かる。それと“キャッシュ・フロー”を並べるのは、どんな意味があるのだろうか。という観点で“目的への合致”という小見出しが付いている第2項~第4項を読むと、収益の測定は“見積り”であることが分かる。

 

 (個別契約ごとに)

 

・収益は「いくら回収できるか」で測定する(2)⇒ 即ち、見積りが必要。

・契約の条件、関連するすべての事実状況を、一貫性をもって考慮せよ(3)⇒ 見積りの原則的な方針。

 

 (ポートフォリオで)

 

類似の契約をまとめて扱うことができる(4)⇒必然的に見積もりとなる。

 

というわけで、既に、ななめ読み(4584/7)の時点で、測定に手間がかかりそうな雰囲気を察知していたが、早速それが出てきたようだ。IFRS15では、単純に「数量×契約単価」で売上伝票を起票できないのか? ん~、それではあまりに手間がかかり過ぎるのではないか。

 

しかし、考えてみれば、現行の日本基準でも売上伝票は「数量×契約単価」で起票するが、関連する信用リスク、返品リスク、売上割戻し等は見積りを行う。その結果、売上から諸リスク額を控除した収益額は見積りとなる。そう、こんなやり方でも、一応、収益額は結果的に見積りだ。これは許されるのだろうか? もしかしたら、こういうやり方(=大量の売上伝票はそのまま計上し、回収に係る諸々のリスクを性質ごとに見積る方法)を“ポートフォリオ”と呼んでいるのだろうか?

 

おっと、ちょっと議論が横道に逸れてしまいそうだ。この問題にはいずれ戻ってこよう。今回のテーマは“手間”ではなく、なぜ“キャッシュ・フロー”が収益と並んで収益認識の基準の“目的”に記載されているかだった。

 

実は、このIFRS15の基準本体には、この問いに直接答えるような記述は見当たらなかった。結論の根拠も同様だ。但し、結論の根拠には若干のヒントがあった。それは、概念フレームワークの“一般財務報告の目的”にある文章と似た文章が記載されていたことだ1。それで分かったことは、次のことだ。

 

・財務諸表の利用者は、(正味の将来)キャッシュ・フローを適切に予測したいというニーズがあると考えられており、IFRSはそのニーズを満たすことを目指して、或いは、それを目的に開発されている。IFRS15も、当然その目的のために開発されている。だから、“キャッシュ・フロー”がこの基準の目的にも記載されている2

 

・収益額は“測定”によって“キャッシュ・フロー”へ変換される。その測定の方法は“見積り”となる(ので手間がかかる)。

 

・実務上の便宜のために、個別契約ごとでなく“ポートフォリオ”として扱う方法が用意されている(これによって、“キャッシュ・フロー”による開示コストを下げている)。

 

どうやら、“収益”のイメージを少し変える必要がありそうだ。キャッシュ・フロー計算書は、現金主義で現金の出入り(の実績)を示したものだが、損益計算書は、発生主義による現金の出入り(見積りになる)を示したものらしい。どちらも同じキャッシュ・フロー・ベースの計算書だが、認識規準が現金主義と発生主義で異なる。と同時に、発生主義をキャッシュ・フローとして測定することで、キャッシュ化するまでのリスクを網羅しようとする意味合いを強めているように思う。

 

 

さて、AIIB の目的はなんだろうか。或いは、AIIBへ参加する目的はなんだろうか。AIIBの目的がアジア諸国の人道的・民主的な経済振興であれば、日本がAIIBへ協力することは賛成だ。では、日本がAIIBへ参加する目的はなんだろうか。日本企業がアジア諸国の開発プロジェクトに参加しやすくするためか? それは無理だろう。

 

50%の議決権を持つ構想の中国は、拒否権を行使しないと宣言してヨーロッパ諸国を取込んだようだが、残り50%のうちアジア諸国で25%を持つべきと主張しており3、その中には中国の言いなりになる国が必ずあるので、というか、開発投資してもらうアジアの国々の多くは基本的に中国に従わざるえないだろう。だから、最初から拒否権など不要だ。

 

AIIBへ参加することの意味は、日本とヨーロッパ諸国では明らかに違う。アジアは、ヨーロッパ諸国にとっては隣のマンションのことだが、日本にとっては同じマンションのことだ。そのマンションのことを決めるのに、実質的に50%を超える議決権を中国に握られているのだから、参加するなら日本は肩身が狭いことを覚悟する必要がある。

 

加えて、AIIBの開発プロジェクトに日本企業を喰いこませたければ、AIIBへの出資以上に、両国の政治関係が重要になると思う。

 

中国は、台湾からのAIIB参加申請を拒んだ。理由は“チャイニーズ・タイペイ”という名称が気に入らなかったからだそうだ4。みなさんもご存じのとおり、中国は台湾を自国の一部と見ており、そのため、台湾は正式名称である“中華民国”という名称を国際的にはほとんど使用できない状況にある。そこで、中国の一部のように聞こえる“チャイニーズ・タイペイ”という名称を、国際スポーツ大会やADB(=アジア開発銀行)などで使用していたが、しかし、AIIBではその名称さえも許されなかった。

 

そういう中国に対して、実は、多くのアジア諸国は日本に牽制してくれることを期待していると思う。中国以外の選択肢が欲しいのではないかと思う。中国から見て良好な日中関係、即ち、日本が中国につき従うことを、期待しているわけではないと思う。恐らく、そうなってしまえば、アジア諸国の日本へ対する支持や期待感も低下してしまうだろう。結局、参加しても日本企業のメリットは多くならないのではないか。政治的に頭を低く下げない限り。

 

日本は、日米が主導するADBに不備があればそれを改善し、アジア諸国により良い選択肢を提供すべきではないだろうか。ADBAIIBが競争して、開発を希望するアジア諸国にとって、より良いインフラ開発が期待できる状況を実現することが、日本の役割であり、日本の利益になるのではないかと思う。“目的”から考えると、そういうことになると思う。

 

 

別に、中国と喧嘩したいわけではない。しかし、頑張るところで頑張らないと目的が歪められ、その代償は非常に大きなものになると思う。中国とは、隣人だからこそ、良い、悪いをはっきりさせながら、紆余曲折を覚悟して長い目で付き合っていく必要があると思う。会計基準においても、最初から“収益もキャッシュ・フローで”と意識しておかないと、後戻りする羽目になるかもしれない。とにかく、“目的”が重要だと思う。

 

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1 IFRS15.BC484には、次のように記載されている。

 

さらに、IFRS15号は包括的な開示要求を提供しており、財務諸表で報告される収益に関する情報を大きく改善するはずである(BC327項からBC361項参照)。具体的には、収益に関する情報が、企業の顧客との契約及び当該契約から生じる収益を財務諸表利用者がより適切に理解できるようになり、キャッシュ・フローをより適切に予測できるようになる。また、この情報は、財務諸表利用者がより十分な情報に基づいた経済的意思決定を行うことにも役立つはずである。両審議会は、これらの改善は作成者にとってのIFRS15号の適用のコストを増加させるかもしれないことを承知していた。しかし、両審議会は、これらのコストは、財務諸表利用者にとって企業の業績及び見通しの分析及び理解に非常に重要な領域における財務報告の有用性を改善するために必要であると結論を下した。

 

一方、概念フレームワークの“一般財務報告の目的(OB3)”には、次のような文章がある。

 

現在の及び潜在的な投資者による、資本性及び負債性金融商品の売買又は保有に関する意思決定は、当該金融商品への投資から彼らが期待するリターン(例えば、配当、元利支払又は市場価格の上昇)に左右される。同様に、現在の及び潜在的な融資者及び他の債権者による、貸付金及び他の形態の信用の供与又は決済に関する意思決定は、彼らが期待する元利支払又は他のリターンに左右される。投資者、融資者及び他の債権者のリターンに関する期待は、企業への将来の正味キャッシュ・インフローの金額、時期及び不確実性(見通し)に関する彼らの評価に左右される。したがって、現在の及び潜在的な投資者、融資者及び他の債権者は、企業への将来の正味キャッシュ・インフローの見通しを評価するのに役立つ情報を必要としている。

 

IFRS15.BC484では、「財務諸表利用者が(企業の)キャッシュ・フローを予測する」としているが、概念フレームワークのOB3では、「財務諸表利用者が、正味キャッシュ・インフローの見通しを評価する」としている。表現に若干に違いはあるが、共通しているのは「財務諸表の利用者が見たいのは“キャッシュ・フロー”の予測や見通しの評価に役立つ情報」という部分だ。“収益”は、単にそれが開示されればよいということではなく、“キャッシュ・フロー”の予測や見通しの評価に役立つ情報としての収益でなければ、開示する価値がないということだろう。

 

2 ちなみに、昨年公表されたIFRS9号の改定版も、“目的(1.1)”のところに次のように“キャッシュ・フロー”が記載されている。恐らく、最近開発された基準の“目的”には、“キャッシュ・フロー”が付きものになっているのだろう。

 

本基準の目的は、財務諸表の利用者が、将来キャッシュ・フローの金額、時期及び不確実性を評価するにあたって、目的適合性のある有用な情報を表示する金融資産及び金融負債の財務報告に関する原則を確立することである。

 

ところが、現行の収益基準“IAS18”にも“目的”はあるが、そこに“キャッシュ・フロー”は出てこない。文章の内容も、力点を置いているところが全然違っている。下記の通り、IAS18の目的は“認識”に力点を置いているが、本文にあるようにIFRS15の目的はより“測定”に力点を置いている。

 

「財務諸表の作成及び表示に関するフレームワーク」において,広義の収益は会計期間中の資産の流入若しくは増価又は負債の減少の形をとる経済的便益の増加であり,持分参加者からの拠出に関連するもの以外の持分の増加を生じさせるものとして定義されている。広義の収益には,収益と利得の両方が含まれる。収益は,企業の通常の活動の過程において発生し,売上,報酬,利息,配当及びロイヤルティを含むさまざまな名称で呼ばれるものである。本基準の目的は,ある種の取引及び事象から生じる収益に関する会計処理を定めることである。

収益に関する会計上の主要な論点は,いつその収益を認識するかを決定することである。収益は,将来の経済的便益が企業に流入する可能性が高く,これらの便益を,信頼性をもって測定できるときに認識される。本基準は,これらの規準が満たされ,それによって収益が認識される状況を明らかにする。本基準はまた,これらの規準を適用するうえでの実務指針を提供する。

 

3 AIIB設立要綱、理事会設置で実質合意=国際金融筋 REUTERS 4/12

 

4 中国、台湾のAIIB参加申請を拒否WSJ 4/13有料記事

2015年4月10日 (金曜日)

459.【収益認識'14-02】5つのステップ

2015/4/10

この数日、寒くて暗い憂鬱な天気が続き、花見の華やいだ気分も遠い出来事のように感じられる。しかし、FC東京の武藤嘉紀選手に来たオファーは、そんな雨雲や冷気を吹き飛ばし、一気に夏の到来を予感させる凄いニュースだった。なんと、イングランド・プレミアリーグ、モウリーニョ監督のチェルシーから正式なオファーが来たという1。まだ本人はどうするか決めていないようだが、もし、挑戦するとなれば、この夏以降が本当に楽しみだ。でも、武藤君は英語、大丈夫だろうか?

 

 

さて、今回はIFRS15の2回目。前回はななめ読みだったから、今回が詳細項目の第1回目となる。そのテーマは“5つのステップ”だ。今回は、これを受注販売業の業務と比較しながら、各ステップのイメージを高めていきたいと思う。

 

前回(4584/7)は、これについて次のように記載した。

 

このステップを実務に当てはめてみると、受注活動においてステップ1(=顧客との契約の識別)が識別され、ステップ24(=履行義務の識別、取引価格の算定、取引価格の履行義務への配分)が提案書になり、受注した段階で概ね確定し、受注マスタ登録される。ステップ5(=履行義務の充足)が売上計上のタイミング(=受注マスタから売上マスタを登録)となる。概ね、小売業以外の一般的な販売取引に沿ったステップだ。

 

今回はこれをもう少し深掘りしたい。会計基準上のステップが、企業のどんな業務とどのように関わるのかのイメージを持ちたいのだ。そのために、まず、前回“小売業以外の”と書いた小売業から始めたい。

 

(小売業)

 

みなさんは既にお分かりのように、小売業には受注プロセスがない。もちろん、店頭にない商品を取り寄せる場合や、楽天市場のようなネットショップには受注プロセスがある。居酒屋さんにもある。しかし、デパートやスーパーなどの、展示してある商品をそのまま販売するスタイルの典型的な小売業では、受注プロセスがない。

 

受注プロセスがないとステップ24 がなく、顧客がレジへ商品を持ち込んだ時に、ステップ1とステップ5が同時に発生して終わる。IFRS15では、ステップを適用して収益を認識する旨記載がある2が、適用できないステップがあるということは、IFRS15を適用できないということだろうか。即ち、小売業はIFRS15の適用対象外だろうか。

 

基準本体では、小売業のこの疑問に関する記載は一切ない。では、書いてないから適用できない? いや、そうではない。原則主義なので、書いてなくても基準の趣旨に合っていれば適用する。例えば、基準本体に記載はないが、結論の根拠には、かろうじて次のような記載はある。

 

包括的な枠組みを提供することによって、顧客との契約から生じる収益を報告する際のIFRS第15号の最も重大な影響の1つは、経済的に類似した取引の会計処理の整合性が高まることである。・・・単純明快な小売取引などの他の契約にとってはIFRS第15号の影響は(あるとしても)ほとんどないであろう。IFRS15.BC462

 

この段落は、IFRS15という収益認識の包括的な基準の適用が、企業の業務や開示に与える影響について記載しているが、そこで、小売業についても適用を前提とした記述がされている。仮に、このような記述がなかったとしても、原則主義なのだから、“顧客との契約から生じる収益認識”に該当する取引であれば、IFRS15の趣旨を生かして適用することになる。

 

要は、小売業については、ステップ24に関する業務は省略可。但し、レシートには買い物明細が明示されるので、ステップ24は、企業に業務として意識されないだけで、実際にはちょっと違った形で存在しているのかもしれない。それはちょうど、サッカーで相手キーパーから直接ボールを奪ってゴールを決めるようなもので、本来なら自陣からビルドアップして、相手ディフェンダーを攪乱して…、というプロセスが省略されている。しかし、ゴールはゴールだ。

 

決して小売業が、このゴールのようにラッキーな商売と言ってるわけではない。こんなゴールを決められる選手は、例えば、日本代表の岡崎慎司選手のような特定の選手に限られる。相手キーパーの心理と行動を読んだり、油断させたり、チャンスを逃さない抜け目なさ、貪欲さといった特殊な能力・性質を備えている。小売業も、顧客に来店させ、短時間で(多くの場合、自発的に)購入を決めさせるという特殊な能力が必要で、そのためにステップ24が顧客が来店する前に準備されているのかもしれない。通常であればステップ24は、顧客の顔を見ながら、或いは、思い浮かべながら行われるもののように思うが、小売業はそうではない。そこが特別なスキルだ。

 

(営業部門)

 

一般的な販売活動は、企業が提供する財・サービスの顧客を探すところから始まる。見込み顧客が見つかると、① 企業自身の信頼を得る、② 提供する財・サービスの内容を顧客のニーズに合うよう調整する(或いは、開発する)、③ 価格を相談する、③ 顧客と合意する(=受注の確定)、と進む。

 

この一連の活動は、いわゆる営業部門の業務で、営業部門としては受注の確定を持って業務を終える感覚を持つことが多い。しかし、顧客にとって営業部門はその企業の顔なので、財・サービスの提供や代金の回収など、営業部門が直接担当しないプロセスにまで、その企業が顧客と関わり続ける限り、営業部門の仕事は続く。それが、次の受注にも繋がっていく。結局、営業部門は、顧客からすべての責任を果たすよう求められるし、そのように頼られる存在にならなければならない。

 

そのために、

 

・顧客のニーズを明確に理解し、顧客と確認し合う。

・財・サービスの提供を行う部門に顧客のニーズ・約束を明確に伝達し、

 必要に応じて実行をモニタリングする。

・対価の回収を行う部門に必要な情報を提供する。

・企業の財・サービスに関する顧客の評価を入手する。

・一連の業務の経過・成果をマネジメントへ報告する。

 

営業部門は大変なのだ。この大変な業務を効率的・効果的に行うために、情報伝達の内容やタイミング及びその方法が整理され、システム化される。そして、そこにIFRS15は目を付けてステップを設定した。みなさんもお分かりの通り、特にステップ14は、この一連の活動で生み出される情報を利用するものとなっている。具体的にどのように利用するか。

 

(ステップ1:顧客との契約の識別)

 

実態のある契約を網羅的に識別するには、契約に至るプロセスの情報やそのデータベースに基づくことが重要となる。上記で見るように、営業部門としては受注・成約までが最も精力をつぎ込むプロセスなので、見込み顧客と、それに対する営業内容の情報は、どのような形であれ、必ず存在する。ただ、それが担当者以外にも利用可能な形、検証可能な形で整理されているかどうかがポイントとなる。

 

個別の営業活動なしに、繰返し受注を受けられるような取引の場合は、顧客から受けた注文の最初の受取り情報(例えば、FAXによる受注であればそのFAX、電話による受注であればメモ、電子受注であればそのデータ)の管理がポイントになる。また、顧客訪問時に顧客の生産計画など、凡その受注予想ができる情報を入手する場合は、その情報からその企業の発注や生産計画が行われるので、その情報の利用と管理がポイントになる。

 

(ステップ24:履行義務の識別、取引価格の算定、取引価格の履行義務への配分)

 

履行義務の正確・詳細な検討は後日に譲るとして、とりあえずここでは、履行義務を“提案項目”と理解しておこう。したがって、履行義務は提案書にその情報がある。ステップ24のポイントは提案書の管理だ(直接には最終の提案書や契約書の情報の保存・管理だが、それが作成される過程も大事)。

 

ステップ3は、提案書の価格条件に焦点を当てている。固定価格なら問題ないが、数量リベートのように条件で単価が変わるものについては、最終的に顧客からいくら回収できるかについて見積りが必要になる。数量リベートであれば、顧客がどの程度条件をクリアできるかを見積らなければならない。

 

提案の内容が複数の財・サービスに関するものか、それともそれらは一連の流れにあるものかで、ステップ4が変わってくる。一連の流れにあるものであれば、提案書記載の金額で、ステップ4をクリアできるが、個々にが独立性のある財・サービスを提供する提案(=複数の履行義務を含む提案)であれば、それぞれの内訳について価格を決めなければならない(これを“配分”と呼んでいる)。

 

顧客から提案書の明細(=履行義務)ごとの単価・金額が欲しい、と求められてそのレベルで単価や金額の合意がある場合は良いが、顧客が明細を求めない場合、或いは、明細金額を提案書に含めないでほしいと要請された場合は、一定の客観的なルールで契約の対価を明細単位に配分する必要がある。これがステップ4だ。

 

これら、ステップ24は、提供する財・サービスに見合った対価を回収できるかどうかを評価することになるから、企業の経営成績(=採算性)に重要な影響を与える。また、例えば総額100億円の複数年度にまたがる提案書がある場合、各履行義務がどの年度で充足されるかで、それぞれの期間損益が大きく変わってくる。事業計画や予算作成に与える影響が大きいし、もちろん、実績管理にとっても重要な情報となる。

 

「過去に受注した大型工事の採算が悪いため、当期の業績が悪化した」などという決算説明は、それほど珍しいものではない。ステップ24は、そういう業績管理活動と直結している。

 

(財・サービスの提供)

 

営業部門が顧客に約束したことを、製造部門や工事部門などが実行する(=履行義務を充足する)と、顧客から支払を受けられるようになる。そこで収益を認識する(=売上伝票を起票する)。従来の会計基準はこの部分にのみ着目していた。一方IFRS15は、上記のように、ここに至る一連のプロセス全体に着目することで、様々なビジネスモデルに対応できる包括的な基準になった。とはいえ、やはり、売上計上という会計行為を直接規定するこのステップ5は重要だ。具体的には次の項目を規定している。

 

・どういう状況で収益実現と考えるか(≒検収基準の内容)

・完了基準と進行基準の使い分け

・進行基準の進捗度の測定方法

 

履行義務を単位として売上計上する場合は完了基準で、1つの履行義務を徐々に売上計上する場合は進行基準。これをIFRS15は、次のように記載している。

 

履行義務は、一時点で充足される場合(顧客に財を移転する約束の場合に一般的)もあれば、一定の期間にわたり充足される場合(顧客にサービスを移転する約束の場合に一般的)もある。IFRS15.IN7(e)

 

 

さて、以上で、IFRS15の5つのステップを企業の経営活動と関連付けられるように概略してきたが、最後にステップ5に関連して、一つ、余分な感想を。

 

営業部門が築き上げてきた企業の信用は、約束が実行されることで一つの区切りを迎える。顧客が満足すれば本物の信用になるが、不満足な結果に終われば損なわれる。顧客が満足して対価を支払うか、渋々支払うかの違いは大きい。しかし、どちらにしても売上は計上されるので、残念ながら財務情報だけでは、企業が顧客を満足させる価値を生み出しているかどうかを判断することはできない。これはIFRS15でも、同じだ。

 

会計に携わる者としては悲しい現実だが、このような“事業継続価値”は自己創出のれんなので、現行の会計の対象外だ。今後の会計理論の進歩、或いは、統合報告など会計以外の企業情報開示制度の進化に期待するしかない。(が、それは遠い将来の話なので、とりあえずは武藤選手の活躍を期待したい。)

 

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1  「チェルシーからFC東京の武藤に正式オファー 」日経電子版 4/9 無料記事

武藤 チェルシーから正式オファー!今夏獲得へ移籍金7億円提示YAHOO! ニュース など多数。

 

2 基準の正確な表現は次の通り(IFRS15.IN7)。

 

・・・企業は、以下のステップを適用することにより、この中心となる原則に従って収益を認識する。

 

 この次に、5つのステップの説明が続く。

 

2015年4月 7日 (火曜日)

458.【収益認識'14-01】IFRS15 をななめ読み!

2015/4/7

いよいよ、待ちに待った、IFRS15「顧客との契約から生じる収益」のシリーズに入ることができる。先月、日本語訳が公表されたのだ。まるで4年に一度のW杯やオリンピックの開幕を迎えるような昂揚感だ(大袈裟だが、半分ぐらいは本当の気持ち)。

 

この基準はP/Lの一番最初の行に関する会計基準であり、P/Lの他の部分の会計基準も、これと整合するよう定められる。また複式簿記なので、B/Sの会計基準にも影響する。まさに、“会計基準の中の会計基準”といえるかもしれない。(但し、IFRSは資産の定義が最も基礎にあるので、日本基準に慣れている我々が思うほどではないかもしれない。ちょうど、男子サッカーではW杯が最高峰の大会だが、女子サッカーではオリンピックの方が格上のような感じだ。まあ、そうはいっても、大事は大事、重要な会計基準だ。)

 

ということで、これについてもシリーズものになるが、まずは、全体像をつかむため、“ななめ読み”をしてみたい。このブログではすでに、“ソフトウェア開発企業の進行基準”に焦点を当てて、'11ED(=2011/6公表の公開草案)について検討した1。それは、僕が、進行基準の経営管理的な側面を高く評価していたからだ(=業務の進行状況を組織的に把握・管理することが、企業のサービス品質の向上にとても重要と考えていた)。しかし、その検討時、「重要なのは進行基準だけではないようだ」と感じた。そこで、どこにポイントを置くべきか、最初に意識したい。

 

“ななめ読み”といっても、設例や結論の根拠を含めて数百ページのこの基準を“速読”する能力は僕にはない。その代り、目次をじっくり眺めることから始めるのが僕のやり方だ(これは高校時代から)。目次に顕われる体系をイメージしたり、特定のテクニカル・タームの重要性、一番大事になりそうな考え方の記載場所などを感じ取る。(この技は、ブルース・リーの有名なセリフ「考えるな、感じろ(Don't think. Feel!)」2 に近い、と僕は勝手に解釈している。)

 

今回は、その結果のみをここに簡潔に記載したい。理由やプロセスも書きたいと思ったが、何しろ、これは“感じ取る”という論理的思考を超越した技なので、残念ながら説明は困難で、とても書けそうもない。

 

などと書ければかっこいいなあ、と思ったが、実際には理由やプロセスがあるので合わせて記載する。(やはり、“Feel!”というブルース・リーの域には達していないようだ。) そのため、項目を羅列した、ちょっとまとまりのない記載になるが、お許し願いたい。

 

 

(個別に読んだ規定)

 

本来なら目次から読みたいが、そもそも内容に対する理解が全然不足している場合は、目次をいくら睨んでも何も思い浮かばないことが多い。なにも Feel できない。そういう場合、目次の前に(或いは、目次の中から)全体の概要を記載してありそうなところを探して、そこに目を通してみると良いことが多い。IFRSの場合、冒頭に段落番号に“IN”が付いた文章があるが、まさにこれが概要を記したものだ。よって、そこから始めることにする。

 

IN”から始まる段落の理解(IN1IN9

 

どの基準でも同じだが、最初の“IN”から始まる段落は読んだ方が良い。基準の概要や特徴が記載されている。

 

A. IFRS15では、次の点について注目した。

 

 次のステップを適用することが求められている。(IN7

 

1.顧客との契約の識別  2.履行義務の識別  3.取引価格の算定  4.取引価格の履行義務への配分  5.履行義務の充足

 

 “収益に関する規定”と思ったら、次のように書いてあった。(IN8

 

収益だけでなく、キャッシュフローについての性質、金額、時期及び不確実性に関する包括的な情報を提供する。3

 

 この基準はFASB(=米国財務会計基準審議会)との共同プロジェクトで、両基準はほぼ同一のものとなった。(IN9

 

“目的”(14)の理解

 

B. “目的”は、どんなときにも絶対に大事なので、僕は必ず読む。すると、上記の A.②のキャッシュフローが、ここにも記載されていた4。これは重要な発見だ。今の段階では、IFRS15においてキャッシュフローがどの程度重要な役割を果たすかは不明だが、それは今後の課題とする(単に、貸倒引当金もこの基準で扱うというだけかもしれないし、もっと大きな意味があるかもしれない)。

 

C. 2段落からは、測定(=金額の決定)に分かりにくい表現5が使用されていることが確認できた。このことから、測定は手間がかかりそうなことが予想できる(理解するのも、そして実務でも)。

 

D. 4段落では、“類似する契約のポートフォリオ”を一つの契約であるかのように扱える“実務上の便法”が容認されることが記載されている。“実務上の便法”が、“目的”ところに記載されるなんて、余程重要なことに違いない。但し、この便法を利用できる条件が見慣れない表現6になっているので、もしかしたら、その条件の内容こそが重要なのかもしれない。今の段階ではどちらかは分からない。

 

“範囲”(58)への違和感

 

“範囲”には、普通は他の基準との境界線が記載されている。ここに「なぜこの基準が出てくる?」などといった違和感を感じたら、そこには何かある。IFRS15で僕が感じたのは、以下の箇所。

 

E. 「“顧客又は潜在的顧客への販売を容易にするための、同業他社との非貨幣性の交換”が適用外(石油会社のケースが代表例)」とされている(5(d))。売上を膨らます目的で同業者間で売上・仕入を立てあうケースを指すのだろうか。しかし、それなら“非貨幣性の交換”に限定して良いのか、といった疑問が浮かぶ。結論の根拠にも関連記載がある。これも検討課題として認識する。

 

 

(目次から感じたこと)

 

以上を踏まえて、いよいよ目次に向かう。

 

目次は、A①のステップとよく似ていることが分かる(1.顧客との契約の識別  2.履行義務の識別  3.取引価格の算定  4.取引価格の履行義務への配分  5.履行義務の充足)。これは大きな発見だ。これで、A①のステップがこの基準の骨組みになっていることが確認できた。

 

このステップを実務に当てはめてみると、受注活動においてステップ1が識別され、ステップ24が提案書になり、受注した段階で概ね確定し、受注マスタ登録される。ステップ5が売上計上のタイミング(=受注マスタから売上マスタを登録)となる。概ね、小売業以外の一般的な販売取引に沿ったステップだ。

 

ただ、目次ではステップ5の“履行義務の充足”が、ステップ2の次に来ている。これは、会計理論上、ステップ125が収益の“認識”に関するものであるのに対し、ステップ34が“測定”に関するものであるからだ。この順番の入れ替わりには、特に違和感は感じない。

 

F. ステップ1の“顧客との契約の識別”には、契約の“識別”、“結合”、“変更”という3つの項目がある。このうち、“識別”にこの項目の原則が書かれており、他の“結合”、“変更”が恐らく例外的な取扱いだろうと推察できる。“変更”はイメージできるが、“結合”とは何だろうか。そして“解消・解約”はないのだろうか。これらを注目してみたい。

 

G. ステップ2の“履行義務の識別”の“履行義務”とは、この基準の開発過程で初めて出てきた用語なので注目だ。

 

H. ステップ34の“測定”は、ページ数が多く割かれている。恐らく、内容が複雑なのだろう。これも注意しておこう。理解に苦労するかもしれない。もちろん、実務にも。

 

I. ステップとは関係のない“契約コスト”という項目がある。これは“契約獲得の増分コスト”と“契約履行コスト”の2つに分かれているが、どちらも意味するところは想像がつく。この基準は収益認識だけでなく、収益に直接対応する原価に関する基準でもあるということだ。費用を売上原価と販管費に区別する基準を示しているのだろう。これも注目だ。

 

J. あとは、表示と開示の項目が続く。これらについては、どのように上記Bの目的4が果たされるような表示・開示になっているか、について注目しながら見ていくことにしよう。キャッシュフローがどのように扱われているかが特に注目だ。

 

改めて、目次のページ数に注目する。どんな項目に多くのページを割いているかは重要な情報だ。多くを割いている項目は、重要であるか、複雑であるか、或いは、多くの場合その両方だ。上記で“測定”に関しては認識したが、他にもあるだろうか。

 

基準本体では特に見当たらないが、結論の根拠では次の項目のページ数が多そうだった。

 

・進行基準(BC124BC180

・収益の測定(BC181BC265

・履行義務への取引価格の配分(BC266BC293

 

K. 進行基準が異常に多い。やはり今回もこれは外せない。

 

さらに、設例ではどうだろうか。設例は異常に多い。63個もある。原則主義といえども、企業は色々なビジネスを行っているので、原則一本ではなかなか網羅しきれないのだろうか。なかでも目に付いたのは、次の項目だった。

 

L. “本人か代理人かの検討”

 

これは、設例が4つあるが、その数でいえば特に多いというわけではない。しかし、基準の目次に対応する項目が見当たらないし、日本の従来の会計基準では、おろそかにされていた“売上金額の全額表示か、純額表示か”に相当する部分なので、気になる分野だ。これにも注目だ。

 

M. “製品保証”、“追加的な財またはサービスに対する顧客のオプション”

 

これらは、日本では製品保証引当金とか、ポイント引当金などといった引当金で主に対応されていたものと思う。日本にはあまり明確な基準がなかったものだ。これも気になるので注目だ。

 

N. “返金不能の前払い報酬”、“ライセンス供与”

 

これらは、個人的に興味がある。実は、監査人だったころに少なからず苦しめられた経験があると思われる項目だ。果たしてどうなったのだろう。興味津々だ。

 

O. さて最後に、原則主義のIFRSなので、このIFRS15を代表しそうな原則を取上げよう。それはステップ5 の“履行義務の充足”を決定する原則だろう。日本でいえば“検収基準”といったものに当たる。これは深掘りする必要があると思う。

 

 

以上で、“ななめ読み”は終了だ。さて、みなさんは“Feel!”されただろうか。

 

今後、これらの注目点や検討課題を中心にIFRS15を読み進めていくことになる。AO の15個のポイントをリストアップしたが、ダブっているものもあるので実際にはもう少し少ないと思うが、追加されるものもあるかもしれない。最後までお付き合いいただけるとありがたい。

 

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1 (C04)収益認識」のページに、そのシリーズの一覧がある。2012/4/215/31まで続いた。

 

2 参考までに、このブルース・リーのセリフは、次のHPで詳細が分かるので紹介する。

 

考えるな、感じろ(考えるな、感じるんだ)」(タネタン)

 

3 正確には次のような表現になっている。

 

IFRS第15号は、顧客との契約から生じる収益及びキャッシュ・フローの性質、金額、時期及び不確実性に関する包括的な情報を企業が財務諸表利用者に提供することとなる一体性のある開示要求のセットも含んでいる。

 

4 この基準の目的(1)は、次のように記載されており、ここにもキャッシュフローが出てくる。

 

本基準の目的は、顧客との契約から生じる収益及びキャッシュ・フローの性質、金額、時期及び不確実性に関する有用な情報を財務諸表利用者に報告するために、企業が適用しなければならない原則を定めることである。

 

5 具体的には次の通り。背景色を付けた部分が、金額の決定に関する箇所で、分かりにくい表現になっている。

 

第1項の目的達成のため、本基準の中心となる原則は、企業が収益の認識を、約束した財又はサービスの顧客への移転を当該財又はサービスと交換に企業が権利を得ると見込んでいる対価を反映する金額で描写するように行わなければならないというものである。

 

日本語で分かりにくい文章は、恐らく、英語でも分かりにくい。英語でも分かりにくいということは、何か難しいことを表現しようとしているに違いない。だから、分かりにくい表現に注意する。

 

6 正確な表現は次の通り。

 

本基準を当該ポートフォリオの中の個々の契約(又は履行義務)に適用する場合と比較して重要性のある相違を生じないであろうと企業が合理的に見込んでいること

 

これは、条件の付け方として新しいパターンではないかと思われる。しかも、非常に応用範囲が広そうだ。これからよく見かけるようになるかもしれない。これの意味するところは、「企業に不正の意図がない」

ということだと思うが、“合理的に見込む”ということがどういうことを意味するのかは考える必要がありそうだ。企業に具体的な挙証責任があるのだろうか(=予め、相違に重要性がないことを企業が検証・立証する必要があるのか)、という点が気になる。

 

2015年4月 4日 (土曜日)

457.【投資】歯痛耐性とリスク耐性

2015/4/6 米株式市場は月曜まで4連休と書いてあるが、これは間違いで、月曜(4/6)は開かれるようだ。

 

2015/4/4

虫歯の痛みに参っている。もちろん、治療をしているのだが、僕が通っている歯医者は人気があるらしく、次の予約が2週間先になる。その間、ときどき、ズキズキ痛んでくる。これが夜に多い。このところ歯の健診を定期的に受けていたためか虫歯はなく、実は、歯の治療は10年ぶりだ。しかし、「10年前もこんなに痛かったのだろうか?」と思うぐらい痛い。

 

僕は薬を飲むのが嫌いで、基本的には痛くても我慢する。しかし、今回は鎮痛剤を飲んだ。最初は、10年前に処方されていたが飲んでいなかった鎮痛剤を、そして、それが足りなくなり、新しく処方してもらって飲んでいる。

 

と、ここまで書いてようやく思い出してきた。10年前もすごく痛かったのだ。それで歯医者で痛みを訴えたら、鎮痛剤を処方してくれたのだ。(ただ、実際には我慢して、ほとんど飲んでいなかった。)

 

ん~、どうやら僕は痛い思いをしても、忘れてしまう性質らしい。

 

ところで、10年ぶりといえば、20年ぶりの記録更新を続けているものがある。毎月公表される米国雇用統計の労働者数1の連続増加記録だ2。「雇用統計ってなに? 唐突な!」と思われたと思う。しかし、投資をやる人には、これが重要だ。発表されるたびに相場が大きく動くので、毎月、まるで大晦日のカウントダウンのような、お祭り騒ぎになっている。

 

なぜ米国の雇用統計が相場を動かすのか? 知っている人には当たり前だが、そうでない人もいると思うので簡単に説明したい。

 

米雇用統計が重要な理由は3つある。

 

一つは、米国の中央銀行である FRB が、日銀のように物価の安定だけでなく、雇用最大化も(法的な)使命にしているからだ(=デュアル・マンデート)。FRB FOMC(=連邦公開市場委員会)を開催して金融政策を決定するので、FRB の決定は米国経済に大きな影響を与える。もちろん、株式市場や外国為替市場にも3

 

二つ目は、より単純で、投資家にとっても雇用情勢が、米国経済の良し悪しを判断する重要な指標になるからだ4

 

そして最後は、FRB の金融政策や米国投資家の判断・投資行動が、世界の株式や通貨市場へ大きな影響を与えることだ5。もちろん、日本の株式市場にも。

 

基本的には「株価は、雇用統計が良ければ上昇、悪ければ下落」となる。しかし、いつもこうなるとは限らない。そこが面白いところだ6。要するに雇用統計には、株価にとってプラスとマイナスの両面があり、上昇することもあれば下落することもある。かなり気まぐれなのだ。

 

ところで、昨夜公表された雇用統計は、久しぶりに悪い内容だった。しかも極端に。したがって、基本的には株価にはマイナスのはずだ。雇用統計は米国の株式市場が開く1時間前に公表されるので、通常なら、どちらに反応するかを1時間後に確認することができる。しかし、今回に限ってはイースター(=復活祭)の休日で、月曜まで米国株式市場は4連休だ。う~ん、これは気になる。どちらに動くだろうか。

 

一方、外国為替市場は開いていて、円高、ユーロ高、即ち、ドル安に大きく動いた。月曜の日本の株式市場は、きっと大きく下げるだろう。しかし、それは仮の姿であり、日本時間の火曜の夜に米国市場が始まるまでは、いや、火曜の米国市場が引けて、水曜の日本市場が始まるまで、本当の流れは分からない。月曜、火曜と日本の株価が下落する間、不安を抱えたまま僕は耐えて行けるだろうか。それとも、不安に負けて持ち株を売却してしまうだろうか。いや逆に、企業業績は良いはずだから、水曜には上がる、水曜に上がらなくても、その翌週には上がると考えて、下がったところを買い増すだろうか。

 

このように、相場の下落に慌てず辛抱強く耐える能力を“リスク耐性”と呼ぶらしい。いや、もう少し正確に書くと、「目の前の悪いニュースに惑わされず、冷静に状況を判断できる能力」と表現した方が良いのかもしれない。投資では、これこそが一番重要な資質・能力だそうだ。

 

目の前の歯痛に堪えきれず鎮痛剤を飲むようになった僕に、果たしてこの能力があるかどうか。痛い目にあったことをすぐ忘れてしまえる能力はあるのだが(⇒失敗を繰り返すタイプ)。

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1 正確には、米労働省労働統計局が発表する非農業部門就労者数で、Non-farm Payroll や、これを略して NFP などとも呼ばれている。通常、第一金曜日の米国の株式市場が開く1時間前(米国が夏時間なら、日本時間の夜9時半。冬時間なら、日本時間の夜10時半)に公表される。

 

2 改善続く米雇用統計の今後の見通しは? 消費は伸びるが投資減速YAHOO!ニュースBUSINESS 2/11 には、「1月は昨年12月よりも増加幅は縮小したが、雇用回復の目安とされる20万人は11カ月連続で上回った。10か月以上連続で上回るのは、19939月から19953月までの19カ月連続以来である。」とある。2月も20万人を上回ったので、12カ月連続となっていた。但し、昨夜公表された3月分の統計では、12万6千人と大幅に20万人を割り込んだ。

 

3 雇用統計は、FRB がその使命を果たしているかどうかを測る直接的な指標であるとともに、FRB がその後の金融政策(=金利の上げ下げ、最近では量的緩和の程度に関する方針)を決めるための基本的な指標になっている。雇用統計では、就業者数に関する推計だけでなく、失業率、賃金上昇率といった様々なデータが公表される。FRB は、景気が過熱しないよう早めに金融政策を引き締め、景気が減速しないよう金融政策を緩和的にする。

 

基本的には、金利を上げるときは景気が良い。金利を下げるときは景気が悪くなっている。したがって、金利を上げる状況では株価はすでに上昇しており、金利を下げる場合は株価は下落している。問題は、金利の上げ幅が大き過ぎたり、上げるタイミングが早過ぎたりすることで、必要以上に急ブレーキをかけてしまったり、またはその逆に、十分に減速できずにバブルを発生させてしまうことがあることだ。そうなると、株式市場や外国為替市場などが中長期にわたって大きく乱高下することになる。

 

4 雇用状況は、投資家にとっても現在の景気を測ったり、或いは、消費の動向を探る重要な指標になる。経済学を勉強したことのない方でも、失業者が増えれば景気は悪いと直感できるだろう。逆に、労働者数が増えて経済全体の労働者の収入が増えれば、消費も増加すると連想しやすいと思う。投資家も同じように判断する。

 

5 米国の投資家は世界中の株式市場・債券市場・通貨市場で取引するし、取引金額も大きい。それを、各国の投資家も注視しているので、二重の意味で世界中のマーケットに影響を与える。

 

6 というのは、投資家が、FRB が金融政策を引き締めると予想するか緩めると予想するかで、その投資姿勢に、上記とは逆向きに大きな影響を与えるからだ。例えば、引締めが予想されると、いわゆる“リスクオフ”となり、株式相場は下落するし、為替相場は新興国通貨が下落する一方で、安全なイメージのある通貨が上昇する。逆に、緩和が予想されると“リスクオン”となり、株式相場が上昇したり新興国への投資が増えたり(=新興国通貨が上昇)することが多い。したがって、良い雇用統計が公表され FRB が景気がよいと判断しようとすると、投資家がそれを察知して、株価を下げたり、新興国市場から投資を引上げようとする(=ドルや円が買われる)。

 

これらは、借入で投資をする信用取引を行う投資家やヘッジ・ファンドなどの投資行動が相場全体へ波及するものらしい。金利上昇がこれら投資家のコストになるためだ。借入に依存しない投資家も、これらの投資家の動きに合わせるように行動する。この“コスト増”は企業も同様で、金利が上がると企業業績や設備投資の増減に影響するから、金利上昇は株価下落を連想させ、これがまた投資家の投資行動に影響を与える。

 

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