513【税効果13】US-GAAPの税金資産の回収可能性〜概略
2015/9/22
みなさんも、多くの方が感動されたと思う。ラグビーW杯(イングランド大会)の日本代表の初戦、南アフリカ戦のことだ。久しぶりにラグビーの試合をじっくり見たが、ブレも迷いもない強気で冷静な試合運び、体格で負けても気合で止める伝統の魂のタックル、ほとんどミスのないボール回しや密集でのプレー、五郎丸歩選手の精度の高いキック、どれもが素晴らしかった。
前半は日本がリードし、南アフリカが抜き返すというシーソー・ゲームの展開だった。後半は、リードする南アフリカを日本が執拗に追いかける展開だった。南アフリカ代表は、何度突き放しても追いついてくる日本代表に精神的に追い詰められたのか、29対29、同点の試合最終盤(72分ぐらい)にトライを狙わずペナルティ・キックを選んで29対32としてリードした。
そこから左サイドを攻めまくる日本。80分を過ぎて相手ボールになるような形でプレイが止まったら即試合終了となる追加時間帯に、日本代表はペナルティ・キックではなくトライを狙い続けた。日本代表は、相手ゴール前の左サイドから逆サイドのライン際までボールを回して、相手ディフェンス突破を狙い続けるが、なかなか守備ラインを破れない。しかし、もう一度左サイドへ急展開すると、相手の隙をついて左隅へトライを決めた。時計は84分を回っていた。日本代表は34対32で逆転勝利した。
日本代表のW杯での勝利はなんと24年ぶり、2度目のことだという。しかも相手は、過去、ニュージーランドとオーストラリア以外にはほとんど負けたことのない強豪の南アフリカ。世界中に驚きを与えたという*1。ちなみにラグビー日本代表の愛称は、ブレイブ・ブロッサムズ(=Brave Blossoms、勇敢な桜)。正に「名は体を表す」戦いぶりだった。
こういうニュースには、本当に励まされる。特に、投資成績や清水エスパルスの戦績不振に喘いでいる僕にとっては、塩を洗い落としたナメクジのよう、いや、春の初めに桜のつぼみの綻びを見つけた時のような、明るく、はなやいだ気持ちにさせてくれる久しぶりのニュースになった。
さて、そんな浮かれた気分に浸りながらも、このブログは、地味に、税効果を引き続き検討したい。前回からの流れでいえば、今回は、繰延税金資産の回収可能性について、US-GAAPの規定を見ていくことになる。果たして、日本基準のように会社分類や見積り年数の指定をしているのだろうか。予想としては、US-GAAPは細則主義と言われるので、日本基準以上に細かい規定や設例があっても不思議ではない。
結論から述べると、ん〜、「えっ?」て感じだ。大変申し訳ないが、僕の能力と努力の不足により、断定はできないが、どうも、驚くほどシンプルな規定であり、難しい設例もなさそうだ。いや、どうも、そうではないらしい。実は、まだ調べ切れていない。
以下、僕が調べた内容を中間報告する。
まず、ネットを探したが、非常にコンパクトなものしかなかった。当然、僕のニーズにはマッチしない。そこで、県立中央図書館で探してみることにした。すると、長谷川茂男氏の「米国財務会計基準の実務」があった。非常に分厚い本だ。但し、2011年度版。他にUS-GAAP関係はない。まあ、最新版でなければダメということもないので、図書館の方に断った上でスマホで税効果会計のすべてのページの写真をバシバシ撮って持ち帰った(コピーしようかとも思ったが、写真の方がはるかに楽だし経済的)。しかし、たった28ページしかない。
一応、ざっと目を通したが、後日税務調査で企業の税務処理が覆されるリスクを考慮した“税務上のポジション”などのUS-GAAPらしい緻密な規定はあるが、肝心の回収可能性の見積りについては、会社分類や見積り年数について目立った記載はなかった。概略を記載する。
(認識・測定)
繰延税金資産は一旦全額認識するが、回収可能性が50%に満たない金額について評価性引当金を見積り控除する。(=回収可能性が50%を超えた金額が繰延税金資産となる。この「可能性が50%を超える」とは「more likely than not」の略で、“MLTN規準”などと呼ばれるらしい。)
(評価性引当金の見積り)
すべての消極的証拠と積極的証拠に関連する影響を検討して引当金の要否を判断する(740−10−30−17)。
消極的証拠は、日本の公開草案の会社分類4や5へ振分ける基準に該当するイメージ。近年の累積された損失(≒繰越欠損金)の存在やその期限切れの実績、近い将来に予想される損失などが例示されている。これらの消極的証拠がある場合は、引当金の計上を否定することが難しくなる(740−10−30−21)
積極的証拠は、消極的証拠を打ち消すような前向きのもので、課税所得を安定的に獲得したり、その確実性を増したり、或いは、過去の損失が一時的なものであると示すもの(かなり簡略化して記載した)。日本基準でいえば、現行基準の④但し書きや、公開草案の28項、29項のような、見積り期間を長期化できる要件に当たるイメージ。
上記を読んで、消極的証拠と積極的証拠を比較して、どちらの影響が大きか検討するイメージが湧いてきた。即ち、消極的証拠の影響が大きい場合は、全額引当てるか、又は、一部金額の引当金を設定することになる。積極的証拠の影響が大きい場合は、引当金を設定しない感じ。
以上を読んで思ったのは、恐らく、この本には触れられていないもっと細かい規範があるのではないかということだ。この本は分厚いが、それでも数万ページに及ぶというUS-GAAPを網羅できる厚さではない。一般に“難しい”とされる税効果会計の規定が、こんなにあっさり完結するとは思えない。
それに、日本の会社分類4や5に当たる記述があって、程度の差こそあれ同様に、一部の繰延税金資産の回収可能性が否定される2や3に当たるものが何もないとか、スケジューリング可能な一時差異とか、同じく不能な一時差異といった概念に当たる記述が見当たらないのも気味が悪い。
ん〜、このまま降参するわけにもいくまい。そこで、最も避けたかったが、恐る恐る、FASBのHP*2で条文(英語)を見てみると・・・
井戸の上から中を覗き込んだような、不安な気持ち。英語ばかりのページは、真っ暗でよく見えないのと同じだが、間違いなくそこには深遠な世界が広がっている。正直に言って、僕の心境は、塩を撒かれたナメクジのように縮こまっている。しかし、これではブレイブ・ブロッサムズ、ラグビー日本代表に恥ずかしい。ここは、もう一度勇気を振り絞ってトライが必要だ。
ということで、次回も、この続編となる。だが、成果が得られるか、MLTNだ。
🍁ー・ー🍁ー・ー
*1 海外メディアの報道ぶり、驚きっぷりは、以下のようなページで見ることができる。
「ラグビーW杯史上最大の衝撃」 英メディアも大きな扱い 日経電子版 9/20
ラグビー発祥の地であり、今大会の開催地の英国メディアやハリーポッター作者の反応が紹介されている。
ラグビーW杯 日本代表が歴史的勝利 海外メディアも大きく報道 FNN 9/20
記事の末尾に、英ガーディアンの他、ニュージーランドの新聞社や南アフリカのサポーターの声を紹介している。
ラグビーW杯 日本が南アフリカに歴史的勝利 NHK 9/20
記事の末尾で、REUTERSやAFPといった通信社の扱いを紹介している。
しかし、単なる事実報道だけでなく、海外メディアの記事の雰囲気まで知りたければ、下記のホーム・ページが良いかもしれない。
ラクビーW杯日本が南アに勝利!海外メディアの反応は? ZUU online
どうやら、ラグビーの国際試合では、番狂わせはほとんど起きないらしい。世界ランキング3位の南アフリカと世界ランキング13位の日本では、その数字以上の差があるようだ。
*2 みなさんも登録すればご覧になれる(“Basic View”をOrderすれば無料)。
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