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2015年10月30日 (金曜日)

524【CF4-06】測定基礎の選択(歴史的原価 vs. 現在価額)

 

2015/10/30

先日、母の一周忌で兄弟が3人揃った(僕は男3人兄弟の次男)。四九日以来だ。父は上機嫌だったが、その理由は息子たちと久しぶりの話ができるからではない。恐らく、息子たちがまだ幼かった頃の記憶をたどって、それとのギャップを楽しんでいたのだと思う。「あの子供らが成長してもうおじさんになってる」と。

 

しかし、息子たちの将来について想いを馳せることは、あまりないようだ。将来については、もっぱら、孫の話題に終始している。父の関心は、もう先が見えた息子たちより、多くの可能性に満ちている孫たちの方へ吸い寄せられている。

 

僕は、別に、焼き餅焼いて父にクレームをつけようというのではない。僕ら自身でさえ、昔は、お互いの進路など将来へ関心が向いていたが、今は、腰痛対策を披露しあうことが話題の中心だ。先が見えてることは、自分たちが一番自覚している。

 

まだこの先が変化に富んでいると思えば、将来へ目が向く。しかし、先の変化が乏しそうな場合は過去へ目が向く。これは父に限ったことではない。

 

 

さて、会計はどうだろうか。

 

かつては、過去の集積としてしか現在を捉えなかったが(=取得原価主義)、現在では見積り項目が多く、むしろ、将来キャッシュ・フローから逆算して現在価値へ割引くような発想が採り入れられている。会計は、かつてより、企業の将来へ目が向いている。やはり、変化が激しくなっているのだろうか。

 

このEDによる資産と負債の定義を見てみよう。

 

資産とは、企業が過去の事象の結果として支配している現在の経済的資源である。(4.5)

負債とは、企業が過去の事象の結果として経済的資源を移転する現在の義務である。(4.24)

 

両者の共通部分“企業が過去の事象の結果として”や“現在の”は、“過去の集積としての現在”を表しているが、“経済的資源”や“移転する義務*1”には、将来への期待が含まれている。将来への期待を測定するために、項目によって測定基礎(=現在価額や歴史的原価)が割当てられる。

 

みなさんもご存知のように、公正価値等の時価(≒現在価額)を付すのと、取得原価(≒歴史的原価)を付すのでは、意味が全然異なる。現在価額を付す場合は、将来への期待を直接会計へ取り込むことになるが、歴史的原価を付す場合は、例えば、減損テストのように歴史的原価が妥当性を維持しているかどうかを確かめるために将来キャッシュ・フローを考慮するに過ぎないなど、その関係は極めて限定的だ。即ち、将来への期待は直接会計へ取り込まれるわけではない。

 

定義は、これら測定基礎(=現在価額や歴史的原価)の違いに触れないようにしているが、一歩踏み込んで将来への期待という観点から見ると、測定基礎の違いは大きな意味を持つ。したがって、どういう項目にどの測定基礎を当てるかの選択は、IASBが会計基準を開発する上で、非常に重要な意味を持っている。そこで、EDには、IASBがこの判断の際に考慮すべき諸要因に関する記載が、新しく追加された*2。しかし、これ、かなり難解だ。あまり整理されているようには思えない。

 

一応、僕なりにサマリーしてみよう。IASBは、この諸要因を、次の4つの切り口でまとめている。

 

財務情報の質的特性

 

この判断には財務情報の質的特性が関連しているという。この質的特性で重要なのは、基本的な質的特性である“目的適合性”や“忠実な表現”(特に前者)で、このほかに補強的な質的特性として、“比較可能性”、“検証可能性”、“理解可能性”も関連するとしている。まあ、大胆に一言でいえば、財務報告の利用者が何を望んでいるかを考慮することだと思う。

 

ちょっと気になったのは、測定の不確実性のレベルが非常に高いもの(現在価額の見積りが困難なもの)については、別の測定基礎(歴史的原価)の方が目的適合性が高い場合がある旨記載していることだ。

 

測定の不確実性レベルが高いとは、測定モデルやインプットが十分信頼の置けるものではない状態を指していると思われる。市場価格の変動が激しい(から、将来、実際にキャッシュ化する時は金額が大きく変わる)という意味の不確実性(=結果の不確実性)ではない。

 

このようにまとめてみると、IASBは、市場価格があるものには市場価格を(=即ち、市場性のあるものには公正価値を)、反対に企業に固有で特有なプロセスを経てキャッシュ・フローが生み出されるものについては歴史的原価を選択すると言いたいのではないかと思える。そして、これを財務情報の利用者も望んでいる(=目的適合性が高い)、と考えているようだ。(但し、現在の個別基準では、生物資産の一部や投資不動産のように、事業性資産についても公正価値を付す場合がある。)

 

当初測定に固有の要因

 

これは資産・負債の発生時の取引(=取得取引)の性質や内容のことを指していると思われる。次の4つの類型ごとに、どのような選択が適切かをバラバラと書いている。

 

・価値が類似した項目の交換(売上取引を含む)

・持分請求者(=株主)との取引

・価値の異なる項目との交換(=贈与や賠償金の支払いなど)

・資産の自家建設

 

複数の目的適合性がある測定基礎

 

ここには、ASBJASAF(=会計基準アドバイザリー・フォーラム。IASBの諮問機関)で主張した内容が、部分的に取入れられている。それは、B/SP/Lで測定基礎が異なる場合があり、それによる差額をP/LOCI(=その他の包括利益)へ計上する考え方だが、部分的な採用なので、ASBJが主張したような一貫性のある美しい理論にはなっていない。

 

持分の測定

 

持分(合計額)は、資産と負債の差額として計算されるので、持分独自の測定基礎はないとされている。

 

どうやら、IASBは、すっきりと一貫した“測定基礎の選択”の方針を明らかにする気はないようだ。いや、そうではなく、すでにあるIFRSの規定が複雑に入り組んでおり、この方針を綺麗にまとめようとすると、はみ出すものがたくさん出てきてしまうのかもしれない。ん〜、これは問題だ。原則主義のIFRSに、こんな混乱ともいうべき状況があって良いのだろうか?

 

 

恐らく、僕の父ならこう言うに違いない。

 

もう、先の見えた子供たちの評価はほぼ定まっているが、これから波乱万丈の人生を送るであろう孫たちの評価はこれからだ。子供たちの現在価額は想像できるが、孫たちのは無理だ。だから、もっと孫たちの話をしよう。誰がどうしたこうしたと、たくさん情報をくれ。

 

父がB/Sを見てるとすれば、子供たちは将来キャッシュ・フローが概ね確定した金融商品のように見えるだろう。一方、孫たちについては、あまりに色々な可能性があり過ぎて将来キャッシュ・フローの見積もりが難しい。孫たちの人生は、まるで、企業が心血注いで成し遂げる事業のように変化に富んだものになるだろう。そういうものは、過去の色々な出来事を並べて(=P/L)、将来を占う参考にしようじゃないか、と言うような気がする。

 

ここには、不確実性の低いものは現在価額、不確実性の高いものは歴史的原価というシンプルなイメージがある(上述したように、IASBもそれらしきことを書いている)。そして、結果として、金融商品は現在価額、事業性のものは歴史的原価が測定基礎として選択される可能性が高くなる、と考えると分かりやすい。

 

そして、「歴史的原価が選択されたものについては、その将来性を財務情報の利用者があれこれ評価する材料として、P/L等で歴史・経緯が分かるようにする」と考えるとB/SP/Lの関係も見えてくる。実は、利用者の関心は、現在価額が付された項目より、歴史的原価が付された項目に向いている。

 

父は呑んべえだが、それだけに単純で分かりやすい。その点はIASBにも勝っているようだ。

 

 

🍁ー・ー🍁ー・ー

*1 負債側の“移転する”に将来への期待が含まれるなら、資産側の“支配している”にも将来への期待が含まれるのではないか、と思われる方がいるかもしれない。しかし、支配は過去に行われるが、負債を支払う(=経済的資源を移転する)のは未来だ。そこで、“移転する義務”に将来への期待が含まれるとした。

 

*2 EDでは、“測定”というタイトルの第6章が追加された。ここに、個々の測定基礎(=公正価値や使用価値などの現在価額や、歴史的原価)の説明や、IASBがそれを選択する際に考慮すべき諸要因が記載されている。

 

 

 

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