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2015年10月

2015年10月30日 (金曜日)

524【CF4-06】測定基礎の選択(歴史的原価 vs. 現在価額)

 

2015/10/30

先日、母の一周忌で兄弟が3人揃った(僕は男3人兄弟の次男)。四九日以来だ。父は上機嫌だったが、その理由は息子たちと久しぶりの話ができるからではない。恐らく、息子たちがまだ幼かった頃の記憶をたどって、それとのギャップを楽しんでいたのだと思う。「あの子供らが成長してもうおじさんになってる」と。

 

しかし、息子たちの将来について想いを馳せることは、あまりないようだ。将来については、もっぱら、孫の話題に終始している。父の関心は、もう先が見えた息子たちより、多くの可能性に満ちている孫たちの方へ吸い寄せられている。

 

僕は、別に、焼き餅焼いて父にクレームをつけようというのではない。僕ら自身でさえ、昔は、お互いの進路など将来へ関心が向いていたが、今は、腰痛対策を披露しあうことが話題の中心だ。先が見えてることは、自分たちが一番自覚している。

 

まだこの先が変化に富んでいると思えば、将来へ目が向く。しかし、先の変化が乏しそうな場合は過去へ目が向く。これは父に限ったことではない。

 

 

さて、会計はどうだろうか。

 

かつては、過去の集積としてしか現在を捉えなかったが(=取得原価主義)、現在では見積り項目が多く、むしろ、将来キャッシュ・フローから逆算して現在価値へ割引くような発想が採り入れられている。会計は、かつてより、企業の将来へ目が向いている。やはり、変化が激しくなっているのだろうか。

 

このEDによる資産と負債の定義を見てみよう。

 

資産とは、企業が過去の事象の結果として支配している現在の経済的資源である。(4.5)

負債とは、企業が過去の事象の結果として経済的資源を移転する現在の義務である。(4.24)

 

両者の共通部分“企業が過去の事象の結果として”や“現在の”は、“過去の集積としての現在”を表しているが、“経済的資源”や“移転する義務*1”には、将来への期待が含まれている。将来への期待を測定するために、項目によって測定基礎(=現在価額や歴史的原価)が割当てられる。

 

みなさんもご存知のように、公正価値等の時価(≒現在価額)を付すのと、取得原価(≒歴史的原価)を付すのでは、意味が全然異なる。現在価額を付す場合は、将来への期待を直接会計へ取り込むことになるが、歴史的原価を付す場合は、例えば、減損テストのように歴史的原価が妥当性を維持しているかどうかを確かめるために将来キャッシュ・フローを考慮するに過ぎないなど、その関係は極めて限定的だ。即ち、将来への期待は直接会計へ取り込まれるわけではない。

 

定義は、これら測定基礎(=現在価額や歴史的原価)の違いに触れないようにしているが、一歩踏み込んで将来への期待という観点から見ると、測定基礎の違いは大きな意味を持つ。したがって、どういう項目にどの測定基礎を当てるかの選択は、IASBが会計基準を開発する上で、非常に重要な意味を持っている。そこで、EDには、IASBがこの判断の際に考慮すべき諸要因に関する記載が、新しく追加された*2。しかし、これ、かなり難解だ。あまり整理されているようには思えない。

 

一応、僕なりにサマリーしてみよう。IASBは、この諸要因を、次の4つの切り口でまとめている。

 

財務情報の質的特性

 

この判断には財務情報の質的特性が関連しているという。この質的特性で重要なのは、基本的な質的特性である“目的適合性”や“忠実な表現”(特に前者)で、このほかに補強的な質的特性として、“比較可能性”、“検証可能性”、“理解可能性”も関連するとしている。まあ、大胆に一言でいえば、財務報告の利用者が何を望んでいるかを考慮することだと思う。

 

ちょっと気になったのは、測定の不確実性のレベルが非常に高いもの(現在価額の見積りが困難なもの)については、別の測定基礎(歴史的原価)の方が目的適合性が高い場合がある旨記載していることだ。

 

測定の不確実性レベルが高いとは、測定モデルやインプットが十分信頼の置けるものではない状態を指していると思われる。市場価格の変動が激しい(から、将来、実際にキャッシュ化する時は金額が大きく変わる)という意味の不確実性(=結果の不確実性)ではない。

 

このようにまとめてみると、IASBは、市場価格があるものには市場価格を(=即ち、市場性のあるものには公正価値を)、反対に企業に固有で特有なプロセスを経てキャッシュ・フローが生み出されるものについては歴史的原価を選択すると言いたいのではないかと思える。そして、これを財務情報の利用者も望んでいる(=目的適合性が高い)、と考えているようだ。(但し、現在の個別基準では、生物資産の一部や投資不動産のように、事業性資産についても公正価値を付す場合がある。)

 

当初測定に固有の要因

 

これは資産・負債の発生時の取引(=取得取引)の性質や内容のことを指していると思われる。次の4つの類型ごとに、どのような選択が適切かをバラバラと書いている。

 

・価値が類似した項目の交換(売上取引を含む)

・持分請求者(=株主)との取引

・価値の異なる項目との交換(=贈与や賠償金の支払いなど)

・資産の自家建設

 

複数の目的適合性がある測定基礎

 

ここには、ASBJASAF(=会計基準アドバイザリー・フォーラム。IASBの諮問機関)で主張した内容が、部分的に取入れられている。それは、B/SP/Lで測定基礎が異なる場合があり、それによる差額をP/LOCI(=その他の包括利益)へ計上する考え方だが、部分的な採用なので、ASBJが主張したような一貫性のある美しい理論にはなっていない。

 

持分の測定

 

持分(合計額)は、資産と負債の差額として計算されるので、持分独自の測定基礎はないとされている。

 

どうやら、IASBは、すっきりと一貫した“測定基礎の選択”の方針を明らかにする気はないようだ。いや、そうではなく、すでにあるIFRSの規定が複雑に入り組んでおり、この方針を綺麗にまとめようとすると、はみ出すものがたくさん出てきてしまうのかもしれない。ん〜、これは問題だ。原則主義のIFRSに、こんな混乱ともいうべき状況があって良いのだろうか?

 

 

恐らく、僕の父ならこう言うに違いない。

 

もう、先の見えた子供たちの評価はほぼ定まっているが、これから波乱万丈の人生を送るであろう孫たちの評価はこれからだ。子供たちの現在価額は想像できるが、孫たちのは無理だ。だから、もっと孫たちの話をしよう。誰がどうしたこうしたと、たくさん情報をくれ。

 

父がB/Sを見てるとすれば、子供たちは将来キャッシュ・フローが概ね確定した金融商品のように見えるだろう。一方、孫たちについては、あまりに色々な可能性があり過ぎて将来キャッシュ・フローの見積もりが難しい。孫たちの人生は、まるで、企業が心血注いで成し遂げる事業のように変化に富んだものになるだろう。そういうものは、過去の色々な出来事を並べて(=P/L)、将来を占う参考にしようじゃないか、と言うような気がする。

 

ここには、不確実性の低いものは現在価額、不確実性の高いものは歴史的原価というシンプルなイメージがある(上述したように、IASBもそれらしきことを書いている)。そして、結果として、金融商品は現在価額、事業性のものは歴史的原価が測定基礎として選択される可能性が高くなる、と考えると分かりやすい。

 

そして、「歴史的原価が選択されたものについては、その将来性を財務情報の利用者があれこれ評価する材料として、P/L等で歴史・経緯が分かるようにする」と考えるとB/SP/Lの関係も見えてくる。実は、利用者の関心は、現在価額が付された項目より、歴史的原価が付された項目に向いている。

 

父は呑んべえだが、それだけに単純で分かりやすい。その点はIASBにも勝っているようだ。

 

 

🍁ー・ー🍁ー・ー

*1 負債側の“移転する”に将来への期待が含まれるなら、資産側の“支配している”にも将来への期待が含まれるのではないか、と思われる方がいるかもしれない。しかし、支配は過去に行われるが、負債を支払う(=経済的資源を移転する)のは未来だ。そこで、“移転する義務”に将来への期待が含まれるとした。

 

*2 EDでは、“測定”というタイトルの第6章が追加された。ここに、個々の測定基礎(=公正価値や使用価値などの現在価額や、歴史的原価)の説明や、IASBがそれを選択する際に考慮すべき諸要因が記載されている。

 

 

 

2015年10月27日 (火曜日)

523【CF4-05】受託責任〜記述強化の影響

2015/10/27

前回(522ー10/23)は、ED(=公開草案)の“一般財務報告の目的”の記述で受託責任に関する記述が強化されたこと、及び、その結果『IFRSは短期投資家のための会計だ」という批判をかわす狙いがあるかもしれない』と結んだ。しかし、「だから何?」とか「それは何?」と思われた方がいらしたかもしれない。「まず、“短期投資家のための会計”の意味が分からない」と。

 

一方、「そんなに“目的”にこだわらなくてもいいんじゃない?」という方もいらっしゃるだろう。「細かいことはどうでも良いからどんどん先へ進めば?」と。しかし、僕はどうしても立ち止まりたくなった。それは、金融庁がIFRS反対派学者に書かせた「Oxford Report」を思い出したからだ*1

 

僕は、このレポートを読み進めるうちに、こじつけ・(意図的な?)誤解や間違い・目的と手段を混同した論理的混乱などが随所に見つかり、途中で放り投げてしまった。しかし、全てがダメというわけではなく、興味をそそるアイディアもあった。その一つが、短期投資家の弊害に触れたところだ。

 

この数ヶ月の株式市場、為替市場の乱高下に関して、アルゴリズムを利用したプログラム売買の弊害を指摘した新聞記事などを、みなさんもご覧になったかもしれない*2。コンピュータが、一定のキーワードや指標の変化に関する情報を見つけると、自動的に、大量かつ高速に売買取引を発注してしまい、相場が大きく振れるのだ。例えそれが誤報であろうと、コンピュータの解釈の誤りであろうと、関係ない。そして、相場が動けば、それ自体が多くの投資家に影響を与え、さらに相場が動くことになる。市場価格がもはや適正とはいえなくなる典型例だ。それに泣かされる投資家は多いに違いない。

 

単に、外国為替市場に参加している投資家だけでなく、そういう市場価格を決算に利用する企業も迷惑だし、そういう決算を報告される株主や株式投資家・債権者にまで弊害が及ぶ。下手をすれば、金融危機のきっかけにすらなりかねない。但し、これはITの発達によるものであり、IFRSが原因なのではない。IFRSであろうがUS-GAAPであろうが日本基準であろうが、このような取引を行う短期投資家が存在すれば、弊害は生じうる。では、短期投資家とIFRSは無関係か?

 

しかし、次のような考え方も成り立つと思う。

 

アルゴリズムには、売買のきっかけさえ設定できれば良いので、包括利益でも純利益でも関係ない。とにかく利益項目があればコンピュータ・プログラムを書くことができる。一方、長期投資家や株主・債権者は、将来の長期にわたる企業の収益力の見通しの変化が問題だ。本当の業績を示すのはどちらか、或いは、包括利益と純利益のそれぞれが示す意味が重要になる。もし、IASBが純利益とOCI(=その他の包括利益)の区別を明確にしないと、長期投資家等は業績に関する適切な分析を行いにくくなる。

 

つまり、このEDによる一般財務報告の目的の改定は、下記のように、長期投資家等にはより有益となる可能性を期待できる。

 

概念フレームワークは、IASBが個別IFRSを開発したり改善したりする際に利用されるものだ。その概念フレームワークにおいて、経営者の受託責任の記述が強化され、その結果、一般財務報告の目的と利用者とのミスマッチが改善される。このことは、今回のEDで同時に提案されているOCIや測定基礎(=歴史的原価や現在価額)に関する記述の追加と、無関係ではないだろうと思う。

 

僕は、OCIや測定基礎などに関して追加される記述は、長期投資家や債権者などにより役立つ内容になると期待し、このEDを読み進めるのを楽しみにしている。そしてそれが、今後の個別IFRSの開発や改定にどのように生かされるかも楽しみなのだ。

 

ところで、もしそうなれば、上述のような短期投資家にとってIFRSは使いにくい会計基準になるだろうか。残念だが、それは期待していない。短期投資家にとっては理論的な背景や会計基準の改善の方向性などはどうでも良い話だからだ。そもそも、短期投資家の弊害は、会計基準で改善できる問題ではない。

 

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*1 Oxford Report IFRS批判
金融商品取引法第1条に「…国民経済の健全な発展及び投資者の保護に資することを目的とする」とあるので、同法に基づく企業開示制度で利用される会計基準が“投資家のための会計”を目的にしていても違和感はない。ここで問題なのは「IFRSは、“短期”の投資家のための会計で、長期投資家やその他の長期的関係を持つ利害関係者にとって有用でない、むしろ、有害だ」という主張があることだ。

Oxford Report は企業会計審議会の議論に付すために金融庁がOxford大学教授に依頼して作成させた論文で、下記の記事に始まるシリーズ(記事数は9本)で取り上げた。但し、作者への不信感が抑えきれずに途中で中止した(その上、金融庁や企業会計審議会への不信感も同様に高まった)。

 

145 2012/08/03 Oxford Report】この「序」の意味するところは?

 

この論文の“短期投資家のための会計”に関連するIFRS批判について、誤解を恐れず概略を記載すると、「IFRSは原則主義と公正価値会計により、情報を瞬時に自動的に売買発注(=プログラム売買)するファンドのような超短期志向の投資家に都合の良い会計基準になっており、健全な投資家の投資活動を阻害している。しかし、IASBIFRSが資本市場を効率化し、かつ、幅広い利害関係者に役立つと強弁している」という。

 

この主張に直接関連しそうなところを、ざっと抜き出すと、以下のようなものがある。

 

P4 

一般にIFRS 推進派の主張する「投資家のために有用な会計情報を提供することが、効率的な証券市場を構築するうえで必要不可欠である」という論理やレトリックに対しては、注意深く洗練された投資家と多くの日本企業から強い懸念とその証拠が提示されている。原則主義と公正価値による世界統一会計基準のもとでは財務諸表の透明性と比較可能性は低下すると考えられている。

 

この文章はサマリーの一部。“注意深く洗練された投資家”に対して、“短期投資家”とは、公開情報をコンピュータを使って瞬時に分析し自動的に株式売買が発注されるようなファンド(下記P42)や、財務報告をよく読まずに一株あたり利益などの財務指標だけで売買する個人投資家などが想定されている。

 

原則主義と公正価値会計は、具体的な手続きを定めず企業の見積りに依存しているため、本当は企業ごとに処理が異なり、比較可能性はむしろ低下している。にもかかわらず、IASBは比較可能性が高まり効率的と宣伝しているが、それは実態を伴わなない単なるレトリックに過ぎない。本当は違うものなのを、同じものとして扱っても支障がないのは、財務情報を単に取引のきっかけとしか思わない短期投資家のみ。

 

“注意深く洗練された投資家”は、じっくり時間をかけて分析するので、会計基準が国ごとに多少異なっても問題ない。その上、非財務情報や経済環境要因などに意思決定の多くが依存するので、コストをかけて世界統一の会計基準を作る必要もない。株主や債権者などの企業と長期的な関係を持つ利害関係者は、こちらのタイプに近い。

 

P42

一般に「投資(家)」として一括りにされているものの中には高頻度トレーディング、アルゴリズム取引、ソーシャル・ネットワーク・ファンドようなものも含まれる。多種多様でいち早く投資決定のできる環境を「効率的な市場」として、あたかもそれが経済社会厚生を増進するかのよう議論されることがあるが、これは検討に値する。インタビューによれば、企業のみならず、証券市場運営者や政府官僚も、適格な投資家や株主のクラス(多様性)というものを考え、それに合った会計・財務報告というものを考案するに値するということに気が付くが、そうした議論は今まで積極的に展開されていない。

 

P62

一般にはIFRS の目的は「投資家が株式等を購入、売却または保有するかどうかを意思決定するにあたって、有用な情報を提供すること」と解釈されているからであり、これは近年の多くの会計学者に共通の理解である。・・・「概念フレームワークでは、財務報告基準は、第一義的には財務情報の作成者である企業や経営者のためにあるのではなく、投資家などの財務情報の利用者のためにあるとの観点に立って、財務報告の目的を定めていますので、このような目的を踏まえて作成されるIFRS は、『投資家のことを最優先で考えた』基準となる傾向があります。・・・」

 

P74

…多くのステークホールダーの犠牲の上に特定のステークホールダーの便益が優先される政治経済的な行動に注意が向けられている。こうした観点から過去10 余年にわたるIASB によるグローバル・スタンダダイゼーションを見直してみると、「投資家」という特定のステークホールダーのために(あるいは少なくともそのレトリックのもとに)、財務諸表作成者(企業)を含む他のステークホールダーの便益が、あまりにもないがしろにされるような政治的手法がとられてきた可能性がないか、検討に値する。

 

P100

数値を見ていち早く投資意思決定が出来る(または見ずともコンピューターが機械的に処理できる)会計と、企業の実態を深く分析させて効率的な投資判断をさせる会計とは異なりうる。IFRS が作り上げている新しい資本市場は、理論が想定していたような効率的な市場ではないかもしれない。

 

*2 例えば、次のような記事が典型だ。

 

株式市場の構造変化を映す超乱高下 日経電子版 8/25 無料記事

 

豊島逸夫氏のコラム。僕が最も楽しみにしているコラムの一つ。みなさんはご記憶にあるかどうかわからないが、8/24(月)の夜に、突然ドル円相場が120円台から116円台まで急落した(=急激に円高が進んだ)。その時のことについて、豊島氏は次のように表現している。

 

特段のニュースがあったわけでもない。しかし、116円をつければ、それが既成事実となり、そこから新たなレンジが形成されてゆく。このような効率性を追求した結果の市場の構造変化が果たして健全といえるだろうか。

・・・

米国で高速度取引規制論が生じるのも当然と思ってしまう。

 

2015年10月23日 (金曜日)

522【CF4-04】受託責任〜一般財務報告の目的と利用者のミスマッチ

2015/10/23

みなさんは、“大学文系不要論”というのをご存知だろうか。恐らく、「もちろんだよ」という方がほとんどだと思うが、僕はなんとなく耳にしていたものの、ちゃんと向き合ったのは、下記の記事が初めてだった。

 

「大学文系不要論」炎上に見る文科省の悪しきビジネスモラル DIAMOND online 10/20

 

6月に発せられた文部科学省の通知に端を発した騒動が、9月には経団連の反対声明にまで発展した。文科省・文科大臣の対応について、この筆者が民間企業で体験した実例を示して批判している。

 

私立文系の僕としては、この通知が国立大学へ発せられたものだとしても、ちょっと刺激的だ。他にもいくつかネットで読んでみたが、いずれも、“大学文系不要論”という単語か、この通知のある一部*1を抜き出して批判していた。

 

しかし、通知文全体ではどうなのだろう? この一文は全体の中でどういう位置付けなのか。そもそも、この通知はどういう経緯で正当化され、何を目的としているのだろう? これは話がでかそうだ。大学のあり方は、恐らく、社会の将来に大きな影響を与える。この記事のつかみで簡単に扱えるテーマではない。

 

直感的には「実用から離れたものこそ、最も革新的」、「日本に足りないのは革新性(と国際性)」と思うから、文系が実用的でないというなら(最も革新的かもしれないので)、なくすのではなく梃入れ・強化した方が良いかもしれない、と思う。ただ、これは“大学文系不要論”といった単語や通知の一文だけから連想された狭い考えであり、やはりもっと広く、そもそも何故こんな通知が必要になったか、文科省は何をやろうとしてるのかを理解する必要がある。そうすれば、「なるほど」と思うかもしれないし、さらには「文系だけでなく理系もそうしなきゃ」と思うかもしれない。

 

つまり、全体の目的を理解せずに枝葉を議論できない。

 

 

というわけで、“目的”が重要なのだ。概念フレームワークのED(=公開草案)についても、目的に関連した質問項目を素通りするわけにいかない。前回(521-10/20)の欄外に脚注した“質問1”の“経営者の受託責任の記述強化”がこれに当たる。これで、“一般財務報告の目的”という会計の根幹部分の記載が、あちこち直されている。いったい、何故直されたのか。そして、どんな影響がありそうか。

 

EDの結論の根拠に、見直しの経緯があるので要約してみよう。

 

きっかけ:2013年のディスカッション・ペーパー(以下“DP”と記載)へのコメント

 

IASBとしては、せっかくFASBと共有している“一般財務報告の目的”を直すつもりはなかったが、多くのコメント提供者が、以下の2点で再検討が必要と回答した(BC1.2)。

 

・“受託責任”の記述の強化( このEDで変更を提案している)

・“主要な利用者”の変更 ( このEDでは変更を予定していない)

 

IASBは、前者についてはUS-GAAPと異なる概念フレームワークになるという犠牲を払っても、文言を修正した方が良いと判断したが、後者については修正が必要ないと判断した。その理由は、後者についてのコメントは、すでにIASBが検討済みの内容だったから(BC1.13)等の理由を挙げている。結局、前者についてのみ、このEDで修正を提案した。

 

“受託責任(=stewardship)”の記述を強化する理由:誤解の解消

 

IASBは、修正提案に至った理由を結論の根拠のBC1.6BC1.10までの5つの段落に、かなり長文の説明を載せている。それを読むと、次のようなことが分かる。

 

・現行の概念フレームワークでは、“受託責任(=stewardship)”という単語が一般財務報告の目的の説明の中に使用されていないため、多くのコメント提供者は、「財務報告が経営者の受託責任を評価するのに役立つことをIASBが無視している」と考えていることに気づいた。

 

IASB(とFASB)は、「“stewardship”という単語の各言語への翻訳が困難ではないか」と考えて、この単語なしの説明をしていたのであって、無視はしていない。

 

・このような誤解を解消できるなら、翻訳の困難さがあってもこの単語を使って説明した方が良いと結論した。

 

・一般財務報告の目的としては、あくまで「“将来の正味キャッシュ・インフローについての企業の見通し”を評価するのに役立つ」ことがメインの目的であり、「経営者の受託責任の評価に役立つ」ことは、これと同等ではないとIASBは考えている。

 

見直しの影響(僕の感想):なし

 

誤解の解消をしただけであれば、実質的な内容が変わるわけではないので、この変更が他へ波及する可能性は低そうだ。

 

以上が、僕がEDの結論の根拠から読み取ったことだが、実際に、変更提案はこの通りだろうか。こっそり、意味が変わったりしてないだろうか。「ちょっと疑いすぎ」と思われるかもしれないが、この観点で、EDの該当部分を読んでみよう。

 

実は、変更箇所はけっこう多い。ここに一つ一つ挙げて検討することはしないが、僕が受けた印象を書くと次のようになる。

 

受託責任の記述は、確かに強化されている。

 

確かに、メインの目的は「将来キャッシュフローの企業見通しの評価に役立つ」ことかもしれないが、「経営者の受託責任の評価に役立つ」ことも、それに比肩するぐらい重要と感じられるようになった。

 

例えば、現行フレームワークでは「経営者の受託責任の評価は、将来キャッシュフローについての企業見通しに信頼性を与える」という形で財務報告の利用者に消費されるイメージだった。即ち、あくまで財務報告の最終目的は「企業の見通しの評価」に役立つことだった。

 

しかし、EDでは、経営者の受託責任の評価はそのまま利用者に最終消費されるイメージもある。例えば、経営者の受託責任の評価に問題がなければ、「経営者報酬の株主総会決議に賛成しよう」とか、「債権の与信レベルを上げよう」などと。

 

この見直しの影響について、上には“なし”と記載したが、“受託責任”の重みが増したことで、少し変化があるかもしれない。現行は、財務報告の利用者に“投資家”が強くイメージされていたが、EDは、受託責任の記述を強化することで、利用者をもっと幅広くイメージできるようになったように思う。

 

現行の概念フレームワークは、文言としては財務報告の利用者を幅広く設定しているが、財務報告の目的は主に投資家をイメージしていた。要するに、利用者と目的にミスマッチがあった。EDでは、これが少し改善されたかもしれない。

 

もしかしたら、これは「IFRSは短期投資家のための会計だ」という批判をかわす狙いがあるかもしれない。投資家どころか、株主や銀行、取引先といった企業と長期的な関係を持つ利用者を、ちゃんと想定してますよ、という含意を込めた可能性があるように思う。

 

 

🍁ー・ー🍁ー・ー

*1 文科省の通知のある部分とは次の通り。

 

(1)「ミッションの再定義」を踏まえた組織の見直し

「ミッションの再定義」で明らかにされた各大学の強み・特色・社会的役割を踏まえた速やかな組織改革に努めることとする。

特に教員養成系学部・大学院、人文社会科学系学部・大学院については、18歳人口の減少や人材需要、教育研究水準の確保、国立大学としての役割等を踏まえた組織見直し計画を策定し、組織の廃止や社会的要請の高い分野への転換に積極的に取り組むよう努めることとする。

国立大学法人等の組織及び業務全般の見直しについて(通知)(平成27年6月8日)の別添1の3ページ

2015年10月20日 (火曜日)

521【CF4-03】公開草案の質問項目の概要

 

 

2015/10/20

ついにその日が来た。なにが? 清水エスパルスJ2降格、悲劇の日だ。

 

驚きはない。すでにキャンプ終了時の選手たちのTVインタビューを聞いて、「キャンプは失敗したか?」と疑念を抱いていたので、春先から心の準備はできている。リーグ初戦の鹿島戦の勝利以外は、この疑念を確信に変えるプロセスでしかなかった。

 

僕の考えでは、一番大きな問題は判断を避け続けた株主やフロントにある。しかし、「じゃあどうすれば良いのか」と問われると、なにも答えはない。「ん〜、マンUを勇退して悠々自適のファーガソン氏に…」になどと、妄想話しか浮かばない。ああ、悲劇は終わったのではなく、これから始まるのだ。

 

しかし、エスパルスはエスパルスだ。来季(J2で)も、絶対楽しんでやる。応援するぞ!

 

 

ということで、とりあえず、今の楽しみに集中しよう。今回は、概念フレームワークの公開草案(以下、EDと記載する)の質問項目にざっと目を通し、どれに焦点を当てるか考えてみたい。

 

質問項目は18個もある(但し、最後の一つは「他に何かありますか?」という質問だし、質問15は現行フレームワークからの移行手続に関するものなので、実質は16個)。それらを、このEDの質問セクションの記載やディスカッション・ペーパーを検討した時の記憶などを頼りに、ざっと(勝手に)分類してみよう。次の3つにできると思う*1

 

  1. 会計の基礎概念(目的や前提)

 

ここには、6つの質問を分類した(詳細は欄外*1を参照のこと)。主な内容は、財務情報の質的特性(=企業会計原則の一般原則のようなもの)に関すること、資産などの財務諸表の構成要素の定義、報告企業や連結範囲、財務報告の目的に関することなど。

 

これらは、仕訳を起こしたり財務諸表を読むなど具体的に会計に接するときに、(本来は)知っておきたい会計の基礎概念だ。

 

今回特徴は、資産等の定義が変わったことだと思うが、“現在の義務”に関するガイダンスが追加されたことも面白いかもしれない。加えて、報告企業についての記載は、連結財務諸表の持分に関する2つの考え方(=“親会社説”と“経済的単一説”)に決着をつけるものかもしれないので、これも興味がある。

 

  1. 会計の基本原則(認識・測定)

 

認識は、どういう状況になったら仕訳をするか(=B/Sなどに載せるタイミング)、測定は、いくらで載せるかを決める原則だ。この2つの原則で、概ね伝票が起票できる状態になる(細かくは、科目や摘要欄をどうするかが残る。科目は個別基準で扱われ、摘要欄は各社の状況による)。

 

ここで僕が注目したいのは、認識規準が資産等のF/S公正要素の定義と直結したらしいこと、測定規準で取得原価が使用される場合と公正価値等の現在価額が使用される場合を決定する要素が記載されたらしいことだ。

 

そのほか、いわゆる“重要性”についてより詳しい説明がなされると予想している。ディスカッション・ペーパー等の記載から、“重要性”は、目的適合性が乏しいことを意味する場合と、コスト制約に関連する場合が明確に区別されるようになると予想している。

 

  1. 業績報告…包括利益と純利益

 

これは、このブログでも紹介したように*2IASBの諮問機関であるASAF(=会計基準アドバイザリー・フォーラム)で、ASBJFASBが非常に創造的で美しい議論を展開した項目だ。ディスカッション・ペーパーでは、中途半端な扱い・内容だったが、その後の議論で非常に大きなテーマへと扱いが変わったことがうかがえる。ASBJの貢献大だ。

 

今や、監査人ではなく投資家の僕にとっては、とても実用的なテーマでもある。これには強い関心を持たざるを得ない。

 

注目点を色々挙げたが、このシリーズですべてを扱おうと欲張ると、前々回シリーズのような失敗をする可能性がある。したがって、さらにポイントを絞りつつ、先を進めていきたい。

 

 

ん〜、最後に、エスパルスについて一言だけ。もう、来季の体制作りを始めてるだろうか。まずはフロントから、寄せの速さと球際の強さを見せて欲しい。11月中に新体制にならないと、来季もきついかも。(T . T)

 

 

🍁ー・ー🍁ー・ー

*1 EDの冒頭に記載されている18の質問項目を、僕は便宜的に3つに分類したが、その詳細は以下のとおり。但し、簡略化しているので、正確な記述は原本を当たっていただきたい。

 

  1. 会計の基礎概念(目的や前提)

 

僕はここに下記の質問1〜5、及び11を入れる。これらは、仕訳など具体的な会計処理を行う前に、或いは、財務諸表を読む前に、(本来は)確認しておきたい概念だ。

 

質問1:第1章及び第2章の変更案

経営者の受託責任の記述強化、慎重性への言及、忠実な表現の記述強化、目的適合性と測定の不確実性の間のトレードオフ関係の明確化、などを変更。

 

このような記述、変更内容で良いか。

 

質問2:報告企業の境界

報告企業とは何かや、非連結財務諸表(=個別財務諸表)と連結財務諸表の違いを説明した。(よくある“財務諸表の合算と連結相殺消去”みたいな会計手続からの説明ではなく、その財務諸表が何を表すかという経済的観点からの説明になっている。)

 

このような記述で良いか。

 

質問3:構成要素の定義

資産・負債・持分・収益・費用の定義

 

ディスカッション・ペーパーの案が採用されている。即ち、不確実性を考慮した「〜する可能性が高い」などといった語句が削除され、“経済的資源”を軸とした表現になっている。

 

このような表現で良いか。

 

質問4:現在の義務

“現在の義務”の定義やガイダンス

 

法律上の確定した義務だけでなく、一定の事象の発生やオプション行使によって生じる条件付のものや法的強制力がない推定的義務の一部についても、以下の両方を満たすものは“現在の義務”に含める。

・企業が回避する実際上の能力を持たない。

・過去の事象から生じている(すでに対の権利を取得した)

 

このような扱いで良いか。

 

質問5:構成要素のその他のガイダンスの改定

公正要素の定義に関する上記以外のガイダンス、未履行契約・契約上の権利及び契約上の義務の実質の報告・会計単位に関するガイダンスの記述について、良いか。

 

質問11:財務諸表の目的及び範囲並びに伝達

EDでは、この項目が下記「3.業績報告…包括損益と純損益」に記載した各質問項目と同じ第7章「表示及び開示」で扱われている(第7章はEDで新しく追加された章)。ただ、ここでは“基礎概念”と考えて、「1.会計の基礎概念」に括る。

 

この第7章では、従来の概念フレームワークにもあった一般目的財務諸表の目的を冒頭に再掲した上で(7.2)、新たに、財務諸表の表示科目の分類・集約や注記(将来予測的な情報を含む)等をIASBが個別基準で設定する際の考え方が追加された。

 

このような考え方で良いか。

 

  1. 会計の基本原則(認識・測定)

 

個々の仕訳に直接影響する基本的な原則は認識原則と測定原則だと思う。それに関する質問は下記の6〜10に関するものになる。

 

質問6:認識規準

新しい認識規準は以下の特徴を持つようだ。

・資産や負債の定義と直接リンクしたアプローチ

・目的適合性・忠実な表現という質的特性を要件に持つ

・情報の便益が“提供コスト”を上回るという要件を持つ(=コスト制約)

・これらを補強する、不確実性・蓋然性・便益とコストに関するガイダンス

 

これらについて良いかどうか。

 

質問7:認識の中止

認識の中止とは、資産や負債をB/Sから外すこと。取引の一部ではなく、全体像から判断することが求められているようだ。取引や契約条件の細部に囚われると、目的適合性や忠実な表現が実現されないようなことになりかねない。

 

これらについて良いかどうか。

 

質問8:測定基礎

第6章の測定基礎では、F/Sへ載せるときに歴史的原価(取得原価、償却原価)や、現在価額(=公正価値、 資産の使用価値 or 負債の履行価値)に関する説明をしている。

 

これらの説明で良いかどうか。

 

質問9:測定基礎を選択するときに考慮すべき要因

資産・負債・収益・費用について、測定基礎の選択に考慮すべき要因を説明している。それらの要因の相対的な重要性は、それぞれの事実や状況で決まる。コスト制約も加味される。一部は注記の数値にも当てはまる。当初測定と事後測定で使用される測定基礎は、対で決められる。このほか、以下の要因がある。

・目的適合性や忠実な表現といった基本的な質的特性

・比較可能性・検証可能性・理解可能性といった補強的質的特性

・当初測定時に固有の状況(取得取引の様態)

 

考慮すべき諸要因が正しいかどうか。

 

質問10:複数の目的適合性のある測定基礎

歴史的原価でも、現在価額でも、目的適合性のある情報となる場合にどうするか。B/Sでは期末日現在の現在価額が目的適合性があるが、P/Lでは歴史的原価の方が目的適合性があるようなケースのことだ。これは、下記の「3.業績報告…包括利益と純利益」にも関連する問題だ。

 

原則として、B/SP/Lには同じ測定基礎を使用し、(必要があれば)他の測定基礎を使用した情報を注記で開示する。

 

しかし、事業活動の性質や資産・負債の特性によって、B/Sでは現在価額を付し、P/Lではそれと異なる測定基礎を使用した方が、目的適合性が高まることがある。その場合に生じる両者の差額の損益は、その他の包括損益(=OCI)へ計上される。

 

このような考え方で良いかどうか。

 

  1. 業績報告…包括利益と純利益

 

純利益とその他包括利益の区別は、IASBが場当たり的に決めてきたのではないかと批判のあるところ。より本質的には、何が財務業績か、という議論があるが、IASBは、このEDにおいても、はっきりと決着をつけていない。結局、ASBJFASBの問題提起*2は、すっきり解決できたわけではなさそうだ。

 

質問12:純損益計算書の記述

概念フレームワークでは、純損益と包括損益が2つの計算書になるべきか、1つになるべきかは記述しない。ただ、少なくとも純損益の表示が必要とだけ記述される。かつ、純損益の定義は行わず、ただ「純損益計算に含まれる収益及び費用は、企業の当期の財務業績に関する情報の主要な源泉である」とだけ記述する。

 

これ良いかどうか。

 

質問13:収益又は費用の項目のその他の包括利益での報告

IASBは、以下に該当する収益又は費用について、その他の包括利益(=OCI)に計上することを要求できる。

(a) 現在価額で測定される資産・負債に関する収益又は費用で、

(b) 純損益よりOCIへ計上した方が、純損益の目的適合性が高まる。

 

これで良いかどうか。

 

質問14:リサイクリング

一旦OCIへ計上した収益及び費用でも、将来の期間に純損益へ振替えた方が純損益の目的適合性を高める場合は、リサイクリングを行う。但し、例えば、どの期間にリサイクリングすることが適当か明確な基礎がないような場合は、IASBはリサイクリングしないとするかもしれない(退職給付債務の数理計算上の差異などが想定されていると思われる)。

 

このような扱いで良いか。

 

質問16:事業活動

概念フレームワークに“事業活動”や“事業モデル”について記載してない。これらがすでに様々な意味で利用されており、会計単位・測定・表示及び開示などの面で、経営者の意図が紛れ込む可能性もあるから(=必要な場合に個別基準で設定する)。

 

このような扱いで良いか。

 

質問17:長期投資

IASBは以下の主張について検討を行った。

・企業が長期投資を行う一定の事業活動や事業モデルには、歴史的原価や使用価値を適用すべき。現在価額を使用する場合でも、歴史的原価との差額はOCIに計上すべき。

・長期投資家と短期投資家の財務報告へのニーズは異なり、IASBは短期投資家のニーズに重きを置きすぎている(=公正価値のような市場価格ベースの情報を多用しすぎている)。

 

いずれの主張に対しても却下した。前者は概念フレームワークで扱う問題ではないとし、後者は特定のタイプの投資家のニーズに偏っていることはなく、透明性の高い財務報告を要求しているだけだとしている。

 

このような扱いで良いか。

 

  1. その他

 

下記2つの質問は、上記のいずれにも含めなかった。

 

質問15:「概念フレームワーク」の変更案の影響

このEDは現行のIFRSの個別基準や解釈指針と不整合なものがある。この解消について、概ね、次のように提案している。

・個別基準の改定は、(直ちには行わず)IASBのデュー・プロセスに従って行う(=他の課題と合わせて優先順位を決めて対処する)。

・解釈指針の改定は解釈指針委員会が気づいた都度検討を行う。

・企業が現行概念フレームワークに基づいて設定した会計方針を、改定概念フレームワークに合わせて会計方針の変更を行う場合は、会計方針の変更として扱う(=原則として、遡求調整する。但し、IASBは改定概念フレームワークの公表と企業の適用日の間に18ヶ月間の間をおく)。

 

このような扱いで良いか。

 

質問18:その他のコメント

上記以外に何かコメントがあるか、という質問。

 

 

*2 以下で取り上げた。

 

380.CF-DP61)純損益とOCIASBJペーパーとFASBペーパー 2014/7/29

384.CF-DP61)純損益とOCIASBJペーパー2014/8/8

387.CF-DP62)純損益とOCIFASBペーパー2014/8/20

 

2015年10月16日 (金曜日)

520.【CF4−02】気になる背景

2015/10/16

秋分の日から、もう、3週間が経った。日が落ちるのが早いせいか、妙に感傷的な気分になる。

 

先日、僕の馴染みのファミレス(そこで、このブログをよく書いている)で、可愛らしいお嬢さんからご挨拶をいただいた。「実は、今日が最後なんです。このバイトをやめます。」と、伏し目がちに。彼女は薬学部の学生で、来春、薬剤師試験を受験する。試験勉強に集中するのだ。「最後にお話ができてよかったです。」と、今度は僕の目を覗き込むように。

 

同様の境遇の学生は過去に何人もいたが、こんな挨拶をされたのは初めてだ(異動する店長から挨拶されたことはある。但し、目を覗き込まれはしなかったが)。みなさんも、不思議に思われるだろう。アルバイトからわざわざお別れの挨拶をされるなんて。

 

実は、これには訳がある。背景説明が必要だ。

 

う〜む、背景説明は重要だ。もし、背景説明がないと、唐突で、実感がわかず、そして、現実味のない話になってしまう。概念フレームワークの場合も同様だ。公開草案の中身だけ見るのと、その背景を知って見るのでは、大きく印象が異なってくるに違いない。

 

 

ということで、今回は、公開草案の冒頭や結論の根拠、その他に記載されている、この公開草案公表に至る経緯などを簡単に振り返ってみたい。

 

(始まり-国際会計基準委員会時代)

最初は、「財務諸表の作成及び表示に関するフレームワーク*1」として、1989年、国際会計基準委員会(=IASCIASBの前身)によって開発・公表された。

 

FASBとの共同プロジェクト時代)

2004年に開始したFASBとの共同プロジェクトによって2010/9に改定し、「財務報告に関するフレームワーク*2」と改名もし(=現行の概念フレームワーク)。改定箇所は、一般財務報告の目的(第1章)、及び、有用な財務情報の質的特性(第3章)で、このブログでは、1989年版が残った部分も含めて最初のシリーズ(2011/11/1〜)で扱った。

 

ご存知の方も多いと思うが、現行の概念フレームワークの目次を見ると、目次のみで中身が未完成な項目がある。実は、開発フェーズが段階的に8つ予定されていて、この時点で、1つしか完了していなかった(もう一つ、報告企業に関するフェーズが2010/3に公開草案の公表まで進んだが、そこで中断)。

 

IASB単独時代)

アジェンダ協議2011で、IASBが自ら優先順位を下げていた概念フレームワークへの要望が意外と多いことが分かり、プロジェクトを急遽再開。上記の段階的なアプローチを止めて、2013/7に広範な内容のディスカッション・ペーパーを公表し、意見を募った。このブログでは、2013/10/7〜のシリーズとして扱った。その結果を受けて、今回の公開草案の公表となった。

 

なお、IASBは、このプロジェクトにおいて、ASAF(=会計基準アドバイザリー・フォーラム)を協議グループとしており、そのASAFのメンバーであるFASBASBJを含む世界の主要な会計基準設定主体からインプットを受けている。

 

以上は、事実の羅列で面白くないと感じられた方も多いと思う。そこで、それぞれの時代の特徴を、僕の独断と偏見で述べてみたい。

 

(始まり-国際会計基準委員会時代)

1989年というと、(IASBの前身の)IASCIOSCO(=証券監督者国際機構)から尻を叩かれ始めた時期だ*3IOSCOIASCへ要求したのは、会計処理の統一(=複数の代替的会計処理を容認することをやめて、比較可能性を高めること)と、金融商品や減損など不足している分野の会計基準開発だった。

 

したがって、この当時のフレームワークは、会計の根本概念を整理することで、それまで容認されていた代替的会計処理の統一や、未開発分野の会計基準開発の方向性を検討する上で、重要な役割を果たすことが期待されたことが想像できる。

 

2000/5月、IOSCOは、IASの30の基準を財務諸表の作成・表示の基礎となるコア・スタンダードとして承認し、外国企業にIAS使用を認めるようメンバー各国の規制組織へ勧告した。これが一応の区切りとなり、2001/4月からIASCIASBへ改組し、国際会計基準(=IAS)は国際財務報告基準(=IFRS)と呼ばれるようになった。IASBの使命は、国内企業が使用する会計基準(=各国の会計基準)をIFRSへコンバージェンス(=収斂)させることだ。2005年には、EUIFRSを採用した*4

 

FASBとの共同プロジェクト時代)

2010概念フレームワークには、US-GAAPとのコンバージェンスの基礎となることが期待されていたと思う。IASBにとって、会計先進国の先頭を走る米国を取込むことは、夢のまた夢だったに違いない。それが実現するかに思えた時期だった。IFRSが、本当に、世界統一の会計基準となることが具体的に想像できた時代に、2010概念フレームワークは開発された。

 

改定された一般財務報告の目的(第1章)、及び、有用な財務情報の質的特性(第3章)は、8つの開発フェーズの第1段階に過ぎないが、しかし、会計の最も根本部分を扱っていると思う。IASBFASBの本気度が伺える。しかし、具体的な会計基準に結びつきやすい、したがって意見がバラつきやすい測定や認識の中止などについては先送りされた。まずは、合意しやすいところで合意する、という様子も垣間見える。

 

しかし、みなさんもご存知の通り、両基準のコンバージェンス・プロジェクトは、このあと、中断してしまった。

 

IASB単独時代)

そして、今回の公開草案。IASBFASBは喧嘩別れというわけでもない(FASBASAFには参加している)が、「同じ場所へ行く目標はなくなった*5」としている。大人の別れだ。両ボードが互いの会計基準のコンバージェンスに区切りをつけたのちに、IASBは、このプロジェクトを再開させ、ディスカッション・ペーパーと公開草案が公表された。

 

段階的アプローチを止めて広範な改定となったのは、上述したようにアジェンダ協議2011とも関連するが、FASBとの綿密な調整が不要になったことが大きいと思われる。この方針は、ディスカッション・ペーパーの回答でも、一応、支持されたようだ(公開草案BCIN.16)。

 

この結果、概念フレームワークの開発は、FASBとの共同プロジェクト時代に比べると、格段にスピードを上げたことになる。

 

このように3つのフレームワークには、それぞれの時代背景からくる目的がある。最初はIOSCOの要求に応えるため、次にFASBと共通の枠組みを持ってUS-GAAPとの調和を図るため。では今回は?

 

今回は、初めて外部からの要求ではなく、自らの必要性で開発されるフレームワークになった。IASBは、IFRSのグローバル・スタンダードとしての位置付けに自信を深めるとともに、その責任を強く自覚し、基準開発のスピードを上げようとしているのではないか。そのために、概念フレームワークはこれまで以上にIASBに活用され、基準開発に大きな影響を与えていくと思われる。

 

したがって、概念フレームワークは、ますます基準開発における重要性を増してくる、というのが僕の予想だ。

 

今回の公開草案の“はじめに”の記載ぶりは、概念フレームワークが「IASBの、IASBによる、IASBのための」ものであるとの印象が強かった。現行のフレームワークではこの部分が、色々な関係者に役立つもの、即ち、「みんなのもの」のように記載されている。僕は、この変化が「IASBが概念フレームワークを使い倒そう、そして、基準開発をスピードアップさせよう」としている証拠のように思えるのだ。

 

 

ところで、冒頭の女子大生の件だが、みなさんは背景説明を知りたいだろうか。もし、このまま何も書かずに終われば、みなさんには次のようなイメージが残るに違いない。

 

「(IASBFASBのように)お互いの調和を図ろうとしたが、結局、それぞれの道を歩むことにした。お互いの健闘を祈り合いながら。」

 

美しい。文章構造的には、概念フレームワークの背景に絡んだ美しい展開となる。しかも、落ち葉舞う分かれ道、秋のイメージも感じられて、内容的にも美しい。但し、みなさんから、僕が“色ボケおやじ”と思われる可能性がある。相手は娘ぐらいの年齢なのだから。“妄想会計士”というご批判なら甘んじて受けるが、“色ボケ”はちょっと…

 

だが、事実を明かすと、みなさんをがっかりさせてしまうかもしれない。概念フレームワークには背景説明が必要と思ったが、こちらは、敢えて、省かせていただこう。

 

 

🍁ー・ー🍁ー・ー

*1 英語:The Framework for the Preparation and Presentation of Financial Statements

 

*2 英語:The Conceptual Framework for Financial Reporting

 

*3 下記のJICPAのホームページによると、IOSCOは1987/9からIASCの諮問グループへ参加し、1988/11には、IASCの活動を支持するとの声明文を公表した。

 

第2章 国際財務報告基準(IFRS)への収斂の国際的動向 01

 

それまで“夢”でしかなかった国際会計基準が、ここで一挙に実現性を帯び、脚光を浴びた。IASCにとっては、「頑張れば、各国の証券取引監督機関が承認しますよ」と、鼻先にニンジンをぶら下げられた格好になった。

 

*4 これは、*3の次のページに記載されている。

 

*5 これは、元FASB議長 Robert H. Herz 氏が講演で述べた言葉。詳しくは下記をご覧いただきたい。

 

422.【米FASB】同じ場所へ行く目標はなくなった 2014/12/9

 

 

 

2015年10月13日 (火曜日)

519.【CF4−01】概念フレームワーク公開草案(2015/05公表)のシリーズをスタート

 

2015/10/13

最近、良いニュースが続いている。ノーベル賞は、生理学・医学賞の大村智氏に続き、梶田隆章氏の物理学賞の受賞が公表された。サッカー日本代表はシリア戦に勝利し、W杯二次予選E組首位となった。ラグビーW杯は、決勝リーグ進出は叶わなかったが、南アフリカに勝利するという大金星・快挙は素晴らしかったし、サモアやアメリカにも勝って3勝を上げた。

 

逆に怖い。何か悪いことが隠れてるんじゃないか? それも最悪な奴が。

 

そういえば、清水エスパルスは次節にもJ2陥落が決まる可能性がある。確かに僕にとっては目眩のするような想像を絶する悪いことだ。しかし、最悪、J2でもエスパルスはエスパルスで、チームがなくなるわけじゃない。それに、僕にとっては最悪でも、多くの方にはあまり関係ない。

 

株価は、中国ショックで7月から低迷している。先月もブレイブ・ブロッサムズ(=ラグビー日本代表)がスコットランドに負けた翌週、ど〜んと下げて一時17,000円を割った。これも最悪だ。しかし、サモア戦への期待が膨らむとともに底堅く推移し、サモア戦に勝利し、アメリカ戦の直前までに9%も上昇した。このところ、株価はブレイブ・ブロッサムズとの連動を強めているようだ。2019年は日本でW杯が開催され、ブレイブ・ブロッサムズのW杯出場は確定している。すると、株価も2019年まで上がり基調かもしれない。

 

となると、隠れてる最悪なこととはなにか? もしかしたら、これかもしれない。

 

このブログは、また、概念フレームワークのシリーズを始める。

 

概念フレームワークは、日本の企業会計原則の一般原則を難解にしたようなもので、抽象的・純理論的な話になりがちだ。多くの方には退屈に思えるかもしれない。また、過去のこのシリーズは、1回目(主に、財務情報の質的特徴 。2011/11/1〜)は比較的好評だったようだが、2回目(2013ディスカッション・ペーパー。2013/10/7〜)、3回目(企業会計原則の一般原則と無理やり比較。2014/9/25〜)は不評だったようだ*1。特に、2回目をご記憶のみなさんのなかには「もう、怪談の季節は終わったのに、ゾッとする」と、首をすくめている方もいらっしゃると思う。

 

しかし、IFRSを、単なる“技術”ではなく“道として極める”ためには、概念フレームワークを避けて通れない。道として極めてこそ、役に立つ。むしろ、細かい技術は“記憶力お化け”か“物知り博士”に任せておけば良い。僕としては、幹をしっかり作りたいのだ。

 

今回検討の対象にするのは、5月に公表された公開草案*2。内容を逐一読むのは確定版になってからにして、今回は、質問事項からいくつか大切そうなものを選んで掘り下げたい。(一応、ディスカッション・ペーパーを全部読もうとして失敗した2回目の反省を踏まえているつもり。)

 

 

さて、本当に“最悪”といえば、やはり、テロ集団とそれが引起こす難民問題だと思う。定番の欧米とロシアの対立が問題を複雑にしているが、仮に、この両者が協力できたとしても、解決は簡単ではない。

 

第一、テロ集団はパソコンのウィルスのように神出鬼没だし、感染すると除去が難しい。ハード・ディスクを初期化して、すべてのソフトを再インストールするような簡単な再起動の方法はない。

 

ノーベル平和賞が、「チュニジアン・ナショナル・ダイアログ・カルテット」に贈られた*3のは、チュニジアがこのような事態に陥るのを防いだためと言われている。非常に価値ある相応しい受賞だと思う。ただ、若者数千人がISへ参加していて出身国別で最大の勢力になっているとか、観光地でのテロで外国人が多数死傷したなど、同国の状況も、決して、安泰ではない*4。今年も、ノーベル平和賞は、過去の業績や貢献に対するものというより、将来に対する“励ましや応援”の賞になっている。

 

第二に、テロ集団とそれが引起こす難民問題は、単に欧米流の民主主義が試されているというだけでなく、気候変動が人類に影響を及ぼした結果でもある*5。実は、地球という巨大な相手が隠れた主役だ。

 

なんども書かせてもらって恐縮だが、難しい問題はより高い視点を持ち、より根本的な目的・目標へ目を向け共有することで解決可能だ。この最悪の問題も同じだと思う。果たして国際社会はそこへ到達できるだろうか。

 

 

ちなみに概念フレームワークは、会計にとって、その高い視点や根本的な目的・目標を提示するものだ。難しい問題に直面すればするほど、その理解が重要となる。やはり、避けては通れない。

 

 

🍁ー・ー🍁ー・ー

*1 概念フレームワークや、個別基準をまたがるようなIFRSの基礎概念に関しては、次のページで関連する記事のタイトルを一覧できる。

 

(A01)概念フレームワーク(資産、持分、有用な財務情報の質的特性など)

 

ちなみに、概念フレームワークの1回目、2回目、3回目のシリーズの開始記事は、次のタイトルもの。

 

053 2011/11/01 IFRSの資産~会計上の「資産」とは

 

296.【CF DP'13】「概念フレームワークのディスカッション・ペーパー」シリーズ開始2013/10/7

 

400.QC02-01】有用な財務情報の質的特性を企業会計原則の一般原則と比べてみたら?2014/9/25

 

*2 次のIASBのホーム・ページで日本語版も公開されている(下の方)。

 

Conceptual Framework Exposure Draft and Comment letters

 

日本語版は、以下のとおり。

 

公開草案: 財務報告に関する概念フレームワーク (Japanese) [PDF]

公開草案: 財務報告に関する概念フレームワーク (Basis for Conclusions) (Japanese) [PDF]

 

*3 ノーベル平和賞にチュニジア民主化貢献団体 NHK NEWSweb 10/9

 

*4 キャッチ!インサイト 「チュニジア テロの脅威、国づくりの課題」 NHK 解説委員室 5/14

 

*5 これについては、509-9/11の記事にも書いたが、シリアの内戦の直前に史上最悪の干ばつがあったという。

 

シリア内戦の原因は気候変動? 最新の研究結果 THE HUFFINGTON POST 3/4

 

 

2015年10月 9日 (金曜日)

518【税効果17】まとめ〜日本基準のゆくえ

2015/10/9

先日、渋谷から皇居手前の最高裁判所まで、青山通りを一気に歩く機会があった。お天気は申し分なく、ちょっと早足だったが、熱を持った体に当たる風は涼しかった。田舎にはない景色の連続なので、退屈もしなかった。道は、途中、赤坂見附で少しうねった以外、ほとんど真っ直ぐだった。

 

妙な考えが頭に浮かんだ。「青山通りって、税効果会計の日本基準みたいだなあ。」

 

若者文化を代表する街、渋谷。そこから、最高裁判所までのハイソで落ち着いた街道、青山通り。最高裁判所は、社会的な欲望の対立や矛盾を収める典型的な大人の世界だ。青山通りは、まるで、若者が大人の振る舞いを勉強して成長していく過程のようだ。(ただ、行き着くところが裁判所というのはいただけないが。)

 

一方、2000年の会計ビックバンで欧米の会計レベルに追いつこうと導入された金融商品会計、減損会計、退職給付会計、そして税効果会計。最初の3つは税務上の処理と著しく異なるので、税効果会計なしには導入できなかった。そういう意味で、税効果会計は日本の会計基準がグローバル基準に追いつく基盤だった。グローバル基準を“大人”とすれば、まだ幼かった当時の日本基準を一応一人前にさせたのが、税効果会計だった。

 

さて、それから十数年が経ち、グローバル社会とますます関係を深めた(一部の)日本企業は、日本の会計基準にもう一段の成長を求めている。もっと使いやすい会計基準をと。それが、今回の繰延税金資産の回収可能性に関する基準の改定へと繋がった。

 

僕は、今回のシリーズで、この公開草案をIAS12「法人所得税」と比較することで、その成長ぶりを確認したいと思ったが、ちょっと不満を持つことになった。定着している実務を大きく変更しない配慮により、従来の監査委員会報告第66号の枠組みを踏襲したことで、会社分類やスケジューリングに関する細かい規定が残ったからだ。

 

しかし一方で、公開草案のその会社分類の方法は、従来より将来思考的になり、企業が責任を持って作成した業績見通しを反映しやすくなっている。企業が将来思考的になることは戦略的になることだから、企業経営の進化であり、歓迎すべきことだ。当然、会計はそれをサポートしたり、促したりする役割が期待される。それに貢献しそうな進化を確認できた。

 

それにしても、日本基準はIAS12と違いすぎる。

 

企業に自由と責任を与え、その見積りに全面的に依拠しているように見えるIAS12に対して、日本基準は箸の上げ下ろしまでを指示している。まるで細則主義の基準だ。IFRSとのコンバージェンスやIFRSへの移行が検討されているのに、ASBJは、この差は解消するつもりがないのだろうか。

 

この疑問を解消するために、今度はUS-GAAPを見てみることにした。IFRSUS-GAAPは、かつて、熱心にコンバージェンス・プロジェクトを進めていたし、細則主義的な日本基準の将来の方向性を見るのに、細則主義のUS-GAAPが役立つと思ったからだ。

 

結果は、予想外のものとなった。US-GAAPでは、意外なことに、企業分類は要求されないし、スケジューリングも必要最小限の場合にしか要求されない。積極的証拠とか消極的証拠とか、MLTN基準といった日本基準にはない概念はあるものの、それらは抽象的なことであり、結局、繰延税金資産の回収可能性の見積りは、企業の判断に任されている。

 

結局、日本基準の規定が細かいのは、日本の税法に原因がありそうだということになった。日本の税法の、税の繰戻しや繰越欠損金の使用期限に係る規定が、繰延税金資産の回収可能性の見積りを難しくしている。米国連邦税の規定に比べると、税効果の実現が遥かに困難で不安定なのだ。そのために、日本基準は細かい規定を設けざる得ないのだろうと感じた。

 

即ち、単なる“会計基準のコンバージェンス”では越えられない壁がある。この会計基準を進化させるには、日本の税法を変えるしかない。

 

日本は、国家財政難の折、増税は議論されても減税は難しい。しかし、税効果会計の不安定さ(企業の業績が悪化すると、繰延税金資産が取り崩され、損失を大幅に拡大させる)は、経営上大きな問題であり、それに対処するため日本企業は、他国企業に比べて余分なエネルギーが必要となる。

 

消費税率を上げるために、そして法人税率を下げるために、税収を下げない工夫がされているが、そのために税効果会計は益々不安定になっていく。繰越欠損金は益々税効果の実現が不安定になっていく。結局、“法人税率の引下げ”という形式だけを求めて、企業経営の負荷を重くするというよく分からない税制改革が行われている。経済のパイを大きくするとか、経済成長率を上げる政策は、骨抜きにされたり、効果を相殺させられたりしている。

 

税の繰戻し制度や繰越欠損金制度は、企業の生涯納税額を負担能力に応じて平等にするものだが、それを制限する現行の税法は、経営が失敗した企業に冷たい制度になっている。納税負担が軽減されず、再起する資金を減らされてしまうからだ。これは個人所得税も同様で、事業や投資を失敗したり、災害や病気で思わぬ費用負担を強いられたりした個人にも冷たい。

 

経済的弱者となった企業や個人を税制上どのように扱うかについては、社会的な議論が必要かもしれないが、「払過ぎとなっている税金を取戻す(=繰戻し)権利」や、「払過ぎにならないように課税所得を調整する(=繰越欠損金による課税所得控除)権利」は、もっと大切に扱ってもらった方が良いように思う。もっと企業や個人がリスクを取りやすい社会にするために、必要な考え方ではないかと思う。

 

ということで、日本基準の一層の進化は、このような税制の社会的議論の有る無しや、そのゆくえに掛かっている。とはいえ、会計の世界からの問題提起が行われていないのは寂しい(少なくとも、僕はそのような問題提起が行われているのを知らない)。

 

 

青山通りは最高裁判所の脇で皇居にぶつかって終点を迎える。それ以上まっすぐ伸びることはない。税効果会計はどうだろうか。果たして、税法が皇居のように神聖にして犯すべからざるものなのか、それとも、その壁を越えてもう一段進化できるのか、もちろん、僕は後者となることを望んでいる。

 

ところで、青山通りには、羊羹で有名な“とらや”の本店がある*1。その有名な羊羹は少々高くて手が出なかったので、それはお土産用にして、自分用に“栗ごよみ”という季節限定の和菓子をバラで購入した。これが大正解。みなさんも、機会があったらお試し願いたい。

 

 

🍁ー・ー🍁ー・ー

*1 本社ビル建替えのため、10/7をもって約3年間休業するとのこと。

 

https://www.toraya-group.co.jp/toraya/shops/

 

2015年10月 6日 (火曜日)

517【税効果16】US-GAAP)スケジューリング②&日本の税法の課題

 

2015/10/6

昨日、ちょうどパソコンの前にいるときに、ニュース速報が通知された。また日本人がノーベル賞を取ったという(生理学・医学賞)。凄い。快挙だ。大村智という方だが、僕は知らない方だったので、急いでWikipediaを見た。するとなんと、“主な受賞歴”のところに、「2015年 - ノーベル生理学・医学賞」と記載されている。早い。驚いた。

 

このブログの歩みは遅々としているが、世の中の動きは早い。反省してみても、どうしたら改善できるか分からない。みなさんには申し訳なく思いつつ、とりあえず続きを進めるしかない。

 

 

ということで、今回は、このシリーズの前回(515-9/29)に引き続き、「US-GAAPではどのような時にスケジューリングが必要か」について、個別の規定を見ていきたい。日本基準では、会社分類が②になると、早くもスケジューリングを求められる。僕はこのシリーズの前回、「日本基準に慣れた僕の感覚では、US-GAAPの書き振りが楽観に満ちていると感じる。」と記載したが、今回こそ、皆さんにそれを感じていただけると嬉しい。

 

なお、今回、主に記載の対象となるUS-GAAPの適用ガイドの段落番号は、740-10-55-15  740-10-55-17だが、以下、段落番号は「740-10」(income tax overall)を省いて記載する(例えば、今回の記載対象は“55-15 55-17”と記載する。

 

最初に要点を書き出すと以下の通り。

 

・スケジューリングが必要とされるのは、必要最小限のケース。

 

主に、企業が繰越欠損金の期限切れを回避するために税務戦略を持っているような場合に限定される。

 

・日本基準と相違する理由は、恐らく、税法の違いが大きい。

 

特に繰越欠損金の有効期限の長さの違いや繰越欠損金を前期以前の納税額から繰り戻せる制度の存在が原因と思われる*1。特に下記“多額の将来加算一時差異がある場合(55-17)”をご覧いただきたい。

 

(ただ、それだけではなく、企業が会計上の見積りを行う姿勢の違いもあるかもしれない。508-9/8の後半や510-9/15の末尾へ記載した東芝の税効果会計への疑問、見積りが甘いのではないかという疑問がそう思わせる。)

 

では、個別の規定をざっくりと見てみよう。ただ、下記は僕の理解を記載したのであって、正確なUS-GAAPの解釈ではないことをお断り申し上げる。原文は英語で、僕は英語が苦手だ。

(なお、僕は原文の“Reversal patterns”や、動詞の“schedule”を、“スケジューリング”を表すものとして記載している。)

 

 ・スケジューリングが必要となるケース(55-15

 

a. B/Sの流動・非流動の区分を決める際に必要となるケース

 

繰延税金資産(・負債)のB/S流動・固定区分は、いつ解消されるかではなく、元となる一時差異が流動項目関連か、それとも固定項目関連かで判定される。したがって、繰越欠損金にかかる繰延税金のように、特定の資産・負債と関連しない場合にのみ、スケジューリングが必要になる。

 

b. 繰延税金資産の回収可能性を決めるケース

 

多くの場合は、スケジューリングなしで「評価性引当金の必要なし」と決定できる。“税務上の有効期限や金額”等の注記が必要とされる営業損失(≒繰越欠損金)等であっても、スケジューリングは必要とは限らない。

 

c. 測定に利用する税率の変更が予定されるケース

 

多くの場合、スケジューリングは必要ない。段階的に税率が変わる場合には、時々必要になる。

 

・将来課税所得の見積りとスケジューリング(55-16

 

MLTNベース*2で税効果を実現するに足る十分な将来課税所得を容易に見積り説明できる場合は、一時差異のスケジューリングは不要。

 

・多額の将来加算一時差異がある場合(55-17

 

より判断が容易なのは、将来減算一時差異を遥かに超える多額の将来加算一時差異がある場合(特に、将来加算一時差異の解消期間  将来減算一時差異の解消期間の場合)。例えば15年間もの有効期限*1があれば、繰越欠損金の税効果が実現する可能性は、スケジューリングなしのMLTNベースの課税所得の見積りだけでも判断が容易に行える。

 

・税務戦略、タックス・プランニング(55-39

 

普通なら行わないような固定資産の売却を計画するなど、企業は、繰越欠損金の期限切れ回避などのために税務戦略・タックスプランニングを持つ場合がある。このような場合、事業から十分な課税所得を得られるなどの積極的な証拠がない限り、評価性引当額を不要と判断することはできない。( ⇨こういう場合は、評価性引当額を評価するために、必然的にスケジューリングが行われる。)

 

というわけで、最期の繰越欠損金の期限切れが見込まれるようなケース以外は、本格的なスケジューリングが必要になりそうにない。日本基準でいえば、会社分類④や⑤になるまでは、スケジューリングが不要といえそうだ。

 

 

今回の記事の冒頭は明るい、素晴らしいニュースで始まったが、ここまで書いて、寂しく、暗い気分になっている。なぜかというと、清水エスパルスの戦績や株式相場が奮わないことではない。税効果会計の企業経営に与える影響が思い浮かんだからだ。

 

税効果会計は業績に与える影響が大きいため、非常に重要な項目だ。それは日米ともに同じだが、日本の場合は加えて、振れ幅が激しい。日本企業の業績が悪化すると、繰延税金資産も取り崩されて、輪をかけて悪い数字が出てしまう。経営者としては気になって当然だろうし、実際に税務負担も重くなるが、米国企業(恐らくヨーロッパ企業も)は、そういう余計な心配がいらない。これは国際競争において不利にならないだろうか。繰越欠損金の繰戻しや繰越控除の制度を、国際基準に直す必要があるのではないか。

 

このような主張は、「企業ばかりを優遇する」と猛反発を喰らうかもしれないが、それなら個人もマイナンバー制度導入と共に、同様の制度を創設すれば良い。マイナンバーがあれば、税務当局も手間なく個人の所得税の繰戻しや繰越しが事務管理できるはずだ。

 

国の財政を考えると税収減につながるような改革はやりにくいかもしれないが、企業や個人の生涯税負担、リスク耐性強化の観点で考えると、繰戻しや繰越控除は、本来、必要な制度だ。企業の国際競争力の強化や国民の税負担の平等、損失時発生時の負担軽減を図ってこそ、経済の繁栄と税収増につながるのではないか。

 

税効果会計から、日本の税制の意外な課題が見えてきたように思う。

 

 

🍁ー・ー🍁ー・ー

*1 “(繰越欠損金の)15年間の有効期限”という記載にびっくりされた方もいらっしゃると思う。514-9/25にも記載したが、US-GAAPは、米国の連邦税の状況を念頭に「税務上の繰越欠損金は、その前の3年間(の繰戻し額)やその後15年間の課税所得と相殺できる税法」という前提を置いている(55-1)。一方、日本では、法人税法で厳しく制限されている(514-9/25*2)。

 

*2 MLTNベースとは、513-9/22にも記載したが、“more likely than not”の略で、(資産や負債を認識する際に)実現する可能性が50%を超えるかどうかで判断することをいう。上のケースでいえば、将来課税所得の見積りの実現可能性が50%を超えていれば、繰延税金資産の回収可能性の判断にそのまま使用できることになる。

2015年10月 3日 (土曜日)

516【番外編】国連のグローバル目標(SDGs)

2015/10/3

9/25に国連サミットで、国連の新しい開発目標「SDGs(エスディージース)=持続可能な開発目標」が採択された*1。「誰も置き去りにしない」がキャッチ・フレーズで、格差・貧困・性差別などの撲滅・解消から教育・司法の改善、果ては資源開発や地球温暖化対策に至るまでの17分野にも及ぶ壮大な目標、新たな“夢”。

 

「実現しないから夢」と、夢ばかり追う人を咎める言葉もあるが、「夢しか実現しない」と夢を応援してくれる人もいる。僕としては、追うものがなければ進歩もないから、国連には難しくても大きな夢を追ってもらいたい。あきらめない限り、近づける。

 

そういえば、25年前の今日、大きな夢が実現した。

 

東西の両ドイツは、約25年前に統一の夢がかなった*2。米ソ冷戦下では、第二次世界大戦で分断されたドイツが統一されるなんて、“北方領土4島一括返還”と同じようなもので、実現すれば嬉しいことこの上ないが、現実は妄想・夢想の類だった。しかし、前年11月にベルリンの壁が崩壊すると、「あれよあれよ」と言う間にことが進んでいった。

 

まあ、僕のような極東の一市民にとってはそんな印象だが、父ブッシュ氏(米)やゴルバチョフ氏(ソ)、コール氏(西独)などの当時の欧米政治家にとっては、「あれよこれよ、いや違うよ」と大変な交渉がだったようだ。

 

なんといっても、ワルシャワ条約機構と北大西洋条約機構(=NATO)という冷戦下の東西両陣営を象徴する軍事同盟の重要な加盟国の東ドイツと西ドイツを一緒にしようというのだから。それに、英仏も前向きではなかった。統一後のドイツが戦前の強大さを取り戻すことを恐れていた。

 

この交渉は、ベルリンの壁の崩壊後に始まったが、当時の僕は、監査法人に入ったばかりのスタッフ1年生。監査手続書に追いまくられて、仕事中毒・監査中毒状態。遠いヨーロッパの出来事に関心を寄せる余裕はなかった。よって、詳しくは後から知ったのだが、次の状況だったようだ。

 

・東ドイツ国民は西独との統一を望んでいた。

・西ドイツも統一を望んでいた。

・米ソは安全保障上の問題から容認は困難だった。

・英仏も警戒して眺めていた。

 

とても、11ヶ月でまとまるような簡単な交渉ではないはずだった。しかし、1990/10/3の午前零時(日本時間の午前8時*3)にドイツの再統一が実現した。詳しくは知らない僕でも、これは歴史的な瞬間だと感動した。先のブレイブ・ブロッサムズの南アフリカ戦の勝利もそうだが、夢のように不可能と思えることが可能になることがある。

 

SDGsは、テロや内戦の温床となる貧困を撲滅し、人類が地球上で永続することを目指している。しかしこれは、“夢”というより、“現実の差し迫った問題”かもしれない。

 

🍁ー・ー🍁ー・ー

*1 SDGsについては、以下を参考にした。

 

国連サミット開幕 新開発目標を採択 NHK HP 9/26

持続可能な開発目標(SDGs)採択までの道のり 国連開発計画(=UNDP)駐日代表事務所 HP 8/21

国連70年② "誰も置き去りにしない"世界を目指して クローズアップ現代HP 9/29放送

 

*2 ドイツ再統一問題については、以下を参考にしつつ書いた。

 

ドイツ統一までの道のり ドイツ大使館・領事館HP

証言 いかに冷戦は終結したか―― ドイツ再統一とNATO加盟問題 FOREIGN AFFAIRS REPORTHP

東ドイツの崩壊からドイツ統一へ doitsu.com(日本大学文理学部)のHP

 

なぜ、この困難な交渉がまとまったかについて興味のある方は、上記のリンク先をご覧いただきたい。doitsu.comが良いと思う。

 

 

*3 現在であれば、夏時間があるので1時間違いの午前7時となるが、当時のドイツに夏時間はなかったから8時のはずだ。と、僕が言い切れるのには理由がある。忘れられない苦い思い出があるからだ。

 

 僕は、1990/10/3の午前8時、ドイツ統一の瞬間をNHKで確認してから家を出た。その日はある工場の棚卸の立会いだった。そして集合時間に遅刻して、そのクライアントの方々や上司や諸先輩方から大ひんしゅくを買った。僕は9時10分ごろに待合わせの駅へ到着したが、集合時間は8時半だったという。監査役が、「なんで監査法人の若造のために待ち惚けしなきゃならないんだ」とカンカンに怒っていたらしい。僕は9時半と勘違いしていた。

 

 工場へ向かうタクシーに、クライアントの経理部長と代表社員と僕の3人で乗り込んだが、空気は重いしきつかった。少しでも雰囲気を和らげようと「今日はドイツ統一の日ですね」と、話しかけたが「まさか、それを見てて遅れたわけじゃないよね」と経理部長。この一言で僕も黙った。もちろん、この1件で僕はこのクライアントから出入禁止処分を下された。

 

 もし、当時から夏時間が導入されており、日本時間の午前7時にドイツ統一を迎えていたら、僕は違う思い出を持っていたかもしれない。(でも、遅刻はしていたと思う。)

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