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2015年6月16日 (火曜日)

478【収益認識'14-10】基準発効日(=適用開始日)の延期

2015/6/16

東芝の不適切会計のスマートメーターの事例については、すでにダイヤモンドが報じており、このブログでも紹介した*1。この日曜に、その要約版のような記事が、改めて日経電子版でも報じられた*2。そこには次のような記述がある。

 

東日本大震災以降、国内外で原子力発電所の新設計画が進まない焦りから、新分野開拓を急いだことが結果的に裏目に出た。

 

日経の書き方は、東芝に優しい。「結果的に裏目に出た」とあるが、顧客にとっては“最悪の結果”であり、企業としては絶対にやってはいけないことだ。それに、僕には“結果的に”とは思えない。安値受注をしたうえに、適切な予算を割り当てていなかったからだ。むしろ、“当然の結果”ではないか。

 

多くの方は、すでに僕の言いたいことを理解されていると思う。しかし、くどくなるが、詳しく記載させていただきたい。そして、これは今回の本題ではないので、「早く本題を」と思われる方は、読み飛ばして、ずっと下へ目を移していただきたい。

 

(東芝は自分の都合しか考えていない)

 

東日本大震災が、東芝の原子力関連事業の経営環境を激変させたことは理解できる。フランスのアレバ社も大ピンチを迎えている*3。しかし、それを顧客に負担させる理屈はない。いくら、顧客が東電だとしても、それとこれは別だ。

 

出遅れた新規事業を、プロジェクトを受注することで育てるのはありえると思うが、それは顧客に迷惑をかけない範囲でしか正当化されない。迷惑をかけるかどうかの見極めは、見積金額を決めたり、値引きを受け入れるかどうかの判断より重要な優先事項のはずだ。まあ、重要というより、その分野で事業をするための基本的な前提、事業者が備えるべき当然の姿勢だ。

 

しかし、東芝にはそれがなかった。顧客など眼中になかったのだ。

 

(赤字受注すれば良い)

 

本来、新規事業は試験研究や開発費をかけて、技術力やノウハウを身につけてから顧客に提供するものと思う。それを冒険して先に受注するなら、顧客にすればリスクを負う分を値引き要求するのが当然だ。それが今回の安値受注ということかも知れない。しかし、だからといって失敗して良いプロジェクトはない。

 

しかし、プロジェクト進行中に起こる多くの失敗は必要だ。それをいかに早く察知し、対応したか、その積み重ねが技術とノウハウの強化・蓄積になる。次のプロジェクトに活かすことができる。したがって、冒険プロジェクトは、オーバー・スペックな体制で、即ち、赤字も覚悟で臨むことになる。

 

冒険かどうかという判断がされていれば、最初から赤字で臨むこともあるだろうし、プロジェクトが始まってから赤字になることも、通常のプロジェクトより容易にしておくべきだ。そのリスクを負っても、試験研究や開発だけを続けるより、冒険した方が良いと判断したのだから、このプロジェクトを損益だけで評価するのはおかしい。そんなことでは、技術やノウハウの組織的な蓄積もできないに違いない。

 

(経営判断の問題)

 

顧客に迷惑をかけるか否かの判断。冒険的なプロジェクトかどうかの判断。それらの不利な条件を上回る技術やノウハウを獲得できるかどうかの判断。さらに、財務業績に与える影響の判断。偉そうに書いたが、並べてみれば、当然のこと。しかし、このような問題が多発していたところを見ると、この当たり前の判断を東芝の経営者がしていたかどうか、疑問だ。

 

例えば、「取締役会は財務業績ばかりを見る」とか、「取締役会資料に赤字プロジェクトは載せられない」とか、事業部レベルにそういう意識があるとすれば、取締役会の責任だ。

 

(東芝の財務体質)

 

以前も記載したように*1、東芝は驚くほど利益の蓄積がない(=利益剰余金が少ない)。大変僭越ながら、僕の経験を言わせていただくと、そういう会社にはそういう社風がある。このような財務体質と組織風土には、かなり強い相関関係がある。

 

数字になるものばかり気にして、無形のものの価値に目を向けない会社は、実は、数字を出せない。その最たるものは、顧客を大切にする姿勢だ。

 

東芝は“超”がつく名門企業だ。しかし、どうやら、それは過去のことのように思える。無形の財産である先人の教えを忘れ、分かりやすい数字ばかりを追いかける、並みの会社になってしまったように見える。

 

 

(ここから本題)

 

以上は、今回の本題ではない。本題は、IFRS15の発効日が、2017年から1年延期されそうということだ(早期適用可能)。これに関して、IASBFASBがそれぞれ、公開草案を公表し、コメントを募集している*4

 

IASBFASBは、長い検討の末、苦労してこの基準を確定させたわけだが、確定させた後も、顧客たる市中の反応を気にしているようだ。まだ多少の改善をするらしい。その結果、基準の発効を遅らせるというのだ。まあ、冒険プロジェクトに追加予算を与えるようなものか。

 

もちろん、IFRSUS-GAAPを採用する企業の多くは、「一旦確定させた基準を簡単に変更されては迷惑」と考えるに違いない。果たして、それを上回るメリットが、予定されている基準の改善にあるのかどうか。

 

改善の内容はまだ分からないが、そこにIASBFASBの“顧客に対する思い”が現れるに違いない。

 

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*1 475.【収益認識'14-09】履行義務は顧客目線で 6/5)の欄外の*5をご覧いただきたい。

 

*2 東芝の不適切会計、新分野開拓で焦り 損失覚悟で受注」(6/14)日経電子版 有料記事

 

*3 アレバ社の不振の状況については、以下のような記事がある。

 

仏アレバ、原子炉事業売却へ:日経ビジネスオンライン(The Economistの翻訳記事) 5/28

揺らぎ始めた「原発大国フランス」:新潮社Forsight1/5

 

原子力大国フランスを支えていたアレバ社も、ついに原子炉事業を売却するところまで追い込まれている。直接の原因は、フィンランドで建設中の最新鋭の欧州加圧水炉型原子炉(EPR)のプロジェクトが大幅に遅延・予算超過していることなどにあるが、背景に縮原発のオランド政権の誕生がある。2007年以降、新規の原発受注がなく、福島第一の事故も、市場の縮小という形で影響していると思われる。

 

*4 IASBが収益認識基準の発効日を延期する提案を公表 JICPA5/25

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