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2015年7月19日 (日曜日)

491【番外編】ギリシャ問題、新しい主役はIMFか

2015/7/19

ギリシャの債務削減(=元本カットや、返済条件緩和による実質債務カット)に関するIMFの積極的な発言が目立ってきた。IMF2010年のギリシャ危機では内規を曲げて融資判断することで、今に至る問題先送りに主導的な役割を果たした(という主張もある。詳しくは「480 ギリシャの言い分」を参照)。その後、トップ(=専務理事)もラガルド氏へ交代し、軌道修正を図っているようだ。

 

15日にギリシャ議会が第3次金融支援交渉開始に必要な緊縮策の法制化を受け入れ、17日にはドイツなどの国会決議が必要な国もその手続を済ませた。そして20日にはつなぎ融資も実行される見込みとなった*1。このほか、ECB(=ヨーロッパ中央銀行)も、ギリシャの銀行に対する資金繰り援助を増額した*2。これで、ギリシャ危機は一息ついて、資本規制については、直ちに解除はできないが多少緩和されるかもしれない*2

 

これまでのギリシャと債権者たちの交渉は、ギリシャ政府の収入や支出といったフローに偏っており、より根本的な問題である債務削減というB/Sの問題は避けられてきた。主にドイツが議論に上げることを強硬に反対したためだ。しかし、15日以降は、我々が目にする報道でもB/Sの問題、即ち、債務削減に触れたものが目立って増えてきた。恐らく、冒頭に記載したように、IMFの姿勢が変化したためと思われる。

 

そこで、今月の債務削減に関するIMFとドイツの動きを中心に振り返ってみよう。

 

2日、IMF ギリシャ債務の持続可能性に関する報告書 を公表

ユーロ圏諸国は公表に反対し、米国は賛成したらしい。この報告書でIMFは、債務削減などの大規模な軽減策が実施されない限り、ギリシャ債務は持続可能にはならないと指摘*3

 

5日、ギリシャ国民投票で欧州緊縮策にNO

 

911日、チプラス首相、一転して緊縮策受入提案

 

11日、ドイツの“ギリシャの一時的なユーロ圏離脱+債務減免”の主張が明らかに*4

この時点でユーログループ(=ユーロ圏財務相会議)は、IMFの提案(=ギリシャ債務削減)を議題にすることを拒否*5

 

13日、ユーロ首脳会議でより厳しい交渉開始条件をギリシャ受入

ギリシャは、IMFが支援に完全に関与することに抵抗していたが*6ドイツが議会承認には不可欠として受け入れさせた*7

 

15日、ギリシャ国会でより厳しい緊縮策を法制化

 

17日、ドイツなどの国会承認手続を終了、ギリシャ支援協議再開決定

同日、IMFのラガルド専務理事は、ギリシャ支援策に債務再編と大胆な改革を含めることがIMFが参加する条件になると指摘した*8

 

 

以上から、IMFは面白い立ち位置にいることが分かる。

 

・ギリシャはIMFを嫌っているが、ギリシャが望む債務削減を主張しているのはIMF

 

・ドイツにはIMFの関与が必要だが、ドイツが一番嫌な債務削減を主張しているのはIMF

 

嫌いなIMFに頼らざる得ないギリシャ。うるさいIMFに耳を貸さざる得ないドイツ。そして、IMFは積極的に動いている。この問題の解決に、そしてヨーロッパ統合の維持に、明るい兆しが見えてきたように思う。

 

 

🍁ー・ー🍁ー・ー🍁ー・ー🍁ー・ー🍁ー・ー🍁ー・ー🍁ー・ー🍁ー・ー🍁ー・ー🍁

*1 ギリシャ支援交渉決定 REUTERS 7/18

 

この記事は次のように報じている。

 

EUは同日、ギリシャに対する緊急支援として71億6千万ユーロ(約9600億円)のつなぎ融資も決定。ギリシャの財政問題解決に向けた態勢が整った。

 

この資金は、欧州金融安定メカニズム(EFSM)からギリシャへ提供されるそうだ。

 

*2 「ギリシャ銀行に対する資金繰り援助」とは、「緊急流動性支援(ELA)」のこと。次の記事によると、ギリシャの銀行は20日から営業再開するという。

 

ギリシャの銀行、20日から営業再開 ECBの資金供給拡大受け REUTERS 7/16

 

ただ、ELAの上乗せは僅かなものなので、市民生活は不自由な状態が続く。次のような例が紹介されている。

 

マルダス財務副大臣は、1日60ユーロの引き出し制限について「たとえば60ユーロを20日に引き出さなかった場合、その分を翌日に持ち越し、21日には120ユーロ引き出せるようにする」と述べ、そうできるよう手続きを進めていると述べた。

 

*3 IMFのギリシャ債務報告書、欧州は公表に反対=関係筋 REUTERS 7/4

 

*4 ギリシャの「一時的なユーロ圏離脱」、ドイツ政府が提案 REUTERS 7/12

 

この記事には次のようなショイブレ独財務相の発言が記載されている。

 

ショイブレ財務相は10日、ギリシャは債務のヘアカット(元本削減)が必要だが、ユーロ圏内では違法になると指摘していた。

 

この発言は、IMFの報告書を受けて、ドイツ首脳陣もギリシャの債務削減の必要性を認めざる得ない状況に至った可能性を示している(ドイツ国民や議会は別)。ただ、このドイツの提案についてEU当局者は、「“一時的なユーロ圏離脱”自体が(離脱規定のないユーロ圏では)違法」との見解を示したという*5

 

債務カットは、ユーロ圏に留まれば違法だし、それを避けてユーロ圏を離脱しようにもそれがまた違法ということで、この時点では、議論が先送りされたようだ。

 

*5 ユーロ圏財務相はギリシャで結論持ち越し-日本時間午後に再開 Bloomberg 7/12

 

*6 ギリシャは、第1次金融支援、第2次金融支援の経緯や結果から、IMFを快く思っていないようだ。今回、ギリシャの債務削減の必要性を最も強く主張しているのはIMFだが、まだ不信感が払拭されていないらしい。

 

*7 ユーロ圏首脳が支援開始条件でギリシャと合意、議会可決が必要 REUTERS 7/13

 

この記事には次のような記載がある。

 

ギリシャは国際通貨基金(IMF)が支援に完全に関与することに抵抗していたが、ドイツが議会承認には不可欠として受け入れさせた。

 

ドイツは、第一次世界大戦後のハイパーインフレの記憶から、政府の財務規律を非常に重んじている。このため、他のユーロ諸国に対しても、財政赤字を厳しく律するよう要求する。ギリシャ問題でIMFの関与を求めるのは、恐らく、ユーロ諸国のみの意思決定では、利益相反や個別の利害により融資判断が歪む(=甘くなる)可能性があることから、第三者としてのIMFの判断を尊重する仕組みがあるものと思われる。また、一国の財政状況を判断することは、個人や企業より遥かに複雑で困難が多いが、IMFはそれが仕事であり、慣れている。

 

*8 IMF、ギリシャ支援参加は債務再編が条件=専務理事 WSJ 7/17

 

この記事は有料記事の可能性があるので、閲覧できない方は、簡単ではあるが下記の記事でも良い。

 

IMF、「完全な」ギリシャ支援策には参画へ=専務理事 REUTERS 7/17

 

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