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2015年10月23日 (金曜日)

522【CF4-04】受託責任〜一般財務報告の目的と利用者のミスマッチ

2015/10/23

みなさんは、“大学文系不要論”というのをご存知だろうか。恐らく、「もちろんだよ」という方がほとんどだと思うが、僕はなんとなく耳にしていたものの、ちゃんと向き合ったのは、下記の記事が初めてだった。

 

「大学文系不要論」炎上に見る文科省の悪しきビジネスモラル DIAMOND online 10/20

 

6月に発せられた文部科学省の通知に端を発した騒動が、9月には経団連の反対声明にまで発展した。文科省・文科大臣の対応について、この筆者が民間企業で体験した実例を示して批判している。

 

私立文系の僕としては、この通知が国立大学へ発せられたものだとしても、ちょっと刺激的だ。他にもいくつかネットで読んでみたが、いずれも、“大学文系不要論”という単語か、この通知のある一部*1を抜き出して批判していた。

 

しかし、通知文全体ではどうなのだろう? この一文は全体の中でどういう位置付けなのか。そもそも、この通知はどういう経緯で正当化され、何を目的としているのだろう? これは話がでかそうだ。大学のあり方は、恐らく、社会の将来に大きな影響を与える。この記事のつかみで簡単に扱えるテーマではない。

 

直感的には「実用から離れたものこそ、最も革新的」、「日本に足りないのは革新性(と国際性)」と思うから、文系が実用的でないというなら(最も革新的かもしれないので)、なくすのではなく梃入れ・強化した方が良いかもしれない、と思う。ただ、これは“大学文系不要論”といった単語や通知の一文だけから連想された狭い考えであり、やはりもっと広く、そもそも何故こんな通知が必要になったか、文科省は何をやろうとしてるのかを理解する必要がある。そうすれば、「なるほど」と思うかもしれないし、さらには「文系だけでなく理系もそうしなきゃ」と思うかもしれない。

 

つまり、全体の目的を理解せずに枝葉を議論できない。

 

 

というわけで、“目的”が重要なのだ。概念フレームワークのED(=公開草案)についても、目的に関連した質問項目を素通りするわけにいかない。前回(521-10/20)の欄外に脚注した“質問1”の“経営者の受託責任の記述強化”がこれに当たる。これで、“一般財務報告の目的”という会計の根幹部分の記載が、あちこち直されている。いったい、何故直されたのか。そして、どんな影響がありそうか。

 

EDの結論の根拠に、見直しの経緯があるので要約してみよう。

 

きっかけ:2013年のディスカッション・ペーパー(以下“DP”と記載)へのコメント

 

IASBとしては、せっかくFASBと共有している“一般財務報告の目的”を直すつもりはなかったが、多くのコメント提供者が、以下の2点で再検討が必要と回答した(BC1.2)。

 

・“受託責任”の記述の強化( このEDで変更を提案している)

・“主要な利用者”の変更 ( このEDでは変更を予定していない)

 

IASBは、前者についてはUS-GAAPと異なる概念フレームワークになるという犠牲を払っても、文言を修正した方が良いと判断したが、後者については修正が必要ないと判断した。その理由は、後者についてのコメントは、すでにIASBが検討済みの内容だったから(BC1.13)等の理由を挙げている。結局、前者についてのみ、このEDで修正を提案した。

 

“受託責任(=stewardship)”の記述を強化する理由:誤解の解消

 

IASBは、修正提案に至った理由を結論の根拠のBC1.6BC1.10までの5つの段落に、かなり長文の説明を載せている。それを読むと、次のようなことが分かる。

 

・現行の概念フレームワークでは、“受託責任(=stewardship)”という単語が一般財務報告の目的の説明の中に使用されていないため、多くのコメント提供者は、「財務報告が経営者の受託責任を評価するのに役立つことをIASBが無視している」と考えていることに気づいた。

 

IASB(とFASB)は、「“stewardship”という単語の各言語への翻訳が困難ではないか」と考えて、この単語なしの説明をしていたのであって、無視はしていない。

 

・このような誤解を解消できるなら、翻訳の困難さがあってもこの単語を使って説明した方が良いと結論した。

 

・一般財務報告の目的としては、あくまで「“将来の正味キャッシュ・インフローについての企業の見通し”を評価するのに役立つ」ことがメインの目的であり、「経営者の受託責任の評価に役立つ」ことは、これと同等ではないとIASBは考えている。

 

見直しの影響(僕の感想):なし

 

誤解の解消をしただけであれば、実質的な内容が変わるわけではないので、この変更が他へ波及する可能性は低そうだ。

 

以上が、僕がEDの結論の根拠から読み取ったことだが、実際に、変更提案はこの通りだろうか。こっそり、意味が変わったりしてないだろうか。「ちょっと疑いすぎ」と思われるかもしれないが、この観点で、EDの該当部分を読んでみよう。

 

実は、変更箇所はけっこう多い。ここに一つ一つ挙げて検討することはしないが、僕が受けた印象を書くと次のようになる。

 

受託責任の記述は、確かに強化されている。

 

確かに、メインの目的は「将来キャッシュフローの企業見通しの評価に役立つ」ことかもしれないが、「経営者の受託責任の評価に役立つ」ことも、それに比肩するぐらい重要と感じられるようになった。

 

例えば、現行フレームワークでは「経営者の受託責任の評価は、将来キャッシュフローについての企業見通しに信頼性を与える」という形で財務報告の利用者に消費されるイメージだった。即ち、あくまで財務報告の最終目的は「企業の見通しの評価」に役立つことだった。

 

しかし、EDでは、経営者の受託責任の評価はそのまま利用者に最終消費されるイメージもある。例えば、経営者の受託責任の評価に問題がなければ、「経営者報酬の株主総会決議に賛成しよう」とか、「債権の与信レベルを上げよう」などと。

 

この見直しの影響について、上には“なし”と記載したが、“受託責任”の重みが増したことで、少し変化があるかもしれない。現行は、財務報告の利用者に“投資家”が強くイメージされていたが、EDは、受託責任の記述を強化することで、利用者をもっと幅広くイメージできるようになったように思う。

 

現行の概念フレームワークは、文言としては財務報告の利用者を幅広く設定しているが、財務報告の目的は主に投資家をイメージしていた。要するに、利用者と目的にミスマッチがあった。EDでは、これが少し改善されたかもしれない。

 

もしかしたら、これは「IFRSは短期投資家のための会計だ」という批判をかわす狙いがあるかもしれない。投資家どころか、株主や銀行、取引先といった企業と長期的な関係を持つ利用者を、ちゃんと想定してますよ、という含意を込めた可能性があるように思う。

 

 

🍁ー・ー🍁ー・ー

*1 文科省の通知のある部分とは次の通り。

 

(1)「ミッションの再定義」を踏まえた組織の見直し

「ミッションの再定義」で明らかにされた各大学の強み・特色・社会的役割を踏まえた速やかな組織改革に努めることとする。

特に教員養成系学部・大学院、人文社会科学系学部・大学院については、18歳人口の減少や人材需要、教育研究水準の確保、国立大学としての役割等を踏まえた組織見直し計画を策定し、組織の廃止や社会的要請の高い分野への転換に積極的に取り組むよう努めることとする。

国立大学法人等の組織及び業務全般の見直しについて(通知)(平成27年6月8日)の別添1の3ページ

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