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2015年12月 8日 (火曜日)

532【CF4-10】リスクと不確実性

2015/12/8

先日、久しぶりに誘われてゴルフをした。

 

朝、フロントで名前と住所をカードに書き込むと、「2002年以来ですね」と言われた「へぇ〜、ちゃんと記録が残ってるんだ!」と感動しながら、フロントの美しい女性の営業スマイルを見ているうちに、記憶が蘇ってきた。

 

・・・このゴルフ場に良い思い出はなかった。だから足が遠のいていたのだ。

 

重機を使わず手作りしたというその歴史ある18ホールは、フェアウェイやグリーン上でさえもデコボコで、僕のような簿記3級程度の腕前のゴルファーには、厳しいコースだった。しかも、視界のきかない奇抜なコース・デザインばかりだ。

 

僕の顔は引きつっていたはずだ。その女性に「お変わりありませんか?」と言われて「あっ、大丈夫です」と答えた。女性は電話番号など他の登録情報に変更はないかを尋ねたのに、僕は心中を見透かされたと勘違いして動揺していた。本来なら「じゃ、LINEしてみる?」と、女性の電話番号を聞き出すボケをしても良かったのだ。もちろん、その後に「違うかあ〜」と続ける。オヤジなので。

 

せっかくの好天だが、営業スマイルじゃない本当の笑顔を見られる貴重な機会を逃した悔しさも相まって、浮かない気分でのスタートとなった。しかし、一緒に回ったメンバーに恵まれたからか、意外なことに午前のスコアは悪くなかった。特にアプローチが冴えている、というか、ついている。

 

逆にいい気分で昼食をとったが、ふと、思った。もしかすると、あのボケ、言わなくて正解だったかもしれない。もし言っていたら、「はっ? 意味が分かりません」と冷たくあしらわれていたかもしれない。

 

さて、どちらだったろう。ついていたから言ってもウケけてもらえたか、それとも、ついていたから言わなかったのか。こればかりは、やってみなければ分からない。どちらとも言えない。不確実だ。

 

 

さて、このED(=公開草案)は、概念フレームワークの「第2章:有用な財務情報の質的特性」において、前回の慎重性の復活と、もう一つ、不確実性に関する記述の記載場所の変更し(=従来、忠実な表現の説明箇所で不確実性を扱っていたが、それを目的適合性の説明箇所へ移動)、記述内容もより詳細なものを提案している。

 

即ち、従来は、会計上の見積りに関する不確実性が非常に大きくなければ、その見積りの不確実性に関する説明をすることで忠実な表現になりうる旨記載していた(QC16)。それを、EDでは、記載場所を目的適合性のセクションへ移動させて、さらに“測定の不確実性”*2という見出しをつけてた2つの段落で、より詳細に説明している。即ち、“会計上の見積りの必要性”と、“測定の不確実性と目的適合性のトレードオフ関係”を説明した上で、以下のように結んでいる。

 

測定の不確実性のレベルが高くても、見積りが最も目的適合性の高い情報を提供する場合には、当該見積りの使用を妨げるものではない。(2.13の末尾)

 

不確実性のレベルが高くても見積りを用いて良いという。ん〜。

 

不確実性は悩ましい。会計の世界のみならず、日常生活からビジネスまであらゆる事象に纏わりつく、実に厄介な代物だ。しかし、敢えてそこへ切り込むことで、企業は超過収益を上げられる。いわゆる「リスクをとる」ことだが、もちろん、リスクを無秩序に受容するわけではない。リスク管理による対応を図る。リスクと企業経営は切っても切れない縁がある。同じことは不確実性にも言える。

 

では、リスクと不確実性って、同じものか? いや、どうも、違うらしい。

 

僕は、両者をあまり区別せずにいたが、それが今までの混乱の元だったかもしれない。例えば、上記斜体文字の文章は、両者を区別してないので、実にアバウトだ。もしかしたら、これをちゃんと区別することは、概念フレームワークやIFRS(の個別基準)を正確に理解するのに役立つかもしれない。

 

そこで、“不確実性”についてネット辞書(Webilo)で調べると、最初に次の説明がある。

 

<流通用語辞典>

一般に、不確実性とは、意思決定者のコントロールし得ない事象の生起の仕方…。決定理論では、確実性のもとでの意思決定、リスクのもとでの意思決定、不確実性での意思決定の3つに区分される。

 

実際の意思決定では、これら3つは渾然一体となっていると思う。例えば、ゴルフ・ショットを打つ際に考慮される諸要素は、次のようになっているのではないか。

 

(クラブ選択)

クラブの性格を知っているので「確実性のもとでの意思決定」。

 

(スウィングの仕方)

過去の経験に照らして概ね確率が分かっているので「リスクのもとでの意思決定」。

 

(着地点でのボールの挙動)

そこにディボットや石ころなどどんな障害物があるか分からないので、やってみなければ分からない。従って「不確実性での意思決定」。

 

ゴルファーは、少なくとも、これら3つを考慮して個々のショットを行っている。もちろん、どの意思決定が“確実性のもと”とか、“リスクのもと”、“不確実性のもと”などと全く意識はしていない。だが、言われてみれば、ゴルフに限らず、様々な意思決定の過程で考慮される条件・要素には、確かに、次のものがある*1

 

  • 確実なもの
  • ある程度確率の分かっているもの(=リスク)
  • やってみなければ分からないもの(=不確実性。コントロール不能)

 

以上から考えると、例えば、「売上債権に回収リスクがある」という場合、回収できない確率を概ね見積もれる前提がある。一方、「売上債権の回収に不確実性がある」という場合は、回収できない確率すら分からない状況をイメージすることになる。

 

なるほど、確かにリスクと不確実性は異なるもののようだ。「“不確実性”がある」と表現される事象は、会計処理の難易度が高そうだ。

 

このようなイメージを持った時に、上述のこのEDによる不確実性の記述(記載場所の変更と詳細な記述)をどう解釈できるか。これは、次回に検討したい。

 

 

ちなみに、同じ事象でもリスクと感じるか、不確実性と感じるかは、人(或いは企業)によって異なるようだ。先日のゴルフの例でいえば、この難コースやフロントの女性とのコミュニケーションを「リスクはあるが、コントロール可能」と考える人もいるだろう。そういう人は、リスクを楽しみと感じられるに違いない。しかし、僕は、「不確実性が高くコントロール不能」と感じた。その証拠に、午後には大きくスコアを崩した。やはり、このコースは鬼門だった。

 

恐らく、企業にも得手不得手や強み・弱みがあって、同じ経営環境に直面してその諸要素を分析した時に、何をリスクと不確実性に分類するかは異なってくる。また、最初は不確実性のある要素だったものが、経営努力によってリスク対応可能となり分類が変わることもあるだろう。むしろ、そこにこそ、経営の妙味がある。

 

経営と表裏の関係にある会計にとって、経営上不確実性があるとされた項目は、やはり不確実性がある可能性が高い。その状況は、企業によって異なってくるはずだ。そして、状況は時とともに、経営努力によって変化する。

 

一方、会計基準の基礎として概念フレームワークは、すべての企業とそれらの状況を一律に扱わなければならない。不確実性は、なかなか難しいことになりそうだ。

 

 

今回のテーマとは関係ないが、REUTERS12/7付の記事によると、東芝の監査人に対して業務停止命令が下される可能性もあるという。関心のある方は、下記のリンクをご覧いただきたい。

 

アングル:不正見抜けなかった東芝の監査法人、業務停止の可能性も

 

🍁ー・ー🍁ー・ー

*1 さらにそのページを読み進めて、<ウィキペディア>の“不確実性の概要”のリンクを開くと、“学者の見解”のセクションに、次のように書いてある。

 

・・・。たしかに、不確実性には、イノベーションを生むという側面がある。しかし、不確実性を有しているイノベーションは、結果が予測できないため、投資は成り立たない。したがって、イノベーションが発生するのは、むしろ不確実性が低い場合であるとしている

 

一見、難しいことが書いてあるように感じるが、本文の例で考えれば、着地点でのボールの跳ね方があまりに不確実だと、ゴルファーはそのゴルフ場を「整備不良のゴルフ場だ」と感じて避けるようになる。または、雨や強風でもゴルフを止めない強者ゴルファーでも、霧は嫌だという。着地点がまったく見えなくて、不確実性が高過ぎると感じるからだ。

 

上の引用箇所の「投資は成り立たない」というのは、「ゴルファーがそのゴルフ場を避ける」とか、「霧の時はゴルフを中断する」のと同じ感覚ではないかと思う。要するに、投資家もゴルファーも、(無意識のうちに)リスクと不確実性を区別し、不確実性をより敏感に避けるのではないかと思う。

 

続けて、次のように記載されている。

 

また、現代経済学のモデルは、不確実性を取り入れたと言われているが、実際に取り入れられているのは、不確実性ではなくリスクであるとしている。

 

即ち、かなり広く(経済学の世界でさえ)、リスクと不確実性は混同して使用されているということだろう。「より厄介なのは不確実性という意識を持つことが必要だ。

 

*2 “測定の不確実性”とは、このEDに先立って公表されたディスカッション・ペーパーで、“結果の不確実性”と表現されたものだと思う。参考までに、ディスカッション・ペーパーから抜粋を転記する。

 

存在の不確実性

2.20 いくつかの稀な場合において、企業が資産又は負債を有しているのかどうかが不明確であることがある。存在の不確実性は、資産又は負債が存在するのかどうかが不確実である場合に存在する。存在の不確実性の最も明白な例は、訴訟である。例えば、企業が、もし約束しているのならば企業が賠償金又は罰金を支払う義務が生じる行動を約束したのかどうかが不確実であるかもしれない。

 

結果の不確実性

2.32 結果の不確実性とは、資産又は負債が存在しているが、結果が不確実である場合を指す。結果の不確実性は、存在の不確実性よりもずっと一般的に発生する。結果の不確実性の例として、次のようなものがある。

((a)〜(f)の例は割愛した。)

(g) 訴訟: 企業は訴訟に負けた場合には現金を支払わねばならなくなる。企業に義務があるのかどうかは、そうなのかどうかを裁判所が決定するまでは不確実である場合がある(存在の不確実性)。さらに、企業が訴訟に負けるであろうとすでに結論を下しているとしても、どれだけ支払わねばならなくなるのかは依然として不確実である場合がある(結果の不確実性)。

(h) 売掛債権: 企業は資産(売掛債権)を有しているが、現金を受け取るのかどうかは分からない。

(i) 棚卸資産: 企業は資産(棚卸資産)を有しているが、棚卸資産を販売して現金を受け取るのかどうかは分からない。

 

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