531【CF4-09】財務情報の質的特性ー慎重性の復活
2015/12/4
スランプと言い訳して、問題を先送りするにも限度がある。ということで、兎に角、淡々とこのテーマで書いてみようと思う。では、早速…。
IASBは、このED(=公開草案)によって慎重性(≒保守主義)を復活させようと提案している。結論の根拠には、主として次の内容が記載されている。
- 2010年に概念フレームワークから慎重性を削除したことで誤解を広めてしまった。よって、慎重性を再導入し誤解を鎮めたい。その代り、その慎重性の内容・意味をはっきりさせたい。
- 慎重性には2種類あり、その1種類についてはIASBも同意できる。しかし、もう1種類については一部の例外を除いて同意できない。
- 同意できる慎重性とは“注意深さとしての慎重性(=Cautious prudence)”。
この意味の慎重性を「不確実性の状況下で判断を行う際の警戒心の行使」と定義し、概念フレームワークへ再導入する。
- 同意できない慎重性とは“非対称の慎重性(=Asymmetric prudence)”。
僕の感覚では、非対称の慎重性とは、費用や損失をより早くより多額に計上するよう促す、いわゆる保守主義とイメージが重なる。
- “非対称性の慎重性”のうち例外的に同意できる部分は、IASBが個々に個別基準に定める(例えば、引当金などにすでに定められている(IAS37号)。偶発資産より偶発債務を優先的に計上する=蓋然性の閾値が偶発債務の方が低い=不確実性が50%未満なら偶発債務は計上されるが、資産サイドはもっと高い確実性を要求される)。
要するに、「この意味の慎重性は、企業が判断するもの・できるもの」とIASBは考えていない。必要ならIASBが個別に指定する。
従来の慎重性(≒保守主義)から、“非対称”を外すことで得られるのは“中立性”だ。“中立性”は“忠実な表現”という基本的な質的特性を支える補強的な質的特性だが、再導入される慎重性はその中立性を支える位置付けとなっている。
- IASBの分析では、“非対称性の慎重性”を求める意見は、次のような誤解と結合して主張されるので、それらへの対処(=概念フレームワークの記述修正)や反論を記載している。
(誤解)
・IFRSは、B/Sで企業価値を表示している、或いは、表示するよう意図されている。
・IFRSでは、全ての資産・負債が公正価値で評価されている。
・IFRSは、資産の減損を禁止している。
・IFRSでは、資産・負債の認識に不確実性の閾値がない。
これは、アンチIFRS派へ目配せした内容のようだ。だが、そのおかげでIASBの意図が分かりやすくなったと思う。アンチIFRS派の批判が建設的に働いたということだ。
以上の結果、復活される慎重性は、いわゆる保守主義を除いたものになっている。くどいが、復活したのは保守主義ではない。中立性を担保するための“慎重性”だ。
一方で、IASBは次のような企業や監査人等の判断を認めている。というか、次のような判断は企業や監査人等によって当然なされると思っている。これは、いわゆる保守主義にかなり近い。
経営者が楽観主義に傾く可能性があるという自然な偏りを中和する(BC2.9(a))
例えれば、「経営者が作成した事業計画を、大きめの割引率で(保守的に)割引いて使用価値を計算する」といったことは正当化されるだろうと思う。
要は、「過度な保守主義はダメ。中立性の枠の中で慎重に判断してほしい」ということだろう。(企業会計原則注解にも同じようなことが書いてあったような。あまり進歩がない…。)
ということで、IASBは、慎重性を復活させるにあたり、慎重性を「中立性を支える」位置付けと表現しつつ(2.18)、その実質は、「中立性で枠をはめた」ように思われる。それで漸く、慎重性を概念フレームワークに復活させた。だから、「逆粉飾は止めましょう」というのがIASBの主張のように思えるが。ん〜、そうだろうか?
素直に読めば、確かに、IASBが「保守主義を乱用し、逆粉飾されること」を警戒しているように読める。しかし、もしそうなら、僕は、IASBのスタンスに違和感を感じる。どう考えても、世間の実態は、次のように思うからだ。
逆粉飾のリスク < 粉飾のリスク
みなさんもそう思われないだろうか。だとすれば、そもそも慎重性は削除されなくてもよかったのだ。もし、(2010年に)逆粉飾を警戒するあまり、慎重性を概念フレームワークから削除したとすれば、IASBのバランス感覚・リスク感覚はおかしいのではないか。だから、僕は「IASBの意図は他にある」と思う。
僕は、不確実性の扱いについても、共通したものを感じている。IASBは、今回のEDで、資産等の定義から不確実性に関連する文言を削除し、認識規準からも除いた。それはなんだろう? なんとなくイメージはあるのだが、残念ながら、言葉にならない。
ここまで読んでいただいたみなさんには申し訳ないが、これが今回の結論だ。こんな中途半端な結末でご勘弁願いたい。
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