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2015年9月 8日 (火曜日)

508【税効果09】IAS12に会社分類と見積り年数の記載なし〜日本基準の公開草案との比較

 

2015/9/8

「会計方針か、見積りか」の議論を終えて、改めて、このブログらしいIFRS視点のテーマへ移ろう。それは、IAS12に会社分類や見積り年数の制限の記載がないことだ。果たして、この公開草案は、IAS12とどのような相違するのかについて検討していきたい。

 

まず、IAS12がどのように回収可能性を見積もるよう規定しているかについて、振り返ってみよう。これに関連するIAS12の規定は、すでに「502【税効果06】IAS12に会社分類やプランニング年数の記載なし」(8/25)の欄外に転載している。

 

その特徴を要約すると以下のようになる(以下は、僕の独断と偏見が混じっているので、正確を期したい方は502の欄外をご覧になるか、原文にあたっていただきたい)。ついでに今回の公開草案との相違も記載していきたい。

 

1. 繰延税金資産は十分に回収可能な金額を計上する(=回収可能額に制約される)。

 

この考え方は、日本基準と同じ。なお、IAS12は、下記のように税効果を有する項目を3つ挙げているが、以下、(2)(3)を合わせて“繰越欠損金等”と記載する。

 

(1) 将来減算一時差異

(2) 繰越欠損金

(3) 税額控除の繰越し

 

なお、“十分に”とあるのは、IFRS流の保守主義だと思う*1

 

2. 見積りに求める確実性は“可能性が高い”レベル。即ち、50%超。

 

日本基準(公開草案も)と異なり会社分類はしないが、“将来減算一時差異”と“繰越欠損金等”については、見積りに求める確実性を区別している。即ち、IAS12は“繰越欠損金等”について、下記の通り、より確実な証拠を求めている*2

 

“繰越欠損金等”が生じている場合は、企業の課税所得を稼ぐ力が陰っている可能性が考えられるため、それを打消す追加の証拠を求めている*2。その追加の証拠が加わることで、“繰越欠損金等”についても、“将来減算一時差異”と同様の見積りの確実性(=“可能性が高い”)が得られると考えられている(35項)。

 

一方、今回の公開草案は、会社分類や見積り年数の判断に“合理的な説明”を求めている。この“合理的”という言葉には、8〜9割の確実性を要求されているイメージがある。(ただ、このシリーズの前回(506-9/3)記載したように、見積りの前提となる事業計画の不確実性まで考慮した見積り全体の確実性は、“可能性が高い”レベルに留まるのかもしれない。)

 

3. 見積り年数の指定・例示はない。

 

4. 会社分類をしないので、会社の過去の業績への言及もない。

 

繰越欠損金等が残っていれば、上記の通り考慮される。しかし、その他については直接過去が問題になることはない。「将来課税所得が獲得できるかどうか」という未来へ関心が集中している。

 

結局IAS12では、繰延税金資産の回収可能額をどのように見積もるかは、会社がそれぞれの状況に応じて考えることになる。

 

今度は、公開草案の側から見て、もう少し具体的に考えてみよう。日本基準の分類1、分類5にあたる会社*3は、IFRSで考えても判断にそう違いはないだろうから、突っ込むべきは分類2〜4の会社ということになるだろう。そこで、今回の公開草案の分類2〜4について、少し詳しく記載したい。

                       
 

 

 
 

分類基準

 
 

見積り方法

 
 

分類2

 
 

過去3年及び当期、臨時項目控除後の課税所得を安定的に獲得し、経営環境に著しい変動のない会社

 

(但し、課税所得は、繰延税金資産の全額を回収するに十分なほど大きくない)

 
 

・スケジューリング可能な将来減算一時差異を全額繰延税金資産に計上。

 

・一定のスケジューリング不能な一時差異*4についても、繰延税金資産に計上(21項但し書き)。

 

 実質的に見積り不要

 
 

分類3

 
 

過去3年及び当期、臨時項目控除後の課税所得が大きく増減している会社。但し、重要な繰越欠損金は生じていない。

 
 

5年を限度に回収可能額を見積もる。

 

・合理的な説明がつけば、5年超の見積りも可能。

 

21項但し書きの適用なし

 
 

分類4

 
 

過去3年又は当期、重要な繰延欠損金、繰延欠損金の期限切れが生じた、又は、見込まれる会社

 
 

翌期の回収可能額を見積もる。

 

・5年超の見積りが可能であると合理的な説明がつけば、分類2へ格上げする(21項但し書きの適用あり)。

 

・3年超の見積りが可能であると合理的な説明がつけば、分類3へ格上げする。

 

これを見て、みなさんは次のことを感じられるだろうか。

 

分類基準の文言上、或いは、形式上は、過去の臨時項目控除後の課税所得の推移が最も重要だが、実質的・最終的には、「この先、何年を見通せるか」が判断基準になっている。

 

即ち、5年を超えて課税所得を獲得し続けられそうであれば分類2扱い、3年超であれば分類3扱い、それ未満なら分類4(但し、分類3から入ると、5年超でも21項但し書きは適用されない)。

 

この実質的な考え方には、親近感がある。なぜなら、結果的にIAS12と同じことになるからだ。重要なのは、あくまで“将来”だ。過去の課税所得は、分類の入り口として一応見るが、結局、サポート・データに過ぎないということだと思う。

 

ということは、大きくみれば、今回の公開草案はIAS12とそんなに違わないのかもしれない。

 

しかし、一方で、次のような場合はIAS12と一致するか、僕にはわからない。言い換えれば、次のような場合について、IAS12を適用している会社すべてが、下記のような判断をするか疑問がある(=異なる判断となっても、適切なケースがあるのではないかと思う)。

 

・公開草案では、繰延税金資産の全額を回収するに十分な課税所得を、毎期獲得している会社(=分類1)でないと、スケジューリング不能な一時差異の全額を繰延税金資産へ計上することはできない。

 

・公開草案では、分類3の会社において、退職給付引当金や減価償却超過額に係る一時差異のような“解消見込年度が長期にわたる将来減算一時差異”は、スケジューリングを行うことを条件に全額回収可能と判断することが認められている(35項)。

 

・公開草案では償却資産の減損損失について、従来通り、上記の減価償却超過額と異なる扱いになっている(36項(1))。

 

他にもあるかもしれない。

 

これらは細かいが、次回、もう少し突っ込んでみたい。

 

 

ところで、昨日、東芝が注目の決算発表を行ったが、何年先の税効果まで見込んだのだろうか。見積り年数は開示項目ではないが、何か手がかりはあるかもしれない。気になるので、ざっと見てみた(昨夜、東芝のHPに開示された有報)。

 

2014年度(=2015/3期)のP/L(単体。以下同じ)では法人税等調整額が697億円で、前期比425億円増加している。繰延税金資産の残高は1,948億円(短期・長期の合計)で、前期より743億円減少している。増加・減少分のうち、税制改正の法定税率低下による影響は、P/Lで121億円増加、B/Sで106億円減少というから大したことはない。

 

評価性引当額は257億円増加しているが、上記の繰延税金資産減少額743億円に比べると少ない。ということは、繰延税金資産が減少した最も大きな理由は、一時差異自体の減少だ。すると、2015/3期末時点で、繰延税金資産の回収可能性を見直した影響というのはあまりないようだ。そういえば、連結の注記(US-GAAP)には、次のような記載があったが、これと関係しているだろうか。

 

2014年度における繰延税金資産の回収可能性の見直しによる評価引当金期首残高 の見直し額に重要性はありません。P105

 

もしかすると、この粉飾決算の大騒ぎで事業の先行きが見通しずらくなった影響は、あまり見込んでないのだろうか。見積り年数も変えてないのか?

 

それとも、最近の騒動の影響を過年度に遡って訂正したのだろうか? いや、粉飾の訂正は遡るだろうが、この騒動が事業に与える影響は、将来に向かって見積もるべきだ。過年度に遡って訂正する話ではない。或いは、当期の第1四半期(2015/6期)に見込むのだろうか? ん〜、それもないなあ。やはり、2015/3期で見込むのではないか。

 

ところが、2015/3期の数字がそれほど変わってないということは、もしかしてこんな大きな騒動でも、東芝の事業環境・見通しに大きな影響はなかった? 当期の月次決算はほぼ予定通りか? それなら、当期の第1四半期を見てみようと思ったが、まだ開示されてないようだ。

 

ということで、折角勉強したので役立てようと思ったが、残念ながら、その見通しは外れた。

 

 

🍁ー・ー🍁ー・ー

*1 日本基準では、企業会計原則に保守主義の原則が規定されているが、IFRSでは、それに当たる「概念フレームワーク」に保守主義の記述がない。その代わり、各個別基準に具体的に保守主義的な規定が記載される。

 

*2 追加で要求された証拠は、下記の場合、注記で開示することになる(IAS12.82)。

 

企業は、次の場合には、繰延税金資産の金額とその認識の根拠となる証拠の内容を開示しなければならない。

 

(a) 当該繰延税金資産を活用できるかどうかが、現存の将来加算一時差異の解消により生じる所得を上回る将来の課税所得の有無に依存しており、かつ

 

(b) 企業が、当該繰延税金資産に関係する課税法域において、当期又は前期に損失を生じている。

 

35項で繰越欠損金等に対して追加で要求されている証拠を開示する趣旨。開示するのだから、当然、“合理的”なレベルの説明が必要となる。大雑把にいうと、日本基準の分類4及びその但し書きの会社について、繰延税金資産回収可能性の判断根拠の説明を求めているイメージ。

 

*3 分類1の会社は、毎期繰延税金資産の全額を回収できる十分な課税所得を稼げる会社。したがって、将来減算一時差異の全額を対象に繰延税金資産を計上できる。分類5の会社は、課税所得を見込めないため、繰延税金資産を計上できない会社。

 

*4 役員退職慰労引当金や有価証券などに関する将来減算一時差異。いずれは一時差異が解消されることが明らかだが、その具体的な解消時期を特定することが困難、又は、恣意性が大きいため、スケジューリング不能な一時差異に分類される(関連する状況や処分計画などにより、スケジューリング可能と判断できる場合もある)。

 

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