2015/9/3
マインツの武藤嘉紀選手がハノーバー戦でブンデスリーガ初ゴールを含む2得点の大活躍を見せてくれた。このところ香川選手や岡崎選手も好調だし、日本代表の今夜のカンボジア戦、9/8のアフガニスタン戦が楽しみだ。
武藤選手は守備でも終盤まで素晴らしかった。マインツ監督のシュミット氏は前節のボルシアMG戦の武藤を評して「岡崎のようだ」と言ったとか。この献身性がチームに早く溶け込む一つの秘訣なのかもしれない。87分の交代でシュミット監督は武藤選手をお辞儀パフォーマンスで迎えたが、武藤選手はびっくりして恐縮気味だった。それが微笑ましかった。
さて、このシリーズの前回(503-8/27)の最後に、僕がこのシリーズで犯したミスを2つ挙げた。今回は、役員退職慰労引当金の税効果を例にしながら、その2つを中心に書いていくことになる。
では、その2つを検討しよう。
(1つ目のミス)… 見積りに求められる確実性のレベルを間違えた?
これについては、その後の公開草案の読み込みによって、次のことが分かった。
・間違えたと思ったことは間違いだった(=間違えてなかった)。
・でもそうなると、この公開草案とIAS12『法人所得税』に不一致な点が残る。
これに気付いたのは、公開草案の次の部分を読んだ時だ(61項なお書き)。
なお、監査委員会報告第66号における「合理的に見積ったもの」や「合理的にスケジ
ューリングが行われている」との表現が用いられていた点について、見積りやスケジュー
リングが合理的であるべきという趣旨を変えることを意図するものではないが、「合理的」
という用語は、監査上の取扱いにおいて監査上の観点から用いられた用語であると考えら
れるため、本適用指針においてはその表現を引き継いでいない。
僕は、公開草案が“合理的”という言葉を所々省いたことによって見積りの蓋然性(=確からしさ)を現行基準より引き下げたと思ったのだが、そうではないらしい。引続き、見積りの高い確実性を要求しているようだ。
しかし、IAS12には“合理的”という言葉はなく(繰越欠損金等については除く*1)、その代わり“可能性が高い”という表現が使われている(例えば、IAS12.27)。この表現は確率にすれば50%を超えるレベルを要求する際に使用される表現なので、公開草案とIAS12には、要求する見積りの確からしさに不一致があることになる。
この結果、現行の日本基準と公開草案の間に、このシリーズの前回、僕が自己嫌悪に陥りながら記載したような大きな違いはなさそうだ。その代わり、IAS12との間には違いがあることになる。この見積りに求められる確実性のレベルの違いによってどの程度影響が出てくるか、ん〜、あまりないかもしれない。ちょっと具体的な想像は難しいが、とにかく、規定の文言上は違うことになる。
でも、とりあえず役員退職慰労引当金を例にして想像してみよう。
これは、スケジューリング不能な一時差異*2なので、会社分類2*3に該当する会社の場合は、公開草案で提案された21項但し書き*4によって、通常であれば、回収可能性ありと判断され、繰延税金資産が計上される。この判断プロセスを、具体的に考えてみよう。
役員は人である限りいつかは寿命を迎える。多くの場合その前に退任して退職慰労金をもらう。その時、税務上も損金経理がなされ、一時差異は解消される。この一時差異は、スケジューリング不能な一時差異だが、人に寿命があるので、通常であれば、いずれ解消されるものと考えて良い。しかし、次のような不幸な、通常でない場合も考えられる。
・不祥事や重大なミスの責任を問われて退職慰労金がカットされたり、支給されないケース
退職慰労引当金は減額されたり、支払われなかったりする部分についても、会計上、退職慰労引当金を取崩すが現金は支出しないので、税務上の損金経理にならない。したがって、一時差異は減少するものの、損金経理による税金節約効果はない。よって、この場合は繰延税金資産が回収されない。
・退任時に会社が退職慰労金を支払える財務状況にない
これも、退職慰労引当金が支出されないので、税務上の損金経理の要件を満たさないため、税金の節約効果はない。ということは、繰延税金資産は回収できないことになる。
このように、通常ではないケースに該当するのであれば、回収可能性はない。問題は、このような通常でないケースへ行き当たる可能性が、どの程度想定されるかだ。
その可能性が1〜2割程度の場合であれば、回収されない可能性は低く、回収可能という合理的なレベルの説明が可能だ。この場合は、日本基準とIFRSに差異は生じない。
その可能性が3〜4割もある場合は、合理的といえるレベルの確実性はないけれども、回収されない可能性より回収される可能性の方が高い。この場合、日本基準では繰延資産に計上されないが、IAS12では、繰延資産に計上される。ここに、日本基準とIFRSの差異が生じる。
(役員が不祥事や重大なミスの責任をとるケース)
役員が不祥事や重大なミスで責任を取らされるというのは、特殊な状況でしか起こらない。例えば、東芝の退任取締役に退職慰労金が支払われるかどうかは知らないが、もし、支払われないとすれば、社内規定に照らして誰かが判断するものなので、その判断の時点で支払われるか、支払われないかは、ほぼ、100%に近い確率で判明する。3〜4割の確率というのは、実際には想定しにくい。
したがって、起こるとしても、ほぼ100%の確からしさで見積もりができるので、日本基準とIAS12の差は生じないと思われる。
(会社の財政状態により、支払えなくなるケース)
ポイントは、21項但し書きが、分類2の会社を想定していることだ。分類2の会社は、業績が安定しているので、退任時に財務状況が悪くて退職慰労金が支払えないという可能性は、相当低いと考えて良いだろう。おそらく、財務状況に問題を抱えた場合は、役員退職慰労金が払えなくなるだいぶ前に、分類2から下の分類へ落ちていく。すると、その時点でこの21項但し書きが使えなくなる。その時回収可能性の判断を見直せば良い。
分類3や4へ落ちた場合は、(28項*5に該当しない限り)将来キャッシュ・フローを見込む年数に制限がかかるとともにスケジューリングが必要になる。スケジューリングには、“合理的”なレベルが要求されるから、“可能性が高い”レベルのIAS12とは違いが出てくる場合がありそうだ(解消時期の合理性)。(ただ、財政状態の悪さに限った話なら、分類4の下の方か、分類5まで落ちてからでないと、退職慰労金が支払えないという話に現実味がない。)
退職慰労引当金にかかる一時差異の回収可能性を例として、日本基準とIAS12の差(=“合理的”と“可能性が高い”の求められる確実性の差)を考えてきたが、分類2までの会社であれば、21項但し書きの効果もあり、差はないと考えて良さそうだ。しかし、上記の検討の結果は、スケジューリング等に合理性を求められる分類3以下の会社の(繰越欠損金等を除く部分の)見積りについては、差が生じる可能性を示している。
しかし、考えてみると会社の事業計画の達成可能性自体が、五分五分であったとすると、タックス・プランニングが事業計画や他の社内資料と整合していても、その確実性は五分五分ということになる。分類3以下の会社の事業計画の達成状況を考えると、ここでASBJが求めている合理性は、IFRSが想定している“可能性が高い”と、実質的にそれほど差がないのかもしれない。
即ち、財務諸表作成者が“合理的”なレベルを目指して見積りを行っても、分類3以降の会社の事業上の不確実性を考慮すると、結果的に“可能性が高い”レベルの見積りになってしまうのではないか。そうすると、この点では、日本基準とIFRSに実質的な差はないのかもしれない。
ちなみに、ASBJは「IFRSやUS-GAAP採用企業では、一部を回収可能と判断している」と記載して、現行の日本基準とIFRS等の間に差異があることを認めている(公開草案の結論の根拠の73〜74項に説明があり、そこでは“政策保有株式”(≒持合い株式)の例が記載されている)。これについては、(役員退職慰労引当金と同様に)21項但し書きによって、問題が緩和・解消されることになる。
(2つ目)… 見積りか、会計方針か。将来へ向かうか、過去も修正するか。
このシリーズの前回(503-8/27)は、公開草案で提案された改正の内容が、会計方針の変更か、それとも見積りの変更かを検討した。僕は単純に、繰延税金資産の回収可能性が見積り項目なので、その改正は見積りの変更になると考えたのだが、検討の結果は、ASBJのいう通り会計方針の変更として扱った方が良さそうというものだった。
その時ポイントになったのは、変更の結果を将来に向かって修正するのが適当か、それとも過去の期間を修正することで期間比較可能性を高めるか、ということだった。見積りは、新たな会計事実が発生したので過去を修正する意味がなく、将来に向かって変更するのが適当だ。しかし、会計方針の変更は、同じ会計事実が過去にも存在しているので、過去の比較期間についても修正することで、期間比較可能性を向上させる。今回の改正は後者、即ち、会計方針の変更として扱うことが適切だ。
このテーマについても、退職慰労引当金を例に考えてみよう。と思ったが、長くなってきたので、次回へ繰り越すことにしたい。
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*1 “税務上の繰越欠損金及び繰越税額控除”(上記では、これを“繰越欠損金等”と記載した)のセクションでは、“他の信頼すべき根拠がある”という要求を追加することで、蓋然性のレベルを高めている。この高められたレベルは、合理的なレベルにかなり近いと思う。
*2 スケジュリング不能な一時差異は、公開草案で次のように定義されている。(3項(5))
「スケジューリング不能な一時差異」とは、次のいずれかに該当する、税務上の益金又は損金算入時期が明確でない一時差異をいう。
① 一時差異のうち、将来の一定の事実が発生することによって、税務上の益金又は損金算入の要件を充足することが見込まれるもので、期末に将来の一定の事実の発生を見込めないことにより、税務上の益金又は損金算入の要件を充足することが見込まれないもの
② 一時差異のうち、企業による将来の一定の行為の実施についての意思決定又は実施計画等の存在により、税務上の益金又は損金算入の要件を充足することが見込まれるもので、期末に一定の行為の実施についての意思決定又は実施計画等が存在していないことにより、税務上の益金又は損金算入の要件を充足することが見込まれないもの
一時差異(=会計上と税務上の簿価の違い)がいつ解消されるかは、一時差異の性質と税務上の損金経理の規定によって異なる。例えば減価償却超過額であれば、償却が進んでいくうちに自動的に解消される。一方、会計上は評価損を計上したが、税務上は簿価で計上されたままの株式があるとすれば、その株式が売却される(か、税務上の評価損の要件に合致するほどその会社の財政状態が悪化する)まで解消されない。
前者であれば、解消時期が計算で求められるのでスケジューリング可能だ。しかし、後者の場合は売却計画があればスケジューリング可能となる可能性があるが、なければスケジューリング不能な一時差異ということになる。
*3 公開草案では、従来の66号の繰延税金資産の回収可能性を判断する枠組みを踏襲し、まず、主に収益性で会社を5つに分類する。分類2は、比較的事業が安定しており、将来にわたって利益を上げ続けられそうな会社がイメージされている。そのため、いずれ解消できる性質の一時差異(=スケジューリング可能な一時差異)であれば、回収可能と判断できる。すなわち、回収可能性の判断に当たって、一時差異の解消時期を特定する必要がないため、スケジューリング作業は不要だ。
*4 21項但し書きとは、以下の部分。
ただし、スケジューリング不能な将来減算一時差異のうち、税務上の損金算入時期が個別に特定できないが将来のいずれかの時点で損金算入される可能性が高いと見込まれるものについて、当該将来のいずれかの時点で回収できることを合理的に説明できる場合、当該スケジューリング不能な将来減算一時差異に係る繰延税金資産は回収可能性があるものとする。
*5 28項では、一定の要件に該当すれば、分類4の会社を分類2の会社として扱うことができるとされている。その規定は以下の通り。
28. 第27
項にかかわらず、第26 項の要件を満たす企業においては、重要な税務上の欠損金が生じた原因、中長期計画、過去における中長期計画の達成状況、過去(3 年)及び当期の課税所得又は税務上の欠損金の推移等を勘案して、将来の一時差異等加減算前課税所得を見積る場合、将来において5 年超にわたり一時差異等加減算前課税所得が安定的に生じることが合理的に説明できるときは(分類2)に該当するものとして取り扱い、第20 項及び第21 項の定めに従って繰延税金資産を見積る場合、当該繰延税金資産は回収可能性があるものとする。
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