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2015年12月10日 (木曜日)

533【CF4-11】不確実性の引越し

2015/12/10

人生において、“不確実性”は非常に重要だ。もし、予めすべてが決まっていたら、人生は味気ない、色褪せたものになってしまうだろう。前回(532-12/8)記載したゴルフも同じだ。もちろん、限度はあるが、“不確実性”があるから人生は面白い。しかし、会計は違った。会計は結果報告という目的・性質があることから、従来(=会計ビックバン以前)は、“確実なもの”を処理対象にすることで、“確実な利益”を報告してきた。

 

ところが、IFRSの概念フレームワークでは、“不確実性”が会計処理対象に含まれることを是としており、それが“会計上の見積り”という作成者の判断が重要な会計手法の多用につながっている。これが、現代会計の特徴といわれることもある。このように、“不確実性”の扱いは重要なのだ。

 

その“不確実性”に関する記述を、このEDで変えることをIASBは提案している。これを避けて通るわけにいかない。

 

 

前回も記載したが、現行の概念フレームワークは2つの基本的な質的特性のうち、“忠実な表現の説明の中で不確実性を扱っていたQC16)。しかしこのEDではもう一つの基本的な質的特性である“目的適合性の説明の中引越しさせた(2.12-13)。同時に、“測定の不確実性”という小見出しを付し、2段落を使って、“会計上の見積りの必要性”と、“不確実性のレベルと目的適合性のトレードオフ関係”についても説明し、以下のように〆ている。

 

ED

、測定の不確実性のレベルが高くても、見積りが最も目的適合性の高い情報を提供する場合には、当該見積りの使用を妨げるものではない。(2.13)

 

EDで提案されている変更は、記述場所の引越しと、記述内容の充実だ。この変更を象徴するこの〆の文章を、現行の概念フレームワークの該当部分と比べてみよう。それは次の通り。

 

(現行の概念フレームワーク)

見積りの不確実性が非常に大きい場合には、忠実に表現しようとしている資産の目的適合性に疑問がある。より忠実な代替的な表現がない場合には、その見積りが最も利用可能な情報を提供するかもしれない。QC16の末尾)

 

どちらも、不確実性の高い見積りを使用する場合があることを示唆している点は同じだ。ただ、その条件に、現行は“忠実な表現”を、EDは“目的適合性”を挙げている。これは、ちょうど、引越しに対応している。

 

では、“忠実な表現”を条件にした場合と、“目的適合性”を条件にした場合で、何が違うのだろうか。

 

このEDの結論の根拠では、“忠実な表現”は、以前使われていた“信頼性”という言葉に対応するものだと、かなり長々と説明している。だとすれば、忠実な表現を条件にした場合(=現行)は、次のように考えることができる。

 

不確実性が高くても、他にそれ以上信頼性の高い表現がないならば、見積りを使うことがありえる。

 

一方、このEDの提案、即ち、“目的適合性”を条件にした場合は、次のように考えられる。

 

不確実性が高くても、読者の関心に沿った財務情報となるなら、見積りの使用を妨げない。

 

読者の関心とは、一般財務報告の目的で説明されている「企業が生み出す正味将来キャッシュ・フローの見通しに役立つこと」及び「経営者の受託責任の評価」だ。どちらも、“当期純利益”や“包括利益”、“営業キャッシュ・フロー”などが重要になる。典型的には、将来キャッシュ・フローの見通しには過去数期間の利益や営業キャッシュ・フローの推移、受託責任の評価には当該期間の利益情報が、読者が求める財務情報の軸となるだろう。

 

ちょっと大胆に解釈すると、IASBは、「利益や営業キャッシュ・フローに重要な影響を与える項目については、不確実性が高くても会計処理の対象にするような会計基準を作ります」と言っているように読める。(概念フレームワークは、IASBが会計基準を開発する際の指針だから。)

 

逆に、読者の関心との関連の低いところでは、「不確実性が高いことを理由に会計処理を行わない」という会計基準にすることが可能だ。これは確かに「他にもっと“忠実な表現”があるかどうか」より、合理的といえそうな気がする。読者の関心の低いところは重要性も低いので、測定値が不確実となるような危険を冒す会計基準は必要ない。

 

ということで、この引っ越しは、良い引っ越しと考えて良さそうだ。

 

 

では、次に、記述内容を充実させたIASBの意図を考えてみよう。上述したように、EDには2つの段落を使って「会計上の見積りの必要性」や「不確実性のレベルと目的適合性のトレードオフ関係」が記載されている。しかし、現行の概念フレームワークは、「忠実な表現と有用な情報」について論じたQC16項の後半で、触れられているにすぎない*1

 

だが、これについては次回に繰り越したい。

 

🍁ー・ー🍁ー・ー

*1 今回議論の対象となったこのEDによる不確実性の記述は以下のとおり。

 

測定の不確実性

2.12 財務情報の目的適合性に影響を与える1 つの要因は、測定の不確実性のレベルである。測定の不確実性は、ある資産又は負債の測定値が直接には観察できず、見積らなければならない場合に生じる。見積りの使用は、財務諸表の作成の不可欠の一部であり、財務諸表の目的適合性を必ずしも損なうものではないが、見積りは適切に記述し開示する必要がある(2.20 項参照)。

 

2.13 見積りは、たとえその見積りに高いレベルの測定の不確実性がある場合でも、目的適合性のある情報を提供する可能性がある。それでも、測定の不確実性が高い場合には、見積りは測定の不確実性のレベルが低かったとした場合よりも目的適合性が低い。したがって、測定の不確実性のレベルと情報の目的適合性を高める他の要因との間にトレードオフがある。例えば、見積りの中には、見積りの不確実性の高さが他の要因を上回っているため、もたらす情報にほとんど目的適合性がないものがある。他方、測定の不確実性のレベルが高くても、見積りが最も目的適合性の高い情報を提供する場合には、当該見積りの使用を妨げるものではない。

 

現行の概念フレームワークの記述は以下のとおり。

 

もう少し微妙な例は、資産の価値の減損を反映するために当該資産の帳簿価額を修正すべき金額の見積りである。その見積りは、報告企業が適切なプロセスを適切に適用し、その見積りを適切に記述し、その見積りに大きく影響する不確実性を説明している場合には、忠実な表現となり得る。しかし、そうした見積りの不確実性が非常に大きい場合には、その見積りは特に有用ではないこととなる。言い換えれば、忠実に表現しようとしている資産の目的適合性に疑問がある。より忠実な代替的な表現がない場合には、その見積りが最も利用可能な情報を提供するかもしれない。QC16の一部)

 

現行の概念フレームワークの書き方は、“ついでに書いた”感じがあるが、EDの方は“しっかり感”がある。

 

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