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2015年8月31日 (月曜日)

504【投資】“半値戻しは全値戻し”だが…

2015/8/31

今月は、まるでジェット・コースターに乗っているかのような激しい相場変動に見舞われた。あちこちで悲鳴が聞こえていたが、先週末の28日に19,136円(終値)まで戻したところでちょっと安堵感が出てきた。マスコミでは“ほぼ半値戻し”という表現もちらほら聞かれる。日経平均は人民元切下げ直前の8/1020,809円(終値)から、25日には17,806円(終値)の底値をつけた。3,003円下げて1,330円上げたことになる。この計算では44%戻しだ。

 

相場の格言には、“半値戻しは全値戻し”というものがある。この意味をネットで調べると2つの解釈があるようだ*1

 

半値まで戻すなら、全値戻る。

 

半値まで戻したら、全値戻したと考えて売却すべし。

 

格言といっても相場は気まぐれなので、会計原則の要求事項のように硬いものと考えてはいけない。あくまで目安に過ぎず、実際にはその時々の状況判断が重要なのはいうまでもない。もう売り時か、それともまだ持ち続けるべきか。この判断する上で、注目すべきポイントはなんだろうか。

 

僕の考え(=妄想)は、次の通りだ。

 

・米FRB(=米国の中央銀行)は、すでに9月利上げに積極的な姿勢へ戻っている。

 

8月上旬まで、FRBは「著しく悪い状況にならない限り9月利上げ」の雰囲気作りをしていたが、最近のマーケットの変動を見て、一時的に利上げ延期を匂わせていた。しかし、マーケットが落ち着いてくるに従い、再び、9月利上げの姿勢に戻ってきた。

 

僕は、FRBは「株価はもう十分戻した」と判断したと思う。即ち、FRBにとって「半値戻しは全値戻し」なのだ。(ちなみに、上記と同じ計算をすると米国株は27日に半値戻しを達成した。)

 

・このFRBの姿勢に対する海外市場の反応(特に米国と中国の株式市場)

 

今週、再び、弱気に傾く可能性がある。ただ、米国GDP成長率の大幅な上方改定やアップル社CEOティム・クック氏の「中国事業は7月と8月も高成長が続いた」発言*2などから、米国経済も中国経済も一時の悲観が過度であったと認識が修正されているようだ。さて、どこで下げ止まるか。(但し、中国に関しては未だ実態が不透明で、不安要素であることに変わりはない。また、ブラジルも気になる。)

 

・日本株は、円安進行と上海株式市場の下落のどちらに強く反応するか

 

FRBの強気姿勢への戻りを受けて円安が進む可能性がある。一方で、上記の通り米国や中国の株価が下落する可能性もある。今年の日本株は米国株の停滞をモノともせず上昇してきたが、果たしてその地合いに戻れるか。そして、上海が崩れても持ちこたえられるか。それとも、この数週間のように日本株も連れ安となるか。

 

ちょっと楽観的過ぎるかもしれないが、今週も、先週の後半ほどの勢いはないものの、日本株は上昇する可能性があると僕は妄想している。日本株については「半値戻しは全値戻し」ではないだろうか。(もちろん、全値戻しを今週中に達成するとは思っていない。早くても、米国の当面の金融政策が決まる9月FOMCの前後、9月中旬ではないかと思う。)

 

 

さて、この妄想の前提に「FRBが強気に戻っている」との見方がある。果たしてそうだろうか。実は、日経など国内メディアの報道では、FRBはむしろ慎重になっていると強調されているので、この点に違和感を感じられる方が多いかもしれない。

 

そこで、“投資”シリーズの前回(5018/24)記載した「当面はFRB高官の発言が注目されるが、9月のFOMC(=米国の利上げを決める会合)まで落ち着かない」旨の予想をフォローしながら、この妄想の前提が正しいか検証したい。すなわち、FRB高官の発言とマーケットの反応について、以下にフォローしてみようと思う。要約を後述するので、面倒に思われる方は、下記の====線の内側を読み飛ばしていただきたい。

 

==============================

24日 米アトランタ地区連銀のロックハート総裁(ハト派*3

 

(発言)

公演で9月利上げに言及しなかった。10日には記者団に対し、米経済が大幅に悪化しない限り、9月の利上げを支持すると言明していた(ため、言及しないことで9月利上げの可能性は後退したとみられた)*4。(このニュースは、24日の米国株式市場締め後ぐらい、日本時間の25日明け方に流れた模様。)

 

当時(10日、11日)は、ハト派のロックハート氏が利上げに前向きなタカ派発言をしたことが注目を浴び、米国金利が上昇しドル高(及び円安)が進んだ。

 

(翌25日の株式市場)

日本株はこの日に底値をつけた。ヨーロッパは大幅反発。米国(ダウ30種平均)も一時は大幅に上昇したものの、引け際にかけて急落。結局前日終値を下回って終えた。なお、この日、中国人民銀行は日本市場の引け後に大規模な金融緩和を公表した。欧州市場はこれに反応したものと思われる。

 

26日 米ニューヨーク(NY)連銀のダドリー総裁(ハト派*3

 

(発言)

国際市場の混乱を踏まえると、連邦準備理事会(FRB)の来月利上げは、適切でなくなっているとの認識を示した*5。(このニュースが流れたタイミングは26日の現地の午後と思われる、日本時間では27日未明。米株式市場は開いていた。)

 

26日、27日の株式市場)

26日の米国株式市場(ダウ30種平均)は朝方上昇したが、昼過ぎにかけて下落してから急反発。結局、終値は前日から619ドル上昇して引けた。この急反発のきっかけは、ダドリー総裁の発言と思われる。27日も、米国4-6GDP成長率が速報値から大幅上方改定された(+2.3%+3.7%)ことを受け、引き続き369ドルと大幅に上昇した。日本株は26日、円安の流れを受けてすでに急反発していた。27日も引き続き上昇した。

 

28日 フィッシャーFRB副議長(中立派*3)、米アトランタ地区連銀のロックハート総裁(ハト派*3

 

(発言)

フィッシャーFRB副議長は、9月に利上げに踏み切るかどうかについてはまだ決定していないとしつつも、利上げ実施に向けた論拠が圧倒的となるまで待っていては遅過ぎるとの見解を示した*6

 

アトランタ地区連銀のロックハート総裁が、9月利上げの確率が五分五分との予想は妥当との認識を示した*6

 

FOMCで投票権のない他のFRB高官は、次のような発言をしている。ブラード・セントルイス地区連銀総裁とメスター・クリーブランド地区連銀総裁はともに、最近の市場の乱高下の影響は軽微との見解を示した。ブラード総裁は引き続き9月利上げを支持する姿勢を鮮明にする一方、メスター総裁は支持するかどうかについて明言を避けた*6

 

28日の株式市場)

28日の日本株は円安の流れを受けて大幅上昇(上記発言の前に日本市場は引けている)。米国株はこの数日間に比べると非常に小幅で変動し、最終的に若干下げて終えた。

==============================

 

要約すると、米国株式相場が下落していた25日、26日の昼ごろまでは、FRB高官らの発言は9月利上げに慎重だったが、相場が反転して半値戻しが達成され、米国GDP成長率が上方修正されたあとの28日には、9月利上げを否定しない強気、タカ派的な発言に戻っている(と僕は読んだ)。

 

日経電子版には、29日、「読めぬFRB「次の一手」 利上げ、実体経済カギ」(有料記事)という記事があって、FRBが利上げするかどうかは今後の経済指標次第であり、未だ定まっていないことが強調されている*7。しかし、僕が思うに、FRBはもっと利上げに前向きだ。例えばREUTERSは、同じく29日、「9月利上げ論再び、FRB当局者が可能性排除しない立場鮮明に」という記事を配信した。ハト派と目される高官たちでさえ、9月利上げを匂わせている様子が感じられる。

 

さらにWSJは、30日、物価上昇率だけでなく失業率のコントロールも責務としているFRBが、失業率は十分改善しているので物価上昇率が上がり始める前にも利上げを開始する姿勢であると報じた(インフレ率が上昇すると「信じるに足る理由ある」=FRB副議長 おそらく有料記事)。民間エコノミストや債権投資家が、物価上昇率が低いことを根拠にFRBの利上げ延期を予想しているときに、このフィッシャー副議長の発言は重い。民間エコノミストや債権投資家の予想を覆そうとしている意図が見える。しかもフィッシャー氏は、イエレンFRB議長やその前任者のバーナンキ氏の恩師という“大物副議長”だ。

 

また、9月利上げを支持する声が、海外の中央銀行関係者などから出されている*8。日銀の黒田総裁もその一人だ。その論拠は、投資シリーズの前回に記載した“予見可能性”の改善による相場安定や、自国通貨安を望む声だ。FRBが利上げを延期すれば、市場が不安定な期間もそれだけ長期化する。また、米国の金利が上昇すれば、ドル高になりやすく米国以外の国は輸出がしやすくなる可能性がある*9

 

このようなFRBの姿勢に対する市場の反応は、今週現れる。もし、米国金利が上昇・株式市場が下落し、ドル高円安が進むようであれば、海外の投資家が僕と同じようにFRBはすでに強気を回復したと見たことになる。さて、FRBは「半値戻しは全値戻し」と考えているだろうか?

 

 

🍁ー・ー🍁ー・ー

*1 この格言について、例えば、野村證券のHPには次のように説明している。

 

相場の格言の一つで、下落幅の半分まで値を戻した相場は、今後もとの水準まで戻る勢いがあることをいう。一方で、一度下げた相場が半分まで戻したら、欲張らずにそこで利益確定売りをした方がよいという見方もある。

 

 大和証券のHPの解説はもっと強気だ。

 

大きく下げた相場が戻りに転じた時に先行きを占う相場判断の見方・教えのひとつです。

下げ幅に対し、半分程度戻る場合を「半値戻し」と呼び、材料がなくて単純に戻る自立反発(下げ幅の3分の1程度の戻り)と区別して使います。

つまり、半分も戻るということは、材料等が前向きに評価されているためであり、【強くなければ半値戻しはしない】と言い換えることもできるでしょう。

全般相場が明るくなれば、前の高値まで、つまり全値戻しが期待できるといわけです。

 

*2 【オピニオン】アップルのクックCEOにしゃべらせろ WSJ 8/26

 

この記事は、クックCEOが通常と異なる方法で企業情報開示し、日本でいえば適時開示規則に違反するようなことかもしれないが、投資家がパニックに陥っている非常時には許されて良い、むしろ賞賛されるべきだという記事。このとき開示された企業情報が、本文に記載した「中国事業は7月と8月も高成長が続いた」というものだった。

 

*3 三井住友アセットマネジメントのHPによると、FRB高官(でFOMCの議決権のある人)の分類は次のようになっている。但し、この手の分類は本人たちが認めているわけでもなく、勝手に行っている色付なので、違う見方もある。ちなみに、僕はフィッシャー氏にはハト派の印象がある。(ハト派は金利引上げ消極派タカ派は金利引上げ積極派

                                                           
 

イエレン

 
 

議長

 
 

ハト

 
 

フィッシャー

 
 

副議長

 
 

中立

 
 

タルーロ

 
 

理事

 
 

中立

 
 

ブレイナード

 
 

理事

 
 

ハト

 
 

パウエル

 
 

理事

 
 

中立

 
 

ダドリー

 
 

ニューヨーク連銀総裁

 
 

ハト

 
 

エバンス

 
 

シカゴ連銀総裁

 
 

ハト

 
 

ラッカー

 
 

リッチモンド連銀総裁

 
 

タカ

 
 

ロックハート

 
 

アトランタ連銀総裁

 
 

ハト

 
 

ウィリアムズ

 
 

サンフランシスコ連銀総裁

 
 

中立

 

FOMCは、FRB理事(7名)や各地区連銀総裁(12名)をメンバーとするが、このうち議決権を持つのは全員ではなく、上記のメンバーに限られる。

 

*4 米FRBは年内に利上げ、インフレ動向読みにくい=連銀総裁 REUTERS 8/25 などによる。

 

*5 9月米利上げの切迫性、市場混乱で薄れた=NY連銀総裁 REUTERS 8/27

 

*6 訂正-NY外為市場=ドル上昇、FRB当局者が9月利上げの可能性排除せず REUTERS 8/29

 

*7 日経だけではない。日本では総じて“9月利上げ後退・FRBは慎重”とのニュアンスの報道が多いようだ。例えば、以下もそうだ。

 

FRB副議長 中国の動向も見極め利上げ判断 NHK 8/30

 

しかし、本文に記載したように、米国株が半値戻しを達成した28日にはハト派と目されるFRB高官でさえ9月利上げを否定しなくなった。

 

*8 FRBは迷わず利上げを=各国金融関係者 WSJ 8/28 多分有料記事

出だしだけ引用させてもらう。

【ジャクソンホール(米ワイオミング州)】米連邦準備制度理事会(FRB)は利上げに備えていると何カ月も前から警告してきたが、今週のFRB年次経済シンポジウムに参加する各国当局者の一部は次のようなメッセージを発している。ぐずぐずせずに開始せよ、というものだ。

 

これに対し、IMFや中国人民銀行関係者からは利上げの延期を求める声が聞かれる。

 

米利上げ、来年上期まで先送りを=IMF年次審査報告 REUTERS 6/5

世界株安、要因は米利上げめぐる懸念=中国人民銀幹部 REUTERS 8/28

 

IMFの方は、ちょっと古くなったのでコメントを省略する。

 

人民元は、実質的にドルに連動させる固定相場制を採用しているため、ドル高は(ユーロや円などに対して)人民元高につながる。中国は8/11から3日間、ドルに対する為替レートを切下げ、今回の大騒動の元を作った。人民元の切下げは、中国の輸出促進を通じて国内経済の回復に寄与する一方で、国内資金の海外流出や今回のような大騒動を引き起こしかねない危険な手になってしまったので、安易に使えない。したがって、自然な人民元安を望む中国にとってドル安を望むこと(=FRBの金利引上げ延期)は自然な発想だ。

 

*9 為替レートは、2国間の金利差に影響を受ける傾向がある。但し、他の要因(通貨の需給や物価上昇率の差、通貨当局の政策意図の強さなど)の影響も強いし、金利差で動いたとしても一時的な動きに留まる場合もあるようだ。

 

 

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