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2015年9月11日 (金曜日)

509【税効果10】会社分類による相違

 

2015/9/11

昨日は、久しぶりに夏の暑さが戻ってきた。予報では今日も暑そうだ。このところ涼しくて油断していたが、「いつでも暑くできるぞ」と意地悪く地球に脅されているようだ。地球温暖化と異常気象、うなぎや太平洋クロマグロの絶滅危惧種指定、さんまの漁獲高減少による高騰など、最近、「地球って小さいなあ」と思わされることが多いが、この暑さのぶり返しには、(地球は)性格も小さいんじゃないか?と思いたくなる。

 

今、欧州で大問題になっている大量の難民問題。発端は、アラブの春をきっかけにシリアで反政府運動が内戦化し、そこに残虐なイスラミック・ステートが雑草のごとく侵食し、事態が複雑化したことが大きいと、一般に考えられている。即ち、きっかけは、アサド政権の悪政に対し民主化を求める国民蜂起だとする。

 

ところが、内戦が起こる直前、シリアは数年間に及ぶ史上最悪の干ばつに苦しんでいたそうだ。国民は確かにアサド政権に怒って蜂起したのだが、それは民主化というより、干ばつによる生活困窮を救おうとしないアサド政権の無策にあるらしい*1

 

欧州の難民問題も、元をたどれば地球の仕業ということになる。

 

地震に噴火に台風や豪雨、竜巻だけじゃない。地球がちょっとヘソを曲げれば人間社会は大変なことになる。地球は小さいが、人類はさらに小さい。

 

 

ということで、今回は小さい問題を扱っていく。それは、繰延税金資産の回収可能性に関するIAS12「法人所得税」と今回の公開草案の具体的な相違点だ。

 

前回(508-9/8)は、大きくそれらの規定の枠組みの違いについて検討した。その結果は、“将来の見通しが可能かどうか”が見積りの最も重要な根拠となる点で、両者は共通していた。一方で、原則主義的なラフな規定のIAS12に対して、公開草案は、会社の分類方法や見積り年数が指定されており、監査委員会報告第66号の細則主義的な規定が受け継がれている。

 

今回は、前回僕がリストアップした例について、具体的に考えていく。これらは、原則主義のIFRSと細則主義の日本基準の差意になると思う。大きなところを合わせても、小さなところが違ってしまう。

 

前回のリストアップを青字で再掲する。

 

・公開草案では、繰延税金資産の全額を回収するに十分な課税所得を、毎期獲得している会社(=分類1)でないと、スケジューリング不能な一時差異の全額を繰延税金資産へ計上することはできない。

 

日本基準の分類2の会社がIAS12を適用した場合、2〜3年で繰延税金資産の全額を回収するに十分な課税所得を獲得できる見通しの確実性の高さ、及び、スケジューリング不能な一時差異の内容や金額に重要性がないことを根拠に、スケジューリング不能な一時差異の全額計上するケースがあるのではないか。

 

例えば、今後5年以上の間、安定的に毎期100の課税所得(その税効果を40とする)を獲得できると見込める会社が、125の将来減算一時差異(その税効果を50とする)を持っている場合、日本基準では、125 > 100 なので分類2となる。125の中にスケジューリング不能な一時差異である本社土地の減損が25ある(その税効果を10とする)とすると、これが21項但し書き*2に該当しない限り、繰延税金資産の計上対象にならない。すると、50 - 10 = 40 の繰延税金資産が計上される。

 

通常、本社土地を売却するのは業績が相当悪化した時が想定されるので、十分な課税所得がない可能性が高く、税効果は得られないと考えるだろう。それが、上述のような10を控除する計算の根拠になる。もし、10を回収可能性ありと判断したければ、21項但し書きを満たすように、“合理的な説明”となる土地の売買計画などの状況が必要だ。

 

しかし、土地の時価が回復していた場合はどうだろう。日本基準では一旦減損損失を計上すれば、それを取消して戻入れすることはできない。しかし、IFRSでは地価が下落した原因が解消されるなどして地価が回復すれば、減損処理を取消して元に戻すから、一時差異25がなくなることになる。この場合は、IAS12に至る前にこの土地の税効果の問題は解消される。

 

地価が回復したが減損戻入の要件を満たさず一時差異がそのまま残った場合はどうだろう。IAS12で考えると、会社分類の制約はないから、シンプルに、土地売却時に減損損失の税効果を取れるかどうかを見積もることになる。すると、土地の時価が復活している場合は、繰延税金資産10に回収可能性ありと判断する可能性がある。なぜなら、売却年度では通常の課税所得100に加え、25の売却益が発生するから、期末の将来減算一時差異125をカバーできる。

 

(日本基準でも同様の判断が可能かもしれないが、規定上はそうなってないので、素直に解釈すれば、10については回収可能性なしとされるのではないかと思う。)

 

この例は、日本基準の会社分類の境目で、IAS12と齟齬が生じる可能性を示すものになっていると思う。

 

 

同様の、会社分類の境目の齟齬の例としては、公開草案の21項但し書きの扱いも挙げられる。

 

分類4の会社の一部はこの規定を利用できるが、分類3に該当した会社には利用するチャンスがない。それは分類3の会社は業績が不安定なので、一時差異の解消時期が定まっておらず遠い将来になるかもしれないスケジューリング不能な一時差異に、税効果を見込むことはできないとの判断だと思う。

 

しかし、一方で、一部の分類3の会社に5年超の見積りを認めている。分類3の会社は、業績不安定といっても、将来必ず重要な繰越欠損金を持つようになり、そのうち、翌期の課税所得も見込めない状況へ落ちていくものではない。その不安定な状況を延々と続けて行く可能性もある。

 

このような会社と、重要な繰越欠損金を滅多にない要因で負ってしまったものの基本的には事業が安定していて5年超の期間を見積もれる分類4の会社と、どれほど違いがあるだろうか(このような会社は21項但し書きを利用できる)。事業が安定しているといっても、重要な繰越欠損金を計上した事実はあり、それを繰り返さない保証はないし、新たな要因でまた繰越欠損金を計上する可能性もあるのだし。

 

従来、分類45年超を見積もる規定に該当したのは、金融機関が多かったのではないかと想像している。恐らく、十数年前の貸し剥がしが騒がれた時代に多額の損失を計上し、重要な繰越欠損金を計上していたからだと思う。しかし、繰延欠損金が解消され、今後、業績不安定になると分類3へ分類される。そのとき、21項但し書きはもう利用できなくなる。

 

金融機関は、低金利下で貸出が伸び悩むと金利収入は、安定しているが、それだけでは課税所得が見込めなくなる。そういう環境で、国債売買など市場取引や投資信託販売といった市場環境に影響を受けやすい取引に収益を依存する体質になると、分類3へ進む可能性が高まる。といっても、以前のような不良債権を溜め込む可能性は低い管理体制になって、以前と同様の理由で多額の繰越欠損金が計上される確率は下がっている。分類2と分類3の間に位置するような金融機関が結構あるかもしれない。果たして、両者に21項但し書きの差をつける必要があるかどうか。

 

同様に、分類3の5年超を見込める会社と分類4の5年超を見込める会社の違いも微妙だ。21項但し書きに関する差をつけられるようなケースばかりではないのではないだろうか。

 

そして、こういうところで、会社分類の制約のないIAS12との相違が生まれてしまうように思う。

 

 

公開草案など日本基準の会社分類や、それに対応する見積り期間の考え方は、実務に非常に役立つアイディアであり、これがないと会社も監査人もスムーズに業務を行えないかもしれない。だが、会計基準の要求事項として強制力を持たせてしまうのは、そろそろ、見直した方が良いのかもしれない。もっとシンプルなものにするか、教育文書的な扱いにして、強制性をなくせたら良いと思う。

 

今回は、かなり重箱の隅をつつくような細かい話に終始したが、それでもそういうケースに当たった場合は困ってしまうだろう。公開草案の16項には、いずれの分類要件も満たさない会社について、総合的に判断するよう求めている*3。上記に数値例を挙げた会社のようなケースは分類2の要件を満たすが、状況次第で分類1の扱いが可能な気がするし、分類3の会社の中にも21項但し書きの利用が可能なケースがあるように思う。そういう場合にも16項を利用できるか、或いは、上手に使えるかが、解決のカギになるのかもしれない。

 

なお、前回はあと2つ例を挙げた。それらはさらに小さい話になるが、一応、次回に予定したい。

 

 

🍁ー・ー🍁ー・ー

*1 僕はこれを、BS世界のドキュメンタリー(シリーズ「危険な時代に生きる」)で知ったのだが、次の記事にも記載されている。

 

シリア内戦の原因は気候変動? 最新の研究結果 THE HUFFINGTON POST 3/4

 

*2 公開草案の21項は以下の通りで、そのうち但し書きに該当するものはスケジューリング不能な一時差異であっても繰延税金資産が計上される。

 

21. なお、(分類2)に該当する企業においては、原則として、スケジューリング不能な将来減算一時差異に係る繰延税金資産について、回収可能性がないものとする。ただし、スケジューリング不能な将来減算一時差異のうち、税務上の損金算入時期が個別に特定できないが将来のいずれかの時点で損金算入される可能性が高いと見込まれるものについて、当該将来のいずれかの時点で回収できることを合理的に説明できる場合、当該スケジューリング不能な将来減算一時差異に係る繰延税金資産は回収可能性があるものとする。

 

*3 16項は、次の通りとなっている。

 

16. なお、第17 項、第19 項、第22 項、第26 項及び第30 項に示された要件をいずれも満

たさない企業は、過去の課税所得又は税務上の欠損金の推移、当期の課税所得又は税務上

の欠損金の見込み、将来の一時差異等加減算前課税所得の見込み等を総合的に勘案し、各

分類の要件からの乖離度合いが最も小さいと判断されるものに分類する。

 

ちなみに、第17 項、第19 項、第22 項、第26 項及び第30 項の各項は、それぞれ、分類1、分類2、分類3、分類4、分類5の会社に該当するための要件が示されている。

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