465.【収益認識'14-06】“顧客との契約”~契約 (真球対決は決着したが…)
2015/4/28
25日に放送された『凄ワザ』では、冒頭、NHKから詫びが入った。「先週(18日)の放送は済みません」と(18日の放送については、462-4/19 を参照)。そしてなぜアクシデントが起こったか説明がされた。おかげで僕もわだかまりが消え、真球対決に集中できた。日本対ドイツ、職人技対ハイテク技術、中小企業対グローバル企業という3つもの要素が絡んだ世紀の真球対決だ。
ご存じの方が多いと思うので、結論から申し上げる。日本の職人技がドイツのハイテク技術に勝った。日本の2つのガラス玉は、ドイツの2つの鋼鉄球以上に 7.5cm幅の細い橋を長く転がっただけでなく、一つは30mを渡り切った。凄い。ドラマだった。その瞬間、涙が出そうだった。そして、ドイツの技術者の謙虚さにも好感した。
一方、462-4/19 の記事では、NHKと共に、連敗中の清水エスパルスにも(勝手に)反省を求めた。しかし、こちらは22日にカップ戦で1勝を挙げたものの、25日のリーグ戦では、また敗戦した(これでリーグ戦5連敗)。こちらも涙が出そうだった。(T_T) 次節(29日)こそは、頼むっ!
さて、このシリーズの前回(464-4/24)は、“顧客との契約”の“顧客”について記載した。IFRS15の収益認識モデルは、この“顧客との契約”という言葉に大きく依存している(463-4/22)が、前回は、“顧客”相手であっても、リースや保険の契約については、(他に適当な基準があるので)IFRS15の対象外になることを記載した。さらに、“顧客か、顧客でないか”の判断も重要になる。企業にとっては、事業目的に照せば間違いようのないことであるが、“顧客かどうか”を判断することが必要になることも記載した。(売掛金や買掛金などの通常の営業債権債務以外の金融商品に関連する契約もほぼ対象外となるが、これも、金融商品の発行元企業にとって、金融商品保有者は“顧客”でないため、と僕は思っている。金融商品の取引相手の場合、“顧客”というより、事業の“協力者”の方が近いからだ。)
そして今回は“顧客との契約”の“契約”がどのようにIFRS15の範囲を規定するかを見ていきたい。具体的には、基準本体の“契約の識別”を見れば、この基準がどういう“契約”を対象としているかを理解できる。(即ち、契約であるかないか、と共に、契約であっても対象外になるものがありえる。) 僕の印象としては、やはり顧客との“契約”というのは、単なる“契約”ではない。顧客は企業にとって最も重要なものなので、“契約”にも、そういう配慮をすることが想定されていると思う。
(契約か、契約でないか)
IFRS15では、契約を、とりあえず、次のように定義している(10)。
契約とは、強制可能な権利及び義務を生じさせる複数の当事者間の合意である。⋆1
・合意が他の当事者に対して強制可能な権利及び義務を生じさせる場合には、契約が存在している。
・文書である必要はない。
・契約の成立時期(収益計上時期ではない)の判断は、慣行やプロセスも考慮して判断する。即ち、“ハンコ”の有無では、判断しない場合がある。
顧客との間に「強制可能な権利及び義務を生じさせる合意」を得た時に“顧客との契約”となる。もちろん、契約の各当事者それぞれが、それぞれの義務と権利の内容を識別・理解していなければならない(9(a)~(c)、BC36)。そうでなければ、有効な契約とはいえないし、仮にそのまま進んでも、将来、顧客とトラブルになりかねない。そのままでは、企業のサービスの質、信用、評判に関わる問題につながるリスクがある。
“契約”がいつ成立したか、という判断には“慣行やプロセス”を考慮する。「常に正式な承認(例えば“ハンコ”)が必要」とは書いてない。ただ、それは、例えばスーパーのような小売業のケース(一々売買契約書を取り交わさない)をイメージしているようだ。顧客側の社内稟議が下りて正式な契約書を交わさないと契約が成立しないなら、もちろん、“ハンコ”が必要になる。これが“慣行やプロセスを考慮する”という意味のようだ。⋆2
(契約から除外されるケース)
以下の条件を満たさなければ、契約として識別しない(9.(d)、(e))。
・契約に経済的実質がある。
・対価を回収できる可能性が高い(=合理的に確実 BC44)。
いずれも、当たり前といえば、当たり前かもしれない。
「契約に経済的実質がある」という条件については、まず、売上を水増しするための同業者間の取引を収益計上させない趣旨が記載されている(BC40)。しかし、この例に限らず、すべての取引には経済的な実質が必要とも記載されている(BC41)。⋆3
回収できると合理的に見込めないのに、企業が顧客と契約を結ぶということは通常は想定されない。企業は、契約を締結するに際し、必ず、そういう信用評価を行うと想定されている。(BC43)
もし、回収できると合理的に見込めないのに契約をしてしまった場合、会計上は“顧客との契約”として扱われない。その後顧客の信用状況に関する不確実性が改善し、回収できると見込まれた時点で“顧客との契約”として扱われる(再判定)。即ち、極端な場合は、入金時に初めて収益認識することがありえる。
(契約の要素として“強制可能でないもの”を考慮する)
“顧客との契約”を識別した場合、その内容には、強制可能でないものも考慮する。これは、IFRS15では、契約を識別すると、その後のステップに“履行義務の識別”、“取引価格の算定”、“取引価格の履行義務への配分”があるために必要となる。これらのステップは、“顧客との契約”の会計上の明細を作成・整理することなので、その明細に“強制可能でないもの”を含めるべきかどうか、そして、その取引価格をいくらにするかを検討する。その際、“強制可能でないもの”として考慮されるのは、以下のもの。
・顧客に生じさせた“期待”(BC32,BC87)
・強制可能なのに強制しない“慣行”(BC36)
“期待”は営業活動で、つい、口を滑らせたとか、顧客に示した他社例などを通じて生じてしまった“誤解”のようなものも含まれると思う。こういうものについても、契約書に記載がなくても(=必ずしも、強制されないでも)、履行すべきかどうかしっかり検討することが必要になる(会計上も重要だが、顧客サービス面からは、もっと重要と思う。もし、“期待”が存在しているのに履行義務としないならば、そのことを顧客にしっかり説明する必要がある)。
ここでの“慣行”とは、「契約書上に最低発注量が明示されているにもかかわらず、それに達しない発注量を慣行的にペナルティなしで容認しているようなケース」が結論の根拠に例示されている。契約書に義務として明示されていても、実際には努力目標的扱いであれば、実際の扱いが優先される。そうなれば、ペナルティが定められていても、取引価格の評価からは除外される。
以上を通じて、IFRSが「企業にとって重要なのは顧客」と考えているように感じた。特に“期待”にまで配慮が及んでいることには感心した。
顧客は企業に“期待”する。もちろん、すべてが契約で明らかになっていれば良いが、言葉で表現できないこともある。例えば、しばしば、“御社を信頼して”などと聴くことがあるが、これなど、「全てを想定して条件を詰められないけど、困ったときは一緒にがんばってくれるよね」という思いが詰まっている(このような漫然とした“期待”は、履行義務にはならないが)。これに応えられるかどうかが、企業の信用、評判、のれん、即ち、本当の企業価値を高めることになる。顧客にすれば、「そこまでがんばってくれる」というところが心強い。
さて、エスパルスはどうか。僕は“期待”している。他のサポーターも一緒だ。しかし、“サポーター”なので顧客ではない? そんなこと言わずに、その思いに応えて、お願い。<(_ _)>
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⋆1 ちなみに、IAS32号の契約の定義は次のようになっている(IAS32.13)。
本基準では、「契約」及び「契約上の」という用語は、通常、法律により強制可能であるという理由により、当事者には回避する自由裁量が(仮にあっても)ほとんどないという明確な経済的効果のある複数の当事者間の合意を指している。
IFRS15の定義より複雑な書き振りになっている。IASBは、これに関して次のような記載をしている(IFRS15.BC31)。
・IFRS15の定義は「米国における契約の一般的な法律的定義に基づいて」いる。
・「IAS第32号「金融商品:表示」で使用している契約の定義と類似している」が、下記については異なる。
・「IAS第32号の定義は、契約には法律による強制力のない契約も含まれる可能性があることを含意している」。
ということで、両者は若干異なるらしい。ただ、具体的にどういうケースがあるかは僕には分からなかった。
⋆2 取引慣行として「口発注で、しばしば、(納入前に)キャンセルされる」ようなケースはどうするか。こういう口発注には強制力が伴わないとも考えられるので、契約とはいえない可能性がある(IFRS15.12)。
しかし、実務的には、“契約”として管理せざるえない。そうしないと、在庫確認・発注・出荷といったステップを踏めないことになる。ただ、“契約”として管理することと収益計上は同一ではない。実際に財・サービスの支配を移転し、履行義務を充足しないと収益計上の段階にならない。
では、実務上“契約”として扱うが、IFRSでは“契約”として扱えない場合、どういう問題が発生するか?
それは、直接関連する費用を資産計上する場合に問題となる。IFRS上“契約”でないなら、資産計上できない。これは、“契約コスト”という箇所(IFRS15.90~104)があるので、いずれ、そこで触れると思う。
さらに、納入後も返品自由なケースがある(昔の富山の薬売り、使用高払い、通販の返品自由商品、出版物など)。このような返品に制限のないところまでくると、出荷した後も強制力があるとはいえないのではないだろうか。これらのものに、“慣行やプロセスを考慮する”余地はあるのだろうか?
どうやら、“変動対価”(IFRS15.50~54)のところに、返品調整引当金の代わりになるような負債を計上する会計処理について記載があるので、これで対応可能な取引もありそうだ。これも、いずれ触れると思う。
“価格未定”というケースもあるが、これは“契約”として識別されるようだ。履行義務が充足されれば収益計上もされる。但し、上記の“変動対価”として、収益計上額は見積りが必要になる(BC39など)。
⋆3 循環取引では、多くの取引参加者がある。そして、実際に入出金も行われる。入出金があるなら「契約に経済的実質がある」ということにならないだろうか。
このような場合は、取引取引者のすべての契約を合わせて判定されると思う。すべての取引参加者が取引の全体像を把握できるか疑いはあるが、少なくとも起点となった企業は終点にもなるので、起点と終点の取引は“結合”(IFRS15.17)されることになりそうだ。起点となる取引の履行義務が充足されても、終点となる取引の履行義務が終わってなければ、収益計上されない。収益計上されていれば、会計基準違反となるのではないか。
起点、終点以外の企業は、すべての参加者のすべての契約を知らないかもしれないが、自分に関係する購入取引と売却取引の両方の契約は当然知っているので、これらを結合することになるだろうと思う。すると、代理人(IFRS15.B34~B38)としての会計処理が必要になる。そうしなければ、会計基準違反となると思う。
そして、そもそも、循環取引には“顧客”がいない。
日本では、循環取引について、具体的に「どの会計基準のどの規定に違反している」という指摘は困難で、この解決は監査基準や公認会計士協会の公表文書に委ねられていた。しかし、IFRSでは、会計基準の問題として、はっきり指摘できるようになるのではないだろうか。
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