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2015年7月

2015年7月31日 (金曜日)

496【税効果03】税効果会計と減損会計

2015/7/31

このシリーズの前回(493【税効果01】日本基準の見直しを機に)、前々回(495【税効果02】税効果会計って?)に記載してきた通り、このシリーズは繰延税金資産の回収可能性がメインとなる。現在進行中の日本基準の改正は、この問題を扱った監査委員会報告第66号(以下、単に“66号”と記載)をASBJへ移管することが目的だし、現在の税効果会計は、P/L面よりB/S面から理論構成されている(=資産負債法)。どちらも、繰延税金資産をいくらで計上するか(=測定基準)が重要なのだ。

 

個別改正項目の議論に入る前に、“繰延税金資産の回収可能性”というテーマの“回収”という言葉について考えてみよう。この言葉は、減損会計でよく出てくる言葉だ。資産のB/S計上額を将来キャッシュフローで回収できるかどうか、といった使われ方をする。回収できなければ減損するし、回収できるなら減損テストをパスして取得価額(=帳簿価額)を維持できる。税効果会計でも同じだろうか。

 

例えば、66号では、次のように使われている。

 

将来の税金負担額を軽減する効果を有していると見込まれる場合にのみ監査上繰延税金資産の回収可能性があると判断することができ、・・・(P1 2.繰延税金資産の回収可能性に関する監査上の基本的考え方」より)

 

“将来キャッシュフロー”が“将来の税金負担額を軽減する効果”に置き換わっているが、税金負担額とはキャッシュ・アウト・フローなので、それが軽減されるとキャッシュ・イン・フローになる。即ち、“将来の税金負担額を軽減する効果”とは、将来キャッシュ・イン・フローのことだ。すると、66号で言っているのは、繰延税金資産についても「将来キャッシュフローが見込まれる金額について回収可能性があると判断される」ということだ。したがって、“回収”や“回収可能性”という言葉の意味は、減損会計と同じだ。

 

税効果会計を通常の固定資産の会計処理と比べると、固定資産は、それが存在していれば資産として認識される。税効果会計では(将来減算)一時差異が存在していれば、(繰延税金)資産として認識される。よく似ている。加えて、期末には、それが固定資産の場合は減損テストされ、繰延税金資産であれば回収可能性がテストされる。これも同じだ。

 

ということで、繰延税金資産の回収可能性の会計処理は、税効果会計における減損会計と考えて良さそうだ*1。こういうイメージを持っておくと、今後幾つかの論点の理解がしやすいかもしれない。

 

 

 

🍁ー・ー🍁ー・ー

*1 ただ、回収可能額の測定や会計処理などが全く同一というわけではない。注記も異なる。

 

例えば、固定資産の減損会計では最終的に将来キャッシュフローの見積もりに割引率が適用されるが、税効果会計では一時差異の解消スケジュールを見積もっても割引率を適用しない。このほか、減損の兆候の有無を判定する規定と、繰延税金資産の回収可能性を判定するための会社分類の規定は、関連がありそうだが、規定の内容は相当違う。また、日本の減損会計基準では減損損失を資産に戻すことは禁じられているが、繰延税金資産は一旦回収可能性なしと判断された項目でも翌事業年度以降に状況が改善されれば復活させることができる。

 

これらについては、なぜ違うのか分析してみると面白そうだ。

2015年7月28日 (火曜日)

495【税効果02】税効果会計って?

2015/7/28

今では当たり前になっている税効果会計だが、2000年の会計ビックバン以前は、知らない人が多かった。当時、監査チームの現場を仕切る立場だった僕には、クライアントの社長や部門責任者などから、よく質問があった。「一応、経理部から教えてもらってはいるんだけど、どうも分からなくて…」という感じで。「税効果ってなに? 簡単に教えて」 ん〜、難しい。

 

税効果については、会計と税務会計の違い(=一時差異)、それが財務諸表へどのように反映されるか(繰延税金資産の回収可能性を含む)に関する上手な説明が必要になるが、いずれも理屈っぽい話になる。しかし、そのまま理屈っぽい説明をしてもダメだ。それが分からないから僕のところに来たのだから。

 

とはいえ、残念ながら、僕も上手に説明できた記憶はない。

 

当時は(今もあまり変わらないかもしれないが)、会計といえばP/Lのことであり、利益がどうなるかをみんな知りたがった。税効果会計は、歴史的にはP/Lから始まったものだが、日本へ税効果会計が導入された時には、すでにB/S中心の理論へ移行していた。これは、“繰延税金資産の回収可能性”に典型的に見られる。ますます、説明が難しくなった。

 

当時、僕がしていた典型的な税効果の説明は、次のようなものだった。

 

御社では税務上売上を発送基準で計上してますね。でも、会計上は検収基準に直すでしょ*1。すると、売上や利益の一部は、翌期分として取消しますから、その分減ってしまいます。ところが、税務上は減らさないで課税所得を計算するので、その分、法人税等をたくさん支払います。税前利益に比べて多額の税金が費用として計上され、税引後利益が小さくなってしまいます。

 

会計的に見れば、それは税金を翌期分までたくさん計上し過ぎているので、その分、減らしてやるのが税効果会計です。そうすると、利益と税金のバランスが整います。

 

ここで説明を終えられれば良いのだが、まだ続く。

 

但し、条件があります。ここからが重要です。本当に減らして良いのか、実際に減るのかを確認する必要があります。例えば、当期と翌期以降で税率が違うと問題があります。当然ですが、今年余分に納税した分は、今年の税率で計算されます。ところが、会計上は来年納税するかのように計算するので、減らす分は来年の税率で計算します。減税される場合は、余分に納税した全額を減らせるとは限りません。

 

ほぼ、これで質問者の限界を超えてしまう。ニヤニヤしながら、「やっぱり、難しいねぇ」と言われて終了となる。繰延税金資産の回収可能性の説明まで話が持たない。だが、稀に突破した場合は、次の説明へ続く。

 

加えて、将来も課税所得がプラスで、税金を払い続けられる会社じゃないと、減らせられないのです。税効果会計で減らされる税額というのは、その後、納税額を節約できるから減らせるのですが、例えば、翌期赤字が予想される場合は、その期は税金を払いませんよね。払わない場合は節約のしようがないので、減らすこともできません。

 

これで、100%沈没する。この先にある、繰延税金負債の話などしたことがない。

 

 

やはり、B/S面から理論構築された現在の税効果会計は、B/Sで説明する方が良い。多少、B/Sの重要性が浸透してきた今なら、次のように説明するのではないか。

 

税効果会計では“繰延税金資産”と“繰延税金負債”が計上されます。この資産が計上されると法人税等が減って利益が増えるし、負債が計上されると逆に費用が増えます。問題は、どういうときに資産や負債が計上されるかです。

 

例えば、御社の場合、税務上は売上を発送基準で計上してますが、会計的には一部売上を取消して検収基準へ直してますね。そうすると利益は減りますが、法人税等は税法に従って減らす前の課税所得で計算するので大きめに計算されます。税引前利益に比べて税金が大きくなるので、利益と税金のバランスが崩れます。そこで、資産に計上すべきものがないか探して、あれば、繰延税金資産へ計上します。するとその分利益が増えて、バランスが良くなります。

 

資産に計上すべきものとは、将来、お金を生むものです。それが税効果会計の場合は、「将来の税金支出を節約できるもの」ということになります。

 

今年取消した売上や利益に対応する税金は、税務上は今年納税されるので、来年は、会計上売上や利益は計上されますが、法人税等としては発生しません。すると利益に対する税額のバランスが逆に小さくなります。これを“来年の税金の節約”と考えて、来年節約できる分を今年資産計上します。但し、来年業績が赤字で、税務上も課税所得がマイナスが見込まれる状況だと、来年は税金の支払い自体がありませんから節約もできません。節約できないなら、今年、資産計上できません。

 

ここまでくると、やはり、「難しいねぇ」と言われそうだ。だが、ここまで説明していれば、次のように締め括れるだろう。

 

要するに、ある程度の金額の税金を毎期支払っているような業績の良い会社でないと、税金節約効果である繰延税金資産を計上しづらいですよ。税効果会計のメリットを享受するには、コンスタントに納税し続けられる好業績を続けることがポイントです。

 

やはり、負債の話には到達できないが、“繰延税金資産の回収可能性”のエッセンスまでは話が持ちそうだ。それに、ここまでの知識が入れば、東芝のニュースを読んで「1,500億円も利益を減らすと、繰延税金資産が危うい」ことが、なんとなく理解できるだろう。そうなれば、恐らく、「聞いてみてよかった」と、一応、現業部門の方に思っていただけるような気がする。

 

 

さて、IFRSの場合、税法と会計の違い、即ち、一時差異までは各国の制度次第なので、ほぼ、守備範囲外になる。すると残りは、どの時点の税率で一時差異を計算するかや繰延税金資産の回収可能性といった部分になる。前者は簡単なので(=一時差異解消時の税率)、今後は、後者をメインに進んで行くことになる。

 

 

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*1 この部分は、会社によって、或いは、質問者の担当事業領域によって、適当に例を変える。例えば、税務上は認められない引当金(或いは、税法とは異なる引当金の計算方法)とか、税法耐用年数より短い経済耐用年数を使って減価償却している、減損損失など。

2015年7月27日 (月曜日)

494【番外編】エスパルスが監督を変えないワケ

2015/7/27

中国経済も、ギリシャ問題も難しいけど、今、もっと分からないことがある。なぜ、エスパルスは監督を変えないのだろうか。年間順位は、すっかり最下位に定着してしまった。ちょうど1年前、アフシン・ゴトビ監督が解任された時でも、もっと(全然)成績が良かった。

 

もしかしたら、地元出身でチームのレジェントである大榎監督の人気が高く、観客動員数が多いのかもしれない。そう思って調べてみると、確かにホームゲームは、昨年の同時期より1試合平均1千人以上多い*1。しかも、昨年は、大榎監督に変わってから、残留争いをしたこともあり、シーズンの終盤にぐんと観客数が伸びている。要するに、大榎監督は、エスパルスの収入に貢献している。応援団の受けも良いようだ。

 

ふ〜む、しかし、このままではJ2降格間違いなしだ。

 

J2に落ちても観客動員数は減らないだろうか。応援団も応援しがいないのではないか。それになにより、選手がかわいそうだ。ますます、日本代表に呼ばれたり海外移籍のチャンスがなくなってしまう。そうなれば、もう、良い選手を取れなくなってしまうだろう。

 

「チームは、サポーターのもの」と考えれば、観客が入っているうちは変えないという考え方もあるかもしれないが、さて、どうだろう。先のことを考えると、本当にこのままで良いのだろうか? それとも、「ここを耐えれば大榎監督が大成する見込み」があるのだろうか。

 

昨夜の“グローバルディベートWISDOM”はギリシャ問題がテーマだったが、来月は、是非、“エスパルスの監督問題”をやって欲しい。世界のWISDOMの意見が聞きたい。まあ、ありえないが。

 

 

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*1 観客数は次のホームページで調べることができる。

 

清水エスパルス 2015日程・結果・観客数 Football LAB

このページは2015年の情報だが、昨年以前の情報へのリンクもある。そのホームゲームを集計した結果は、次のようになった。

 

2015年開幕からホームゲーム10試合の平均観客数 14,810

2014年の同じ観客数 13,664

差引) 1,146人 2015年の方が多い。

 

 

2015年7月24日 (金曜日)

493【税効果01】日本基準の見直しを機に

 

2015/7/24

暫く、IFRSの話題から離れていたが、久しぶりに戻りたいと思う。しかし、規準が公表されて間もなく、早くも、改訂作業が始まったIFRS15「顧客との契約から生じる収益」ではない。IAS12「法人所得税」だ。これはいわゆる税効果会計を扱っている。

 

日本では、現在、税効果会計に関する規準の見直しが行われている。5/26ASBJ=企業会計規準委員会)から「繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針(案)」が公表され、7/27までコメント募集中だ*1。これに関連させながら、IAS12を眺めてみようと思う。

 

日本の会計基準の一部は、過去の経緯から、日本公認会計士協会(=JICPA)が会員(=公認会計士)向けに公表した文書が肩代わりしているものがある。その代表的なものが“監査委員会報告第66 号「繰延税金資産の回収可能性の判断に関する監査上の取扱い」”だ。今回、ASBJは、この66号の評判の悪いところを改善しながら、正式な会計基準としてのASBJ版へ置き換えようとしている。

 

IAS12が、“繰延税金資産の回収可能性”をどのように規定しているかについて、僕は具体的には知らない。僕も、IAS12はちゃんと読んだことがない。だが、不確かだが以前の記憶によると、原則主義のIFRSらしく、非常にラフな規定になっているイメージがある。だから、IAS12についてあまり記載する機会はなく、むしろ、66号と上記の公開草案の相違点が主な論点になってしまうかもしれない。

 

しかし、この見直しがIFRSと全く無関係に行われることはないだろう。恐らく、ラフなIAS12を読むにあたっての指針となるような内容になるのではないか。少なくとも、見直される日本基準とIAS12の書きぶりの違いを押さえておくことは、何かの役に立つに違いない。

 

ということで、次回から具体的な検討に入りたい。

 

 

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*1 公開草案については、ASBJの以下のページを参照のこと。

 

企業会計基準適用指針公開草案第54号「繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針(案)」の公表

 

 

2015年7月21日 (火曜日)

492【番外編】東芝第三者委員会報告の要約版

2015/7/21 申し訳ないが、早速、赤字部分と関連する脚注を訂正した。

 

2015/7/21

「“不適切会計”ってなに?」とか、「“粉飾”じゃないの?」などと話題になっていた東芝の件だが、昨晩、要約版が公表された。事前報道の通り、冒頭から歴代経営トップの責任を厳しく指摘する内容になっている。なお、以下では“粉飾”という言葉を使って、この要約版の内容を紹介する。

 

税引前利益修正額(1,518億円)については、各年度粉飾額の単純合計か、それとも2015/3期決算に追加で修正されるべき金額か、どちらを意味するのか、ちょっと迷った。というのは、あまりに金額が大きいので、例えば、工事進行基準の粉飾は、工事が終了し売上計上が完了すれば、そのタイミングで先送りされていた損失もすべて計上され粉飾額が減少するが、それが考慮されていない可能性を考えたのだ。しかし、粉飾額がプラス(=利益の過計上)の年度もあるので、後者の追加で修正されるべき金額と考えて良さそうだ。

 

これを受けて、東芝は、減損や税効果会計を見直し、決算を修正するとしている。

 

 

(工事進行基準関係)

 

個別案件ごとの記載を読むと、問題点が指摘されているのは、電力社のE案件とF案件を除き、大所では2014/12時点で未成工事扱いの工事に限られているようだ*1。粉飾されていた工事のほとんどが未成工事のままにされていたのか、それとも、完成工事扱いになったものをあまり調査の対象にしなかったのか、については確信が持てなかった 前者だった*2

 

おおよそ、経営者トップ層の強い予算達成へのプレッシャーが、カンパニー長や事業部長などの部門責任者の姿勢に影響を与え、現場が数字をいじり正しい報告をしなくなるというパターンで、損失先送りの粉飾が行われたという分析になっている。社長や監査委員会(東芝は委員会等設置会社)の委員長などの経営トップ層の関わりは、基本的には費用や損失の増加が許されないという社内の雰囲気を作ったこととされる一方、直接個別の案件で、損失計上を認めなかったとして名前が登場するケースもある。まあ、腐ってる。

 

工事進行基準案件の現場の数字のいじり方は、根拠のない追加売上額や、根拠のないコストダウンを見込む、或いは、受注当初から見込まれていた損失を無視する(驚くべきことに、これが結構多い)、内規を破って外貨換算を行わない、といった手法が紹介されている。

 

(映像事業)

 

映像事業では、損失先送りを損益管理の一環として組織的に行っていたそうだ。即ち、利益目標未達が予想される部分をキャリー・オーバー(=C/O)残高として管理しているという。具体的には、引当不計上、経費計上の遅延、在庫評価の不正、根拠不足の仕入値引の計上が行われていた。東芝は、外部監査人に対し、このC/O制度を隠していたとされている。

 

(パソコン事業)

 

パソコン事業では、有償支給取引を利用して粉飾していた。外注先に部品などを有償支給するときに利益を計上するという古典的な手口だ。本来であれば、外注先に部品を供給しただけでは利益は生じない。その部品が外注先で加工されて東芝へ戻り、それを東芝が外部顧客へ販売したときに初めて利益が発生する。

 

東芝は有償支給対価を利益を含めて未収計上しており、2012年度は利益の過大計上が296億円に及んでいたという(即ち、その金額以上の未収入金がB/Sに載っていた)。当然、こういう製造活動に密接に関連し大量に発生する会計処理はシステムで処理されているだろう。監査人は、システムで堂々と行われているこのような勘定処理を把握できなかったのだろうか。しかし、経理部門や経営監査部による意図的な隠蔽工作にあっていたという趣旨の記載もある。とはいえ、この件に関するこの報告書の監査人に対する評価は低い。

 

この利益を上乗せした部品取引は、経営トップも承知の上で、組織的な押込み販売まで行われていたという。このほか、映像事業と同様のC/O制度がパソコン事業にもあったとされ、経費等の遅延計上がされていた。

 

(半導体事業)

 

半導体事業では、在庫(特定顧客向け、特定用途の製造棚卸品)を廃棄するまで損失計上しなかったらしい。通常は、収益性の低下とともに評価損を計上する。これは、社内規定が会計基準に合っていなかったからとされている。しかも、標準原価と実際原価との差額である原価差異の配賦計算が不適当で、製造棚卸品の一部の評価が過大となっていたようだ。

 

 

(再発防止策)

 

まず、“直接な原因の除去”として、以下の項目が挙げられている。

 

経営上層部の社長、事業グループ担当執行役、財務担当執行役(=財務最高責任者)、カンパニー長らが関与し、その他の取締役や執行役も知っていた者がいるとされている。これらの人事上の対応が求められている。部課長レベルの責任追及にも触れている。この上で、意識改革と人材育成が求めらている。

 

東芝では、予算達成のために無理することを“チャレンジ”と呼んでいるらしい。このチャレンジをやめるよう求めている。これを“企業風土の改革”より先に記載している。それほど、いけないチャレンジだったということだ。そして、“会計処理基準全般の見直しと厳格な運用”を指摘している。

 

みなさんもお気付きと思うが、これらはJ-SOXでいう“全社的内部統制”であり、本来は、個別的内部統制を間接的にサポートするものだ。それを“直接的な原因”として挙げざる得ない状況にこそ、東芝の実態の腐敗ぶりが表れている。

 

そして、次に“間接的な原因の除去”が挙げられている。

 

社内カンパニーから独立した東芝及びそのグループ各社を横断的に強力にチェックできる内部監査部門の設立、取締役会の管理監督機能の強化、監査委員会の強化、内部通報制度の強化、社外取締役の増員や入替、適切なローテーションが挙げられている。

 

正直言って、ここまで悪いと教科書に戻るしかないという感じだ。みなさんも、いずれも、当たり前のことのように感じられると思うが、第三者委員会が言いたいのは「もう一度、一から作り直してください」ということだと思う。だから、そういうことを書くしかなかったのだろうと思う。

 

 

以上が、要約版の要約だが、みなさんもここまで読んで「名門東芝の惨状極まれり」と思われたと思う。しかし、この報告書の最後(P76)に、「第8章 最後に」という短い文章がある。ここに、東芝社内から第三者委員会へ寄せられた反省や東芝を憂う声が紹介されている。これらの声こそが、今の東芝に残された希望だ。東芝の復活には東芝関係者ががんばるしかない。

 

 

 

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*1 C案件については、納期が2009/12月だが、追加の保証工事が発生し、そのコストが今まで決算に反映されていなかったという。したがって、C案件は、納期はとっくに過ぎているが、この報告書上は未成工事扱いと思われる。また、G案件については納期が2013年から2019年に納期が到来する複数契約を1案件として扱っているので、部分的には工事が完了している可能性がある。ただ、複数を契約を1案件として会計処理している可能性もある(=この場合は、会計上、すべて未成工事扱い)。さらに、I案件も一部の納期が到来してるようだが、その割合は低いと思われる。また、L案件以降の少額案件にも納期が到来しているものがあるが、影響金額が小さい。

 

*2 調査した工事案件のサンプル抽出基準は次のように記載されている(P19 脚注)。

 

ロスコン案件については最終的な工事損失金額、ロスコン以外の案件については見積工事原価総額の過小見積りによる損益影響額が5億円以上と見込まれる案件

 

なお、“ロスコン案件”とは、東芝社内用語で「2億円以上の工事損失(累計)が発生している案件」のこと。

 

この違いは、監査上、内部統制をどの程度信用するかの判断に重要な影響がある。

 

この報告書に記載されたもの以外に、工事完了時、或いは、完了間際に想定外に多額の費用計上が繰り返されていた場合、進捗率の正確な算定を支える内部統制を信用できなくなるからだ。しかし、そういうことがなく(そういうものはE案件、F案件のみで)、予定した利益率が確保された案件が多かったのであれば、監査上、この内部統制を信用できると判断されることもありえると思う。この信用度合いが、監査をどこまで詳細に行うかを決定する重要な要素となる。即ち、監査人の警戒の度合いが決まってくる。

 

ただ、G案件では、東芝と監査法人(=新日本監査法人)の意見が対立したまま2013/12(四半期)決算が公表されている(=監査上は最終的に重要性でパスした)。対立したままということは、東芝の説明に監査法人が納得していないということなので、監査法人は、少なくともこの後には、警戒レベルを高めたはず。(ただ、対立の原因となったのは、米国子会社からの工事原価総額見通しが、2013/9時点で引き上げられたためであり、なぜ、対立が2013/12になったのかは分からない。米国子会社からの報告が遅かったのかもしれない。)

 

なお、この報告書では、工事原価の見積もりの妥当性について、監査人が工事の専門家である東芝担当者や経営トップまでを含む組織的な隠蔽工作に対処することは困難と評価している(P69 5.会計監査人による監査」)。ただ、監査人は、この報告書にいうチャレンジングな社風とこの見積もりの難易度及び重要性をわかっていたと思う。それにどう対応したかが問われるだろう。

 

 

 

2015年7月19日 (日曜日)

491【番外編】ギリシャ問題、新しい主役はIMFか

2015/7/19

ギリシャの債務削減(=元本カットや、返済条件緩和による実質債務カット)に関するIMFの積極的な発言が目立ってきた。IMF2010年のギリシャ危機では内規を曲げて融資判断することで、今に至る問題先送りに主導的な役割を果たした(という主張もある。詳しくは「480 ギリシャの言い分」を参照)。その後、トップ(=専務理事)もラガルド氏へ交代し、軌道修正を図っているようだ。

 

15日にギリシャ議会が第3次金融支援交渉開始に必要な緊縮策の法制化を受け入れ、17日にはドイツなどの国会決議が必要な国もその手続を済ませた。そして20日にはつなぎ融資も実行される見込みとなった*1。このほか、ECB(=ヨーロッパ中央銀行)も、ギリシャの銀行に対する資金繰り援助を増額した*2。これで、ギリシャ危機は一息ついて、資本規制については、直ちに解除はできないが多少緩和されるかもしれない*2

 

これまでのギリシャと債権者たちの交渉は、ギリシャ政府の収入や支出といったフローに偏っており、より根本的な問題である債務削減というB/Sの問題は避けられてきた。主にドイツが議論に上げることを強硬に反対したためだ。しかし、15日以降は、我々が目にする報道でもB/Sの問題、即ち、債務削減に触れたものが目立って増えてきた。恐らく、冒頭に記載したように、IMFの姿勢が変化したためと思われる。

 

そこで、今月の債務削減に関するIMFとドイツの動きを中心に振り返ってみよう。

 

2日、IMF ギリシャ債務の持続可能性に関する報告書 を公表

ユーロ圏諸国は公表に反対し、米国は賛成したらしい。この報告書でIMFは、債務削減などの大規模な軽減策が実施されない限り、ギリシャ債務は持続可能にはならないと指摘*3

 

5日、ギリシャ国民投票で欧州緊縮策にNO

 

911日、チプラス首相、一転して緊縮策受入提案

 

11日、ドイツの“ギリシャの一時的なユーロ圏離脱+債務減免”の主張が明らかに*4

この時点でユーログループ(=ユーロ圏財務相会議)は、IMFの提案(=ギリシャ債務削減)を議題にすることを拒否*5

 

13日、ユーロ首脳会議でより厳しい交渉開始条件をギリシャ受入

ギリシャは、IMFが支援に完全に関与することに抵抗していたが*6ドイツが議会承認には不可欠として受け入れさせた*7

 

15日、ギリシャ国会でより厳しい緊縮策を法制化

 

17日、ドイツなどの国会承認手続を終了、ギリシャ支援協議再開決定

同日、IMFのラガルド専務理事は、ギリシャ支援策に債務再編と大胆な改革を含めることがIMFが参加する条件になると指摘した*8

 

 

以上から、IMFは面白い立ち位置にいることが分かる。

 

・ギリシャはIMFを嫌っているが、ギリシャが望む債務削減を主張しているのはIMF

 

・ドイツにはIMFの関与が必要だが、ドイツが一番嫌な債務削減を主張しているのはIMF

 

嫌いなIMFに頼らざる得ないギリシャ。うるさいIMFに耳を貸さざる得ないドイツ。そして、IMFは積極的に動いている。この問題の解決に、そしてヨーロッパ統合の維持に、明るい兆しが見えてきたように思う。

 

 

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*1 ギリシャ支援交渉決定 REUTERS 7/18

 

この記事は次のように報じている。

 

EUは同日、ギリシャに対する緊急支援として71億6千万ユーロ(約9600億円)のつなぎ融資も決定。ギリシャの財政問題解決に向けた態勢が整った。

 

この資金は、欧州金融安定メカニズム(EFSM)からギリシャへ提供されるそうだ。

 

*2 「ギリシャ銀行に対する資金繰り援助」とは、「緊急流動性支援(ELA)」のこと。次の記事によると、ギリシャの銀行は20日から営業再開するという。

 

ギリシャの銀行、20日から営業再開 ECBの資金供給拡大受け REUTERS 7/16

 

ただ、ELAの上乗せは僅かなものなので、市民生活は不自由な状態が続く。次のような例が紹介されている。

 

マルダス財務副大臣は、1日60ユーロの引き出し制限について「たとえば60ユーロを20日に引き出さなかった場合、その分を翌日に持ち越し、21日には120ユーロ引き出せるようにする」と述べ、そうできるよう手続きを進めていると述べた。

 

*3 IMFのギリシャ債務報告書、欧州は公表に反対=関係筋 REUTERS 7/4

 

*4 ギリシャの「一時的なユーロ圏離脱」、ドイツ政府が提案 REUTERS 7/12

 

この記事には次のようなショイブレ独財務相の発言が記載されている。

 

ショイブレ財務相は10日、ギリシャは債務のヘアカット(元本削減)が必要だが、ユーロ圏内では違法になると指摘していた。

 

この発言は、IMFの報告書を受けて、ドイツ首脳陣もギリシャの債務削減の必要性を認めざる得ない状況に至った可能性を示している(ドイツ国民や議会は別)。ただ、このドイツの提案についてEU当局者は、「“一時的なユーロ圏離脱”自体が(離脱規定のないユーロ圏では)違法」との見解を示したという*5

 

債務カットは、ユーロ圏に留まれば違法だし、それを避けてユーロ圏を離脱しようにもそれがまた違法ということで、この時点では、議論が先送りされたようだ。

 

*5 ユーロ圏財務相はギリシャで結論持ち越し-日本時間午後に再開 Bloomberg 7/12

 

*6 ギリシャは、第1次金融支援、第2次金融支援の経緯や結果から、IMFを快く思っていないようだ。今回、ギリシャの債務削減の必要性を最も強く主張しているのはIMFだが、まだ不信感が払拭されていないらしい。

 

*7 ユーロ圏首脳が支援開始条件でギリシャと合意、議会可決が必要 REUTERS 7/13

 

この記事には次のような記載がある。

 

ギリシャは国際通貨基金(IMF)が支援に完全に関与することに抵抗していたが、ドイツが議会承認には不可欠として受け入れさせた。

 

ドイツは、第一次世界大戦後のハイパーインフレの記憶から、政府の財務規律を非常に重んじている。このため、他のユーロ諸国に対しても、財政赤字を厳しく律するよう要求する。ギリシャ問題でIMFの関与を求めるのは、恐らく、ユーロ諸国のみの意思決定では、利益相反や個別の利害により融資判断が歪む(=甘くなる)可能性があることから、第三者としてのIMFの判断を尊重する仕組みがあるものと思われる。また、一国の財政状況を判断することは、個人や企業より遥かに複雑で困難が多いが、IMFはそれが仕事であり、慣れている。

 

*8 IMF、ギリシャ支援参加は債務再編が条件=専務理事 WSJ 7/17

 

この記事は有料記事の可能性があるので、閲覧できない方は、簡単ではあるが下記の記事でも良い。

 

IMF、「完全な」ギリシャ支援策には参画へ=専務理事 REUTERS 7/17

 

2015年7月16日 (木曜日)

490【番外編】中国GDP統計と公正価値評価

2015/7/16

7月中旬といえば、そろそろ、東芝の第三者委員会報告が開示される頃だ。そう思って日経電子版を開くが、まだのようだ(7/15 時点)*1。その代わり、中国のGDP成長率が、この46期も7%とのニュースが目に入った。確か、13期も7%だったような…

 

このところの中国経済指標に良い印象はない。昨年11月以来4度も利下げをしたが、指標の勢いは弱まり続けている。したがって、アナリスト予想の平均も6.8%とされていた。それが今年の政府目標の7%にピタリと一致した。「意外に強いなあ」と思った。そう“意外”なのだ。

 

関係する記事を色々当たってみると、面白いものがあった。みなさんも読まれたかもしれない。

 

株、投資家が身構える中国リスクの飛び火 日経電子版 7/15 有料記事

 

15日、下げ止まりの兆しを見せていた中国・上海株が4~6月の国内総生産(GDP)結果発表後に一時5%安と下げ幅を広げた。

 

なんと、GDP成長率が予想を上回ったのに株価が下がったと書いてある。そのきっかけが『中国当局の担当者が「GDPのデータは正確で、意図的に引き上げられたことはない」と発言した』ことだという。これで、かえって「意図的に引き上げたられたのではないか」という疑念を生んでしまったということか。

 

オフショア人民元、1週間ぶり大幅高-予想上回る中国GDP Bloomberg 7/15

 

ブルームバーグの集計データによれば、香港オフショア人民元は現地時間午後4時38分(日本時間同5時38分)現在、0.03%高の1ドル=6.2131元。これは8日以来の大幅な上げ。中国外国為替取引システム(CFETS)によると、上海市場の人民元は前日比ほぼ変わらずの6.2092元で引けた。

 

元相場は、香港では大きく上げたが、上海では変わらなかったという。香港市場は公表されたGDP統計に素直に反応したが、上海市場はそれをスルーした。(香港で取引できる人民元(オフショア)と上海で取引される人民元(オンショア)は、規制が違うので別レート。)

 

国内で政府統計がこれだけ信頼されないとは… かなり珍しい状況になっている。

 

とはいえ、日本のGDP統計も算出過程が不透明だ。特に最近民間アナリストが予想を大きく外しているが、何が間違っていたのかを、アナリストらが後から検証できないらしい。しかし、日本のマーケットは、予想より良ければ上がるし、悪ければ下げる。一応、日本政府が公表する統計指標には敬意を表した反応をしている。

 

加えて、日本市場や香港市場は外国投資家も参加しているが、上海はほぼ地元の投資家のみの市場だと認識している。それなのに、予想を超えるGDP成長率という良いニュースに、逆に反落したり、無視するとは。敬意のかけらもない。

 

これも、先月下旬以降の中国政府のなりふり構わない株価対策の影響か。マーケット参加者は、もはや、国内市場を信じていないのかもしれない。

 

ここまで考えてふと思った。もし、このタイミングで決算期を迎えたら、株式の評価はどうするのだろうと。果たして、このような市場における価格は公正価値になりえるのか? 売買停止している企業の株価はどうなるのか。

 

中国本土企業は12月決算と法定されているが、上場会社には四半期決算があるので、6月末の評価が問題になっているかもしれない。そうでなければ、中国国営企業の決算は、中国GDP統計と同じぐらいの信頼性になってしまう。

 

中国上場株式を持っている日本や他国の企業も、今頃頭を痛めているかもしれない。

 

 

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*1 第三者委員会の報告書はまだだが、次の記事を見つけた。

 

東芝、不適切会計で3000億円台の損失計上を想定=関係筋 REUTERS 7/16

 

不適切会計問題による営業利益の減額修正に伴う損失に合わせて、半導体関連設備の減損処理、利益縮小に伴う繰り延べ税金資産の取り崩しなどで、合計3000億円台の損失計上を想定していることがわかった。

 

どうやら、利益剰余金はマイナスになりそうだ(払込資本が多額なので、債務超過にはならない)。

2015年7月14日 (火曜日)

489【番外編】ドイツのパワハラ?

 

2015/7/14

 ギリシャ人曰く。

「5年間言われたとおりにしたが、経済は縮小するし、失業率も下がらない。負債は逆に増えるばかり。今度こそ、本当に助けてくれ。」

 

 ドイツ人答えて言うには、

「怠け者め、全然、努力が足りないよ。助けて欲しけりゃ、さらに節制せよ。」

 

 ギリシャ人曰く。

「もう限界だ。これ以上の搾取は止めよ。」

 

 ドイツ人答えて言うには、

「なに? 反抗は許さない。(法案を通してから)出直してこい。」

 

今回のギリシャ危機は、僕にはこんなやりとりが聴こえてくる。僕はギリシャに肩入れしているので、こんな感じだが、一般的には、全く違う会話に聴こえているだろう。例えば・・・

 

 ギリシャ人曰く。

「これ以上の労働も節制もイヤ。早く援助してくれ。」

 

 ドイツ人答えて言うには、

「天は自ら助くる者を助く。」

 

 ギリシャ人曰く。

「じゃ、やるよ。働くし節制もする。だから助けてくれ。」

 

 ドイツ人答えて言うには、

「信用できない。(法案を通して)証を見せよ。」

 

 

ドイツは「ギリシャの(言葉の)信用」に焦点を当てているが、僕は「ギリシャの返済能力」に焦点を当てるべきと思っている。IMFも、そう主張している。だが、ドイツのメルケル首相はそれを「問題外」としているそうだ。(「ギリシャ債務のヘアカットは問題外、メルケル独首相が再度表明REUTERS 7/9

 

12日のユーロ圏首脳会議は大幅に延長、夜通し17時間も行われたという。双方とも一生懸命だ。しかし、上記の会話と同様、結論*1の受け取り方も掛け違っている。首脳会議後の両首相の発言を並べてみよう。

 

 メルケル首相

メルケル首相は、痛みの伴う改革をギリシャが実行すると信じているかとの質問に対し、「長く困難な道のりになるだろう」と述べた。(「独首相、支援協議開始を議会に推奨へ ギリシャの法案通過条件にREUTERS 7/13

 

 チプラス首相

チプラス首相は夜通しの協議を終えた後、記者団に対し「今回の厳しい協議で、われわれは何とか債務再編を勝ち取った」と述べた。(「ギリシャ、成長パッケージと債務再構成でユーロ離脱回避=首相REUTERS 7/13

 

メルケル氏はギリシャに苦難を与えたと思っているし、チプラス氏は(ユーロ圏残留と)債務再編を勝ち取ったと思っている。まあ、双方ともそれぞれ国内向けの発言なので、焦点が食い違うのは当然かもしれない。しかし、少なくとも債務再構成は、議論のテーブルに乗せることは決まったものの、再構成されることが決まったわけではないし、債務削減(=元本削減)は議論の対象外とされている*1。チプラス氏は、意図的に楽観的な見通しを述べている。

 

しかも、ギリシャが15までにより厳しい緊縮策を議会通過させても、それは(第3次支援)交渉に入る切符を得るに過ぎないし、支援が決まるまでのつなぎ資金の出し手はまだ決まっていない。チプラス氏が言うように、第3次支援で債務削減を求めるなら、ギリシャ国民だけでなく、チプラス氏にとっても長く困難な道のりが待っていると思う。明らかに状況は、メルケル氏の発言の方に合致している。

 

だが、それはメルケル氏が正しいからではなく、ドイツに押し通す力があるからだ。僕には、これがパワーハラスメントのように見えるから、このまますんなり状況が改善に向かうようには思えない。ギリシャ国民は反発するだろうし、それを受けてドイツ国民はもっと態度を硬化しそうだ。恐らく、まだまだ、波乱は続くに違いない。

 

7/8の「487【番外編】ギリシャ問題からドイツ問題へ」で書いた“新しい主役”は、IMFか、フランス・イタリアか。いずれにしても、まだ、主役にふさわしい活躍はしていない。

 

 

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*1 ユーロ圏首脳会議の結論(=ギリシャが越えるべきハードル)が比較的詳細に記載されているのは、以下の記事。

 

情報BOX:ユーロ圏首脳が合意したギリシャ新支援への条件 REUTERS 7/13

ユーロ圏首脳が支援開始条件でギリシャと合意、議会可決が必要 REUTERS 7/13

ユーロ圏首脳がギリシャ支援合意、全会一致で=EU大統領 WSJ 7/13

 

繰返し報道されている付加価値税増税や年金改革のほか、以下が目を引く。

 

・主要法案を議会などに提示する前に、債権団(ユーログループ、IMFECB)の事前承認を得ること。

 

・ギリシャ国有資産をギリシャ政府から独立した信託基金へ移管し、資産売却を進めること(一部国営企業の民営化を含む。規模は500億ユーロ/7兆円弱。売却資金は債務返済や銀行への資本注入などに使われる)。

 

その他、行政機関を政治から独立させ近代化を図る諸制度改革、労働市場改革なども盛り込まれている。

 

これらと引き換えに、ギリシャが受ける支援は、860億ユーロ(約11兆円)のESMからの融資と、債務の再構築の可能性(“再構築”とは、返済スケジュールの後ろ倒しや金利減免のことらしい。“可能性”と書いたのは、交渉のテーブルに乗せるということであり、再構築が決定したわけではないため)。債務削減(=元本削減)はしないという。

 

ギリシャが債権者たちから受ける監視・干渉を、企業や個人の話に置き換えて考えてみよう。企業なら管財人に支配された企業のようだし、個人なら破産者扱いだ。当然債務免除(=元本削減)も受けているだろう。しかし、ギリシャには、まだそれが許されていない。

 

2015年7月13日 (月曜日)

488【投資】イタッ! 中国株の暴落

2015/7/13

若いみなさんには分かりにくいと思うが、僕の歳になると、体が予想外の動きをする。というか、思ったとおりに動かないことがある。そして、転んだり、ぶつけたりして、痛い思いをする。8日(火)から9日(水)にかけて、まさに、そんな動きだった。

 

810時過ぎにパソコンを見ると、日経平均がすでに暴落していたが、これがまず予想外だった。

 

7日夜は、欧州株価はギリシャで下落したが、8日朝、米国は上昇して終わっていた。ギリシャ問題に明るい兆しが見えたのだ。為替レートも戻っていた。

 

おかしい。これはギリシャじゃない。恐らく、中国だ。

 

14時半ごろにパソコンの前に戻ると、今度はパソコンがいうことを聞かない。ネットに繋がらないのだ。色々試したが、結局再起動して株価を見ると、さらに大暴落していた。ニュースでは今年一番の下落幅と報道されている。原因は中国の株価の下落が止まらないことで、リスクオフ(=弱気)になったからという。

 

ふむ、中国株がバブルだったことは、(中国人以外は)みんな知っていたはず。この結果は事前に見えていた。それに、欧米や日本の投資資金はほとんど入っていない。主に傷んでいるのは中国国内の投資家、それも、この数ヶ月間で投資を始めた人たちだ。仮に、中国の実体経済へ悪影響を及ぼすレベルに達すれば、中国政府は経済対策を打つはずだ。まだ、手は残っている。中国経済の崩壊を連想する段階ではない。

 

日本に直接関連する段階に至ってはいない。なのに、日本の株価が、なぜこんなに素直に連動するのか。もしかして、日本もパニックに陥っているのか?

 

超えられると思った段差につまづいたような、いやな感覚に襲われた。

 

15時に市場が閉まるので、もう考える暇はない。とりあえず、日経平均に2倍連動するETFを買い増すことにした。そして閉局。時価評価してみると、イタッ! 含み益がかなり消えている。

 

さて、この痛みが本当に出血につながるかどうか(=損切りに追い込まれるかどうか)。8日夕方、とりあえず、欧州市場は上昇して始まった。落ち着いている。しかし、夜、米国市場は反落でスタート。為替レートは121円まで円高に振れている。翌朝(9日)はどうなっているか。

 

今日(9日)は、売れる状態であれば、少なくとも昨日購入した分については売ると思う。しかし、売れなければ、包帯でぐるぐる巻きにして、治るのをしばらく待つしかない。

 

 

と思って寝たのだが、9日未明、2時か3時に目が覚めてしまった。不安なのだ。米国はどうなっているだろう・・・。暴落している。でも、取引が終了する頃には戻るかもしれない。なんとか、気を落ち着かせて、もう一度寝る努力をした。

 

次に目覚めたのは、5時過ぎ、ニューヨーク市場はもう取引を終了している。暴落したままだ。えっ、システムトラブルで取引停止? なんてことだ。中国・ギリシャの影響なのか、システムトラブルの影響なのか、見極めが難しい。

 

東京市場は9時に始まるが、その前に方針を立てなければならない。もう一度布団をかぶりながら、朝食を食べながら、新聞を読みながら、考え続けた。結論は、市場が開いたら、「短期保有分を全て売ろう」だった。8時頃には、寄付き(=市場開始と同時)で売却するよう注文を入れた。

 

9時過ぎに相場を見てみると、やはりどんどん下がっていた。よしよし、売ってよかった。

 

2時ぐらいにまた見てみると、今度は一転して上がっていた。あれっ、しまった。上海も上げている。失敗だった。ん〜、ジェットコースターに振り落とされた。頑張りが足りなかった。まだ、中国もギリシャも、直接、世界経済に大きな影響を与える問題として認識されてなかったのだ。

 

ということで、短期保有分ではかなりの大出血、大損をした。今年の売却益総額をひっくり返すほどではないし、長期保有分には十分な含み益があるが、つくづく、自分の未熟さを痛感した。

 

ギリシャや中国の問題が、直ちに世界経済に直結するような問題ではないと思っていたのにもかかわらず、こらえきれずに売ってしまった。しかし、過ぎたことは仕方がない。問題はこれからだ。すぐに買いを入れ戻すか、それともしばらく様子を見るか。

 

 

とりあえず、先週は様子を見ながら、ちょっとだけ買い戻した。今週も同じような調子で行くつもりだ。リハビリのつもりで、買い急がないよう注意しながら。

2015年7月 8日 (水曜日)

487【番外編】ギリシャ問題からドイツ問題へ

 

2015/7/8

480【番外編】ギリシャの言い分」(6/21)では、ドイツ・バイアスのかかったマスコミ報道のなかで存在感の薄いギリシャ側の見方を紹介した。しかし、その元ネタは 5/21 放送の“BS世界のドキュメンタリー”であり、NHKオンデマンドでも見られない。「もっと正確に知りたいのに残念」と思われた方が多かったと思う。

 

その後、ギリシャの国民投票で債権者たちに“No”が突きつけられてから、比較的多様な報道・意見が出されるようになり、そのなかに、上記“480”に通ずるものが2つあったので、改めて、紹介したいと思う。リンクを辿っていただければ、今度は正確な内容を確認することができる。

 

ギリシャ再建、絞られたシナリオ 日経ビジネス(7/7

 

これは、元IMFシニア・エコノミストの植田健一氏が、バイアスのかからない“中立的な立場で”寄稿したもの。“480”では、次のように記載したところを、植田氏は下記のように解説している。

 

480

特に、IMFはこの時、それまでの融資基準を曲げて「ギリシャは返済可能」と判断したという。即ち、IMFは、2010年時点で「ギリシャは(従来のルールでは)債務返済能力なし」と判断すべきところを融資したらしい。

 

植田氏(1Page目の下から2段目の段落)

この原則に従えば、ギリシャは、2010年の第1次ローンの時点で債務削減を実行するべきであった。しかし当時はリーマンショックによる世界的な金融危機が発生しており、ギリシャが債務削減を進めると他の南欧諸国にも飛び火し、債権者である独仏を中心とした銀行団がさらに弱体化する危険があった。こういった側面もあり、債務削減なしの資金融資があくまで特例でなされたのである。

 

IMFの内情を知る植田氏が、「2010年の第1次ローンの時点で債務削減を実行するべきであった」と述べている。そして、「債務削減なしの資金融資があくまで特例でなされた」とも。

 

さらに、その次の段落では、2012年に債務削減が行われたが、(独仏などの)銀行団が保有していた多額の債権は、すでにECBなどの公的機関へ振替って、債務削減の対象に含まれていないことが記載されている。これは、ギリシャの債務が、あまり削減されていないことを示している。

 

IMFは、7/2にギリシャに関する「債務持続可能性分析」を公表した(上記植田氏のコラムの3Page目の「落としどころは?」)。ここで IMF は、ようやく“債務減免、棒引きが必要”と認めた。理由は「(チプラス政権になってから)債務が持続不能になったから」だ。(実は、2010年から持続不能だったのに!)

 

しかし、最大援助国であるドイツが債務削減を非常に嫌がっている。政治家も大多数の国民も、ドイツ国民の血税がギリシャの借金棒引きに使われることに嫌悪感を示している。「借りたものは返すのが当たり前だ」というのだ。(繰り返し報道されているので、みなさんも、ご存知と思う。)

 

ピケティ氏、ドイツのかたくなな姿勢を非難 ギリシャ債務問題 WSJ 7/7

(有料記事だが、リンク先で下記に紹介した文章までは読むことが可能)

 

これについて、昨年「21世紀の資本論」で一躍有名になったピケティ氏が次のように噛み付いた。

 

 フランスの著名経済学者トマ・ピケティ氏は、ギリシャの債務減免の検討を拒否しているドイツを激しく非難した。

 

 ドイツは第1次世界大戦後の対外債務も、第2次世界大戦後の債務も返済しなかったと指摘、「他の国に説教できるような立場にはない」と述べた。

 

 

多くの報道では、「国民投票の結果を受けてもギリシャの窮地は変わらず、結局、債権者たちの要求を受け入れるしかない」ことを前提とした、あるいは、そのような角度から書かれることが多い。例えば、7/20ECBが保有するギリシャ国債の償還期限を示して「もう時間がない」などとする記事だ。しかし、「返せないものは返せない」のであり、「無理強いされれば植民地になる、ドイツ人の奴隷にされる」というギリシャ人の悲鳴こそが、経済実態であるように思う。

 

ということで、「ギリシャ問題が解決されるには、債務減免を避けて通れない」というのが、僕の見立てだ。ギリシャ首相のチプラス氏は、国民投票の結果を受けて、ドイツにそこを認めさせることができるだろうか。多くのマスコミ報道にあるように、簡単ではない。というか、無理かもしれない。

 

もし、頑固なドイツから何の妥協も得られず、「国民投票の成果は、バルファキス財務相辞任のみ」なんてことになったら、ギリシャは本当にEUからも脱退するだろう。ドイツ人の過半数は、ギリシャのユーロ離脱を望んでいる*1が、プライドをズタボロにされたギリシャ人の気持ちを想像すれば、ユーロ離脱はEU脱退に繋がる。そして、ヨーロッパの団結はカードで組んだ城のように脆い。ギリシャというカードを取り除けば、全体が崩れる*2

 

 

そういえば、以前から「バルファキス財務相は、ブルース・ウィリスに似てる」と思っていたが、すでにいろいろなところで話題になっているようだ。ブルース・ウィリス氏は、映画「ダイ・ハード」シリーズで「世界一ツイていない不死身の刑事ジョン・マクレーン」役で有名なハリウッド俳優だ。

 

ジョン・マクレーンは、なぜかいつも、テロや凶悪組織犯罪に巻き込まれ(=世界一ツイてない)、一度は追い込まれ、捜査から外されたりもするが、驚異的な粘り強さで敵の前に再登場し、最後には紙一重で勝利を収める、そんなヒーローだ。

 

その性格は、「相手を怒らせることにかけては世界一」だ。(確か、マクレーン刑事の奥さんや娘さんがそんなセリフを言っていた。) そんなところも、バルファキス氏と共通している。バルファキス氏の財務相辞任理由は、「交渉相手に嫌われた」だ*3

 

財務相辞任で、現場を去ることになったバルファキス氏。果たして、それでも「驚異的な粘り強さで再登場し、最後には勝利を収める」ところまで似られるか。

 

 

そんな非現実的なことにまで期待を寄せたくなるほど、この問題は難しい。ギリシャ問題を裏側から見れば、ドイツ問題(=融通が利かない頑固なドイツ人)だ。恐らく、このままでは、ヨーロッパはこの先ずっとこの問題に悩まされ続けるような気がする。

 

別にドイツ人に悪意があるわけではない。ドイツ人は筋を通したいだけだ。ただ、それが行き過ぎると相手を追い詰めすぎて、問題を余計大きくしてしまう。しかし、人間、自分自身の問題には気がつかないものだ。だから、ドイツ人に気がつかせてあげられれば、きっと良い方向が見えてくるように思う。誰かが、鈴をつけねば。それはフランスか、イタリアか、イギリスか、或いは、米国か*4。ここからの展開は、ギリシャ、ドイツ以外の新しい主役がいつ登場するかにかかっている。

 

 

 

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*1 ギリシャのユーロ圏離脱、ドイツ世論調査で賛成過半数 REUTERS 6/13

 

この記事は、先月12にドイツの公共放送ZDFが公表した世論調査に基づいている。最近はもっと先鋭化しており、例えば、次のような記事もある。

 

アングル:「ユーロ圏から出ていけ」、ギリシャ見放す独産業界 Newsweek7/2

 

*2 ギリシャ財務相(当時)のバルファキス氏の次の言葉を拝借した。

 

ユーロ圏はぜい弱で、カードで城を作っているようなものだ。ギリシャのカードを取り除けば、全体が崩れる。ギリシャが離脱すればユーロ圏は崩壊=バルファキス財務相 REUTERS 2/9

 

*3 ギリシャ財務相が辞任、債権団との交渉のためと首相が判断 REUTERS 7/6

 

要するに、ドイツのジョイブレ財務相などを、異常に怒らせたということだろう。両者の確執は、以前から取りざたされている。例えば、次の記事。冒頭に、バルファキス氏がドイツに中指を突き立てたことが記載されている。これは怒る。

 

ナチスの歴史を巡るドイツとギリシャの確執The Economist(日経ビジネス3/26

 

*4 とりあえず、Financial Times のコラムニスト Edward Luce 氏は、新しい主役を米国に求めている。

 

[FT]米国、ギリシャを傍観する無力な巨人  (日経電子版7/7)無料記事

 

どうも、イギリスではさなそうだ。キャメロン首相は、自国のことしか頭になさそうだから。

 

英国がユーロ離脱たきつける公算 自国経済への波及嫌い 産経ニュース(7/6

 

2015年7月 7日 (火曜日)

486【投資】中国とギリシャで途中下車?

2015/7/7

中国の“一帯一路構想”なら、中国とギリシャは始発駅と終着駅。下車するとしたら、“途中下車”にはならない。よって、今回は“一帯一路構想”の話題ではない。僕がタイトルを“途中下車”としたのは、僕の投資を一旦売却してゲームから降りることを意味している。要するに、この先、株価が上がり続けるかどうかが不安になってきたのだ。

 

 

それは臆病すぎるのでは? と思われるかもしれない。確かに、次のような情報もある。

 

⚫️ 中国

 

上海や深セン市場の株価が暴落しているが、日本や欧米の資金はほとんどこれらの市場には入っていないと言われており、あくまで影響は中国国内に限られる。

 

日本へ爆買いに来ている富裕層が株価暴落の損害を受けており、今後、インバウンド需要が減少する可能性を危惧する声がある。しかし、今回の暴落で本当に損害を受けているのは、最近株式投資を始めたもっと下の層が多い。日本への影響は心配するほどではない。

 

したがって、あまり深刻に考える必要はない。

 

⚫️ ギリシャ

 

ギリシャの経済規模(GDP)はEU2%ほど。それがデフォルトしようが、何しようが、世界経済に大きな影響はない。しかも、ギリシャ市場に民間の投資資金や融資はほとんどなく、多くは政府や国際機関で賄われている。ますます、民間経済に対する影響は限られる。

 

2012年の欧州危機の時は、PIIGSと呼ばれたイタリアやスペインなどの脆弱な経済の周辺国への影響が心配された。しかし、現在は、ESM=欧州安定メカニズム)による金融支援制度が確立され、ECBによるユーロ圏加盟国の国債買取制度もある(3月より量的緩和を実行中で、そのほか、OMTと呼ばれる国債買支え防衛策も用意されている)。ギリシャの影響を他の国へ飛び火させない仕組みが整っている。

 

したがって、これも、あまり深刻に考える必要はない。

 

加えて・・・

 

ヨーロッパ経済は上向いている。特にドイツは安いユーロの支えもあってずっと絶好調。その他の国も、ここに来て、数ヶ月前に心配されていたデフレ(=日本化)不安が薄らいでいる。経済の体温は徐々に上がってきた。ギリシャ問題の霧が晴れた時には、素晴らしい景色が見られるかもしれない。

 

中国経済は、西側の複雑な経済システムとは異なりシンプルで、まだ中国共産党(や政府)が統制可能な状況にある。現在、消費が経済を主導する“新常態”への移行を目指しており、その改革過程で経済成長が減速したり、債務調整するのは共産党の想定範囲内。習近平中国共産党主席の権力基盤は腐敗撲滅キャンペーンでますます強固になっており、国民からの人気も高いので、この改革の実現可能性を低く見てはいけない。

 

と、こんな意見もあるようだ。(以上は、色々なものを見たり、聞いたり、読んで得られた印象をまとめて記載したので、残念ながら、具体的にどの記事に書いてあったかを示すことができない。)

 

しかも、日本経済もようやく上向く兆しが見えてきた*1。個別企業業績は、アベノミクス以来円安にサポートされて好調だったが、日本経済としては消費税率アップの影響もあり、なかなか改善が実感できなかった。しかし、この夏には、いよいよその時がくるかもしれない。

 

 

しかし、僕の経験では、夏の株式相場は盛り上がらない。わずか数年の乏しい経験に過ぎないが。株の世界では、これを“夏枯れ”というそうだ。

 

ギリシャは、中期的に見れば、なんらかの解決へ向かうだろう。そうすれば、それなりの相場に落ち着く。早ければ(=欧州首脳が政治責任をとれば)、夏枯れが終わらないうちに、霧が晴れる可能性もある。問題は、その頃中国がどうなっているかだ。

 

中国は、政府によって公表されるGDPなどの統計と、マスコミ報道の間に隔たりが大きいので、非常に実態がつかみづらい。中国の統計は信用できないと言われているが、マスコミにも偏りがあるようだ。統計ではそんなに悪くない気がするが、報道ではとても状況の悪い個別案件が伝えられる。

 

そして、このところ毎月減少している中国の輸入は、ようやく増え始めた日本の輸出に悪影響を与える。いつかは日本の輸出が減少に転じる。それはいつか。秋まで持てるか。しかし、それでは霧が晴れても、東シナ海の対岸に立ち枯れした森を見ることにならないか。長く持ちすぎではないか。

 

 

まずは、6日の欧州と米国の相場がどうなるかだ。日経平均は6日に約2%下落したが、欧米市場はそこまで落ちない可能性がある(特に米国)。そうなれば、7日(=今日)以降、日本市場も落ち着くかもしれない。再来週には第四半期決算の公表も始まるだろう。上記の日銀短観を見る限り期待できそうな気がする。そこまでは、頑張って持ってみようか。

 

何れにしても、霧は濃い。全く手探りの状況だ。ゴルフで言えば、ティー・ショットから転がすぐらいの慎重さが必要な局面かもしれない。

 

 

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*1 6月の日銀短観について、次の記事がある。いずれも REUTERS 7/1の記事。

 

日銀短観、企業心理が消費増税前に回復 緩和観測は後退

〔ポイント分析〕6月日銀短観、大企業景況感しっかり改善 設備投資も急回復

 

“消費増税前”とは、大変景気の良かった昨年3月のこと。大企業を中心に、そこまで景況感が回復してきたという。理由として、輸出の増加(自動車を除く)と、国内消費や国内設備投資の増加が挙げられている。特に注目は、国内設備投資計画の上方修正の程度で、大企業では5年ぶりの伸びが予定されているという。この数年設備統制の弱さが常に指摘されてきたが、ついに、東日本大震災の前に回復したことになる。

 

 

485【番外編】冷夏になでしこ

2015/7/7

今年はエルニーニョ現象で太平洋高気圧が弱く、なかなか暑くならない。気温としては過ごしやすくて良いのだが、最近、いくつかのニュースでキモまで冷やされた。

 

・東芝粉飾総額1,500億円超。

 

・ギリシャ国民投票で“オヒ(=No)”多数。

 

・中国株式市場が大暴落。中銀の利下げも効かず。

 

・新幹線で焼身自殺、一般乗客巻き込む。

 

・自民党勉強会で若手議員と作家が暴言。民主主義の敵。

 

・清水エスパルス1st Stage 最下位。

 

ここまでくると、夏なのに半袖では寒い。まるで冷房効きすぎ。

 

そんななかで、なでしこJAPANは熱かった。W杯カナダ大会準優勝おめでとうございます。SAMURAIもがんばろう。

2015年7月 2日 (木曜日)

484【オリンパスの粉飾】“指南役に実刑判決”の怪

2015/7/2

IASBが、IFRS15「顧客との契約から生じる収益」の内容をさらに変更しようと検討していること、そして、IFRS15の発効日を1年延期しようとしていることをこのブログに記載*1してから、すっかりIFRS15から離れて、番外編ばかり書いている。今回も、番外編だ。なかなか関心が、IFRSへ向かわない。強烈な出来事が次々に起こっている。今回は、久しぶりのオリンパス事件だ。

 

みなさんもご存知の通り、昨日(7/1)、オリンパス事件(有価証券報告書の虚偽記載)でついに実刑判決が出た*2。指南役とされる横尾宣政氏と羽田拓氏だ。オリンパス元社長の菊川剛氏でさえ執行猶予付きだったことは、以前、このブログでも報告した*31,000億円もの巨額粉飾事件がこんなに軽く扱われて良いのかと、今まで内心に怒りを溜めていたが、実刑判決が出て、ようやくホッとした気がする。

 

いや、待て。粉飾決算を行った当人(=社長)が執行猶予で、アドバイザーが実刑ってどういうこと?

 

昨年12月にも、指南役の判決が出たが、こちらも執行猶予付き。するとこの事件は、上記の横尾氏と羽田氏が主犯ということか。ありえない。企業の外部者が主犯であるはずがない。この判決は、常識では考えられない。裁判官は本当にこんなことがありえると思っているのだろうか?

 

まあ、量刑は、主犯かそうでないか以外にも、様々な観点から検討されるのかもしれない。しかし、粉飾決算はやろうと思った人、実際にやらせた人、意思決定した人が一番悪い。もちろん、強制されたのであれば、強制した人も悪いが、菊川氏は会社の最高権力者だったのだから、その言い訳は通用しない、と僕は思う。ちなみに、この事件では誰も損してないから軽犯罪で良いという意見もあるようだ*4

 

さて、みなさんはどう感じられただろうか。

 

株式市場は、国民の財産形成にもっと積極的に利用されるよう、もっと信頼性を高めないといけない。相場が上下するリスクは当然あるが、企業が開示する情報には信頼性がないといけない。それには、起こった事件の真実を解き明かし、しっかり罪に問う必要があると思う。こんな裁判で良いのだろうか。

 

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*1 478【収益認識'14-10】基準発効日(=適用開始日)の延期」(6/16)の末尾。

 

*2 次のような報道がある。

 

オリンパス粉飾、指南役らに実刑判決 東京地裁 7/1 日経電子版 無料記事

オリンパス粉飾事件、指南役に実刑判決 東京地裁 7/1 朝日新聞DIGITAL

 

 

*3264.【オリンパスの粉飾】地裁で執行猶予付き判決」(2013/7/6

 

*4 例えば、下記の記事の一番下の段落に記載されている。

 

オリンパス事件 驚くほどの軽犯罪で終わるのか? 日刊SPA!(1/8

 

ちなみに、このオリンパス事件には被害者が存在しない。現在のオリンパスの株価は事件前よりも高く、解任されたウッドフォード氏は労働審判でオリンパスと和解し、12億円もの和解金を手にしたからだ。大騒ぎしてみたものの、実は拍子抜けするほどの軽犯罪にすぎなかった……そんな可能性をはらんだ経済事件なのだ

 

しかし、この事件は、あまりに巨額の粉飾だったので、企業開示制度に大きな傷をつけた。もちろん、実際に株価が下落する過程で売却損を被った株主も多いに違いない。ウッドフォード氏も、経営者として腕を振るいたかったのであって、このような結末を望んでいたわけではない。

 

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