510【税効果11】その他の相違点
2015/9/15
茨城、栃木、宮城の各県で、河川の氾濫による洪水。阿蘇山は噴火。ん〜、地球め、小さいぞぉ。もっと大らかにお願いしますよ。といっても、自然が厳しいのは遠い昔からの常識。人類は尊い犠牲を払いながら、逞しく生きてきた。人類が小さな存在だからといって、舐めてもらっては困る。
ということで、今回も小さなことを一生懸命検討していきたい。このシリーズの前々回(508-9/8)に3つ例示したIAS12「法人所得税」と今回の日本基準の公開草案の相違点の1つめは前回(509-9/11)済ませたので、2つめ、3つめへ進みたい。
・公開草案では、分類3の会社において、退職給付引当金や減価償却超過額に係る一時差異のような“解消見込年度が長期にわたる将来減算一時差異”は、スケジューリングを行うことを条件に全額回収可能と判断することが認められている(35項*1)。
3〜5年先までの課税所得が見込めるからといって、すべての会社が数十年先の一時差異解消まで見込んで良いだろうか。IAS12を適用している会社は、そういう判断をするだろうか。特に減価償却超過額。会社によるのでは?
減価償却超過額が発生するのは、法定耐用年数より短い耐用年数を採用したり、定率法や定額法など税法で認められた減価償却方法より費用が早期に発生する減価償却方法を採用した場合が考えられる。これは、税法規定にとらわれず、製品や事業のライフサイクルを前提にした事業計画に基づいた減価償却を行っているケースが考えられる。
例えば、5年で改装を繰返す居酒屋チェーンでは、内装や什器、厨房設備についても法定耐用年数よりはるかに短い減価償却期間を設定しているかもしれない。減価償却超過額が比較的多額となる一方で、短期間に除却されていくので、事業計画に連動してスケジューリングされていれば、あとは事業計画によって十分な課税所得が獲得できるかどうかを判断すれば良い。毎期新たに多額の減価償却超過額が発生し加算され、かつ、多額の過去の加算分が解消されていく状況が、事業計画の年数を超えて継続可能かどうか、耐用年数は短いのでもう数年追加で評価すれば良いだろう。
しかし、修繕費を税務調査で否認されて減価償却超過額としている場合はどうだろう。小さな話だが、建物の場合はそこそこの金額になるケースもあるかもしれない。こういったものは、会計上の費用にならないので原価計算の対象にもならない。販売価格の算定に考慮されていない可能性もある。要するに損益管理の対象にすらなってない可能性がある。それを全額、全期間の税効果を繰延税金資産に計上して良いだろうか。
まあ、ほとんどのケースでは、小さな話なので重要性のないことではあるが、僕は、管理もされていないものに、会計基準が大した条件も付けずに特権的な取り扱いを認めることが、気になる。細かいが。(ただ、この細かい話以外に、もっと大きな“そもそも論”もあるので、欄外の*1に記載した。)
・公開草案では償却資産の減損損失について、従来通り、上記の減価償却超過額と異なる扱いになっている(36項(1))。
会社によるのでは? 分類3の会社では、内容・金額によっては減価償却超過額と同様、全額回収可能と判断するケースもあるのでは? 減損は資金生成単位という小さな単位で評価する。一方、課税所得は会社全体という大きな単位なので、回収可能となる率が高いケースも多いのではないか。
「ある事業にかかる減損損失が多額で、その事業を売却すると多額の将来減算一時差異が一挙に減算され、その期の課税所得でカバーできずに重要な繰越欠損金が発生する可能性がある」というような減損損失であれば、減価償却超過額と異なる扱いにすることに賛成だ。だが、そういう減損ばかりではないはず。状況次第だと思う。
僕は、上記の居酒屋チェーンの例は、減損も減価償却超過額も同じ扱いで良い例になると思う。
5年で改装するのは、それだけ消費者の好みの移り変わりが激しく、店のコンセプトが飽きられやすいからだ。店の中には5年もたずに3年、4年で次のコンセプトへ改装したり、場所に問題ありと判断すれば退店することもあるだろう。するとその直前の決算で、減損損失の計上を伴うかもしれない。
このような減損は、固定資産の除却損をちょっと早く計上したに過ぎない。もし、減損対象となったある資産について、法定耐用年数満了まで3年以上あるとしても、3年以内の改装や退店時期を見積り、スケジューリング可能な一時差異として、見積り期間内で解消を見込むことができる。即ち、このような減損は、日本基準でも税効果を認識できる。
しかし、もし、その後店舗の業績が回復し改装や退店を中止したら、見込んだ税効果を取消すだろうか?
IFRSでは、まず、減損した事業が復調すれば(一定の場合に)減損が取消されるから、一時差異はなくなり、通常の減価償却へ戻る。仮に、減損が取消せない状況であっても、店舗業績が回復しているならば、(その分、会社としての課税所得も増加するので)IAS12では、回収可能と判断できるかもしれない。
残念ながら、公開草案では、違う結果になるだろう。折角業績が回復したのに、一時差異解消のスケジューリングが3年より後ずれすることで、見込めていた税効果が否定され、その分、純利益が減少するという不思議なことが起こると思う。これって、経済実態に忠実な表現だろうか?
恐らく、「それは減損計上が早すぎるんだよ。もっと減損の発生が確実な段階で損失計上するべき」などと反論されそうだが、だから、日本基準は経営管理に使いづらい。減損が確実になってからでは遅い。打つ手が限られてしまう。減損のタイミングは企業のリスク管理の中で設定されるべきで、そうなれば、よりオープンでスピーディーな問題解決へのアプローチが促され、結果として減損の判断も早まるように思う。(もちろん、東芝のように実態を無視して「チャレンジせよ」と繰返すだけの経営者がいる会社では、このようなリスク管理は望めない。)
ということで、レアで小さな問題の指摘だが、意外と奥行きは深いかもしれない。思った以上に、重箱の隅に美味しいものが残っていたように思うが、いかがだろうか。
欄外の *1 に記載したことも含めて、我が国の税効果会計基準が、現状のルール・ベースで良いかどうか、もっと原則主義へ向かい会社の実情に合わせた処理が可能にならないか、いずれ検討できる時期が来ることを望みたい。企業会計基準委員会(=ASBJ)が、「会社が、自らの見通しを的確に持てるようになった=リスク管理能力が向上した)」と自信が持てるようになったときが、きっと、その時だと思う。恐らく同時に、減損会計も見直されるに違いない。
ところで、ご存知の方が多いと思うが、東芝は、昨日、第1四半期決算(連結)を公表した(東芝2015年度 第1四半期決算説明資料)。
僕は前回(508-9/8)の後半で、2015/3期の有報をざっと見ながら、東芝は税効果の見積り期間を見直していないようだと記載した。当期の業績がこの粉飾事件に大きな影響を受けていない可能性も、一応、考えられたが、四半期決算は赤字だった(当社株主に帰属する四半期純損失122億円)。そして、業績予想については「不適切会計処理問題の影響等を慎重に見極めている状況であることか ら、2015年度業績予想は開示しておりません」としている。かなり影響が大きくなる可能性を排除できないだろう(顧客が東芝の現場と製品をどれだけ信頼しているかによる)。
今後、業績予想や第2四半期決算を公表する過程で、税効果の見積り期間が見直され(=短縮され)、純利益に大きな影響を与える可能性がある。東芝株に興味をお持ちの方は、この先も、注意が必要だ。(この四半期末で、約四千億円の繰延税金資産がある。繰延税金負債もあると思うが“その他”に含まれているので金額は不明。ちなみに、前期末は注記によれば、資産が5,137億円と負債が2,538億円だった。)
🍁ー・ー🍁ー・ー
*1 公開草案の35項には次のように記載されている。
解消見込年度が長期にわたる将来減算一時差異の取扱い
35. 退職給付引当金や建物の減価償却超過額に係る将来減算一時差異のように、スケジューリングの結果、その解消見込年度が長期にわたる将来減算一時差異は、企業が継続する限り、長期にわたるが将来解消され、将来の税金負担額を軽減する効果を有する。
これらの将来減算一時差異に関しては、第15 項から第32 項に従って判断した分類に応じて、次のように取り扱う。
(1) (分類1)及び(分類2)に該当する企業(第28 項に従って(分類2)に該当するものとして取り扱われる企業を含む。)においては、当該将来減算一時差異に係る繰延税金資産は回収可能性があると判断できるものとする。
(2) (分類3)に該当する企業(第29 項に従って(分類3)に該当するものとして取り扱われる企業を含む。)においては、将来の合理的な見積可能期間(おおむね5 年)において当該将来減算一時差異のスケジューリングを行った上で、当該見積可能期間を超えた期間であっても、当期末における当該将来減算一時差異の最終解消見込年度までに解消されると見込まれる将来減算一時差異に係る繰延税金資産は回収可能性があると判断できるものとする。
(3) (分類4)に該当する企業(第28 項に従って(分類2)に該当するものとして取り扱われる企業及び第29 項に従って(分類3)に該当するものとして取り扱われる企業を除く。)においては、第27 項と同様に、翌期に解消される将来減算一時差異に係る繰延税金資産は回収可能性があると判断できるものとする。
(4) (分類5)に該当する企業においては、原則として、当該将来減算一時差異に係る繰延税金資産の回収可能性はないものとする。
これは従来(監査委員会報告第66号)の扱いが、そのまま引き継がれたものだ。「企業が継続する限り、長期にわたるが将来解消され、将来の税金負担額を軽減する効果を有する」ことを根拠に、分類1、2、3(分類4から分類2や3へ振替られたもの(=3年超の見積りが可能なもの)を含む)の会社については、退職給付引当金や減価償却超過額などについて、将来減算一時差異の全額に回収可能性があると判断することができる。
みなさんは、なぜこれが認められるか理解されているだろうか。実は、僕は理解していない。想像するに、これらは、「一時期に多額の将来減算一時差異の解消が集中することなく、かつ、必ずいつかは解消される性質である」ことが、キーになると思われるが、はっきりとした理由は知らないし、分からない。
簡単にいえば、これらの一時差異については「3年先まで課税所得を見込める会社ならば、見積り期間を超えて数十年先の税効果までも見込んで良い」とされているが、なぜだろう。
もしかしたら、「3年課税所得が見込める=数十年間企業が継続し、一時差異が解消できる確率が50%以上」という仮定があるのだろうか。
数十年という長期にわたる企業継続を仮定できるなら、多少大きな減損損失であっても解消可能ではないか。即ち、解消額が一時期に多額となることが予想される一時差異であるため、その時繰越欠損金が生じる可能性が考えられる場合であっても、数十年もの企業継続の仮定が容認されるなら、そのうち、この繰越欠損金も解消されると考えられる。
そうなら、その他のスケジューリング可能な一時差異も、すべて良いように思われる。どこに差があって、このような特権的な扱いが容認されるのか…。
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