514【税効果14】US-GAAPの適用ガイドと設例の前提〜繰越欠損金等の期限
2015/9/25
ブレイブ・ブロッサムズのスコットランド戦は、勝利できずに残念だった。でも、サモア戦、アメリカ戦を2連勝すれば、目標とする史上初の決勝トーナメント進出の可能性が残っている(他力も必要)。
さて、僕のトライもなかなかの試練を迎えている。ブレイブ・ブロッサムズが直面しているような難関ではない。“想定通り”の試練だ。単純に、英語が難しい。僕としては、シルバー・ウィークで米国基準を解読し、今回、みなさんに結果報告できたらカッコイイと思っていたが、断念した。華麗なステップで相手ディフェンスを翻弄して一挙にゴール・ラインまで駆け抜けるみたいな、無謀な背伸びは妄想だけにして、FWがスクラムを押すように一歩ずつ前進することにした。
ということで、何度か中間報告を重ねながら、ゴールを目指すことになる。US-GAAPの税効果に関心をお持ちでない方もいらっしゃるかもしれないが、ご容赦願いたい。
今回は、前回の概略(513-9/22)を受けて、適用ガイドと設例(740−10−55)に入るが、その先頭の55−1の記載について考えてみたい。ここには、この適用ガイドや設例の前提になる繰越欠損金等の使用期限が記載されている。すなわち、この適用ガイドや設例は、「税務上の繰越欠損金は、その前の3年間(の繰戻し額)やその後15年間の課税所得と相殺できる税法」を前提とした書き振りになっているという*1。
これには驚いた。なんて優しい、企業に寛容な税法なんだ。しかも、非常に重要なことを示唆している。
もちろん、この前提が、繰延欠損金に係る繰延税金資産の回収可能性に直接影響があることは自明だが、その前段階の、日本基準でいうところの“会社分類”に非常に大きな影響がありそうだ。しかも、重要な繰越欠損金のない会社分類1〜3にまで。
ちょっと具体的に記載しよう。
もし、US-GAAPのような企業にとって寛容な、繰延税金資産を回収しやすい前提があれば(=日本の税法がそのようであれば)、日本基準の分類1〜3は、かなり変わっていたと思う。どのように変わっていたかというと、例えば、分類1の会社となる条件は、次のようだったと考えられる。
分類1 |
現行及び公開草案の日本基準: |
繰延税金資産の全額を回収するのに十分な課税所得が、毎期計上されている会社 |
|
寛容な前提がある場合: |
繰延税金資産の全額を回収するのに十分な課税所得が、過去3年と当事業年度の課税所得を合算して計上されている会社。 |
分類1とは、繰延税金資産をすべて回収可能と判断できる会社だ。常に、繰延税金資産を回収する準備ができている会社、いつでも、それだけの課税所得を生み出せる会社が分類されるイメージだ。ところが、US-GAAPのような寛容な前提、特に、過去3年間の課税所得を組み戻しできるなどという前提をおけば、当期と合わせて4年分の課税所得を、常に繰延税金資産の回収に利用できることになる。
もし、それを反映して、4年分の課税所得で繰延税金資産を回収できる会社を分類1とすれば、分類2や3の会社も、かなり含まれてしまう。
さらに、4年分の課税所得で繰延税金資産をすべて回収できない場合でも、その後15年間という長期間の将来課税所得で回収すればよいので、繰延税金資産を回収できないリスクは相当低くなりそうだ。その結果、分類2や3の会社は、ほぼ消滅、ほとんど分類1と同じ扱いで良くなるのではないだろうか。
すなわち、US-GAAPが前提としているような税法なら、分類2や3の会社も分類1になるので、分類1の会社が非常に増える。しかし、日本の税法*2はそんなに優しくないので、それを反映して、分類1・2・3*3が必要、ということだ。分類1〜3は、日本の税法を前提として見積もるから必要となる日本独自のカテゴリーということになる。
では、分類4・5はどうだろう。これらには、重要な繰越欠損金を持つ会社が振り分けられる。重要な繰越欠損金を持つということは、事業の収益性に問題を抱えている可能性があり、かつ、繰越欠損金は期限切れによる失効(=回収不能)があるので、他の将来減算一時差異より回収不能リスクが大きい。したがって、日本基準は、分類4・5の会社に見積り年数の限定などにおいて高いハードルを設定している。
IAS12「法人所得税」では、分類4・5のような会社を分類する規定はない。その代わり、繰越欠損金等に直接焦点を当てて、追加でより確実な回収可能性を示す証拠を要求していた(506-9/3 の脚注*1)。会社を分類しなくても、事は足りるのだ。US-GAAPも、同様の書き振りである可能性が高い。分類4・5のためだけに、わざわざ、会社を分類させる必要はない。
ということは、US-GAAPの適用ガイドや設例に、日本基準の会社分類やそれらに対する見積り年数の指定に当たるもの、或いは、それに代わるような記載は、恐らくないだろうと見当がつく。
ふ〜む、今回は、冒頭に「FWがスクラムを押すように一歩ずつ前進することにした」と書いたが、意外なことに、最初の段落で相手FWが組むスクラムの特徴がつかめたような気がする。おかげで大分押しやすくなった。今回のような中間報告は、少なくて済むかもしれない。
🍁ー・ー🍁ー・ー
*1 原文は次のようになっている。ん〜、英語が難しい。僕の理解は間違っていないと思うが…
The guidance and illustrations that follow, unless stated otherwise, assume that the tax law requires offsetting net deductions in a particular year against net taxable amounts in the 3 preceding years and then in the 15 succeeding years.
*2 日本の税法における繰越欠損金等の規定は、以下のようになっている。
(過去の事業年度からの組戻し)
一応、前年の事業年度の課税所得を組戻す制度があるが、もう20年以上の長期間、適用停止となっている。よって、(税務上の)大法人はこの制度を使用できない。
No.5763 欠損金の繰戻しによる還付 国税庁HP(H27/4/1現在)
欠損金額をその事業年度開始の日前1年以内に開始したいずれかの事業年度(=還付所得事業年度)に繰り戻して法人税額の還付を請求できる。ただし、この制度は、①解散等の事実が生じた場合の欠損金額及び②中小企業者等の各事業年度において生じた欠損金額を除き、平成4年4月1日から平成28年3月31日までの間に終了する各事業年度において生じた欠損金額については適用が停止されている。
(将来の事業年度への繰越し)
繰越欠損金は9年間繰越し可能(平成29年度以降は10年へ延長予定)。但し、大法人には控除限度額の制限がある。
No.5762 青色申告書を提出した事業年度の欠損金の繰越控除 国税庁HP(H27/4/1現在)
ちなみに、税効果会計が導入されたころは、この期間は、わずか5年間だった(例えば、次の資料にその面影を見ることができる。「税効果会計に関するQ&A」(1999年のものと思う)のQ3のAの(5)に「当期末に税務上の繰越欠損金がある場合には、その発生年度の翌年から5年(繰越期間)以内に…」とある)。
期間が5年から、9年や10年に延長されても、新たに控除限度額が設けられたので、繰越欠損金控除はあまり使いやすくはなっていないかもしれない。そのためか、その当時から、繰延税金資産の回収可能性に関する会計基準を実質的に規定している監査委員会報告第66号は変えられていないし、今回の公開草案も、その枠組み(特に会社分類の基準)を概ねそのまま踏襲している。
*3 分類2や3の会社についてはすでに 508-9/8 へ記載しているが、再掲すると次のようになる。
分類2
過去3年及び当期、臨時項目控除後の課税所得を安定的に獲得し、経営環境に著しい変動のない会社(但し、課税所得は、繰延税金資産の全額を回収するに十分なほど大きくない)
分類3
過去3年及び当期、臨時項目控除後の課税所得が大きく増減している会社。但し、重要な繰越欠損金は生じていない。
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