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2015年9月 2日 (水曜日)

505【番外編】東芝:有報提出の再延期に憤り?

2015/9/2

税効果シリーズの続編を書いている時、東芝の有価証券報告書提出が、8/31から1週間延期されるというニュース速報が入ってきた。「ふ〜ん、関係者は苦労してるんだろうな」と思った。というのは、7/20の第三者委員会報告から有報提出日まで40日もの長期間が用意されており、それにも関わらず延期されたのだから、7/20以降もドッタンバッタンが続いたに違いない。第三者委員会の報告書の内容を思い浮かべながら、「あの内容だからなあ。内部統制がひどすぎて、逆に適正な財務報告の邪魔・障害・妨害になってたからなあ」と思った。

 

金融商品取引法上の内部統制報告書制度は、直接には、有価証券報告書の財務情報に関する適正性を担保する内部統制の適否を評価するものだ。具体的にいえば、決算日から3ヶ月以内に適正な有価証券報告書を提出する義務をこなせるか、社内体制を評価する。(もちろん、内部監査人・外部監査人は、それに加えて会社法の開示、証券取引所の開示についても注意する。)

 

ということは、3月決算の東芝が、6月末までに財務情報の信頼性に関わる問題で有報を提出できなかったのだから、その時点で明らかに内部統制に重要な不備があったことになる。100%バツだろう。過去の決算も大きく訂正されるだろうから、東芝が自ら行った内部統制の評価(=内部統制報告書)や監査人の監査報告書も、過去にさかのぼって訂正が必要になる。

 

多分、もう訂正されたに違いない。そう思って、EDINETで東芝の開示書類を検索してみたが、これらの訂正報告書はでてこない。「ふ〜ん、内部統制は訂正すべき事由が発生・認識されても、タイミングよく開示する必要がないんだ」と、かなり煮え切らないもの感じながら、翌日(9/1)、関連記事をいくつか読んだ。例えば、以下のもの。

 

東芝、土壇場で混乱増幅 内部通報が相次ぐ  日経電子版 9/1 無料記事

東芝、決算発表と有報提出を7日に再延期 新たに10件の会計問題 REUTERS 9/1

アングル:上場維持へ正念場の東芝、17日が有価証券報告書提出の最終期限 REUTERS 9/1

 

2つ目までは、なるほど、と思いながら読んだ。これらは、提出日再延期に至る東芝の混乱した状況が書かれている。あれっ、と思ったのは3つ目だ。それの、次の箇所。

 

東芝の再延期を受けて、有価証券報告書の虚偽記載の疑いで調べを進めていた証券取引等監視委員会の関係者は「まことに遺憾」と憤りを口にした。

 

なぜ、証券取引等監視委員会が憤るのだろうか?

 

この国家機関は、証券市場と投資家の利益保護のためにある。したがって、間違えた情報開示とか、出すべき情報を出さない会社に憤るのならわかる。しかし、すでに2ヶ月延長した提出期限をもう1週間再延期したぐらいで、憤るなどという強い感情が生まれるだろうか。しかも、東芝は、ボロボロの内部統制を抱えながら、適切な開示が行える確率が上がるよう、投資家の利益に沿って恥を忍んで延長申請したのだ。市場と投資家のことを考えるなら、強引に8/31に間に合わせて後から再訂正するような事態に陥るのとどちらが良いかという比較で、冷静に評価すべきだ。この“憤る”という国家機関(関係者)の感情はどこから来たのだろうか。

 

有報が提出されないと、東京証券取引所が東芝を特設注意市場銘柄へ指定できず、投資家へ注意喚起できないからか? しかし、それは東証の都合に過ぎない。本来、有報を待たずに東証の責任と判断で指定すれば良い。さもなくば、内部統制の訂正報告書の提出時期や東証の適時開示制度をもっとタイムリーなものに改善し、それで東証が判断できるタイミングを早めれば良い。要するに、金商法と東証の制度が悪い*1

 

或いは、この部分はREUTERSの勝手な脚色だろうか。だとすれば、その意図は一体なんだろう? 弱り目に祟り目の東芝を、この際、さらに痛めつけてやろうというのか。実は、憤っていたのはREUTERSの記者か。でも、なぜ? 

 

と思って、上記に挙げた記事以外の他の記事も思い出してみると、どうもREUTERSに限らず、新聞には、この件でも「東芝けしからん」という一方的な感情があるのではないかと思えてくる。特に、「さらなる延期は社長の進退に」みたいな見出しや記事の書き振りには、そういう雰囲気が出ているように思う。

 

粉飾した経営者はけしからん。粉飾を防げないどころか、それをサポートするような内部統制を構築した経営者はけしからん。しかし、間違いのない情報開示のためにメンツを捨てて有報提出期限を延長した経営者は、それほどでもない。僕は、粉飾と今回のケースでは、記事のトーンを区別した方が良かったと思う。

 

そして、今回のケースから、社長の進退よりもっと重要な教訓が読み取れるのではないか。

 

それは、「情報開示を延長している期間の情報開示について、もっと(開示制度を)工夫した方が良いのではないか」ということだ。特に、今回のように長期間延長するケースがあるなら真剣に考えるべきだ。冒頭の内部統制報告書や外部監査人の監査報告書の適時な訂正もその一例だ。しかし、より重要なのは、有報の提出期限を厳格に守らせることではなく、提出までの期間の作業の進捗状況や、新たに発生した問題・障害等の適時な報告を細かく求める制度に改善することだと思う。その方が、市場や投資家にとって有益ではないだろうか。

 

その意味では、8/18に東芝が新たな社外取締役候補など新体制の概要を発表し、加えて、非公表だった原子力発電事業の業績の一部を初めて開示し、燃料ビジネスが好調で減損は必要ないと説明した*1ことは、良かったと思う。ただ、この際、10件の案件が追加で検証されているとか、開示作業や監査の進捗状況など、適正な開示に向けて汗をかいている様子も併せて公表されていたら、もっと良かった。しかし、東芝の自主的な開示ではそこまで至らなかった。やはり、制度対応が必要ではないだろうか。

 

 

ところで、「東芝の原子力事業に減損の疑いあり」という記事が、様々なメディアで大きく報道されていた*2。東芝は、上記の8/18に、それに対する反論をしたのだろうと思う。しかし、それ以降、この件をフォローする新しい記事は見当たらなかった。これは金額もでかいし、公表されていた原子炉受注目標と実績の乖離も大きいし、日本のエネルギー戦略とも絡んで社会性も高い。とても重要な問題だ。

 

マスコミは、なぜ、この件を詳しくフォローしなかったのか。18日の東芝の説明を受入れたということか。それならそういう解説記事も欲しいし、或いは、原子力事業を今後独立セグメントとして開示せよとか、売上を開示できるのだから原子力事業に属する資産額と主な内訳も追加で開示せよ、といった主張・要求があっても良いと思った。本当は、M&A直後の買収価格評価資料と実績による分析資料が開示されると一番良いのだか。

 

個人的には、「原子力事業は本当に儲かってるのか(減損不要か)」という疑いをぬぐいきれない。だから、僕は、東芝株を買わない。

 

 

🍁ー・ー🍁ー・ー

*1 日経新聞はすでに6月時点で「過去の内部統制報告書が訂正される見込み」と報道している。

 

東芝、内部統制に不備 過去の報告書を訂正へ 6/12 日経電子版有料記事

 

これにもかかわらず、8月末の有報提出まで、東芝を特設注意市場銘柄へ指定しない東証がおかしいと思う。特設注意市場銘柄というのは、東証が、企業の内部管理体制を改善する必要性が高いと判断した場合に指定するもので、その後、改善状況をフォローする。投資家に注意喚起する趣旨がある。

 

*1 東芝株、一時9%高 米原発子会社の減損懸念後退で  8/19 日経電子版有料記事

 

この記事にある8/18に公表された資料は、東芝のHPで閲覧することができる。原子力事業に関しては、P22以降の数ページに記載されている。

 

新経営体制、ガバナンス体制改革策 及び業績予想について - 東芝

 

*2 例えば、現在でも次のような記事がネットで閲覧できる。

 

膨らんだ「のれん代」1兆円超 東芝がひた隠す「原発事業の不都合な真実」 週刊現代 7/21

東芝の原発事業に1000億円単位の減損リスクも ダイヤモンド 7/27

東芝不正の背景にあった原子力事業買収の重荷 経済プレミア(毎日新聞) 7/29

 

日経ビジネスにもあったような気がするが、探しても見当たらなかった。

 

 

 

 

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