521【CF4-03】公開草案の質問項目の概要
2015/10/20
ついにその日が来た。なにが? 清水エスパルスJ2降格、悲劇の日だ。
驚きはない。すでにキャンプ終了時の選手たちのTVインタビューを聞いて、「キャンプは失敗したか?」と疑念を抱いていたので、春先から心の準備はできている。リーグ初戦の鹿島戦の勝利以外は、この疑念を確信に変えるプロセスでしかなかった。
僕の考えでは、一番大きな問題は判断を避け続けた株主やフロントにある。しかし、「じゃあどうすれば良いのか」と問われると、なにも答えはない。「ん〜、マンUを勇退して悠々自適のファーガソン氏に…」になどと、妄想話しか浮かばない。ああ、悲劇は終わったのではなく、これから始まるのだ。
しかし、エスパルスはエスパルスだ。来季(J2で)も、絶対楽しんでやる。応援するぞ!
ということで、とりあえず、今の楽しみに集中しよう。今回は、概念フレームワークの公開草案(以下、EDと記載する)の質問項目にざっと目を通し、どれに焦点を当てるか考えてみたい。
質問項目は18個もある(但し、最後の一つは「他に何かありますか?」という質問だし、質問15は現行フレームワークからの移行手続に関するものなので、実質は16個)。それらを、このEDの質問セクションの記載やディスカッション・ペーパーを検討した時の記憶などを頼りに、ざっと(勝手に)分類してみよう。次の3つにできると思う*1。
- 会計の基礎概念(目的や前提)
ここには、6つの質問を分類した(詳細は欄外*1を参照のこと)。主な内容は、財務情報の質的特性(=企業会計原則の一般原則のようなもの)に関すること、資産などの財務諸表の構成要素の定義、報告企業や連結範囲、財務報告の目的に関することなど。
これらは、仕訳を起こしたり財務諸表を読むなど具体的に会計に接するときに、(本来は)知っておきたい会計の基礎概念だ。
今回特徴は、資産等の定義が変わったことだと思うが、“現在の義務”に関するガイダンスが追加されたことも面白いかもしれない。加えて、報告企業についての記載は、連結財務諸表の持分に関する2つの考え方(=“親会社説”と“経済的単一説”)に決着をつけるものかもしれないので、これも興味がある。
- 会計の基本原則(認識・測定)
認識は、どういう状況になったら仕訳をするか(=B/Sなどに載せるタイミング)、測定は、いくらで載せるかを決める原則だ。この2つの原則で、概ね伝票が起票できる状態になる(細かくは、科目や摘要欄をどうするかが残る。科目は個別基準で扱われ、摘要欄は各社の状況による)。
ここで僕が注目したいのは、認識規準が資産等のF/S公正要素の定義と直結したらしいこと、測定規準で取得原価が使用される場合と公正価値等の現在価額が使用される場合を決定する要素が記載されたらしいことだ。
そのほか、いわゆる“重要性”についてより詳しい説明がなされると予想している。ディスカッション・ペーパー等の記載から、“重要性”は、目的適合性が乏しいことを意味する場合と、コスト制約に関連する場合が明確に区別されるようになると予想している。
- 業績報告…包括利益と純利益
これは、このブログでも紹介したように*2、IASBの諮問機関であるASAF(=会計基準アドバイザリー・フォーラム)で、ASBJとFASBが非常に創造的で美しい議論を展開した項目だ。ディスカッション・ペーパーでは、中途半端な扱い・内容だったが、その後の議論で非常に大きなテーマへと扱いが変わったことがうかがえる。ASBJの貢献大だ。
今や、監査人ではなく投資家の僕にとっては、とても実用的なテーマでもある。これには強い関心を持たざるを得ない。
注目点を色々挙げたが、このシリーズですべてを扱おうと欲張ると、前々回シリーズのような失敗をする可能性がある。したがって、さらにポイントを絞りつつ、先を進めていきたい。
ん〜、最後に、エスパルスについて一言だけ。もう、来季の体制作りを始めてるだろうか。まずはフロントから、寄せの速さと球際の強さを見せて欲しい。11月中に新体制にならないと、来季もきついかも。(T . T)
🍁ー・ー🍁ー・ー
*1 EDの冒頭に記載されている18の質問項目を、僕は便宜的に3つに分類したが、その詳細は以下のとおり。但し、簡略化しているので、正確な記述は原本を当たっていただきたい。
- 会計の基礎概念(目的や前提)
僕はここに下記の質問1〜5、及び11を入れる。これらは、仕訳など具体的な会計処理を行う前に、或いは、財務諸表を読む前に、(本来は)確認しておきたい概念だ。
質問1:第1章及び第2章の変更案
経営者の受託責任の記述強化、慎重性への言及、忠実な表現の記述強化、目的適合性と測定の不確実性の間のトレードオフ関係の明確化、などを変更。
このような記述、変更内容で良いか。
質問2:報告企業の境界
報告企業とは何かや、非連結財務諸表(=個別財務諸表)と連結財務諸表の違いを説明した。(よくある“財務諸表の合算と連結相殺消去”みたいな会計手続からの説明ではなく、その財務諸表が何を表すかという経済的観点からの説明になっている。)
このような記述で良いか。
質問3:構成要素の定義
資産・負債・持分・収益・費用の定義
ディスカッション・ペーパーの案が採用されている。即ち、不確実性を考慮した「〜する可能性が高い」などといった語句が削除され、“経済的資源”を軸とした表現になっている。
このような表現で良いか。
質問4:現在の義務
“現在の義務”の定義やガイダンス
法律上の確定した義務だけでなく、一定の事象の発生やオプション行使によって生じる条件付のものや法的強制力がない推定的義務の一部についても、以下の両方を満たすものは“現在の義務”に含める。
・企業が回避する実際上の能力を持たない。
・過去の事象から生じている(すでに対の権利を取得した)
このような扱いで良いか。
質問5:構成要素のその他のガイダンスの改定
公正要素の定義に関する上記以外のガイダンス、未履行契約・契約上の権利及び契約上の義務の実質の報告・会計単位に関するガイダンスの記述について、良いか。
質問11:財務諸表の目的及び範囲並びに伝達
EDでは、この項目が下記「3.業績報告…包括損益と純損益」に記載した各質問項目と同じ第7章「表示及び開示」で扱われている(第7章はEDで新しく追加された章)。ただ、ここでは“基礎概念”と考えて、「1.会計の基礎概念」に括る。
この第7章では、従来の概念フレームワークにもあった一般目的財務諸表の目的を冒頭に再掲した上で(7.2)、新たに、財務諸表の表示科目の分類・集約や注記(将来予測的な情報を含む)等をIASBが個別基準で設定する際の考え方が追加された。
このような考え方で良いか。
- 会計の基本原則(認識・測定)
個々の仕訳に直接影響する基本的な原則は認識原則と測定原則だと思う。それに関する質問は下記の6〜10に関するものになる。
質問6:認識規準
新しい認識規準は以下の特徴を持つようだ。
・資産や負債の定義と直接リンクしたアプローチ
・目的適合性・忠実な表現という質的特性を要件に持つ
・情報の便益が“提供コスト”を上回るという要件を持つ(=コスト制約)
・これらを補強する、不確実性・蓋然性・便益とコストに関するガイダンス
これらについて良いかどうか。
質問7:認識の中止
認識の中止とは、資産や負債をB/Sから外すこと。取引の一部ではなく、全体像から判断することが求められているようだ。取引や契約条件の細部に囚われると、目的適合性や忠実な表現が実現されないようなことになりかねない。
これらについて良いかどうか。
質問8:測定基礎
第6章の測定基礎では、F/Sへ載せるときに歴史的原価(≒取得原価、償却原価)や、現在価額(=公正価値、 資産の使用価値 or 負債の履行価値)に関する説明をしている。
これらの説明で良いかどうか。
質問9:測定基礎を選択するときに考慮すべき要因
資産・負債・収益・費用について、測定基礎の選択に考慮すべき要因を説明している。それらの要因の相対的な重要性は、それぞれの事実や状況で決まる。コスト制約も加味される。一部は注記の数値にも当てはまる。当初測定と事後測定で使用される測定基礎は、対で決められる。このほか、以下の要因がある。
・目的適合性や忠実な表現といった基本的な質的特性
・比較可能性・検証可能性・理解可能性といった補強的質的特性
・当初測定時に固有の状況(取得取引の様態)
考慮すべき諸要因が正しいかどうか。
質問10:複数の目的適合性のある測定基礎
歴史的原価でも、現在価額でも、目的適合性のある情報となる場合にどうするか。B/Sでは期末日現在の現在価額が目的適合性があるが、P/Lでは歴史的原価の方が目的適合性があるようなケースのことだ。これは、下記の「3.業績報告…包括利益と純利益」にも関連する問題だ。
原則として、B/SとP/Lには同じ測定基礎を使用し、(必要があれば)他の測定基礎を使用した情報を注記で開示する。
しかし、事業活動の性質や資産・負債の特性によって、B/Sでは現在価額を付し、P/Lではそれと異なる測定基礎を使用した方が、目的適合性が高まることがある。その場合に生じる両者の差額の損益は、その他の包括損益(=OCI)へ計上される。
このような考え方で良いかどうか。
- 業績報告…包括利益と純利益
純利益とその他包括利益の区別は、IASBが場当たり的に決めてきたのではないかと批判のあるところ。より本質的には、何が財務業績か、という議論があるが、IASBは、このEDにおいても、はっきりと決着をつけていない。結局、ASBJやFASBの問題提起*2は、すっきり解決できたわけではなさそうだ。
質問12:純損益計算書の記述
概念フレームワークでは、純損益と包括損益が2つの計算書になるべきか、1つになるべきかは記述しない。ただ、少なくとも純損益の表示が必要とだけ記述される。かつ、純損益の定義は行わず、ただ「純損益計算に含まれる収益及び費用は、企業の当期の財務業績に関する情報の主要な源泉である」とだけ記述する。
これ良いかどうか。
質問13:収益又は費用の項目のその他の包括利益での報告
IASBは、以下に該当する収益又は費用について、その他の包括利益(=OCI)に計上することを要求できる。
(a) 現在価額で測定される資産・負債に関する収益又は費用で、
(b) 純損益よりOCIへ計上した方が、純損益の目的適合性が高まる。
これで良いかどうか。
質問14:リサイクリング
一旦OCIへ計上した収益及び費用でも、将来の期間に純損益へ振替えた方が純損益の目的適合性を高める場合は、リサイクリングを行う。但し、例えば、どの期間にリサイクリングすることが適当か明確な基礎がないような場合は、IASBはリサイクリングしないとするかもしれない(退職給付債務の数理計算上の差異などが想定されていると思われる)。
このような扱いで良いか。
質問16:事業活動
概念フレームワークに“事業活動”や“事業モデル”について記載してない。これらがすでに様々な意味で利用されており、会計単位・測定・表示及び開示などの面で、経営者の意図が紛れ込む可能性もあるから(=必要な場合に個別基準で設定する)。
このような扱いで良いか。
質問17:長期投資
IASBは以下の主張について検討を行った。
・企業が長期投資を行う一定の事業活動や事業モデルには、歴史的原価や使用価値を適用すべき。現在価額を使用する場合でも、歴史的原価との差額はOCIに計上すべき。
・長期投資家と短期投資家の財務報告へのニーズは異なり、IASBは短期投資家のニーズに重きを置きすぎている(=公正価値のような市場価格ベースの情報を多用しすぎている)。
いずれの主張に対しても却下した。前者は概念フレームワークで扱う問題ではないとし、後者は特定のタイプの投資家のニーズに偏っていることはなく、透明性の高い財務報告を要求しているだけだとしている。
このような扱いで良いか。
- その他
下記2つの質問は、上記のいずれにも含めなかった。
質問15:「概念フレームワーク」の変更案の影響
このEDは現行のIFRSの個別基準や解釈指針と不整合なものがある。この解消について、概ね、次のように提案している。
・個別基準の改定は、(直ちには行わず)IASBのデュー・プロセスに従って行う(=他の課題と合わせて優先順位を決めて対処する)。
・解釈指針の改定は解釈指針委員会が気づいた都度検討を行う。
・企業が現行概念フレームワークに基づいて設定した会計方針を、改定概念フレームワークに合わせて会計方針の変更を行う場合は、会計方針の変更として扱う(=原則として、遡求調整する。但し、IASBは改定概念フレームワークの公表と企業の適用日の間に18ヶ月間の間をおく)。
このような扱いで良いか。
質問18:その他のコメント
上記以外に何かコメントがあるか、という質問。
*2 以下で取り上げた。
380.CF-DP61)純損益とOCI~ASBJペーパーとFASBペーパー 2014/7/29
384.CF-DP61)純損益とOCI~ASBJペーパー2014/8/8
387.CF-DP62)純損益とOCI~FASBペーパー2014/8/20
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