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2015年8月

2015年8月31日 (月曜日)

504【投資】“半値戻しは全値戻し”だが…

2015/8/31

今月は、まるでジェット・コースターに乗っているかのような激しい相場変動に見舞われた。あちこちで悲鳴が聞こえていたが、先週末の28日に19,136円(終値)まで戻したところでちょっと安堵感が出てきた。マスコミでは“ほぼ半値戻し”という表現もちらほら聞かれる。日経平均は人民元切下げ直前の8/1020,809円(終値)から、25日には17,806円(終値)の底値をつけた。3,003円下げて1,330円上げたことになる。この計算では44%戻しだ。

 

相場の格言には、“半値戻しは全値戻し”というものがある。この意味をネットで調べると2つの解釈があるようだ*1

 

半値まで戻すなら、全値戻る。

 

半値まで戻したら、全値戻したと考えて売却すべし。

 

格言といっても相場は気まぐれなので、会計原則の要求事項のように硬いものと考えてはいけない。あくまで目安に過ぎず、実際にはその時々の状況判断が重要なのはいうまでもない。もう売り時か、それともまだ持ち続けるべきか。この判断する上で、注目すべきポイントはなんだろうか。

 

僕の考え(=妄想)は、次の通りだ。

 

・米FRB(=米国の中央銀行)は、すでに9月利上げに積極的な姿勢へ戻っている。

 

8月上旬まで、FRBは「著しく悪い状況にならない限り9月利上げ」の雰囲気作りをしていたが、最近のマーケットの変動を見て、一時的に利上げ延期を匂わせていた。しかし、マーケットが落ち着いてくるに従い、再び、9月利上げの姿勢に戻ってきた。

 

僕は、FRBは「株価はもう十分戻した」と判断したと思う。即ち、FRBにとって「半値戻しは全値戻し」なのだ。(ちなみに、上記と同じ計算をすると米国株は27日に半値戻しを達成した。)

 

・このFRBの姿勢に対する海外市場の反応(特に米国と中国の株式市場)

 

今週、再び、弱気に傾く可能性がある。ただ、米国GDP成長率の大幅な上方改定やアップル社CEOティム・クック氏の「中国事業は7月と8月も高成長が続いた」発言*2などから、米国経済も中国経済も一時の悲観が過度であったと認識が修正されているようだ。さて、どこで下げ止まるか。(但し、中国に関しては未だ実態が不透明で、不安要素であることに変わりはない。また、ブラジルも気になる。)

 

・日本株は、円安進行と上海株式市場の下落のどちらに強く反応するか

 

FRBの強気姿勢への戻りを受けて円安が進む可能性がある。一方で、上記の通り米国や中国の株価が下落する可能性もある。今年の日本株は米国株の停滞をモノともせず上昇してきたが、果たしてその地合いに戻れるか。そして、上海が崩れても持ちこたえられるか。それとも、この数週間のように日本株も連れ安となるか。

 

ちょっと楽観的過ぎるかもしれないが、今週も、先週の後半ほどの勢いはないものの、日本株は上昇する可能性があると僕は妄想している。日本株については「半値戻しは全値戻し」ではないだろうか。(もちろん、全値戻しを今週中に達成するとは思っていない。早くても、米国の当面の金融政策が決まる9月FOMCの前後、9月中旬ではないかと思う。)

 

 

さて、この妄想の前提に「FRBが強気に戻っている」との見方がある。果たしてそうだろうか。実は、日経など国内メディアの報道では、FRBはむしろ慎重になっていると強調されているので、この点に違和感を感じられる方が多いかもしれない。

 

そこで、“投資”シリーズの前回(5018/24)記載した「当面はFRB高官の発言が注目されるが、9月のFOMC(=米国の利上げを決める会合)まで落ち着かない」旨の予想をフォローしながら、この妄想の前提が正しいか検証したい。すなわち、FRB高官の発言とマーケットの反応について、以下にフォローしてみようと思う。要約を後述するので、面倒に思われる方は、下記の====線の内側を読み飛ばしていただきたい。

 

==============================

24日 米アトランタ地区連銀のロックハート総裁(ハト派*3

 

(発言)

公演で9月利上げに言及しなかった。10日には記者団に対し、米経済が大幅に悪化しない限り、9月の利上げを支持すると言明していた(ため、言及しないことで9月利上げの可能性は後退したとみられた)*4。(このニュースは、24日の米国株式市場締め後ぐらい、日本時間の25日明け方に流れた模様。)

 

当時(10日、11日)は、ハト派のロックハート氏が利上げに前向きなタカ派発言をしたことが注目を浴び、米国金利が上昇しドル高(及び円安)が進んだ。

 

(翌25日の株式市場)

日本株はこの日に底値をつけた。ヨーロッパは大幅反発。米国(ダウ30種平均)も一時は大幅に上昇したものの、引け際にかけて急落。結局前日終値を下回って終えた。なお、この日、中国人民銀行は日本市場の引け後に大規模な金融緩和を公表した。欧州市場はこれに反応したものと思われる。

 

26日 米ニューヨーク(NY)連銀のダドリー総裁(ハト派*3

 

(発言)

国際市場の混乱を踏まえると、連邦準備理事会(FRB)の来月利上げは、適切でなくなっているとの認識を示した*5。(このニュースが流れたタイミングは26日の現地の午後と思われる、日本時間では27日未明。米株式市場は開いていた。)

 

26日、27日の株式市場)

26日の米国株式市場(ダウ30種平均)は朝方上昇したが、昼過ぎにかけて下落してから急反発。結局、終値は前日から619ドル上昇して引けた。この急反発のきっかけは、ダドリー総裁の発言と思われる。27日も、米国4-6GDP成長率が速報値から大幅上方改定された(+2.3%+3.7%)ことを受け、引き続き369ドルと大幅に上昇した。日本株は26日、円安の流れを受けてすでに急反発していた。27日も引き続き上昇した。

 

28日 フィッシャーFRB副議長(中立派*3)、米アトランタ地区連銀のロックハート総裁(ハト派*3

 

(発言)

フィッシャーFRB副議長は、9月に利上げに踏み切るかどうかについてはまだ決定していないとしつつも、利上げ実施に向けた論拠が圧倒的となるまで待っていては遅過ぎるとの見解を示した*6

 

アトランタ地区連銀のロックハート総裁が、9月利上げの確率が五分五分との予想は妥当との認識を示した*6

 

FOMCで投票権のない他のFRB高官は、次のような発言をしている。ブラード・セントルイス地区連銀総裁とメスター・クリーブランド地区連銀総裁はともに、最近の市場の乱高下の影響は軽微との見解を示した。ブラード総裁は引き続き9月利上げを支持する姿勢を鮮明にする一方、メスター総裁は支持するかどうかについて明言を避けた*6

 

28日の株式市場)

28日の日本株は円安の流れを受けて大幅上昇(上記発言の前に日本市場は引けている)。米国株はこの数日間に比べると非常に小幅で変動し、最終的に若干下げて終えた。

==============================

 

要約すると、米国株式相場が下落していた25日、26日の昼ごろまでは、FRB高官らの発言は9月利上げに慎重だったが、相場が反転して半値戻しが達成され、米国GDP成長率が上方修正されたあとの28日には、9月利上げを否定しない強気、タカ派的な発言に戻っている(と僕は読んだ)。

 

日経電子版には、29日、「読めぬFRB「次の一手」 利上げ、実体経済カギ」(有料記事)という記事があって、FRBが利上げするかどうかは今後の経済指標次第であり、未だ定まっていないことが強調されている*7。しかし、僕が思うに、FRBはもっと利上げに前向きだ。例えばREUTERSは、同じく29日、「9月利上げ論再び、FRB当局者が可能性排除しない立場鮮明に」という記事を配信した。ハト派と目される高官たちでさえ、9月利上げを匂わせている様子が感じられる。

 

さらにWSJは、30日、物価上昇率だけでなく失業率のコントロールも責務としているFRBが、失業率は十分改善しているので物価上昇率が上がり始める前にも利上げを開始する姿勢であると報じた(インフレ率が上昇すると「信じるに足る理由ある」=FRB副議長 おそらく有料記事)。民間エコノミストや債権投資家が、物価上昇率が低いことを根拠にFRBの利上げ延期を予想しているときに、このフィッシャー副議長の発言は重い。民間エコノミストや債権投資家の予想を覆そうとしている意図が見える。しかもフィッシャー氏は、イエレンFRB議長やその前任者のバーナンキ氏の恩師という“大物副議長”だ。

 

また、9月利上げを支持する声が、海外の中央銀行関係者などから出されている*8。日銀の黒田総裁もその一人だ。その論拠は、投資シリーズの前回に記載した“予見可能性”の改善による相場安定や、自国通貨安を望む声だ。FRBが利上げを延期すれば、市場が不安定な期間もそれだけ長期化する。また、米国の金利が上昇すれば、ドル高になりやすく米国以外の国は輸出がしやすくなる可能性がある*9

 

このようなFRBの姿勢に対する市場の反応は、今週現れる。もし、米国金利が上昇・株式市場が下落し、ドル高円安が進むようであれば、海外の投資家が僕と同じようにFRBはすでに強気を回復したと見たことになる。さて、FRBは「半値戻しは全値戻し」と考えているだろうか?

 

 

🍁ー・ー🍁ー・ー

*1 この格言について、例えば、野村證券のHPには次のように説明している。

 

相場の格言の一つで、下落幅の半分まで値を戻した相場は、今後もとの水準まで戻る勢いがあることをいう。一方で、一度下げた相場が半分まで戻したら、欲張らずにそこで利益確定売りをした方がよいという見方もある。

 

 大和証券のHPの解説はもっと強気だ。

 

大きく下げた相場が戻りに転じた時に先行きを占う相場判断の見方・教えのひとつです。

下げ幅に対し、半分程度戻る場合を「半値戻し」と呼び、材料がなくて単純に戻る自立反発(下げ幅の3分の1程度の戻り)と区別して使います。

つまり、半分も戻るということは、材料等が前向きに評価されているためであり、【強くなければ半値戻しはしない】と言い換えることもできるでしょう。

全般相場が明るくなれば、前の高値まで、つまり全値戻しが期待できるといわけです。

 

*2 【オピニオン】アップルのクックCEOにしゃべらせろ WSJ 8/26

 

この記事は、クックCEOが通常と異なる方法で企業情報開示し、日本でいえば適時開示規則に違反するようなことかもしれないが、投資家がパニックに陥っている非常時には許されて良い、むしろ賞賛されるべきだという記事。このとき開示された企業情報が、本文に記載した「中国事業は7月と8月も高成長が続いた」というものだった。

 

*3 三井住友アセットマネジメントのHPによると、FRB高官(でFOMCの議決権のある人)の分類は次のようになっている。但し、この手の分類は本人たちが認めているわけでもなく、勝手に行っている色付なので、違う見方もある。ちなみに、僕はフィッシャー氏にはハト派の印象がある。(ハト派は金利引上げ消極派タカ派は金利引上げ積極派

                                                           
 

イエレン

 
 

議長

 
 

ハト

 
 

フィッシャー

 
 

副議長

 
 

中立

 
 

タルーロ

 
 

理事

 
 

中立

 
 

ブレイナード

 
 

理事

 
 

ハト

 
 

パウエル

 
 

理事

 
 

中立

 
 

ダドリー

 
 

ニューヨーク連銀総裁

 
 

ハト

 
 

エバンス

 
 

シカゴ連銀総裁

 
 

ハト

 
 

ラッカー

 
 

リッチモンド連銀総裁

 
 

タカ

 
 

ロックハート

 
 

アトランタ連銀総裁

 
 

ハト

 
 

ウィリアムズ

 
 

サンフランシスコ連銀総裁

 
 

中立

 

FOMCは、FRB理事(7名)や各地区連銀総裁(12名)をメンバーとするが、このうち議決権を持つのは全員ではなく、上記のメンバーに限られる。

 

*4 米FRBは年内に利上げ、インフレ動向読みにくい=連銀総裁 REUTERS 8/25 などによる。

 

*5 9月米利上げの切迫性、市場混乱で薄れた=NY連銀総裁 REUTERS 8/27

 

*6 訂正-NY外為市場=ドル上昇、FRB当局者が9月利上げの可能性排除せず REUTERS 8/29

 

*7 日経だけではない。日本では総じて“9月利上げ後退・FRBは慎重”とのニュアンスの報道が多いようだ。例えば、以下もそうだ。

 

FRB副議長 中国の動向も見極め利上げ判断 NHK 8/30

 

しかし、本文に記載したように、米国株が半値戻しを達成した28日にはハト派と目されるFRB高官でさえ9月利上げを否定しなくなった。

 

*8 FRBは迷わず利上げを=各国金融関係者 WSJ 8/28 多分有料記事

出だしだけ引用させてもらう。

【ジャクソンホール(米ワイオミング州)】米連邦準備制度理事会(FRB)は利上げに備えていると何カ月も前から警告してきたが、今週のFRB年次経済シンポジウムに参加する各国当局者の一部は次のようなメッセージを発している。ぐずぐずせずに開始せよ、というものだ。

 

これに対し、IMFや中国人民銀行関係者からは利上げの延期を求める声が聞かれる。

 

米利上げ、来年上期まで先送りを=IMF年次審査報告 REUTERS 6/5

世界株安、要因は米利上げめぐる懸念=中国人民銀幹部 REUTERS 8/28

 

IMFの方は、ちょっと古くなったのでコメントを省略する。

 

人民元は、実質的にドルに連動させる固定相場制を採用しているため、ドル高は(ユーロや円などに対して)人民元高につながる。中国は8/11から3日間、ドルに対する為替レートを切下げ、今回の大騒動の元を作った。人民元の切下げは、中国の輸出促進を通じて国内経済の回復に寄与する一方で、国内資金の海外流出や今回のような大騒動を引き起こしかねない危険な手になってしまったので、安易に使えない。したがって、自然な人民元安を望む中国にとってドル安を望むこと(=FRBの金利引上げ延期)は自然な発想だ。

 

*9 為替レートは、2国間の金利差に影響を受ける傾向がある。但し、他の要因(通貨の需給や物価上昇率の差、通貨当局の政策意図の強さなど)の影響も強いし、金利差で動いたとしても一時的な動きに留まる場合もあるようだ。

 

 

2015年8月27日 (木曜日)

503【税効果07】会計方針と見積りの違い

 

2015/8/27

昨日(水曜)の日経平均株価は570円の大幅高(18,376円)となった。同行者から、スマホに届いた速報メールのポップアップを見せられると、僕は「なに、いつかは下げ止まるものさ」と余裕の表情で言った。しかし、内心は違った。鼻の奥というか、目の奥というか、その辺りから頭頂部に至る頭の中、即ち、脳みそが優しくマッサージされたような快感、軽い麻痺感覚に襲われた。心底、安堵したのだ。

 

その数時間後、今度は逆に愕然とした。いつものように自分のポートフォリオを時価評価してみたが、たいして戻っていない。日経平均が570円上がったといっても、まだ、月曜の終値(18,540円)にも達していない。先週月曜には20,620円もあったのだ。そこからの下落幅が大きすぎて、まだまだ、“焼け石に水”だった。それなのに頭の芯が一瞬でも麻痺してしまうとは。ひ弱な精神力。

 

 

さて、このシリーズの前回(5028/25)は、ASBJが繰延税金資産の回収可能性に関する公開草案で、基準改正の影響額を期首剰余金の修正とすると提案していること(=基準改正の影響は、見積りの変更ではなく会計方針の変更として扱うこと)の当否を探るために、IAS12号「法人所得税」を眺めた。その結果、IAS12には、公開草案の提案事項に当たる細かい規定がないことが分かった。

 

会計方針は、「会計基準によって認められた複数の代替処理がある場合に選択するもの」というイメージがある。すると、会計基準(=IAS12)に記載のない事項は会計方針ではないのではないか、即ち、今回の公開草案で改定される事項は、IFRSでは見積りとされるのではないか、との疑念を持った。同じものが、日本基準とIFRSで扱いが異なって良いのだろうか。もしかしたら、IFRSでは、期首剰余金の修正ではなく、P/Lへ計上することになるのではないだろうか。

 

ということで前回記載した通り、この疑問を解消するために、今回はIAS8号「会計方針、会計上の見積りの変更及び誤謬」を見ていきたい。

 

早速、定義をIAS8.5から下記へ引用する。

 

会計方針とは、企業が財務諸表を作成表示するにあたって採用する特定の原則、基礎、慣行、ルール及び実務をいう。

 

会計上の見積りの変更とは、資産又は負債の現状、及び資産又は負債に関連して予測される将来の便益及び義務の評価により生じる、資産若しくは負債の帳簿価額又は資産の定期的な費消額の調整をいう。会計上の見積りの変更は、新しい情報又は新しい展開から生じるものであり、したがって誤謬の訂正ではない。

 

ん〜、微妙だ。公開草案の提案内容は、このどちらにも該当しそうな気がする。

 

例えば、企業を5つに分類したり、その分類ごとに信頼できるタックス・プランニングの年数の目安を設けたりするのは、(仮に特定の基準に記述されてないとしても)会計方針の定義に記載されている“慣行”、“ルール”及び“実務”といえそうだ。

 

一方、繰延税金資産の回収可能額、即ち、財務諸表作成者がタックス・プランニングなどから算定する将来の税金節約額算定作業は、“資産の現状、及び資産に関連して予測される将来の便益の評価により生じる、資産の帳簿価額の調整”に他ならない。

 

すると、次のように、「繰延税金資産の回収可能性は、見積りと会計方針の両方の要素がある」といえるのではないか。

 

繰延税金資産の回収可能性は、会計上の見積り項目だが、その見積り作業・手続きには会計方針(=慣行・ルール及び実務)が含まれる。

 

しかし、上記の見積りの定義にはもう一つ重要なことが記載されている。次の部分だ。

 

会計上の見積りの変更は、新しい情報又は新しい展開から生じるもの

 

ちょっと古いが、日本流に表現すれば、“新しい会計事実の発生”のことと思う。要するに、過去にはなかった新しい状況がもたらされたために、(過去を振り返らず)将来に向かって行うのが見積りではないか(以前の追加情報に該当するようなケース)。

 

それに対して会計方針の変更は、会計事実は元々あったが、より妥当な原則や手続きへ変更する場合に該当する。会計事実が過去から存在するので、過去に遡って変更を適用することが可能。開示上、前年度などの比較情報の修正が行われる。

 

このように考えてみると、会計方針と見積りの違いは、過去に遡って変更することに意味があるかどうか、或いは、将来に向かって変更することが期間比較の上でも正しいといえるかどうか、という点に本質があるように思う。

 

 

さて、この議論の目的は、公開草案の提案内容が会計方針に当たるのか、それとも見積りかを考えることだ。そこで、ここまでの成果を踏まえて、4998/19の質問4のところで記載した“役員退職慰労引当金”を例にして、具体的に考えてみよう。もし、これが将来に向けて変更しても期間比較上問題ないとすれば見積りといえるし、過去に遡って変更することに意味があるとすれば、会計方針と考えて良さそうだ。見積りであれば、変更の影響額はP/Lに計上される。一方、会計方針の変更であれば期首剰余金の修正となる。

 

しかし、ここまで書いて結論が見えてきた。やはり、ASBJが正しそうだ。残念ながら、僕の直感は間違えていたようだ。加えて、このシリーズの前々回(5008/21)記載した「監査人はそれほど窮屈な判断をしてないのではないかと思うのだ」という部分についても、自信が持てなくなってきた。というのは、前回(5028/25)転記したIAS12の規定では、回収の確実性が50%超で計上可能になっていたからだ(特に、重要な繰越欠損金がない日本基準でいう分類2・3の会社)。僕はもっと高い確実性(=合理的に見込まれるレベル)を求めていた気がする。やはり、この公開草案による影響額は、このシリーズの前々回の記載とは異なり、かなりインパクトの強いものになるかもしれない。

 

ということで、次回は訂正と反省ばかりの、僕にはつらい記事になりそうだ。ううっ、また頭が麻痺しそうだ。今度は頭痛を伴って。

 

 

2015年8月24日 (月曜日)

502【税効果06】IAS12に会社分類やプランニング年数の記載なし

 

2015/8/25

最近、やけに爆発が多い。天津の倉庫もそうだが、その南200kmにある山東省の化学工場でも22日に爆発事故が発生した。そのさらに南200kmにある上海では株式市場(の相場)が爆発し、世界中の株式市場に火の粉が飛び散って炎上している。韓国と北朝鮮の境界線では地雷が爆発し、タイでも爆弾テロが起きた。爆弾テロといえば中東、ヨーロッパ方面からは毎日のようにその関連ニュースが飛び込んでくる。さすがに、“爆発”のニュースは、悪いもの、悲惨なものばかりだ。

 

日本はどうかというと、やはり、あまり平穏ではない。あちこちで、火山が爆発している。噴火だ。ところが悪いことばかりではない。

 

23日のNHKスペシャルは、「新島誕生 西之島 ~大地創成の謎に迫る~」だった。なんでも西之島は大陸と同じ軽い材質の岩石が噴き出してできているため、通常の重い材質の海上火山と異なり、自重でマントルに沈没せずにそのまま陸地として残りそうだという。せまい日本にとって、地面が広がるのは、朗報だ。

 

 

さて、そんなド派手な話題はさておき、このブログは地味に繰延税金資産の回収可能性について検討を続けていく。今回は、日本基準を改正するための公開草案が、基準変更による影響額を期首剰余金の直接修正と提案していることについて(=基準変更を会計方針の変更として扱うことについて)、IAS12号「法人所得税」を見ながら考えていきたい。

 

といっても、すでにお気付きの方も多いと思うが、IAS12には繰延税金資産の回収可能性について、今回の公開草案のような詳しい記述はないので、実は、この公開草案と比べようがない*1IAS12は、ちょうど日本の“税効果会計に係る会計基準”に相当する内容となっており、この会計基準に繰延税金資産の回収可能性に関する記載がないのと同じように、IAS12にも、その記載がない。具体的には、会社を5つに分類したり、タックス・プランニングの年数などに関する記載はない*2。そして、IAS12のほかに、今回の公開草案に相当する具体的な回収可能性の判断方法に関する基準は、IFRSになさそうだ。

 

これはなにを意味するのだろうか。僕なりに考えると次のようになる。

 

IFRSにおいては、繰延税金資産の回収可能性を判断するための具体的な手続きや方法は、財務諸表の作成者が自ら決めることだ。それは、回収可能額を“見積もる”ことになる。すなわち、IFRSでは、繰延税金資産の回収額は“見積り”なのではないか。

 

ASBJは、今回の基準変更の影響額を会計方針の変更として扱って、期首剰余金の修正をさせようとしている。ところが、見積りの変更として扱えば、変更の影響額はP/Lを通すことになる。

 

ということで、このシリーズの前々回(499-8/19)に記載した8-3の質問に関するASBJの見解には疑問が生じる。ASBJは、基準の改正によるものだから会計方針の変更に当たる、としているが、IFRSで回収可能額を判断する具体的な方法は基準に規定されておらず、かつ、回収可能額は見積り項目のようだ。日本では見積り方法に関する基準があったために*3、回収可能性の判断方法の変更が会計方針の変更として扱われるが、もし、IFRSであれば見積りの変更とされるのではないか。同じ変更の影響額について、日本基準とIFRSで扱いが変わってしまって良いのだろうか。

 

この疑問を解消するには、会計方針の変更とは何か、会計上の見積りとはなにか、を改めて考えてみる必要がありそうだ。西之島のマグマの材質が重いか軽いかで、西之島の運命(=沈没するのか、そのまま陸地として残るのか)が決まるのと同様に、今回の変更の性質が会計方針に関するものか、それとも見積りに関するものかで、会計処理が決まりそうだ。そこで次回は、IAS8号「会計方針、会計上の見積りの変更及び誤謬」を見て、どちらに該当するのか検討していきたい。

 

 

あっ、そういえば日本でも爆発事故があった。24日未明に相模原の米軍施設で爆発音がしたという。爆発事故の有無より、日本の当局が調査に入れないことの方が気になる。沖縄のヘリコプター事故もそうだが、米軍の情報開示不足や日本の調査権欠如については、考えさせられる。実態が分からないと予見可能性が高まらない。不安が高まるだけだ。

 

 

🍁ー・ー🍁ー・ー

*1 参考までに、IAS12の繰延税金資産の定義は次のようになっている。日本基準と(は定義の仕方は違うが)違和感はないと思う。

 

繰延税金資産とは、次の項目に関連して将来の期に回収されることとなる税額をいう。

(a) 将来減算一時差異

(b) 税務上の欠損金の繰越し

(c) 税額控除の繰越し

一時差異とは、ある資産又は負債の財政状態計算書上の帳簿価額と税務基準額との差額である。…IAS12.5

 

さらに、「将来の期に回収されることとなる税額」という部分、即ち、回収可能性の部分(=測定基準)についても違和感は感じられない。この点において、日本基準とIFRSは、繰延税金資産の測定基準に違いはないと考えて良いと思う。

 

*2 本文にはあっさり書いたが、実際にはIAS12に回収可能性の判定方法について言及した部分はある。ただ、大枠だけであり、今回の公開草案の改正内容と比較できる詳細さはない。その内容を最もコンパクトに記載しているのは、下記の箇所。

 

IAS12号(改訂版)では、繰延税金資産を実現させるだけの課税所得が稼得される可能性が高い場合には、繰延税金資産を認識することを要求している。ある企業に税務上の欠損金が生じたことがある場合には、その有する将来加算一時差異の範囲内でのみ、又は十分な課税所得が稼得されるという信ずべき証拠がある範囲でのみ、繰延税金資産を認識する。IN4の後半部分)

 

次に、“将来減算一時差異”のセクションに、以下のように記載されている。やはり、大枠のみの記載。公開草案のように、会社を5つに分類するとか、どういう会社に何年のタックス・プランニングを認めるなどといった具体的な記載はない。

 

27 将来減算一時差異が解消すると、将来の期間の課税所得計算上の損金算入が生じる。しかし、支払税金の減少という形での経済的便益が企業に流入するのは、損金算入額と相殺するのに十分な課税所得を企業が稼得する場合のみである。したがって企業は、将来減算一時差異を活用できる課税所得が得られる可能性が高い場合にのみ、繰延税金資産を認識する。

 

28 将来減算一時差異を活用できる課税所得が得られる可能性が高いといえるのは、同一の税務当局及び同一の納税企業に係る十分な将来加算一時差異があって、それが次のような時期に解消すると見込まれる場合である。

(a) 将来減算一時差異の解消が予測される期間と同じ期間

(b) 繰延税金資産により生じる税務上の欠損金の繰戻し又は繰越しが可能な期間

こうした状況では、繰延税金資産が、将来減算一時差異が発生する期間に認識される。

 

29 同一税務当局の区域内で、同一の納税企業体内に十分な将来加算一時差異がない場合には、繰延税金資産は次のいずれかの範囲内で認識される。

(a) 同一税務当局の区域内で、同一の納税企業体内に、将来減算一時差異が解消するのと同じ期間に(又は繰延税金資産から生じる税務上の欠損金の繰戻し若しくは繰越しが可能な期間に)当該企業が十分な課税所得を稼得する可能性が高い。企業が将来の期間に十分な課税所得を稼得するかどうかを判断する際には、将来の期間に発生すると予想される将来減算一時差異から生じる課税所得は無視する。こうした将来減算一時差異から生じる繰延税金資産自体が、それを活用するためには将来の課税所得が必要となるからである。

(b) 適切な期間に課税所得を生じさせるタックス・プランニングの機会を企業が利用可能である。

 

30 タックス・プランニングの機会とは、企業が、税務上の欠損金又は税額控除の繰越期限の到来前に、特定の期間において課税所得の創出又は増加のために行う行為である。例えば、法域によっては、課税所得の創出又は増加を以下の手段により行うことができる。

(a) 受取利息を現金主義と発生主義のどちらで課税されるかの選択

(b) 課税所得からのある種の控除申請の繰延べ

(c) 評価増をされたが税務基準額はそのような評価増を反映する修正がされていない資産の売却(おそらくはセール・アンド・リースバック)

(d) 課税所得を発生させる他の投資を購入するための、非課税収入を生む資産(ある法域では、国債など)の売却

タックス・プランニングの機会によって課税所得を後の期間から前の期間に移動させても、税務上の繰越欠損金又は繰越税額控除の使用はやはり、将来発生する一時差異以外の源泉からの課税所得に依存する。

 

31 企業が最近において欠損を計上している場合には、第35項及び第36項の指針を考慮する。

 

そして、“税務上の繰越欠損金及び繰越税額控除”のセクションには、若干、回収可能性の確実性を高めさせる要求をしている。具体的には、上記の“将来減算一時差異”のセクションの表現に加え、以下では“他の信頼すべき根拠がある”ことを要求している。しかし、上記と同様で、今回の公開草案のように、会社を分類したり、スケジューリング期間を類型・指定する細かい規定はない。

 

34 税務上の繰越欠損金及び繰越税額控除に対しては、将来その使用対象となる課税所得が稼得される可能性が高い範囲内で、繰延税金資産を認識しなければならない。

 

35 税務上の繰越欠損金及び繰越税額控除から生じる繰延税金資産を認識するための要件は、将来減算一時差異から生じる繰延税金資産を認識するための要件と同じである。しかし、繰越欠損金の存在は、将来課税所得が稼得されないという強い根拠となる。したがって、近年に損失が発生した経歴がある場合には、企業は税務上の繰越欠損金又は繰越税額控除から生じる繰延税金資産を、十分な将来加算一時差異を有する範囲でのみ、又は税務上の繰越欠損金若しくは繰越税額控除の使用対象となる十分な課税所得が稼得されるという他の信頼すべき根拠がある範囲でのみ認識する。そのような状況では、第82項が、繰延税金資産の金額及びその認識の根拠となった証拠の内容の開示を要求している。

 

36 税務上の繰越欠損金又は繰越税額控除を活用できる課税所得が稼得される可能性を評価するに際して、企業は次の要件を考慮する。

(a) 同一の税務当局の区域内で同一の納税企業体内に、税務上の繰越欠損金又は繰越税額控除の繰越期限内に活用できる課税所得をもたらすのに十分な将来加算一時差異を当該企業が有しているかどうか

(b) 税務上の繰越欠損金又は繰越税額控除の繰越期限内に、当該企業が課税所得を稼得する可能性が高いかどうか

(c) 税務上の繰越欠損金は再発しそうもない特定の原因によって発生したものかどうか

(d) 税務上の繰越欠損金又は繰越税額控除の繰越期限内に課税所得を発生させるべきタックス・プランニングの機会(第30項参照)が利用可能かどうか

税務上の繰越欠損金又は繰越税額控除を活用できる課税所得が得られる可能性が高くない範囲においては、繰延税金資産は認識されない。

 

このほか、“子会社、支店及び関連会社に対する投資並びに共同支配の取決めに対する持分” にも似たような記載がある(44項)。そして、“測定”のセクションには、上記を受けて以下の記載がある。決算ごとに回収可能性を見直す趣旨だ。

 

56 繰延税金資産の帳簿価額は、各報告期間の末日現在で再検討しなければならない。企業は、繰延税金資産の一部又は全部の便益を実現させるのに十分な課税所得を稼得する可能性がもはや高くはなくなった範囲で、繰延税金資産の帳簿価額を減額しなければならない。そのような減額は、十分な課税所得を稼得する可能性が高くなった範囲で戻し入れなければならない。

 

いずれにしても、公開草案の改正内容に関連するほどの細かいレベルの記載はない。この結果、IAS12は、今回の公開草案のような具体的な判断方法を、財務諸表の作成者に委ねていることになる。

 

*3 こんなふうに書くと、「繰延税金資産の回収可能性判断方法に関する基準などなければよかったのに」などと思われるかもしれないが、会計ビックバンで税効果会計が導入された当時、この基準がとても大きな役割を果たした。当時は、減損会計も導入されていなかったし、回収可能性を判断する実務は、日本にほぼなかった。これ(=監査委員会報告66号)がなければ、税効果会計は導入できなかったと思う。日本にとってはとても重要な基準だった。

 

501【投資】中国経済の予見可能性

2015/8/24

マーケットが暴風雨にさらされ、荒れている。僕のポートフォリオも大分悪化した。しかし、先月の上海株暴落時に早まって売却して痛い思いをしたので、今回の嵐では、まだ踏ん張っている。僕が思うに、この嵐の原因は、世界経済の先行きに関する“予見可能性”が低下していること、即ち、米国FRBが利上げに踏み切れるかどうかについて不透明さが増していることで、それを引き起こしたのは中国だ。

 

(8月上旬までの米国の状況)

 

雇用関係の経済指標は比較的順調だ。毎月第1金曜日に公表される雇用統計(=非農業部門に関する雇用統計資料、いわゆるNFP)は、新規雇用者数が失業率が上がらない目安の20万人をコンスタントに超えており、失業率も低位安定している。8/7に7月分が公表された時点では、問題は残っているが、FRBが9月に利上げする軌道上にある、というのが大方の見方だった。そのほか、景気の先行指標とされる住宅関連指標も好調だ。

 

一方、ドル高や原油相場の下落が米国企業収益に影を落としており、株価は不安定だ。また、経済の体温とも言われるインフレ率もこれらによって下押しされており、上昇へ転じる兆しが見られない。

 

株価は、FRBの責任範囲外だが、失業率とインフレ率は、FRBの政策目標となる指標なので、一般のエコノミストには、「インフレ率が上昇に転じる兆しがない以上、利上げは早すぎる」という意見もあるし、債権投資家はあまり利上げを見込んでいない。しかし、FRBの高官が利上げに前向きな発言を繰り返していたため、マーケット関係者は9月利上げとの見方を固めつつあった。

 

(8月中旬の米国の状況)

 

人民元の切下げをきっかけに中国経済の評価を見直す動きが強まり、中国マーケットの依存度の高いアップルなどの株価がまず下落。その後も、天津の倉庫爆発事故や上海株式市場の下落などにより、さらに、中国経済の先行きにネガティブなイメージが台頭。以前から報道されていた中国経済減速による新興国経済や中国周辺国経済の悪化の影響も意識され、株式相場全体がリスク・オフとなった。

 

中国経済の減速が米国経済にもたらす悪影響を、FRBがどの程度意識しているかが不明で、9月利上げがあるともないとも言えない状況になっている*1。恐らく、米国投資家は次の点を不安に考えている。

 

・中国経済減速の影響がどの程度米国経済の足を引っ張るかが分からない。

FRBがこの影響をどの程度見込んでいるか、見込む気があるかが分からない。

FRBが米国経済減速のなかで利上げしてしまう可能性を否定できない。

 

(日本の状況)

 

米国市場は、中国市場が閉まった数時間後に開くので、中国市場の影響はヨーロッパ市場を経由して伝わる。一方、日本市場は中国市場より少し早く開き、少し早く閉まるため、中国市場の値動きが直接伝わってくる。この差はあっても、基本的には上記米国市場とほぼ同様の影響を中国市場から受けている。米国と異なり、日本企業は円安の恩恵で4-6の業績は絶好調だったが、中国への依存度の高い企業の株価から値崩れを起こし、さらに米国のリスク・オフを受ける形で円高が進行し、日本株も相場全体がリスク・オフとなっている。

 

ということで、日本株は以下の要因に左右されると思われる。

 

 中国経済減速の影響を日本企業がどの程度受けるか

 

 米国FRBの利上げ判断の不透明さによるリスク・オフがいつまで続くか

 

ところが、これらの問題は派生的なものに過ぎない。肝心なのは、大元の中国経済減速の実態がよく分からないことだ。中国の経済指標や上海株式市場の企業評価があてにならないし、それが世界経済にどのような影響を及ぼすかが分からない。分からないので、不安が不安を呼び、日本だけでなく世界中の投資家が過剰反応している可能性もある。まさに、中国経済に関する“予見可能性”の低下が今回の嵐の根本にある。

 

(今後の展開)

 

“予見可能性”が向上する機会があれば、株価は持ち直すか、さらに下落するかはっきりする。

 

その機会とは、当面はFRB高官の発言が注目を集めると思われる。しかし、FRB高官とて、中国経済の実態を理解しているわけではないので、決定打にはならない。結局、9月の米FOMC(=公開市場委員会;FRB高官によって米国の金融政策が決定される会合。9/16-17)が開催され、金利が引上げられるまでダメかもしれない。金利が引上げられれば、「米経済に対する影響は大したことない」というFRBの強いメッセージになる。金利が引上げられても、“予見可能性”が増すので、米株価上昇の可能性がある。

 

金利据置きとなれば、米国の金利引上げ時期に関する不透明な見通しが改善せず、さらにその期間が長期化することで、米株価の不安定な、ボラティリティが高い状態が続きそうだ。通常であれば、金利引上げがパスされれば株価は上がると予想されるが、中国リスクの米経済に対する影響の“予見可能性”が低下した状態が継続するので、米株価は上がらない気がする。或いは、FRBが中国リスクを重大に考えていることが確認されて、米経済に対する先行きの不透明感が増し、米株価が下落する。

 

日本の株価もほぼ同様の動きになると思う。この“予見可能性”の効果に加え、米国金利引上げは円安につながり、日本企業の業績向上期待につながりやすい。逆に米国金利引下げは円高につながり、逆効果だ。

 

その前に、9月の第一金曜日の米国雇用統計で、新規雇用者数が20万人を大きく割り込むような悪い結果が出れば、少なくとも米国金利の9月引上げの可能性は明確に低下する。したがって、“予見可能性”は改善される。金利引上げが延期される見通しが立つことで、米株価は上げるかもしれない。しかし、日本の株価は為替が円高に振れて下落するかもしれない。

 

そもそも、中国経済の実態が判明することで、より直接的に“予見可能性”が向上する機会はないのだろうか。ん〜、思いつかない。これを考えると増す増す見通しが暗くなる。

 

今回は、あまり頑張って持ち続けない方が良いのだろうか? それとも、頑張ればそれなりの見返りがあるのだろうか。全く分からない、見えない。この株式市場の嵐は来週も続くだろう。暗闇の中で相場下落の嵐に耐えるのは、けっこう、つらい。

 

しかし、長期的な株価の上昇基調は崩れていないとの見方もある*2。ここはもう少し辛抱、9月のFOMCを目指して、踏ん張るしかないのだろう。

 

ちなみに、僕は中国経済がいずれ大減速すると想像しているが、その時期は今ではないと思う。どうも、中国の一般市民には、経済減速の影響はあまり及んでいないように思われるからだ(消費や所得の伸び)。この段階では、中国共産党にはまだ打つ手があるはず、と思っている。

 

結局、僕はまだ希望を捨てていない。なかなか、勝ち点3を取れないが、清水エスパルスの1残留と同じだ。まだ、頑張れる。

 

🍁ー・ー🍁ー・ー

*1 8/197/2829日に開催された米FOMC(=公開市場委員会;FRB高官によって米国の金融政策が決定される会合)の議事録が公表された。しかし、中国リスクについては議論の対象になってはいたものの、具体的な内容・評価は不明だった。この議事録が公表された19日の米株価は、9月利上げについて不透明感が増したことで下落した(REUTERS 8/20)。

 

*2 例えば以下の記事。

 

長期の上昇相場、まだ終わらない 日経電子版 8/22 有料記事

 

米国株式市場についてのコメント。米国株式市場がまだ上昇基調にあるのであれば、米国利上げ、円安、日本株上昇のシナリオも健在な可能性が高い。

 

日本株比率「将来は10%も」 ドイツ最大運用会社CIOに聞く 日経電子版 8/23 有料記事

 

日経平均は、来年6月までに21,000円を付ける可能性がある、との見方を紹介している。

 

2015年8月21日 (金曜日)

500【税効果05】基準改善は会計方針の変更(by ASBJ)

 

2015/8/21

人民元の基準値が突然切下げられ日本の株式市場に秋風が吹きはじめた頃からだろうか、ようやく酷暑が峠を越えたようで気温が若干下がり、僕の寝つきも良くなった。ただ、日経平均はそれ以来800円近くも下落しており、こちらの方は暑さが和らぐどころか凍えそうだ。やはり中国の存在感は大きい。

 

ところで、みなさんは“予見可能性”という言葉をご存知だろうか。読んで字の如く「事前に(危機などを)察知できるかどうか」といった意味だ。法律用語としては“過失”を定義する際に「ある事実を予見可能だったにもかかわらず怠った心理状態…」などと利用されるから、法律を勉強する上では、基本概念の説明に利用される重要な用語だ。が、日常生活ではあまり使われない。地味な存在だ。

 

しかし最近、僕は、この言葉を重要と思うようになった。

 

“予見可能性”の低さは、ビジネスのリスクの高さに直結する。例えば、“予見可能性”の低い行政手続しか備わっていない国では、企業は実際に申請してみるまで認可や許可を受けられるか分からないから、投資が行いにくい。この場合、“予見可能性”とは“透明性”と同じような意味・役割がある、或いは、同じものの裏表と言っても良いかもしれない。“透明性”は重要だから、“予見可能性”も重要なのだ。

 

冒頭の人民元の基準値引下げの例では“予見可能性”が全くなかった。突然だったからだ。ショックを受けた市場は、「これは輸出振興策。中国経済はそこまで悪いのか」とネガティブにとらえた。中国人民銀行は、あとから「市場ニーズに合わせるため」とか「人民元国際化改革政策の一環」との説明を行ったが、まともに受け取られなかった。市場参加者にとっては、中国経済リスクへの意識を高めるちょうど良い機会となったが、これは人民銀行の意図するところではなかっただろう。

 

だが、予見可能性の低さが常にネガティブなわけではない。例えば、黒田バズーカーだ。2013/4の第1弾では、金融緩和自体は予想されていたが、その規模が予見できない大きさだった。2014/10の第2弾は、まったく予見不可能なタイミングで行われた。しかし、いずれにしても市場はポジティブな(=日銀が期待した通りの)反応を返した。

 

恐らくこの差は、以下のような背景その他の差によるものだと思う。

 

中国の経済統計・指標は、実態よりよく見せているのではないかと信頼性が疑われており、そもそも中国経済の実態が不透明=予見可能性が低い状態だった。そこに予見不能な人民元の切下げが行われた。その目的、意図という根本について不透明感があり、正当性に疑念を持たれている。したがって、今後の展開に対する予見可能性が低い。

 

これに対して黒田バズーカーは、当時の日本経済の悪さは明白=予見可能性の高い状態であり、なぜ、政府や金融当局はちゃんと対応しないのだろうと不思議がられていた。そこへその対応が(“三本の矢”とともに)ぶっ放された。目的、意図が明らかで、今後の展開についても、一般的な不確実性以上の不透明感がない。

 

やはり、“予見可能性”は重要だ。ビジネスは不透明さ、予見可能性の低さを嫌う。もちろん、政策当局にもある程度の裁量は必要だが、それが大き過ぎるとネガティブにリスクと捉えられてしまう。

 

 

さて、いよいよこれからが本題だ。実は、今回のテーマ“基準の改善は会計方針の変更”も、この“予見可能性”に関連すると僕は思っている。少なくとも、ASBJはそう考えているのではないかと思う。ASBJは、今回の基準変更を会計方針の変更として扱い、その影響額を期首剰余金の修正として処理させる提案の根拠として、次のように記載している(質問8-3の説明文から)。

 

①本公開草案は、監査委員会報告第66 号に定められる繰延税金資産の計上額を算定するための会計処理の原則及び手続を変更する内容を含んでおり、企業がこれまで採用していた会計処理の原則及び手続と異なる会計処理の原則及び手続を採用することにより、適用初年度の期首時点で新たな会計処理の原則及び手続を適用した場合の財務諸表の数値と前年度末の財務諸表の数値との間に差異が生じる場合、企業会計基準第24 号によると会計方針の変更として取り扱うことになること、②会計方針の変更が行われた場合、企業会計基準第24 号では、原則として過年度の財務諸表に遡及適用することとした上で、会計基準ごとに経過的な取扱いを設けることを認めているが、経過的な取扱いにおいても、会計方針の変更により期首において影響額が生じる場合、当該影響額を当期の損益とすることは想定されていないと考えられる…

 

要するに、ASBJ自らが設定した企業会計基準第24に照らせば、会計基準の改正によって財務諸表を作成する原則や手続が変更となった場合は、会計方針の変更として扱われることになっており、その場合はその影響額を期首剰余金の修正として処理する(=P/Lを通さない)。今回の繰延税金資産の回収可能性の基準についての改正は、まさにこれに当たると考えられている。

 

会計基準も、見方によっては、行政手続の一部と考えることができる。一般に、良い行政手続や良い行政システムとは、透明性の高い=予見可能性の高いことが必要条件だ。ということは、すでに公表した会計基準を、厳密に踏まえることとなる。ASBJにとっては、これが当然の結論だろう。今回だけ、24号と違う別の処理(=変更影響額のP/L計上)を認めることはできない、というか、もし認めるなら特別な理由が必要だが、そういう理由は見当たらない。

 

 

世間には、「せっかく基準が改善されて、作成者がより実情に合わせた方針を採用できるようになった。今まで既製品に体を合わせるように窮屈な思いを監査人に強制されていた。この思いに報いるためにも、P/L計上が妥当」という意見もあると思う。心情的には分かる気がする。

 

ただ、そうではないような気もする。というのは、66号は監査人の判断基準だが、監査人はそれほど窮屈な判断をしてないのではないかと思うのだ。前回(4998/19)見た主な改善点は、いずれも驚きはなかった。例えば、分類2の会社に係る役員退職慰労引当金の税効果についても、役員定年制の有無やその運用状況、過去の退任状況等々の実態に照らし、「将来のいずれかの時点で損金算入される可能性が高い」かどうかを判断したと思う。また、リストラが済んで、残りの事業収益が安定すれば(もちろん、事業の種類・内容次第だが)、1年や3年に限らずスケジューリングを見ていたと思う。したがって、今回の改正によって、従来と大きな変化が起こるケースというのは、ないとはいえないが、たくさんあるとも思えない。

 

以上にもかかわらず、僕は、基準変更の影響額をP/L計上する処理が適切なような気がする。それは、前回も書いたが、これらは会計方針の変更ではなく、見積りの変更のような気がするからだ。それを確認するために、IFRS、即ち、IAS12「法人所得税」などの内容と比べてみたい。

 

2015年8月19日 (水曜日)

499【税効果04】公開草案の質問事項=改正の主な内容

 

2015/8/19

すでにみなさんもご存知の通り、レスター・シティの岡崎慎司選手がプレミア・リーグ第2、ウェストハム戦で移籍後の初ゴールを決め、レスター・シティ連勝の原動力となった。ゴール・シーンを視聴したが、足を精一杯伸ばしてのボレー・シュートをキーパーに上へ弾かれ、そこをさらに頭で突っ込み、ゴールネットを揺らした。まさに、ゴール大好きの岡崎選手らしいゴールだった。

 

先月、岡崎選手は一時帰国した際に、清水エスパルスの試合の応援に駆けつけた。地元テレビでは、エスパルスのエース大前元紀選手との対談も放送されたが、新天地への想いより、2010年まで在籍したエスパルスへの憂いを語るとともに、大前選手の奮起を促していた。プレー同様、シンプルで純朴な人柄だ。その後、大前選手はリーグ戦で大活躍している(但し、失点が多くチーム成績には結びつかず😱)。

 

ブンデス・リーガからプレミア・リーグというさらに難しい環境への挑戦を決断した岡崎選手のさらなる活躍に期待したい。ん〜、ん〜、とてもワクワクしているが、悩ましい。

 

 

実は、とても不思議に思っていることがある。“しんじ”つながりの香川真司選手は、プレミア・リーグのマンチェスター・ユナイテッドへ移籍してすっかり調子を落としてしまった。審判が反則の笛をなかなか吹かず、屈強なディフェンダーが力任せにのしかかってくるプレミアに順応することは、ブンデスで実績を残してきた選手にとっても難しい。ところが、岡崎選手は、まるでプレミアで育ったかのように、もう、すっかり溶け込んでいる。

 

逆に、激しい守備で相手ディフェンダーを混乱に陥れている。ボールを奪取すると、すかさず、見事なパスを前線に送る。味方選手との連携も素晴らしい。パスを受けると素早く反転し、同僚へ絶妙なパスも配給する。

 

これは、以前からの彼のプレー・スタイルであり、これ自体、別に驚くに値しない。しかし、リーグが違う、チームが違う、チーム・メイトが違う。移籍先の別の環境でも高レベルのプレーを続けられることが素晴らしい。とはいえ、これは簡単なことではあるまい。これが香川選手を悩ませたのだから。

 

ということで、岡崎選手は単に移籍しただけでなく、新しい謎を与えてくれた。なぜ、岡崎選手は香川選手を悩ませたこの問題をクリアできたのか。今後は、岡崎選手のプレーを、この謎解きの観点からも楽しむことにしよう。新しい楽しみをもらったことになる。これについても、岡崎選手に感謝したい。

 

 

さて、“移籍”といえば、繰延税金資産の回収可能性の基準も、現在“移籍”作業中だ。日本公認会計士協会の監査における判断基準である監査委員会報告(以下、“66号”と記載)から、財務会計基準機構(=ASBJ)の会計基準である適用指針(以下、“公開草案”と記載)への移籍だ。

 

この移籍は、失敗するわけにいかないので、ASBJで念入りに検討され、公開草案が公表された。そのポイントは、おそらく下記の3点だろう。

 

A. 監査人に対する基準から、作成者に対する基準へ移行する。

 

B. 監査委員会報告の欠点を改善する。

 

C. 基準改正の財務諸表への影響をどのように扱うか。

 

A は形式的な問題で、実際にはあまり重要ではないと思う。もともと、この監査委員会報告は、作成者が読んで実務に活かすことが想定されて開発されたものなので、書き振りをちょっと変えれば済みそうだ。問題は B C で、特に、作成者にとっては実務に直結する。すなわち、なにがどのように改正され、その結果生じた繰延税金資産の測定額の差を、期首剰余金の増減とするのか、それとも P/L へ計上し純利益を増減させるのかは、大問題となる。

 

このような観点から、公開草案に掲げられた質問を眺めてみよう。質問項目は以下の通り。

 

  1. 監査委員会報告第66 号における企業の分類に応じた取扱いの枠組みを基本的に踏襲する提案に同意しますか。同意しない場合には、その理由をご記載ください。

 

66号は会社を5つに分類し、それぞれの分類について回収可能額の判断方法を記載している。公開草案も、基本的にその書き方を踏襲している。それに対する賛否を質問したもの。

 

このシリーズの前回(4967/31)に、繰延税金資産の回収可能性は、「税効果会計の減損会計」と書いたが、減損なら将来キャッシュフローの現在割引価値の見積もりが資産の測定額となる。しかし、繰延税金資産の回収可能額では割引計算は行われず、将来キャッシュフローの見積もり方法について5つの場合分けで測定方法が示されている(66号も、公開草案も)。

 

  1. 各分類の要件をいずれも満たさない場合、各分類の要件からの乖離度合いが最も小さいと判断されるものに必ず分類するという提案に同意しますか。同意しない場合には、その理由をご記載ください。

 

66号では、会社の分類は5つが示され、それらのいずれにも該当しない場合は、「それぞれの例示区分の趣旨を斟酌し、会社の実態に応じて、それぞれの例示区分に準じた判断を行う」とされていた。それに対して公開草案は、「各分類の要件からの乖離度合いが最も小さいと判断されるものに分類する」となっている。

 

この結果、公開草案ではどのような場合であっても5つの分類ごとに示された測定方法が適用されることになる。この質問は、これに対する賛否を問うている。

 

このように書くと、公開草案の方が作成者の採用する測定方法に厳しい枠が嵌められるように感じられてしまうが、実際の公開草案の書き振りは、状況に応じて柔軟な対応が可能となるような感じになっていると思う。

 

  1. (分類2)及び(分類3)について、会計上の利益に基づく要件から課税所得に基づく要件に変更する提案に同意しますか。同意しない場合には、その理由をご記載ください。
        
         なお、・・・(省略)。
        
         また、分類の要件として、課税所得から「臨時的な原因により生じたもの」を除くことも提案し、結論の背景においてその考え方を示しています(本公開草案第
    70項を参照)。当該提案についてもご意見がありましたら、ご記載ください。

 

分類2の会社とは、業績(=会計上の利益)は安定しているものの、期末の将来減算一時差異全額を回収するに足るに十分な課税所得ではない会社で、スケジューリング可能な将来減算一時差異の全額を回収可能として扱える会社のこと(66号ベースの表現)。分類3は、業績が不安定で、概ね5年以内に回収可能な将来減算一時差異を繰延税金資産に計上する会社(同上)。

 

この質問では、会計上の利益に基づく要件(=業績)ではなく、“課税所得”による要件へ変更したことについて賛否を訊いている。

 

厳密には、繰延税金資産は業績(=会計上の利益)ではなく、将来の課税所得で回収されるものなので、恐らく否定の意見はないと思われる。よって、否定意見を前提に追加の問いかけをしている第2段落の「なお…」は、冗長となるため省略した。より厳密になったので、これは66号の欠点を改善した箇所だと思う。

 

第3段落の「また…」は、“臨時とはなにか”の説明を付加した部分の賛否を問うている。66号では“臨時”についての説明は特にない。それを公開草案の第70項では、具体的ではないものの、一応説明を加えた。その結果、『監査委員会報告第66 号における「経常的な利益」に基づく判断とおおむね整合的になることを想定している』としている。これは、公開草案が一般の財務諸表作成者のための基準であるため、会計の専門家である監査人のための66号より詳しい記載が必要と判断されたためではないかと思う。

 

  1. (分類2)に該当する企業においては、一定の要件を満たしたスケジューリング不能な将来減算一時差異に係る繰延税金資産は回収可能性があるものとする提案に同意しますか。同意しない場合には、その理由をご記載ください。

 

分類2の会社について、一律に「スケジューリング不能な将来減算一時差異に係る繰延税金資産は回収可能性がない」とすると、次のような問題があるとASBJは認識している。

 

・企業の実態を反映しない場合がある

IFRSUS-GAAP採用企業では、一部を回収可能と判断している

 

これで頭に浮かぶのは、役員退職慰労引当金に対する繰延税金資産だ。特に、創業経営者、数十年の長期にわたり経営トップに君臨してきた役員は慰労金が多額となるので、繰延税金資産を計上する、しないが業績に与える影響が大きい。

 

66号ベースの日本公認会計士協会の「税効果会計に関するQ&A」は、役員退職慰労引当金に係る繰延税金資産を回収可能と判断するためには、スケジューリングが必要としている*1

 

一方、公開草案は第37項で「なお、(分類2)に該当する企業においては、当該スケジューリング不能な将来減算一時差異に係る繰延税金資産について、第21項ただし書きに従って回収可能性を判断する。」とし、その第21項但し書きで次のように記載している。

 

ただし、スケジューリング不能な将来減算一時差異のうち、税務上の損金算入時期が個別に特定できないが将来のいずれかの時点で損金算入される可能性が高いと見込まれるものについて、当該将来のいずれかの時点で回収できることを合理的に説明できる場合、当該スケジューリング不能な将来減算一時差異に係る繰延税金資産は回収可能性があるものとする。

 

この表現だとわかりにくい。誤解を恐れずに書くと、恐らく、次のようなイメージではないかと思う。

 

この先、まだ何十年も社長を続けそうな若い経営者に対する役員退職慰労金は、退任するまで会社が続くかどうかもわからない。一方、年齢や慣例から10年とか(具体的年数は会社の状況で異なる)、そのくらいで引退しそうな経営者であれば、そのタイミングは特定できないが(=スケジューリング不能だが)、引退時点で会社が存続しており、一時差異が解消できるかどうかを見込むことが可能かもしれない。もし、見込めるなら、タイミングが特定できなくても回収可能性ありとして扱うことができる。

 

このように、実質的に役員退職慰労引当金の税効果に関する取扱いを変更する、或いは、回収可能と判断しやすくする変更を、この公開草案は提案している。ほかにも該当するものがあれば、もちろん、同様の取扱いが可能となる。この質問は、これへの賛否を問うている。66号の問題を改善する提案だ。

 

  1. (分類3)に該当する企業においては、5 年を超える見積可能期間においてスケジューリングされた一時差異等に係る繰延税金資産が回収可能であることを合理的に説明できる場合、当該繰延税金資産は回収可能性があるものとする提案に同意しますか。同意しない場合には、その理由をご記載ください。

 

分類3の会社については、66号では「概ね5年以内」でスケジューリングすることが可能とされている。この“概ね”が厳格に運用されすぎて、弊害があるとASBJは見ている。それを改善することについて、賛否を問うている。

 

  1. (分類4)に係る分類の要件を満たす企業であっても、合理的に説明できる場合は(分類2)又は(分類3)に該当するものとして取り扱うという提案に同意しますか。同意しない場合には、その理由をご記載ください。

 

分類4の会社は、重要な繰越欠損金があるなど相当ダメダメな状況にある。66号では原則として翌期のスケジューリングしか認められなかった。そして但し書きで、限定的な例外を認め、概ね5年以内のスケジューリングを容認した。この限定的な例外の例は「事業のリストラクチャリングや法令等の改正などによる非経常的な特別の原因により発生したもの」とされている。

 

一方、公開草案では、あまり限定せずに例外を認めている。というか、過去に何があったかをあまり気にしていない。どのような理由で繰越欠損金が生じたかより、将来、課税所得が見込めるかどうかが重要だ。分類4とその他の会社の垣根が低くなり、発想が共有された(=将来の課税所得に目が向いた)。

 

これは、質問5と同様に“概ね”が厳格に運用されすぎているということや、“非経常的な特別の原因”の受け取り方にバラツキがあることの改善とされている。

 

  1. 注記事項についての提案に関する質問

 

これは、割愛させていただく。

 

  1. 適用時期等に関する質問

 

これには、次の3つの質問がある。

 

8-1. 強制適用に関する質問

これは、強制適用時期(=H28/4/1以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用)に関する質問。

 

8-2. 早期適用に関する質問

早期適用すると期首時点(=H27/3E)の繰延税金資産の回収可能性の判断を期末(=H28/3E)にやり直すことになる(特に上記で“改善”としたポイントはやり直し)。当然、期首時点では分からなかった様々な情報が、期末には明らかになっている。しかし、期首時点の回収可能性の判断は、期末までに明らかになった情報を知らない前提で行わなければならない。そんなことは可能か?という質問。

 

8-3. 適用初年度の取扱いに関する質問

この公開草案を適用による期首時点の影響額を、期首利益剰余金の修正(=会計基準等の変更による会計方針の変更として扱う)とすることについて賛否を問うている。これを否定する意見として、この影響額を変更した期のP/Lに計上する(=会計方針の変更を会計上の見積りの変更と区別することが困難な場合として扱う)考え方が示されている。

 

最後に、質問9として「そのほかに何かある?」という質問もある。

 

なんとなく、公開草案の雰囲気がわかったところで、次回から気になったところを掘り下げていきたい。特に 8-3 が気になる。これって、会計方針の変更なの?

 

🍁ー・ー🍁ー・ー

*1 JICPAの「税効果会計に関するQ&A」には、次のように記載されている。

 

なお、役員退職慰労引当金に係る将来減算一時差異については、スケジューリングの結果に基づいて繰延税金資産の回収可能性を判断するものですので、退職給付引当金や建物の減価償却超過額のように将来解消見込年度が長期となる将来減算一時差異には該当しません。役員退職慰労引当金に係る繰延税金資産の回収可能性については、これまでの役員在任期間の実績や内規などに基づいて役員の退任時期を合理的に見込み、当該役員の退任時期に将来減算一時差異が解消され、税金負担額を軽減できる範囲内、繰延税金資産を計上することとなります。

 

 

2015年8月13日 (木曜日)

498【番外編】戦争の反省と安保法制

2015/8/13

この時期は、毎年、先の大戦関連の話題がマスコミを賑わすが、今年は特に多い。70年という区切りの年ということもあるが、徐々に、国際情勢が緊張の度合いを増していることにもあるように思う。僕は時間の許す限りそういう記事や番組をチェックすることにしているが、毎年いつも、かなり食傷気味になる。しかし、今年はまだ飽きがこない。それどころか、ますます、興味が湧いてくる。

 

僕の場合、生まれる前の出来事を“ウルトラマン”や“仮面ライダー”と同様のもの、即ち、架空の創作話のように受け取っていたから、話が面白くなければ飽きてしまう。先の大戦についてはどの話も、なんかワンパターンだし、悲惨だし、面白くない。しかし、義務と思って関心を保ってきた、いや、関心を持っている振りをしてきた、と言った方が近いかもしれない。

 

しかし、近年では研究が進んだのか、非常に具体的に軍部や社会を分析したものが出てきており、臨場感がある。“臨場感がある”というのは、「ドラマ性や物語性がある」という意味ではなく、「現代社会でもありそうな話」に感じられることだ。

 

みなさんは「戦前は社会が特殊だった、一時的におかしくなっていた」と思われてないだろうか。或いは、「憲法が違うから、もう同じことは起きない」などとイメージされてないか。しかし、どうも、違いそうだ。というか、むしろ、状況は似てきているかもしれない。

 

今回は、最近チェックしたその手のものから、現時点で僕が特に興味を持ったものを皆さんに紹介したい。(以下は、いずれも日経ビジネスの「終戦から70年、改めて歴史に学ぶ」シリーズの記事。閲覧するには会員登録が必要かもしれない。)

 

知られざる昭和陸軍のキーパーソンたち

陸軍・宇垣派:満州事変の拡大を一度は抑え込んだ男たち 8/3

満州事変の進路を変えた犬養内閣の陸相人事 8/6

武藤章:日中戦争と太平洋戦争の引き金を引いた男 8/7

 

ちょっと古いが、同じシリーズで以下の記事もとても参考になった。

 

政党は善玉、軍部は悪玉――は間違い 政党政治を自ら壊した政友会と民政党 1/19

 

第一次世界大戦後の日本陸軍の仮想敵国はソ連だったようだ。結局、日本は中国・米国などと戦争をしたが、本来は、米英とは協調路線を取りつつ、中国とは本格的な戦争にならないよう満州を実質支配し満州でソ連を止めることが、陸軍主流派(=宇垣派)の戦略だったらしい。したがって、そこで発生した満州事変(柳条湖事件1931918日)はその戦略外だったから、宇垣派は暴走した関東軍を押さえ込もうとした(そのときの陸軍大臣は宇垣派の南次郎)。

 

しかし、“宇垣派の戦略”は、政治とは共有されていないかったようだ。いや、共有されていたのかもしれないが、当時の政権交代(立憲民政党若槻禮次郎政権立憲政友会犬養毅政権)とともに、関東軍の暴走抑え込みに成功していた宇垣派は陸軍組織の要職から追放され、陸軍大臣にはより強硬派である皇道派トップの荒木貞夫へ交代させられる。翌19325.15事件(犬養毅、高橋是清などが暗殺される)も起き、それらの結果、満州事変は拡大、抗日運動は激化し、米英と日本の関係も悪化していく。すなわち、宇垣派の戦略から外れていく。(この後、陸軍内部では1936年の2.26事件にかけて皇道派から統制派へ実権が移っていくが、この戦略へ戻されることはなかった。)

 

(以上は、主に8/38/6の記事に、Wikipediaなどから時代背景や年号などを補足して記載。以下の記載についても同じ。)

 

以上については、詳しい方は既にご存知のことかもしれない。僕は、“米英協調+ソ連に備える”戦略は、当時の状況から適切なものに思えたが、なぜ、それが引き継がれなかったのか不思議になった。そこで、「戦略は、陸軍の官僚ではなく、政治が持つべきではなかったか」とか、「陸軍の官僚(=一夕会)がなぜ宇垣派の戦略を否定したのか」などを疑問に思った。

 

これらについてもう一度よく読んでみると、8/3の記事に次のようなことが詳しく記載されていた。

 

政治)若槻政権は、中国との関係をよくし、満州利権より、通商で利益を得ようとした。

 

陸軍)ソ連との総力戦に備えて、満州鉄道利権(南満州鉄道、通称満鉄)を守ろうとした。

 

なるほど、政治には政治の戦略があったが、陸軍の戦略とは一致していなかった。そして、政権交代があると政治側の戦略は揺らぎやすい状況だった。では、宇垣派の戦略は、なぜ揺らいだのか? それは、以下のように陸軍内部でも宇垣派と一夕会は下記のように異なる戦略を持ち、宇垣派が一夕会によって追い出されたからだ。

 

宇垣派)ソ連との総力戦に必要な資源は、米国に依存する。即ち、対米協調路線。

 

一夕会)ソ連との総力戦に必要な資源を自給する。そのために中国資源の実質支配を目指す。即ち、米国との協調にこだわらず、臨機応変に対応する。

 

宇垣派は長州閥の流れをくむが、(双葉会や)一夕会は陸軍士官学校出身者の集団で、のちに皇道派や統制派へ分かれていく。宇垣一成は海外留学経験もあり国際感覚を持っていたようだ。陸軍大臣として内閣の方針に協力し軍縮にも務めた。しかし、それゆえ士官学校出身者など陸軍中堅層からは反感を買っていた。

 

当時、米英の生産力は圧倒的だったので、宇垣派の方が現実的な路線だ。これについて、もっとオープンな議論は当時行われなかったのだろうか。政治を交えて、或いは、もっと社会的な広がりを持った議論が行われていたら、どうなっていただろうか。もっと、米英協調的な路線が取られていた可能性が高いのではないか。

 

これについては、上記に参考として紹介した1/19の記事にヒントが記載されている。

 

大正末にワシントン会議がありました。これを契機に平和ムードが高まり、軍人が無用の長物扱いされる時代が続きました。若い将校にお嫁さんが来ない。電車に乗っていると「税金泥棒」と言って足で蹴られる。軍服を着ていると批判されるので、軍事官庁に勤める軍人は背広を着て登庁して、登庁してから軍服に着替える。帰る時はまた背広に着替える。こういう状況があったことを押さえておく必要があります。

 

第一次世界大戦の厭世気分、軍縮、世界恐慌の流れの中で、日本では人身売買が行われるほど厳しい不況が続き、軍事予算の縮減が行われていた。すると、社会的に軍部・軍人を疎む風潮が生まれ、軍部は疎外されていった。恐らく、このような国防に関する本質的で重要な議論が、オープンになされうる社会的環境、雰囲気ではなかったのだろう。まったく残念なことだ。

 

ここまで読んで、さらに残念なことを思い出した。それは、満州事変、日中開戦、日米開戦のいずれのケースでも、マスコミと国民世論は行け行けドンドンだったこと。事前に十分な議論・検討がなされていないことに対し、緒戦でちょっと良い結果が出ると、すぐに結果オーライにしてしまった。特に満州事変では、上記の通り、マスコミと世論は直前まで軍部を毛嫌いしてたのに、すぐに手のひらを返した。ところが、5.15事件後は、今度は政党がマスコミ・国民から疎まれて軍出身者ばかりが首相になった。そして、それが軍部の独走をサポートした。ん? それなら“軍部の独走”ではないかも。

 

今の中国には、尖閣諸島海域への侵犯やガス田開発施設の建設、サイバー・テロなど、悪意すら感じることが色々ある。しかし、一方で爆買いしに来てくれるなど、日本製品の安心・安全を高く評価してくれているという。それに何より、中国共産党指導部は、「日本の戦争責任は、一部指導者たちにあるのであって国民にはない」と言ってるらしい。これは、温情ではないか。

 

オリンパスの粉飾は、経営の中枢にいる極一部の者によって行われていた。この場合、粉飾決算の責任は、一般社員にはない。しかし、東芝では経営者の(暗黙の)号令で、現場が粉飾を行った。現場の責任も免れない。真っ当な会社になるために、どちらが大変か、自明だろう。日本の戦争責任はどうか。

 

日本国民の責任は、本質的に重要な議論を必要なタイミングで行わなかったことにあると、僕は思う。政治も同様だ。それが、その後の軍部暴走に対するサポートへつながったのではないか。この点、みなさんはどのように感じられるだろうか。

 

僕は、銃の所持には反対だが、銃を持つ相手と対峙せざる得ない時には銃を要求する。だが、その前にそういう状況にならない努力を精一杯すると思う。そのとき、もし、お隣さんや友人たちを守ったり、守られたりする関係があれば心強い。数は力になる。交渉力も、防御力も増す。だが、無用な喧嘩をする友人がいれば、諌めなければならないし、一緒になって戦うこともないだろう。その線引きは重要だ。これを国レベルで考えると、その重要な判断を、たまたまそのタイミングで首相の座にいる人に委ねることはできない。

 

与党の安保関連法案は、答弁が薄すぎるし、政権の判断の幅が広すぎて、感じ悪い。(感じ悪いのは、昨年の特定機密保護法案に続き、もう、2回目になる。) 一方で、違憲と騒ぎ立てるだけで、本質的な問題を議論しない一部野党やマスコミの姿勢も、無責任だと思う。

 

このままでは、また、必要なタイミングでの議論を逃しかねない。そしてこのままでは、いざ、何かをきっかけに強硬に突き進む勢力が現れた時に、またそれを追認してしまうような未熟なマスコミ、行き当たりばったりの国民世論が復活してしまうのではないか。即ち、今、この議論をしっかり行い、戦略を共有することが、先の大戦から読み取るべき現在の日本国民の反省と責任なのではないか。

 

願わくば、「憲法があるから日本は平和国家だ」ではなく、道具(=憲法やそれに定められた政治システム)を上手に使いこなす「国民性ゆえに日本は平和国家だ」と言われて胸を張れるようになりたい。

2015年8月 5日 (水曜日)

497【番外編】社畜、経営理念、社会的使命

 

2015/8/5

東芝の粉飾事件については、スポットライトの一つが“監査法人の責任”へ向けられている。「監査法人はわかっていたはずだ。でなければ無能だ」みたいなものから、「責任の重さと監査報酬の低さ」を指摘したものまで様々だ。が、厳しい意見が大勢のようだ。

 

このような不正・粉飾は、顧客や社会を無視した“村の論理の結晶”として発生する。社会貢献を謳った経営理念をどこかへ置き去りにし、身内の都合ばかりを優先した結果が不正や粉飾決算になっていく。これは、経営層・管理層を年功序列型の人事制度で長期間育成された人材が埋めていく日本企業にとって、陥りやすい危険な落とし穴だ。日本企業にこそ、経営理念やその他の方法で如何に顧客や社会とつながっていくかを、役員・従業員へ意識させ続けることが必要だと思う。

 

もし、日経電子版の有料会員で時間に余裕のある方は、次の記事をお読みいただきたい。

 

バブル入社組が迫られる「社畜卒業宣言」 日経ビジネスからの転載記事 8/4

 

会社が大好きで全てを捧げてきたサラリーマン…典型的な日本のサラリーマン…を“社畜”と呼ぶらしい。この記事は、2015/3期の大赤字決算とともに公表されたシャープの希望退職募集などの取材をベースに、人々が“社畜”から卒業していく姿を描いている。彼らは「会社への思いは片思いだった」と悟り、「自分は他の会社でも通用するだろうか」という不安を乗り越え、「どこでも通用する力をつける」ことの重要性を意識していく。

 

恐らく、こういう人がたくさんいたら、今回のように現場をも巻き込むような粉飾はやりにくくなるだろう。村の論理より、顧客や社会を大事にする社風であれば、ガバナンスが効きやすく、東芝のような“チャレンジ”にはならなかったように思う。“愛社精神”は美しいが、またそれだけに汚れ歪みやすい。輝き続けるには、“社畜”じゃない人々や“社畜”でも経営理念を最優先に考える人々による不断の努力が必要だ。

 

 

さて、監査法人はどうだろうか。監査は国家試験に合格した公認会計士によって主に行われる。我々はその後も会計基準や監査基準といった社会的規範に基づいて業務を行い、経験を積み、“第三者としての立場”或いは“独立性”の重要性を学んでいく。それなら村の論理とは無縁だろうか。

 

確かにそういう面もある。特に、会計基準の解釈などの専門分野では、一定の評価を得ていると思う。だが、“社畜”はいるし(僕もそうだったかも)、村の論理は一般企業と同じだ。

 

今回の事件で、東芝の監査人は日本公認会計士協会などの調査・検査を受ける。そのとき、村の論理ではなく、監査法人の経営理念や公認会計士の社会的使命に照らして誠実・率直に対応し、実態を明らかにしてほしい。勇気のいることだが、是非そうしてほしい。その結果、社会や監査人業界が、この事件から貴重な教訓を得られることを期待したい。そして、監査基準等の過剰な見直し(=効果よりも監査の社会的コストばかりが増える見直し)に至らないことを願いたい。

 

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