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2015年6月 5日 (金曜日)

475.【収益認識'14-09】履行義務は顧客目線で

 

2015/6/5

すでにみなさんもご存知の通り、FIFAのプラッター会長が辞任したことで、2018年のロシア、2022年のカタールの開催地としての適性が改めて問題になっているようだ。もっとも、ロシアはもう間近に迫っているので変更になる可能性は低く、カタールの地位が揺らいでいるらしい*1。僕もカタールは暑すぎて選手には酷だと思っていた。ロシアのプーチン大統領は、FIFA幹部が逮捕されたニュースに「ロシア大会を潰そうとするアメリカの陰謀」と述べて*2笑わせてくれたが、それも含めて良い結論が出ると良いと思う。

 

ただ、プラッター時代に進められたW杯開催地や地域参加枠の分散化が否定されるのは心配だ。せっかく、日米のように、サッカーがそれほどメジャーじゃなかった国でもサッカー人気が盛り上ってきたのは、サッカーがあまり盛んでない国でW杯を開催したり、サッカーのあまり強くない地域の国にもW杯参加の機会を与えたプラッター時代の良い面だ。汚職がなくなっても、また元のヨーロッパと南米という地域限定スポーツに戻っては面白くない。そういう意味では、次期FIFA会長には、アジアやアフリカの人がなってくれると良いと思う。でも、無理かな・・・

 

 

さて、我々のソフトウェア会社(=A社)は、顧客B社と第1期のソフトウェア開発の契約を締結し、IFRS15の最初のステップ“顧客との契約の識別”の手続きを踏んだ。次の第2ステップは“履行義務の識別”だ。ここでは、まず、“履行義務”についてIFRS15がどのように表現しているかを見てみよう。

 

IFRS15.22  顧客へ移転するものが履行義務。

 

契約開始時に、企業は、顧客との契約において約束した財又はサービスを評価し、顧客に次のいずれかを移転する約束のそれぞれを履行義務として識別しなければならない。

 

(a) 別個の財又はサービス(あるいは財又はサービスの束) 完成基準が適用されるような個別の財・サービスを一つ一つ履行義務として識別する。

 

(b) ほぼ同一で、顧客への移転のパターンが同じである一連の別個の財又はサービス(第23項参照*3 進行基準の適用されるような、個々の財・サービスが連なった“一連”の単位で履行義務を識別する*4

 

IFRS15.24   契約書に記載にのないものも履行義務となる可能性がある。

 

顧客との契約は、一般的に、企業が顧客に移転することを約束している財又はサービスを明示している。しかし、顧客との契約で識別される履行義務は、当該契約で明示されている財又はサービスに限定されない場合もある。これは、顧客との契約には、企業の取引慣行、公表した方針又は具体的な声明により含意されている約束も含まれる可能性があるからである(契約締結時において、そうした約束が、企業が財又はサービスを移転するという顧客の妥当な期待を創出する場合)。

 

IFRS15.25  間接業務は履行義務ではない。

 

履行義務には、企業が契約を履行するために行わなければならない活動は含まれない(当該活動が顧客に財又はサービスを移転する場合は除く)。例えば、サービス提供者が契約をセットアップするために種々の管理作業を行うことが必要な場合がある。それらの作業の履行は、作業の履行につれて顧客にサービスを移転するものではない。したがって、そうしたセットアップ活動は履行義務ではない。

 

ちなみに、IFRS15の付録Aにある用語の定義では、「顧客に次のいずれかを移転するという当該顧客との契約における約束」としたうえで、上記 IFRS15.22 の(a)・(b) が書いてある。 ここでは、いきなり“(顧客との)約束”という用語が出てくるが、恐らく、次の2つの点を表現したと思われる。

 

・契約書に記載のない事項でも、顧客が認識・期待していることは、履行義務になりえる(IFRS15.24)。

 

・顧客に見えるものが履行義務であり、直接見えない間接業務は履行義務ではない(IFRS15.25)。

 

これらを総合すると、履行義務は“顧客目線”で決まるのだ。顧客へ移転されると、顧客が認識している財・サービスの提供が、タスクとして履行義務に設定される。提供企業が自分勝手に決められるものではない。そんなことをしていたら、その提供企業は、顧客の期待を裏切り、評判を落として企業価値を損なってしまう(東芝のように*5)。この点、IFRS15は良くできている。何気なく、商売の本質を突いている。我々は、この意味を深く噛み締める必要があると思う。

 

 

さて、FIFAの次期会長は、早くても12月にならないと決まらないというが、次期会長は何を“履行義務”に据えるだろうか。汚職の撲滅は当然として、問題は、FIFAの顧客をどのように定義するかだ。それによって識別する履行義務が変わってくるように思う。すでにサッカーが大好きな人をメインに置くか、それとも、まだサッカーの楽しみを十分に知らない不幸な人に照準を当てるか、このバランスが問題だ。もし、後者の重要性が十分認識されれば、プラッター時代の良い面も引き継がれるかもしれない。

 

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*1 FIFA会長辞任、危ぶまれるロシアとカタール大会WSJ 6/3 無料記事

 

*2 【FIFA汚職事件】露プーチン大統領、米国の陰謀論持ち出し警戒 スポーツ報知 5/28

 

この記事にもあるように、欧米諸国はモスクワ・オリンピックを政治的な理由でボイコットした(日本も)。したがって、プーチン氏の心配は理由のあることであり、それ自体は笑いの原因ではない。それより、ウクライナやジョージアなどで政治的な理由で武力行使をするプーチン氏が、スポーツ交流の高邁な理想を語る姿が笑える(僕はTVで見た)。まるで、人を殺すことより、スポーツ大会を欠席することの方が罪が重いかのようだ。僕は、欧米や日本などロシアの軍事侵攻に反対する国々は、2018年に別の国でサッカー大会を開催するのも一案だと思う。もし、これがロシアに対する強力な交渉カードになりえるなら、痛快だ。

 

*3 IFRS15.22 と IFRS15.23 について

 

IFRS15.22 は IFRS15.23 を参照している。23項は22項の“顧客への移転のパターンが同じ”とはどういうことかを説明している。それを読んでみると、要するに「進行基準が適用されうる取引なら、それを構成する一連の取引は“同じ”」ということのようだ。即ち、22項を読む際に、完成基準が適用される契約については (a) を念頭に置き、進行基準が適用される契約については (b) を念頭に置くと、一応、理解しやすい。(但し、(b)でも、超短期で完了できる場合は、完成基準が適用されうると思う。)

 

下記の23項では、(a)で、「一定の期間にわたり履行義務を充足し収益を認識する」進行基準適用の要件を述べ、(b)で、「進捗度に従って収益認識されている」ことを要件に挙げている。

 

IFRS15.23  要するに「進行基準が適用されうるもの」と考えて良さそう。

 

一連の別個の財又はサービスは、次の要件の両方に該当する場合には、顧客への移転のパターンが同じである。

 

(a) 企業が顧客への移転を約束している一連の別個の財又はサービスのそれぞれが、第35項における一定の期間にわたり充足される履行義務の要件を満たす。

 

(b) 第39項から第40項に従って、一連の別個の財又はサービスのそれぞれを顧客に移転する履行義務の完全な充足に向けての企業の進捗度の測定に、同一の方法が使用される。

 

*4 なぜ、わざわざ履行義務を2種類に分けて記載しているかを考えてみた。

 

履行義務は、売上や売上原価を集計し会計処理を行う単位だ。その履行義務には、“個々”のものと、“一連”のものの2種類がある。これは、やはり、収益計上基準に完成基準と進行基準の2種類があることと関係がありそうだ。両者で履行義務が少々異なるからだ。

 

完成基準では、履行義務の充足という一時点で売上や売上原価を計上するが、進行基準を適用するのであれば、履行義務の進行状況で、売上等が計上されなければならない。そのため、進行基準では、“一連”の単位で履行義務を識別する必要がある。

 

例えば、ある建材屋さんが建物の建設まで請け負った場合を考えてみよう。通常の建材取引であれば建材の納入・検収で履行義務の充足し、売上計上となるので、個々の建材取引が履行義務となる。一方、建物建設まで請け負った場合は、建材を現場へ納入しただけでは履行義務の充足にならない。その建材を使用して建設工事が終了し、引渡した時点で履行義務の充足となる。建材の納入に加え建設サービスの提供までが“一連”であり、その一連の取引すべてで一つの履行義務と識別する。

 

このように、同じ“建材の納入・検収”でも、いずれの収益認識基準を使うかで、収益額が異なる(但し、建材取引と建設サービスの利益率が同じであれば、いずれであっても収益認識額が同じということはありえる。ただ、実際にはレア・ケースとは思う)。

 

これは、いずれの種類の履行義務にするかで収益額が異なるということなので、それをちゃんと区別する意味合いを込めて、「履行義務には2種類ある」と記載したものと思われた。

 

同時に、これは、履行義務の識別のステップにおいて、完了基準を適用するのか、進行基準を適用するのかの判断を要求していることに、ほぼ、等しい。

 

*5 東芝は、「社内の業績評価の都合を最優先して、履行義務を定めていた」と言えるかもしれない。顧客には「できます、できます」と言っておいて、実際にはそれを十分履行できるだけの予算を割り振らなかった。これに関して、次のような記事がある。

 

東芝不適切会計の過半を占める “非スマート”メーターの惨状 ダイヤモンド 6/2

 

東芝の被害を受けた顧客は、東京電力。東京電力(武蔵野支社)はスマートメーターの導入を公表していたのに、最近、検針員の募集を始めたという。スマートメーターなら、自動的に家庭の電気使用量を把握できるから、検針員はいらないはずだ。それなのに検針員の募集を始めた理由は、破格の安値だった東芝のスマートメーターの通信ボードが、不具合だらけで、全然スマートじゃないことにあるらしい。

 

この記事では、スマートじゃなかった理由について、単に「(東芝は)通信の経験に乏しい」と書いてあるだけだが、ちょっとそれは事実を単純化しすぎているように思う。というのは、家庭に取り付けたメーター使用量の計測値を通信回線経由で把握するなんてことは、たいして難しいことではないはずだからだ。素人目には、街中に設置されている監視カメラの映像をサーバーへ送るのと変わらないように思う。パソコンのウェブ・カメラだってそうだ。それを東芝ができないはずはない。

 

しかし、結果において明らかなのは、東芝が「やります、やります」と言って受注した契約、約束を果たせなかったことだ。社内評価にばかり目が向い、顧客である東電に大きな迷惑をかけた。東芝の問題は、財務面、原価管理面に留まらず、顧客に向き合う姿勢にまで及んでいるように思われる。これが、粉飾の一面だ。

 

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