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2015年8月21日 (金曜日)

500【税効果05】基準改善は会計方針の変更(by ASBJ)

 

2015/8/21

人民元の基準値が突然切下げられ日本の株式市場に秋風が吹きはじめた頃からだろうか、ようやく酷暑が峠を越えたようで気温が若干下がり、僕の寝つきも良くなった。ただ、日経平均はそれ以来800円近くも下落しており、こちらの方は暑さが和らぐどころか凍えそうだ。やはり中国の存在感は大きい。

 

ところで、みなさんは“予見可能性”という言葉をご存知だろうか。読んで字の如く「事前に(危機などを)察知できるかどうか」といった意味だ。法律用語としては“過失”を定義する際に「ある事実を予見可能だったにもかかわらず怠った心理状態…」などと利用されるから、法律を勉強する上では、基本概念の説明に利用される重要な用語だ。が、日常生活ではあまり使われない。地味な存在だ。

 

しかし最近、僕は、この言葉を重要と思うようになった。

 

“予見可能性”の低さは、ビジネスのリスクの高さに直結する。例えば、“予見可能性”の低い行政手続しか備わっていない国では、企業は実際に申請してみるまで認可や許可を受けられるか分からないから、投資が行いにくい。この場合、“予見可能性”とは“透明性”と同じような意味・役割がある、或いは、同じものの裏表と言っても良いかもしれない。“透明性”は重要だから、“予見可能性”も重要なのだ。

 

冒頭の人民元の基準値引下げの例では“予見可能性”が全くなかった。突然だったからだ。ショックを受けた市場は、「これは輸出振興策。中国経済はそこまで悪いのか」とネガティブにとらえた。中国人民銀行は、あとから「市場ニーズに合わせるため」とか「人民元国際化改革政策の一環」との説明を行ったが、まともに受け取られなかった。市場参加者にとっては、中国経済リスクへの意識を高めるちょうど良い機会となったが、これは人民銀行の意図するところではなかっただろう。

 

だが、予見可能性の低さが常にネガティブなわけではない。例えば、黒田バズーカーだ。2013/4の第1弾では、金融緩和自体は予想されていたが、その規模が予見できない大きさだった。2014/10の第2弾は、まったく予見不可能なタイミングで行われた。しかし、いずれにしても市場はポジティブな(=日銀が期待した通りの)反応を返した。

 

恐らくこの差は、以下のような背景その他の差によるものだと思う。

 

中国の経済統計・指標は、実態よりよく見せているのではないかと信頼性が疑われており、そもそも中国経済の実態が不透明=予見可能性が低い状態だった。そこに予見不能な人民元の切下げが行われた。その目的、意図という根本について不透明感があり、正当性に疑念を持たれている。したがって、今後の展開に対する予見可能性が低い。

 

これに対して黒田バズーカーは、当時の日本経済の悪さは明白=予見可能性の高い状態であり、なぜ、政府や金融当局はちゃんと対応しないのだろうと不思議がられていた。そこへその対応が(“三本の矢”とともに)ぶっ放された。目的、意図が明らかで、今後の展開についても、一般的な不確実性以上の不透明感がない。

 

やはり、“予見可能性”は重要だ。ビジネスは不透明さ、予見可能性の低さを嫌う。もちろん、政策当局にもある程度の裁量は必要だが、それが大き過ぎるとネガティブにリスクと捉えられてしまう。

 

 

さて、いよいよこれからが本題だ。実は、今回のテーマ“基準の改善は会計方針の変更”も、この“予見可能性”に関連すると僕は思っている。少なくとも、ASBJはそう考えているのではないかと思う。ASBJは、今回の基準変更を会計方針の変更として扱い、その影響額を期首剰余金の修正として処理させる提案の根拠として、次のように記載している(質問8-3の説明文から)。

 

①本公開草案は、監査委員会報告第66 号に定められる繰延税金資産の計上額を算定するための会計処理の原則及び手続を変更する内容を含んでおり、企業がこれまで採用していた会計処理の原則及び手続と異なる会計処理の原則及び手続を採用することにより、適用初年度の期首時点で新たな会計処理の原則及び手続を適用した場合の財務諸表の数値と前年度末の財務諸表の数値との間に差異が生じる場合、企業会計基準第24 号によると会計方針の変更として取り扱うことになること、②会計方針の変更が行われた場合、企業会計基準第24 号では、原則として過年度の財務諸表に遡及適用することとした上で、会計基準ごとに経過的な取扱いを設けることを認めているが、経過的な取扱いにおいても、会計方針の変更により期首において影響額が生じる場合、当該影響額を当期の損益とすることは想定されていないと考えられる…

 

要するに、ASBJ自らが設定した企業会計基準第24に照らせば、会計基準の改正によって財務諸表を作成する原則や手続が変更となった場合は、会計方針の変更として扱われることになっており、その場合はその影響額を期首剰余金の修正として処理する(=P/Lを通さない)。今回の繰延税金資産の回収可能性の基準についての改正は、まさにこれに当たると考えられている。

 

会計基準も、見方によっては、行政手続の一部と考えることができる。一般に、良い行政手続や良い行政システムとは、透明性の高い=予見可能性の高いことが必要条件だ。ということは、すでに公表した会計基準を、厳密に踏まえることとなる。ASBJにとっては、これが当然の結論だろう。今回だけ、24号と違う別の処理(=変更影響額のP/L計上)を認めることはできない、というか、もし認めるなら特別な理由が必要だが、そういう理由は見当たらない。

 

 

世間には、「せっかく基準が改善されて、作成者がより実情に合わせた方針を採用できるようになった。今まで既製品に体を合わせるように窮屈な思いを監査人に強制されていた。この思いに報いるためにも、P/L計上が妥当」という意見もあると思う。心情的には分かる気がする。

 

ただ、そうではないような気もする。というのは、66号は監査人の判断基準だが、監査人はそれほど窮屈な判断をしてないのではないかと思うのだ。前回(4998/19)見た主な改善点は、いずれも驚きはなかった。例えば、分類2の会社に係る役員退職慰労引当金の税効果についても、役員定年制の有無やその運用状況、過去の退任状況等々の実態に照らし、「将来のいずれかの時点で損金算入される可能性が高い」かどうかを判断したと思う。また、リストラが済んで、残りの事業収益が安定すれば(もちろん、事業の種類・内容次第だが)、1年や3年に限らずスケジューリングを見ていたと思う。したがって、今回の改正によって、従来と大きな変化が起こるケースというのは、ないとはいえないが、たくさんあるとも思えない。

 

以上にもかかわらず、僕は、基準変更の影響額をP/L計上する処理が適切なような気がする。それは、前回も書いたが、これらは会計方針の変更ではなく、見積りの変更のような気がするからだ。それを確認するために、IFRS、即ち、IAS12「法人所得税」などの内容と比べてみたい。

 

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