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2015年7月21日 (火曜日)

492【番外編】東芝第三者委員会報告の要約版

2015/7/21 申し訳ないが、早速、赤字部分と関連する脚注を訂正した。

 

2015/7/21

「“不適切会計”ってなに?」とか、「“粉飾”じゃないの?」などと話題になっていた東芝の件だが、昨晩、要約版が公表された。事前報道の通り、冒頭から歴代経営トップの責任を厳しく指摘する内容になっている。なお、以下では“粉飾”という言葉を使って、この要約版の内容を紹介する。

 

税引前利益修正額(1,518億円)については、各年度粉飾額の単純合計か、それとも2015/3期決算に追加で修正されるべき金額か、どちらを意味するのか、ちょっと迷った。というのは、あまりに金額が大きいので、例えば、工事進行基準の粉飾は、工事が終了し売上計上が完了すれば、そのタイミングで先送りされていた損失もすべて計上され粉飾額が減少するが、それが考慮されていない可能性を考えたのだ。しかし、粉飾額がプラス(=利益の過計上)の年度もあるので、後者の追加で修正されるべき金額と考えて良さそうだ。

 

これを受けて、東芝は、減損や税効果会計を見直し、決算を修正するとしている。

 

 

(工事進行基準関係)

 

個別案件ごとの記載を読むと、問題点が指摘されているのは、電力社のE案件とF案件を除き、大所では2014/12時点で未成工事扱いの工事に限られているようだ*1。粉飾されていた工事のほとんどが未成工事のままにされていたのか、それとも、完成工事扱いになったものをあまり調査の対象にしなかったのか、については確信が持てなかった 前者だった*2

 

おおよそ、経営者トップ層の強い予算達成へのプレッシャーが、カンパニー長や事業部長などの部門責任者の姿勢に影響を与え、現場が数字をいじり正しい報告をしなくなるというパターンで、損失先送りの粉飾が行われたという分析になっている。社長や監査委員会(東芝は委員会等設置会社)の委員長などの経営トップ層の関わりは、基本的には費用や損失の増加が許されないという社内の雰囲気を作ったこととされる一方、直接個別の案件で、損失計上を認めなかったとして名前が登場するケースもある。まあ、腐ってる。

 

工事進行基準案件の現場の数字のいじり方は、根拠のない追加売上額や、根拠のないコストダウンを見込む、或いは、受注当初から見込まれていた損失を無視する(驚くべきことに、これが結構多い)、内規を破って外貨換算を行わない、といった手法が紹介されている。

 

(映像事業)

 

映像事業では、損失先送りを損益管理の一環として組織的に行っていたそうだ。即ち、利益目標未達が予想される部分をキャリー・オーバー(=C/O)残高として管理しているという。具体的には、引当不計上、経費計上の遅延、在庫評価の不正、根拠不足の仕入値引の計上が行われていた。東芝は、外部監査人に対し、このC/O制度を隠していたとされている。

 

(パソコン事業)

 

パソコン事業では、有償支給取引を利用して粉飾していた。外注先に部品などを有償支給するときに利益を計上するという古典的な手口だ。本来であれば、外注先に部品を供給しただけでは利益は生じない。その部品が外注先で加工されて東芝へ戻り、それを東芝が外部顧客へ販売したときに初めて利益が発生する。

 

東芝は有償支給対価を利益を含めて未収計上しており、2012年度は利益の過大計上が296億円に及んでいたという(即ち、その金額以上の未収入金がB/Sに載っていた)。当然、こういう製造活動に密接に関連し大量に発生する会計処理はシステムで処理されているだろう。監査人は、システムで堂々と行われているこのような勘定処理を把握できなかったのだろうか。しかし、経理部門や経営監査部による意図的な隠蔽工作にあっていたという趣旨の記載もある。とはいえ、この件に関するこの報告書の監査人に対する評価は低い。

 

この利益を上乗せした部品取引は、経営トップも承知の上で、組織的な押込み販売まで行われていたという。このほか、映像事業と同様のC/O制度がパソコン事業にもあったとされ、経費等の遅延計上がされていた。

 

(半導体事業)

 

半導体事業では、在庫(特定顧客向け、特定用途の製造棚卸品)を廃棄するまで損失計上しなかったらしい。通常は、収益性の低下とともに評価損を計上する。これは、社内規定が会計基準に合っていなかったからとされている。しかも、標準原価と実際原価との差額である原価差異の配賦計算が不適当で、製造棚卸品の一部の評価が過大となっていたようだ。

 

 

(再発防止策)

 

まず、“直接な原因の除去”として、以下の項目が挙げられている。

 

経営上層部の社長、事業グループ担当執行役、財務担当執行役(=財務最高責任者)、カンパニー長らが関与し、その他の取締役や執行役も知っていた者がいるとされている。これらの人事上の対応が求められている。部課長レベルの責任追及にも触れている。この上で、意識改革と人材育成が求めらている。

 

東芝では、予算達成のために無理することを“チャレンジ”と呼んでいるらしい。このチャレンジをやめるよう求めている。これを“企業風土の改革”より先に記載している。それほど、いけないチャレンジだったということだ。そして、“会計処理基準全般の見直しと厳格な運用”を指摘している。

 

みなさんもお気付きと思うが、これらはJ-SOXでいう“全社的内部統制”であり、本来は、個別的内部統制を間接的にサポートするものだ。それを“直接的な原因”として挙げざる得ない状況にこそ、東芝の実態の腐敗ぶりが表れている。

 

そして、次に“間接的な原因の除去”が挙げられている。

 

社内カンパニーから独立した東芝及びそのグループ各社を横断的に強力にチェックできる内部監査部門の設立、取締役会の管理監督機能の強化、監査委員会の強化、内部通報制度の強化、社外取締役の増員や入替、適切なローテーションが挙げられている。

 

正直言って、ここまで悪いと教科書に戻るしかないという感じだ。みなさんも、いずれも、当たり前のことのように感じられると思うが、第三者委員会が言いたいのは「もう一度、一から作り直してください」ということだと思う。だから、そういうことを書くしかなかったのだろうと思う。

 

 

以上が、要約版の要約だが、みなさんもここまで読んで「名門東芝の惨状極まれり」と思われたと思う。しかし、この報告書の最後(P76)に、「第8章 最後に」という短い文章がある。ここに、東芝社内から第三者委員会へ寄せられた反省や東芝を憂う声が紹介されている。これらの声こそが、今の東芝に残された希望だ。東芝の復活には東芝関係者ががんばるしかない。

 

 

 

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*1 C案件については、納期が2009/12月だが、追加の保証工事が発生し、そのコストが今まで決算に反映されていなかったという。したがって、C案件は、納期はとっくに過ぎているが、この報告書上は未成工事扱いと思われる。また、G案件については納期が2013年から2019年に納期が到来する複数契約を1案件として扱っているので、部分的には工事が完了している可能性がある。ただ、複数を契約を1案件として会計処理している可能性もある(=この場合は、会計上、すべて未成工事扱い)。さらに、I案件も一部の納期が到来してるようだが、その割合は低いと思われる。また、L案件以降の少額案件にも納期が到来しているものがあるが、影響金額が小さい。

 

*2 調査した工事案件のサンプル抽出基準は次のように記載されている(P19 脚注)。

 

ロスコン案件については最終的な工事損失金額、ロスコン以外の案件については見積工事原価総額の過小見積りによる損益影響額が5億円以上と見込まれる案件

 

なお、“ロスコン案件”とは、東芝社内用語で「2億円以上の工事損失(累計)が発生している案件」のこと。

 

この違いは、監査上、内部統制をどの程度信用するかの判断に重要な影響がある。

 

この報告書に記載されたもの以外に、工事完了時、或いは、完了間際に想定外に多額の費用計上が繰り返されていた場合、進捗率の正確な算定を支える内部統制を信用できなくなるからだ。しかし、そういうことがなく(そういうものはE案件、F案件のみで)、予定した利益率が確保された案件が多かったのであれば、監査上、この内部統制を信用できると判断されることもありえると思う。この信用度合いが、監査をどこまで詳細に行うかを決定する重要な要素となる。即ち、監査人の警戒の度合いが決まってくる。

 

ただ、G案件では、東芝と監査法人(=新日本監査法人)の意見が対立したまま2013/12(四半期)決算が公表されている(=監査上は最終的に重要性でパスした)。対立したままということは、東芝の説明に監査法人が納得していないということなので、監査法人は、少なくともこの後には、警戒レベルを高めたはず。(ただ、対立の原因となったのは、米国子会社からの工事原価総額見通しが、2013/9時点で引き上げられたためであり、なぜ、対立が2013/12になったのかは分からない。米国子会社からの報告が遅かったのかもしれない。)

 

なお、この報告書では、工事原価の見積もりの妥当性について、監査人が工事の専門家である東芝担当者や経営トップまでを含む組織的な隠蔽工作に対処することは困難と評価している(P69 5.会計監査人による監査」)。ただ、監査人は、この報告書にいうチャレンジングな社風とこの見積もりの難易度及び重要性をわかっていたと思う。それにどう対応したかが問われるだろう。

 

 

 

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